ある産婦人科医のひとりごと

産婦人科医療のあれこれ。日記など。

日産婦学会群馬地方部会・日産婦医会群馬県支部の声明

2006年04月14日 | 大野病院事件

http://med.wind.ne.jp/gunmasaog/index.html

平成18年4月10日

日産婦日産医群馬県支部 会員各位

             日産婦学会群馬地方部会長  峯 岸   敬
             日産婦医会群馬県支部長   佐 藤   仁


         産婦人科医の不当逮捕に抗議する
         -異状死のあいまいな定義こそ問題-


謹啓
 時下、先生にはご健勝のこととご拝察申し上げます。日頃より支部の業務にご協力賜り厚く御礼申し上げます。
 さて、今年2月に産婦人科医が業務上過失致死と医師法第21条(異状死等の届出義務)違反の容疑で逮捕されました。前置胎盤で帝王切開を受けた妊婦さんが出血性ショックで死亡した事例で、異状死として警察へ届け出なかったことが逮捕の理由になっています。
 医師法第21条とは「医師は、死体又は妊娠4月以上の死産児を検案して異状があると認めたときは、24時間以内に所轄警察署に届け出なければならない。」という条文です。明治時代の医師法をそのまま踏襲しており、犯罪の発見と公安の維持が当初の目的でした。実は現在第21条について、「手術や分娩に関連した偶発的な死を異状死と捉えるか否か」、日本法医学会と日本外科学会で大きな解釈の違いがあります。
 日本法医学会は「過失の有無にかかわらず」届け出るとガイドラインに定めています。これに対して外科学会は「重大な医療過誤があったか、強く疑われるとき」と届け出に条件を設定しています。二つの見解が異なっている現状では、届け出れば業務上過失致死罪に問われ、届け出なければ第21条違反で逮捕されることになります。結局異状死の定義があいまいなため、司法の判断で過失認定されることが問題といえるでしょう。

 3月31日の支部役員会で逮捕事件が議題になりました。その結果役員会は、不当逮捕に関する抗議の声明を各方面に出すとともに、下記のように対応することを決めました。

1.診療に関連する死亡事故や4月以上の死産の届け出
 「過失の有無にかかわらず届け出る」ことは、法医学会の解釈を支持することになり産婦人科医として到底承服できません。3月24日に日本医師会は、異状死を巡っては医療事故と過誤を厳密に分けるべきという見解を打ち出しました。支部も、異状死の基準が明確になるまで従来通りと考えて、犯罪性のない死亡事故と死産を届け出る必要はないと判断致します。ただ明らかな過誤による死亡例は所轄警察署に届け出ることになります。

2.加藤克彦医師に対する支援
 加藤医師は保釈されましたが、保釈金500万円が課せられました。過失の有無だけでなく、裁判を通じて異状死の定義を明確にするために長期の係争が予測されます。支部は支援の意味で、「加藤克彦先生を支える会」に義援金(20万円)を拠出することになりました。また支部会員にも別添の「募金趣意書」をご覧の上、ご協力をお願いする次第です。

敬具                         


横浜市医師会・横浜市産婦人科医会の抗議声明

2006年04月11日 | 大野病院事件

http://www.yokohama.kanagawa.med.or.jp/

福島県立大野病院産婦人科医不当逮捕に対する抗議声明文

 産婦人科医の減少に伴い、出産する場所が地域から失われつつある現状で、なおかつ医師会並びに産婦人科医会としては、地域の皆様の出産を安全に行うために努力しているところであります。しかし、地域医療に真摯に取り組む医師の関わる母体死亡の事案について、刑事事件として逮捕、起訴される事件が起きました。この事案に関し、死亡なさった方がおられることは誠に遺憾なことであり、心より哀悼の意を表します。しかし、業務上過失致死、ならびに異状死の届出義務違反という刑事事件として扱うことに対し、横浜市医師会並びに横浜市産婦人科医会として抗議いたします。

 今回の事案は福島県における産科医が不足している地域で、一人で24時間、365日中核病院の役割を支えていた医師の医療行為の過程において発生しました。医療行為を行わなかった場合はかなりの確率で母児ともに死亡したであろうと思われる、前置胎盤と、予測不可能とされる子宮後壁付着の癒着胎盤の症例に行った帝王切開において発生した死亡です。

 臨床に携わる産科医であれば、それまで妊娠、分娩の経過に異常がないにもかかわらず、数分後には命に関わる予見できない大出血がおこることを誰もが経験しています。出産時の出血の怖さは産科医が一番よく知っているため、ほとんどの医師は出産において、どのように経過がよくても一瞬たりとも気を抜くことができません。その努力にもかかわらず、予見できず、防ぐこともできない出血死はあり得ます。そのような出血に遭遇したとき、様々な努力も虚しく死亡し、その結果として刑事訴追を受けるとしたら、産科医療そのものが成り立ちません。

 また、異状死の届出義務違反についても、最高裁判例があるものの、何が異状死に当たるのかは厚労省から通達はおろか、内部でその検討すらなされていない現状では、今回の事例を、その判決文の内容のみでそれに当てはめるのは妥当でないと考えます。

 こうした結果に対して一人の人間にすべての責任があるかのような今回の刑事訴追は、恐怖心による保身のための萎縮した医療を促すことはあっても、事案を通して本来なすべき他の人たちへの医療レベルの向上に資することは無いと考えます。また、今回の刑事訴追は出産に関わる全国の産科医を恐怖のどん底に突き落とすものであります。地域での出産を守る為に孤軍奮闘している医師は今回の事案を通して、刑事事件へのおそれから逃れるために出産に関わることを辞めるかも知れません。それゆえ、刑事罰によって結果責任を追及するという今回の刑事訴追を認めることはできません。今回の刑事訴追に強く抗議いたします。

 最後に、今回お亡くなりになった方、およびご遺族の方々の悲しみを考えるとき、産科医療に携わる医師として、とてもつらい気持ちになります。無事この世に生を受けた赤ちゃんの成長を見守ることなく旅立たれた方のご冥福を心よりお祈りするとともに、ご家族の悲しみが一日も早く癒され心に平安が訪れることを、心よりお祈り申し上げます。

平成18年4月6日
 横浜市医師会会長  今井 三男
 横浜市産婦人科医会会長  東條 龍太郎

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北海道産婦人科医会・北海道産科婦人科学会の声明
「Hokkaido.pdf」をダウンロード


千葉県産科婦人科医会の声明

2006年04月03日 | 大野病院事件

http://www.chiba-og.jp/osirase.asp

千葉県産科婦人科医会のホームページより転載

福島県立病院産婦人科医師逮捕に対する千葉県産婦人科医会の対応について

すでに、会員の皆さんはご存知のことと思いますが、本年2月18日に、帝王切開術後の妊婦死亡により、手術を担当した福島県立病院の産婦人科医が逮捕される、という事件が発生しました。詳細については、不明な点も少なくありません。しかし、千葉県産婦人科医会では、現時点で司法当局から明らかにされている逮捕、起訴の理由は、明らかに不当であることを確認し、関係団体とともに抗議活動および逮捕された医師への支援募金活動を行うことを理事会において決定しました。会員の皆様の協力、支援をお願いいたします。

