ある産婦人科医のひとりごと

産婦人科医療のあれこれ。日記など。

周産期医療、整備指針の改正案 厚労省、都道府県に示す

2009年08月16日 | 地域周産期医療

現行の周産期医療の患者搬送システムは、主に胎児疾患や新生児疾患への対応を主軸にして構築されています。母体の偶発合併症の場合は、それぞれの状況に応じて、救命救急医、脳神経外科医、循環器内科医、心臓血管外科医、整形外科医などの一般の救急医療にかかわる専門医達と周産期医療にかかわる専門医達とが一緒に対応しなければならないので、周産期医療の患者搬送システムと救急医療の患者搬送システムの連携も必要となります。

都会の場合、搬送先として多くの選択肢がある中で、受け入れ可能な施設をスムーズに探し出す仕組みを整備する必要があります。

地方の場合は事情が大きく異なります。例えば長野県の場合、胎児疾患、新生児疾患を受け入れる3次施設は県立こども病院、母体合併疾患を受け入れる3次施設は信州大付属病院とそれぞれ1施設つづです。県内各地の周産期医療の2次施設も、各医療圏ごとにほぼ1施設づつしかありません。他に選択肢が全くないため緊急時の搬送先病院は自動的に1施設に絞られます。救急患者の受け入れが断られることは最初から全く想定してないため、搬送先の病院を探し出す作業で苦労する事態はほとんど起こりません。

周産期医療の現場では、個人プレーでできることには大きな限界があり、緊急時には大きな専門医チームで対応する必要があります。従って、地域の中核病院には多くの専門医を24時間体制で配置する必要があります。しかし、地方の公的病院でいくら医師確保の努力をしても、必要な常勤医師数をすべて自前の医師確保策だけでまかない続けるのは非常に困難です。医師確保が一時的にうまくいっているように見える病院でも、突然の離職者が2~3人出現すれば、一気に奈落の底に突き落とされる事態となってしまいます。

専門医にも多くの種類があり、周産期医療に直接かかわる専門医制度としては、産婦人科専門医、周産期(母体・胎児)専門医、小児科専門医、周産期(新生児)専門医、麻酔科認定医、麻酔科専門医、麻酔科指導医などがあります。1人の専門医の養成には非常に長い時間を要します。例えば、産婦人科専門医を取得するには医学部卒業後2年間の初期研修、3年間の後期研修を修了して産婦人科専門医試験に合格する必要があります。周産期(母体・胎児)専門医の取得には、産婦人科専門医資格の取得後にさらに周産期(母体・胎児)基幹研修施設で3年間研修して、周産期(母体・胎児)専門医試験に合格する必要があります。養成される各専門医の数には限りがあり、施設の維持に必要な専門医数が不足して困り果てても、専門医はすぐにはどこからも湧いて出てきません。各施設で必要な専門医数の充足を成り行きに任せていたんでは、地域の周産期医療提供体制がいつ破綻するのか全くわかりません。

『将来的に必要とされる各科の専門医をいかにして養成していくのか?』『養成された各科の専門医をいかにバランスよく各地域の中核施設に配置していくのか?』などの国家レベルの課題については、各施設や各自治体の個別の自助努力だけでは解決できません。現状では、各自治体が地域エゴ丸出しで少ない医師を奪い合っていて、地域に必要とされる各科の専門医をバランスよく集められるかどうかは全くの運次第という状況です。国の取り組みとして、長期的展望に基づいて各科の専門医の養成数を決定し、養成された専門医を適正に配置するシステムを導入する必要があると考えます。

****** 毎日新聞、2009年8月14日

総合周産期センター:「母体救命」要件に 整備指針改正

 東京都内で08年に起きた妊婦死亡問題を受け、厚生労働省は周産期母子医療センターの整備指針の改正案をまとめた。96年の策定以来初の全面改正で、高度医療を担う総合センターの指定要件に、脳出血など産科以外の母体の救急疾患に対応する機能を追加する。一方、総合センターに準じる地域センターは要件を緩和し、参加医療機関数の増加を図る。受け入れ実績などの公表を求める規定も盛り込んでおり、14日に都道府県に案を示し、9月にも運用を開始する方針。 【清水健二】

 周産期母子医療センターは全国に300施設以上あり、リスクの高い分娩などを受け持っている。しかし脳疾患や心疾患など産科以外の急病になった母体の救命に十分対応できないと指摘され、厚労省が専門家の意見などを基に、整備指針の見直しを検討していた。

 改正案では総合センターの役割に、危険の大きい妊娠に対する医療や高度な新生児医療と並んで「産科合併症以外の母体救急疾患への対応」を追加。救命救急センターの併設か、脳神経外科や心臓血管外科などを持つ医療機関との連携を義務付ける。確保に努める職員として、麻酔科医や臨床心理士、長期入院児の在宅療養などへの移行を円滑に進める「支援コーディネーター」を新たに挙げた。

 一方、地域センターは、なるべく多くの医療機関の参加を促すために指定要件を緩和する。産科を備えていなくても、NICU(新生児集中治療室)を持つ小児科病院なら指定可能とし、ベッド数に応じて下限が決まっていた看護師数も「必要な適当数」と改めた。

 3月に厚労省の有識者懇談会がまとめた報告書では、総合、地域の2分類を3~4分類にすることも提案されたが、指定要件を改めることで見送った。有識者懇が提案した「NICUの1.5倍増」は、そのまま整備目標に掲げられた。

 また、各都道府県に対し、10年度までに必要な周産期センター数や診療機能、医療従事者数などを明記した整備計画の策定を要求。各センターの対応可能な母体・胎児の条件や、受け入れ実績、死亡率などを住民に公表するよう求めた。

(以下略)

(毎日新聞、2009年8月14日)


産婦人科医療の崩壊をくい止めるために、国が早急に実施すべきことは何か?

2009年08月14日 | 地域周産期医療

産婦人科医は、24時間365日、いつ病院から呼び出されるか全く予測ができません。

常勤産婦人科医が1人になってしまった場合には、たとえ分娩予約件数を月10件程度に絞り込んだとしても、その絞り込んだ10件の分娩がいつになるのか全く予測できませんから、結局その産婦人科医は、24時間365日、病院の近辺から離れられず、いつ病院から呼び出されても対応できるように準備を整えておく必要があります。お酒が好きな先生でも、常勤医が1人になってしまったら禁酒せざるを得ません。家族旅行もできなくなってしまいますし、学会やセミナーなどにも全く出席できなくなってしまいます。そんな状況では、とても長続きする筈がありませんから、ベテラン産婦人科医も不本意ながら次々に戦線を離脱せざるを得ませんし、次世代の若い産婦人科医も育ちません。

たとえ分娩予約件数が月100件程度であっても、産婦人科医7~8人、助産師30~40人のスタッフが交代で勤務すれば、スタッフ一人一人の負担はそれほど過重にならなくて済みます。次世代の産婦人科医や助産師を養成する余裕も生まれます。

従って、多数の分娩や手術を取り扱っている中核病院の常勤産婦人科医を増員する必要があります。たとえ産婦人科医の総数が増えたとしても、中核病院の常勤産婦人科医数が増えてくれないことには、状況は決して改善されません。単なる医学部の定員増や病床整備だけではなく、勤務条件の厳しい職場への医師の誘導策などの国の取り組みが不可欠と考えられます。

****** 毎日新聞、奈良、2009年8月13日

公的7病院で産科休診 慢性的な人手不足 「365日、1人では無理」

 昨年2月、桜井市の済生会中和病院に県立医大から一通の通知が届いた。「産婦人科医を県立三室病院(三郷町)に異動させる。後任人事はない」という内容だった。当時、同病院の常勤産婦人科医は2人。「24時間365日呼び出される産科は、とても1人では務まらない。休診せざるを得なかった」。杉本勉・総務課長(当時)は振り返る。

 県立医大は、県内の病院に医師を派遣している。異動は、三室病院の医師を別の病院に異動させたことによる玉突きだった。中和病院は昨年4月から産科を休診し、残った1人で婦人科だけを継続する。再開のめどは立たず、産科の診察室は現在、女性外来用に改造している。

 三室病院も常勤産科医は、異動した医師を含め2人だけだったが、今年3月、もう1人の医師が開業のため退職し、4月から休診に追い込まれた。2病院で取り扱う分べん数は年間約300件。特に中和病院のある中南和地域は、出産に対応できる病院が少なく、影響が大きい。

 1人の医師の異動や退職が休診につながる不安定な状態。05年以降、町立大淀病院や県立五條病院など七つの公的病院で産科の休診が相次いだ。厚生労働省によると、県内の産婦人科医数は02年の99人から06年は87人に減少。人口10万人当たり6・2人で全国平均を下回る。

(以下略) 

(毎日新聞、奈良、2009年8月13日)


日立総合病院産科休止 『ドミノ倒し』懸念の声 (東京新聞)

2009年08月06日 | 地域周産期医療

地域周産期母子医療センターの機能を維持していくためには、産婦人科医、小児科医、麻酔科医をそれぞれ最低5~6人づつは確保し、助産師も30人~40人は確保する必要があります。当然、個人的な理由で辞めていく人も毎年何人かは必ずいますから、不足した人員を毎年補充し続ける必要があります。例えば、ある年に麻酔科医の不足を補充できなければ、突然、センター全体の機能を維持することが困難となってしまいます。小児科医や産婦人科医の不足を補充できない場合でも同じことです。要するに、関係するすべての部署の人員が充足されていないと、全体の機能を維持することが困難となります。どこか一つの部署が人手不足に陥れば、たちまち全部署が存続不能の危機に直面します。

妊婦水戸へ集中 周辺の産科医負担増

日立製作所日立総合病院(日製病院)、地域周産期母子医療センターを休止

日立製作所日立総合病院:産科医1人が残留 分娩を継続へ

医師確保険しく 来春産科医0の日製病院

日立総合病院 分娩予約一時中止

****** 東京新聞、茨城、2009年8月6日

日立総合病院産科休止 『ドミノ倒し』懸念の声

 「地元の病院がハイリスクのお産に対応できないのは、いざという時に困る」。小さな子どもを連れて、日立市の日立製作所日立総合病院に来ていた同市の母親(34)がため息をつく。「四つ年上の姉は、二人目の子どもを妊娠することすら迷っているんです」

 危険を伴う出産や新生児医療までを担う県北地域の「地域周産期母子医療センター」に位置付けられていた同病院が今年四月、センターを休止してから四カ月。お産の拠点が失われたことが、地域の女性に妊娠をためらわせるほどの不安を与えている。

 休止のきっかけは昨年五月。日立総合病院には常勤産科医が六人いたが、派遣元の東大医学部が医師不足を理由に、今年三月末で全員の引き揚げを告げてきたことだった。

 結果的に若手の常勤産科医一人が残ることにはなったが、手が足りないため、危険性のある分娩(ぶんべん)から通常分娩まで年千二百十二件(二〇〇七年)を取り扱ってきた県北地域の出産の受け皿は当面、幕を下ろすことになった。

 日立総合病院の周産期センター休止のしわ寄せがきているのが、出産時に危険性を伴う県北の妊婦らの受け入れ先となった水戸市の水戸済生会総合病院や水戸赤十字病院など、県央地域の病院だ。

 水戸済生会総合病院の山田直樹産婦人科部長は「春から扱う妊婦が月平均十人弱は増えた印象だ。先月中ごろからは二十一床ある産科のベッドの満床状態が続いている」と、産科医の激務に一層拍車が掛かったことを明かす。

 日立総合病院や日立市、県は来春、同病院で通常分娩だけでも再開することを目標に、産科医探しに努めている。県の仲介で秋以降、水戸赤十字病院から日立総合病院に日替わりで非常勤産科医が派遣されることになった。週数回の手伝いを申し出る開業医も四、五人見つかった。だが、これに残留した若手常勤医一人を加えても「指導的立場の核となる常勤医がもう一人いないと、通常分娩の再開は厳しい」というのが日立総合病院と県の共通認識だ。

 同病院の竹之内新一副院長は「水戸の病院にまで負担を与えており、このままでは(県内で)産科医のドミノ倒しが起きてしまう。わらをもすがる思いで産科医を探している」と話す。

 地方の医師不足の原因の一つに、新人医師が自由に研修先を選べるようになった卒後臨床研修医制度の導入が挙げられる。医師が出身大学の医局に戻らなくなり、従来のように医局が地方の病院に医師を供給する機能を果たせなくなった。

 こうした現状に、医療分野の複数の県職員からは病院や自治体が医師を確保することの限界を指摘し、「医師不足の地域や診療科目には一定の強制力で、医師を配置する制度をつくるべきだ」とする声が上がる。

 一方、地域医療に詳しい城西大の伊関友伸准教授は「産科医や小児科医は、やりがいを感じる医師でないと長続きしない。給与の向上、扱う分娩数や当直日の低減など、待遇を改善していくことが医師確保には遠いようで近道」と語る。

 住民が地域で安心して暮らし続けるため、待ったなしの問題となっている医師不足。新知事には国への働き掛けも含め、“処方せん”を示すことが求められている。【この企画は伊東浩一が担当しました】

