ある産婦人科医のひとりごと

産婦人科医療のあれこれ。日記など。

富士市立中央病院:産婦人科医増員へ 浜松医大派遣方針、8人態勢実現に期待

2008年12月22日 | 地域周産期医療

例えば、地域内に産婦人科医2人、小児科医2人、麻酔科医2人、助産師10人が勤務する分娩施設が4施設存在する場合、どの施設でも医師達は必ず1日おきに当直し、当直ではない日も夜中の緊急手術があれば必ず病院から呼び出されます。そのような過酷な勤務環境では絶対に長続きする筈がありません。

それよりは、地域の分娩施設をセンター化し、産婦人科医8人、小児科医8人、麻酔科医8人、助産師40人を配置する方が、無理のない維持可能な勤務環境を実現できるという意見に多くの人が賛同すると思います。

分娩施設の集約化に際しては、地元大学の産婦人科教授などが強力なリーダーシップを発揮できれば、話が比較的スムーズにまとまっていくと思います。

しかし、実際に分娩施設の集約化を実行しようとする際に、どの施設に医師を集約するのか?で各施設の利害が激しく対立し、すんなりと話がまとまらない場合も少なくないと思います。集約化の話がうまくまとまらない地域では、自然淘汰で施設が一つ一つ減っていくのを辛抱強く待つしかないのかもしれません。

****** 毎日新聞、静岡、2008年12月20日

富士市立中央病院:産婦人科医増員へ 浜松医大派遣方針、8人態勢実現に期待

【要約】 富士市の鈴木尚市長は、市立中央病院(山田治男院長)の産婦人科について、現状の医師4人を将来的に増員できる見込みであることを19日、明らかにした。来年4月から医師3人を派遣する浜松医科大から増員方針を伝えられたという。今後、順次増員される計画とのことで、山田院長は医師8人態勢実現を期待していると表明した。東京慈恵医科大から小児科医の派遣継続も決まり、周産期母子医療センターも存続することになった。

(毎日新聞、静岡、2008年12月20日)


全国のNICUを1.5倍に増床する提言

2008年12月20日 | 地域周産期医療

****** 毎日新聞、2008年12月19日

妊婦受け入れ拒否死亡:問題受け「新生児治療室1.5倍に」 有識者懇が報告書案

 東京都内で起きた妊婦死亡問題を受け、産科と救急の医療確保策を議論していた厚生労働省の有識者懇談会(座長、岡井崇・昭和大教授)は18日、報告書案を大筋でまとめた。母体の受け入れ体制強化のため、総合周産期母子医療センターと救命救急センターの機能を合わせた施設を整備し、全国のNICU(新生児集中治療室)を現行の1・5倍程度に増やすよう求めている。報告書は来年1月にも厚労省に提出する。

 現在の産科救急は、全国75カ所の総合周産期センターが地域の拠点になっているが、約3分の1の施設は脳出血などを起こした妊婦への対応が難しかった。そこで報告書では、センターの指定基準を年度内に見直し、最も高度なセンターは▽産科▽新生児科▽NICU▽MFICU(母体・胎児集中治療室)▽救命救急--の全機能を持つべきだとした。

 また、総合周産期センターが救急搬送の受け入れを断る理由の9割以上が「NICUの満床」であることから、出生1万人当たり20床としていた必要病床数を、当面25~30床に引き上げる整備が必要だとした。【清水健二】

(毎日新聞、2008年12月19日)

****** 読売新聞、2008年12月19日

「新生児ICU最大5割増」有識者会議が報告書案

 東京都内で今秋、妊婦が複数の病院から受け入れを拒否される事態が相次いだことを受け、周産期医療と救急医療の改善策を検討していた厚生労働省の有識者会議(座長・岡井崇昭和大教授)は18日、全国の新生児集中治療室(NICU)を最大5割増やすことなどを柱とした報告書案を大筋で合意した。

 来年1月の最終会合で正式決定する見通しで、同省は研究班を作るなどして具体化を急ぐ。国はこれまで、NICUを出生1万人当たり20床必要としてきたが、報告書案は同25~30床に増床するよう都道府県に促すことを求めた。

 たらい回し防止策では、救急隊が空き病床の情報を正確に把握するため各都道府県に情報センターを設置し、搬送先を探すコーディネーターを24時間態勢で配置することなどを提案した。

(読売新聞、2008年12月19日)


臨床研修、後半1年は専門科で…医師不足対策 厚労・文科省案

2008年12月18日 | 地域周産期医療

コメント(私見):

現行の臨床研修制度は、初期研修期間の2年間で、内科、外科、救急医療、小児科、産婦人科、精神科、地域医療などの必修科目を数週間ずつ研修するシステムです。その間に自分が将来専門とする診療科を決めて、医師免許取得後3年目から専門研修(後期研修)を開始する制度になっています。この制度は2004年に始まり今年で5年目になります。

今回、厚生労働省と文部科学省より、この臨床研修制度を見直して、2年間の初期研修期間のうち後半の1年間を将来専門とする診療科に特化させることで、専門研修の開始を実質1年早める案が示されました。

今は6週間ごとに2年目の初期研修医が産婦人科研修に回ってきてますので、年間を通していつも初期研修医が1~2名産婦人科病棟にいます。臨床研修制度が案通りに改定されると、研修医の中に産婦人科志望の者が1人でもいれば、2年目の研修医が1年間産婦人科に専従してくれることになりますが、産婦人科志望の者が1人もいない場合は1年間研修医が誰も産婦人科に来てくれないことになります。

また、地域ごとに研修医受け入れの上限を設置して、研修医が特定の地域に偏在しないように制度を改める方向で検討されているようです。

臨床研修制度が最終的にどのように変わっていくのか分かりませんが、将来的に研修医が誰も来なくなったら病院の体制を維持できませんから、病院側としても時代と共に自ら変革し続けていく必要があります。

****** 共同通信、2008年12月18日

臨床研修1年に短縮を提示 2010年度の導入目指す 医師不足で厚労、文科両省

 医師不足の一因とも指摘されている医師の臨床研修制度について、厚生労働省と文部科学省は18日までに、現行2年の研修期間を実質1年に短縮するなど現場で働く医師を確保する見直し案をまとめ、厚労・文科合同の専門家検討会に提示した。検討会はこうした方向で議論し、年度内にも結論を出す。早ければ2010年度からの導入を目指す。

 現行では、医師免許取得後2年間で7つの診療科の研修が必須だが、見直し案では、1年で内科や救急などの基本となる診療科の研修を終了、後半1年は将来専門とする診療科に特化させ、現場で診療も担わせる。

(以下略)

(共同通信、2008年12月18日)


医者はどこに消えた? 「医療崩壊」の理由と解決策

2008年12月17日 | 地域周産期医療

日本では、分娩の約半数が産婦人科医1~2人の小規模施設で管理されています。それに対して、アメリカでは、分娩の98%が大規模施設で管理されています。イギリスにおいても分娩の大部分が大規模施設で管理され、小規模施設は少数とされています。スウェーデンでは、分娩の100%が大規模施設で管理され、小規模施設は存在しないと報告されています。

1産婦人科施設あたりの産婦人科医師数は、アメリカが6.7人、イギリスが7.1人なのに対し、日本は1.4人にすぎず、我が国では、きわめて小規模な施設で多くの分娩が行われていることが分かります。

小規模施設での分娩の管理では、どうしても勤務条件が過酷になってしまいますし、安全性にも限界があります。産婦人科医の絶対数は急には増やせませんから、まず当面の緊急避難的対策として、分娩施設を集約化して、施設あたりの産婦人科医師数を欧米並みの7人程度まで増やす必要があると思われます。

さらにその上で、若い医師が産婦人科に入門しやすいように勤務環境を整備し、次世代の産婦人科医をじっくりと育成し、将来的に産婦人科医の絶対数が現在よりも増えていくような流れをつくっていく必要があります。

****** 産経新聞、2008年12月14日

医者はどこに消えた? 「医療崩壊」の理由と解決策

東京でさえも妊婦受け入れ拒否が起きたことに、ただならぬ「医療実態」を感じた人は少なくないだろう。加えて今年は産科や小児科病棟の閉鎖など、各地から医療混乱の報告が相次いだ。医師不足は深刻である。厚生労働省はようやく腰を上げ、医師定数の増員策を考えはじめたが、直ちに状況が好転する見込みはない。なぜ、医療現場から医師の姿が消えたのか。なぜ、ここまで状況は深刻になってしまったのか。これから、どうなっていくのか。

(中略)

どうやって医師を増やすか

 各地からの相次ぐ“医療崩壊”の知らせに、「医師は不足していない」と主張してきた厚労省も方針を見直さざるを得ない事態に追い込まれた。

 「医療崩壊と言われる状態なのだから、従来の医師数抑制政策を見直すことで総理の了解を得た」

 6月17日。舛添厚労相は会見で明確に方針転換を表明した。さらにこうも加え、従来政策からの決別を宣言した。

 「現実を見てやらないと。官僚が霞が関の机の前に座り、紙と鉛筆だけで数字を合わせをしただけで政策とされたのではかなわない」

 では、どうやって医者を増やすのか。

 医師増員策の下地となる政策を描く役割を担ったのは、厚労省などが立ち上げた複数の「専門家会議」である。

 舛添厚労相が自ら会議をリードした「安心と希望の医療確保ビジョン」会議は6月に、医師数増員の方針や、産科医不足を補うため病院内に助産所を整備すること、パートタイム的な労働体系を整備することなどで女性医師の復職を支援することなどをとりまとめた。

 8月末には、確保ビジョンの報告をうけて立ち上げられた「『安心と希望の医療確保ビジョン』具体化に関する検討会」が、将来的に医学部定員を現在の1・5倍に当たる約1万2000人にする必要があるとする報告をまとめた。

 さらに年内には、厚労省と文科省が合同で立ち上げた「臨床研修制度のあり方等に関する検討会」が、研修制度にメスを入れた提言をまとめる予定だ。

 過去には医師数抑制に理解を示したこともある日本医師会は、国より一歩先に昨年8月の段階で対策を提言している。そこでは、「医学部定員の適正化、医師の再就職支援」といった中期的対策や、「女性医師の就業支援、医学部定員の地域枠設定、医療現場を守る診療報酬引き上げ」といった緊急対策が盛り込まれた。

