日本には昔からかかりつけという言葉があり、風邪や腹痛で診て貰う医者は決まっていたものだ。三十年ほど前、アメリカを真似てファミリードクターなどという言葉と概念を持ち込もうとする動きがあったが、いつの間にかかかりつけ医に戻ってしまった。かかりつけ医は自然発生的に生まれた形態で、理に適い実行しやすい社会に染み込んだ診療形態なのだ。
そうはいっても医者を選びようがない僻地と医者の溢れる都会では、いくらか事情は違うだろう。私の医院は街中にあるので四方八方に同業者が居る。かかりつけ医は近隣の医師を選ぶことが多いので、ほぼ同心円の診療圏が出来上がる。都会ではその診療圏が重なるので、患者さんは自分と相性の良い医者を選びやすい。
かかりつけ医を変えることには色々心理的な抵抗があるようで、患者さんは様々な取り繕った?理由を付けて変わって来られる。勿論、変わって来られる患者さんばかりでなく、変わって離れて行く患者さんも居られるようだ。ようだというのは、変わりますよと連絡があるわけではなく、いつの間にか来られなくなる患者さんも居るからだ。
面白いのは半年一年ばかり、某医院へ変わっていたがやっぱりこちらが良いと戻ってこられる患者さんも居られることだ。不思議なことに、こうした患者さんは殆どというより全部女性で、男性患者さんで心変わり?をしていて戻って来られた方を思い出すことができない。
こうした患者さんの中にははしごをして居られる方がおり、これには要注意だ。五軒も六軒も掛かり付け医院を変えられる方は、患者さんの方に問題があることが多いからだ。恐らく全てのサービス業に共通する心得だと思うが、付かず離れずに徹して対応するようにしている。
変わって来られるあるいは変わりそうな患者さん熱烈歓迎という先生(開業間もないなど)もおられるだろうが、私はそうではない。いつも高血圧で某先生に診て貰ってるが、今回の風邪はなかなか良くならないので、こちらへ来てみたなどという患者さんが年にニ三人居られる(殆ど女性)、おやそうですかと診させて頂くが、風邪が良くなったら素っ気なく元の医院に戻るように申し上げている。えっそんなという表情が浮かぶこともあるが、決してこちらに通いますかとは言わない。