(東京新聞、茨城、2009年8月6日


静岡県立こども病院: 配置転換訴訟初弁論、病院側全面的に争う

2009年08月04日 | 地域周産期医療

静岡県立こども病院 「配置転換は不当」 病院機構を提訴

静岡県立こども病院NICU 新規患者は静岡市内のみ受け入れを継続

静岡県立こども病院NICU、新規患者の受け入れを休止

****** 読売新聞、静岡、2009年7月11日

こども病院配置転換訴訟初弁論

病院側全面的に争う

 勤務していた静岡県立こども病院(静岡市葵区漆山)から異動するよう不当な配転命令を受けたとして、同病院新生児未熟児科の前科長の男性医師が、同病院の院長と、同病院を 運営する独立行政法人県立病院機構を相手取り、配転命令の無効確認と慰謝料など550万円の損害賠償を求めた訴訟の第1回口頭弁論が10日、静岡地裁(松村秀樹裁判官)で あった。被告側は請求棄却を求める答弁書を提出し全面的に争う姿勢を見せた。

 訴状によると、前科長は1992年から同科に勤務していたが、今年3月10日、県立総合病院(同区北安東)への異動を内示された。

 訴状では、院長が原告に「クレームが多い」と繰り返し話したりうそのメールを他の医師に流したりするなど、退職に追い込もうとする不当な行為を続けていた、と主張。「原告 は新生児や未熟児の専門医で、配転には業務上の必要性がなく、配転命令は、原告を退職させようと狙ったもの。原告の配転を不当として、同科の医師らが退職し、県中部地域の 周産期医療が崩壊した」として、配転命令の無効を訴えている。

 これに対し被告側は答弁書で、「院長は原告に対し退職勧奨は一切行っておらず、配転命令は業務上必要だった。病院のNICU(新生児集中治療室)への患者受け入れを制限せ ざるを得なくなったのは、突然辞職した医師らの身勝手な行動が原因」と主張している。

 同病院では今年3月末、前科長の配転が決まったことをきっかけに、7人いた新生児未熟児科の医師のうち5人が退職や異動で同病院を去った。その後2人が補充され現在は4人 の医師がいるが、同病院はNICUの患者受け入れを4月13日以降、静岡市内の患者のみに限定している。前科長自身は現在、県立総合病院に在籍しているが、休職中という。

(読売新聞、静岡、2009年7月11日)

****** 毎日新聞、静岡、2009年7月11日

県立こども病院損賠訴訟:病院機構側、争う姿勢--第1回弁論

 県立こども病院(静岡市葵区)新生児未熟児科の前科長(47)が、退職を不当に迫られ、精神的な苦痛を受けたなどとして、同病院の院長と独立行政法人県立病院機構を相手取り、550万円の損害賠償を求めた訴訟の第1回口頭弁論が10日、静岡地裁(村松秀樹裁判官)であった。病院機構側は、請求の棄却を求めて全面的に争う姿勢を示した。

 訴状では、前科長は08年11月ごろから院長に退職を繰り返し迫られ、今年4月、県立総合病院の実体のない診療科へ異動させられたとしている。

 病院機構側は「業務上の必要性から配転命令を出した。新ポストは実体がある。退職を迫ったことはない」などと反論した。【山田毅】

(毎日新聞、静岡、2009年7月11日)

****** 静岡新聞、2009年6月27日

こども病院NICU、来月以降も新患制限

 県立病院機構は26日、こども病院(静岡市葵区漆山)の新生児集中治療室(NICU)について、7月以降も引き続き、新規患者の受け入れを静岡市内だけに制限すると発表し た。7月から新たに医師2人を確保し、NICUの担当医を4人体制にするが、「専門的な治療の提供には十分ではない」として新患制限を継続する。

 7月に新たに着任する医師は常勤と非常勤が1人ずつ。このほか、院内の他科から医師6人が応援に回る。

 市外の患者については、最も危険度が高い出産に対応する「総合周産期母子医療センター」に指定されている順天堂静岡病院(伊豆の国市)と聖隷浜松病院(浜松市)が対応する 。こども病院は「今後も医師の増員に努め、できるだけ早期に十分な診療態勢を確保したい」としている。

 こども病院は県中部で最も重症の新生児を担当してきた。人事をめぐるトラブルなどで4月、NICU担当の新生児科医が7人から2人に減った。吉田隆実院長は当初、「6月中 に診療態勢の立て直しを図りたい」としていた。

「情報ない」 親の会不安

 県立こども病院のNICUは十分な医師を確保できず、以前の診療機能を回復できないでいる。志太榛原から富士地域までの県中部には、1000グラム未満の早産児や重い疾患 がある新生児を受け入れる医療機関が、同病院のほかにない。常時、医師不足の状態にある周産期医療の各現場が補完し合って、この間、何とか診療をやり繰りしてきた。

 早産で糖尿病を患っていた妊婦1人を順天堂静岡病院に搬送した富士市立中央病院の幹部は、「順天堂が受け入れてくれたので良かったが、今後、もし順天堂がパンクしてしまっ たら大変な事態になる」と話した。静岡市立静岡病院の担当医は「遠方の病院は搬送に伴うリスクや家族の負担が大きい。できるだけ早く態勢を回復してもらいたい」と話した。

 こども病院にかかった子どもの家族が集まる「未熟児で生まれた子どもと親の会」の小林さとみ代表(42)=静岡市=は「これからどうなるのか情報がほとんどなく、戸惑いと 不安な気持ちでいる」と話した。

 今回の診療縮小は、3月まで同病院に在籍していた新生児科の元科長(47)の異動を命じた病院側と、それに反発した医師らの対立が背景にある。同病院に医師を派遣している 日本大小児科の医局は「一連の原因は県立病院機構とこども病院側にある。常勤医は当直を月9回こなすなど、激務も限界にきている。看過できない」としている。

(静岡新聞、2009年6月27日)


地方の産科医療に関する最近のニュース(南丹病院、佐野厚生総合病院、新宮市医療センター、武蔵野赤十字病

2009年07月17日 | 地域周産期医療

****** 京都病院、2009年7月26日

緊急手術で外来休止も、当直は維持

南丹病院の産婦人科医減員で

 丹波2市1町の中核病院である公立南丹病院(京都府南丹市八木町)で、8月から産婦人科の常勤医が2人に減り、出産の取り扱い数を減らして対応する。全国的に医師不足が問題になる中、丹波でも産婦人科医療の課題が表面化した。

 2市1町で出産ができる医療機関は、同病院と亀岡市の民間診療所の2カ所だけ。南丹病院は年間500件前後の分娩(ぶんべん)を取り扱い、「南丹医療圏」で唯一、異常分娩や未熟児を扱う周産期医療二次病院として、早期破水など高リスクの妊婦の大半を受け入れている。

 同病院は8月以降、里帰り出産を制限することで分娩数を月10件前後減らす方針。さらに、帝王切開などが緊急に入った場合、手術中は外来診療を休止するなどの影響が出ることも懸念されている。

 南丹病院の産婦人科は夜間や祝日の当直体制を敷いており、現行の常勤医3人でも「医師の負担が大きい」との声が上がっていた。同病院は当面の措置として非常勤医を増員しようとしたが、現在めどが立っていない、という。医師の当直回数を増やすなどして当直体制を維持する方針だが、「長期になると体力にも限界がある」と医師の健康を不安視する声も出ている。

 国民健康保険南丹病院組合の国府正昭副管理者は「厳しい状況になって住民に迷惑をかけるかもしれない。理解と協力をお願いしたい」と訴えている。

(京都病院、2009年7月26日)

****** 京都新聞、2009年7月25日

南丹病院 8月から分娩数を縮小へ

産婦人科医産休、補充できず

 亀岡、南丹両市と京丹波町からなる「南丹医療圏」の中核医療施設、公立南丹病院(南丹市)が、産婦人科の常勤医3人のうち1人が産休に入る影響で、8月から分娩(ぶんべん)数を減らすことが25日分かった。子宮がんなど高度医療が必要な患者や、府北部の妊婦の受け入れにも、支障が出る可能性がある、という。

 南丹病院の産婦人科は常勤医3人、非常勤医2人の態勢で月約40件の分娩を扱っている。常勤医1人が8月から産休に入ることが判った昨冬以降、医師の派遣元の大学病院に医師補充の要望を続けたが、6月下旬に産婦人科医不足などを理由に「派遣は困難」と回答があった。

 同病院は今月15日、「南丹医療圏の産婦人科医療が崩壊しかねない」として、医師確保に支援を求める山田啓二府知事あての要望書を提出。里帰り出産などを制限して8月以降は分娩数を月30件前後に減らす方針だ。府北部から昨年、妊婦や出産直後の女性の搬送を15件受け入れたが、8月以降は困難になる恐れがある。同病院を運営する国民健康保険南丹病院組合の国府正昭副管理者は「産婦人科医療を守るため医師派遣を引き続き要望する」としている。

(京都新聞、2009年7月25日)

****** 読売新聞、栃木、2009年7月25日

佐野厚生総合病院 出産取り扱い継続へ

 医師不足によって11月末で出産の扱いを休止する可能性が出ていた佐野厚生総合病院(佐野市堀米町)は、医師を確保できることになり、12月以降も出産受け入れを継続することを決めた。休止した場合、県南部の出産受け入れ体制に大きな影響が出ると懸念されたが、回避された。

 同病院の産科の常勤医は現在2人だが、医局とのつながりの深い昭和大学(東京都)や佐野市内の産婦人科開業医の協力を得て、医師の派遣によって少なくとも1日3人体制で勤務できる見通しがつき、出産取り扱いの継続を決めたという。

 同病院は年間に約350件の出産を扱っており、母体や胎児へのリスクが高い出産に対応する県内7か所の「地域周産期医療機関」の1つでもある。

 2007年度に5人だった産科常勤医が08年度に3人に減少、さらに3月末で1人が退職し、医師不足が深刻化していた。

(読売新聞、栃木、2009年7月25日)

****** 産経新聞、和歌山、2009年7月16日

新宮市医療センター 産婦人科医師2人増の4人

 産婦人科の医師不足が課題となっていた新宮市立医療センター(同市蜂伏)は7月から医師2人を増員して4人勤務とし、同科の診療体制を1診から2診に変更した。

 同センター医療業務課によると、産婦人科はこれまで月~金曜の午前と月、水、金曜の午後に1診体制で診察していたが、医師の増員に伴い月~金曜の午前は毎日2診体制となり、午後も月曜は2診(水、金曜は1診)ができるようになった。

 産婦人科の医師は開院当初は3人だったが退職などで2人となり、その後3人体制に戻ったものの17年12月に1人が退職。18年1月から医師2人の状態が続いていた。

 20年4月に大阪府門真市の開業医が勤務することになり3人となったが、この医師も4カ月で退職し、同年8月から2人体制となっていた。

 同センターは新宮市、東牟婁郡内に加え、三重県熊野市などの住民らが利用。“里帰り出産”も含めた平成20年度の出産件数は331件で、産婦人科の治療など外来患者は1万696件、入院患者は5066件-などとなっている。

(産経新聞、和歌山、2009年7月16日)

****** 産経新聞、東京、2009年7月8日

武蔵野市が病院を財政支援 産科医療維持

 産婦人科の救急医療体制維持を図るため、武蔵野市は地域の医療拠点である武蔵野赤十字病院(同市境南町)に財政支援することを決め、同病院と8日、覚書を結んだ。今年度は同病院産婦人科の宿日直手当として500万円を補助する。

 産婦人科の医師不足が各地で深刻化する中、昨年9月に救急搬送された調布市の妊婦が地域の病院に受け入れ拒否されて重症化する問題が起きたことを契機に、市は同病院と対策を協議してきた。

 市健康課によると、市内で現在、周産期の急患の受け入れができるのは、武蔵野赤十字病院と民間開業医の2院だけ。武蔵野赤十字病院の産婦人科医は12人で、夜間や週末の宿直態勢を維持するのに苦心している状態という。

 同病院産婦人科の年間の宿日直手当は総額約2500万円だが、補助額は総患者数に占める市民の割合から算出した。多摩地域で自治体による病院の財政支援は珍しいケース。現在のところ同病院産婦人科に近隣市から財政支援の動きはないという。

 昨年9月の妊婦受け入れ拒否問題後、近隣の武蔵野市、三鷹市の行政や医師会が広域連携で対策を講じるため協議会を開いたが、有効な対策は打ち出せず、その後は協議会も開かれていないのが現状。

 武蔵野市健康課の中野健史課長は「多摩地域でもお産のできる病院数は減っており、多摩西部から武蔵野赤十字病院への患者さんの搬送が増えている。広域で対策を講じていくべきかもしれない」と話している。

(産経新聞、東京、2009年7月8日)


妊婦健診と分娩の取り扱いを地域内で分担

2009年07月09日 | 地域周産期医療

全国的に分娩を取り扱う医療機関の数が激減し、一部の医療機関に患者さんが集中し、分娩を取り扱う医療機関の業務量が著しく増加しています。

地域の状況によっては、分娩取り扱いを休止した産科医療機関が妊婦健診を担当し、分娩を取り扱う医療機関とうまく連携するシステム(セミオープン・システム)を構築すれば、地域産科医療の崩壊をくい止める一助になるかもしれません。

松本地域は、分娩医療機関が6施設(信州大学、県立こども病院、丸の内病院、相沢病院、波田総合病院、わかばレディス&マタニティクリニック)、健診協力医療機関が15施設と、地方都市の中では産科医療機関の施設数が多いという特徴があり、セミオープン・システムを構築する意義は非常に大きいと思います。

