コメント(私見):
茨城県北部・日立地域(人口28万人:日立市・高萩市・北茨城市)の06年の分娩件数は計2257件で、日立製作所日立総合病院がこのうちの半数超の1215件の分娩を取り扱いました。同病院は、07年度まで県内最多の分娩を取り扱っていました。
しかし、08年度初めまで6人いた同病院の産婦人科常勤医が今月より1人だけとなり、分娩取り扱いを休止しました。現在、この地域の分娩取り扱い施設は、北茨城市立病院(常勤医2人、北茨城市)、高萩協同病院(常勤医1人、高萩市)、瀬尾産婦人科医院(日立市)、加茂助産院(日立市)の4施設となりました。
この地域と隣接する福島県や栃木県なども、周産期医療提供体制は非常に厳しい状況にあるようですから、他地域の妊婦さんを受け入れる余地はあまりないと考えられ、同地域の妊婦さんの多くが水戸市内の病院に通院せざるを得ない地理的状況にあるようです。
読売新聞の記事で、水戸済生会総合病院(総合周産期母子医療センター)の産科医負担が今月から急増し始めたと報道されています。産科施設のドミノ倒しにならないように、負担が増えている病院の診療態勢を最大限強化する必要があると考えられます。
日立製作所日立総合病院(日製病院)、地域周産期母子医療センターを休止
日立製作所日立総合病院:産科医1人が残留 分娩を継続へ (毎日新聞)
医師確保険しく 来春産科医0の日製病院
日立総合病院 分娩予約一時中止
****** 読売新聞、茨城、2009年4月19日
妊婦水戸へ集中
周辺の産科医負担増
「このままでは水戸より北にお住まいの重症のお母さんや赤ちゃんの命は助けられなくなります。誰かの責任だと騒ぐのは簡単ですが、県民一人ひとりが真剣にお産について考えるべきだと思います」。医療関係者から読売新聞水戸支局に先月、窮状を訴える手紙が届いた。ニュースの現状や背景に迫る「現場から」。1回目は産科医不足にあえぐ医療現場を取り上げる。
「近い方が…」
「赤ちゃんの頭は下がってきてるから様子を見ましょう」。日立市から約30キロ離れた水戸済生会総合病院の産婦人科外来を訪れてきた臨月の女性(29)に、漆川邦医師(36)がエコーの映像を見ながら声をかける。出産間近の女性は診察後、「何かあったらと思うと、病院は近い方がいいんですけどね」とおなかに手をやった。
日立製作所日立総合病院(日製病院)の産婦人科で、医師の確保が難航、4月以降の分娩(ぶんべん)予約は中止され、出産時に母体や胎児に危険が生じる可能性があるハイリスク分娩を受け入れていた地域周産期母子医療センターが休止した。この影響で、昨年秋頃から総合周産期母子医療センターの水戸済生会総合病院には県北から来院する妊婦が増え始めた。
4月初旬の午前9時50分頃、水戸市内の開業医から「妊娠30週だが、いつ産まれてもおかしくない。周産期センターで見てほしい」と電話が入った。同院産婦人科には常勤医6人と初期研修医1人がいる。この日の午前中は、3人が外来、3人が手術、産婦人科主任部長の山田直樹医師(42)は病棟を受け持った。電話の直前には、婦人科の入院患者の様子が急変しており、山田医師は受け入れ時間を確認するとすぐに病棟に走った。
午前11時過ぎ、入院中の妊婦が産気づく。前回の出産で大量出血し、今回もリスクがあると入院していた。赤ちゃんは無事産まれたが、女性は出産後に大出血し、処置に追われた。午後も妊娠高血圧症候群の妊婦が運び込まれたり、早産があったりと、休む間もなく動き続ける。午後9時過ぎ、センターの24床が満床になった。「今は目が離せない人がいる。次に何かあったら全員呼び出しをかけるから」。山田医師は当直の若手医師に声をかけた。
ハイリスク分娩
