一昔前までは正しい手技と皆に信じられていたルーチン手技であっても、今では有効性が否定され、むしろ有害とされている手技も少なくありません。しかし、産婦人科の医療現場では、昔ながらの古い知識のままで、昔ながらのやり方をかたくなに押し通そうとする人達も少なくないと思われます。
また、産婦人科の医療施設は一昔前までは比較的小規模施設が多かったんですが、最近は全国的に産婦人科施設の集約化がどんどん進行しつつあります。職場の構成員の数が増え続ける中で、職場の多くの構成員が、それぞれ自分が正しいと信じた医療を独自に実践して互いに対立しているようでは、チーム医療としてうまく機能する筈がありません。かといって、上司が部下に対して、「オレ流のやり方に黙って従え!文句は言うな!」というような封建的な職場体制のままでは、いずれ破綻する時が必ずやって来ます。
大きな集団になればなるほど、チーム全体を律する明確な規範を設定して、チーム構成員の皆がその規範に従って一致協力していく必要があります。規範を設定する際には、偏屈な経験主義に陥らないように十分気を付ける必要があります。その点では、最新のエビデンスに基づいて数年ごとに改訂されている学会の制定したガイドラインの最新版をチームの規範として、一致協力して標準医療を実施するという姿勢を徹底的に貫くことが重要だと思います。
世の中の変化に合わせてチーム全体が常にバージョンアップし続けていかない限り、将来的にこの世の中に生き残れないと思います。
インフルエンザが昨季を上回るペースで流行してます。今季はA香港型が主流で、患者数は年少者を中心に170万人を超えました。今季のインフルエンザワクチンは、A香港型、B型、(H1N1)2009の3種類が含まれる混合ワクチンで、現在の流行に対応しています。しかし、ワクチンは肺炎などの重症化を抑える作用はありますが、ウイルスの侵入を防ぐのは難しいとされてますので、ワクチンを過信せず、外出後の手洗いなどの一般的な感染予防策を心がける必要があります。治療には、ウイルスの増殖を抑える抗インフルエンザ薬(タミフル、リレンザ、イナビルなど)が使われます。早ければ1日で熱が下がりますが、発症から最長1週間程度はウイルスが体内に残り、咳やくしゃみなどでウイルスを排出しますので、熱が下がってすぐに学校や職場に行くと感染を広げてしまう恐れがあります。熱が下がっても2~3日間は外出を避け静養する必要があります。
妊娠中にインフルエンザに感染すると重症化しやすく、肺炎などの重篤な合併症を引き起こす可能性が高く、注意が必要です。一番大切なのはインフルエンザに感染しないようにすることで、ワクチン接種、外出後の手洗い、マスク着用などの感染予防策に努めることが重要です。現在使用されているインフルエンザワクチンは不活化ワクチンであり、理論的に妊婦、胎児に対して問題はなく、約2000例のインフルエンザワクチン接種後妊婦において児に異常を認めていません。そのため、米国におけるCDCガイドラインではインフルエンザ流行期間に妊娠予定の女性へのインフルエンザワクチン接種を推奨してます。抗ウイルス薬については、胎児への影響よりも、インフルエンザが重症化することの方が問題なので、妊婦がインフルエンザの症状を示した場合、速やかにタミフルなどの抗ウイルス薬を処方することが重要とされてます。妊婦がインフルエンザ患者と濃厚接触した場合も、抗インフルエンザ薬の予防的投与が推奨されてます。
参考:妊婦・授乳婦へのインフルエンザワクチン、抗インフルエンザウイルス薬投与について
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産科診療ガイドライン・産科編2011
CQ102 妊婦・授乳婦へのインフルエンザワクチン、抗インフルエンザウイルス薬投与は?
Answer
1. インフルエンザワクチンの母体および胎児への危険性は妊娠全期間を通じて極めて低いと説明し、ワクチン接種を希望する妊婦には接種する。(B)
2. 感染妊婦・授乳婦人への抗インフルエンザウイルス薬(リレンザ®とタミフル®)投与は利益が不利益を上回ると認識する。(C)
3. インフルエンザ患者と濃厚接触後妊婦・授乳婦人への抗インフルエンザ薬(リレンザ®とタミフル®)予防投与は利益が不利益を上回る可能性があると認識する。(C)
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日本産科婦人科学会、お知らせ
妊娠している婦人もしくは授乳中の婦人に対してのインフルエンザに対する対応Q&A
平成22年12月22日
社団法人 日本産科婦人科学会
分娩前後に母親が感染した場合の対応については昨シーズンと大きく異なっていますのでご注意下さい
Q1: 妊婦は非妊婦に比して、インフルエンザに罹患した場合、重症化しやすいのでしょうか?
A1: 妊婦は重症化しやすいことが知られています。幸い、昨シーズンの新型インフルエンザでは本邦妊婦死亡者はありませんでしたが、諸外国では妊婦死亡が多数例報告されています。昨シーズン、新型インフルエンザのため入院を要した妊婦では早産率が高かったことが報告されています。また、タミフル等の抗インフルエンザ薬服用が遅れた妊婦(発症後48時間以降の服用開始)では重症化率が高かったことも報告されています。
Q2: 妊婦へのインフルエンザワクチン投与の際、どのような点に注意したらいいでしょうか?
A2: 妊婦へのインフルエンザワクチンに関しては安全性と有効性が証明されています。昨シーズンの新型インフルエンザワクチンに関しても、妊婦における重篤な副作用報告はありませんでした。チメロサール等の保存剤が含まれていても安全性に問題はないことが証明されています。
インフルエンザワクチンでは重篤なアナフィラキシーショックが100万人当たり2~3人に起こることが報告されており、卵アレルギーのある方(鶏卵、鶏卵が原材料に含まれている食品類をアレルギーのために日常的に避けている方)ではその危険が高い可能性があります。したがって、卵アレルギーのある妊婦(鶏卵、鶏卵が原材料に含まれている食品類をアレルギーのために日常的に避けている方)にはワクチン接種を勧めず、以下が推奨されます。
1) 発症(発熱)したら、ただちに抗インフルエンザ薬(タミフル)を服用(1日2錠を5日間)するよう指導します。
2) 罹患者と濃厚接触した場合には、ただちに抗インフルエンザ薬(タミフル、あるいはリレンザ)を予防的服用(10日間)するよう指導します。
Q3: インフルエンザ様症状が出現した場合の対応については?
A3: 発熱があり、周囲の状況からインフルエンザが疑われる場合には、「できるだけ早い(可能であれば、症状出現後48時間以内)タミフル服用開始が重症化防止に有効である」ことを伝えます。妊婦から妊婦への感染防止という観点から「接触が避けられる環境」下での診療をお勧めします。妊婦には事前の電話やマスク着用での受診を勧めます。一般病院への受診でもかまいませんが、原則としてかかりつけ産婦人科医が対応します。
インフルエンザ感染が確認されたら、ただちにタミフル投与を考慮します。妊婦には、「発症後48時間以内のタミフル服用開始(確認検査結果を待たず)が重症化防止に重要」と伝えます。
Q4: 妊婦がインフルエンザ患者と濃厚接触した場合の対応はどうしたらいいでしょうか?
A4:抗インフルエンザ薬(タミフル、あるいはリレンザ)の予防的投与(10日間)を行います。予防投与は感染危険を減少させますが、完全に予防するとはかぎりません。また、予防される期間は服用している期間に限られます。予防的服用をしている妊婦であっても発熱があった場合には受診するよう勧めます。
Q5: 抗インフルエンザ薬(タミフル、リレンザ)は胎児に大きな異常を引き起こすことはないのでしょうか?
A5:?昨シーズン、多数の妊婦(推定で4万人程度)が抗インフルエンザ薬(タミフル、リレンザ)を服用しましたが、胎児に問題があったとの報告はあがってきていません。
Q6: 抗インフルエンザ薬(タミフル、リレンザ)の予防投与(インフルエンザ発症前)と治療投与(インフルエンザ発症後)で投与量や投与期間に違いがあるのでしょうか?
A6:以下の投与方法が推奨されます。
1) タミフルの場合?
予防投与:75mg錠 1日1錠(計75mg)10日間、
治療のための投与:75mg錠 1日2回(計150mg)5日間。
2) リレンザの場合 ?
予防投与:10mgを1日1回吸入(計10mg)10日間、
治療のための投与:10mgを1日2回吸入(計20mg)5日間。
Q7: 予防投与した場合、健康保険は適応されるのでしょうか?
A7: 予防投与は原則として自己負担となりますが、自治体の判断で自己負担分が公費負担となる場合があります。
Q8:分娩前後に発症した場合は?
A8:タミフル(75mg錠を1日2回、5日間)による治療をただちに開始します。新生児への対応は以下のように行ないます。
1) 母親が妊娠~分娩 8 日以前までにインフルエンザを発症し治癒後に出生した場合
・通常の新生児管理を行います。
2) 母親が分娩前 7 日から分娩までの間にインフルエンザを発症した場合
・分娩後より、母子で個室隔離。分娩後より、飛沫・接触感染予防策を講じて母子同室とします。
・個室がない場合は母子を他の母子と離して管理します。その際、飛沫・接触感染予防策を十分講じます。
・児への抗インフルエンザ薬の予防投与はせず、児の症状の観察とバイタルサインのモニタリングを行います。
3)母親が分娩後~産院退院までにインフルエンザを発症した場合(カンガルーケアや直接授乳などすでに濃厚接触している場合)
・個室にて、直ちに飛沫・接触感染予防策を講じて母子同室を継続します。その際、児を保育器に収容等の予防策を講じ、母子間の飛沫・接触感染の可能性につき十分注意を払います。
・母親の発症状況や児への曝露の程度を総合的に判断して、必要な場合、厳重な症状の観察とバイタルサインのモニタリングをできる環境に児を移送し、発症の有無を確認します。移送後の児は、保育器管理を行います。保育器がない場合は他児と十分な距離をとります(1.5m 以上,可能ならば,他児との間をカーテン等で分離する)。
・児への抗インフルエンザ薬の予防投与は原則、行なわないことにします。
4)新生児に発熱、咳嗽・鼻汁・鼻閉などの上気道症状、活気不良、哺乳不良、多呼吸・酸素飽和度の低下などの呼吸障害、無呼吸発作,易刺激性 などが認められた場合
・直ちにインフルエンザの検査診断(簡易迅速診断キットによる抗原検査と可能ならば RT-PCR 検査の施行が望ましい)を行います。治療を行う事も考慮します。また,新生児の場合、インフルエンザ以外の疾患で上記の症状を認める場合があるので、鑑別診断に努め適切な治療を行う必要があります。
・早産児へのインフルエンザの影響は不明なことが多いので、疑い例であってもウイルス検査を行うように努めます。
Q9: 感染している(感染した)母親が授乳することは可能でしょうか?