飯田下伊那地域の場合、セミオープンシ・ステムのスタート時は、地域内に健診協力医療機関が3施設(下伊那赤十字病院、西沢病院、平岩ウイメンズクリニック)ありましたが、そのうちの2施設の常勤産婦人科医師が離職し、セミオープン・システムの継続が困難な状況となってきました。そのため、昨年4月より飯田市立病院の助産師外来を拡充し、助産師外来3診および産婦人科医による産科外来1診の妊婦健診を毎日実施し、専属の臨床検査技師2名による妊婦の超音波検査も開始しました。その結果、産婦人科医の外来診療の負担が軽減して、地域の周産期医療体制は何とか維持され現在に至ってます。

地域によって状況は全く異なるため、ある地域でうまくいったシステムであっても、他の地域には適用できない場合も少なくないと思われます。各地域で知恵をしぼって、それぞれの地域の現在の状況にマッチしたシステムを構築していく必要があります。

10年先も20年先も持続可能な地域周産期医療システムを構築していくために、次世代を担う多くの若い研修医達が安心してこの世界に参入できるように、充実した研修・指導体制、余裕のある勤務体制、楽しい職場の雰囲気、待遇面での十分な配慮、大学病院との密な連携など、魅力のある研修環境を地域の病院の中に創り上げていくことが大切だと思います。

****** 中日新聞、長野、2009年7月4日

分娩機関での健診が大幅減 松本地域の「出産・子育て制度」

 松本地域9市町村が取り組んでいる「出産・子育て安心ネットワーク制度」で、分娩(ぶんべん)を扱う医療機関の負担を減らす取り組みが広がってきた。妊娠当初から分娩医療機関で診てもらう妊婦は、導入した昨年7月以降は前年同期に比べ約4割減少。医療機関などからは「他の地域でも取り入れるべきだ」といった意見が上がっている。

 松本市内で2日夜にあった同制度の協議会で報告された。この制度は、分娩を扱わない地域の診療所や開業医が「健診協力医療機関」として妊婦健診を担当し、同市の信州大病院や波田町立波田総合病院など分娩医療機関の負担を軽減させる。妊婦は共通カルテ「共通診療ノート」を持ち、異なる医療機関でも情報を共有する仕組みだ。

 昨年7月から今年2月までに、分娩医療機関から妊娠証明を受けて妊婦健診を受けるなどした妊婦は846人で、前年同期比44・7%減少。その半面、健診協力医療機関で妊娠証明と妊婦健診を受けた人は1561人で、同比81・9%増加した。

 従来は、分娩医療機関で妊婦健診も受けていたケースがほとんどで、同健診は地域の診療所などにシフトしている状況だ。

(以下略)

(中日新聞、長野、2009年7月4日)


山梨大指導で分娩再開断念 塩山市民病院 「常勤医1人では緊急時対応不十分」 既に予約、市民に不満 (

2009年06月26日 | 地域周産期医療

コメント(私見):

一昔前までなら、公立・公的病院であっても、常勤の産婦人科医1名の体制で分娩を取り扱うのはごくごく普通のありふれた状況でした。

しかし、長期的に実働の産婦人科医の総数が減り続けて、分娩施設の急減が全国的に問題となり、若い医学生や研修医が専門診療科として産婦人科を敬遠する傾向も顕著でしたので、日本産科婦人科学会も、産婦人科医を増やすためには産婦人科医の勤務環境の改善が急務として3年前に、「ハイリスク妊娠・分娩を取り扱う公立・公的病院は、3名以上の産婦人科に専任する医師が常に勤務していることを原則とする」との緊急提言を発表しました。

最近では、全国的に分娩施設の集約化が進行しつつあり、産婦人科医1~2名体制の公立・公的分娩施設はかなり減ってきていると思われます。産婦人科医1名の体制で分娩を取り扱っている先生方もまだまだ少なくないですが、長年1人医長体制で頑張ってこられた経験豊富な先生方が多いと思われます。今の若い先生方にそれを強要することは絶対に無理だと思います。

日本産科婦人科学会の地道な多方面の努力の成果もあり、最近では「産婦人科を第一に考えています」と元気に答えてくれる若い医学生や研修医の数がだんだん増えてきている印象もあります。多くの大学で産婦人科入局者数が増えているようにも聞いてます。

地域によっては、産婦人科の勤務条件改善の必要性が全く理解されず、1人でも産婦人科医を確保すれば分娩の取り扱いを再開できるという考え方に立って、産婦人科医確保の努力を行っている自治体や病院の事例も、時々報道されています。 もしも、産婦人科の集約化が全く進まないまま、個別の自治体や病院の努力で一人医長体制の産婦人科が復活するだけの状況が続けば、産婦人科の勤務条件はますます悪化するばかりで、母児の安全も確保できませんし、新人産婦人科医も増えないでしょう。 暗黒時代から脱出するために今、我々はどうしたらいいのでしょうか?その一つの回答が日本産科婦人科学会のこの提言だと思います。多くの人に知ってもらいたいです。

緊急提言(日産婦委員会):ハイリスク妊娠・分娩を取り扱う病院は3名以上の常勤医を!

ハイリスク妊娠・分娩を取り扱う公立・公的病院は、常勤産婦人科医3名以上が原則!

                           平成18年4月7日
都道府県知事
市町村長
公立・公的病院長、病院開設者
各位

                                                    日本産科婦人科学会
               産婦人科医療提供体制検討委員会

本委員会は、中間報告書の提出に際して、以下の点について緊急の提言を行います。本提言の趣旨をご理解の上、何卒、迅速かつ適切なご対応をお願い申し上げます。

緊急提言

ハイリスク妊娠・分娩を取り扱う公立・公的病院は、3名以上の産婦人科に専任する医師が常に勤務していることを原則とする。

提言の理由

1. 産婦人科医の不足の原因の一つが、その過酷な勤務条件にあることは、既に周知の事実である。しかし、平成17年度の本学会・学会あり方検討委員会の調査においても、分娩取扱大学関連病院のうちで、14.2%が一人医長、40.6%が常勤医2名以下という事実が明らかとなっており、勤務条件の改善傾向は認められていないと考えざるを得ない。

2. それに加えて、地域の病院によっては、産婦人科の勤務条件改善の必要性が理解されず、一人でも産婦人科医を確保すれば、分娩取扱を継続できるという考え方に立って、産婦人科医確保の努力を行っているという現状がある。

3. 産婦人科医を志望する医師および医学生に対して、近い将来の産婦人科医の勤務条件の改善の見通しを提示するためには、この状況を改善する明確な意思を学会が示す必要があると考えられる。

4. 本提言を実効のあるものとするために、各地域の医療現場で働く産婦人科医師は主体的にその活動の場を再編成すべきである。

****** 山梨日日新聞、2009年6月25日

山梨大指導で分娩再開断念 塩山市民病院

「常勤医1人では緊急時対応不十分」

既に予約、市民に不満

 医師不足で産婦人科の分娩ぶんべんを中止していた甲州市の塩山市民病院(沢田芳昭院長)が、助産師による正常分娩を始めようとしたところ、同病院に医師を派遣している山梨大から指導を受け、断念していたことが、24日分かった。市民の要望に応えようと早期再開を目指した同病院だが、同大は「常勤医が1人しかおらず、緊急時の対応が不十分」と待ったをかけた。医療関係者は「多くの医師派遣を受ける山梨大の方針に従わざるを得なかったのではないか」と病院側対応に同情するが、市民からは不満の声が上がっている。

 同病院によると、産婦人科は当初、山梨大からの派遣医が3人いたが、同大が「小児科医と麻酔科医が確保できない」として全員を引き揚げたため、2007年10月に分娩を中止した。昨年8月、新たに1人が派遣された。

 同病院は、分娩を求めた市民ら7万7千人の署名が提出されたことを重視、早期の分娩再開を模索。正常分娩に限り助産師5人が主体的に措置する仕組みをつくり、緊急時は山梨市内の診療所の産婦人科医と、系列の山梨厚生病院の麻酔科医に協力してもらうことが決まった。

 今年1月、同病院で検診を受ける妊婦のうち、6月以降の出産予定者を対象に分娩の受け付けを始めた。しかし同大から指導を受けたため、4月に取りやめることを決め、予約者に通知した。

 同病院は「診療所は医師1人でお産を扱う。助産師や看護師は多く、正常分娩なら安全と判断した。ただ山梨厚生病院を含め、同大から多くの医師の派遣を受けていて、再開に慎重にならざるを得ない」と説明する。

 同大は、同病院を指導したことについて「院内助産でも母体や胎児に異常があった場合、助産師から医師にバトンタッチする。分娩再開には少なくとも常勤医3人が必要」などと説明。常勤の小児科医、すぐに駆け付けられる麻酔科医がいないことも理由に挙げている。

 同大が地方病院から医師を引き揚げ、拠点病院に医師の集約を図る背景には医療事故が起きた際の訴訟リスクがあり、「お産に百パーセントの安全を求められる時代。万全な体制で分娩を再開したいが、医師不足で難しい」(同大)という。

 ある医療関係者は、県内の多くの病院が、県内で唯一、医師の派遣機能を持つ山梨大に頼っている現状を指摘。「大学の方針に従わざるを得ない傾向を解消するには、医師を増やすことはもちろん、国や県が積極的に大学側へ働き掛けてほしい」と注文する。

 分娩を予約した山梨市上之割の村松幸恵さん(36)は「地元で産めると思って喜んだのに残念」と肩を落とす。分娩再開の署名活動を進めた「子育てネットこうしゅう」の坂野さおり代表は「再開してもすぐに中止されては困る。一日でも早くお産ができる環境を整えてほしい」と訴えている。

(山梨日日新聞、2009年6月25日)

****** 毎日新聞、山梨、2009年6月12日

周産期医療:“減床”の波紋/上 NICU

 新生児や妊婦の命を守る周産期医療。実は山梨県は全国でもトップレベルの水準を維持している。しかし、国立病院機構甲府病院の新生児集中治療室(NICU)の病床数が6から3に削減される見通しとなり、県内の周産期医療の環境は大きく変わりそうだ。【沢田勇】

県は病床数維持の方針 

「スタッフ増やさねば意味なし」

 「ピーピーピー……」

 県立中央病院(甲府市)の「総合周産期母子医療センター」のNICUでは、アラームが頻繁に鳴る。その都度、看護師が慌ただしく保育器に駆け寄り、異常がないか確認する。透明なカバーに覆われた保育器の中では、手のひらに乗るほどの小さな赤ちゃんが手足を動かしていた。人工呼吸器を付けられた、体重わずか500グラムの未熟児だ。

 部屋に9台の保育器が並ぶ。窓のカーテンは日中も閉められたまま。薄暗くして胎内にいるような安心感を新生児に与えるためだ。

 新生児はナースコールを押せない。医師と看護師が常に注意を払わなければならず、張りつめた空気が漂う。

 夜間の当直医は1人だが、容体の悪い新生児がいる場合は、6人の医師全員が未明まで残ることもある。

 「帰れば赤ちゃんが死んでしまうかもしれない。居ざるを得ないのです」。同センター新生児科の内藤敦医長は話す。

 看護師も同じだ。加藤京子・同病院主任看護師長は「NICUは高度の技術や知識が要求される。多くの機器に気を配り続けるのは心身共に緊張を強いられます」と話す。

 NICU9床の稼働率は95%。常に満床に近い状態だ。現在非常勤1人を含む医師6人と看護師34人が24時間体制で勤務する。

   ◇  ◇

 厚生労働省の人口動態統計によると、山梨県の周産期死亡率は07年3・0(1位)、08年3・2(2位)と、全国トップクラスの低さを誇る。だが、00年代初めまではずっとワーストレベルだった。それが06年(3・7)に3位に急浮上。以降、トップレベルを維持するようになった。

 県医務課の山下誠課長は要因として、この総合周産期母子医療センターが設置されたこと、他県に比べ人口当たりのNICU病床数が多いことを挙げる。

 同センターは01年開設。NICUに加え、母体・胎児集中治療室も備えた県内唯一の施設だ。これで県内のNICUは一気に9床増え、15床となった。

 国立甲府病院も04年に3床増床し、市立甲府病院(3床)を合わせて県内18床となった。07年の厚労省の調査によると、人口や年間出生数が山梨とほぼ同じ佐賀県は3床、福井県は9床しかない。

 ところが、5月27日、国立甲府病院のNICUが6床から3床に削減されることを横内正明知事が明らかにした。日大医学部から派遣されている医師2人が9月末に大学に戻されるためだ。

 これを受けて県は周産期医療協議会を開いて対策を検討。県立中央病院を3床増やすことで、県全体のNICUベッド数を維持する方針が決まった。

 しかし、同病院の内藤医長は「ベッドが増えるなら、スタッフも増やさなければ意味がない」と指摘する。

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 ◇周産期死亡率

 周産期(妊娠満22週から生後7日未満)の胎児・新生児の死亡数を年間の総出産数(死産と出産の合計数)で割り、1000例当たりで換算した値。母子保健の重要な指標となっている。

(毎日新聞、山梨、2009年6月12日)

****** 毎日新聞、山梨、2009年6月13日

周産期医療:“減床”の波紋/下 態勢

医師らの確保が生命線 

「床数だけ増やされても…」

 甲府市の県立中央病院・総合周産期母子医療センターは01年9月に設置されて以降、一度も受け入れを拒否したことはない。

 一方で、県内で出産できる医療施設は減少の一途をたどっているにもかかわらず、同センターの新生児集中治療室(NICU)の態勢(非常勤1人を含む医師6人と看護師約40人)は開設以来、ほとんど変わっていない。同センターの負担は大きくなる一方だ。