同院によると、妊娠22週以降のハイリスクの妊婦で受診、入院している154人のうち県北地域からの妊婦は30人。日製病院が機能していた時は「ほぼゼロ」だったという。漆川医師は「県北の方には早めの入院を勧めている」と話した。高萩市から車で40分かけて来院した妊娠9か月の女性は、ハイリスク分娩の可能性があると診断され、紹介状を持って来院した。「病院に行く途中に高速道路で出産した人をテレビで見たけど、人ごとじゃない」と不安を口にする。
女性の母親(53)は「一人で運転させて通院させるのは心配。少子化で子供を産みなさいって言われているのに、こんな状況じゃ話にならない」と憤る。
(読売新聞、茨城、2009年4月19日)
****** 毎日新聞、茨城、2009年3月19日
日立製作所日立総合病院:
水戸赤十字病院が産科医派遣 今秋、非常勤で
関係者、分娩再開に期待
常勤産科医不足を理由に4月以降の分娩(ぶんべん)予約を取りやめている日立市の日立製作所日立総合病院(日製病院)に今秋、水戸赤十字病院(水戸市)から産科医が非常勤で派遣される見通しになった。関係者は分娩再開につながる好材料と期待を寄せている。【八田浩輔】
日製病院は07年に県内最多のお産を手がけたが、今年度初めに6人いた常勤産科医は派遣元の大学病院の意向で4月から若手1人になる。このため、4月からは分娩だけでなく、リスクの高い妊婦の救急搬送を24時間受け入れる「地域周産期母子医療センター」の機能休止を余儀なくされた。県は問題が表面化した昨年夏から、県央地域で産科医療態勢が比較的整っている水戸赤十字病院に支援を要請していた。
水戸赤十字病院は今月中旬、秋以降に産科医を派遣する意向を日製病院に伝えた。7人いる常勤産科医を交代で派遣することを想定しており、人選などの詳細は今後調整する。満川元一・副院長兼産婦人科部長は「あれだけの規模の病院が出産をやめる影響は大きい。県内の病院、診療所、産婦人科医会が小さな支援を積み重ねるしかない。我々が端緒となり(分娩再開の)めどをたてたい」と説明する。
県医療対策課は「地元住民への安心感につながり、これから先の医師確保の呼び水にもなる。早期の分娩再開に向けて支援を続けたい」としている。
(毎日新聞、茨城、2009年3月19日)
****** 東京新聞、茨城、2009年3月19日
『正常分娩再開に前進』 水戸赤十字病院
秋以降に産科医派遣
日立市の日立製作所日立総合病院が常勤産科医の引き揚げに伴い、四月以降、出産から新生児医療までを担う周産期センターを休止する問題で、県の要請を受けた水戸赤十字病院(水戸市)が秋以降、日立総合病院に産科医一人を派遣する方針を固めた。県医療対策課は「正常分娩(ぶんべん)の再開に向けては大きな前進」と受け止めている。
日立総合病院周産期センターは正常分娩から危険な分娩まで1212件(2007年)を扱ってきた実績があるが、派遣元の東京大医学部が常勤産科医4人のうち3人を3月末で引き揚げるため、4月から当面、正常分娩を含む一切の分娩休止を決めている。
このため、県北地域の産科拠点が一時的に失われるが、秋以降は水戸赤十字病院から常勤医か、非常勤医が毎日派遣される方向で、常時、産科医2人体制が整う見通しとなった。
周産期センターの再開は難しいが、他にも協力の意思を示している非常勤医4、5人の参加や、院内助産所の開設などにより、秋以降の正常分娩再開を目指す。
(東京新聞、茨城、2009年3月19日)
****** 常陽新聞、2009年3月19日
日立総合病院に秋以降、産科医派遣
水戸赤十字病院から1人
4月から産科を休止する日立総合病院に、秋以降、水戸赤十字病院から産科医1人が派遣されることが分かった。17日の県議会予算特別委員会で、長谷川修平委員(民主)の質問に答え、橋本昌知事が明らかにした。
現在、日立総合病院には産科医4人が勤務しているが、3月末で3人が派遣元である東京大の医局に戻る。継続が難しいことから、同院は既に産科の休止を発表していた。このため県は派遣元の大学をはじめ、さまざまなルートでの産科医確保を模索。県内の医療機関に対し、同院への協力、支援を求めてきた経緯がある。