A9: 原則,母乳栄養を行います. 以下が勧められます。
・母親がインフルエンザを発症し重症でケアが不能な場合には、搾母乳を健康な第 3 者に与えてもらう。
・母親が児をケア可能な状況であれば、マスク着用・清潔ガウン着用としっかりした手洗いを厳守すれば(飛沫・接触感染予防策)、直接母乳を与えても良い。
・母親がオセルタミビル・ザナミビルなどの投与を受けている期間でも母乳を与えても良いが、搾母乳とするか、直接母乳とするかは、飛沫感染の可能性を考慮し発症している母親の状態により判断する。
・母親の症状が強く児をケアできない場合には、出生後、児を直ちに預かり室への入室が望ましい。その際、他児と十分な距離をとる(1.5m 以上)。
・哺乳瓶・乳首は通常どおりの洗浄でよい。
・原則、飛沫・接触感染予防策の解除は、母親のインフルエンザ発症後 7 日以降に行う。
本件Q&A改定経緯:
初版 平成21年5月19日
2版 平成21年6月19日
3版 平成21年8月4日
4版 平成21年8月25日
5版 平成21年9月7日
6版 平成21年9月28日
7版 平成21年10月22日
8版 平成21年11月9日
9版 平成22年12月22日
順調な分娩経過で問題のないケースだと思って分娩に立ち会っていたのに、産まれてみたらなかなか児の呼吸が始まらず、予想外に本格的な新生児蘇生法が必要となる事態も決してまれではありません。
しかし、実際に新生児蘇生を必要とする児が産まれた時には、分娩介助者達があせってパニックに陥ってしまい、正しい手順で蘇生処置が実施されない場合も起こり得ます。
従って、分娩に関わる職種(産科医、小児科医、助産師、NICU看護師、救命救急士など)の医療従事者は、いざという時、あせらずに正しい手順で新生児蘇生を開始できるように、最新の新生児蘇生法ガイドラインに習熟しておく必要があります。
新生児蘇生法のスキル習得は、楽器演奏やスポーツなどのスキル習得と同じで、異常事態が発生した時に間髪入れず反射的に正しい動きができるようになるまで、常日頃から反復トレーニングを繰り返しておくことが大切だと思います。
日本版救急蘇生ガイドライン2010に基づく
新生児蘇生法テキスト
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新生児の約10%は、出生時に呼吸を開始するために何らかの助け(呼吸刺激や吸引など)を必要とする。
新生児の約1%は、救命のために本格的な蘇生手段(人工呼吸、胸骨圧迫、薬物治療、気管挿管など)を必要とし、適切な処置を受けなければ、死亡するか、重篤な障害を残す。
すべてのハイリスク児の出生予知は不可能で、全く順調な妊娠を経過した場合でも、子宮外生活への適応障害が突然出現することがまれではない。
新生児仮死は、バッグとマスクを用いた人工呼吸だけで90%以上が蘇生できる。さらに胸骨圧迫と気管挿管まで加えれば99%まで蘇生できる。
現在、日本ではほとんど(99.8%)の分娩が医療機関内で行われ、分娩に関与するスタッフは非常に限られているので、新生児を取り扱うすべての医療従事者(小児科医、産科医、助産師、NICU看護師など)が新生児蘇生法に習熟すれば、その意義は非常に大きいと考えられる。
日本では、日本周産期・新生児医学会を実施主体として、新生児蘇生法普及事業が展開されている。新生児蘇生法の講習会として、「一次」コース(B コース)、「専門」コース(A コース)、「専門」コースインストラクター養成講習会(I コース)が開催され、コース修了者を学会が認定している。「すべての周産期医療関係者が標準的な新生児救急蘇生法を体得して、すべての分娩に新生児の蘇生を開始することのできる要員が専任で立ち会うことができる体制を実現する」ことが新生児蘇生法普及事業の最終目標である。
肩甲難産 Shoulder Dystocia
[定義] 児頭が娩出されたあと、通常の軽い牽引で肩甲が娩出されない状態。
Shoulder Dystocia 【YouTube】
[頻度] 全分娩の0.6~1.4%に発生
(American College of Obstetricians and Gynecologists, 2002; Gottlieb and Galan, 2007)
[リスク因子]
巨大児、特に糖尿病合併症にともなう巨大児、肥満、過期妊娠、高年妊娠、扁平骨盤、変形骨盤、陣痛促進薬の使用、分娩第Ⅱ期遷延、鉗子分娩あるいは吸引分娩など。
※ 肩甲難産は巨大児に起こりやすいが、同一体重であっても肩甲難産を起こす例と起こさぬ例がある。現在のところ、肩甲難産の有効な予測法、予防法はない。
[合併症]
(1) 母体合併症:
①弛緩出血、②腟・頸管裂傷、③子宮破裂
(2) 児の合併症:
①腕神経叢麻痺(Erb麻痺)、②上腕・鎖骨骨折
(3) 長時間胎児が娩出されない:
① 胎児機能不全、②胎児死亡、③低酸素性虚血性脳症
[肩甲難産に対してどう対応したらいいのか?]
肩甲難産のリスク因子として糖尿病合併妊娠による巨大児などが有名であるが、体重が正常範囲の児による肩甲難産も多い。肩甲難産に対して従来からさまざまな対策が検討されてきたが、現在のところ有効とされる予測法、予防法はなく、発症後のすみやかな対応の重要性が強調されている。肩甲難産が発症した場合にどう対応するのか、施設ごとのプロトコール作りが推奨される。
※ 肩甲難産が疑われる場合、Kristeller胎児圧出法や無理な児頭牽引は禁忌である。
・ 肩甲難産発症時の対応
① 人を呼ぶ
② おだやかな牽引を試みる
③ 導尿を行う
④ 会陰切開を広げる
⑤ McRoberts 法
⑥ 恥骨上部圧迫
⑥ 腟内操作
・ Rubin 手技
・ Woods Screw 手技
・ Reverse Woods Screw 手技
⑦ 後在の上腕の娩出
⑧ 四つん這い姿勢での娩出
⑨ 鎖骨骨折、上腕骨折、Zavanelli 法などを考慮する
[McRoberts 法] 妊婦の両足を分娩台のステップからはずして大腿の前面を腹部に強く押し付ける。これと同時に恥骨上部を助手が圧迫し、恥骨の裏に陥入した肩を開放する方法。
McRoberts Maneuver 【YouTube】
【恥骨上部圧迫】 介助者の手掌の根元を使って、胎児の肩の後面に対して、下方かつ横向きの動きが加わるように圧迫する。(子宮底の圧迫は決して行ってはならない。)
[Rubin 手技] 術者の手を児の前在の肩甲の背側に入れ、肩甲骨を圧迫して、肩を内転、斜位に回旋させる操作。
[Woods Screw 手技] 術者の手を腹側から児の後在の肩甲の下に入れ、恥骨に向けて回旋させる操作。Rubin 手技を併用する。
[Reverse Woods Screw 手技] 背側から後在肩甲にアプローチし、Rbin 手技やWoods Screw 手技とは反対方向に胎児を回旋させる操作。
Reverse Woods Screw 手技
[後在の上腕の娩出] 後在の腕を肘までたどり、腕を肘で屈曲させ、胎児の胸部をなでるように前腕を動かす。
[四つん這い姿勢での娩出] 四つん這い姿勢にするために患者を反転させ、やさしく下方に牽引し後在肩甲を娩出する。
[Zavanelli 法] McRoberts法、恥骨上部圧迫、腟内操作(Rubin 手技、Woods Screw 手技、Reverse Woods Screw 手技)、後在の上腕の娩出、四つん這い姿勢での娩出などを実施しても児が娩出されない場合には、最終的手段として、娩出された児頭を産道内に戻して、緊急帝王切開を行うこともある。
昨日、伊那中央病院でNCPR講習会(Aコース)が開催され、インストラクターとして参加させて頂きました。まず、プレテスト(15分)と飯田市立病院の新生児科部長による講義(70分)が行われ、休憩後に小グループに分かれて、基本手技の実習(60分)とケースシナリオに基づく実習(75分)が行われ、最後にポストテスト(15分)が行われました。
私が実習を担当させてもらったブースは、伊那中央病院の産婦人科医3人、小児科医1人、初期研修医1人のグループでした。たまたま、知り合いの先生ばかりだったので、和気あいあいと非常に楽しく実習をすることができました。
昨年は飯田市立病院で2回NCPR講習会(AコースとBコース)が開催されましたが、今回は半年ぶりの講習会参加で少し間があったので細かい数値などはほとんど忘れてました。再度一から覚えなおすのに少々時間がかかりました。2月18日に飯田市立病院でNCPR講習会(Aコース)が開催されますので、またインストラクターとして参加させていただく予定です。今度は間が1ヵ月しかないので、たぶん、事前学習は比較的短時間で済むのではないか?と思っています。
新生児蘇生法は講習会に1回参加すればそれで身に付くというものではありません。実地の臨床現場で日々実践している新生児科の先生方であれば頻回の講習会参加の必要は全くないですが、新生児蘇生法に習熟してない産婦人科医や助産師が、いざという時に自然に正しく体が動くようにするためには、繰り返し、繰り返し、2~3カ月ごとに頻回に講習会に参加する必要があると思います。
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昨日は深夜~朝方にかけて5件の分娩ラッシュで、その間に早剥・緊急帝王切開もあり、徹夜業務の後に、丸一日、NCPR講習会のインストラクター業務だったので、さすがに疲れました。私ももう年なので、無理して倒れないように十分気を付けないといけないと思います。
Neonatal Cardio-Pulmonary Resuscitation
① 正常新生児1
【設定】母親30歳。0経妊0経産。妊娠経過は異常なし。妊娠40週0日、陣発後に来院した。
・ 分娩立ち合いの前に準備する物品は?
⇒バスタオル、肩枕用ハンドタオル、吸引カテーテル、吸引圧、酸素、顔マスク、マノメータ付きバッグ(漏れの確認)、新生児用プローベ付きパルスオキシメータ、ブレンダー
・ 出生時の情報として何を確認しますか?
⇒呼吸・筋緊張・在胎週数
・ 出生しました。児の状態は、呼吸:元気に泣いている、筋緊張:良好、成熟度:40週の正期産児。どうしますか?
⇒ルーチンケアをお母さんのそばで行います
・ ルーチンケアでは何をしますか?
⇒保温する、顔・口を拭く、体を拭く、タオルを取り除く
・ 気道開通の方法は?
⇒気道確保の体位をとらせる、分泌物を拭く、必要ならゴム球式吸引器か吸引カテーテルで吸引する
・ その後も元気で泣き、中心性チアノーゼは認めません。心拍も100以上/分あります。どうしますか?
⇒5分後まで観察を続ける、または、保温に注意しながら母親の元へ
・ 引き続き保温に注意しながら、母親のそばで観察を継続します。
② 正常新生児2(羊水混濁)
【設定】母親36歳。2経妊2経産。妊娠経過は異常なし。41週0日に陣発し、来院した。胎児心拍モニターにて遅発一過性徐脈を認めた。分娩が遷延したため人工破膜したところ、羊水混濁を認めたので分娩立ち合いが要請された。
・ 分娩立ち合いの前に準備する物品は?
⇒ラジアントウォーマー、バスタオル、肩枕用ハンドタオル、吸引カテーテル(12Frまたは14Fr)、吸引圧、酸素、顔マスク、マノメータ付きバッグ(漏れの確認)、新生児用プローベ付きパルスオキシメータ、ブレンダー、喉頭鏡、気管チューブ、固定用テープ
・ 吸引カテーテルのサイズは?
⇒羊水混濁があるので12~14Fr
・ 出生時の情報として何を確認しますか?
⇒呼吸・筋緊張・在胎週数
・ 出生しました。児の状態は、呼吸:泣き始めている、筋緊張:手足をよく動かしている、成熟度:41週の正期産児。どうしますか?
⇒羊水混濁があったので、口・鼻吸引をしてからルーチンケアに入ります
・ ルーチンケアの実施にあたっては、母子関係に配慮して何に気を付けますか?