   声明

 千葉県産科婦人科医会会長   
 八田 賢明

 はじめに、今回亡くなられた患者様とそのご遺族に対し心より哀悼の意を表したいと存じます。

 お産や手術に際して、担当した患者様が亡くなられる事は、ご家族と同様に、周産期医療に携わるものにとっても大変残念で悲しい事であり、医療の限界を痛感させられるものです。

 平成18年2月18日、帝王切開中の大量出血により患者様が亡くなられた件で、福島県立大野病院産婦人科医師が業務上過失致死ならびに医師法違反の容疑で逮捕され、同年3月10日起訴されました。
 私たちは、医療上の不幸な転帰に関して遺族への保障制度がない我が国では、今回のような事例が民事事件として取り扱われることもやむを得ないかと考えます。
 しかし、診療にあたった医師個人の逮捕、勾留、起訴という司法当局の対応については、座視することはできず、強く抗議の意志を発せざるを得ません。 

1、業務上過失致死容疑について

 ①癒着胎盤の予見について
 現代の医療水準において癒着胎盤を事前に診断することは極めて困難であると考えます。
 ②多量出血に対する対応
 医療には100%安全で、確実であるということはありません。それゆえ最善を尽くし診療に当たったとしても、ある一定の頻度で不幸な出来事が起こることを避けることはできません。同様な事例は、産科医が1人しかいない施設のみならず、複数の産婦人科医がおり、輸血が準備できる高次周産期医療施設でも起こりうると考えます。
 以上より司法当局の判断には、医学的な見地との間に隔たりがあり、この判断に基づく逮捕・起訴は誤りであると私たちは考えます。 

2、医師法違反-「異状死」の解釈およびその届出について

   臨床の立場から、「異状死」とは診療行為の合併症としては合理的に説明できないものと考えます。本件では出血による出血性ショックという報告書の結論もでており、異状死の定義には該当しないと判断します。届出については、県立大野病院の「医療事故防止のための安全管理マニュアル」に従い、 病院長へ報告ならびに事故報告もなされおり、医師個人の届出義務違反にも該当しないと考えます。
 また、報道されるように今回の医師の逮捕・勾留・起訴の発端が「事故報告書」であったとすると、私たちが診療行為の中で起こったインシデント、アクシデントを反省し、再発防止に努めようとする自浄作用を妨害し、今後の医療の安全性の向上を妨げるものであると考えます。 

3、逮捕・勾留について

  平成17年3月に県立大野病院事故調査委員会が事故調査を行い、報告書を作成し、行政処分が行われ、同年4月には県警が提査・証拠書類の押収を行ったと報道されています。さらに当該医師は、病院での処分後も当該病院にて産婦人科医師として診療に従事していたのとことです。これらの情報が正しいとすると「証拠隠滅及び逃亡の恐れがある」として逮捕・勾留が行われことは県警・検察の強権的暴挙と言わざるを得ません。
 
 加藤医師に対する逮捕、勾留、起訴については、すでに日本産科婦人科学会、日本産婦人科医会の共同声明や産婦人科医会各県支部およびさまざまな関係団体から多くの抗議声明がなされています。しかし、それ以上に産婦人科医だけでなく実際に臨床に関わる多くの医師が個人として、抗議、危惧の声をあげています。これは、このような不幸な事例に対して個人の医師の逮捕、勾留、起訴という形での対応しか取れない社会では、今後個々の医療者が、医療を必要とする人々に良心的な医療を提供できない状況が起こりうることが容易に想像できるからに他なりません。
 
 自発的な意志による加藤医師支援募金署名活動に賛意を示し、この逮捕・勾留・起訴が不当であると判断し、強く抗議します。
 
 1) 医療事象に対する第三者による調査機関の早期設立、
 2) 医師法21条の「異状死」の解釈の統一化、
 3) 医療者に対する「逮捕」・「勾留」の適応についての明確化
 4) 「事故報告書」の適応外使用の禁止、


青森県臨床産婦人科医会の抗議声明

2006年04月01日 | 大野病院事件

http://www.med.hirosaki-u.ac.jp/~obste/rinsanpu.html

抗議声明

平成18年3月28日

日本医師会長
日本産婦人科医会長
日本産科婦人科学会長
東北各県医師会長
東北各県産婦人科医会支部長
東北各県産科婦人科地方部会会長
福島地方裁判所長

日本産科婦人科学会青森地方部会会長 水沼英樹
日本産婦人科医会青森県支部支部長  齋藤 勝

 

 はじめに、平成16年12月、福島県大野病院にて帝王切開を受けられ、お亡くなりになられた患者様とご遺族に対し、心よりの哀悼の意を捧げます。お産に際して、担当した患者様が亡くなられる事は、ご家族と同様に、私たち分娩に携わるものにとっても大変残念で悲しい事であり、現代産科医療の限界を痛感させられるものです。

 平成18年2月18日、この帝王切開術を執刀した加藤克彦医師が業務上過失致死および医師法違反の容疑で逮捕、その後起訴されました。本声明は、この逮捕・起訴につき、日本産科婦人科学会・日本産婦人科医会の共同抗議声明を強く支持するものです。

 今回の事件に関し福島県では事故調査報告書による処分も終了し、加藤医師はその後も献身的に唯一の産婦人科医としての責務を全うし続けておりました。したがって、「逃亡のおそれ」、「証拠隠滅のおそれ」があったとする福島県警の逮捕および同検察の起訴理由は、まったく理解出来ません。さらに、医師法違反の容疑とされた異状死の届出義務違反に関しましても、異状死の概念や定義が曖昧な状況下にあって、これを理由にするには公平性を著しく欠いていると考えます。そもそも、今回のように、出血の原因が医学的に手術前診断の困難な癒着胎盤にあることが特定でき、医療行為の相当する過失によるものでは無いことが明らかな場合、届出義務は生じないものと考えます。

 さらに、患者様が、大野病院での分娩や手術を希望同意された上で、手術を施行していること、子宮摘出の希望が当初より無かったこと、当該地区での輸血供給の現状を考慮に入れれば、加藤医師の判断は、きわめて妥当であり、またその実施も医師の裁量権の範疇であり、業務上過失致死容疑には該当しないものと考えます。また、今回の事例はきわめて頻度の少ない稀な症例でした。稀な疾患の担当医として全力を尽くした医師個人が、その結果が悪かったために事故の責任者として刑事罰を受けるようなことになれば、医師は萎縮せざるを得なくなり、その結果、我が国の医療そのものが衰退して行く危険性すら懸念されます。