偏在解消の“強制力”と“就労自由”のジレンマ

 国の医師数政策が「抑制」から「増員」に方針転換されたからといって、それが特効薬になるわけではない。

 増員策を話し合った懇談会や検討会では、百家争鳴の意見が専門家たちから出されている。

 例えば、都会に集中している医師偏在。

 検討会では、名古屋セントラル病院の斉藤英彦病院長がこう提案した。

 「直ちに偏在や不足を是正するには、各地の医大ごとに、地元に就職する人の地域枠を設けるべきだ」

 各地の医大設置の精神から言えばこれは正論だが、阻むのは「就労の自由を奪うことになる」という考え方だ。

 舛添厚労相からは「2年の研修期間を1年に短縮して、医師が現場に出るまでの時間を短縮させる」といった意見も出た。

 これに対し徳島県立中央病院の永井雅巳病院長はこう言って慎重姿勢を見せるのだ。

 「1年にするメリットとデメリットをしっかりと整理しないと、再び同じような議論の混乱を招きかねない」

 検討会の座長である高久史麿・自治医科大学長はこう指摘した。

 「今の医療提供体制を変えずに医師を増やしても、アンバランスが広がるだけ。ただ増やしても問題は解決しない」

 北里大の海野信也教授は「増えてきた医師が働き続けられる現場でないといけない」と新たな制度づくりを提案している。

(以下略)

(産経新聞、2008年12月14日)


産科医・新生児科医の育成

2008年12月14日 | 地域周産期医療

周産期医療の崩壊を防ぐためには、産科医や新生児科医を育成し、将来的に周産期医療に携わる医師数が増えるように地道に努力していくしかありません。

崩壊寸前にまで低下した現有戦力が枯渇しないように、基幹施設に医師を集めて何とか急場をしのぐ必要があるのは確かですが、それだけでは単なる一時的な延命処置にしかなりません。中高年医師だけでいくら頑張っても、次世代の医師が育たないことには将来的にはどうにもなりません。周産期医療存続の危機に陥っている今こそ、将来の貴重な戦力となる若い医師達をじっくりと育成していくことが非常に重要だと思います。

****** 読売新聞、神奈川、2008年12月14日

産科・小児科医を育成 横浜市助産所健診の費用補助

 産科や小児科などの深刻な医師不足を受け、県や横浜市が、妊婦や子どもたちが安心して医療を受けられる体制作りを模索し始めた。県は、横浜市立大医学部で来年度から増員される医学生を産科・小児科の医師として育てることを決め、学費を援助する。横浜市では、助産所で出産する妊婦への資金援助を始めた。県は「地域医療を支えてほしい」と期待をかけている。

 県によると、県内の病院に勤務する産科・産婦人科の医師数は、1998年の419人から06年に363人と1割以上減った。横浜市の調査では、昨年度の産科病院数は05年度より4か所減った一方で、出産件数は400件以上増加した。

 こうした現状を踏まえ、横浜市立大は医師確保策として、医学部医学科の定員を来年度から10人増やすことを決めた。増員した医学生が卒業後、県内の医療機関で一定期間勤務することを条件としている。

 10人のうち5人は、出産直前直後の周産期医療に携わる産科や小児科などの医師として養成する。在学中の6年間、県が学費や生活費を融資するが、卒業後の臨床研修を経て、県指定の医療機関に9年以上勤務すれば返済義務がなくなる。残る5人についても7年間、県内の医療機関で勤務してもらうとした。同大は今年度、医学科の定員を20人増の80人としており、今回の増員で来年度は90人になる。

(以下略)

(読売新聞、神奈川、2008年12月14日)


医療クライシス:妊婦死亡が問うもの/上・中・下 (毎日新聞)

2008年12月11日 | 地域周産期医療

コメント(私見):

周産期医療の現在の危機的状況を打開するための方策がいろいろと検討されてますが、根本的には産科医療や新生児医療に従事する医師数を地道に増やしていく他ありません。

一緒に頑張ってくれる仲間が増えれば、絶対に何とかなります。産科医療や新生児医療に従事する楽しさや充実感を、多くの医学生や初期研修医たちに伝えて、周産期医療を志す若い仲間を一人でも多く増やしていきたいと考えています。

一緒に頑張る仲間を地道に増やし、みんなでスクラムを組み、みんなの力を結集して、この危機を打開していきたいと思います。

****** 毎日新聞、2008年12月9日

医療クライシス:妊婦死亡が問うもの/上 

少なすぎる医師数

 ◇開業医と連携なく

 昨年11月21日夜。東京都立墨東病院(墨田区)5階の大会議室に病院と都、地元開業医の代表計18人が集まった。産科救急の「最後のとりで」である総合周産期母子医療センターに指定されている同病院産科の常勤医が、定員(9人)の半数以下の4人となったことへの対応を話し合う初めての会合だった。

 病院は「(開業医は)患者を救急搬送したら、墨東に入って手伝ってほしい」と提案した。開業医たちは「なぜ医師を補充しないのか」「公立病院の責務はどうなったのか」と反発し、議論は2時間半に及んだが、具体策は決まらなかった。

 今年7月には非常勤医がさらに1人減り、土日の救急搬送に対応できなくなった。悲劇が起きたのは、その3カ月後の10月4日。脳出血を起こした妊婦(36)が同病院を皮切りに8病院に受け入れを断られ、3日後に亡くなった。江戸川区産婦人科医会の鈴木国興会長は「いつか起きると覚悟していた」と話す。

 都内の産科医は約1400人で、出生数に対する医師数は全国平均の1・4倍。全国75の総合周産期母子医療センターのうち9施設が都内にある。それでも十分な体制でないことは、関係者の間では周知の事実だった。今年9月にも同様の妊婦が同センターの杏林大病院(三鷹市)などに受け入れを断られた末に重体となり、深刻さが浮き彫りになった。

 06年11月にも、荒川区の開業医が切迫早産の妊婦の搬送先を探したが、墨東病院を含む十数カ所に断られ、川崎市内の病院で死産した。都福祉保健局長が都議会で「事実を検証する」と答弁したが、その後の都周産期医療協議会では取り上げられず、今年3月にまとまった協議会報告書でも触れていない。十分な対策が打たれないまま、悲劇は繰り返されたのだった。

 日本の医師数は、経済協力開発機構(OECD)加盟国中最低レベル。産科医不足の解消は容易でない中、どうしたらいいのか。

 大阪府泉佐野市と貝塚市は今春から、両市立病院の間で、婦人科手術は貝塚、分娩(ぶんべん)は泉佐野に集約した。以前はそれぞれが産婦人科医5人で、年間約750件の分娩や当直をこなした。当直は1人のため、他の医師が呼び出されることもたびたびあった。

 集約後は常勤医10人を基本に泉佐野の当直を回しているため、2人体制による24時間対応が可能になり、母体搬送を断るケースは減った。医師は呼び出し回数が半減し、手当も月20万~30万円アップ。開業医も当直に入るようになった。泉佐野病院の荻田和秀・産科医療センター長は「余裕ができた分、治療にも専念できるようになった」と説明する。

 東京では、総合周産期センターの愛育病院(港区)が地域の診療所と、健診と分娩の役割分担を進めている例などがあるが、医師を融通し合うような連携はない。都内の病院長は「墨東病院は一時、赤字を減らそうと、開業医が扱うべき正常分娩を取りすぎた。開業医との役割分担より利益追求を優先した結果地域から孤立し、協力体制を築けなかった」と指摘する。

   ×  ×

 産科の救急医療体制をどう立て直せばいいのか。各地の現状と取り組みを追った。

(毎日新聞、2008年12月9日)

****** 毎日新聞、2008年12月10日

医療クライシス:妊婦死亡が問うもの/中 

見つからぬ搬送先

 ◇調整役導入で好転

 「痛い、痛い」と訴える妊婦(36)の横で、産科医は搬送先を探すため懸命に電話をかけ続けた。10月4日夜、東京都江東区の産婦人科。都立墨東病院に受け入れが決まったのは、7病院に受け入れを断られた末の約1時間後だった。

 夫(36)は「なぜ、どこも診てくれないのか」と、やりきれない思いで待つしかなかった。妊婦は3日後に脳出血で死亡。搬送先が迅速に決まる仕組みは作れないのか。

 昨年11月、未熟児が7病院に受け入れを断られ、その後亡くなる事案が明らかになった札幌市。実は今年11月7日夜も、市内6病院に計48床あるNICU(新生児集中治療室)がすべて埋まっていた。こうした事態は月1回程度あり、「搬送不能」が繰り返されてもおかしくない。だが10月から産科救急の体制を変えたことで、受け入れ拒否の心配は基本的になくなった。

 仕組みは単純だ。市夜間急病センターに詰める助産師資格を持つオペレーター2人が毎夕、NICUのある病院の状況を確認し、受け入れ病院を決めておく。11月7日夜は、市内のある病院を受け入れ先に指定し、「NICUが必要なら苫小牧市立病院へ運ぶ」。産科医はセンターに連絡するだけでよく、搬送先を探す必要はない。

 大阪府も昨年11月、府立母子保健総合医療センターに、産科救急搬送を調整する専任コーディネーターを置いた。「各病院の事情を知るベテラン産科医なので、押しが利く」(府担当者)面もあり、病院選定にかかる時間が平均約50分から約30分に縮まった。

 厚生労働省によると、同様の取り組みは千葉や京都など4府県でも実施している。なぜ東京はやらないのか。関係者からは「数が多すぎてリーダーシップを取る病院がない」などの声が漏れる。

 東京には、(1)搬送が必要になった産科があるブロック(8地域)内の総合周産期母子医療センター(2)それ以外のセンター(3)すべて無理なら最初のセンター--の順で搬送を受け入れるとのルールがある。だが、現場の医師が、搬送先が見つかるまでかけ続けているのが実情。ネット上で受け入れ可能病院を表示するシステムもあるが、現場の医師には「情報入力の余裕がない」と不評だ。