⇒母親のそばでルーチンケア
・ 保温に注意しながら、引き続き呼吸症状が出現しないかの観察を行います。
③ 新生児仮死1(軽度呼吸抑制)
【設定】母親28歳。1経妊1経産。妊娠経過は異常なし。妊娠38週5日、陣発後に来院した。
・ 分娩立ち合いの前に準備する物品は?
⇒バスタオル、肩枕用ハンドタオル、吸引カテーテル、吸引圧、酸素、顔マスク、マノメータ付きバッグ(漏れの確認)、新生児用プローベ付きパルスオキシメータ、ブレンダー
・ 出生時の情報として何を確認しますか?
⇒呼吸・筋緊張・在胎週数
・ 出生しました。児の状態は、呼吸:弱々しく泣いている、筋緊張:良好、成熟度:38週の正期産児。どうしますか?
⇒啼泣が弱いので蘇生の初期処置を始めます
・ 蘇生の初期処置を行ってください。 ⇒ラジアントウォーマーに収容、体位を整える、顔・口を拭く、体をふく、ぬれたタオルを取り除く
・ 分泌物が多く吸引が必要なようです。吸引カテーテルのサイズは?
⇒10Fr
・ 吸引の順序は?
⇒口→鼻
・ まだ弱い啼泣が続いています。何をしますか?
⇒呼吸刺激
・ 刺激する部位は?
⇒足底、背中をこする
・ 気道確保のために体位を整える方法は?
⇒肩枕を使用して気道確保の体位を整える
・ すぐに元気に泣きだしました。
・ 30秒経ちました。何を確認しますか?
⇒呼吸・心拍・できればSpO2
・ 心拍数の確認法は?
⇒聴診または臍帯動脈の拍動で
・ 呼吸:元気に泣き出した、心拍数:6秒間に12回。次にどうしますか?
⇒パルスオキシメータを装着しながら、努力呼吸と中心性チアノーゼの有無をチェックする
・ 努力呼吸も中心性チアノーゼもありません。
・ さらに、30秒経ちました(60秒)。何を確認しますか?
⇒呼吸・心拍・できるだけSpO2
・ 呼吸:泣いている、心拍数:6秒間に15回。努力呼吸も中心性チアノーゼもなし。この後、どうしますか?
⇒5分後まで観察を続ける、または、保温に注意しながら母親の元で観察
・ 引き続き保温に注意しながら、観察を続けます。
④ 新生児仮死2(羊水混濁、努力呼吸、中心性チアノーゼ)
【設定】母親32歳。1経妊1経産。妊娠経過は異常なし。41週0日に陣発し、来院した。胎児心拍モニターにて遅発一過性徐脈を認めた。分娩が遷延したため人工破膜したところ、羊水混濁を認めた。
・ 分娩立ち合いの前に準備する物品は?
⇒ラジアントウォーマー、バスタオル、肩枕用ハンドタオル、吸引カテーテル(12Frまたは14Fr)、吸引圧、酸素、顔マスク、マノメータ付きバッグ(漏れの確認)、新生児用プローベ付きパルスオキシメータ、ブレンダー、喉頭鏡、気管チューブ、固定用テープ
・ 出生時の情報として何を確認しますか?
⇒呼吸・筋緊張・在胎週数
・ 出生しました。児の状態は、呼吸:泣き始めています、筋緊張:手足をだらりとしています、成熟度:41週。どうしますか?
⇒蘇生の初期処置を始めます
・ 蘇生の初期処置を行ってください。
⇒ラジアントウォーマーに収容、体位を整える、顔・口を拭く、体をふく、ぬれたタオルを取り除く
・ 口腔内には胎便の混じった羊水がたくさんあります。気道の吸引を行います。吸引カテーテルのサイズは?
⇒羊水混濁があるので12~14Frと太めのカテーテルを使います。
・ 吸引する部位の順序は?
⇒口→鼻
・ 頭部が前屈になって気道が保ちにくいようです。どうしますか?
⇒肩枕を入れます
・ 吸引物がきれいになってきました。どうしますか?
⇒気道吸引をやめます
・ 吸引中に啼泣が弱くなりました。どうしますか?
⇒呼吸刺激をします
・ 30秒経ちました。何を確認しますか?
⇒呼吸・心拍・できればSpO2
・ 呼吸:しっかり啼泣しています、心拍:6秒間に14回。次に、何を確認しますか?
⇒努力呼吸の有無・中心性チアノーゼの有無
・ 努力呼吸:あり、中心性チアノーゼ:あり。次にどうしますか?
⇒SpO2モニターを右手に装着し、空気でマスクCPAPを開始します(または、フリーフロー酸素を投与します)
・ マスクCPAPにおけるマノメータの圧は? ⇒5~6cmH2Oを目標(8cmH2Oは超えない)
・ フリーフロー酸素投与における酸素の流量は?
⇒5~10L/分
・ さらに30秒経ちました(60秒)。何を確認しますか?
⇒呼吸・心拍・その後に努力呼吸と中心性チアノーゼとSpO2の値
・ 努力呼吸:なし、中心性チアノーゼ:なし、SpO2:未表示。どうしますか?
⇒CPAP(またはフリーフロー酸素投与)を徐々に中止する
・ さらに30秒経ちました(90秒)。何を確認しますか?
⇒呼吸・心拍・その後に努力呼吸と中心性チアノーゼとSpO2の値
・ 呼吸:しっかりと強く啼泣しています、心拍数:140/分、努力呼吸:なし、SpO2:90%。どうしますか?
⇒CPAP(またはフリーフロー酸素投与)を中止する
・ その後の方針は?
⇒繰り返し評価します
・ 蘇生できました。保温に注意しながら、引き続き観察を行います。
⑤ 新生児仮死3(人工呼吸のみ)
【設定】母親31歳。1経妊0経産。妊娠経過は異常なし。陣発し、破水後に来院した。胎児心拍モニターにて変動一過性徐脈を認め、吸引分娩で出生した。
・ 分娩立ち合いの前に準備する物品は?
⇒ラジアントウォーマー、バスタオル、肩枕用ハンドタオル、吸引カテーテル、吸引圧、酸素、顔マスク、マノメータ付きバッグ(漏れの確認)、新生児用プローベ付きパルスオキシメータ、ブレンダー
・ 出生時の情報として何を確認しますか? ⇒呼吸・筋緊張・在胎週数
・ 出生しました。児の状態は、呼吸:弱い啼泣のみ、筋緊張:低下している、成熟度:39週の正期産児。どうしますか?
⇒蘇生の初期処置を始めます
・ 蘇生の初期処置を行ってください。
⇒ラジアントウォーマーに収容、体位を整える、顔・口を拭く、体をふく、タオルを取り除く
・ 分泌物が多く吸引が必要のようです。吸引カテーテルのサイズは?
⇒10Fr
・ 吸引の順序は? ⇒口→鼻
・ 弱い啼泣が続いています。何をしますか?
⇒呼吸刺激
・ 刺激する部位は? ⇒足底、背中をこする
・ 体位を整える方法は?
⇒肩枕を使用して気道確保の体位を整える
・ 30秒経ちました。何を確認しますか?
⇒呼吸・心拍・できればSpO2
・ 心拍数の確認法は?
⇒聴診または臍帯動脈の拍動で
・ 呼吸:泣いている、心拍数:6秒間に12回。次にどうしますか?
⇒パルスオキシメータを装着しながら、努力呼吸と中心性チアノーゼの有無をチェックする
・ 努力呼吸:なし、中心性チアノーゼ:あり。次にどうしますか?
⇒経過観察
・ さらに、30秒経ちました(60秒)。何を確認しますか?
⇒呼吸・心拍・できるだけSpO2
・ 呼吸:あえぎ呼吸、心拍数:6秒間に12回。口腔内の分泌物も多いようです。どうしますか? ⇒吸引し、その後、人工呼吸を開始する
・ 人工呼吸の適応基準は?
⇒“無呼吸もしくはあえぎ呼吸”、“心拍100未満/分”“30秒のCPAPか酸素投与後でも努力呼吸と中心性チアノーゼあり”のいずれか
・ 正期産児で人工呼吸を開始するときの酸素濃度は?
⇒空気で始める
・ さらに、30秒経ちました(90秒)。何を確認しますか?
⇒呼吸・心拍・SpO2
・ 呼吸:泣き始めている、心拍:パルスオキシメータで150/分、SpO2:80%。この後、どうしますか?
⇒人工呼吸を中止し経過をみます。
・ さらに、30秒経ちました(120秒)。何を確認しますか?
⇒呼吸・心拍・SpO2
・ 呼吸:元気に泣いている、心拍:パルスオキシメータで150/分、SpO2:85%。この後、どうしますか?
⇒呼吸とSpO2モニターを観察します
・ さらに、30秒経ちました(150秒)。何を確認しますか?
⇒呼吸・心拍・SpO2
・ 呼吸:しっかり呼吸し努力呼吸なし、心拍:パルスオキシメータで140/分、SpO2:90%。その後の方針は?
⇒呼吸とSpO2モニターの観察を継続します
・ 引き続き保温に注意しながら、モニターを継続します。
⑥ 新生児仮死4(人工呼吸+胸骨圧迫)
【設定】母親34歳。0経妊0経産。妊娠経過は異常なし。39週2日、陣発後に来院した。破水後、臍帯下垂となり、緊急帝王切開となった。
・ 分娩立ち合いの前に準備する物品は?
⇒ラジアントウォーマー、バスタオル、肩枕用ハンドタオル、吸引カテーテル、吸引圧、酸素、顔マスク、マノメータ付きバッグ(漏れの確認)、新生児用プローベ付きパルスオキシメータ、ブレンダー、喉頭鏡、気管チューブ、固定用テープ
・ 出生時の情報として何を確認しますか?
⇒呼吸・筋緊張・在胎週数
・ 出生しました。児の状態は、呼吸:なし、筋緊張:低下している、成熟度:39週の正期産児。どうしますか?
⇒蘇生の初期処置を始めます
・ 蘇生の初期処置を行ってください。
⇒ラジアントウォーマーに収容、体位を整える、顔・口を拭く、体をふく、タオルを取り除く
・ 口腔・咽頭内に分泌物を多く認めます。吸引カテーテルのサイズは?
⇒10Fr
・ 吸引の順序は?
⇒口→鼻
・ まだ呼吸が出現しません。何をしますか?
⇒呼吸刺激
・ 刺激する部位は?
⇒足底、背中をこする
・ 体位を整える方法は?
⇒肩枕を使用して気道確保の体位を整える
・ 依然として呼吸は出現しません。
・ 30秒経ちました。何を確認しますか?
⇒呼吸・心拍・できればSpO2
・ 呼吸:呼吸なし、心拍:6秒間に7回
・ 心拍数の確認法は?
⇒聴診または臍帯動脈の拍動で
・ 次にどうしますか?
⇒人工呼吸を開始しながら、パルスオキシメータを装着する。
・ 人工呼吸の適応基準は?
⇒“無呼吸もしくはあえぎ呼吸”、“心拍100未満/分”“30秒のCPAPか酸素投与後でも努力呼吸と中心性チアノーゼあり”のいずれか
・ 人工呼吸を開始するときの酸素濃度は?
⇒正期産児では空気で開始する
・ 人工呼吸の回数と圧の目安は?
⇒1分間に40~60回、最初の数回は20~30cmH2O、その後は胸の上がりを見て
・ さらに、30秒経ちました(60秒)。何を確認しますか?
⇒呼吸・心拍・できるだけSpO2
・ 呼吸:呼吸なし、心拍:6秒に5回。どうしますか?