 にもかかわらず、トップレベルの周産期死亡率の低さを維持できる背景について、同センター新生児科の内藤敦医長は、医師や看護師の経験の豊富さと病院間の連携を挙げる。

 周産期医療が同センターに集中するため、必然的に医療スタッフは多くの経験を積むことになる。

 一方で、満床の場合は他病院に引き受けてもらうなどして医療レベルを確保してきた。特に6床のNICUを持つ国立甲府病院とは「両輪」の関係にある。内藤医長は「誰か来たら誰かを追い出すのでは、救急病床とはいえない」と言葉に力を込める。

 しかし、10月からはその国立甲府病院の6床が3床に減り、その分同センターが増床される見込みだ。

 国立甲府病院の減床は、3人いたNICU担当医が1人になるためだ。しかし、県立中央病院の医師の増員については、今のところ「医師を派遣してもらっている山梨大医学部の協力が得られるかどうか」(県医務課)と、不透明な状況だ。

 「床数だけ増やされても対応できない」。5月28日に開かれた県周産期医療協議会で、県立中央病院の永井聖一郎・母性科主任医長はそう訴えた。新生児科の内藤医長によれば、増床で12床になれば、最低でも常勤医は7人必要という。

 一方、文部科学省は、NICUのない山梨大学医学部付属病院に12年までにNICUを最低6床設置する方針を示している。

 しかし、最終的にはベッド数よりも医師や看護師の確保が生命線となる。

 内藤医長は「今ある山梨の素晴らしい周産期医療をどう維持していくのか、医師だけでなく社会全体で考えていかなくてはならないと思います」と話している。【沢田勇】

(毎日新聞、山梨、2009年6月13日) 

****** 読売新聞、山梨、2007年11月2日

産科激減 近くで産めない不安

 「オンギャー、オンギャー」

 井出ときみさん(30)は笛吹市内の自宅で、生後1か月の長女、杏理(あんり)ちゃんを慈しむようにあやす。「出産を手伝ってくれた先生方には本当に感謝しています」

 杏理ちゃんは9月20日に塩山市民病院(甲州市)で生まれた。10月から産科を停止した病院にとって“最後”の赤ちゃん。分娩は、当番の産婦人科スタッフ全員で見守った。古明地文子産婦人科婦長(49)は「(安産で)ほっとした反面、『ああ、これで最後なんだなあ』とさみしさがこみ上げてきた」と話す。

 同病院の分娩数は309件(2006年度)。ここ4年で約120件も増えた。山梨大医学部から派遣された産科医3人、助産師8人、看護師5人の態勢が敷かれ、県立中央病院や市立甲府病院が受け入れなかった産婦人科救急が回ってくることもあった。07年度は350件に達することも予想して、助産師や看護師は期待と緊張感を抱いていた。

 ところが昨年末、産科医から、「病院を離れることになった」と告げられた。常勤麻酔科医がいないことが理由だった。唐突な知らせに、沢田芳昭院長(67)もしばらく言葉が出なかった。

 病院は1月、新規分娩の受け付け中止を伝える張り紙を張った。受け付けを断られ、肩を落とす妊婦を見て、涙を流すスタッフもいた。「『受け入れられない』と言うのは、心が張り裂ける思いだった」。古明地婦長はそう言って声を詰まらせる。

 県内で分娩を扱う病院は激減している。県医務課によると、10月末現在、県立中央、市立甲府など甲府を中心に8病院だけ。ここ3年で塩山市民を含む6病院が産科医の派遣元大学への引き揚げなどを理由に中止した。医師不足の中でも、産科は深刻な診療科の一つ。都留市立病院でも来年度の存続が困難な状況だ。

 塩山市民病院については、地元の母親らが団体をつくり、存続を求める7万7000人分の署名を田辺篤・甲州市長に提出した。代表の坂野さおりさん(38)は「2人分の命がある妊婦は不安が多い。『近くで産める』安心感は大きい」と訴える。

 産科中止は、他の産婦人科施設に影響を与える。同じ峡東地域にある中村産婦人科医院(山梨市)は先月、分娩数の増加を懸念して「分娩制限」を始めた。同医院は年間260件ほどを扱うが、今年は約300件と予測。中村雄二院長(47)は「(塩山市民病院の中止で)近くで出産したいと思う地域の妊婦がうちに来ているのでは」と分析する。だが、取り扱える分娩数には限界がある。

 塩山市民病院の2階。かつての産科病棟には、妊婦用の個室や分娩室、新生児室などが残ったままだ。

 「いつまでも放置はできない。しかし、別の科にしたら、分娩がなくなることが確定してしまう」

 沢田院長は、苦悩の表情を浮かべながら言った。【越村格】

(読売新聞、山梨、2007年11月2日)

****** 読売新聞、山梨、2007年11月6日

分娩取り扱う病院 激減

関係者に聞く

 県内で分娩を取り扱う病院が激減している。県内唯一の医師派遣機関である山梨大学は、お産のリスクへの対応が万全でない病院から医師を引き揚げている。一方、自治体や地域病院は、地域バランスへの配慮を訴える。産科の集約化が必要とみる星和彦・同大医学部付属病院長と、来年3月で産科医派遣中止を通告された都留市立病院の大原毅名誉院長に聞いた。

【地域バランス配慮】

大原毅 都留市立病院名誉院長

――県東部唯一の産科が開設以来6年でなくなるのか。

 都留市立病院では、分娩予約を8月9日から休止した。集約化するなら地域バランスに配慮すべきと、市長や市議会が10月18日に山梨大医学部付属病院長と横内知事に、分娩継続を求める市民2万15人分の署名を添えて要請書を提出した。18歳以上の市民の87%を占めた署名数の重みは市民以上に十分認識している。

 一方で、分娩を扱う態勢について、大学側が安全面で万全を求めることも医師として理解でき、ある意味では板挟みになっている。私の両親は都留市出身で、自分も戦時疎開で小学2年から中学卒業まで過ごした都留は第二の故郷。やむを得ず休止にしたことに非常に胸が痛む。

 ――山梨大が分娩を継続する条件の一つとしている常勤麻酔科医確保の見通しは。

 大学の医局から確保するのは極めて難しい状況と言わざるを得ない。全国的に麻酔科医の数は増えているが、手術の件数も増えており、どこの病院でも不足している。当院は民間、公立の病院を問わず勤務医をあたっている。しかし、麻酔科医は決まった病院に勤務せずに複数の病院と契約するケースも多く、4000万~5000万円の収入を得ているとも聞く。地域医療を守るため、フリーではなく勤務医を探している。

 ――なぜこれまで常勤の麻酔科医を確保してこなかったのか。

 麻酔科医は、当院開設の1990年から非常勤医で対応してきた流れがある。また、帝王切開で緊急手術が必要な年間約10件の重篤患者は、甲府市の県立中央病院に救急搬送するという2次医療圏の病院の役割を支障なく果たしてきたからだ。06年度の分娩数は396で、隣接の大月と上野原の分が140件を占めている。

 ――医師の派遣元は分散していないのか。

 山梨、自治医科、千葉、群馬、東京女子医科、順天堂の6大学から常勤医19人、非常勤41人が派遣されており、分散はしている。最大の派遣元は山梨大で、常勤医は産科の3人を含む9人で非常勤医は36人。非常勤の麻酔科医13人も全員山梨大からの派遣だ。

 助産師は今3人いるが5人以上にして安全性を充実させたい。都市と地方の医療の地域格差は歴然だ。医師のリスクが回避されないと地域医療は守れないとの側面は否定できない。

 ――分娩予約を休止した。余波とアフターケアは。

 「地元で産めないのはとても不安だ」などの声が当院に直接寄せられている。8月8日までに予約された方は、昨年度並みの350人ほどいるが、このままでは来年3月20日以降は出産はできなくなる。出産予定がそれ以降の30人ほどの妊婦については、受け入れ可能なほかの病院について責任を持って個別相談と紹介に応じている。(聞き手・林浩也)

【産科集約 やむを得ず】

星和彦 山梨大医学部付属病院長

 ――県内の産婦人科医不足の原因は何か。

 産婦人科医は勤務がきつく、厳しい。高い緊張感を伴うことなどから3Kとも4Kともいわれる。他の診療科より訴訟件数も多く、若い医師が、こうしたリスクが高い科を避けることはある。そして、2004年に福島県内で産婦人科医が逮捕された大野病院事件が起きたのが大きかった。一生懸命やった医師には故意でもなく悪意もないのに。若い医師が産婦人科を希望しなくなったのは当然だ。

 さらに、学生が研修先を選べる新医師臨床研修制度が04年に始まり、研修医が大都市の有名病院に集中して、地方には残らない状況となった。その結果、山梨大に04、05年に入った産婦人科医はゼロ。06年は2人、07年は1人だけだった。

 山梨大学にきて12年になるが、県内の産婦人科の勤務医は、年平均で3人が退職する。ここ4年間で県内の勤務医は12人前後減少したのに、3人しか補充されていないという計算になる。

 ――山梨大学医学部の状況は。

 産婦人科には一時期、医局員が30人いたこともあるが、新研修制度の導入のころから雲行きが怪しくなった。地域に派遣する医師数の維持に努めてきたが、大学では17人まで減少した。分娩、手術、教育、研究を十分にカバーするには、実際は24、25人は必要なので、今以上に減らすことはできない。

 ――都留市立病院から産科医を引き揚げざるを得ない理由は大学の事情か。

 それもあるが、一方で、各病院には前々から訴訟を避けるため、万全の態勢を敷いてくれとお願いしてきた。都留市立は難しかったようだ。産科では、急に赤ちゃんの心音が聞こえなくなったり、母胎の出血が止まらなくなったりするなど、緊急事態が起きる。15~30分以内に赤ちゃんを出してあげることが必要な時もある。特に、大野病院事件が発生して以来、常勤の麻酔科医や小児科医がいて、助産師もそろっている態勢でないと大変であるとの認識を強く持った。それが整わなければ、医師の生活と健康を守るために、産科の中止を通告せざるを得なかった。

 ――今後の産科医療はどうあるべきか。

 病院の拠点化・集中化を図るしかないのでは。例えば3病院に3人ずつ医師がいるより、1病院9人のほうが、1日当たりの医師の負担は増えても、当直は9日に一度で済む。郡内では、分娩を扱っている3病院を1~2病院にすべきと考える。もし3病院の医師を集約して産婦人科を立ち上げることができたら、素晴らしい診療科になると思う。

 また、産婦人科医の維持には給与など、待遇の改善が必要だ。現行の医療保障制度を改め、医師側に過失がなくても患者側に補償金が支払われる無過失補償制度を早急に整備すべきとも考えている。(聞き手・林英彰)

◆大野病院事件 福島県大熊町の県立大野病院で04年12月、帝王切開手術を受けた女性が失血して死亡。同県警は06年2月、業務上過失致死と医師法(異状死体の届け出義務)違反の容疑で担当した産婦人科医を逮捕した。医師は起訴され、現在、福島地裁で公判中。

◇ここ3年間 6病院中止

 県内で分娩を取り扱っているのは8病院。県医務課によると、ここ3年で、大月市立や上野原市立、白根徳洲会など計6病院が取り扱いを中止した。

 一般の救急医療や入院医療サービスを提供する2次医療圏別にみると、分娩を扱う病院は甲府市などを含む中北に5病院、富士・東部に3病院。峡南、峡東の両医療圏はゼロという状況だ。

 厚生労働省によると、県内の産婦人科医の数は2000年末には88人だったが、02年、04年はそれぞれ87人、85人と微減傾向にある。一方、山梨大で勤務する産婦人科医の数は、1998年の22人から01年には30人にまで増加。しかし、その後は減少を続け、05年に20人を切った。07年は17人にまで減っている。

◇求められる現実直視◇

 医師を守る立場の大学も、市民のために産科存続を目指す地域病院も、医師不足にあえいでいるのは同じだ。星院長、大原名誉院長とも互いの事情を知り尽くしており、インタビューでは相手への気遣いともとれる発言が目立った。

 そもそも、9月いっぱいで分娩の扱いを停止した塩山市民病院や、都留市立病院が産科を始めたのは、地域での産科医療の強化の必要性を感じた星院長が医師を派遣したからだ。星院長にとって、医師の引き揚げが苦渋の選択であることは想像に難くない。

 現状のままであれば、医師の集約化が不可避と言えそうだ。各自治体は、県内の医師不足の現実を直視し、そのうえで地域として最良の選択は何かを、考える必要があると思う。(英)

(読売新聞、山梨、2007年11月6日)

****** 毎日新聞、山梨、2007年11月22日

お産難民のゆくえ:求められる「助産師」像/上 

分娩体制崩壊の危機

産婦人科医の確保に限界

 全国的に産婦人科医不足が進み、県内でも分娩(ぶんべん)できる医療機関が激減する中、妊婦が安心して身近な施設で出産できない「お産難民」が現実になりつつある。県は医師確保に奔走する一方、助産師の存在に着目し、妊婦の健診を行う「助産師外来」の検討に入った。ただ、県内の医療機関における助産師の充足率は全国最低レベルという問題を抱える。助産師はお産難民を救えるのか――。可能性を探った。【吉見裕都】

 県東部で唯一出産ができる都留市立病院(都留市)の関係者らが10月中旬、市民約2万人の署名を携えて山梨大医学部付属病院(中央市)の星和彦病院長を訪れた。きっかけは、都留病院の産婦人科に医師を派遣している付属病院が示した08年4月からの引き揚げ方針。付属病院の医師不足が理由だが、都留病院は同3月から分娩中止に追い込まれるため、関係者が医師の派遣継続を付属病院に訴えた。