 厚労省はそれでも、IT(情報技術)を使った搬送先決定システムの開発に力を入れようとしている。札幌市の体制整備にかかわった水上尚典・北海道大教授は「現場の医師に負担がかかるシステムは役立たない。産科医を医療以外の行為から解放することが大切だ」と訴える。

(毎日新聞、2008年12月10日)

****** 毎日新聞、2008年12月11日

医療クライシス:妊婦死亡が問うもの/下 

産科救急

 ◇深刻、NICU不足

 体重約1500グラム。細心の注意を払った帝王切開手術が無事終わり、赤ちゃんは元気な産声を上げた。06年8月、青森県立中央病院(青森市)の総合周産期母子医療センター。母親は約1カ月前、肺の動脈に血栓が詰まる肺塞栓(そくせん)症を発症し、約40キロ離れた弘前大病院(弘前市)に救急搬送されて緊急手術を受けたばかりだった。

 弘前大病院は総合周産期センターではなく、NICU(新生児集中治療室)はない。それでも運んだのは、重い脳や心臓の病気の妊婦に対応する病院を決めていたからだ。県立中央病院の佐藤秀平センター長は「母体救命には産科以外の診療科との連携が不可欠」と話す。脳出血になった妊婦の救急搬送を巡る問題が相次いだ東京では、なぜ救急で受け入れなかったのか。

 日本の周産期医療は開業医から総合周産期センターまで、産科の連携で対応する。厚生労働省はセンター指定要件に救急部門設置を求めず、分娩(ぶんべん)に力点を置いてきた。厚労省母子保健課は「産科以外の病気による母体救急はまれ」と説明する。だが、最近の研究で、分娩と関係ない「間接死亡」が妊婦死亡のかなりの割合を占めることが分かってきた。

 国立循環器病センターの池田智明・周産期治療部長らの研究グループは、米国の統計手法に従うと、日本の05年の妊産婦死亡数は84人で、脳出血などの間接死亡が41%に上るとのデータをまとめた。日本産婦人科医会も04年分を分析、間接死亡率を38%と推計した。池田部長は「脳疾患などの母体の救命は、日本の周産期医療ではほとんど注目されず、具体的な対策が少なかった」と指摘する。

 都周産期医療協議会は11月28日、都内9カ所の総合周産期センターのうち3~4カ所を「スーパー総合周産期母子医療センター」(仮称)とし、重症妊婦の搬送をすべて受け入れる方針を決めた。ただ、都の調査では、総合周産期センターが妊婦を受け入れられなかったケースの理由は「NICU満床」が約9割に上り、「スーパー総合」が機能するか懐疑的な声も上がる。

 産科救急が苦境にある大きな原因はNICU不足だが、全国で約1000床足りないとの推計もあり、国が医師数や医療費の抑制策を抜本的に改めない限り劇的な改善は難しい。協議会会長代理の楠田聡・東京女子医大教授は「スーパー総合は、NICUの負担増無しには動かない。根本的な解決はNICUが増えることだが、それまでは今まで同様耐えるしかない」と話す。

 当面は各地の取り組みの知恵を共有し、行政も支援して苦境に対応するしかない。だが綱渡りをいつまでも続けられる保証はない。

  ×   ×

 この連載は、須山勉、清水健二、河内敏康が担当しました。

(毎日新聞、2008年12月11日)

****** 読売新聞、2008年12月11日

周産期の救急医療体制…新生児ICU 「満床」対策が急務

 産科救急の危機が社会問題になっています。今年10月、脳出血を起こした東京都内の妊婦(36)が8病院に受け入れを断られ、出産後に死亡した問題では、そのうち3病院が最重症の妊婦や新生児の救急治療にあたる「総合周産期母子医療センター」だったため、関係者に大きな衝撃を与えました。

 国が、同センターを制度化したのは1996年。産科救急の拠点として24時間体制で複数の産科医が勤務していることなどを条件とし、現在、45都道府県で計75施設が指定されています。比較的高度な医療を行う「地域周産期母子医療センター」も全国236施設が指定され、地域の医療施設も含めた周産期医療ネットワークを構築することで、安心して赤ちゃんを産み育てられる環境づくりが進められてきました。

 ところが、ここ数年、救急での妊婦の受け入れ状況は急速に悪化。総務省消防庁が今春まとめた調査では、昨年1年間に119番で緊急搬送された妊婦のうち、3回以上医療機関に断られたのは1084件で、3年間で4・3倍に増えました。母子医療の“最後の砦”であるはずの総合周産期母子医療センターのうち7割が、昨年度、搬送受け入れを断った経験があることが、厚生労働省の調査で分かりました。

 その理由に、「新生児集中治療室(NICU)が満床」をあげている施設が92・5%(複数回答)に上ります。出生数は減っていても、出産年齢の高齢化などにより、NICUでの治療が必要な新生児が増えているとの背景も指摘されています。

 激務や訴訟リスクの高さから全国的に産科医不足が深刻化しているのも理由の一つです。産科医の確保が難しく、夜間、土、日の当直が医師1人しかいないセンターも少なくありません。また、国はこれまで産科と一般の救急体制を別々に整備。このため、産科医と新生児診療を担当する医師はいても、脳出血など他の診療科での治療が必要な妊産婦への対応ができない施設もあるのが実情です。

 それでも日本の新生児死亡率は諸外国に比べて低いのですが、より安心して子供を産み育てられる体制づくりに向け、産科と一般の救急医療の連携強化などの対策を早急に進める必要があります。【本田麻由美】

(読売新聞、2008年12月11日)


妊婦搬送:総合周産期センター、平均200件は受け入れ不能--昨年度、東京

2008年12月08日 | 地域周産期医療

妊婦の搬送受け入れ拒否の理由のほとんどは「NICUの満床」です。ですから、NICUを大幅に増床する必要があります。

しかし、国や都道府県などの政策でNICUをむりやり増床しようとしても、新生児科医やNICU専属の看護師をそこに配属することができなければ、増床分のNICUのベッドを稼働させることができません。

従って、早急に多くの新生児科医の養成に着手し、将来的に新生児科医の数を増やす必要があります。まずは、大学病院や総合周産期母子医療センターで、小児科専門医をめざす小児科後期研修医や周産期専門医(新生児)をめざす小児科専門医の数が大幅に増加するような何らかの施策が必要です。

ただし、小児科専門医資格の取得には医師になってから5年以上(初期研修2年、後期研修3年以上)かかりますし、周産期専門医(新生児)資格の取得には小児科専門医資格取得後に3年以上かかります。

****** 毎日新聞、東京、2008年12月6日

妊婦搬送:総合周産期センター、平均200件は受け入れ不能--昨年度

9割、NICU満床--極低出生体重児が増え

 ハイリスクの妊婦に対応する都内の「総合周産期母子医療センター」(9カ所)が昨年度、妊婦の搬送を受け入れられなかった事例は1センター平均約200件に上り、その9割近くはNICU(新生児集中治療管理室)の満床が理由だったことが、都の調査で明らかになった。晩婚・晩産化などからNICUが不可欠な未熟児が増えたうえ、他県からの入院児も多く、首都の周産期医療の厳しい現状が改めて浮き彫りになった形だ。

 都内で今年9~10月、脳内出血の症状を訴えた妊婦の搬送を総合周産期センターなどが受け入れられなかった問題が相次いだことを受け、都福祉保健局が各総合周産期センターの搬送受け入れ状況(昨年度実績、速報値)などを調べた。

 その結果、妊婦の搬送の要請は9センターで延べ計2784件(一つのケースで複数のセンターが要請を受けた重複分も含む)あり、うち受け入れられなかったケースが1789件(64%)を占めた。受け入れ不能だった理由の内訳を数字で示したのは7センター(1408件)で「NICU(およびMFICU=母体・胎児集中治療管理室)が満床だったため」が1192件(85%)を占めた。

 残りの2センターも東邦大学医療センター大森病院(204件、大田区)が「おおむねNICU満床による」、日本赤十字社医療センター(177件、渋谷区)も「病床(NICUおよびMFICU)が満床の場合がほとんど」とコメント。合わせると妊婦搬送を受け入れられなかった事例の9割近くが、NICU不足によるものだったとみられる。

 ある総合周産期センターの責任者は毎日新聞の取材に「子どもが生まれそうな妊婦の搬送要請があった場合、母親のベッドは空いていてもNICUに空きがなければ普通は受け入れない。無理して受け入れても未熟児が生まれ、万一亡くなるような事態になれば、遺族から『なぜ受け入れたんだ』と訴えられることもありうる。だったら最初から受け入れない方がいい、ということになってしまう」と打ち明ける。

(以下略)


「スーパー総合周産期母子医療センター」構想

2008年12月02日 | 地域周産期医療

母体搬送受け入れ拒否の理由ではNICU満床が多いです。 実際問題として、児娩出後に直ちに児がNICUに収容されることが確実な状況であれば、NICUが満床の施設は母体搬送の受け入れを拒否せざるを得ません。

しかし、命にかかわる重大な母体疾患の場合は、母体の救命が最優先となりますから、たとえNICUが満床であろうとも、とりあえず母体搬送を直ちに受け入れて、脳神経外科などと連携して母体の救命処置を優先的に実施せざるを得ない場合もあり得ます。

それぞれの患者さんの状況に応じて、母体搬送を受け入れる施設をスムーズに決定する公式ルールを策定する必要があります。ただ、特定の施設の負担だけが著しく増大するようでは、周産期医療の崩壊がかえって促進されるかもしれません。

地方の場合は、緊急母体搬送の受け入れ先は各医療圏でほぼ1施設のみに限定されますので、受け入れ拒否という事態はあまり起こりません。ただ、医療圏によっては、基幹病院の産婦人科医が全員いなくなって産科部門が閉鎖となり、ほぼすべての母体搬送を他の医療圏に搬送せざるを得ないような地域もあります。同じ県内の医療圏であっても、それぞれの医療圏ごとに事情は全く異なりますから、有効な対応策もそれぞれ全く異なります。