⇒高濃度酸素での人工呼吸と胸骨圧迫を開始します
・ 胸骨圧迫の適応基準は?
⇒人工呼吸をしても心拍が60未満/分
・ 蘇生者の立つ位置は?
⇒児の頭側と体の横に
・ 指をあてる位置は?
⇒胸骨の下1/3
・ 圧迫の深さは?
⇒胸郭前後径の1/3
・ 胸骨圧迫と人工呼吸の連動の仕方は?
⇒胸骨圧迫3回に換気1回、1サイクル2秒
・ さらに30秒経ちました(90秒)。何を確認しますか?
⇒呼吸・心拍・SpO2
・ 呼吸:ごくわずかに呼吸を認める、心拍:パルスオキシメータで90/分、SpO2:70%。どうしますか?
⇒胸骨圧迫は中止し、人工呼吸継続
・ さらに、30秒経ちました(120秒)。何を確認しますか?
⇒呼吸・心拍・SpO2
・ 呼吸:弱い呼吸を認める、心拍:パルスオキシメータで120/分、SpO2:80%。どうしますか?
⇒SpO2の値によって酸素濃度を調整しながら人工呼吸継続
・ さらに30秒経ちました(150秒)。何を確認しますか?
⇒呼吸・心拍・SpO2
・ 呼吸:泣き始めている、心拍:パルスオキシメータで150/分、SpO2:90%。どうしますか?
⇒人工呼吸を中止し、人工呼吸時の酸素濃度でCPAP(あるいはフリーフロー酸素投与)を行い、引き続きSpO2の値で酸素濃度を調整します
・ さらに30秒経ちました(180秒)。何を確認しますか?
⇒呼吸・心拍・SpO2
・ 呼吸:元気に泣いている、心拍:パルスオキシメータで150/分、SpO2:95%。どうしますか?
⇒CPAP(あるいはフリーフロー酸素投与)は中止し、呼吸とパルスオキシメータの評価を継続
・ 蘇生できましたが、その後も注意深い経過観察が必要ですから、小児科医師と相談して収容先を決めます。
⑦ 新生児仮死5(気管吸引に熟達した小児科医が蘇生を行う場合のバリエーション)
【設定】母親38歳。2経妊0経産、妊娠高血圧症候群を合併しFGRを認めた。38週3日に陣発し来院した。心拍数モニターにて基線細変動消失を認めた。破水したところ羊水混濁著明であった。
・ 分娩立ち合いの前に準備する物品は?
⇒ラジアントウォーマー、バスタオル、肩枕用ハンドタオル、吸引カテーテル、吸引圧、酸素、顔マスク、マノメータ付きバッグ(漏れの確認)、新生児用プローベ付きパルスオキシメータ、ブレンダー、喉頭鏡、気管チューブ、固定用テープ
・ 出生時の情報として何を確認しますか?
⇒呼吸・筋緊張・在胎週数
・ 出生しました。児の状態は、呼吸:あえぎ呼吸、筋緊張:低下し手足はだらんとしている、成熟度:38週の正期産児で体重は2kgと推定される。どうしますか?
⇒蘇生の初期処置を始めます
・ 蘇生の初期処置を行ってください。
⇒ラジアントウォーマーに収容、体位を整える、顔・口を拭く、体を拭く、口・鼻の吸引を行う
・ 吸引カテーテルのサイズは?
⇒羊水混濁があったので12Frまたは14Fr
・ 吸引の順序は?
⇒口→鼻
・ たくさん胎便が気道に残っている様子なので気管挿管をし、気管吸引をします。(気管挿管して吸引してよいが、ルーチンに行う必要はない。)
・ 気管チューブの太さは?
⇒3.0mm
・ 気管チューブの深さは?
⇒左口角8cm
・ 気管吸引カテーテルの太さは?
⇒6Fr
・ 気管吸引物は胎便で汚染されています。気管吸引の後、吸引物はクリアになりました。筋緊張は低下し、呼吸も弱いままです。その後どうしますか?
⇒呼吸刺激し、パルスオキシメータを装着する
・ 刺激する部位は?
⇒足底、背中をこする
・ 30秒経ちました。何を確認しますか?
⇒呼吸・心拍・SpO2
・ 呼吸:呼吸なし、心拍:6秒間に8回、気管吸引物はクリアです。次にどうしますか?
⇒空気で人工呼吸を開始する
・ 人工呼吸の適応基準は?
⇒無呼吸またはあえぎ呼吸、心拍100未満/分、CPAPかフリーフロー酸素投与でも努力呼吸と中心性チアノーゼが続く
・ 人工呼吸の回数と圧の目安は?
⇒1分間に40~60回、最初の数回は20~30cmH20、その後は胸の上がりを見て
・ さらに、30秒経ちました(60秒)。何を確認しますか?
⇒呼吸・心拍・SpO2
・ 呼吸:呼吸なし、心拍:聴診上、心拍は6秒に5回。どうしますか?
⇒人工呼吸をしてもさらに心拍が低下しているので、高濃度酸素を加えた人工呼吸に加え、胸骨圧迫を開始する
・ 胸骨圧迫の適応基準は?
⇒人工呼吸をしても心拍が60未満/分
・ 蘇生者の立つ位置は?
⇒児の頭側と体の横に
・ 胸骨圧迫で指を置く位置は?
⇒胸骨の下1/3
・ 圧迫の深さは?
⇒胸郭前後径の1/3
・ 胸骨圧迫と人工呼吸の連動の仕方は?
⇒胸骨圧迫3回に換気1回、1サイクル2秒
・ さらに、30秒経ちました(90秒)。何を確認しますか?
⇒呼吸・心拍・SpO2
・ 呼吸:弱い呼吸を認める、心拍:パルスオキシメータで90/分、SpO2:60%。どうしますか?
⇒胸骨圧迫は中止し、高濃度酸素のままで人工呼吸継続
・ 胸骨圧迫の中止基準は?
⇒心拍60以上/分
・ さらに、30秒経ちました(120秒)。何を確認しますか?
⇒呼吸・心拍・SpO2
・ 呼吸:弱い陥没呼吸を認める、心拍:120/分、SpO2:80%。どうしますか?
⇒呼吸は不十分なので人工呼吸を継続する
・ 人工呼吸中に確認することは?
⇒気管チューブの深さ、胸の上がり、含気、体位、圧の確認
・ 酸素の流量は?
⇒5~10L/分
・ さらに30秒経ちました(150秒)。何を確認しますか?
⇒呼吸・心拍・SpO2
・ 呼吸:自発呼吸はまだ弱いまま、心拍:120/分、SpO2:100%。この後、どうしますか?
⇒SpO2が95%以下になるように酸素濃度を下げて人工呼吸継続
・ 人工呼吸管理を含めた集中管理が必要です。直ちにNICUに搬送します。
⑧ 新生児仮死6(人工呼吸+胸骨圧迫+ボスミン投与)
【設定】母親34歳。1経妊1経産。妊娠32週より妊娠高血圧症候群を合併し、減塩食・安静にて管理された。妊娠37週1日。強い腹痛と出血を認め、来院した。エコーにて常位胎盤早期剥離が疑われ、緊急帝王切開となった。
・ 分娩立ち合いの前に準備する物品は?
⇒ラジアントウォーマー、バスタオル、肩枕用ハンドタオル、吸引カテーテル、吸引圧、酸素、顔マスク、マノメータ付きバッグ(漏れの確認)、新生児用プローベ付きパルスオキシメータ、ブレンダー、喉頭鏡、気管チューブ、固定用テープ
・ 出生時の情報として何を確認しますか? ⇒呼吸・筋緊張・在胎週数
・ 出生しました。児の状態は、呼吸:呼吸なし、筋緊張:低下している、成熟度:37週の成熟児(推定体重は約2.5kg)。どうしますか?
⇒蘇生の初期処置を始めます
・ 蘇生の初期処置を行ってください。
⇒ラジアントウォーマーに収容、体位を整える、顔・口を拭く、体をふく、ぬれたタオルを取り除く
・ 口腔・咽頭内に血性羊水を多く認めます。吸引カテーテルのサイズは?
⇒10Fr(or 8Fr)
・ 吸引の順序は?
⇒口→鼻
・ まだ呼吸が出現しません。何をしますか?
⇒呼吸刺激
・ 刺激する部位は?
⇒足底、背中をこする
・ 体位を整える方法は?
⇒肩枕を使用して気道確保の体位を整える
・ 依然として呼吸は出現しません。
・ 30秒経ちました。何を確認しますか?
⇒呼吸・心拍・できればSpO2
・ 呼吸:呼吸なし、心拍:6秒間に5回
・ 心拍数の確認法は?
⇒聴診または臍帯動脈の拍動で
・ 次にどうしますか?
⇒人工呼吸を開始しながら、パルスオキシメータを装着する。
・ 人工呼吸の適応基準は?
⇒“無呼吸もしくはあえぎ呼吸”、“心拍100未満/分”“30秒のCPAPか酸素投与後でも努力呼吸と中心性チアノーゼあり”のいずれか
・ 人工呼吸を開始するときの酸素濃度は?
⇒正期産児では空気で開始する
・ 胸が上がっていません。確認することは?
⇒体位、マスクのリーク、分泌物、換気圧など
・ 人工呼吸の回数と圧の目安は?
⇒1分間に40~60回、最初の数回は20~30cmH2O、その後は胸の上がりを見て
・ 胸が上がってきました。
・ 人工呼吸をしながら徐脈が続けばどうしますか?
⇒ブレンダーの酸素濃度を上げます
・ さらに、30秒経ちました(60秒)。何を確認しますか?
⇒呼吸・心拍・SpO2
・ 呼吸:呼吸なし、心拍:6秒に4回、SpO2:未表示。どうしますか?
⇒高濃度酸素での人工呼吸に加え、胸骨圧迫を開始します
・ 胸骨圧迫の適応基準は?
⇒人工呼吸をしても心拍が60未満/分
・ 胸骨圧迫中の酸素濃度は?
⇒高濃度酸素(80%以上)とします
・ 蘇生者の立つ位置は?
⇒児の頭側と体の横に
・ 指をあてる位置は?
⇒胸骨の下1/3
・ 圧迫の深さは?
⇒胸郭前後径の1/3
・ 胸骨圧迫と人工呼吸の連動の仕方は?
⇒胸骨圧迫3回に換気1回、1サイクル2秒
・ さらに30秒経ちました(90秒)。何を確認しますか?
⇒呼吸・心拍・SpO2
・ 呼吸:まだ呼吸は出てこない、心拍:パルスオキシメータで40/分、SpO2:50%。どうしますか?
⇒人工呼吸と胸骨圧迫を再開
・ 人工呼吸と胸骨圧迫を行っても心拍が改善しない場合、何を確認しますか?
⇒胸郭の動き、酸素濃度、胸骨圧迫の位置、人工呼吸と胸骨圧迫のリズム
・ SpO2も低いので酸素濃度は高濃度のままにします。確認した事項に注意して蘇生を続ける。
・ さらに、30秒経ちました(120秒)。何を確認しますか?
⇒呼吸・心拍・SpO2
・ 呼吸:まだ呼吸は出てこない、心拍:パルスオキシメータで40/分、SpO2:50%。適切な人工呼吸、胸骨圧迫でも改善傾向がありません。次にどうしますか?
⇒気管挿管の準備をして、その間は高濃度での人工呼吸と胸骨圧迫を続ける。
・ 気管チューブの内径は?