県医療対策課によると今月12日、以前から調整を続けてきた水戸赤十字病院から、産科医1人を派遣する意向が示されたという。
具体的な派遣の時期、受け入れる日立総合病院側の体制は未定。派遣に当たっては、水戸赤十字病院の診療体制の見直しや派遣方法など、詰めなければならない問題が多数あることから、秋以降になる見通しとなった。
橋本知事は委員会で「日立総合病院では、当面、分娩(ぶんべん)取り扱いを停止することに変わりはないが、これを契機に、院内助産所の開設も視野に入れながら、県北地域の分娩を担える体制づくりを進めてほしい」と答弁。「県としては、さらなる医師確保、地域の産科医との協力体制構築など、早期の分娩再開に向けて引き続き強力に支援していきたい」と述べた。
同課は「産科医が2人になることで、ほかの医師を呼び込みやすくなる」とし、秋以降の産科医確保に期待を寄せている。
(常陽新聞、2009年3月19日)
****** 読売新聞、茨城、2009年3月18日
日製病院へ産科医派遣
今秋以降水戸赤十字から1人
産科医の確保が難航し、分娩(ぶんべん)予約の受け付けを一時中止している日立製作所日立総合病院(日製病院)に今年秋以降、水戸赤十字病院から産科医1人が派遣される。
橋本知事が17日の県議会予算特別委員会で、長谷川修平委員の質問に答えた。 日製病院は4人いる産科医のうち3人が派遣元の東京大学に引きあげられる。4月以降に残る産科医1人は、婦人科で外来診療にあたることになっており、秋以降は産科医2人体制となる。
橋本知事は「これをきっかけに(正常分娩を扱う)院内助産所の開設も視野に入れながら、県北地域の分娩の体制作りを進めていっていただきたい」と述べた。
(読売新聞、茨城、2009年3月18日)
****** 茨城新聞、2009年3月18日
日立総合に産科医派遣 水戸赤十字病院
分娩再開に光 今秋以降1人
日立製作所日立総合病院(日立市)が4月から産科を休止する問題で、県は17日、水戸赤十字病院(水戸市)が今秋以降、産科医1人を日立総合病院に派遣する意向を示したことを明らかにした。医師派遣が実現すれば、日立総合病院の産科医は2人体制となる。県は「半年後の産科再開に希望が出てきた。院内助産所開設も視野に、県北地域の分娩(ぶんべん)を担える体制づくりを進めてもらいたい」としている。
(茨城新聞、2009年3月18日)
****** 茨城新聞、2008年11月25日
安心お産体制危機
日立病院の分娩「休止」 救急、水戸に負担
胎児異常や重い妊娠中毒症など危険度の高い出産を引き受ける医療機関として設置されている県北・県央地域の周産期母子医療センターの体制が揺らいでいる。日立製作所日立総合病院(日立市)が医師派遣元の大学から産科医全員の派遣を打ち切られるためだ。その機能が停止すれば、水戸市内のセンターに相当の負担が掛かる。妊婦の受け入れ先がない事態は避けなければならないことから、県内全体の周産期医療体制の見直しを含めた対応が求められそうだ。【水戸支社・小林太一、日立支社・鈴木貴子】
医師引き揚げ
「誠に恐縮ながら当面の間は新規の分娩(ぶんべん)予約をお断りさせていただきます」。今年八月、日立総合病院のホームページに来年4月以降の出産予約の受け付けを一時休止する知らせが掲載された。医師を派遣していた大学病院から「派遣が難しくなった」と伝えられたためだ。病院側は継続を要請したが、大学側は「全体的に産科医が不足している」として、派遣打ち切りの意向を変えていない。
同病院は、県北・県央地域のセンターである水戸済生会総合病院と県立こども病院(ともに水戸市)に次いで、主に県北地域を支えるセンターに位置付けられる。新生児集中治療室(NICU)を備え、24時間態勢で危険度の高い出産の受け皿になっている。