 集まった署名は、約1カ月で18歳以上の市民の9割近く。短期間での盛り上がりに、市議会の藤江厚夫議長は語気を強めた。「市民も切羽詰まっている証拠だ」

 同様の理由で、9月末で分娩を取りやめた甲州市の塩山市民病院でも、医師の派遣継続を求めて約7万7000人が署名した。

 30年にわたり甲府市下石田2で開業している「杉田産婦人科医院」(杉田茂仁院長)も、10月から分娩を取りやめた。1人で対応してきた杉田院長(70)は「365日24時間働き、人間的な生活はできないと覚悟してきたが、年齢的に厳しくなった」と話す。長男(40)は千葉の病院で産婦人科医として勤務するが、「医師1人の開業は安全面で懸念を持っているようだ」とした。

 県内の分娩可能な医療機関はここ10年で半数以下の17カ所に減少。うち9カ所が甲府市内に集中している。

  ×  ×  ×

 困窮の度合いを増すお産現場の改善に向け、分娩場所の拠点化や医師の集約化が議論に上っている。国立病院機構甲府病院の外科系診療部長で産婦人科医の深田幸仁医師(44)は「若い医師が安全に安心して働ける勤務環境を整えないと産婦人科医は増えない」と訴え、この動きを支持する。

 受け入れ病院が決まるまでの照会件数は、消防庁によると、県内は04年のゼロから06年は▽1回1件▽3回2件▽5回1件――と急増した。集約化により、既に分娩場所のない峡南地域など都市部以外の妊婦に、さらなる長距離移動を強いることにつながりかねないとの指摘もある。

 県産婦人科医会の武者吉英会長は「2、3年後には県内の分娩体制が崩壊する恐れがある」と警鐘を鳴らす。県は、県内で医師として働くことを条件にした奨学金制度の導入などに着手したが、限られた産婦人科希望の学生を全国で奪い合う構図に「限界がある」との声も漏れる。

 そんな中、横内正明知事は9月議会で助産師外来設置の検討を表明した。病院によっては1人の医師が1日で70人もの妊婦に行う健診を助産師に担ってもらい、医師の負担を減らすのが狙いだ。医師不足をカバーしようと、同医会も助産師を養成しやすい仕組み作りを行政に働きかけ始めた。「医師が一人前になるには何年もかかる。助産師養成の方が早く、頼もしいパートナーになり得る」。武者会長も期待を寄せる。

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助産師 保健師助産師看護師法(保助看法)で定められた国家資格。助産師になるには、大学の看護学科で学んだり、看護師資格を取得して「養成所」に1年間通った後、国家試験に合格する必要がある。保健指導や正常分娩の介助、子宮収縮の状態を調べる「内診」などの助産行為にあたることができる。

(毎日新聞、山梨、2007年11月22日)

****** 毎日新聞、山梨、2007年11月23日

お産難民のゆくえ:求められる「助産師」像/中 

助産師主導に賛否両論

医療事故時の対応に課題

 「生まれた赤ちゃんをすぐに母親の胸に置くと、赤ちゃんは慣れ親しんだ心音を聞き、泣きもせずに静かに過ごします。へその緒も急いで切る必要はなく、1時間もすると自分でおっぱいに吸いつく。この時間が母子にかけがえのないきずなを築かせるんです」

 今月2日、甲府市内で行われた講演会。自然分娩(ぶんべん)を中心に行っている上田市産院(長野県上田市)の広瀬健副院長は、分娩のあるべき姿として熱っぽく語った。

 一方で、一般的な病院での分娩は「訴訟に対する『医師の安全』を優先している」と疑問を表明。妊娠から分娩、産後まで長期的に助産師が主導し、異常出産時に産婦人科医がバックアップする体制の確立を訴えた。

 ただ、助産師が分娩まで行う助産院は、県内に2施設しかない。その一つ、韮崎助産院(韮崎市富士見1)を訪れると、甲府市善光寺2、主婦、田中真理さん(30)が助産師の雨宮幸枝さん(65)と紅茶を飲みながらくつろいでいた。「病院での分娩は不自然さを感じます。本来人間に備わっている力でお産をしたい」。田中さんは助産院を選んだ理由をこう話し、雨宮さんに絶対の信頼を置いている様子だった。

 出産をスムーズに行うため、病院分娩では陣痛促進剤がよく使われ、会陰切開も少なくなく、赤ちゃんは母親と離れて数日間、新生児室で過ごす。助産師による自然分娩を望む妊婦もいるが、甲州市のサークル「子育てネットこうしゅう」の坂野さおり代表(38)は「妊婦と病院で産みたいスタイルにズレがあるが、出産施設の減少で選択肢がない」と妊婦の悩みを代弁する。

 一方、医師側は「助産師主導」の早期展開に懐疑的だ。県産婦人科医会の武者吉英会長は、情報化の進展で妊婦は高度な出産知識を持っているとして、「助産師に妊娠から産後まで任せるといっても、医療事故まで受け入れられないだろう。仮に妊婦にその気持ちがあっても、夫や両親といった周辺は納得しない」と分析。韮崎助産院でも分娩直前に家族に促され、最終的には病院でお産をする妊婦も時折いるという。

 国立病院機構甲府病院の産婦人科医、深田幸仁医師(44)は、さらに「リスクを背負うことになり、助産師自身が主導を望んでいるかどうか」と指摘する。今年2月には新生児の死亡は助産師の過失が原因として、横浜市の医院が慰謝料など5320万円を求められる訴訟が起こされ、06年には栃木県の助産所の助産師が新生児の死亡事故で提訴され、3700万円で和解している。

 武者会長は「医師の厳しい勤務環境が続く中、助産師に仕事が流れるなどという思いはなく、助産師の活躍の場が広がるのをむしろ歓迎する」と話す。ただ、深田医師は「助産師主導」について、「検討する前に、妊婦と助産師の意向を確認する必要がある」と述べ、前のめりの議論にくぎを刺した。【吉見裕都】

(毎日新聞、山梨、2007年11月23日)

****** 毎日新聞、山梨、2007年11月26日

お産難民のゆくえ:求められる「助産師」像/下 

医師との分業体制

“ダンス踊れる”連携必要

 「スタッフがついてこれるか、いつも気にしています」
 助産師外来を導入している渕野辺総合病院(神奈川県相模原市)の尾崎信代看護師長は10日、甲府市であった県母性衛生学会で講演後、参加者の質問にこうもらした。
 助産師外来とは、妊婦への健診や保健指導を助産師が行い、分娩(ぶんべん)は医師の責任下に置く分業体制で、同病院は05年10月に開設。尾崎さんは「異常の発見ではなく、お産が正常に進むように妊婦の『セルフケア』を誘導していくのが助産師の役割」と述べ、医師との分担の必要性を説く。

 課題は「マンパワー」。同病院の常勤助産師8人のうち外来は4人で担当しているが、実際は尾崎さんが8割を担う。長く医師のサポート役だったこともあり、助産師が責任を負う外来に行きたがらないという。

 助産師のかかわり方として、▽助産師主導の分娩▽病院の助産師外来▽地域で開業した助産師が健診、分娩は病院――などさまざまな方法が考えられ、医師の仕事量が減るのは間違いない。これにより、激務のため敬遠していた医学生が産婦人科医を志す可能性は高い。

 しかし、医師と同様、絶対数が少ないのは助産師も同じだ。助産師の数は全国でピーク時5万人を超えていたが、今は2万人台で、県内も158人(06年12月末)と減少傾向。日本産婦人科医会によると、県内の助産師の充足率(06年3月)は診療所が16・28%と全国ワースト2位、病院も71・33%で同4位と低水準に陥っている。

 県内で助産師になるには、県立大看護学部か山梨大医学部看護学科で学ぶしかないが、枠は十数人分しかなく、何人かは県外へ出てしまう。他県には看護師を対象に1年間で助産師資格が取れる「養成所」があるが、県内にはない。県立大の伏見正江准教授(助産学)は定員や教員の増加を訴え、県産婦人科医会の武者吉英会長は行政による養成所設置を提案する。

 助産師の熱意の醸成も重要だ。活躍の場が広がることを期待する助産師ばかりではないが、韮崎助産院(韮崎市富士見1)の助産師、雨宮幸枝さん(65)は訴える。「妊婦さんにはいい状況といえないが、助産師が見直されるチャンス。母子の命を守る厳しい仕事だが、お産の喜びはたまらないはず」。尾崎さんも「自分の技術でお金をもらうんだからプロ意識を持って」と強調する。

 県内でも、医師と助産師が連携する動きが出てきた。近くの産婦人科医、中島達人医師(58)や国立病院機構甲府病院の深田幸仁医師(44)と連携する雨宮さんは「恥をかいてもいいから早めの相談。状況が悪くなってからではお医者さんも困るでしょう」と相互連絡の“ツボ”を話す。

 ただ、深田医師は懸念する。「新生児集中治療室(NICU)のある病院がない郡内地域では医師もバックアップできない。そもそも忙しい医師が十分に助産師を支えられるのか」。医師確保も重要というわけだ。

 自分の体験も踏まえ、雨宮さんは医師との協力関係をたとえた。「医師と助産師はチークダンスを踊れるような関係じゃないといけないんですよ」【吉見裕都】

(毎日新聞、山梨、2007年11月26日)

****** 毎日新聞、長野、2009年6月25日

小諸厚生総合病院:産婦人科診療を再開 

常勤医復帰で--来月1日から

 常勤医の病気療養に伴い4月以降の分娩受け入れを中止していた小諸市の小諸厚生総合病院が、常勤医が復帰したことから、7月1日から産婦人科の診療、妊婦検診を再開することになった。23日からは、合併症がなく正常な分娩に限定して8月以降の予約の受け付けを始めた。

 常勤医1人が病気で休んだ後、もう1人の産科医師が5月に退職したため、信大病院などの医師2人が週2回、小諸厚生総合病院の婦人科の診療を担当。4~9月の分娩予定の約160件は、これまで佐久市の病院などに紹介してきた。

 今後は当面、月10~15件の出産を予定。医師の確保ができ次第、順次態勢を整えていくという。
【藤澤正和】

(毎日新聞、長野、2009年6月25日)

****** 信濃毎日新聞、2009年6月23日

小諸厚生総合病院 8月から条件付きで分娩再開

 4月以降、出産の受け入れを見合わせていた県厚生連小諸厚生総合病院(小諸市)は23日から、出産予定日が8月上旬以降で、合併症がなく出産リスクも低い妊婦に限り、分娩の予約を再開する。3月から病気療養していた産婦人科の常勤医1人が復帰するためで、7月1日からは妊婦健診など産婦人科の診療も再開する。

 同病院では3月以降、十分な数の医師を確保できなかったため、4~9月の出産予定者のうち150人余を佐久市立国保浅間総合病院などに紹介していた。4月末にはもう1人いた常勤医が退職し、5月からは信大病院(松本市)と県厚生連篠ノ井総合病院(長野市)の医師2人が非常勤で婦人科に限り診療をしてきた。

 分娩は復帰した医師が担当し、受け入れ件数は1カ月当たり10~15件から始める。今後の対応は医師確保の状況などで判断していく。リスクのあるケースは近隣の病院に紹介する。小諸厚生の中村みゆき助産師長は「病院として受け入れが可能か、状況や経過を把握する必要があるので、お産を希望する人は来院前に必ず電話をしてほしい」と話している。

(信濃毎日新聞、2009年6月23日)


神奈川県の産婦人科常勤医15人増

2009年06月21日 | 地域周産期医療

最近は若い医師の産婦人科志望者が増加傾向にあるように思います。この傾向が今後も長く続いてくれるといいのですが...