⇒3.0mm(先端まで同径のものがよい)
・ 気管チューブの深さは?推定体重は2.5kgです。
⇒左口角8.5cm(2.5+6)
・ 気管チューブの位置確認は?
⇒換気状態、両肺野の聴診、CO2モニター
・ 気管吸引カテーテルの太さは?
⇒6Fr
・ 胸骨圧迫と人工呼吸の連動の仕方は?
⇒胸骨圧迫3回に換気1回、1サイクル2秒
・ 20秒以内に挿管できなければ、再びバッグ・マスクで十分換気を行ってから再施行する。
・ さらに30秒経ちました(150秒)。何を確認しますか?
⇒呼吸・心拍・SpO2
・ 呼吸:まだ呼吸は出てきません、心拍:パルスオキシメータで50/分、SpO2:60%。次に、どうしますか?
⇒人工呼吸と胸骨圧迫を続けながらボスミン?を投与します
・ ボスミン?の投与経路はどうしますか?
⇒臍カテーテル、または静脈ラインから
・ 静注するボスミン?の濃度、投与量は?
⇒生食で10倍に希釈したものを、0.1~0.3mL/kg
・ 静脈ライン確保前に投与したい場合は?
⇒気管内投与
・ 気管内投与の場合のボスミン?の濃度、投与量は?
⇒生食で10倍に希釈したものを、0.5~1.0mL/kg
・ ボスミン?の投与は、人工呼吸と胸骨圧迫を続けながら行う。
・ さらに30秒経ちました(180秒)。何を確認しますか?
⇒呼吸・心拍・SpO2
・ 呼吸:わずかに呼吸が出現している、心拍:パルスオキシメータで80/分、SpO2:80%。この後、どうしますか?
⇒胸骨圧迫を中止し、SpO2の値によって酸素濃度を調整しながら人工呼吸を継続する
・ 胸骨圧迫の中止基準は?
⇒心拍数60以上/分
・ さらに30秒経ちました(210秒)。何を確認しますか?
⇒呼吸・心拍・SpO2
・ 呼吸:弱い呼吸のみ、心拍:パルスオキシメータで140/分、SpO2:95%。この後、どうしますか?
⇒吸入酸素濃度を下げながら人工呼吸を続けます。
・ 人工呼吸管理を含めた集中治療が必要です。人工呼吸しながらNICUに搬送します。
Neonatal Cardio-Pulmonary Resuscitation
① 蘇生の準備
・ ラジアントウォーマー
・ バスタオル(数枚)
・ 肩枕用ハンドタオル
・ ゴム球式吸引器
・ 吸引カテーテル(6Fr、8Fr、10Fr、12Fr、14Fr)
・ 吸引圧
・ 酸素、ブレンダー
・ 新生児用聴診器
・ パルスオキシメータと新生児用プローベ
・ 蘇生用フェイスマスク(丸型、鼻合わせ型)
・ 自己膨張式バッグ(閉鎖状酸素リザーバー付)
・ 流量膨張式バッグ(マノメータ付) →漏れの確認
・ 気管チューブ(Endotracheal tube: ETT)
(内径2.5mm、3mm、3.5mm)
・ 呼気CO2検知器
・ 新生児用喉頭鏡(直型)ブレードNo.0(新生児用)、No.00(低出生体重児用)
・ 気管チューブ固定用テープとはさみ
②出生時における新生児の状態評価
出生直後の児のチェックポイント:
1. 正期産児か?
2. 呼吸や啼泣は良好か?
3. 筋緊張は良好か?
以上の3項目を評価し、いずれかに問題があれば、蘇生の初期処置を開始する。
コンセンサス2010では、出生時に蘇生処置が必要かどうかを判定するための評価項目から、“羊水の胎便混濁”は除外された。
③ルーチンケア
出生時の3項目(正期産児、呼吸または啼泣、筋緊張)に異常がなければ、ルーチンケアを母親のそばで行う。
ルーチンケア:
保温に配慮する
気道を確保する体位をとらせる
皮膚の羊水を拭き取る
以上の処置を行ってから、皮膚色を評価する。
鼻や口の分泌物はガーゼやタオルでぬぐえばよく、必ずしも吸引は必要ない。乱暴に咽頭を吸引すると、咽頭痙攣や迷走神経反射による徐脈、自発呼吸の遅延をもたらすことがある。
コンセンサス2010では、ルーチンケアのために母と児を分離すべきではないことが改めて強調されている。カンガルーケア(羊水をぬぐって皮膚を乾かした新生児を、母親の胸部に肌と肌が触れ合うように抱いてバスタオルなどで覆う方法)には保温効果があり、また早期の母子接触は愛着形成にも有用であるが、スタッフによる注意深い観察が必要である。
④蘇生の初期処置
出生直後のチェックポイントの3項目(正期産児、呼吸または啼泣、筋緊張)のいずれかに異常があれば蘇生の初期処置を開始する。
蘇生の初期処置:
1. 保温し、皮膚の羊水を拭き取る
2. 気道確保を行う(気道確保の体位と、胎便除去を含む必要に応じての吸引)
3. 優しく刺激する
4. 再度気道確保の体位をとる
羊水の胎便混濁の有無によるアルゴリズムの流れの変更はなくなった。初期処置の一つとして、胎便で混濁した羊水の気道からの除去を行う。
● 気道確保(体位と必要に応じての吸引)
・ 仮死の徴候のある新生児は、直ちに仰臥位でsniffing positionをとらせる。肩枕を入れると気道確保の体位をとりやすい。
・ 気道確保の体位で呼吸が弱々しい場合や、努力性呼吸があるにもかかわらず十分な換気が得られない場合は、気道の閉塞が考えられるので吸引を行う。分泌物が少なく呼吸に問題がなければ、ルーチンに吸引する必要はない。
・ 吸引が必要な場合には、ゴム球式吸引器(バルブシリンジ)または吸引カテーテルで、まず口腔を吸引し、次いで鼻腔を吸引する。
・ 吸引カテーテルのサイズは羊水混濁の有無によって変更する。羊水の胎便混濁があった場合は、太めの吸引カテーテル(12または14Fr)、羊水が清明な場合は、正期産児で10Fr、低出生体重児では児の大きさに応じて8Frまたは6Frの吸引カテーテルを用いる。
● 皮膚刺激
・ 乾いたタオルで皮膚を拭く。(低体温防止、呼吸誘発のための皮膚刺激)
・ 温められた別のタオルを用いて児の背部、体幹、あるいは四肢を優しくこする。
・ これで自発呼吸が誘発されなければ、児の足底を平手で2、3回叩いたり指先で弾いたりする。背部を優しくこすってもよい。(足底刺激、背中刺激)
⑤バッグ・マスクを用いた人工呼吸
コンセンサス2010では以下の点が強調されている。
1. 過剰な酸素投与(特に100%酸素)はできるだけ避ける。 →パルスオキシメータとブレンダーの活用
2. 出生後10分間は正常新生児でも中心性チアノーゼがあっても異常とはいえない。酸素投与の目安は右手に付けたパルスオキシメータのSpO2が以下の値未満の場合である。
生後 1分 …… SpO2の下限値 60%
生後 3分 …… SpO2の下限値 70%
生後 5分 …… SpO2の下限値 80%
生後10分 …… SpO2の下限値 90%
なお、SpO2の値が95%以上になったら、吸入酸素は徐々に下げて中止する。
3. 蘇生の初期処置の後(出生後30秒)で、無呼吸(ないしあえぎ呼吸)か心拍数100/分未満ならば直ちに人工呼吸を開始する。正期産かそれに近い児では空気で開始する。32週未満の児では30~40%の低濃度酸素で開始する。空気や低濃度酸素で開始しても心拍数が下がり続けたり、SpO2の上昇傾向が認められなければ、吸入酸素濃度を上げる(自己膨張式バッグを使用しているときはリザーバーを装着する)。
4. 蘇生の初期処置の後(出生後30秒)で、自発呼吸がしっかりあって心拍が100/分以上ならば、中心性チアノーゼがあっても、努力呼吸(陥没呼吸・呻吟・多呼吸)を伴わなければ、あわてる必要はない。パルスオキシメータを右手に装着して、SpO2が上記2.の値未満ならその時点で空気を用いた持続的気道陽圧CPAP(Continuous Positive Airway Pressure)またはフリーフロー酸素の投与を開始すればよい。
5. 蘇生の初期処置の後(出生後30秒)で、自発呼吸があり、心拍が100/分以上であるが、努力呼吸(陥没呼吸・呻吟・多呼吸)と中心性チアノーゼの両者が同時に認められる場合は、パルスオキシメータを右手に装着し、まずは空気を用いたCPAPを優先する。空気を用いたCPAPがどうしても適応できないような状況では、フリーフロー酸素の投与を考慮する。CPAPの施行や、フリーフロー酸素の投与にもかかわらず、出生後60秒の評価で努力呼吸と中心性チアノーゼの両者が持続する場合は人工呼吸を開始する。
6. 以上の対応で、中心性チアノーゼのみや努力呼吸のみが続く場合は、原因検索(チアノーゼ性心疾患、RDS、新生児一過性多呼吸)を進めながら、CPAPを検討する。
手技の練習:
1. パルスオキシメータの新生児用プローベを右手掌か右手首に装着する方法を練習させる。
2. インストラクターの指に新生児用プローベを装着して、パルスオキシメータの心拍数とSpO2が表示されるのに時間がかかることをデモする。体動などで脈波が検出されないと数字が信用できないことを、プローベを装着した指を動かして実演する。
3. ブレンダーの吸入酸素濃度を空気に設定して、マノメータ付き流量膨張式バッグを用いてマスクCPAPを実演し、受講生に実施してもらう。マノメータの圧は5~6cmH2Oを目標(8cmH2Oは超えない)とする。人形だと口→食道に圧が逃げてCPAP圧がかかりにくいことがあるので、インストラクターが喉頭を外から少し圧迫するか、受講生にマスクを強く顔に密着させるように指導する。メトロノームで40/分くらいの音を聞かせながら行うと教育効果が上がる。
4. フリーフロー酸素投与法を、酸素チューブをつかんだインストラクターの手をカップ状にして実演する。5~10L/分の流量で使用する。ブレンダーがないときは、顔に近づけると高濃度酸素投与になり、5~6cm離すと低濃度酸素投与になることを説明する。流量膨張式バッグではフリーフロー酸素投与ができるが、自己膨張式バッグではできないことを説明する。
5. ブレンダーがない施設の受講者の場合は、
ⅰ)酸素チューブを付けた自己膨張式バッグで、リザーバーを付けずに、低濃度酸素投与のバッグ・マスク換気の練習を全員にさせる。
ⅱ)次いで、酸素チューブを付けた自己膨張式バッグにリザーバーを付けて、高濃度酸素酸素投与のバッグ・マスク換気の練習を全員にさせる。
● “IC”クランプ法の要点
・ マスクは眼より下、顎より上できっちり鼻と口をカバーできるものを使用する。
・ 眼にかかると眼損傷を、顎より外に出てしまうとガス漏れを起こす。
・ 親指と人差し指を用いた“C”ではマスクを顔面に密着させることに注意する。
・ 肩枕を入れるとマスクを“C”で顔面に密着させるだけでもバッグ・マスク換気が容易となる。
・ 小児では“E”は気道確保のため下顎から頤までに3つの指をかけるが、新生児では中指のみで下顎を引き上げるようにする。⇒新生児では“IC”テクニック
・ 中指は下顎の骨の部分に指をかけ、決して咽頭のやわらかい部分を圧迫しないようにする(舌を押し上げて気道閉塞を起こしやすいため)。
● 自己膨張式バッグ
・ 使用が容易である。
・ リザーバーがないと40%未満の低濃度酸素投与、リザーバーをつけて酸素流量を上げると高濃度酸素と使い分けができる。
・ フリーフロー酸素の投与は容易でない(特殊な閉鎖式のリザーバーがないと難しい)。マスクCPAPも特殊な装置がないとできない。
・ リリーフ弁があるので、一定の圧(35cmH2Oや40cmH2Oなど)以上はかからない。
● 流量膨張式バッグ
・ 使用に熟練を要する(難しい)。
・ 高濃度酸素(100%酸素)を含めてブレンダーで調整されたとおりの濃度の酸素を投与できる。
・ フリーフロー酸素の投与ができる。
・ 使用になれると肺のコンプライアンスや気道抵抗がわかる。
・ マノメータを使用しないと過剰の圧をかける危険性がある。
・ 圧調整のためにはリークシステムと流量を調整する必要がある。
・ マスクが密着してないとバギングができない(これは「マスクが密着していないことがすぐわかる」という点ではメリットでもある)。