****** 共同通信、2008年12月1日

重症妊婦専門病院を指定へ 脳疾患など受け入れ 妊婦死亡問題で都協議会

【要約】 脳内出血の妊婦が東京都立墨東病院など8病院に受け入れを断られ死亡した問題を受け、学識経験者でつくる都の協議会は28日、会合を開き、脳疾患や心疾患を併発するなど重症に陥った妊婦をすべて受け入れる緊急対応の病院を、都内で指定することを決めた。

(共同通信、2008年12月1日)


地元市町村の医師確保の努力

2008年11月26日 | 地域周産期医療

近年、産科医療は大勢の専門医がチームを組んで診療にあたるスタイルに大きく変貌を遂げつつあり、多くの病院で現状のマンパワーのままでは産科部門の維持が非常に困難な状況となってきました。『連携強化病院に、産婦人科医・小児科医を重点配置する』という県全体の大きな流れの中で、産科部門がいったん閉鎖に追い込まれた(連携強化病院ではない)地元の病院に産科部門を復活させようとすれば、地元市町村としても、相当に思い切った医師確保対策が必要となります。

また、医師確保対策が奏功して産科部門を一度は復活できたとしても、その後の安定した医師の供給が期待できない場合は、将来的に産科部門の維持がまた非常に困難となる事態も予想されます。従って、今後も引き続き医師確保の努力を継続する必要があります。

連携強化病院の指定は診療実績をもとに数年ごとに必ず見直しがある筈です。いくら過去の栄光が素晴らしい名門病院であっても、深刻なマンパワー不足で十分な診療ができなくなってしまった場合は、連携強化病院の指定を解除されても止むを得ないと思われます。逆に、現時点では不十分な診療体制の病院であっても、病院や地元市町村の自助努力で、産婦人科医、小児科医、麻酔科医などの人員がしっかりと確保され、県の周産期医療提供体制の中で非常に重要な役割を果たすようになれば、その努力が報われて、将来的には連携強化病院に指定される可能性もあると思われます。

分娩施設の集約に際し、施設がなくなる地域の自治体や地域住民の理解を得るのは非常に難しいと思われます。医療現場で働く医師達は、それぞれの職場で自分の職責を果たすことに精一杯であり、分娩施設の集約化を推進できる立場にはありません。おそらく、各大学病院産婦人科教授や県知事などの立場にある人が、全県的な医師配置のバランスを考慮して、リーダーシップを発揮していくことになると思われます。

****** 信濃毎日新聞、2008年11月26日

県立須坂病院、常勤産科医に1人3000万円の支度金

 須坂市、上高井郡小布施町と高山村などでつくる須高行政事務組合は、同市の県立須坂病院で新たに常勤となる産婦人科医に、就業支度金として1人3000万円を貸与し、3年間勤務すれば返還を免除する制度を導入する方針を決めた。今月から同病院に着任した非常勤の産婦人科医2人に活用してもらいたい考えだ。

 県病院事業局によると、県内の市町村が県立病院の医師に絞って支援するのは初めてという。3市町村がそれぞれの12月定例議会に、人口割りの制度負担金を盛った本年度一般会計補正予算案などを提出。各議会で可決されれば同組合は年内実施を目指す。

(以下略)

(信濃毎日新聞、2008年11月26日)


妊娠のリスク知ってほしい―現役産婦人科医が11か条の心得(CBニュース)

2008年11月23日 | 地域周産期医療

妊娠はリスクを伴いますが、医療を必要としている妊婦さん達が、病院の産婦人科をだんだん利用しにくくなっているのは大きな問題です。しかし、これは産婦人科医の社会常識やモラルの欠如が根本的な原因ではないことを御理解いただきたいと思います。

産婦人科医達の本来の気持ちとしては、受診を希望する患者さんはみんな診てあげたいと思っているのですが、病院で勤務する産婦人科医の労働環境が年々悪化し、体力・気力の限界に達してぎりぎりのところまで追い詰められた医師達が燃え尽きて次々に離職し、残された医師達の労働環境はますます悪化し、病院から産婦人科の看板が次々に消えていく社会状況となっています。この悪循環を一度しっかりと断ち切って、この国の産婦人科医療提供体制を再構築する必要があると多くの人が考え始めています。すなわち、基幹病院に産婦人科医を集約して、勤務医の労働環境を大幅に改善させて、基幹病院の産婦人科がちょっとやそっとではつぶれないようにすることが大事だと考えています。

産婦人科医療提供体制の構造改革がうまくいっている地域では、最近は産婦人科医の頭数も増え始めており、地域の産婦人科医療提供体制が今後も維持されることを期待できます。

しかし、構造改革に失敗した地域では、今後、ますます地域の産婦人科医の頭数が減り続けて、産婦人科医療の提供そのものが一度は地域から完全に消滅してしまう可能性も危惧されます。

今まさに巷で困っている多くの患者さん達をいかにして救済していくのか?という緊急の課題ですから、10年とか20年とかでだんだんといい方向に向かっていけばよいという悠長な問題ではありません。産婦人科医療提供体制の再構築は、できるだけ早急に一気に実現させる必要があります。理念を示し、国策として、強力に実施する必要があると思います。

****** CBニュース、2008年11月17日

妊娠のリスク知ってほしい―現役産婦人科医が11か条の心得

相次ぐ妊婦の救急医療機関への受け入れ困難の問題を受け、川崎医科大附属病院(岡山県倉敷市)産婦人科医長の宋美玄さんが、思春期以降の男女に妊娠・出産に伴うリスクを理解してもらおうと、妊娠についての心構えなどを示した「妊娠の心得11か条」をつくり、自らのブログで公開している。宋さんは「お産は一般的に『安心、安全』というイメージがあるが、実際は死を伴うこともあるリスクあるもの。産婦人科に来る女性は既に妊娠している段階なので、早い時期から妊娠・出産に対する意識と正しい知識を持ってもらいたい」と話している。【熊田梨恵】

(以下略)

「妊娠の心得11か条」を公開している宋さんのブログ~「LUPOの地球ぶらぶら紀行」
http://blogs.yahoo.co.jp/mihyon0123

(CBニュース、2008年11月17日)


上田市周辺の周産期医療体制について

2008年11月19日 | 地域周産期医療

コメント(私見):

現代の周産期医療は典型的なチーム医療の世界で、産科医、助産師、新生児科医、麻酔科医などの非常に多くの専門家たちが、勤務交替をしながら一致団結してチームとして診療を実施しています。地域内に周産期医療の大きなチームを結成し、毎年、新人獲得・専門医の育成などのチーム維持の努力を積み重ねて、チームを10年先も20年先も安定的に維持・継続していく必要があります。若い新人医師達は、症例豊富な研修施設で、先輩医師から指導を受けつつ、多くの経験を積み、だんだんと一人前に成長していきます。

学生時代や研修医時代に特定の市から奨学金を貸与された若い新人医師達が、産婦人科医としての第1歩をその地で踏み出そうとしても、地域に研修施設が存在しなければ、現実的には最初の数年間は他地域の研修施設に行って修行を積んで来るしかありません。また専門医資格を取得してからでも、腕を振るえる職場や周産期医療チームが存在しなければ、いつまでたってもその地域に戻って来ることができません。

上田市を中心とした「上小(じょうしょう)医療圏」(人口:約22万人、分娩件数:約1800件)では、国立病院機構長野病院・産婦人科が地域で唯一の産科2次施設としての役割を担ってきましたが、昨年11月に派遣元の昭和大学より常勤医4人全員を引き揚げる方針が病院側に示され、新規の分娩予約の受け付けを休止しました。来年3月まで常勤医1人の派遣が継続されますが、現在は分娩に対応してません。現在、同医療圏内で分娩に対応している医療機関は、上田市産院、上田原レディース&マタニティークリニック、角田産婦人科内科医院の3つの1次施設のみです。ハイリスク妊娠や異常分娩は、信州大付属病院(松本市)、県立こども病院(安曇野市)、佐久総合病院(佐久市)、長野赤十字病院(長野市)、篠ノ井総合病院(長野市)などに紹介されます。分娩経過中に母児が急変したような場合は、救急車でこれらの医療圏外の高次施設に母体搬送されることになり、医療圏内に母体搬送を受け入れる産科2次施設は存在しません。

この地域で産科2次医療体制がちゃんと機能する必要があることは誰の目にも明らかですが、この問題に対して医療圏内の各自治体がてんでばらばらに対応していたんでは、いつまでたっても地域の周産期医療提供体制立て直しの第1歩を踏み出せません。次世代のために、医療圏全体でよく話し合って、長期的構想のもとに一致協力し、国・県・周辺の医療圏・地元大学医学部などとも歩調を合わせて、地域の周産期医療提供体制を再構築していく必要があると思われます。

****** 信濃毎日新聞、2008年11月19日

ハイリスク出産で連携強化

上田市保健所で会合受け入れ基準など情報共有

 上田保健所(柳谷信之所長、上田市材木町)は15日、上田市の4産科医療機関、佐久、長野地域の基幹病院に呼び掛け、産科医療に係る連携会議を同保健所で開いた。国立病院機構長野病院(上田市緑が丘)の産科休止でハイリスク出産に対応できない上小地域から周辺基幹病院へのハイリスクの妊婦の紹介が行われているが、よりスムーズな連携を図るために、各基幹病院で異なる紹介時期や受け入れ基準など情報を共有化することを確認した。

 長野病院、市産院、市内の2民間産科医療機関と、佐久総合、浅間総合、篠ノ井総合、長野赤十字、小諸厚生総合の各病院の産科医ら、佐久・長野保健所が出席した。

 会議は冒頭以外非公開。上田保健所によると、現時点でハイリスクの妊婦の紹介や緊急搬送で大きな問題は起きていないと各病院の報告があった。

 その後、ハイリスクの妊婦健診を上小地域で行い、適切な時期に妊婦を周辺基幹病院へ移すことで基幹病院と妊婦の負担軽減を図ることや、これまで以上にスムーズな連携のために、受け入れ側の各基幹病院がどの疾患妊婦をどの段階で受け入れられるのかなど、緊急搬送を含めた紹介基準を集約して共有化することが確認された。