****** 東京新聞、神奈川、2009年6月19日

産科医なお不足 常勤医15人増 多い若手 経験豊富な働き手必要

 県内で出産を取り扱う医療機関に勤務する常勤医師数が本年度、四百五十二人に達し、前年度から十五人増とやや上向きに転じたことが、県の産科医療調査で分かった。産科医不足の傾向に一矢を報いた形ともいえるが、医療現場の医師不足はまだ解消されたとはいえず、各自治体や医療機関は担い手確保の努力を引き続き迫られそうだ。 (中山高志)

 県保健福祉部によると、産科の常勤医師数は二〇〇七年に四百三十八人、〇八年に四百三十七人と、ここ数年横ばい傾向だった。本年度、増加した十五人のうち、十四人が女性だった。

 ただ、医療機関が必要と考える人員体制や、実際の勤務数などから計算すると、全体で常勤医師が計百四十一人、常勤助産師が二百二十六人不足するという。

 一方、助産所を含めた出産取り扱い施設の数は百六十二カ所で、前年度比二カ所減とほぼ横ばい。内訳は病院と診療所がそれぞれ六十五カ所、六十二カ所で前年度と同じ。助産所は三十五カ所で二カ所減少した。

 この調査結果は、医師確保策について話し合う「医療対策協議会」で報告された。出席者からは、「医師が増えたといっても若手が多く、すぐに現場の負担軽減につながるわけではない」など、産科医療の厳しい実態を訴える声が相次いだ。

 県保健福祉部の担当者は、「産科医療の魅力に目を向ける医師が増えたことが常勤医増につながったのではないか。今後も、産科医が勤務を継続できるような取り組みを進めたい」と話している。

(東京新聞、神奈川、2009年6月19日)

****** 毎日新聞、神奈川、2009年6月19日

産科医:141人不足、医療機関が認識--県調査

 県内で分娩(ぶんべん)を取り扱う医療機関で常勤医師が計141人不足していると、医療機関は認識していることが県の調査で分かった。今年度の常勤医師数は昨年度比15人増の452人だが、県保健福祉部の担当者は「現場に不足感が強い。行政も負担軽減を図り、医師確保の取り組みを進めたい」と話している。

 今年度に分娩を取り扱う施設数は▽病院65カ所▽診療所62カ所▽助産所35カ所。病院・診療所は昨年度と同数だが、助産所は2カ所減った。分娩の取扱件数は819件増の7万533件、施設別では病院で1653件増と予想され、分娩が病院に集中する傾向がある。【木村健二】

(毎日新聞、神奈川、2009年6月19日)

****** 産経新聞、神奈川、2009年6月16日

産科医が増加 県の分娩に関する調査

 神奈川県がまとめた「産科医療および分娩(ぶんべん)に関する調査結果」によると、平成21年度の県内の分娩取り扱い施設に勤務する常勤医師数は452人で、20年度に比べて15人増加した。分娩取り扱い施設数も病院が65、診療所が62で、20年度に比べて横ばい。いずれも調査を始めた18年度からおおむね減少傾向にあったが、転じた格好となった。

 県によると、常勤医師の増加分15人の内訳は男性1人、女性14人。また、分娩取り扱い施設は、助産所が20年度から2施設減って35施設だった。分娩取り扱い件数はこれまで7万件前後で推移しており、21年度は7万533件の見込み。

 ただ、医療機関が不足していると考える人員については、常勤医師が141人、常勤助産師が226人で、県内の周産期医療体制は依然として厳しいことがうかがえる。

(産経新聞、神奈川、2009年6月16日)

****** 読売新聞、神奈川、2009年6月16日

常勤産科医141人不足 県調査

「当直減らしたい」

 県内の常勤産科医は141人足りないのに、常勤より負担の少ない非常勤産科医は必要な人数より56人多いと、医療機関側が考えていることが15日、県の調査でわかった。常勤医がさらに必要な理由として「当直回数を減らしたい」とする回答が多く、医療機関は、常勤医の激務を緩和したいと考えていることがうかがえる。県は、産科医の確保策を講じているが、目立った効果は上がっておらず、常勤医不足の解消には時間がかかりそうだ。

 調査は4月、県内の医療機関にアンケートで行った。お産を扱う医療機関127施設のうち、現状の医師数や必要な医師数については121施設が回答した。それによると、121施設の常勤産科医421人に対し、本来は562人が必要と考えていることがわかった。一方、非常勤の産科医は、必要な387人を上回る443人が勤務していた。

 常勤医がさらに必要な理由について、半数近くが「医師1人当たりの当直回数を現状より減らすため」と回答した。次いで「医師1人当たりのお産の扱い数を現状より減らすため」が多かった。

 県は産科医確保のため、出産や育児で離職した女性産科医の職場復帰を図ろうと、県立病院で再教育訓練する事業を2007年に始めたが、申し込みはない。復職を考える産科医に勤務地、当直の可否などを登録してもらい、勤務条件が合致する医療機関を紹介する「医師バンク」も昨年3月のスタート以降、就業を成立させた実績はない。

 県は「今後、現在勤務している医師らが辞めないような工夫を検討していきたい」としている。

(読売新聞、神奈川、2009年6月16日)


「過酷な」勤務実態で産科女医の就労継続困難に

2009年06月07日 | 地域周産期医療

コメント(私見):

最近の若い産婦人科医では、女性医師の占める割合がだんだん多くなってきてます。女性医師の場合、自身の妊娠・出産・育児と仕事の両立が難しくなって、就労継続を断念し離職する者も少なくありません。院内保育所の整備、柔軟な勤務形態(フレックスタイム、短時間勤務、ワークシェアetc.)の導入など、女性医師が就労継続しやすい職場環境を整える必要があります。

柔軟な勤務形態を導入しても業務に支障がでないようにするためには、産婦人科医の頭数を増やすことと同時に、産婦人科を志望する男性医師を増やしていくことも非常に重要だと思います。

たまたま当科の女性医師が医局人事の異動、個人都合などで同時に2人退職した関係で、今月から当科の常勤産婦人科医は(当世では珍しく)男性医師のみ5名の診療体制となっています。やはり、女性医師を待望する巷の声もちらほら耳にします。

ここ20年間だけでも日本の産婦人科医療提供体制は大きな変貌を遂げました。その間の当科の職場環境の変化も非常に大きかったです。今後も試行錯誤を繰り返しながら、女性医師にとっても男性医師にとっても、働きやすい理想の職場環境の実現に向けて、自ら変化していく必要があります。

****** CBニュース、2009年6月4日

「過酷な」勤務実態で産科女医の就労継続困難に

【要約】 日本産科婦人科学会は、「産婦人科勤務医・在院時間調査」の最終報告書を公表し、病院産婦人科の厳しい勤務環境は、特に結婚・出産などを経た40歳以上の女性医師の継続的就労を困難にしている可能性があるなどとした。調査は、「卒後研修指導施設」750病院を対象に、昨年6月から11月にかけて実施。一般病院に常勤する産科医451人と、大学病院に常勤する産科医182人から回答を得た。一般病院勤務医451人のうち、がん診察専門施設勤務医を除き、当直体制のある一般病院勤務医は364人、当直体制のない一般病院勤務医は80人だった。データを回収した40歳以上の女性医師数は一般病院と大学病院を合わせて38人で、男性医師数256人に比べて非常に少なかった。現状の病院産婦人科の勤務環境は、家族のいる40歳以上の女性医師が継続的な就労をするには条件が厳し過ぎる可能性があるとした。20歳代と30歳代の産婦人科医に占める女性医師の割合が多いことから、こうした人たちが40歳以上になっても病院勤務を継続して臨床現場を支え、若手医師を指導できる環境を整備することによって初めて、「産婦人科医療の将来に明るい展望を持つことが可能になる」と強調。「過酷な」勤務実態を改善し、「在院時間の短縮」を達成するための具体的な方策を立案し実行することが必要と結論付けている。

(CBニュース、2009年6月4日)


昭和伊南病院に婦人科医着任 外来拡大、入院にも対応 (長野日報)

2009年06月04日 | 地域周産期医療

塩尻市で産婦人科を開業されていた山田医師が、2010年5月からは駒ケ根市内で産科クリニックを開業し分娩も取り扱う予定とのことです。駒ケ根市民にとっては朗報だと思います。

駒ケ根でお産ができる 産婦人科医院来年5月開業 (長野日報)

長野県・上伊那地域の産科医療

****** 長野日報、2009年6月2日

昭和伊南病院に婦人科医着任 

外来拡大、入院にも対応

 駒ケ根市の昭和伊南総合病院に1日、婦人科医の山田雅人医師(61)が着任した。辞令を伝達した長崎正明院長は「地域住民は婦人科医を切望していた。活躍に期待しています」と歓迎した。

 山田医師はこれまで同院の非常勤医師だったが、今後は産婦人科長として常勤となり、入院にも対応する。来年5月からは市内に産婦人科医院を開業し、お産も取り扱うという。

 昭和伊南は昨年4月以来、産婦人科の常勤医師が不在で、外来診療は非常勤医が週4日行っていた。山田医師の着任で、1日から平日は毎日診療できる体制となった。これまで20週までだった妊婦検診を30週まで拡大することも検討している。昭和伊南での分娩(ぶんべん)については再開の予定はない。

 山田医師は「できるだけの力を発揮して病院に貢献し、地域の皆さんのために頑張りたい」と抱負を語った。

(長野日報、2009年6月2日)

*** 医療タイムス、長野、2009年6月4日

産科医2人が産休へ 伊那中央産婦人科

 伊那中央病院産婦人科に1日付で、信大病院から横西哲医師が着任した。これで同科は7人体制になったが、2人が妊娠しており、うち1人は9月末ごろから産休に入る見込み。同院は、月100件平均受け入れている分娩の取り扱いに当面は支障はないとしながらも、「2人が産休した場合は厳しい」ことから、引き続き信大病院などに医師派遣の要請を行っていく。同院の産婦人科医は、7人中5人を女性が占めている。

(医療タイムス、長野、2009年6月4日)


駒ケ根でお産ができる 産婦人科医院来年5月開業

2009年06月01日 | 地域周産期医療

コメント(私見):

駒ヶ根市では、従来、昭和伊南総合病院が年間5百件程度の分娩を取り扱ってました。昨年4月より昭和伊南総合病院・産婦人科の常勤医が不在となり、現在、同病院での分娩の取り扱いは休止されてます。

伊那中央病院では、上伊那地域に在住する妊婦さんの分娩をほとんどすべて受け入れるために、現在、里帰り分娩の受け入れを全面的に断っているそうです。

来年5月に駒ヶ根市内に産科医院開業の予定があり、それが実現すれば、伊那中央病院での里帰り分娩の受け入れも、ある程度は可能となるかもしれません。

****** 長野日報、2009年5月30日

駒ケ根でお産ができる 産婦人科医院来年5月開業

 駒ケ根市の杉本幸治市長は29日の定例記者会見で、来年5月から市内に個人の産婦人科医院が開業することを明らかにした。お産も取り扱うという。

 昭和伊南総合病院が昨年4月から分娩の取り扱いを休止し、上伊那地方で出産できる公立病院は伊那中央病院のみとなり、開業医も限られている。市によると、開業する医師は昭和伊南に今月から着任している。開業するまでは、昭和伊南に勤務する。

(以下略)

(長野日報、2009年5月30日)


長野県・上伊那地域の産科医療

2009年05月25日 | 地域周産期医療

上伊那地域では、従来、町立辰野総合病院(辰野町)、伊那中央病院(伊那市)、昭和伊南総合病院(駒ヶ根市)の3公立病院のそれぞれの産婦人科で分娩を取り扱ってきました。この3病院にはそれぞれ2~3人の常勤の産婦人科医が勤務してました。

ところが、平成17年に町立辰野病院・産婦人科の常勤医がいなくなって、同院での分娩の取り扱いを中止しました。また、平成20年には昭和伊南総合病院・産婦人科の常勤医がいなくなって、同院での分娩の取り扱いを中止しました。さらに、産婦人科の開業医の先生方も、高齢のため次々に分娩の取り扱いを中止しました。

そのため、地域内のほとんどすべての分娩が伊那中央病院に集中するようになりました。同病院は、この地域の産科医療の最後の砦として、幾多の困難を乗り越えて頑張っています。産婦人科の常勤医を6人に増員し、施設も増築して、分娩件数の急増に対応しています。

元来、この地域の産科施設では年間千6百件程度の分娩を取り扱っていたそうですから、伊那中央病院が千2百件程度の分娩を取り扱うにしても、4百件程度の分娩の受け入れ先が地域内で見つからないことになってしまいます。しかし、来春には駒ケ根市内で産科医院開業の予定があるとのことですから、そうなれば現在の危機的状況もある程度は緩和されると思われます。諏訪地域や飯田下伊那地域などの近隣地域の産科関係者もできる限り連携・協力し、一緒にこの危機を乗り切っていきたいと思います。

地方の産科医療にとって、医師の確保は最大の課題ですが、地方の病院が自力で医師を確保するのは非常に難しく、最終的には大学病院の人的支援に頼るしかありません。それぞれの地域の状況に応じて、医師確保、病診連携、助産師パワー活用など、地域産科医療の崩壊をくい止めるための最大限の自助努力を継続してゆく必要があると思います。

****** 信濃毎日新聞、2009年5月23日

伊那中央病院、分娩数過去最多1170件

08年度 昭和伊南扱い休止で

 伊那中央病院(伊那市)が2008年度に扱った分娩の件数は、前年度より149件増の1170件となり、開院した03年度以降で最多だったことが22日、分かった。昭和伊南総合病院(駒ケ根市)が08年度から、医師不足のためお産の取り扱いを休止したことが影響したとみられる。医師数や施設の面から「ぎりぎりの状態が続いている」(事務部)としている。

施設や医師数 「ぎりぎりの状態続く」

 伊那中央病院で03年度に扱ったお産は年間733件で、04年度も700件台だった。だが、05年度は辰野総合病院(辰野町)が医師不足によりお産の扱いを休止したため、940件に増加。伊那中央が上伊那地方のお産の大部分を担っている。

 年間約500件を扱ってきた昭和伊南がお産の扱いを休止したのを受け、上伊那地方の関係機関は、伊那中央が里帰り出産の受け入れを断った上で、年間1000件だった扱いを約1200件に増やすことを確認していた。年間約300件の要望があるとみられる里帰り出産は、今後も断らざるを得ない状況だ。

(以下略)

(信濃毎日新聞、2009年5月23日)

****** 信濃毎日新聞、2009年5月21日

上伊那で助産所の開業相次ぎ6カ所に 

全国的にも珍しい

 上伊那地方でここ数年、助産所の開業が相次いでいる。妊婦が入院してお産できる「有床分娩(ぶんべん)」を扱う助産所は、県内8カ所のうち6カ所が上伊那に集中するようになった。産科医不足は上伊那でも深刻なことから、助産師たちは安心してお産ができる地域にしようと意気込んでいる。