・ マノメータを使用してマスクCPAPができる。
バッグ・マスク人工呼吸では1回の換気に約1.0秒をかけ、胸上がりを必ず確認する。
流量膨張式バッグに流す酸素の量は、新生児では5~10L/分くらいが適量である。流量膨張式バッグでは必ず圧マノメータに接続し、換気圧をチェックする必要がある。出生直後の空気呼吸開始時には20~30cmH2Oあるいはそれ以上の高い圧と長めの吸気時間が必要とされることもある。効果的な換気かどうかは、圧を指標とするよりも児の胸部の動きのほうが信頼できる。人工呼吸の回数は40~60回/分(胸骨圧迫を併用する場合は30回/分)が必要である。
90%の仮死児は気道確保とバッグ・マスク人工呼吸で蘇生ができるので、周産期医療関係者にバッグ・マスク人工呼吸を体得させることがNCPR講習会の一番重要な行動目標である。
⑥胸骨圧迫
● 胸骨圧迫の適応:
人工呼吸を開始して30秒後に心拍数を確認し、
・ 心拍数が100/分以上で、自発呼吸が認められれば人工呼吸は中止してよい。
・ 心拍数が60/分以上100/未満の場合は、人工呼吸が適切に行われているかどうかを確認する。また、気管挿管による人工呼吸を検討する。
・ 心拍数が60/分未満であれば、胸骨圧迫を開始する。
● 胸骨圧迫の方法:
胸骨圧迫は胸骨上で両側乳頭を結ぶ線のすぐ下方の部分(胸骨の下部1/3の所)を圧迫する。圧迫位置が低すぎると肝臓の損傷を起こすことがある。圧迫期は胸壁の厚さの1/3程度がへこむ強さで、圧迫を反復する。圧迫解除期にも指は胸壁から離さない。
胸郭包み込み両拇指圧迫法(両拇指法)を第一選択とするが、蘇生施行者が一人で人工呼吸と胸骨圧迫を行わねばならない場合や臍カテーテルをとる場合などには、2本指圧迫法(2本指法)に切り替える必要がある。
⑦人工呼吸と胸骨圧迫の組み合わせ
胸骨圧迫:人工呼吸=3:1
3回の胸骨圧迫と1回の人工呼吸を1サイクルとし、1サイクルは2秒で行う。1分間に胸骨圧迫90回、人工呼吸30回。30秒ごとに6秒間だけ心拍数をチェックし、心拍数60/分以上を保持できるまで胸骨圧迫を続ける。
胸骨圧迫中は体動のため正確なSpO2モニターが困難なので、心拍上昇が確認されるまで高濃度酸素投与で人工呼吸を施行してよい。
胸骨圧迫の術者が「イチ、ニ、サン、バッグ」と声を出してペースメーカーをする。
まず両拇指法とバッグ・マスク人工呼吸を組み合わせて受講生全員に実施してもらい、一巡したら、2本指法とバッグ・マスク人工呼吸を組み合わせて受講生全員に実施してもらう。できればメトロノームで120/分の音を聴かせながら実施する。
⑧薬物投与とその準備
心肺蘇生を必要とする新生児の99%の児は、有効な人工呼吸とこれに同期した十分な深さと速度で行われた胸骨圧迫により改善が得られるが、1000人の新生児中2人以下という低い確率であるが、30秒間の有効な人工呼吸と、それに続く30秒間の有効な人工呼吸とこれに同期した十分な深さと速度で行われた胸骨圧迫による蘇生を行っても、心拍数60未満/分が持続する新生児に対して薬物による蘇生が行われる。薬物投与時も、有効な人工呼吸とこれに同期した十分な深さと速度で行われた胸骨圧迫による蘇生は継続されていなくてはならない。
◆ アドレナリン(ボスミン?:0.1%アドレナリン):
・ ボスミン?は、「30秒間の有効な人工呼吸とこれに同期した十分な深さと速度で行われた胸骨圧迫による蘇生を行っても、心拍数60未満/分が持続する場合」に投与の適応となる。
・ 投与経路は静注(臍帯静脈が第一選択)が推奨され、投与量は10倍希釈として0.1~0.3 mL/kgで、急速静注で投与する。
・ ボスミン?は10倍希釈液(生理食塩水で希釈)を使用する。あらかじめ10mLのシリンジに生理食塩水で10倍に希釈した液10mLを準備し、それを1mLのシリンジに分け、すぐに使用できるようにしておく。
・ ボスミン?の気管内投与は静脈ライン確保までの投与法とする。投与量は静注法よりも高用量で、10倍希釈液(生理食塩水で希釈)として0.5~1.0 mL/kgである。10mLのシリンジに生理食塩水で10倍に希釈した液10mLのうち静注用に1mLとった残りの9mLを準備しておく。
・ 気管内投与の場合は、シリンジに栄養チューブを付けてETT内に投与(one shot)する方法と、シリンジでETTに直接投与後に生理食塩水でフラッシュする方法の2つがある。
・ 気管内投与後は気管での吸収のために、速やかに人工呼吸を開始する。
・ 投与後30秒ごとに心拍数をチェックし、心拍数が60未満/分であれば3~5分ごとに上記範囲量の10倍希釈ボスミン?を投与する。
循環血液増量剤
常位胎盤早期剥離、前置胎盤、臍帯からの出血、母児間輸血症候群、双胎間輸血症候群などの病歴があり、また病歴は不明でも明らかな循環血液量の減少によるショックのために十分な蘇生の効果が得られていないと考えられる場合には、循環血液増量剤の使用を考慮する。使用が推奨されている循環血液増量剤は生理食塩水で、その他、乳酸リンゲル液、また胎児期から貧血が考えられる場合にはO型Rh(-)の濃厚赤血球も使用可能である。
◆ 生理食塩水
・ ボスミン?の投与を行っても心拍が回復せず、循環血液量の不足が考えられる場合が投与の適応となる。
・ 投与する場合は10 mL/kgをゆっくりと静注する(5~10分くらいかけて)
・ 臍帯静脈カテーテルや抹消静脈ラインから投与する。
◆ 炭酸水素ナトリウム(メイロン?)
・ ボスミン?や生理食塩水の投与を行っても心拍の改善が得られない場合に、可能ならば血液ガス分析を行って、pCO2が高くないことと、代謝性アシドーシスがあることを確認した後に投与する。最近は副作用が強調されているので、どうしても他の処置で改善しない場合に限って投与する。
・ 浸透圧が高いため、蒸留水で2倍に希釈して、臍帯静脈カテーテルや抹消静脈ラインから投与する。
・ 投与する場合は希釈液にして2~4 mL/kgをゆっくりと静注する(1分間に1mL位の速度で)。
⑨気管挿管とその介助
新生児の気道の解剖のポイント:
・ 気道が大人に比べて絶対的に狭くて短いため、気道が容易に閉塞しやすい。 →気管挿管が難しい。
・ 声門が前上方(腹側かつ頭側)に位置していて喉頭展開しにくい。喉頭蓋も大きく垂れ下がっている。 →挿管時に頸部を過伸展してはいけない。肩枕を入れていた場合は、肩枕をとるか、頭の下に敷く。
・ 喉頭蓋ごと喉頭鏡で持ち上げる。喉頭鏡を「てこ」にして展開してはいけない(「釘抜きをするときのように手首をかえす」のではなくて「下顎を持ち上げる」ことを強調する)。
・ 舌が口腔の容積に占める割合が大きい。 →舌が原因となる気道閉塞もありうる。挿管時はきちんと舌をよけないと挿管できない。
・ 輪状軟骨が唯一の硬いリングとなっており、その上部の組織は脆弱であるため容易に閉塞しやすい。
気管挿管の要点:
・ 児の頭側に立つ(児に向かって、まっすぐに立つ)。
・ 児の体位を整える(児の足元に立った介助者が、肩を押さえながら、両手で児の頭を固定する)。
・ 新生児では後頭部が突出している場合が多く、外耳孔と肩の前面が床に平行に同じ高さになるように体位を整えると喉頭展開しやすくなる。
・ 肩枕ははずすか、頭の下にタオルを敷く。
・ バッグ・マスクで十分に換気を行う。
・ 必要であれば、喉頭展開前に咽頭~喉頭の吸引を行う。
・ 口元酸素を流しながら喉頭展開の処置に移る。
・ 直型ブレードを用いる。
・ 右口角から舌をよけながらブレードを挿入する。
・ 喉頭蓋が大きく垂れ下がっているのを確認する。
・ ブレードで喉頭蓋を押さえ込んで、被裂部(声門開口部)を確認する。
・ 喉頭展開時に喉頭が見えにくい場合には、介助者に輪状軟骨を外から軽く圧迫するか、右口角を外側に引っ張ってもらうと見えやすくなる場合がある。分泌物が貯留していて声門が見えにくいときは吸引する。
・ 児の体軸に斜め45度を保ったまま、平行にブレードを拳上させる。手首での「てこ」運動をしない(「釘抜き様に手首をかえす」のではなくて、「下顎を持ち上げる」ことを強調する)。
・ ETTを挿入する(滑りをよくして気道を傷つけないために、チューブの先端外周には、清潔な水で濡らしておくかキシロカインゼリーを塗布する)。
・ このときETTの声門マーカー(声帯指標線)が声門を通過するのを確認する。
・ ETTの固定では、ブルーラインが頭側に向くようにして、口角において“体重(kg)+6cm”の深さを固定の目安にする。
・ 1回の気管挿管の処置は20秒以内に行う。それよりも時間がかかった場合は、いったん処置を中止し、バッグ・マスクで換気を行った後、再度、気管挿管を行う。
・ 挿管が難しいときは、スタイレットを使用してもかまわない。その場合は、スタイレットの先端がETTの先から出ないようにし、ETTの口端でスタイレットを曲げて押し込みすぎるのを防ぎ、ETTの先から2~3cmのあたりを少し曲げてカーブをつける。
● 気管挿管後の位置確認の方法
初期の確認
・ 人工呼吸で胸の上がり方に左右差がない。
・ 呼吸音に左右差がない(左右前胸部、左右腋窩部、上腹部の5点でチェック)。
・ 上腹部で呼吸音が聞こえない。換気による胃の膨満はない。
・ 呼気時にチューブ内に水蒸気が認められる(内面がくもる)。
二次的な確認
・ 心拍数が増加する。
・ SpO2が改善する。
・ 筋緊張、体動、皮膚色の改善を認める。
・ 呼気CO2検知器(カプノメーターなど)により呼気CO2が検出される。心停止している場合は呼気中にCO2が検出されないので注意が必要である。
◆ まとめ
・ 過剰な酸素投与を避けるために、蘇生が必要な児ではパルスオキシメータの新生児用プローベを右手に装着しましょう。
・ 新生児の気道の解剖の特徴を理解しましょう。
・ 確実なバッグ・マスクは何より大切です。
・ 肩枕+ICクランプ法により気道を確保しやすい。
・ 自己膨張式バッグと流量膨張式バッグの利点・欠点を理解したうえで、その扱いに習熟しましょう。
・ 胸骨圧迫とバッグ・マスクはリズムが大切です。
・ 正期産では、まず空気で人工呼吸しましょう。
・ 低濃度酸素投与法と高濃度酸素投与法を区別して行いましょう。
・ 気管挿管では喉頭蓋を持ち上げること、「釘抜き様に手首をかえして、てこ様動作をしない」ことが大事です。
・ 気管挿管では介助者の役割が非常に重要です。特に児の頭部をしっかり固定してsniffing positionをとらせると、処置がスムーズに進みます。
・ 術者から求められたときに速やかにETTや吸引カテーテルを渡すことも大切です。
・ 気管挿管後のETT先端の位置確認も忘れずに行いましょう。
Advanced Life Support in Obsterics
12月23日~24日、亀田総合病院で実施されたALSOプロバイダーコースに参加して来ました。「ALSOって一体全体何なんだろう? 超有名な<wbr></wbr>亀田総合病院を一回見学したい」、という単純な動機で今回初め<wbr></wbr>て参加させていただきました。産科分野にもこんな素晴らしい教育コースのシステムがあることを初めて知ることができ<wbr></wbr>、非常に有意義な2日間でした。今回はテキストのプリントアウトや予習などを全くしないで手ぶらで参加してしまい、ALSO独特の語呂合わせもまだ暗記できてません。今度参加する機会があれば、テキストの予習、語呂合わせの暗記などをしっかりやった上で参加したいと思います。