 分娩周辺期の母児が死に至る事象は、我が国の周産期に関わる産科医・小児科医の献身的な努力により、世界的トップレベルにまで改善してきました、しかし、それでも完全に無くすることが不可能であるのが現状です。厚生労働省による2002年の我が国での妊産婦死亡の直接的産科死亡数の内訳では、分娩後出血14例、前置胎盤および常位胎盤早期剥離11例となっています。医療資源が充実し、出生数あたりの産科医師数が東北地方よりも充実している大都市圏であっても、未だ妊差婦死亡はゼロになっておりません。すなわち、医師の単数勤務や複数勤務、医師の偏在等の有無にかかわらず、ある一定の確率で不可避かつ不幸な事態は起こり得ることを示しています。今回の事件において加藤克彦医師は現場に臨んだ医師としてできる限りの医療を行ったと私どもは判断しています。稀な疾患の担当医として表に立った加藤医師が、事故の責任者として排除されるような刑事罰は、医療事故の再発防止上も全く意味がありません。私どもは今回の福島県警並びに同検察のとられた行為に対し強く抗議するとともに、加藤医師が速やかに職に復されることを強く望みます。加藤医師の早期復職によって、このような医療中の悲しい結果について、より詳しい御遺族に対しての説明と対応も可能になると思われます。


岩手県医師会、広島県医師会の抗議声明

2006年03月23日 | 大野病院事件

岩手県医師会会長  石川 育成
     日本産科婦人科学会岩手地方会
              会長  杉山 徹
     岩手県産婦人科医会
              会長  小林 高

抗議声明

 はじめに、平成16年12月、福島県大野病院にて帝王切開を受けられ、お亡くなりになられた方とご遺族に対し、心よりの哀悼の意を捧げます。
 平成18年2月18日、この帝王切開術を執刀した加藤克彦医師が業務上過失致死および医師法違反の容疑で逮捕、その後起訴されました。すでに福島県では事故調査を行い、報告書が作成されたうえで処分も終了し、加藤医師はその後も大野病院唯一の産婦人科医として献身的に 勤務し続けており、「逃亡のおそれ」、「証拠隠滅のおそれ」とする福島県警の今回の逮捕・起訴理由は到底我々には理解出来ないものであります。また、医師法違反の容疑は、異状死を警察に届出なかったこととされますが、そもそも異状死の概念や定義が曖昧な上に、今回は医学的に予測困難な癒着胎盤が原因であり、医療行為の過失がすべての原因とは考えられず、届出義務は生じないものと判断します。岩手県医師会、日本産科婦人科学会岩手地方会、岩手県産婦人科医会は、今回の逮捕・起訴が不当と判断し、また、司法の介入に正当性がないことに対して強く抗議いたします。
 業務上過失致死容疑は、癒着した胎盤を無理に剥離して大量出血をきたし、死に至らしめたということですが、癒着胎盤はすべて予見できるわけではなく、臨床の場で予見困難な場合は用手的に剥離を試みることが通常に行なわれます。医学的な見地からは胎盤の一部が剥離困難で強度な癒着があった場合、剥離を中止すべきか、剥離を進めるべきかを判断し、その結果を予見することは非常に困難であります。さらに、大野病院の置かれた環境、輸血供給の現状での加藤医師の判断は妥当な範囲内であったと考えられます。すなわち、医師の裁量権の範疇であり、業務上過失致死容疑には該当しないものと考えます。
 我々医師は日常の診療において、日夜いかなる状況に於いても最善の医療を提供することを目標としております。しかし、医学の発展があっても、分娩周辺期の不幸な事象を完全にゼロにすることはできず、残念ながら、医療ミスとは別に今回の件のようにある一定の確率で不可避かつ不幸な事態は起こり得ます。どれだけ努力しても、結果論で責任を問われ、逮捕、起訴されるようであれば、もはや産婦人科医は危険性を伴うであろう分娩に対し、積極的な介助を行うことは不可能となり、これは患者さんにとっても不幸なことだろうと考えます。さらに、現実的には、産婦人科を志す医師の減少に拍車がかかり、地域医療への影響も大きく、過疎地域においては分娩ができない事態へと発展すると推察できます。 
 繰り返しになりますが、今回の事件において加藤克彦医師は最善を尽くしたと考えます。不幸な結果は真摯に受け止めなければなりませんが、最善を尽くした医療結果に対して刑事罰を課さねばならない過失があるとは到底思えません。警察や司法に適切な医学的考察に基づく再考をしていただくよう要請致します。
 以上、私たちはここに加藤克彦医師を支援するとともに、逮捕、起訴に対して強く抗議するものであります。

******* 広島県医師会の声明文

福島県立大野病院産婦人科医逮捕・起訴について

 声明文

 まずは、今回お亡くなりになった患者様とそのご家族の皆様には衷心より哀悼の意を表します。

 去る2004年12月福島県立大野病院産婦人科医師が行った帝王切開術において癒着胎盤のため大量出血を来たし、その結果児は救命できましたが、残念ながら必死の努力にも拘わらず母親は死亡しました。これに関連して執刀医が業務上過失致死および医師法違反で2006年2月18日逮捕され3月10日には起訴されました。
 大量出血の原因となった癒着胎盤という疾患は、約1万の妊娠にひとりというまれなもので、また術前診断も困難で、かつ産科疾患の中でも治療が特に難しいとされています。母体の死亡という非常に残念な最悪の結果となりましたことに対しましては、医学の無力さと限界を感ぜざるを得ません。そして、今回のこの不幸な結果は、特に治療上過失とされるような行為があったという訳ではないと確信しております。もちろん医学的には反省や再発防止を含んだ議論があるのは認めますが、直ちに逮捕されなければならない事例とは思えません。また、起訴理由になっている異状死の報告義務違反についても、執刀医である加藤克彦医師は患者の死亡が確認されたすぐ後に上司である院長に報告しており、院長はその時点では「医療過誤による異状死とはいえず、報告の義務はない」と判断されていることより、少なくとも加藤医師については異状死報告義務違反には当たらないと考えます。
 さらに、2004年12月に発生したこの事例について1年2ヶ月も経ってからの逮捕の理由のひとつが「証拠隠滅のおそれ」とのことでありますが、すでに2005年4月には証拠物件であるカルテ等は差し押さえなどの処分もなされていますし、その後も同医師は大野病院において産婦人科診療に当たっておられますので、上記のような理由で逮捕する根拠は薄弱というほかなく、警察権の過剰行使といっていいのではないかと思います。
 医師が扱わねばならない多くの疾患の中には、時に予見できない合併症や予見できたとしても、それをはるかに凌駕するような合併症が起こることは避けがたいことであります。結果論でああすればよかった、こうすれば良かったというのは、神ならぬ身の一般臨床医にとってあまりに酷な要求であり、「判断ミスは許さない」、「結果が悪ければ逮捕」というのではわれわれ医師は今後前向きに治療をすすめることができなくなり、ひいては医療レベルの低下を来たし、結局は患者さんへの不利益につながるものと思います。
 以上に述べた理由から、このたびの逮捕はリスクのある難病に対して真摯に診療をおこなう医師たちのやる気をそぐような処遇であり、いわば不当逮捕とも言えるのではないかと考えており、まったく容認することはできません。私たち広島県医師会常任理事会は福島地検および福島県警が加藤医師に対する起訴をただちに取り下げることを強く要求するものであります。私たちは今後、こういった事例が二度と起こらぬように、中立的な立場で適正な医学的根拠に基づいた判断の上で事の是非を判定できるようなシステムが構築されることを強く望むとともに、それに向かって努力していきたいと思っています。