 日本助産師会県支部上伊那地区によると、有床分娩を扱う助産所が1地域に6カ所もあるのは全国的に珍しい。

 駒ケ根市の昭和伊南総合病院の近くに8日、「おひさま助産院」を開業した小林まゆみさん(37)は「母親と赤ちゃんを温かく包み込む助産院にしたい」と抱負を話す。伊那市の伊那中央病院に1993年から14年間勤務。産科医不足が深刻化する中で、助産師がもっと活躍できる場があるはず-との思いから開業に踏み切ったという。

 6カ所のうち、最も早く有床分娩の扱いを始めたのは84年に開業した「幸(さち)助産院」(駒ケ根市)。その後、2005年の「助産所ドゥーラえむあい」(伊那市)、07年の「野ノ花助産院」(駒ケ根市)と開業が続き、08年には伊那市でさらに2カ所が開業した。

(以下略)

(信濃毎日新聞、2009年5月21日)


静岡県立こども病院 「配置転換は不当」 病院機構を提訴

2009年05月20日 | 地域周産期医療

静岡県立こども病院NICU 新規患者は静岡市内のみ受け入れを継続

静岡県立こども病院NICU、新規患者の受け入れを休止

****** 産経新聞、静岡、2009年5月19日

「配置転換は不当」 病院機構を提訴

 静岡県立こども病院(静岡市葵区)で医師不足のため新生児集中治療室(NICU)の新規患者受け入れが制限されている問題をめぐり、病院から不当な退職勧奨や配置転換命令を受けたとして、前新生児未熟児科長の男性が18日、院長と運営する県立病院機構を相手取り、慰謝料550万円の損害賠償などを求める訴えを静岡地裁に起こした。

 訴状などによると、男性が4月1日付で、同科から実体のない新規ポストに不当に配置転換されたことから、病院に不信感を抱いた医師らが相次いで辞職。事態が予想できたにもかかわらず、県中部の新生児未熟児医療の崩壊を招いたとして、配転命令は無効と主張している。

 また、男性は訴状で昨年11月以降、院長が県内の小児科医109人に「(男性が)辞めると公言しており、希望をかなえさせます」と事実と異なるメールを送ったことなども指摘した。「不当な退職勧奨を繰り返し受け、鬱病(うつびょう)を罹患(りかん)するなど精神的苦痛を受けた」とも訴えている。男性は現在、休職中という。

 こども病院は、高度な周産期医療を提供する県中部唯一の医療機関だが、医師の減少でNICUの新規患者受け入れを静岡市内に限定している。県は、ほかの地域の患者は順天堂大付属静岡病院(伊豆の国市)と聖隷浜松病院(浜松市)に対応を要請し、「6、7月をめどに医師を確保したい」としている。

 この日、会見した原告側の家本誠弁護士は「長年地域の新生児医療に貢献してきた原告に対して、信じられない対応」と話した。

 県立病院機構は「訴状を見ていないのでコメントできないが、適切に対応したい」としている。

(産経新聞、静岡、2009年5月19日)

****** 毎日新聞、静岡、2009年5月19日

提訴:こども病院の前科長が病院提訴 

「不当に退職迫られた」

 静岡市葵区の県立こども病院新生児未熟児科の前科長が不当に退職を迫られ、精神的な苦痛を受けたなどとして、同病院の院長と、病院を運営する独立行政法人県立病院機構を相手取り、550万円の損害賠償を求める訴訟を18日、静岡地裁に起こした。

 訴状によると、前科長は08年11月ごろから院長に「院内外からのクレームが多い」などと言われ、退職を繰り返し迫られた。固辞したが、今年4月1日付で県立総合病院(同市葵区)に異動させられたとしている。こども病院と県立病院機構は「訴状を見ておらず、コメントできない」としている。【山田毅】

(毎日新聞、静岡、2009年5月19日)

****** 毎日新聞、静岡、2009年4月24日

損賠訴訟:こども病院の前科長が提訴へ 院長らに慰謝料求め

 県立こども病院(静岡市葵区)の新生児未熟児科の前科長が、不当に退職を迫られたなどとして、院長と、同病院を運営する地方独立行政法人県立病院機構を相手取り、慰謝料などを求める損害賠償請求を静岡地裁に起こすことが23日わかった。県など関係者の説明では、こども病院では、前科長らと病院側が対立。担当医が相次いで辞め、新生児集中治療室(NICU)の新規受け入れを一時、中止する事態に発展した。 【山田毅】

(毎日新聞、静岡、2009年4月24日)

****** 静岡新聞、2009年4月22日

こども病院NICU新患制限 院長が経緯説明

 静岡市内の主要11病院の院長、事務長が集まる公的病院協議会が21日、同市葵区の県立総合病院で開かれた。県立こども病院(同区)の吉田隆実院長が、新生児集中治療室(NICU)が新規患者の制限に至った経緯を説明した。

 吉田院長は「心配、ご迷惑を掛け、おわび申し上げる」と述べ、NICUを担当する新生児未熟児科の常勤医が2人に減員する事態に陥ったことを報告した。院内から医師3人を新たにNICUに配置して5人体制としたものの、当面の受け入れは静岡市内の患者にとどめる方針を説明。「何とか1000グラム以上の子供は他の病院で診るようお願いしたい」などと他病院の理解と協力を求めた。

 今回の対応については「あくまで暫定的」とし、NICUの完全再開に向けて「2カ月の間に医師を確保したい」と述べた。

(静岡新聞、2009年4月22日)

****** 静岡新聞、2009年4月21日

こども病院NICUが5人体制に 院内で3医師確保

 県立こども病院が新生児集中治療室(NICU)の新規患者を制限している問題で、同病院がNICUを担当する新生児未熟児科の医師をこれまでの常勤医2人体制から5人体制に拡充したことが20日分かった。院内で3人の医師を確保して配置した。

 ただ、新患の受け入れ範囲は引き続き静岡市内の患者にとどめる。同病院は6月をめどとしたNICUの再構築に向け、医師確保の努力を継続する。

 新たに配置した3人はほかの診療科の男性医師と男性研修医2人。いずれもNICUの経験があるといい、研修医2人については正規採用した。常勤医2人の負担を軽減し、当直体制を充実できる。

 新生児未熟児科は3月末時点で常勤医4人、研修医3人だったが、人事異動をめぐる混乱で退職意向を示す医師が相次ぎ、現在は常勤医2人体制となっている。このため同病院は当面、院内で支援する方針を示していた。

(静岡新聞、2009年4月21日)


愛育病院、総合周産期母子医療センター継続を決定

2009年05月16日 | 地域周産期医療

****** m3.com医療維新、2009年5月14日

「宿直は夜勤」なら、手当が支払える財源投入を

----愛育病院・中林正雄氏に聞く

“総合周産期母子医療センター”継続決定の経緯

【村山みのり、m3.com編集部】

 4月24日、東京都に総合周産期母子医療センター(以下「総合センター」)の指定返上を打診していた愛育病院(東京都港区)は、非常勤医師の増員などにより医師の勤務体制が整ったとして、総合センターとして継続することを決定した。 3月の労基署勧告後の院内体制の整備、指定返上を取りやめた背景、今回の出来事が医療界に与えた影響などを、愛育病院院長・中林正雄氏に聞いた(2009年5月1日にインタビュー)。

――総合センター指定の返上を取りやめた経緯をお教えください。また、3月に東京都へ返上を打診した際、理由として、非常勤医師のみによる当直体制、母子医療を専門とする病院であり、救急救命センター等を併設していないことなどを挙げていましたが、これらについての東京都や厚生労働省の見解は。

 これらの2点は、東京都としては差し支えないとの見解が出ました。当直体制については、都立墨東病院でも非常勤医師のみによる当直が行われており、医師が2人揃っていれば良いとのことでした。救急救命センターに関しては、厚労省医政局が、総合センターの設置基準について、連携病院を明らかにし、届け出を行えば良いとする文書を追加しました(編集部注:5月中に都道府県へ通知される予定)。愛育病院は以前から東京慈恵医大、日赤医療センターと連携しています。現実に、そのような病院が多くあるため、医政局も実態に沿ったものとなるよう対応を考えたのでしょう。

 東京都周産期医療協議会は、役員の交代時期であるなどの事情からまだ開催されていませんが、岡井崇昭会長(昭和大学産婦人科教授)から「そういうシステムであれば続けてほしい」との話もあり、続けることとなりました。

 むしろ愛育病院として考慮したのは、総合センターとしての十分な対応が、非常勤の医師でも行っていけるかどうかです。医療技術・知識的には問題ありませんが、総合センターにはコーディネーター的な役割があるため、それができるかどうか。非常勤であるが故に対応ができないということになると、病院としては大変責任が取りづらい。

 4月、過去に愛育病院に勤務し、現在大学に戻っている医師を中心に、経験があり、かつある程度上級クラスの医師に非常勤として来ていただいたところ、大変良く業務を行っていただけたため、これならば実質的には問題はないと担当部長が判断しました。

――労基署の是正勧告への対応、勧告後の勤務体制は。

 労基署へは改善後の体制を報告し、承認を受けました。

 愛育病院では、常勤医15人のうち、妊娠・出産・育児中の女性医師や他院へ出向中の医師などを除く5人の医師が夜間勤務に当たっていましたが、これに加え、現在3人の非常勤医師に来ていただいています。いずれも以前愛育病院で働いていたことのある医師で、夜間勤務はそれぞれ週1-2回、月6-8回程度。なお、これは暫定的な体制で、秋からは常勤医が2人増えるため、それ以降は常勤医で夜間勤務を行えるようになります。

 「36協定」も締結しました。あらかじめ時間外勤務時間数を定める必要がありますが、産科では「月45時間、年間360時間」という法定範囲に近い数字を出すことができるものの、NICUの担当医ではこれが全く不可能でした。結局、NICUの基準に合わせて、特例条項の時間数、標準の約2倍近い時間で届け出ています。おおむね常識的な範囲だと思います。

 現在NICUの医師は6人。これを7人にしなければ、どうしても勤務時間が長く、オーバーワークとなってしまいますが、NICUの医師は常勤・非常勤とも、どうにも見つけられません。

――今回の一連の出来事について、勤務している医師の反応はどのようなものでしたか。

 これまで、愛育病院では当直料を、所定の額に搬送数・分娩数などに基づいてランク付けした金額を上乗せする、という仕組みで支払っていました。これを、労働基準法に基づいた時間外手当とした結果、若い医師では以前よりも手当てが下がった状態が生じています。医長クラスも夜間勤務を行っているため、彼らにとっては多少の増額となりましたが、総額では大きな差はありませんでした。

 30代程度までの若い医師にとっては、月6回ほどの当直は、さほど負担・不満ではなく、むしろ収入源になっていました。産科医療従事者としては普通の回数であり、以前から当直の翌日は半日休みにしています。しかも時間外手当は30万円程度の収入になる。愛育病院は公務員準拠なので、基本給はさほど高くない。そこからすると、当直は少し多めの方が、収入が確保され、休みも取れて良かった。自身の勉強にもなることから、愛育病院では若い医師たちは比較的喜んで当直をしていました。

 そのため、今回労働基準法に沿った勤務体制となり、時間外手当が減ったことにより、その減収分が今後どう補てんされるのか、という不安の声の方がかえって聞かれます。今までそれで生活をしていたのだから、何らかの形で減給保障が必要だと考えていますが、非常勤の医師に支払う給与もあり、病院全体の人件費を大幅に上げる訳にはいきません。これはつらいところです。スタッフの給与の維持がどうしても困難であれば、分娩料を上げることも考えていかざるを得ないかもしれません。

――以前の勤務体制についても、院内の医師の間では特に問題視されていなかったということですか。

 愛育病院の勤務環境は、全国的に見れば非常に恵まれています。院内は平和に業務に当たっていたところへ、急に労基署の監査が入ったため、皆が戸惑ったことは事実です。恐らく、全体的に考えれば、今後の方向性を示しているものだろうと私は認識しています。労基署が指摘をしますよ、と示せば、他の医療機関も自主的にある程度の基準に整備していかなければなりません。それを踏まえた指導なのではないかと考えています。

 愛育病院としては、医師の健康・年齢を考慮して勤務体制を考え、どうしてもやむを得ない部分は金銭面で補う、という対策を取ってきましたが、医師の勤務環境の改善が必要だとわれわれが訴えている時に指導が入ったというのはどういうことなのかを、世間に問わなければなりません。

 やはり一番基本となるのは、医療への財源の振り分けです。夜間勤務をしている医師に対して、当直という名目ではなく、きちんとした額が支払えるような医療費を国が出すということにならなければ、第一の段階はクリアしない。勤務状況は厳しくても金銭的にはある程度優遇されるようになれば、人も増えてきます。その上で、労働基準法の時間を少しずつ基準に近づけていくことが必要です。現在の人数ではどうにもなりません。

 今回非常勤で雇った方々も、本来の職は持っています。非常勤なので労働時間の基準には入りませんが、当人の労働時間は増えています。規約上は解決されて見えても、実際に医師の過重労働という点では何も解決されていません。

――労基署の介入が今後の医療に与える影響は。

 労基署が入ったことにより、今後、夜間勤務は「当直」ではなく「時間外勤務」と扱われるようになります。この方向が示されたのは、現実には大きな問題です。どこの病院でもすぐに対応できる訳ではなく、これから集約化、金銭面での対応など各病院が努力していかなければならないということが、実感されるようになったのではないでしょうか。