当科の産婦人科医は、最近では2~3年ごとに構成員がほぼ全員総入れ替えになってますし、助産師の数もかなり増えて、ここ数年間でほぼ倍増しました。患者さんの数も数年前とは全く比べものにならないほど大幅に増えました。周産期医療は、多くの職種の者たちが一致協力して行う典型的なチーム医療の世界で、NCPRやALSOのようなエビデンスに基づいて確立された教育・トレーニングシステムを導入し、チーム構成員の全員に十分浸透させる必要があります。
それにしても、亀田総合病院(千葉県鴨川市)は非常に遠かったです。自家用車と鉄道とタクシーとを乗り継いで、片道に7時間以上!かかりました。長野県内でもALSOが広まってほしいものだと思いました。( 長野県でも開催するとしたら、最初は、インストラクター<wbr></wbr>の先生をお呼びして、信大かこども病院で開催していただ<wbr></wbr>くのが現実的かと思われます。将来的には、県内各基幹病院の持ち回りで開催できるようになったら理想的だと思います。)
****** 以下、ALSO-Japnのホームページより引用
Advanced Life Support in Obsterics(ALSO)とは、医師やその他の医療プロバイダーが、周産期救急に効果的に対処できる知識や能力を発展・維持するための教育コースである。またプライマリケア医だけでなく産婦人科の研修医を対象とした訓練でもある。1991年にACLSとATLSに基づいて、ウィスコンシン州の一般診療医師二人がALSOを考案した。1993年にコース権利はAmerican Academy of Family Physicians(AAFP-米国家庭医学会)によって認可され、現在全米ではほとんどの分娩施設において、分娩に関わる医療プロバイダーがALSOの受講を義務づけられている。またALSOコースは世界的に普及活動が行われており、2009年現在までに、50ヵ国以上でプロバイダーコースが開催され、10万人以上がALSOコースを完了した。
コースの教材は、シラバス(教科書)、レクチャー、実地訓練のためのマネキンを使用したワークショップである。筆記試験とマネキンによる実技試験(メガデリバリー)がコースに含まれている。ALSOはLDRにおける産科の救急的対処を強調しているが、その他に出産前のリスク評価、妊娠初期の性器出血、患者-医師関係、出産危機における両親のサポート、そして医療過誤リスクの減少といったテーマも含まれている。
プロバイダーコースは二日間。重要レクチャーは妊娠初期の合併症、難産、妊娠の内科的合併症、妊娠後期の性器出血、分娩後大出血、早産、前期破水、妊婦の蘇生法、そしてマタ二ティケアにおける安全性の8つ。少人数グループによる重要ワークショップは肩甲難産、胎位・胎向異常、鉗子と吸引、分娩中の胎児監視、重要な症例の5つ。オプショナル・ワークショップ:会陰縫合、帝王切開、超音波検査、出産危機における両親への対処、そして新生児蘇生の5つ。
プロバイダーコースを完了した際、参加者は5年間有効の認証を受けることができる。プロバイダーコースの教官になることを希望する場合、一日間のインストラクターコースを受講しなければならない。
日本では2008年に金沢大学の周生期医療専門医養成支援プログラムグループが、米国家庭医療学会から日本でのALSOセミナー運営権を取得し、2008年11月に金沢大学医学部にて初めてプロバイダーコース、インストラクターコースを開催した。日本国内、米国から23名が参加した。2009年4月1日より日本におけるALSO普及活動は、NPO法人周生期医療支援機構(本部:石川県金沢市)がALSO-Japan事業として運営をおこなっている。
(以上で引用終わり)
平成23年10月27日、「平成22年乳幼児身体発育調査の概況」が厚生労働省より発表されました。この調査は10年ごとに実施されてます。平成2年、平成12年、平成22年の身体発育値の推移を見ると、10年ごとに出生時平均体重および出生時平均身長が減少してます。
近年、Developmental Origins of Health and Diseases (DOHaD) という概念が注目されてます。1980年代にBarkerらがはじめに提唱したのでBarker説ともいわれます。世界中の多くの疫学的な検討がこの学説を支持しています。これは、「胎生期から乳幼児期に至る栄養環境が、成人期あるいは老年期における生活習慣病発症リスクに影響する」という考え方で、具体的には、「胎児期に低栄養環境におかれた個体が、出生後、過剰な栄養を投与された場合に、肥満・高血圧・2型糖尿病などのメタボリックシンドロームに罹患しやすくなる」というものです。
日本人の出生時平均体重が年々減少し続けているのは、日本人の胎児期の栄養状態が悪化していることを意味し、今後、日本人のメタボリックシンドロームの発症率が増加する危険性が極めて高いのでは?と懸念されています。
日本人の出生時平均体重が減少している主因は妊婦の栄養摂取不足によるとの説が有力です。我が国では、これまで長年にわたって、多くの産科施設において妊婦健診で厳格な体重管理を行ってきました。しかし、厳格に体重管理を行う根拠は必ずしも充分ではありません。今後は、妊娠中の栄養状態が児の将来の健康に影響を及ぼすことを、十分認識する必要があります。
妊娠中の体重増加の推奨値に関しては統一見解がなく、介入研究も極めて少なく、厳しい体重管理を行う根拠となるエビデンスは乏しく、慎重な姿勢が求められます。 厳格に体重管理を行う根拠は必ずしも充分ではないと認識し、個人差を考慮してゆるやかな指導を心がける必要があります。
日本人の食事摂取基準(2010年度版、厚生労働省)では、普通の体格の妊婦(非妊時BMI 18.5~25.0)が妊娠40週の時点で約3kgの単胎児を出産するのに必要な体重増加量は11kgとしています。
cystic hygroma
【Williams Obstetrics, 23ed Edition, p356より】
嚢胞性ヒグローマはリンパ管系の先天奇形で、液体に満たされた嚢胞が後頸部から生じる。嚢胞は大きく、多嚢胞性であることが多い。典型例では、頭部からのリンパ液が経静脈に流入するのに支障をきたし、リンパ液が頸部リンパ嚢胞内に蓄積される。嚢胞性ヒグローマでは胸管が肥大し、それが心臓の形成過程に影響を及ぼす可能性がある。心奇形のリスクが増大し、一部の症例では左心低形成や大動脈狭窄のような先天性心疾患を伴う。
嚢胞性ヒグローマ例の約60~70%は、Aneuoloidy(異数性)に随伴する。第2トリメスターに診断された嚢胞性ヒグローマの胎児では、Aneuoloidy(異数性)例の75%は45,X(Turner症候群)である(Johnson et al, 1993; Shulman et al, 1992)。嚢胞性ヒグローマが第1トリメスターに診断された場合にもっと多いAneuoloidy(異数性)は21トリソミーである(Malone et al, 2005)。このMaloneらの報告では、嚢胞性ヒグローマを伴った第1トリメスターの胎児がAneuoloidy(異数性)である可能性は、NTの増大した胎児の5倍であった。嚢胞性ヒグローマは単独で起こることもあり、遺伝性の症候群(Noonan症候群など)の一部として起こることもある(Lee et al, 2009)。
大きな嚢胞性ヒグローマは胎児水腫を伴うことが多く、自然消失することは非常にまれであり、予後は不良である。それに対し、小さな嚢胞性ヒグローマは自然消失する可能性があり、その場合は胎児の染色体検査や心エコー検査は正常で、予後も良好である( Shulman et al, 1992; Traufer et al, 1994)。
******
以下、嚢胞性ヒグローマのエコー写真
現在、母乳育児中の女性で、このまま母乳を飲ませ続けると、子どもに放射性物質を与えることになるのではないか?と不安に思っている方も少なくないと思います。
まず、母乳中の放射性物質の濃度についての、我が国における最近のデータを見てみましょう。厚生労働科学研究費補助金・成育疾患克服等次世代育成基盤研究事業「東日本大震災に伴う東京電力福島第一原子力発電所事故による母乳中の放射性物質濃度評価に関する調査研究」班が、母乳中の放射性物質濃度等の調査を行いました。
調査対象は8県(宮城県、山形県、福島県など)に在住する授乳婦、調査期間は平成23年5月18日~6月3日、提供された母乳中の放射性ヨウ素、セシウムの測定が行われました。今回の調査で、108人の母乳中の放射性物質濃度は101人が不検出で、福島県の方21人の中で7人の方の母乳から微量の放射性セシウムが検出されました。
経口摂取した放射性ヨウ素、セシウムは、平均としてそれぞれ4割、3割程度が母乳に移行すると言われています。今回、調査対象となった母乳の一部から放射性物質が検出されたのは、空気・水・食物中に存在する放射性物質が母体の体内に吸収され、それが母乳中に移行したためと考えられます。福島県の方の一部の母乳でだけ検出された理由は、これらの方の経口摂取または吸入摂取量が他の方よりも少し多かったからではないかと推定されます。
放射性ヨウ素は、尿などから排泄されるので、約7日で半分の量になります。放射性ヨウ素の新たな吸収がなければ、体内で時間と共に急速に減少し検出下限値以下になります。このため、以前の調査で検出された放射性ヨウ素は、今回の調査では検出されなかったと考えられます。
放射性セシウムの物理学的半減期はセシウム134で2年、セシウム137で30年、有効半減期は成人で80~100日、小児で40~50日とされています。このため数ヶ月程度の期間では減衰が少ないこと、および食品等からの少量の摂取がありうることから、放射性ヨウ素が検出されなくなってからも、放射性セシウムが検出される検体があると考えられます。
今回の調査で検出された放射性セシウムは高い人でセシウム134が6.4 ベクレル/kg、セシウム137が6.7 ベクレル/kgでした。母乳中の放射性セシウム134,137の濃度がそれぞれ10ベクレル/kgの母乳を毎日800g、1年にわたって摂取した場合を考えると、セシウム134,137の摂取量はそれぞれ2920ベクレルとなります。それによる線量の増加は約0.14ミリシーベルトと推計されます。放射性セシウムの飲食物としての摂取限度値は実効線量として5ミリシーベルト/年とされていますので、その線量の30分の1以下ということになります。
母乳には、栄養面をはじめとして感染防御など人工栄養には見られない様々な利点があります。今回の調査で放射性セシウムが母乳中に検出された方についても、引き続き、普段通りの生活を行っていただいて問題ないと考えます。
母乳中に放射性物質が検出されなかった他の地域の方については、当然授乳に問題はありません。
私たちが生活している空間や土壌には天然自然の放射線や放射性物質がたくさんありますが、今回は原発事故災害による放射性物質が余分に身体に入ってしまったのですから、同じ放射性物質であっても、本当に残念に思う気持ちは当然のことです。でも、今回の基準値以下の放射線量は、母乳を飲んでいるお子さんの健康に悪影響を及ぼす放射線量よりもはるかに少量です。そして、このわずかな放射線量よりも、母乳に含まれる様々な子どもの成長に役立つ成分のほうが、はるかにお子さんの成長にとって重要であることをご理解いただければと思います。
******
なお、福島県では、7月から妊婦や子どもを優先し、全県民の内部被ばく検査を開始しましたが、これまで三千人余を検査し、「問題のあるケースはない」(地域医療課)とのことです。1986年の旧ソ連チェルノブイリ原発事故では、事故後数年後から子どもの甲状腺癌が増えたとの報告もあります。福島県では今後数十年にわたって調査を続ける方針とのことです。
syphilis
****** 産婦人科ガイドライン。婦人科外来編2011
CQ108 梅毒の診断と治療は?