平成18年3月20日広島県医師会常任理事会


福島県立大野病院事件に対する日本医師会の考え

2006年03月23日 | 大野病院事件

日本医師会ホームページ、日医白クマ通信(3月23日)

福島県立大野病院事件で日医の考えを説明

 福島県立大野病院で帝王切開手術の執刀(平成16年12月)を行った産婦人科の医師が、医師法第21条違反と業務上過失致死の疑いで逮捕・起訴された問題で、櫻井秀也・寺岡暉両副会長ならびに藤村伸常任理事は、3月22日、記者会見を行い、この問題に対する日医の考えを説明した。

 記者会見では、まず、藤村常任理事が、a.関係各所への事実関係の確認等を行うとともに、弁護士を現地へ派遣して調査を行ったこと、b.「医師法第21条の問題」は全会員に関連のあるものとして適確な対応が必要であるが、詳細が不明なため、慎重に対応することを確認したこと―など、これまでの日医の対応を報告。

 そのうえで、櫻井副会長が、今回の件に関する問題点として、次の3点(「医師が逮捕されてしまったこと」「逮捕の容疑として、業務上過失致死が挙げられていること」「医師法第21条に規定されている異状死の届出義務違反に問われていること」)を指摘するとともに、診療中の患者さんが医療上の事故によって死亡した疑いのあるような場合には、第三者機関に届け出ることのできる仕組みを構築することを求めた。

 今後の対応については、寺岡副会長が、「当面の対応としては、『診療行為に関連した死亡の調査分析モデル事業』を全国規模に広げ、事例届出の窓口の一元化を図るべき」としたほか、藤村常任理事は、会内に委員会を立ち上げ、医師法第21条の廃止の是非を含めた検討を4月にも開始することを明らかにした。


福岡県産婦人科医会・日本産科婦人科学会福岡地方部会の抗議声明

2006年03月15日 | 大野病院事件
        抗議声明
福島県立大野病院産婦人科医師逮捕に抗議する

 はじめに、今回、この医療事故で亡くなられた患者様ならびにご遺族の方々に対し、心より哀悼の意を表します。
      
 平成18年2月18日福島県立大野病院の産婦人科医加藤克彦先生が逮捕・勾留され、3月10日に起訴されました。容疑は、平成16年12月前置胎盤で帝王切開術中、出血多量で死亡した件と、医師法21条による異状死体等の届出を警察にしなかったためとのことです。
  
[業務上過失致死容疑について]
 癒着胎盤を『予見できた』との当局の判断は、産科の専門医の考えに照らしてみて妥当とは思えません。何故、あえて刑事罰が科せられるか理由が見当たりません。医療上不可避なことまで刑事責任を問われるなら、医師は医療行為そのものが出来なくなってしまいます。

[医師法21条違反について]
 本件のような部分前置胎盤に合併した癒着胎盤による出血死は臨床的に『異状死』とみなさず、当然警察への届出義務違反には当たらないと考えます。

[逮捕・勾留について]
 私達は、現在医療過誤を巡り、関係者全員が納得出来る医療システムを国民・医療者・行政と共に作り上げようと最大の努力を払っております。そのような時に、今回のような逮捕・勾留・起訴は周産期医療のみならず、いたずらにすべての医療現場を混乱させ、さらには日本国民がよりよい医療を享受する機会を損ねる結果となり、国益に反する行為に他なりません。
 このような事態を避けるためにも、今回の逮捕・勾留・起訴に強く抗議します。

          平成18年3月15日

                福岡県産婦人科医会
                    会長  福嶋 恒彦
        日本産科婦人科学会福岡地方部会
                   会長  瓦林 達比古

大分県産婦人科医会・日本産科婦人科学会大分地方部会の抗議声明

2006年03月15日 | 大野病院事件
          抗議声明

福島県立大野病院産婦人科医師の不当逮捕に抗議する

はじめに、今回亡くなられた患者犠とそのご遺族に対し、心より哀悼の意を表します。

 平成18年2周18日福島県立大野病院産婦人科医師加藤克彦氏が、業務上過失致死及び医師法違反の容疑で逮捕・勾留され、 3月10日起訴されました。
 大分県産婦人科医会と日本産科婦人科学会大分地方部会は、検察及び福島県警の不当逮捕・勾留に強く抗議すると共に、直ちに加藤克彦医師を釈放することを求めます。

〔業務よ過失致死容疑について〕
 本件の業務上過失致死容疑の理由は、術前診断が極めて困難な、現代の医療水準をもってしても完全に予見できない癒着胎盤を、『予見できたはず』との誤った前提に基づいており、到底認めることはできないものです。また、癒着胎盤による出血が多量となった後の対応措置についても、その状況下における最善の治療を施しており、結果的に不幸な転帰をたどった事をもって、診療上一定の確率で起 こり得る不可避なできごとにまで刑事責任を問われ、逮捕・勾留・起訴されるのであれば、医師は何の治療もできなくなってしまいます。

〔医師法違反-「異常死 」 の届出について〕
 臨床の立場から、『異常死』とは診療行為の合併症としては合理的に説明できない『予期しない死亡』であり、予期される死亡は『異常死』には含まれないと考えます。本件は癒着胎盤による出血であり、当然『異常死』ではありません。また、届出については、県立大野病院の『医療事故防止のための安全管理マニュアル』に従って、 病院長へ報告しており、届出義務違反にも当たりません。

〔不当逮捕・勾留〕
 平成 17 年 3 月に県立大野病院事故調査委員会が事故調査を行い、報告書を作成し、行政処分が行われ、同年 4 月には県警が提査・証拠書類の押収を行っています。さらに加藤医師は、その後も大野病院唯一人の産婦人科医師として、献身的に勤務し続け、逮捕当日も診療中でありました。 この様な状況下にあるにも拘らず、 「証拠隠滅及び逃亡の恐れがある。」として、逮捕・勾留が行われたことは、県警・検察の強権的暴挙と言わざるを得ません。
 産婦人科医師不足の中、過酷な勤務条件のもとに医師の使命感を唯一の支えとして、診療に従 事している多くの産婦人科医師にとって、今回の逮捕・勾留・起訴は到底容認できるものではあり ません。 予測不可能、或いは医師がその置かれた状況下で、現在の医療レベルの処置を施しても不幸な 転帰となった場合に、これが業務上過失致死として逮捕・勾留されるのであれば、その様な職業に誰が進んで身を投ずることができましょうか。日本の周産期医療の崩壊にも繋がる今回の事件は、極めて重大であります。