県北から妊婦
水戸済生会総合病院に今夏ごろから、県北地域の妊婦が訪れ始めた。来年4月以降に出産予定の妊婦が目立つという。産婦人科の山田直樹主任部長は「間違いなく日立総合病院の影響が出ている」と指摘する。
同産婦人科は研修医を含む6人でセンターの機能を維持。隣接の県立こども病院とともに対応する。県立こども病院のNICU稼働率は95%前後で推移。山田部長は「来年4月以降、県北地域のNICUを必要とする患者をすべて受け入れるのは物理的に不可能」という。
80キロ搬送
県産婦人科医会の青木雅弘会長は「日立総合病院が産科医を確保できなければ、救急体制は崩れてしまう」と危機感を募らせる。
同会によると、日立総合病院への昨年度の救急母体搬送件数は53件。このうち、約半数の25件が県北地域内からの搬送だった。危険な状態の妊婦を同地域から水戸市内に運ぶとなれば、移動距離は最大80キロにもなる。青木会長は「統計の数字以上に、地域内で日立総合病院の役割は大きい」と話す。
日立総合病院は9月に産科医が2人減り、現在は4人体制でセンター機能を維持している。来年4月には、4人全員が大学病院の医局に引き揚げる予定。
今後の体制について同病院は「産婦人科とNICUを維持してセンターの枠組みを残すことが大前提。最低でも2、3人の常勤医を確保したい」と話す。派遣元の大学病院以外のルートで医師を探すとともに、助産師が正常出産を扱う「院内助産院」の開設も模索する。12月には来春以降の方針を明確にする考えだ。
(茨城新聞、2008年11月25日)
****** 北茨城民報、2008年11月2日
少子化対策を言うなら
北茨城市議会議員 鈴木やす子
東京都での妊婦死亡のいたましいニュースが報じられました。救急の受け入れを断ったとして、首都の名だたる病院がずらっと並んでいたことも衝撃的でした。
昨年1月、本紙でも紹介しましたが、日立市で県医師会が主催して「お産をする場所がない!」というフォーラムが開かれました。現役の医師や助産師、行政担当者から、お産をめぐる現状や見通しについての報告がありました。
日立総合病院(日製病院)の産婦人科主任医長は「大病院に分娩集約が起こり、医師の〝燃え尽き症候群〟」があると警告されました。また、東京在住の医師からは「同じ関東圏でありながら、これほど医療過疎が進んでいる茨城県北の現状にショック」との言葉もありました。
そして日製病院は、今年の9月からのお産の予約を取りやめました。これが地域に与える影響はどれほどのものか。北茨城市立病院での分娩受入れ数の増加、高萩協同病院での産科再開のいっぽうで、強い危機感がひろがっています。
久しく少子化対策が叫ばれています。母親にとって出産は、場合によっていのちと引き替えの一大事でもあります。安心して産むことができる場所が確保されていないのでは、二の足を踏んでしまいます。
今回の事態をまねいた責任について、厚労相と都知事がなすりつけあいをしていることも報じられています。根本原因は、自民・公明の政府が続けてきた医療政策そのものです。
先に「医療費削減」ありきでは、医師確保もままなりません。政治が、あれこれの弁解をしてるばあいではないはずです。産科医や助産師の増加をはかり、病院の経営上も報われる仕組みをつくることが急がれます。
「生命を社会に迎える最初の場面が過酷な労働と緊張とストレスにあふれている」とは、医師でもある日本共産党の小池晃参議院議員の言葉です。こんな悲しい現状を一刻も早く変えなければ。
(北茨城民報、2008年11月2日)
*** ほっとメール@ひたち、2007年12月28日
茨城県議会議員・井手よしひろ・活動記録・Blog版
高萩協同病院で来春6月より産婦人科再開