Answer
1. STS法定性と、TPHA法定性またはFTA-ABS法定性の併用により診断を確定させ、病期診断を行う。(A)
2. 治療は、合成経口ペニシリン(AMPC、ABPC)を第一選択とし、第1期では2~4週間、第2期では4~8週間、第3期では8~12週間内服とする。(A) 表1
3. 治癒効果はSTS法定量によって判定する。(A)
4. 梅毒の診断が確定した場合、診断した医師は感染症法に基づき届け出を行う。(A)
------
(表1)第一選択薬
------
(表2)STS法とTPHA法の解釈
------
(表3)ペニシリン系にアレルギーがある場合の治療薬(進行期別投与期間は第1選択薬に同じ)
****** 産婦人科診療ガイドライン・産科編2011
CQ613 妊娠中の梅毒スクリーニングと感染例の取り扱いは?
Answer
1. 妊娠初期に、カルジオリピンを抗原とする非特異的検査[STS: serologocal test for syphilis](RPRカードテスト、凝集法、ガラス板法のうち1法)と、T. pallidumを抗原とする特異的検査(TPHA法、FTA-ABS法のうち1法)を組み合わせてスクリーニングを行う。(A)
2. 感染があったと判断された症例は、病期診断を行い、治療不要と考えられる陳旧性梅毒以外の症例には、速やかにペニシンリンを中心とした抗菌薬投与を行う。(A)
3. 治療を行った妊婦では、妊娠中期に超音波検査(胎児肝腫大、胎児腹水、胎児水腫、胎盤の肥厚の有無)を行う。(C)
4. 治療を行った妊婦では、妊娠28~32週と分娩時にSTS法を行い、治療効果を判定する。(C)
5. 感染症法上5類感染症全数把握疾患であり、表2に従い診断後7日以内に所轄の保健所に届出る。(A)
6. 感染妊婦からの出生児には表2に従い、先天梅毒の検査を行う。(A)
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(表1)梅毒血清反応検査による評価と反応(無症候の場合)
------
(表2)感染症法(2003年11月施行)における届け出基準(一部抜粋改変)
○ 患者(確定例)(顕性梅毒)
症状や所見から梅毒が疑われ、かつ、次の検査方法により、梅毒患者と診断した場合。
○ 無症状病原体保有者(無症候梅毒)
臨床的特徴を呈していないが、次の検査方法により、抗体(カルジオリピンを抗原とする検査では16倍以上またはそれに相当する抗体価)を保有する者で無症状病原体保有者と見なされる者(陳旧性梅毒と見なされる者を除く。)を診断した場合。
○ 先天梅毒は、下記の5つのうちいずれかを満たすもの。
ア. 母体の血性抗体価に比して、児の血性抗体価が著しく高い場合
イ. 血性抗体価が移行抗体の推移から予想される値を高く超えて持続する場合
ウ. TPHA IgM抗体陽性
エ. 早期先天梅毒の症状を呈する場合
オ. 晩期先天梅毒の症状を呈する場合
○ 病型は、以下の4つに分類して報告する。
1) 早期顕性梅毒(ア.Ⅰ期 イ.Ⅱ期)
2) 晩期顕性梅毒
3) 先天梅毒
4) 無症候(無症状病原体保有者)
******
梅毒はスピロヘータの一種である梅毒トレポネーマ(Treponema pallidum: TP)による感染症である。感染経路は接触感染と子宮内感染に大別され、前者を後天梅毒、後者を先天梅毒と呼ぶ。後天梅毒の大部分は性的行為によるが、まれに医療従事者の感染や輸血感染などがある。妊娠中母体が梅毒に罹患したものを妊婦梅毒という。妊婦梅毒では、TPが胎児に経胎盤感染して、流産、死産、先天梅毒などを生じる。
******
皮膚や粘膜に病変が生じる顕症梅毒と症状が顕わにならない潜伏梅毒とを交互に繰り返しながら進行する。病期は第1期から第4期までに分けられ、第2期までを早期梅毒、第3期以降を晩期梅毒と呼ぶ。早期梅毒は感染力が強いが、晩期梅毒では感染性は低い。ほとんどの感染者が顕症梅毒を発症するが、潜伏感染で終始する症例も少なからず存在する。
● 第1期
感染後3 週間の第1潜伏期を経て、菌の侵入局所(通常は外陰部)に1~2cmまでの硬い丘疹(初期硬結)ができる。これは次第に潰瘍化し、硬性下疳(げかん)となる。硬性下疳の表面には多量のTPが存在し、検鏡にて診断可能である。初期硬結発症の数日後に所属リンパ節の硬い腫脹が認められ、これを無痛性横痃(おうげん)と呼ぶ。いずれも痛みなどの自覚症状を欠き、気付かれないことも多い。これらの皮疹は3週間程度で自然消退し、2~6週間の第2潜伏期に入る。
血清梅毒反応(STS)は感染後5~6週目に陽性となる。
● 第2期
感染後3か月~3年の間の期間をいう。第1期に所属リンパ節で増殖したTPが血行性に全身に播種されると、自覚症状を伴わない多彩な皮疹(第2期疹)を生じる。梅毒抗体価はこの時期に最高値を示し以後漸減する。第2期疹は2~3週のうちに消退して、多発性リンパ節腫脹以外に症状をみない潜伏梅毒の状態に至るが、その後2~3 年にわたって数か月おきに皮疹を繰り返すようになる。皮疹は早期では全身に対称性に生じるが、次第に限局して非対称性となる。
[多彩な皮疹・丘疹]
・ 梅毒性バラ疹
微熱や全身倦怠感とともに、5mm~2cmまでの淡い紅斑が全身に多発、掌蹠で顕著であり、自覚症状はない。数日で消退する。
・ 丘疹性梅毒疹
バラ疹の2~3週後に、体幹を中心にして5mm~1cm程度の鮮紅色の丘疹が多発する。自覚症状はない。
・ 梅毒性乾癬
乾癬に類似した皮疹を掌蹠に限局して形成、とくに診断的価値が高い。
・ 扁平コンジローマ
肛門周囲、外陰部、液窩、乳房下部などにみられる湿潤した扁平隆起性丘疹。多量のTPが存在し感染性が高い。
扁平コンジローマ (John L. Bezzant, M.D.)
・ 梅毒性アンギーナ
口腔に生じた扁桃炎を伴う感染性の高い粘膜病変。
Anja Ulmer, M.D., and Gerhard Fierlbeck, M.D.: N Engl J Med 2002; 347:1677
・ 梅毒性脱毛
感染6 か月ごろ、直径5mm~2cm の不完全脱毛斑が多発し、徐々に全頭に拡大する。円形脱毛症との鑑別が重要。
・ 梅毒性白斑
完全に色素の抜けきれていない境界不明瞭な白斑。
・ 梅毒性爪囲炎、爪炎
爪に白斑や不透明化が生じる。爪郭の肥厚も起こる。
● 第3期
感染後3~10年までの時期をさす。この時期の菌の検出は困難である。
・ 結節性梅毒
第3期早期に、数cm大までの赤銅色の結節が顔面に多発し、数か月で瘢痕治癒する。
・ ゴム腫梅毒
皮下結節が少数生じ、軟化して破れて潰瘍を形成する。
・ 心血管梅毒
大動脈炎・大動脈瘤など心血管系にも影響を及ぼす。
● 第4期
感染から10 年以上経過した状態。皮疹はみられなくなり、中枢神経系や眼組織が侵される。脊髄癆(ろう)、進行性麻痺、認知症などを示すようになり、最終的には死に至る。神経梅毒とも呼ばれる。
※ 現在では第3期・第4期梅毒はほとんどみられない。
昔から産科の管理方法には施設ごとにいろいろなバリエーションがあり、他の施設でどんな産科管理をしているのかは全くわかりませんでした。2008年より産婦人科診療ガイドライン・産科編ができて、3年ごとに改訂されて、産科診療の統一基準がだんだん整備されつつあります。何の基準もなかった時代であれば、それぞれの施設でオレ流にやってればよかったんですが、ガイドラインが制定された現在においては、日本で産科診療に従事する者は、最低限のルールとしてこのガイドラインの最新版を順守する必要があります。
産科医療の現場では、正常の妊娠・分娩経過だと思っていたのに、突然、予期せず異常な経過をたどり始めて、患者さんの期待に反する結果となることは日常茶飯事です。もしも、診療内容に納得が得られなくて医療裁判となってしまった場合は、医療現場でその時点における『標準的医療』が実施されたかどうか?が厳しく問われます。ガイドライン制定以前<wbr></wbr>は、標準的医療が何かを、個々の事例ごとに、医療の専門家で<wbr></wbr>はない原告弁護士や裁判官が決めてましたが、ガイドライン制定以後<wbr></wbr>は、その時点における最新版のガイドラインに記載された内容が標準的医療とみなされます。<wbr></wbr>
従って、現時点では、日本のどの産科施設でも、産婦人科診療ガイドライン・産科編2011に完全準拠する必要があります。訴訟対策として自分の身を守るためにも、日々、最新のガイドラインを反復熟読吟味し、隅から隅まで完全にマスターする必要があると考えています。
とは言っても、このガイドラインもたかだか339ページですから、まだ記載されてない重要事項も非常に多いです。今後、3年ごとに改訂され、だんだん内容が充実していくものと考えられます。