改めて、今回の不当逮捕・勾留・起訴に強く抗議します。

                平成 18 年 3 月 13 日

             大分県産婦人科医会
                  会長 松岡幸一郎
     日本産科婦人科学会大分地方部会
                     会長 楢原久司


茨城県産婦人科医会、日本産科婦人科医会茨城地方部会、茨城県医師会の抗議文

2006年03月14日 | 大野病院事件

 抗議文

 平成18年3月10日

             茨城県産婦人科医会 会長 石渡  勇
     日本産科婦人科学会茨城地方部会 会長 吉川裕之
                                   茨城県医師会 会長 原中勝征

  
 先ずは、ご逝去された患者様とご家族ご親族の皆様に対し哀悼の意をささげたいと思います。
 さて、平成18年2月18日、福島県立大野病院産婦人科医師、加藤克彦氏(以下、医師)が業務上過失致死および医師法違反の被疑により逮捕、富岡警察署に勾留、3月10日福島地裁に起訴された件に関し、茨城県産婦人科医会(以下、医会)、日本産科婦人科学会茨城地方部会(以下、学会)、茨城県医師会(以下、医師会)は、誤った医学的判断および医師法解釈による不当な行為と考え、遺憾の意を表明すると共に抗議するものであります。

1. 医療上の過失の有無に関する意見

 国内外の論文をみても、前置胎盤症例は全分娩の0.5%に見られ、多くは帝王切開となる。この場合留意すべきものは癒着胎盤である。癒着胎盤を伴う前置胎盤の頻度は0.1%未満である。また、子宮全摘出が必要な癒着胎盤は全分娩の0.01%と考えられる。一般にこの頻度は経産回数、高年齢、帝王切開術等手術既往と相関するとされる。癒着胎盤症例でMRI検査によって事前に診断されるのは2.5%との報告もある。
 報告書(県立大野病院医療事故調査委員会;平成17年3月22日)をみると、本症例においては、前回帝王切開がなされているが、その創部と胎盤付着部位は離れており、前置胎盤症例の中で特別な危険因子が存在していたわけではない。また、超音波検査やMRIを用いて癒着胎盤を診断する試みは論文に出始めているものの、日常診療の中で標準的な取り扱いになる程、診断の信頼性は高くない。すなわち、これらの機器を用いた癒着胎盤の診断は医療水準となっていないと判断する。また、医師は超音波検査で前置胎盤と診断し、妊娠36週6日に、麻酔医、外科医、看護師4-5名のスタッフを確保し、輸血用血液を5単位用意するなど慎重な準備の下に手術を開始している。特に、本症例は胎盤剥離が極めて困難であったが、摘出された子宮・胎盤の病理組織診断では癒着胎盤(placenta accrete)であり、胎盤の剥離ができない嵌入胎盤(placenta increta)や穿通胎盤(placenta percreta)ではなかった。本症例は出血量速度とも極めて予想外のことであり、手技の問題ではなく、極めて特異的疾患によるもので避けがたいことと判断する。また、今回のように子宮を摘出せねばならないほど大出血になることは極めて稀であり、子宮の温存を強く希望する患者に対して、胎児娩出後、胎盤剥離を試みず直ちに子宮全摘を行うことを患者に説明することは困難である。胎盤剥離を試みて剥離困難かつ多量の出血があった場合、子宮全摘出を行うのが一般的である。
 本症例は、子宮全摘出となる程の癒着した前置胎盤を予知することは困難であり、ここに過失は存在しないと判断する。

2. 患者・家族への説明義務違反について

 報告書には、手術中に大量出血が見られた時点、子宮摘出を判断した時点において家族に対する説明がなされていない、と記載されているが、救急救命に全力が傾注されている最中に説明をすることは不可能であり、本件において説明義務違反は存在しない。

3. 警察への届出について

 医師法21条(医師は、死体又は妊娠4ヶ月以上の死産児を検案して異状があると認めたときは、24時間以内に所轄警察署に届け出なければならない)と規定されている。「異状死」の概念や定義には曖昧な点が多い。日本法医学会は「診療行為に関連した予期しない死亡、およびその疑いがあるもの」を「異状死」に含めるとした。一方、外科関連学会協議会は、診療行為の本質を考慮し、説明が十分になされた上で同意を得て行われた診療行為の結果として、予期された合併症に伴って患者の死亡・傷害が生じた場合については、診療中の傷病の一つの臨床経過であって、重大かつ明らかな医療過誤によって患者の死亡・傷害が生じた場合と同様に論じるべきではないとし、「何らかの重大な医療過誤の存在が強く疑われ、また何らかの医療過誤の存在が明らかであり、それらが患者の死亡の原因になった場合、所轄警察に届出を要する」としている。本件は、結果的には医学的に合併症として合理的に説明できる死亡であり、異状死とは認めがたい。また、子宮全摘出となる程の癒着した前置胎盤を予知することは困難であり、過失は存在しない。また、説明義務違反の存在もなく、重大な医療過誤が存在するとは言いがたい。

4. 地域の医療事情

 県立大野病院は過疎地域にある中核的な総合病院であり、産婦人科医一人でも分娩・手術を実施しなければならないという事情があった。しかも、大出血をおこし子宮全摘出となる程の癒着した前置胎盤を事前に予知することが困難な症例を、施設の整った他病院へ紹介転送することは一般的ではない。

5. 社会的な影響

 警察当局の予期せぬ介入、医師の不当逮捕があれば、医療側は過剰診療・防衛医療、消極的医療(リスクが高い医療を拒否)にならざるを得ず、産科医療からの撤退、産科医の減少、分娩機関の減少に拍車をかけ、周産期医療は崩壊し、国民は分娩する場所を失い、国是とする少子化対策に暗い影を落すものである。事実、地元の福島民友新聞には“医師派遣をおこなっている福島県立医大は、医師逮捕の事態を受けて、「患者の命を守るためには1人態勢を改善すべき」として、県立大野病院と同様、産婦人科医が一人しかいない会津総合、三春の2県立病院への産婦人科医派遣を取り止める方針を固めた”と記述されている。この動きは全国に波及するものと思われる。行政には、患者にとっては安全・安心な医療が受けられるよう、また医師にとっても安全・安心な医療が提供できるよう、複数の医師を確保するなど、速やかな善処をお願いしたい。

 医会・学会、医師会は、ここに加藤医師の逮捕、起訴に対し強く抗議するとともに、加藤医師への全面的な支援を表明する。また、診療行為に関連した患者死亡の警察への届出、事故の真相解明、再発防止について協議する中立的専門機関を早急に創設されることを切に望む。


手術ミス?産婦人科医逮捕で波紋広がる

2006年03月14日 | 大野病院事件

************ 私見

日本産科婦人科学会・日本産婦人科医会が共同で抗議声明を発表し、多くの産婦人科専門医達が異口同音に癒着胎盤の分娩前の診断は不可能で、大出血の予測は困難だったと主張しているというのに、手術前に病院側(専門外の院長?)が「大きな病院に患者を移すべきだ」などといちいち助言するなんてことが本当にありうるのだろうか?

