閑猫堂

hima-neko-dou ときどきのお知らせと猫の話など

雛の月

2007-03-03 09:39:53 | 日々

それは小さいおひなさまでした。
転勤のある家だったから、どこへ行っても飾れるようにと、
小さいのを買ってもらったのです。

ガラスケースの中に15人がちんまりおさまってしまう、
童顔の木目込人形のひとそろい。
すぐに倒れるぼんぼりに、右近の橘、左近の桜。
右大臣と左大臣は双子のようにそっくりで、
どっちがどっちだかわからない。
お内裏さまより、切り下げ髪の三人官女の
真ん中の子が可愛くて好きだった。
それと、五人囃子の横笛を吹いている男の子が。

ケースに入りきれないお道具類は母のものでした。
たんす、茶だんす、長持、お針箱、
おそろいの黒塗りに金の蒔絵で、
小さい小さい抽斗のひとつひとつまで
ちゃんと開くようにできていました。
ほかに、人形より大きいお膳と高坏が一対ずつと、
あられを入れるお重箱もありました。

いくつのときだったか、ひなまつりにおよばれして、
お重箱に小さな花見団子のようなお菓子を詰めてもらい、
それを抱えて友だちの家へ行ったのを覚えています。
古い大きなお家で、二階の広い座敷の床の間に
立派な段飾りのおひなさまがありました。
上のほうの段は見あげてもよく見えないほど。
うちのおひなさまのほうがいいな、と思ったっけ。

おひなさま、今はもうありません。
うちは男の子しかいませんが、見せたかったので、
実家から送ってもらって何年かは飾っていました。
もうケースはなくて、棚に布を敷いて並べていました。
それを、いたずら大好きのお年頃だった茶々姫が、
何を思ったのか棚の上にかけのぼり、
次々と頭から丸かじり!してしまったのです。
あーあ、まったく、なんて猫でしょうね。

そんなことでもなければきっと捨てられなかった。
だから、茶々姫、少しも叱られませんでした。
よくよく見たら、衣装の色もすっかりあせて、
本当にみすぼらしい古人形になっていました。

今では記憶の中にだけ飾ってあります。
永遠にわたしのおひなさまたち。
布人形のメリーや、ミルクのみ人形のマリーや、
歩くお人形のドロシーちゃんも一緒にいるようです。

コメント
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