(信濃毎日新聞、2008年11月19日)

****** 信濃毎日新聞、2008年11月18日

医学生や研修医に資金貸与へ 

上田市が医師確保策

 上田市は医師確保策として来年1月から、医学生、医学部の大学院生と研修医、医師に資金を貸与し、市が指定する医療機関に一定期間勤務した場合に返還を免除する制度を導入する。市によると、これまでに県内で大学院生や研修医対象の貸与制度を導入している市町村はないという。また、小さい子どもを持つ女性医師が上田市産院に勤めやすいよう、医師が希望した場合に市がベビーシッターを雇用するほか、産院医師住宅も改修する。

 貸与条件などを定める条例案と、本年度分の予算676万円を盛った一般会計補正予算案を25日開会の12月定例市議会に提出する。

 指定する医療機関は、市産院、市武石診療所、国立病院機構長野病院、小県郡長和町との一部事務組合で設置する依田窪病院を予定している。

 医学部生対象の「修学資金」は月額20万円で、貸与を受けた期間と同期間の勤務で返還を免除する。診療科の制限はない。医学部の大学院生と研修医が対象の「研修資金」は月額30万円で、免除は貸与を受けた期間の1・5倍の期間の勤務が条件。現職医師には「研究資金」として、3年で300万円と2年で200万円の2種類を用意。大学院生、研修医、現職の医師は、産科、小児科、麻酔科への勤務を条件とする。

 上田市内では、市産院が常勤医1人、非常勤医3人の態勢。長野病院は、産科医4人を派遣していた昭和大(東京)が段階的に引き揚げ、今年8月からは残った1人が婦人科の外来診療だけをしているなど、産科医などが足りない状態が続いている。

(信濃毎日新聞、2008年11月18日)


神奈川県の産科医不足問題

2008年11月15日 | 地域周産期医療

コメント(私見):

神奈川県の場合、妊娠反応が陽性になってすぐに病院を受診しても、なかなか分娩予約ができない状況のところもあると聞いてます。数年前から話題になっていますが、最近になってもいまだに分娩取扱いを中止する自治体病院の報道が続いています。

首都圏は交通の便がよいので、今のところは最終的に何とかなっているのかもしれませんが、いろいろ努力しても、結局、神奈川県内で分娩予約ができなかった人たちは、一体全体、どこで産むことになるのでしょうか?東京都内に流れることになるのでしょうか?妊婦健診を受けず陣痛開始してからいきなり救急車で病院に駆け込む(飛び込み出産)しかないのでしょうか?

首都圏は人口が集中しているだけに、首都圏からいったんお産難民が大量に出現し始めたら、日本中どこを探しても、どこにもお産難民の受け皿がなくなってしまう可能性が高いと考えられます。

産科医の頭数が圧倒的に不足していますので、多くの新人を獲得する必要がありますが、産科医の養成には10年かかります。日本中どこにも産科医は余ってませんので、他の地域から出来上がった産科医を引っ張ってくるのは至難の業です。今、現場に踏みとどまっている産科医達がこれ以上離職しないような対策を、国策として強力に実施する必要があります。

****** 東京新聞、2008年10月22日

お産難民首都圏でも 横須賀市深刻年300人が市外出産

 深刻な産科医不足で出産場所がなかなか見つからない“お産難民”が、首都圏にも押し寄せている。特に神奈川県では、三浦半島の横須賀市で四年ほど前から始まった産科医不足が、隣接の横浜市などに波及。横須賀市では年間三百人程度の妊婦が、市外でのお産を余儀なくされているという。お産難民が流入する横浜市でも出産施設が非常に少ない区が増加するなど、危機的な状況は悪化の一途をたどっている。【稲垣太郎】

 「うわさでは聞いていましたが、まさかここまでとは思いませんでした」。今月初め、横須賀市内のバス停。臨月のおなかを抱えながらバスを待っていた横浜市金沢区の主婦(31)は、妊娠したころをそう振り返った。今年初め、市販検査薬で妊娠に気づいた。「子宮筋腫を持っていたので、お産は大きい病院の方がいい」と思い、以前から知っていた横浜市と横須賀市の四つの病院にすぐに電話を入れた。だが「予約がいっぱい」と全部断られた。

 さらに五病院に電話したが、すべて「お産はやらなくなったんですよ」と言われて愕然(がくぜん)とした。結局、病院を断念し、地元の診療所に通うことに。「二人目も欲しいが、これからどうなっていくのか」と不安げに話した。

 三浦半島に広がる横須賀市は人口約四十二万人。以前、産科施設は病院と診療所、助産所の計九つあったが、二〇〇四年以降、二病院と一診療所がお産の取り扱いをやめた。

 年間四百件近いお産を扱っていた聖ヨゼフ病院の事務部長は「産婦人科に常勤医が三人いたが、二人が大学の医局に引き揚げられ、もう一人は定年退職して医師がいなくなった」と話す。年間六百件以上を扱っていた民間病院の担当者も「常勤の産科医が三人いたが、全員、大学の医局に引き揚げられた。再開したいが、医師の確保が難しい」と言う。

 市の昨年の出生届は約三千三百件。お産件数との差などから市では、このうち約三百人の赤ちゃんが横浜市など市外で生まれたとみている。

 さらに横須賀市では、年間約六百五十件のお産を扱ってきた民間診療所が今年いっぱいで、院長の健康問題で閉院することが決まり、お産難民は一層増えそうだ。

 神奈川県内でお産を取り扱う病院は、三年前の七十八病院から六十四病院へと18%減少。診療所は二〇〇二年に約百施設あったが、今年は約六十施設と四割も減った。

 人口約三百六十万人の横浜市でも今年四月の市の調査で、お産を扱う施設がなかったのは栄区、一施設だったのは緑、西、瀬谷の計三区、二施設だったのは計五区。

(以下略)

(東京新聞、2008年10月22日)


分娩施設の集約・産科医の再配置

2008年11月09日 | 地域周産期医療

1分娩施設あたりの産婦人科医数は、米国が6.7人、英国が7.1人に対し、日本はわずか1.4人に過ぎません。少人数体制だとどうしても勤務が過酷になってしまい、離職者がますます増えてしまいます。分娩施設を集約し、少なくとも産婦人科医5~6人体制に強化することにより、分娩の安全性が向上し、過酷な労働環境も改善できます。常勤医師の離脱もある程度はくい止められると思います。新人も入ってきやすくなると思います。

また、現在の若い産婦人科医は50%以上が女性医師です。女性医師達が勤務と出産・育児とを両立できず次々に辞めていくようでは、産婦人科医数はますます減る一方です。産婦人科の職場環境を、子育て中の女性医師が勤務しやすい環境に変革していく必要があります。そのためにも、分娩施設を集約し、1施設あたりの常勤医師数を増やす必要があると思われます。

ただ、分娩施設の集約に際し、施設がなくなる地域の自治体や地域住民の理解を得るのは非常に難しいと思います。現場で働く医師達は、分娩施設の集約化を推進できる立場にありません。おそらく、各大学病院産婦人科教授や県知事などの立場にある人が、全県的な医師配置のバランスを考慮して、リーダーシップを発揮していくことになると思われます。


母体搬送の受け入れ先決定までに時間を要した事例(その8)

2008年11月08日 | 地域周産期医療

私見(コメント):

現在の周産期医療の搬送システムは、胎児・新生児の救命という点を主軸に構成されています。総合周産期母子医療センターでも、常勤医師の専門分野が新生児科、産科、麻酔科、新生児外科などの胎児・新生児の管理に特化している施設も少なくありません。

妊婦の脳出血への対応ということになると、母体搬送の受け入れを要請する電話連絡では、患者を送り出す側の医師も、患者を受け入れる側の医師も、両方とも産科医で、脳出血に関しては全くの素人どうしの電話のやり取りですから、双方とも脳出血に対してどのように対応したらいいのか?の専門的知識に乏しく、瞬時に適切な判断を下すことが困難な場合も時にあり得ます。

都内のどこかで産科の緊急事態が発生する度に、個々の医療機関の産科医達が必死の思いであちこち電話しまくって、多くの候補の中から搬送先を何とか探し出すというような患者搬送システムでは、運が悪いと超緊急時でも搬送先が決定するまでに何時間もかかってしまうことが時に起こり得ます。人口が集中し、多くの医療機関を選択できる大都会では、関係する人の数が非常に多くなるので、適切な調整役が必要だと思います。

妊婦のけいれんや意識障害は、我々の施設でも時々経験します。子癇などの純粋な産科疾患で産科病棟だけで何とか対応できる場合が多いのですが、時には、患者が搬送されて来た直後に脳神経外科でただちに緊急手術をしていただく場合もあります。そういう緊急事態の場合は、夜中でも、産科、脳神経外科、小児科、麻酔科などの医師達がほぼ全員集合し、みんなでわいわい協議し、一致団結して事にあたります。(たまたま今の勤務先には大学の同級生が多く勤務していて、長い付き合いで互いの性格、技量を知り尽くしている仲間達なので、緊急時はみんな本当に頼りになります。)地方病院では、医師達は病院から10分以内のところに住んでいることが多いですから、一大事に関係医師を全員呼び出すことは比較的容易です。また、母体搬送の受け入れが可能な医療機関は地域ごとにほぼ1施設に限られてしまい、他に選択肢が全くないので、受け入れ先決定までの時間はほとんど問題になりません。

母体搬送の受け入れ先決定までに時間を要した事例

母体搬送の受け入れ先決定までに時間を要した事例(その2)

母体搬送の受け入れ先決定までに時間を要した事例(その3)

母体搬送の受け入れ先決定までに時間を要した事例(その4)

母体搬送の受け入れ先決定までに時間を要した事例(その5)

母体搬送の受け入れ先決定までに時間を要した事例(その6)

母体搬送の受け入れ先決定までに時間を要した事例(その7)