手術前に1000ccの輸血の準備をしていたのに、輸血の準備をおこたった過失があるということであれば、これから帝王切開を実施するたびに、一体全体、輸血の準備をどれだけすれば過失を免れるというのだろうか?

警察や検察の言っていることは、全く理解に苦しむことばかりである。このような全く理解できない理不尽な理由によって、献身的に地域医療に取り組んできた医師を、凶悪な殺人犯と全く同様の扱いで逮捕するとは、前代未聞のはなはだしい人権侵害である。

****** 以下引用

TBS News-i HEADLINES

手術ミス?産婦人科医逮捕で波紋広がる

 福島県の産婦人科医が帝王切開の手術で女性を死亡させたとして逮捕・起訴されたことが大きな波紋を呼んでいます。事態は、日本産科婦人科学会などが逮捕を批判するまでに発展しています。

 先週10日、業務上過失致死と医師法違反の罪で起訴された産婦人科医の加藤克彦被告(38)。加藤被告はおととし、福島県立大野病院で出産のため、帝王切開した当時29歳の女性を手術のミスから死亡させたとされています。

 女性の胎盤は子宮の入り口に癒着するという極めてまれな状態にあり、警察と検察は、加藤被告がこうした胎盤を無理にはがしたことで大量出血したことが死亡の原因だとしました。

 今回のケースは、「治療の難易度が高く、対応が極めて困難。医師個人の責任を追及するにはそぐわない部分がある」と日本産科婦人科学会が異例の抗議声明を出したほか、多くの医師が今回の逮捕・起訴を批判しています。

 「我々は輸血なんか用意しませんよ、普通の帝王切開では。この場合に1000ccの輸血を用意したこと自体がもうすでに予見はしてた訳ですよ。十分に。ただ(大量出血まで)見通せるかどうかは今の医療・医学では無理だった」(日本大学客員教授【産婦人科】 佐藤和雄氏)

 法律の専門家で医療過誤訴訟を専門とする弁護士も、逮捕したこと自体に否定的な見解を示しました。

 「報道で見る限りは、逮捕の必要性はほとんど感じられないですね。逃亡のおそれも罪証隠滅のおそれもほとんどないと言っていいと思いますね。刑事上の過失が明白な事案とは言い切れないと思いますね」(医療問題弁護団代表 鈴木利廣 弁護士)

 警察や検察は、加藤被告が、大きな病院へ患者を移すべきだという病院側の助言を聞かず、輸血の準備を怠ったなどの過失があると判断、逮捕については、証拠隠滅のおそれがあったと説明しています。(13日17:20)

(引用終了)


医師の拠点集約へ

2006年03月14日 | 大野病院事件

****** 私見

医師の点在化か?集約化か?は究極の選択である。

福島県では、今回の事件を契機に、拠点病院への医師集約化が一気に進む方向のようである。県庁内では、医師が各地に点在するより、拠点病院に集約した方が県民に良い医療を提供できるとの意見が大多数を占めるようになったとのことである。

確かに、医師を各地に点在させて高度なことは何もできないような状況下に追いやりながら、一方で、治療水準だけは日本最高レベルを要求して次々に医師の逮捕者を出していくような状況になってしまえば、地域医療が完全に崩壊してしまうことは明らかだ。

福島県と同様の条件下で地域医療に従事している全国の医師達の中にも、今回の事件を受けて、自分達の現在置かれている状況下ではもはや医療は継続できなくなったと感じている者が少なくないと思う。

(以上、私見)

(以下、3/13の毎日新聞の記事からの引用)

医師の拠点集約へ

議論、事件で一気に加速 県、矢継ぎ早の対策

 「逮捕は確かにアクセルになった。ブレーキを掛けられないくらいのうねりになり、正直、このまま突き進んで良いのかなと思う」。自らも小児科医で、県保健福祉部健康衛生領域の今野金裕総括参事は困惑気味だ。

 K医師の逮捕後、県庁内では、医師が各地に点在するより、拠点病院に集約した方が県民に良い医療を提供できるとの意見が大多数を占めるようになった。今野総括参事は「本来『究極の選択』であるはずの問題が、一気に振り子が振れた感がある」と話す。

 逮捕以降、県は矢継ぎ早に医師不足対策を打ち出している。来年度から県立医大に新たに助手20人を配置し、支援要請があった公的病院に派遣することを決め、今月1日には、県立医大医学部長の菊地臣一教授に、派遣の調整役となる「医師派遣調整監」を委嘱した。

 また、民間の病院で危険性の高い手術が行われる際には、これまでも行われていた県立病院からの医師派遣を、県として制度化できるかどうか検討に入った。いずれも県が見据える医師集約化の流れに沿う施策だ。

 さらに、県は市街地の医療機関をネットワーク化し、医師を相互に派遣し合う新システムを導入する方針も明らかにしている。これにはネットワークの外にある都市部以外の医療過疎を招く恐れもあり、医師が少なくなる自治体からの反発も予想される。いずれも今回の事故以前から議論されてきたものだ。それが一気に加速した。

 03年度の「県立病院事業改革委員会」と04年度の「県立病院改革審議会」で検討された結果、県は現在10カ所ある県立病院と診療所のうち4カ所を07年3月に廃止、2カ所を統合することに決めている。財政難対策の意味合いが強かった統廃合が、今回の事故を契機に加速しつつある医師の拠点集中化の流れに合致する形となった。

 ただ、今野総括参事のように「地方の切り捨てにならないようにしたい」と慎重派の県職員もおり、揺り戻しが起きる可能性はある。

 10日午前の2月定例県議会福祉公安委員会。橋本克也議員(自民)が「事件の内容について十分な情報がなく、県民が混乱している。あえて聞くが逮捕の必要性はあったのか」と県警幹部にただした。委員会で、捜査中の特定の事件について聞くのはあまり例がないという。荒木久光刑事部長は「総合的に判断して証拠隠滅の恐れがあった」と述べるにとどめた。

 橋本氏は「本来、事件は事件として処理し、医師確保の問題とは、切り離して考えなければいけない」としつつも「(福祉、治安の)両方を所管する委員として逮捕の理由を聞かなければいけないと思った」と異例の質問の理由を説明する。

 起訴を受け県病院協会は11日、「逮捕、起訴は地域医療に携わる医師ならびに安全で質の高い医療を求める地域住民に対して大きな混乱を招いた」との緊急声明を発表した。全国的にも医師側の反発は続く。こうした動きに捜査関係者は「公判が始まれば、今までの同情論がひっくり返る。それが過失の証明になる」と自信をのぞかせる。医学関係者と捜査当局が真っ向から対立する形となった今回の逮捕、起訴。波紋は広がるばかりだ。(坂本昌信)

(引用終わり)


医師法21条の解釈

2006年03月12日 | 大野病院事件

************ 私見

当院の病院管理部門職員に確認してみたが、今回と同様のケースの場合は、院長に報告しておけば、院長が警察に届け出るかどうかを判断することになっているので、担当医は届け出なくてもよいとの回答だった。