 今回、愛育病院に立ち入り調査、是正勧告があったが、国としての全体の対策ができていないのでは困ります。医師の働き方については、これまでパンドラの箱的に開けてこなかった。それを開けて、今後はどうするのか。先行きを心配する人も多くいます。しかし、開けたからには国としてきちんとした対応をするきっかけにしてほしいと思っています。国として「夜勤である」と言ったからには、夜勤手当に相当するだけの医療費をきちんと病院サイドに払うようにすることが不可欠であり、従事する医師を育てることが必要となります。女性医師が仕事を継続できるような支援対策を強力に行うといったような、ポジティブな方向へ進めていただきたい。

 また、厚労省には、産科医療だけではなく、全国の「当直」を行っている医師に適切な夜勤手当を支払った場合にどの程度の財源が必要となるのかという試算をしていただきたい。われわれの試算では2000億円程度と考えられ、1兆円はかからない。小泉改革で2200億円が削減されたが、あれを戻せば充填できる程度の金額です。

――2008年度診療報酬改定で創設されたハイリスク妊娠管理加算、ハイリスク分娩管理加算は、財源投入によるバックアップの一環として機能していますか。

 ハイリスク妊娠、分娩管理加算の創設により、収入は上がりました。愛育病院では、増収分の半額を医師全体へ還元しています。この点数は、本来は医師に還元するためのもの。しかし、医師に還元せず、これ幸いと病院の赤字補てんに当ててしまった医療機関も多くあります。また、還元した場合でも、産科医へ少し払っただけで、同様に周産期医療に携わるNICUへは全く支払われないことが多数です。しかし、NICUがなければ、現在の産科医療は成り立たちません。

 もっとも、医師へ還元していない医療機関の中には、当直は皆が行っているのに、産科医だけに手当てを支払う訳にはいかないと考える施設もあります。愛育病院のように母子医療専門で、すべての医師がこれに携わっている病院ではなく、大学病院や総合病院など色々な科があり、それぞれが夜勤も行っている中では、産科医に限るわけにはいかないという判断もあるでしょう。

――NICUの充実、携わる医師の勤務状況改善には何が必要ですか。

 NICUについては、携わる医師を増やさなければどうにもなりません。今回、産婦人科が少し陽の目を見たのは、日本産科婦人科学会、日本産婦人科医会全体で国と交渉したため。皆にアピールし、入局者も少し増えつつあります。しかし、NICUは小児科の一部であり、少人数である上に、そういった政治的な動きをする時間すらない。親元である日本小児科学会全体が、NICUを何とかしようという動きをすることが必要ではないでしょうか。もっとも、小児科学会でも、NICUに対して理解のある医師がどの程度いるのかという問題はあります。

 行政が対策を行うと、国公立の箱物、病床を増やそうということになりますが、NICUの病床を増やしても診られる医師、コメディカルがいない。それよりも、小児科医になってそこに勤めようという人を増やすことが必要です。箱を作るのは簡単です。しかし、いかに人を育てていくか、また女性医師が就労を続けていけるようにするか。これには社会全体、多方面から対策を行わなければなりません。それが取り組まれていないことが、非常に大きな問題です。

(m3.com医療維新、2009年5月14日)

****** 東京新聞、2009年5月15日

スーパー周産期センター 指定1カ月半 

都民の不安に『応急処置』

 昨年十月、脳出血を起こした妊婦が都立墨東病院など複数の病院に受け入れを断られ死亡した問題を受け、都の周産期医療協議会が、都内三病院を「スーパー総合周産期センター」に指定して一カ月半が過ぎた。救命処置が必要な妊婦は必ず受け入れる全国で初めての方式について、協議会長の岡井崇・昭和大教授に現状と課題を聞いた。 【砂本紅年】

-搬送患者が集中し、パンクするという懸念の声もあったが。

 「まだ始まったばかりだが、対象患者の搬送例はなく、パンクの心配はない。対象患者は多くても年間九十件と見積もっていた。今のところ(患者の)近くの病院が頑張ってくれていると思う」

-妊婦が死亡した問題では、大都市での母体救命救急の危機が浮き彫りになった。

 「母と胎児の両方に対する診療が必要で、産科だけでなく脳神経外科などの関連科、新生児集中治療室(NICU)がそろわないと受け入れは難しい。東京は救急施設の数は多いが、一つ一つの規模が小さい。受け入れ率はもともと全国でも低かったが、高齢出産などでリスクの高い患者が増え、さらに受け入れ率が悪くなった」

-スーパーセンターを発想した背景は。

 「都民の不安に応え“応急処置”として頑張ろうと考えた。本当は、医師が多くてベッドがいつも空いているのが理想だが、今の診療報酬制度では経営が成り立たない。救急医療の診療報酬体系は見直す必要がある」

-センターの医師の態勢は。

 「昭和大病院の場合は産婦人科の当直を三人から四人に増やし、自宅待機が二人。NICU、脳神経外科、整形外科なども自宅待機を置いた。今春、産婦人科の研修医が九人入ったので、一人当たりの当直回数は月四回で増やさずに済んだ」

-産科医不足に必要な対策は。

 「産婦人科が敬遠される理由のトップは当直の多さ。せめて当直の翌日を休みにしたい。いい兆しもある。産婦人科の入局者は今年、全国で五十人増えた。国民が産科医を望み、国も産科を大事にしようとしている雰囲気が学生に伝わり始めたのではないか。今後さらに医療機関の集約を進め、診療報酬改正で手厚くなったハイリスク妊産婦管理加算などが、病院だけでなく医師の収入になるようにすることも必要だ」

スーパー総合周産期センター 昭和大病院(品川)、日赤医療センター(渋谷)、日大板橋病院(板橋)の3カ所。対象患者は脳血管障害や急性心疾患など6種類の妊産婦の救急疾患合併症▽羊水塞栓(そくせん)症など5種類の産科救急疾患の重症▽激しい頭痛や意識障害など6種類の症状があり重篤な疾患が疑われる症例-など。

(東京新聞、2009年5月15日)

****** 共同通信、2009年5月15日

出産費の地域格差1・5倍 所得水準反映、

平均42万円 厚労省研究班が初調査

 赤ちゃん一人当たりの出産費用について、厚生労働省研究班(代表者=可世木成明(かせき・しげあき)・日本産婦人科医会理事)が全国の医療機関を対象に実施した初めての実態調査で、都道府県別の平均額は最大1.5倍の地域格差があることが14日分かった。最も高い東京都が51万5000円、最も低い熊本県は34万6000円で、全国平均は42万4000円だった。

 研究班は、地域格差には住民の所得水準の違いが反映されていると分析。妊産婦と医療機関の双方に対し地域事情に合わせた財政的な支援が必要だとしている。

 調査したのは分娩料や入院料、新生児管理料、部屋代などの総額。今年1月、全国約2900の診療所・病院を対象に実施、59%の約1700カ所から回答を得た。

 通常の出産は保険適用外の自由診療で、価格設定は医療機関に任されている。医療機関別の出産費用をみると、最高の81万円と最低の21万8000円で4倍の格差があった。

 全国平均の約42万円は、公的医療保険から妊産婦に全国一律で支給される出産育児一時金の現行額の38万円を上回った。一時金は、10月から1年半に限り4万円の引き上げが決まっており、全国平均額には見合う水準となる。

 また、医療機関側が「適正と考える出産費用」は平均53万5000円。緊急時に備えた人員配置の経費などは妊産婦側に請求していない。研究班は「真に安全な出産管理には60万円は必要」と結論付けている。

(共同通信、2009年5月15日)


奈良病院宿直賃金訴訟: 医師側も控訴

2009年05月08日 | 地域周産期医療

コメント(私見):

奈良県立病院の宿直賃金訴訟で、奈良地裁は、宿日直勤務は時間外割増賃金の支払いを命じましたが、宅直勤務に関しては時間外労働として認めませんでした。

被告の奈良県側は、実際に働いていない時間も時間外割増賃金の対象とする奈良地裁の判決を不服として、大阪高裁に控訴しました。

原告の産婦人科医側も、宅直勤務が時間外労働として認められなかったことを不服として控訴しました。

周産期医療や救急医療などの医療現場では、通常の業務が24時間365日切れ目なく続いていますので、少ないスタッフで業務を遂行していこうとすれば、どうしても長時間・過重労働となってしまいます。

現在稼働している産科施設のほとんどで、労働基準法違反が常態化しています。しかし、過酷な勤務を前提とした今の労働環境のままでは、誰も我々の後を継いではくれないでしょう。今後、すべての産科施設で労働基準法を厳格に遵守しなければならないということになれば、少ないギリギリのスタッフで回している産科医療の基本構造を根本から変えていく必要があります。

奈良県が判決不服で控訴 産科医の時間外手当訴訟

産科業務と労働基準法

医師の当直勤務は「時間外労働」、割増賃金支払い命じる判決

**** m3.com医療維新、2009年5月8日

原告・被告ともに控訴、奈良・時間外手当等請求裁判 時間外の勤務時間の算定方法、オンコールの扱いが争点

橋本佳子(m3.com編集長)

 奈良県立奈良病院の産婦人科医2人が、未払いだった「時間外・休日労働に対する割増賃金」(以下、時間外手当)の支給を求めた4月22日の奈良地裁の一審判決に対し、被告である県は5月1日に、原告は5月2日にそれぞれ控訴した。

 判決では、「宿日直勤務は、実際に診療に従事した時間だけではなく、待機時間を含めてすべて勤務時間」であると判断、A医師に736万8598円、B医師に802万8137円の支払うよう、奈良県に命じた。ただし、宅直(オンコール)については、「病院の指揮命令系統下に置かれているとは認められない」とされ、手当の支払い対象にはならないとされた。

 原告は割増賃金の基礎額拡大とオンコール手当を請求

 原告の控訴理由は主に二つ。(1)時間外手当の割増賃金の計算に当たって、その算定基礎額の対象をより広く取るべき、(2)オンコールに対しても、手当てを支払うべき、という点だ。(1)について、奈良地裁判決では、「給与、調整手当、初任給調整手当、月額特殊勤務手当」を算定基礎額としたが、「期末手当、勤勉手当、住居手当」も加えるべきと主張している。一審判決で請求が認められた分に加えて、産婦人科医2人分の合計で、約2700万円を請求している。

 提訴時は2004年と2005年の2年分の時間外手当の支払いを求めていたが、2004年10月25日以前の分については、消滅時効期間が経過しているとされた。この点については控訴理由としていない。

 県は「待機時間は手当支払いの対象ではない」と主張

 一方、県側が控訴したのは、以下の3つの理由で、宿日直勤務の労働時間や割増賃金の計算方法を問題視している。

 (1)勤務時間中24%の時間を通常業務に従事していたことをもって宿日直勤務時間のすべての割増手金(労働基準法第37条的係)の対象とする判決は適切でなく、実態として通常業務に従事していたか否かにより、宿日直勤務時間を切り分け、それぞれ割増賃金、宿日直手当(労働基準法第41集第3号関係)の対象とすべきである。
 (2)宿日直勤務時間中は、労働から離れることが保障されているとはいえないことをもって宿日直勤務時間のすべてを労働時間(労働基準法第32粂関係)とする判決は適切でなく、診療を行っていない待機時間は実態に即して労働時間からは外すべきである。
 (3)職員給与については、地方自治法、地方公務員法の規定により、条例で定めなければならないとあり、割増賃金の井定基礎については、条例の定めとは異なった判断である。

 奈良県福祉部健康安全局長の武末文男氏は、「今回の判決は、奈良県だけではなく、全国の病院に突きつけられたものではないか。宿日直勤務が労働基準法に抵触するかどうかという課題であり、医療法と労基法の宿日直の整合性も含め、上級審だけではなく、国の判断・教示を仰ぎたい」と語る。

 また、医師の宿日直に関しては、2002年に「通常業務の延長であれば、時間外の割増賃金の支払い対象になる」という通知が出ている(厚生労働省労働基準局長通達基発第0319007号)。この通知が今回の判決の根拠になっているが、「通知と現実とのかい離を、どう埋めるべきか、幅広い議論が必要であり、本県としても国などに働きかけていく」(武末氏)。 

 なお、二人の産婦人科医は、2006年と2007年の分についても、未払いの時間外手当の支払いを求めて、別途提訴している。本件はまだ一審判決に至っていないため、奈良地裁と大阪高裁で並行して裁判が続けられることになる。

(m3.com医療維新、2009年5月8日)

****** 毎日新聞、2009年5月8日

奈良病院宿直賃金訴訟:医師側も控訴

 奈良県立奈良病院(奈良市)の産婦人科医2人の宿日直勤務に対し、奈良県に時間外割増賃金など約1540万円の支払いを命じた先月22日の奈良地裁判決について、原告の産婦人科医側が大阪高裁に控訴した。

 控訴は2日付。原告側弁護士は、自宅待機する「宅直」が時間外労働と認められなかったためとしている。県側は既に控訴している。【高瀬浩平】

(毎日新聞、2009年5月8日)

****** 共同通信、2009年5月8日

時間外訴訟、産科医も控訴

 県立奈良病院(奈良市)の産科医2人が当直勤務の時間外割増賃金などの支払いを県に求めた訴訟で、一部勝訴した産科医側が2日付で大阪高裁に控訴したことが7日、分かった。県は1日に控訴している。

 原告の代理人弁護士によると、4月22日の奈良地裁判決では認められなかった、休日も自宅で呼び出しに備える「宅直勤務」を労働時間扱いにするよう求める。

(共同通信、2009年5月8日)