****** 産経新聞、2008年11月6日

続く脳内出血の妊婦受け入れ拒否 医療機関の連携急務

 東京都で9月下旬、30代前半の妊婦が脳内出血となったものの、杏林大病院(三鷹市)など少なくとも6つの病院に受け入れを断られた末、意識不明に陥っていることが分かった。東京では10月上旬にも、やはり脳内出血になった妊婦(36)が都立墨東病院(墨田区)など8病院に搬送を断られた末に死亡したばかり。2つの事例からは、脳内出血という症状の特異性や、医療機関同士のコミュニケーション不足が、共通する問題点として浮かび上がっており、早急な対策が求められている。

 ■コミュニケーション

 杏林大医学部の岩下光利教授は5日会見し、「脳内出血とは聞いていない。緊急性は伝わらなかった」と説明した。一方、妊婦の受け入れを要請した飯野病院(調布市)は「激しい頭痛を訴えているのでとにかく診てほしい」と切迫性は伝えたし、FAXもした。

 双方が食い違う説明をしているが、都立墨東病院のケースでも、搬送要請元と、受け入れ先の主張は対立していた。

 都内の大学病院で働くある産科勤務医は「医師同士のやりとりについても改善すべきところがある」と指摘。「拠点病院と地域病院が、日常的に顔の見える関係を作っておく必要があるのではないか」という。

 しかし、飯野病院がある東京・多摩地域は、人口400万人と東京都の3分の1が住むにもかかわらず、高度な医療設備を持つ総合周産期母子医療センターは杏林大病院しかなく緊急病床は日常的に満杯。都内にセンターが9施設あることを考えると、医療体制の偏りが受け入れ拒否の背景にあった可能性がある。

 ■産科と救急の連携

 「現在のセンターでは、脳内出血や心筋梗塞(こうそく)などの疾患に対応できない」。杏林大の岩下教授はそう釈明している。杏林大病院、墨東病院が関係した2つのケースは、ともに妊婦が脳内出血を起こしていた。

 産科医の専門外の疾患だ。石原慎太郎都知事は5日、「妊婦が心臓病を持っていたら心臓の専門家がいる。場合によっては脳外科、麻酔科も」と、他の専門医との連携の必要性を指摘した。舛添要一厚労相も「救急医と産科医の連携が課題」としているが、まだ具体的な“処方箋(せん)”はみえない。

 ■脳内出血の特異さ

 産科医の間では妊婦の脳内出血は特異な例と受け止められている。杏林大病院は5日の会見で、「十分な重症判断ができなかった」と、受け入れを断った一因を説明した。

 墨東病院が関係した事例とともに医師らが脳内出血を疑わなかったことが、受け入れ拒否につながった可能性があるが、昭和大の岡井崇教授は「ベテラン医師でなければ別の症状を疑うだろう」と現場の状況を話す。

 ただ、妊婦の脳内出血に警告を発してきた医師らもいる。

 国立循環器病センターの池田智明医師らは、全国1107医療機関に平成18年に発生した妊婦の脳血管障害を調べたところ、184人が該当。うち39人の脳内出血があり、7人が死亡していたとの報告書をまとめた。そのなかで、池田医師らは「脳血管障害を念頭においた管理をする必要がある」と指摘していた。

(産経新聞、2008年11月6日)

****** 朝日新聞、2008年10月24日

妊婦の脳血管障害184人、10人が死亡 06年

 お産に関連して脳血管障害を起こした妊産婦が06年に少なくとも184人いて、このうち10人が死亡したことが、厚生労働省研究班(主任研究者=池田智明・国立循環器病センター周産期科部長)の初の全国調査でわかった。脳出血では診断までに3時間を超えると死亡率が上昇。産科だけではこうした患者を救えず、脳神経外科との連携が課題として浮かび上がった。

 奈良県で06年8月に妊婦が19病院に搬送を断られ、脳出血で死亡したため、研究班は、全国1107カ所の病院で06年1~12月、妊娠中か産後1年以内に脳血管障害を起こしたケースを調べた。

 184人の内訳は脳出血39人、くも膜下出血18人、脳梗塞(こうそく)25人など。妊娠中のけいれん、高血圧で嘔吐(おうと)や意識障害が起きる高血圧性脳症は82人いた。死亡の10人のうち7人は脳出血だった。

 脳出血の39人がコンピューター断層撮影(CT)による検査を受けて診断が出るまでの時間をみると、3時間以内に診断を受けた人で死亡したのは8%なのに対し、3時間以上では36%に達した。ただ、重い後遺症が残った人は3時間以内では7割にのぼり、3~24時間がかかった場合の5割よりも高かった。研究班は「診断までの時間が短ければ予後が保たれるわけでもない」とみている。

 脳出血の26%に妊娠高血圧症候群が認められた。妊娠高血圧症候群の妊婦で、頭痛やけいれん、意識障害などの症状が出たら、脳血管障害を疑って搬送するなどの対処も求められるという。

 脳血管障害が起きる妊産婦は1万人に1人程度。妊娠中は胎児に血液をめぐらすために血液量が増えるなどして血管への負担が大きくなり、普通の人よりリスクが高まるとされる。

 池田さんは「妊産婦にはすべて産科で対応するという認識を改めなければいけない」と指摘。「総合周産期母子医療センターの指定要件として、脳神経外科との連携態勢を義務づけることなども検討すべきだ」と話している。【武田耕太】

(朝日新聞、2008年10月24日)

****** 読売新聞、東京、2008年11月6日

拠点・杏林大も7割拒否知事、開業医の当直協力要請

 脳出血を起こした調布市内の妊婦(32)が今年9月、杏林大病院(三鷹市)など6病院に受け入れを断られ、意識不明の重体となった問題は、多摩地区の産科医療の窮状を浮き彫りにした。重症妊婦らの緊急治療を行う「総合周産期母子医療センター」は、23区に8か所あるのに対し、多摩地区は、杏林大病院の1か所しかない。お産や治療が集中するため、同病院は母体搬送の受け入れを約70%も断っていた。

 杏林大病院は5日午前に記者会見を開いた。産婦人科の岩下光利教授は、12床ある「母体・胎児集中治療室(MFICU)」について、「ベッド不足が非常に深刻」としたうえで、「切迫早産などの母体搬送の依頼の約70%について、受け入れ出来ない状態だ」と現状を明らかにした。

 都内では先月、脳出血を起こした江東区内の妊婦が都立墨東病院(墨田区)でいったん受け入れを断られ、出産3日後に死亡する問題が起きている。墨東病院も同センターに指定されているが、岩下教授は「墨東は千葉から、杏林は山梨からも患者が運ばれてくる。東京は地域別に総合周産期センターが守りに当たっているが、東(墨東)と西(杏林)については決壊したに等しい」と訴えた。

 都福祉保健局によると、2007年の多摩地区の分娩(ぶんべん)数は3万4726件。産婦人科医は261人(06年)で、7・5人の医師で1000件の分娩に対応していることになり、区部(14・4人)のほぼ倍の負担になる計算だ。

 調布市内の妊婦が受け入れを断られたのも、病院側の多忙さが理由だった。都立府中病院(府中市)は「1人当直の産科医が分娩対応中で、受け入れが困難だった」とし、武蔵野赤十字病院(武蔵野市)は「帝王切開の手術直後で、患者の術後管理もあって断らざるを得なかった」としている。

 石原知事は5日、都医師会の鈴木聰男会長と面会し、都立病院の産科医不足を解消するため、地域の開業医に当直勤務を手伝ってもらう新制度への協力を要請した。鈴木会長は報道陣に、「できるだけのことを進めていきたい」と語った。

(読売新聞、東京、2008年11月6日)

****** 毎日新聞、東京、2008年11月6日

調布の脳出血妊婦受け入れ拒否:総合周産期母子医療センター、多摩には1カ所

 ◇杏林大などが受け入れ拒否

 ◇多摩には1カ所だけ 普段から患者集中

 脳出血を起こした調布市の妊婦(32)が今年9月、都内の6病院から受け入れを拒否された問題は、リスクの高い妊婦に対応する「総合周産期母子医療センター」が多摩地区には杏林大病院の1カ所しかなく、普段から患者が集中する実態を浮かび上がらせた。また、妊婦の脳出血が医師の間でうまく伝わらず、救急病院への搬送遅れが続けて発覚したことで、妊娠に直接関係しない疾患の対応に盲点があることも改めて分かった。【中村牧生、内橋寿明】

 ■最後のとりで

 総合周産期母子医療センターは、母親や新生児用の集中治療室があり、産科救急医療の最後のとりでとなる病院。都内では9病院が認定されているが、多摩地区には杏林大病院しかないうえ、周辺の埼玉、神奈川、山梨県などからも救急患者が運ばれてくる。このため集中治療室や一般病棟は常に満床で、杉浦正俊副センター長は「搬送依頼の7割は断らざるを得ない」と話す。

 都によると年間約10万件のお産件数のうち、多摩地区は3分の1を占める。杏林大病院だけで産科救急をこなせないため、23区にある8病院でローテーションを組み、当番病院が受け入れ先探しに協力している。

 今回の場合、帝王切開手術を終えた杏林大病院産婦人科の当直医が近隣で妊婦の受け入れ先を探したが、すべて断られ、当番の愛育病院(港区)に依頼し、最終的に墨東病院(墨田区)に決まった。

 ■東京ERも拒否

 東京ER(総合救急診療科)を持つ都立府中病院(府中市)も依頼を受けたが、1人しかいない産婦人科医の当直が分娩(ぶんべん)対応中で、「受け入れ困難」と回答。庶務課の担当者は「脳の具体的な症状は聞いていないということだった」と話す。都によると、東京ERは母子医療センターとは別個に開設されており、産婦人科との連携は十分ではないという。

 杏林大病院を補助する立場の武蔵野日赤病院(武蔵野市)も拒否した。嘔吐(おうと)と半身マヒの情報は入っていたが、産婦人科の当直医は1人。富田博樹院長は「帝王切開の手術が終わった直後に出産患者が緊急入院。受け入れは困難だった」と説明する。

 ■判断に食い違い

 これに対し、妊婦のかかりつけ病院だった飯野病院(調布市)の飯野孝一院長は記者会見で「とにかく脳の問題だから診てもらいたい。帝王切開が必要なら自分が手伝うから何とか受け入れてくれと伝えた」と語った。また、深夜に送信した杏林大へのファクスに「脳血管障害」「右半身不随」と妊婦の症状を書き込んでいたと明かし、「(緊急性がないと判断したという)杏林大の発言は理解できない」と憤った。