茨城県県北臨海地域の3市(日立・高萩・北茨城)では、出産のできる産婦人科医療機関が不足し、深刻な問題となってます。この地域で、出産を取り扱っているのは、日立製作所日立総合病院(日立市)、北茨城市立病院、診療所の瀬尾医院(日立市)、助産所の加茂助産院(同)の4施設しかありませんでした。
このような状況の中、12月27日、高萩市の草間吉夫市長と県北医療センター高萩協同病院の大和田康夫院長が記者会見を行い、来年5月から出産を含む産婦人科の診療を再開することを発表しました。市の働きかけなどで、高萩市出身の渡辺之夫医師(40)が常勤医を引き受けました。大和田院長によると、助産師5人程度を確保し、来年6月から分娩(ぶんべん)の受け付けを再開します。当面は月10件程度の出産を目指すとしていいます。高萩協同病院は、産科医がいた当時は市内で唯一の分娩できる医療機関で、年間200件の出産に携わってきました。しかし、04年10月から医師不在となり、産科は休診。新築された病院は一度も産婦人科の施設が使われずに現在に至りました。
2005年には出産を取り扱う病院が日立総合病院と瀬尾産婦人科、加茂助産院だけとなってしまった時期もありましたが、北茨城市立病院、高萩協同病院と相次いで産婦人科が再開できることになりました。
一方、産婦人科医師の退職が懸念されていた日立総合病院は、来年の4月以降も担当医の確保ができる模様で、県北地域の産婦人科の体制は維持できることになりました。
(ほっとメール@ひたち、2007年12月28日)
****** 産経新聞、茨城、2007年12月28日
産科 3年半ぶり再開へ 高萩協同病院
茨城県高萩市の県北医療センター高萩協同病院(大和田康夫院長)は27日、平成20年5月から産婦人科を再開すると発表した。同市内には現在、産婦人科を持った医療機関がなく、同市の草間吉夫市長は「市内での産婦人科がまたできるのは大きな前進」と歓迎している。
(産経新聞、茨城、2007年12月28日)
****** 時事通信、2009年4月20日
産科医不足、共通の悩み=11カ国・地域、確保策さまざま-日医
産科医の不足や地域偏在問題を抱えているのは、欧米やアジアなど15の国・地域のうち11に上ることが、日本医師会の調査で20日までに分かった。日本と同様に訴訟の増加など、産科医を取り巻く環境が厳しくなっている実態が浮き彫りとなった。平均勤務時間は日本が最長だった。
調査は各国の状況を把握し、国内対策に役立てようと昨年17カ国・地域に依頼した。米国、カナダ、韓国、台湾、シンガポール、タイ、フランス、ドイツ、英国、フィンランド、デンマーク、アイスランド、イスラエル、ニュージーランドの医師会から回答があり、日本を含む15カ国・地域で分析した。
産科医が不足、もしくは地域的に偏在しているとしたのは11カ国・地域。このうち、日本とカナダ、イスラエル、ニュージーランドの4カ国は不足と偏在問題両方に直面していた。将来、両方の問題が生じると予測しているのは、10カ国・地域に上った。
何らかの対策を取っているのは12カ国・地域。内容は、研修医の数の管理(7カ国)、地方での人員確保のための財政支援(6カ国)、産科医総数のコントロール(5カ国)、外国人医師の採用(4カ国)など。
(時事通信、2009年4月20日)
****** 読売新聞、2009年4月14日
[解説]「周産期」指定返上問題
過重労働医療の危機 診療科別に計画配置必要
総合周産期母子医療センターの愛育病院(東京都港区)が、労働基準監督署の是正勧告により夜間の常勤医確保が困難として、指定返上を都に打診した。(医療情報部 館林牧子)
【要約】
◇愛育病院は医師の夜間勤務が「時間外労働」と見なされ、是正勧告を受けた。
◇産科・救急医不足が背景にあり、抜本的解決には、医師の計画配置が必要だ。
愛育病院によると、労基署から3月、産科医、新生児担当医の夜間勤務が、労働基準法で定める労働時間を超えているなどとして、指導・是正勧告を受けた。
