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「シシリアン・ゴースト・ストーリー」(2017年イタリア=フランス=スイス)

2019年01月23日 | 映画の感想・批評
 リドリー・スコットの力作「ゲティ家の身代金」と同様に実話の映画化であるが、大富豪ジャン・ポール・ゲティの孫息子が最終的に生還したのとは対照的に、組織を裏切ったマフィアの幹部の倅は遺体すら無い悲惨な死を余儀なくされるのである。 
 シチリアののどかな町。穏やかに横たう地中海。十代半ばの少女ルナにはほのかに恋心を寄せる同級生の少年ジュゼッペがいる。ルナはごく普通の家の娘だが、ジュゼッペは大きな屋敷に住んでいて乗馬を楽しんだりしているお坊ちゃまの様子だが、ルナの母親はジュゼッペとつき合うことを心よく思っていないようだ。
 実はジュゼッペの父親は地元の顔役で、このところ姿を見せない。どうやら官憲に身柄を確保され、マフィアの内情を内部告発する腹らしい。組織は裏切り行為を何とか阻止しようと、この少年を拉致して人質にするのである。
 徐々に少年と仲よくなり、ちょっとしたデートもするようになったルナの前から、こうしてジュゼッペはある日忽然と姿を消すのである。
 しかし、ルナの周りのおとなたちは、学校の先生や両親を含めてジュゼッペの失踪にだんまりを決め込んだまま、その話題に触れようとさえしないのである。ただ、ルナはジュゼッペの邸宅で半狂乱になって息子の失踪を嘆く母親の姿を目にしてしまう。
 前半の少年と少女の淡い恋が青春映画の趣で清涼感をもって描かれるのに対して、後半の誘拐・監禁、少女の悲しみと独自の捜索活動は過酷なリアリズムで貫かれる。とくに、少年に対するマフィア一味のいたぶり、虐待はさもあろうと暗澹たる気持ちにさせる。しかし、少年の父の決意は鉄のごとく頑強で変節することがない。監禁が2年以上にわたって続き、題名の由来する場面・・・とうとう少女が少年を捜しあててひたすら逃げる幻想的なシーンが印象的だ。
 ラストには、思わずトルコで暗殺されたサウジアラビアのジャーナリストの最期を思い起こした。ルナ役、ジュゼッペ役とも初々しく、好演であったことを書き添えておこう。(健)

原題:Sicilian Ghost Story
監督:ファビオ・グラッサドニア、アントニオ・ピアッツァ
脚本:同上
撮影:ルカ・ビガッツィ
出演:ユリア・イェドリコフスカ、ガエターノ・フェルナンデス、コリーヌ・ムサラリ、ロレンツォ・クルチョ


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