 杏林大によると、妊婦で脳出血を発症するケースは10万件に6・1件と少なく、産婦人科医はほとんど経験がないという。

 記者会見した岩下光利教授は「(当直医は)半身マヒは脳出血ではなく、妊婦によく見られる別の症状と考えたようだ。産婦人科医同士のやりとりで、専門領域ではない疾患の状況が伝わらず、重症度の判断が十分でなかった」との認識を示した。さらに「産科のほかに脳神経外科や救命救急などが連携して対応できる体制が必要だ」と述べた。

(毎日新聞、東京、2008年11月6日)

****** 東京新聞、2008年11月6日

杏林大病院・妊婦拒否 『搬送受け入れは30%』

 多摩地区で“安心安全なお産”はできるのだろうか-。脳の疾患が疑われた調布市の妊婦(32)が杏林大病院(三鷹市)などに受け入れを断られた末、約二十六キロ離れた都立墨東病院(墨田区)に搬送された問題は、そんな疑問を抱かせる出来事だった。【北川成史、東松充憲】

 リスクの高い妊産婦や新生児に高度医療を提供する中核施設となる「総合周産期母子医療センター」。都内には九カ所あるが、多摩地区には杏林大病院の一施設しか存在しない。

 「都内の分娩(ぶんべん)の三分の一は多摩地区だが、総合周産期母子医療センターは杏林だけ。いつでも満床の状態だ。多摩地区には周産期医療の施設、資源が不足している」

 今回の問題の発覚を受けて急きょ五日午前に会見した杏林大病院総合周産期母子医療センターの岩下光利副センター長は多摩のお産をめぐる厳しい現実を、そう説明。「現在、杏林大病院は母体搬送の依頼を受けても30%しか受け入れできていない」と衝撃的な数字も明らかにした。

 多摩地区のある病院長は「帝王切開の患者に対処した直後のような状況では、とてもすぐ次の患者を受け入れることはできない」と、緊急度の高い妊婦が重なった場合は“お手上げ”であることを認める。調布市の飯野病院にいた妊婦の搬送先が見つからなかった九月二十三日未明が、ちょうどこの「帝王切開が重なった夜」だったという。

 飯野病院と手分けして受け入れ先を探した杏林大病院はこの夜、都立府中病院(府中市)に設置された「東京ER(総合救急診療科)・府中」にも受け入れを打診している。都内に三カ所しかない救急対応の充実した施設のはずだが、「分娩対応中で受け入れ困難だった」(同病院)。都立府中病院ではこの夜、午前二時から九時までに三件の分娩があり、対応力にゆとりがない状況に陥っていたのだという。

(東京新聞、2008年11月6日)

****** 共同通信、2008年11月7日

脳内出血、伝えられていた  杏林大病院、都などが調査

 脳内出血を起こした東京都調布市の妊婦(32)が複数の病院から受け入れを拒否された問題で6日、最初に断った杏林大病院(三鷹市)が、都や厚生労働省などの調査に対し、搬送を要請したかかりつけの飯野病院(調布市)から、脳内出血の可能性を伝えられていたことを認めたことが分かった。

 都と厚労省、総務省消防庁は同日、問題発覚を受けて杏林大病院で聞き取り調査を行い、当直医から当時の状況などを聴いた。

 関係者によると、当直医は聞き取り調査に対して、飯野病院から脳内出血の可能性を伝えられたことは認めたが、一方で飯野病院から「杏林大が受け入れできる状態になるまで待つ」と言われたため、緊急性は低いと判断したという。

 都や厚労省は今後、受け入れを断ったほかの病院からも事情を聴くことを検討している。

(共同通信、2008年11月7日)

****** 共同通信、2008年11月6日

「脳の問題だと伝えた」 容体書きファクス送信も 搬送要請した病院長が主張

 脳内出血を起こした東京都調布市の妊婦(32)が複数の病院から受け入れを拒否された問題で5日、搬送を要請した飯野病院(調布市)の飯野孝一(いいの・こういち)院長が記者会見し、最初に断られた杏林(きょうりん)大病院(三鷹市)とのやりとりについて「脳出血であることを伝えた」などと述べ、緊急性を訴えたことを強調した。

 飯野院長は9月23日午前3時半ごろ、杏林大病院の当直医に自ら電話で受け入れを要請したという。

 飯野院長は「とにかく脳の問題だから診てほしいと伝えた。『脳血管障害』『右半身不随』と書いた診療情報提供書もファクスで送った。脳外科の先生に連絡してほしい。何でも手伝うので受け入れてほしいと伝えたが、杏林大病院からは『脳外科は(別の患者の)手術中』と断られた。『飯野病院で帝王切開した後に搬送すれば診る』と言われた」と話した。

 また受け入れを拒否した病院数について飯野院長は、当時の記録を調べた結果、さらに1つ増えたことも明らかにした。杏林大病院が独自に要請した施設と合わせ計7病院になる。

 杏林大病院側は「飯野病院から『受け入れできる状態になるまで待つ』と連絡があった。軽度の意識混濁や手の震えはあるが、呼吸や血圧は安定していると聞いていたので、緊急性は低いと判断した」と説明しており、双方の主張が大きく食い違っている。

 飯野院長は、妊婦の夫から5日、「周産期の救急搬送ネットワークを改善し、再発防止を望んでいる」という内容の電話を受けたことも明らかにした。

(共同通信、2008年11月6日)

****** 共同通信、2008年11月6日

「行政、物足りない」 死亡妊婦の夫がコメント

 東京都立墨東病院(墨田区)を含む8病院に受け入れを断られ、脳内出血で死亡した妊婦(36)の夫(36)=会社員、都内在住=が6日、「行政の対応に物足りなさを感じます。仕組み自体を改善すべきではないか」とするコメントを出した。

 9月下旬に脳内出血を起こした東京都調布市の別の妊婦(32)が、複数の病院から受け入れを拒否され、意識不明になっていたと報道されたことを受け、代理人の弁護士を通じて発表した。

 「同様のケースが発生していたことを知り、大変残念に思います。改善策を示したり、関係者間で情報共有するような仕組みはないものでしょうか」と疑問を投げ掛けた上で「連続して発生したということは、もはやレアケースとして済まされない問題。どうすれば安心して子供を産める社会を築けるか、徹底して再発防止に取り組んでほしい」と訴えている。

(共同通信、2008年11月6日)

****** NHKニュース、2008年11月7日

妊婦情報 伝達システム開発へ

舛添厚生労働大臣は、脳出血を起こした妊娠中の女性が病院に受け入れを断られ、死亡したり重体になったりするケースが相次いでいることを受けて、妊婦の症状を複数の病院や診療科に正しく伝える新しい情報伝達システムの開発に取り組む考えを示しました。

一連の問題では、脳出血を起こした妊娠中の女性の受け入れを要請した掛かりつけの病院と受け入れを断った病院との間で、女性の症状が正しく伝わらず、搬送が大幅に遅れる事態となりました。これについて、舛添厚生労働大臣は、閣議のあとの記者会見で「情報をしっかり伝えるためには、最先端の技術を使ったシステムを作る必要がある。経済産業省とも協力して、ミスが起こらないような情報伝達システムを開発したい」と述べ、来週初めにも二階経済産業大臣と協議したうえで、経済産業省とも連携し、妊婦の症状を複数の病院や診療科に正しく伝える新しい情報伝達システムの開発に取り組む考えを示しました。

(NHKニュース、2008年11月7日)

****** 毎日新聞、2008年11月7日

舛添厚労相:妊婦搬送要請時の「意思疎通改善を」

 舛添要一厚生労働相は7日の閣議後会見で、妊婦が病院に受け入れを拒否された問題について、「(要請する側と受け入れ側)双方の医師の間で言った、言わない、のコミュニケーションギャップになっている。ギャップが起こらないようなシステムを開発しようと二階(俊博)経済産業相と話をした」と述べた。【佐藤浩】

(毎日新聞、2008年11月7日)

****** CBニュース、2008年11月6日

周産期センター、「母体救急は難しい」

 先月に都内で妊婦が8つの救急医療機関に受け入れを断られた後に死亡した問題などを受けて11月5日に開かれた、「周産期医療と救急医療の確保と連携に関する懇談会」(座長=岡井崇・昭和大医学部産婦人科学教室主任教授)。会合では、総合周産期母子医療センターはそもそも母体を助ける体制になっていないことや、地域によって違う周産期医療連携の問題、医師不足など、あらゆる問題が噴出した。過熱報道のあおりを受けて急に開催されたとも取れるこの会合。来月末までに3-4回程度開催して提言をまとめる予定だが、こうした問題をどう収束させるのだろうか。【熊田梨恵】

 懇談会の開催が公表されたのは、開催前日の11月4日の夕方。5日には、東京・調布市で入院中の妊婦が脳内出血を起こし、杏林大学病院などの病院から受け入れを断られて現在は意識不明になっているとの報道が流れたこともあり、懇談会は報道関係者の注目を集めた。

 岡井座長は「墨東病院の問題は、医師不足で対応できなかったというのが根本的な問題で、産科と救急の連携がメーンの問題ではない。だが、一般の救急と産科の連携の必要性が浮かび上がった問題ではある。今日の懇談会は両者の連携が必要ということで議題にしている」と、会合開催の趣旨を整理。その上で、今回は周産期と救急医療について委員が日ごろ感じている問題などをフリーディスカッションし、次回はそれに対する対策を考えていくとの方向性を示した。

 会合は、最初に事務局が用意した資料説明から始まった。まず、日本産科婦人科学会が先月末に厚生労働相に提出した緊急提言の内容が説明された。次に、墨東病院の問題について厚労省が報道内容を基にまとめた資料や、10月27日に厚労省医政局課長と雇用均等児童家庭局課長の連名で都道府県の担当部局に出された、周産期救急医療体制の確保を求める内容の通知が紹介された。