医療機関では慣習的に、夜間勤務は労働時間に当たらない「宿直」扱いにしていることが多い。定時の見回り程度の仕事で睡眠も取れるのが建前だ。
しかし、急患を常時受け入れている同病院の夜間勤務は、睡眠などは取れないのが実態であり、労基法上の「時間外労働」にあたると見なされた。労働時間に含めなければならず、日勤の25%増の割増賃金を支払う必要がある。
総合周産期母子医療センターは産科医が24時間いることが条件だが、同病院では労基署の指導に従った場合、夜間帯も常勤医が常に勤務することは困難と判断。都に指定の返上を打診した。都からは「夜間は非常勤医でも問題ない」として、総合センター継続の要請を受けており、今月下旬には結論が出される見通し。
しかし、今回の問題は愛育病院だけの問題にとどまらない。全国周産期医療連絡協議会が昨年、全国75か所の総合センターに行った調査では、97%の施設が、同病院と同様に、夜間勤務を「宿直」扱いとしていた。皇室関係のご出産でも知られる同病院は、比較的医師数も待遇も恵まれた病院であるにもかかわらず、労基署から是正勧告を受けたことが、医療現場には余計にショックを与えた。
背景には、分娩に携わる産婦人科医の絶対的な不足がある。厚生労働省によると、2006年までの10年間で、全体の医師数は15%増えているのに対し、産科・産婦人科医の数は約1万1300人から約1万人へと11%も減少している。
さらに、働き盛りの20歳代の産婦人科医の7割、30歳代の5割が女性だが、女性医師の約半数は、自分の出産を機に分娩を扱わなくなることも、産科救急医の不足に拍車をかけている。
過重労働は現場の疲弊を招き、医師の健康のみならず医療の安全も損なうことにもつながる。杏林大の岡本博照講師(公衆衛生学)が4年前、東京都と大阪府の6か所の救命救急センターの勤務医を調査したところ、平均当直回数は月10回、休日は月に2日だけ。月に1日も休みを取らず、22回も当直勤務をこなしていた医師もおり、労基法とはかけ離れた実態が明らかになった。休日が3日以下の医師は、免疫機能が低下し眠気も強いなど健康上の問題もわかり、岡本講師は「診療内容にも大きな影響を及ぼしかねない」と指摘する。
愛育病院では、夜間専門の非常勤医師を雇い、現在の当直体制は維持する方針。だが、夜間の非常勤医師は、昼間は別の病院で働いており、病院を昼夜で移るだけで、医師の過重労働の抜本的な解決策にはならない。
杏林大高度救命救急センターの島崎修次教授は「労基法を守るなら、救命救急センターには今の1・5倍以上の医師が必要だ。医師確保が難しい中で、労基法の順守だけを求められても現場では解決のしようがない」と話す。
読売新聞が昨年10月公表した医療改革提言では、医師を増やすとともに、地域や診療科ごとに定員を設け、計画的に専門医を養成することを提案している。過酷な勤務実態を改善するには、産科や救急など激務の診療科に適正に医師を配置する仕組みが必要だ。
(読売新聞、2009年4月14日)
****** 毎日新聞、栃木、2009年3月31日
佐野厚生総合病院:12月から産科休止
周産期医療機関、栃木病院も返上
リスクの高い妊娠に対応する地域周産期医療機関に認定されている佐野厚生総合病院(佐野市)が、12月から産科を休止することが分かった。また、国立病院機構栃木病院(宇都宮市)も2月に地域周産期医療機関の認定を県に返上していたことが分かった。07年の分娩(ぶんべん)数は、佐野厚生総合病院は540件、国立栃木病院は135件に上る。いずれも産科医の不足による対応で、地域の産科医療に深刻な影響を及ぼしそうだ。
佐野厚生総合病院は現在3人いる産科医が4月から2人に減る。11月まで予約が入っている分娩には対応するが、それ以降の新規出産は受け入れない。国立栃木病院も医師が減少し、産科は継続するもののハイリスク分娩には対応しない。