癒着胎盤の診断は、分娩以前には不可能である。分娩後に胎盤遺残を認め、胎盤娩出促進法を行っても胎盤剥離徴候が認められない場合には癒着胎盤が疑われる。確定診断は摘出子宮または胎盤の病理組織学的な検索によってのみ得られる。

臨床的に問題となる癒着胎盤はきわめてまれ(1万分娩につき1件以下の低頻度)で、癒着胎盤の経験のある産婦人科医の方がむしろ少ない。

麻酔科医の管理、外科医の助手、輸血準備1000mlでも、万一に備えた準備が不十分な違法手術であったということであれば、日本で行われている帝王切開はほとんどすべてが準備不十分の違法手術ということになってしまう。

産婦人科医が2人いて、輸血準備量が2000mlであったのなら適法だったということなのだろうか?その程度の準備では結果は全く同じだったろう。これからは、結果が悪ければ、万一に備えた準備が不十分と言われてすべて断罪されてしまうのだろうか?

また、胎盤の剥離が非常に困難な場合であっても、ほとんどの場合は強引に用手剥離すれば実際は子宮温存が可能な場合が多い。患者さんが子宮温存を望んでいる場合は、まず胎盤の剥離を試みるのが一般的だと思う。事故報告書の記載内容からは、今回の加藤医師の実施した処置は決して無謀なトライアルには当たらないと私は考える。今回の事例ように胎盤を剥離したとたんに大量出血となるケースは数万分娩に1件という非常にまれな頻度である。

私自身は今まで胎盤を剥離しないで子宮摘出を試みたことは一度もない。私の少ない経験でも、通常の胎盤用手剥離で全く剥離できなかった症例で、止むなく、強引に胎盤をばらばらに引きちぎって(「ちぎっては投げ、ちぎっては投げ」という要領で)胎盤を子宮壁から無理矢理むしり取って、子宮を温存したことが何度か記憶にある。(そのような子宮を温存できたケースでは、子宮摘出病理標本がないため本当に癒着胎盤だったかどうかの証拠が全くない。)

しかし、今後は、「経験上、99%以上の確率で子宮温存が可能であろう」と判断したとしても、へたに子宮温存を考えると万が一でも逮捕される可能性があるということになれば、胎盤剥離困難例では子宮温存は一切考えずにすぐに子宮を摘出する産科医が増えることは間違いないだろう。

************

(以下、3月12日付けの毎日新聞からの引用)

医師法21条の解釈

◇分かれる「異状死」の定義--「届け出」判断左右
 04年4月、最高裁判所で全国の医師が注目した裁判の判決が言い渡された。99年2月に起きた東京都立広尾病院での医療ミス隠し事件で、医師法21条(異状死体の届け出義務)違反などに問われた元院長に対し、被告側の上告を棄却した。
 医学界では、医師法21条が「何人も、自己に不利益な供述を強要されない」と規定する憲法38条に違反しないか長く論議されてきた。最高裁は「公益上の高度の必要性に照らすと届け出義務を課すことは憲法に違反しない」と初めての判断を示した。
 県立大野病院の事故では、県が公表するまで県警には連絡がなかった。今回の事故は最高裁判決の8カ月後。重要な判断が示されたにもかかわらず、警察への届け出がなかったことが、逮捕のきっかけになったとみる医学関係者は多い。
   ◇   ◇
 ただ、医師法に定められる「異状死」の定義そのものの見解が分かれているのが現状だ。あらゆる診療行為に関連する予期しない死亡はすべて異状死とする法医学会に対し、外科系の学会は反発している。福島地検も法医学会の見解に沿う。届け出のための中立的な専門機関をつくろうという動きもある。
 一方、県病院局は学会でもばらつきのある異状死の定義にあえて踏み込まず、「医療過誤または、その疑いがある場合に施設長が届け出る」という立場だ。
   ◇   ◇
 医師が診療行為に絡み業務上過失致死容疑で逮捕されるのはきわめて異例だ。97年以降からデータをとっている警察庁によると、今回のケースを含め、01年3月の東京女子医科大学病院で起きた心臓手術、02年11月の東京慈恵会医科大学付属青戸病院で起きた前立腺がん摘出の腹腔(ふっくう)鏡手術の医療事故の3件に過ぎない。
 「今回(県立大野病院)の事件は『青戸』に似ている」と、県警幹部は指摘する。青戸病院の事故は、泌尿器科の医師3人が業務上過失致死容疑で逮捕された。千葉県の男性(当時60歳)に、前立腺摘出の腹腔鏡手術をした際、止血や輸血が不十分だったため、大量出血となり、1カ月後に死亡させた疑いが持たれた。
 当時、同病院でこの手術は初めてだった。逮捕された医師は調べに対し、「高度先進医療をやってみたかった。自分たちで研究して問題点を探したかった」と供述した。
 起訴された加藤克彦医師は癒着胎盤という症例の少ないケースの手術は初めてだった。ともに、経験のない症例の手術だった点では、共通点がある。ただ、加藤医師が難度の高い手術にあえて挑もうとしていたとは医療事故調査委員会の調査報告書や関係者の証言からはうかがえない。
 福島地検の片岡康夫次席検事は、手術について「一生懸命やっていたのは間違いない」としつつも「判断ミスがあった。手術には危険なものはいっぱいある。そういう手術をやるならやるで、万が一の備えをしなくてはならない」と指摘した。

(引用終わり)


福島県立医大:佐藤章教授のコメント

2006年03月11日 | 大野病院事件

****** 私見

実際の現場の状況がどうだったのかは全くわかりませんが、今回の佐藤教授のご意見が、癒着胎盤の大出血を経験した産婦人科医の普通のコメントだと思います。

私自身、前回帝王切開の前置胎盤例は今まで何度も数限りなく経験しましたが、胎盤剥離困難な例であっても、力ずくでむりやり胎盤をむしりとり、迅速に子宮の切開創を閉じ、子宮底を圧迫し子宮収縮を促進すれば、今までたいていの場合は子宮温存できました。

二十数年前に、胎盤用手剥離を開始したとたんに、すさまじい勢いの大出血が始まった癒着胎盤例の手術(帝王切開→子宮摘出、大量新鮮血輸血)にたまたま参加させてもらった経験があります。その症例では、手術中にたまたま大量の新鮮血を集めることができたので、運よくギリギリのところで母体を救命することができました。そういう症例は数万分娩に1件の非常にまれな発生頻度だと思います。ほとんどの産科医は一生涯一度も経験しないで済むと思いますが、万一、そういうケースに運悪く当たれば、どの病院であっても救命は難しいと思います。

(以下、3/11の毎日新聞の記事より引用)

