94年作品。作家の由起夫(豊川悦司)は“強迫性緊縛症”という精神病にかかった妻の萌美(山口智子)を回復させようと努力するが症状は悪化する一方。最初はペットの亀や厚い本を縛っていた彼女だが、やがて部屋中のあらゆるもの、形のないものまで紐で縛り始めた。精神科医(田口トモロヲ)のアドバイスにより、ある夜由起夫は彼女を壁に縛り付ける。しかしそれは二人の関係を終わりへと導くことでもあった。
岩井俊二が「Love Letter」の前に撮った47分の中編。監督が山口を起用したフォト・ショートストーリーを元にしている。
いかにも映画青年が頭の中だけで作ったような筋書き、素人が自己陶酔しているような画面の構成、思わせぶりなモノローグetc.“フッ、青臭いぜ”と一言で片付けたくなる要素が目につくシャシンながら、これを力技で観る者の内面に食い込むようなスルドイ作品に仕上げてしまう岩井監督はやはりタダ者ではない。正直言って“二人の間の何を縛るのか、何が縛られるのか”などといった観念的テーマには興味ない。結果としてその主題を思い浮かべることになっても、まず圧倒的な存在感で差し出されるのは演技と映像である。
諦念と自虐に満ちた透徹した表情は“豊川ってこんな俳優だったっけ”と思わせるほど観る者に迫ってくる。そして素晴らしいのは山口だ。見開いた目は何も見ておらず、“完全にイッてしまっている”表情は、本当におかしいのではないかと思わずたじろいでしまう。二人の関係がどうなったのかは知らないが、これほどになるにはかなり切迫したものがあったと確信するほどの熱演だ。
映像のキレ具合はかなりのもの。縛られた山口の、芸術的オブジェを思わせる造形の見事さ。完璧な構図。的確なライティング。ざらざらとした質感のフィルム処理も相まって、異次元と化したマンションの一室が登場人物の暗い深層心理を具現化し、ヒリヒリするぐらい迫ってくる。REMEDIOSの音楽もいい。
岩井俊二が「Love Letter」の前に撮った47分の中編。監督が山口を起用したフォト・ショートストーリーを元にしている。
いかにも映画青年が頭の中だけで作ったような筋書き、素人が自己陶酔しているような画面の構成、思わせぶりなモノローグetc.“フッ、青臭いぜ”と一言で片付けたくなる要素が目につくシャシンながら、これを力技で観る者の内面に食い込むようなスルドイ作品に仕上げてしまう岩井監督はやはりタダ者ではない。正直言って“二人の間の何を縛るのか、何が縛られるのか”などといった観念的テーマには興味ない。結果としてその主題を思い浮かべることになっても、まず圧倒的な存在感で差し出されるのは演技と映像である。
諦念と自虐に満ちた透徹した表情は“豊川ってこんな俳優だったっけ”と思わせるほど観る者に迫ってくる。そして素晴らしいのは山口だ。見開いた目は何も見ておらず、“完全にイッてしまっている”表情は、本当におかしいのではないかと思わずたじろいでしまう。二人の関係がどうなったのかは知らないが、これほどになるにはかなり切迫したものがあったと確信するほどの熱演だ。
映像のキレ具合はかなりのもの。縛られた山口の、芸術的オブジェを思わせる造形の見事さ。完璧な構図。的確なライティング。ざらざらとした質感のフィルム処理も相まって、異次元と化したマンションの一室が登場人物の暗い深層心理を具現化し、ヒリヒリするぐらい迫ってくる。REMEDIOSの音楽もいい。