県医事厚生課によると、07年の県内医療機関での分娩は1万8335件。最も多いのは済生会宇都宮病院(宇都宮市)で1248件に上る。
比較的高度な医療設備とスタッフを抱え、異常妊娠に対応する地域周産期医療機関に認定されているのは、08年度で県内8病院。両病院の産科休止や認定返上により、認定病院は6病院に減り、宇都宮市内では済生会宇都宮病院、両毛地域では足利赤十字病院(足利市)のみになる。【葛西大博】
(毎日新聞、栃木、2009年3月31日)
****** 読売新聞、栃木、2009年3月28日
周産期医療センター 国立栃木認定返上
佐野厚生総合、出産休止へ
母体や胎児へのリスクが高い出産に対応する「地域周産期母子医療センター」が、現在の8病院から2減となる見通しであることが27日、わかった。国立病院機構栃木病院(宇都宮市中戸祭)が認定の返上を県に申し出たほか、佐野厚生総合病院(佐野市堀米町)が11月末で出産の扱いを休止する方針。いずれも医師不足を理由に挙げている。今後、緊急時や県南部の出産受け入れ体制に大きな影響が出る可能性がある。
県によると、国立栃木病院は現在2人いる産科常勤医が4月から1人となる見込みで、「医師不足のためハイリスク分娩に対応できない」と2月に返上の申し入れがあった。
認定返上は2007年11月の佐野市民病院、宇都宮社会保険病院に続いて3件目。
佐野厚生総合病院は、現在入っている11月までの予約には対応するが、新規の出産受け入れは休止する。同病院によると、2007年度に5人いた産科常勤医が08年度に3人に減少。3月末にはさらに1人が退職することになり、休止を決断したという。今後、新たな医師を確保できない場合は「センター認定を返上するしかない」と話している。
それぞれの病院の認定返上、出産休止は、27日に開かれた県周産期医療協議会で報告された。
国立栃木病院は、07年度から出産受け入れを縮小している。
一方、佐野厚生総合病院は年間約400件の出産を扱っており、佐野市内で出産を扱う医療機関3か所のうち救急搬送に対応できるのは同病院だけ。周辺の病院が受け入れを大幅に拡大しなければ、地元で出産施設が見つからない「お産難民」が発生する可能性もある。
協議会では、「小児救急や高度な周産期医療を担う足利赤十字病院の負担増は避けられないのではないか」と懸念する声が上がった。
(読売新聞、栃木、2009年3月28日)
****** 下野新聞、2009年3月28日
佐野厚生病院、12月から産科休止 周産期機関返上へ
合併症などリスクの高い妊婦を受け入れる地域周産期医療機関に認定された佐野厚生総合病院(佐野市)が十二月から産科を休止する方針であることが二十七日、分かった。現在三人の産科常勤医が四月から二人に減るためで、十一月までのお産と産科救急も当面対応する予定という。出産前後の周産期医療体制を支える地域拠点病院がこのまま離脱すれば、弱体化は必至だ。
同日の県周産期医療協議会で病院関係者が報告した。
下野新聞社の取材に対し、現在診療している妊婦は責任を持ってお産まで担当するが、四月以降に常勤医が三人に戻らなければ、十一月いっぱいでお産を休止せざるを得ないという。
佐野厚生のお産件数は、年間四百件近くに上る。産科救急は四月から対応できる範囲が縮小する見通し。また地域周産期医療機関の認定も産科が休止すれば、返上するという。
県保健福祉部によると、県内でお産に対応する医療機関は減少する一方。三年前には五十カ所だったが、昨年四月には下都賀総合病院(栃木市)のお産休止などで四十四カ所に減った。
地域拠点病院も今年二月に国立病院機構栃木病院(宇都宮市)が地域周産期医療機関の認定返上を申し出たばかりだった。
県保健福祉部の担当者は「きょう初めて聞き、えっと思った。救急の対応など今後の状況を、きちんと確認したい」と、驚きを隠さなかった。
(下野新聞、2009年3月28日)