「僕だって同じ判断を」 「教科書通り」の手術なし

 「手術が教科書通り進むことなんてない」。県立医大産婦人科学講座の佐藤章教授は力説した。起訴された加藤克彦医師は佐藤教授の弟子だ。

 04年12月17日の事故から1週間後。佐藤教授は加藤医師を大学に呼び、直接事情を聴いた。加藤医師は落ち込んだ様子だったが、手術の経過について冷静に答えたという。説明からは、逮捕されなければならないような重大な医療過誤とは思わなかったという。

 県の事故調査委員会は昨年3月、女性(当時29歳)の死因を「癒着胎盤の剥離(はくり)による出血性ショック」と結論づけた。報告書では、女性は胎盤が子宮内部の筋肉に強く付着する癒着胎盤だったため、加藤医師は胎盤を子宮から手ではがすことができず、手術用はさみで無理に剥離させたことが大量出血をまねいたとしている。医師不足で、医師の応援体制や輸血対応の遅れも要因として指摘した。

 報告書発表の際、調査委委員長の宗像正寛・県立三春病院診療部長(現院長)は「胎盤の剥離が難しい時点でやめていれば助かる可能性は高かった」と述べた。手術用はさみで胎盤をはがす方法も通常あり得ないとも指摘した。

 だが、佐藤教授の見方は異なる。手術用はさみで切ったのではなく、そぎ落としたもので、このケースで使用するのはありうるという考えだ。「手ではいで傷口の表面積が広くなるよりは合理的な決断とも言える」との見解も示した。

 報告書では、女性が20歳代と若く、子宮温存の希望があったため、摘出の判断の遅れが生じたと考えられるとされていたが、佐藤教授は「教科書的には、手ではがせなければ、子宮摘出に移るとされているが、摘出すれば、もう子供は産めなくなる。(子宮を)温存できるという判断が加藤にはあった。僕だって同じ判断をしたと思う。なぜこれが逮捕になるのか」と疑問を投げかける。

(引用終わり)


日本産科婦人科学会・日本産婦人科医会の抗議声明

2006年03月10日 | 大野病院事件

 声明

福島県の県立病院で平成16年12月に腹式帝王切開術を受けた女性が死亡したことに関し、手術を担当した医師が、平成18年3月10日、業務上過失致死および医師法違反で起訴された件に関して、コメントいたします。

はじめに、本件の手術で亡くなられた方、および遺族の方々に謹んで哀悼の意を表します。

このたび、日本産科婦人科学会の専門医によって行われた医療行為について、個人が刑事責任を問われるに至ったことはきわめて残念であります。
本件は、癒着胎盤という、術前診断がきわめて難しく、治療の難度が最も高い事例であり、高次医療施設においても対応がきわめて困難であります。
また本件は、全国的な産婦人科医不足という現在の医療体制の問題点に深く根ざしており、献身的に、過重な負担に耐えてきた医師個人の責任を追求するにはそぐわない部分があります。

したがって両会の社会的使命により、われわれは本件を座視することはできません。

平成18年3月10日

 社団法人 日本産科婦人科学会
 理事長 武谷 雄二

 社団法人 日本産婦人科医会
 会長 坂元 正一


加藤医師を支援するグループの声明

2006年03月09日 | 大野病院事件

http://medj.net/drkato/index.shtml

産婦人科医、加藤克彦医師の逮捕に抗議します
                 賛同者一覧(798名)

            声明

はじめに、お亡くなりになられた方、そしてご遺族の皆様方に深甚なる哀悼の意を捧げます。

平成十八年二月十八日、福島県立大野病院に勤務していた産婦人科医が、帝王切開中の大量出血により患者さんが死亡した件において業務上過失致死罪、および異状死の届出義務違反(医師法違反)で逮捕されました。

逮捕直後から、インターネット上で逮捕拘留という事実に対しての驚きや憤り、今後の診療上の不安など産婦人科に限らず多くの診療科の医師より意見が寄せられ、有志が集まり当グループを発足しました。三月七日時点で四百五十名を超える医師が参加しております。

この件におきましては、一年前に家宅捜索は終わり、主要な関係者の調書作成も終了しております。また福島県は事故調査を行い、報告書が作成されたうえで処分も行われております。さらに加藤医師はその後も大野病院唯一の産婦人科医として献身的に勤務し続けており、『逃亡のおそれ』『証拠隠滅のおそれ』とする福島県警の逮捕・勾留理由は到底我々には理解出来ないものであります。

前置胎盤、ならびに現在の医療水準では事前の診断が困難とされている癒着胎盤が大量出血の背景にあったということに関しまして、医学的な見地からも議論を重ねてまいりましたが、大野病院の置かれた環境、輸血供給の現状での加藤医師の判断は妥当であったと考えられます。
 我々は加藤医師の不当な逮捕に対して抗議致します。

我々は日常の診療において、いかなる状況に於いても最善の医療を提供することを目標としております。病との戦いから助けるべく、持ちうる技術や能力を最大限に駆使して治療を行っております。しかし医学がこの数十年で飛躍的に発達したとはいえ、百%安全と言える薬や百%安全と言える手術はこの世に存在しません。今後いかに医学が発達しようとそれは事実として変わらないでしょう。
 今回の件のように、診療上ある一定の確率で起こり得る不可避なできごとにまで責任を問われ、逮捕、起訴されるようであれば、もはや医師は危険性を伴う手術など積極的な治療を行うことは不可能となり、医療のレベルは低下の一途をたどると思われます。
 地域医療への影響も大きく、既に福島県内において、今回の逮捕を契機に産婦人科医の一部病院への集約が予定されている事実は、報道に於いて既知の通りです。今後、福島県内のみならず、全国的に過疎地域における医療従事者の減少が更に加速し、結果として地域住民に対し多大な影響が及ぶことが懸念されます。

もし、この件が逮捕に相当するのであれば、今後、通常の医療業務を行っている医師の中からも相当数が逮捕されるであろうと予測されます。この状況では日本の医療は崩壊します。
 このような医療の崩壊への流れを食い止めるためにも、今回の件に限らず警察や司法に適切な医学的考察にのっとった判断をしていただくよう要請致します。

加藤医師を支援するグループ 発起人

木田博隆          三重大学・神経内科
神田橋宏治      都立駒込病院 ・化学療法科
網塚貴介         青森県立中央病院・新生児科
池澤孝夫         いけざわレディースクリニック・産婦人科
植田良樹         市立長浜病院・眼科
大野明子         明日香医院・産婦人科
金澤信彦         草加市立病院・消化器内科
加部一彦         愛育病院・新生児科
北澤 実          きたざわ眼科・眼科
小林 高          小林産婦人科医院・産婦人科
佐藤秀平        青森県立中央病院・産婦人科
高田慶応        大阪厚生年金病院・小児科
鍋島寛志        岩手県立磐井病院・産婦人科
新村 進         石橋総合病院・内科
原 崇文         原レディースクリニック・産婦人科
淵上泰敬        淵上整形外科・整形外科
船戸正久        淀川キリスト教病院・小児科
松崎 徹         足立クリニック・産婦人科
室月 淳         岩手医科大学・産婦人科

賛同者一覧(798名)