■女性医師の労働環境の改善を
 次に、委員が提出した資料を各自で説明した。杉本壽座長代理(大阪大医学部救急医学教授)は、医師数の推移などを示した資料を提出。小児科医の数は増えている一方で、14歳以下の人口は減っているため、小児科医一人当たりの子どもの数は年々減少していること、産婦人科医一人が担当するお産の数は1990年から一定であること、麻酔科医は2006年には10年前に比べて約1000人増えていること―などを示した。その上で、小児科や産婦人科、麻酔科には女性医師が多いとするデータを示し、「単に医師数を増やしても駄目ということ。女性医師が増えているということが大きな問題。今、医学部の定員を増やしても一人前になるには15年はかかる。まずは女性医師が妊娠や出産をしても働き続けられる環境が必要」と述べた。
 また、医師の事務作業を補助するスタッフの増員など、喫緊の対策を求めた。

 資料説明が終わった後はフリーディスカッションに入った。

■ハイリスク新生児が増
 田村正徳委員(埼玉医大総合医療センター総合周産期母子医療センター長)は、「小児救急や新生児医療などハードワークをする医師が足りない。お産の数は減っているが、小さい赤ちゃんが右肩上がりで増えている。NICUに入るハイリスク新生児は絶対数として以前の1.5倍」と述べ、単にお産の数だけを見ていても状況は分からないとした。

■母体が助からない周産期センター
 海野信也委員(北里大医学部産婦人科学教授)は、そもそも周産期母子医療センター自体が母体を助ける機能を有していないとして、周産期医療対策整備事業の整備指針の問題点を次のように指摘した。
 「総合周産期母子医療センターは『最後のとりで』というような表現で報道されるが、実際にセンターが作られてきた経緯は全くそういうものではない。実際の事業は、胎児や新生児への救急に対応できるシステムを作るということ。産科の方からは『母体救急は大きい問題』と言い続けてきたが、指針には、脳外科などが必要とは書かれていない。産科、新生児、麻酔科の医師を置くなどの限られた基準で、麻酔科は常勤である必要もない。そういう限定的な条件の施設基準で整備されてきた。総合周産期母子医療センターの当直数についての報道もあったが、総合周産期母子医療センターの半分以上は当直医は1人だ。平成8年に事業がスタートした時は2人という規定だったが、『それでは大学病院ならできるが、一般病院はできない』と現場から言われた。そこで、平成15年4月に出された(厚労省)雇用均等児童家庭局からの通知で、MFICUが6床以下のセンターはオンコールを置けば当直は1人でもいいとなった。『それならできる』と整備は進んだが、産婦人科医を増やそうとする努力をしてこなかった。こうした周産期センターの数を増やそうと努力するあまり、母体救急対応という配慮が抜けている」
 さらに周産期救急情報システムについて、「整備指針には『作って下さい』とあるが、実際は作っていないところが多い。地域によっては作ってもしょうがないというところもあり、電話した方が早いといって、山形県のようにやっているのが普通では」と述べ、地域によって実情が違うと指摘した。

 これについて、池田智明委員(国立循環器病センター周産期科部長)は、厚生労働科学研究費で実施された総合周産期母子医療センターに対するアンケート結果を踏まえ、「すべてのセンターが、『母体救急に対応できるようにつくるのは非現実的。近くの救急医療機関と連携を取ってやりたい。現場の医師がどう協力してやるかと考えている』と答えている」と述べた。

 大野レディースクリニック院長の大野泰正委員は、自ら診ていた妊婦が、特に問題ないと思われていたのに急にけいれん発作を起こしたという事例を紹介。「地域の周産期センターに電話したが、何といって断られるかというと、『産科病棟がいっぱい』『全館満床』『NICU満床』『脳外科対応ができない』など。われわれ開業医は何か危ないことがあったら総合センターか地域センターが助けてくれると思う。だが、愛知県内の地域周産期母子医療センターは、『脳出血や、それが疑われるものは全く受け入れられない』という。センターの成り立ちを考えると脳外科はないが、先ほどの(周産期医療対策整備事業)整備指針のようなものを開業医は知らない。断られたとなると、次にお願いするところがないのでとても切実な思いだ」と訴えた。

■産科・救急連携は地域で違う
 田村正徳委員(埼玉医大総合医療センター総合周産期母子医療センター長)は、埼玉県の周産期医療の事情を説明し、墨東病院問題の影響に言及。
 「今回、墨東病院の件がショックだったのは、9つの総合周産期母子医療センターがあり、NICUに恵まれている東京ですらこういう最悪の事態が起きたということ。埼玉県では、分娩数当たりの産婦人科医や新生児科医の数は全国でも最低。県内人口700万人当たり、1つの総合周産期母子医療センターしかない。埼玉県内ではNICUに入らないといけない赤ちゃんの3割が東京に送られて、急場をしのいでいる。今回の件で東京都が敷居を高くして、他県からの母体搬送を受け入れなくなるということが起きかねない。墨東病院も日赤医療センターも埼玉県から見たら頼みの綱。これは破局の前触れだ」
 その上で、周産期救急情報システムについて、NICUのベッドが空いていることがないと主張。「舛添先生は石原先生とけんかしないでほしい」と述べ、都内の総合周産期母子医療センターの空床情報を関東近郊の県からも見えるようにしてほしいと訴えた。

 これに、海野委員も同調。神奈川県も埼玉県と同じような状況だとし、「首都圏は一つの医療圏として考えねばならない」と述べた。

 嘉山孝正委員(山形大医学部長)は、墨東病院の問題について「根本はシステムエラー」と述べた。
 外科や脳外科などを揃えるようになっていない総合周産期母子医療センターは現場に沿ったものになっていないとした上で、山形県内では地域の実情に合わせ、総合周産期母子医療センターは設置せず、県内の山形大医学部附属病院など3つの病院で役割分担して周産期の三次救急を担っていることを紹介。「急患はとりあえず受け入れるようにしている。どうしてもセンター化するなら十分な人数がいなければ無理だ」と主張した。
 
 杉本座長代理は、周産期医療と救急医療などを引き合いに、「医学界は縦割りになっているが、これが交わらないとできない」と述べた。それを解消した上で、救急医療は地域の実情に合わせて展開することが必要とした。

■都道府県に投げず、省庁間連携が先
 有賀徹委員(昭和大医学部救急医学講座主任教授)は、日本救急医学会が認定する救急科専門医が今年は約3000人になる見込みとしたが、「臨床研修病院に専門医を一人ずつ割り振ったら、各病院に一人しかいない」と、専門医の数が根本的に不足しているとした。

 また、会合の始めに事務局から紹介された周産期救急医療体制の確保を求める通知の内容に疑問を呈した。通知では、周産期救急情報システムと救急医療情報システムについて、更新頻度や入力情報など運用の確認や改善を求めている。
 「救急医療情報システムは昭和50年代から厚労省が進めているが、全県一区で集約するようなシステムになってない。なぜなら市町村消防が基本単位でやっているから。これを都道府県に投げて『考えろ』と言っているが、どういうイメージで改善しろと言っているのかよく分からない。救急医療情報システムもいまだに成り立っていないのに、周産期と二つのシステムについて改善しろと言うのが分からない。これを議論の積み残しにしてはならない。これは厚労省と消防庁が連携しないといけない問題だ」と述べた。

(CBニュース、2008年11月6日)

****** 毎日新聞、東京、2008年11月6日

都周産期医療協:「ギリギリ」「綱渡り」 医師不足の実態浮き彫り

 都立墨東病院(墨田区)などに受け入れを拒否された妊婦が死亡した問題を受け、対応策を話し合った5日の都周産期医療協議会(会長・岡井崇昭和大医学部教授)。集まった専門家からは産科現場について「本当にギリギリの状態」「綱渡りでやってきた」などの発言が相次ぎ、医師不足にあえぐ実態が改めて浮き彫りになった。

 協議会はリスクの高い妊婦に対応する「総合周産期母子医療センター」の専門医ら20人が参加した。東京女子医大母子総合医療センターの楠田聡教授は「周産期医療の供給体制がどう考えても限度がある。ニーズに対して絶対数がギリギリだという認識をみんなが持つべきだ」と指摘。そのうえで「東京はいろいろなカバーできる施設がある。限られた資源を有効に使うネットワーク、助け合いのシステムを作ることがわれわれにすぐできること」と提言した。

 墨東病院の小林剛院長は「(墨東病院がある)東部ブロックは分娩(べん)数が一番多いのにセンターはうちだけ。隣の東北部ブロックはセンターがなく、隣接地域の方が当院に来てしまう。千葉からもかなり入ってくる。その中で医師がどんどん減り、今も医師集めに努力しているが、日本中に産科医がいないということで、本当にギリギリの状態」と述べた。

 協議会は近く再び会合を開き、今回のケースのような救急性の高い妊婦にどう対応するか話し合う。【須山勉】

(毎日新聞、東京、2008年11月6日)

****** 毎日新聞、2008年11月5日

妊婦死亡:墨東病院当直1人の日に「当番」制…都協議会

 東京都立墨東病院(墨田区)などに受け入れを拒否された妊婦が死亡した問題で、都周産期医療協議会(会長、岡井崇・昭和大医学部教授)は5日、墨東病院の当直が1人になる日は他の総合周産期母子医療センターが代わりに妊婦搬送を受け入れる「墨東当番」の導入を決めた。

 受け入れ拒否をした時に産科当直が1人しかいなかった墨東病院は10月末、11月の休日当直を「可能な限り2人体制にする」と発表した。しかし、新たな医師は確保できず、5日間は終日あるいは日中が1人当直となる見通し。協議会ではこの時間帯について、都内にある別の八つのセンターが代わって対応することで一致。輪番制とし、今月最初の1人当直となる8日にも導入する。

 都内では既に、センターが杏林大病院しかない多摩地区をカバーする「多摩当番」が導入されているが、墨東病院はこの当番から外すことも決まった。協議会に出席した墨東病院の小林剛院長は「墨東病院のある地域は分娩(ぶんべん)数が多いのに施設数が少ない。隣接する千葉、埼玉からも患者がかなり入ってくる。本当にぎりぎりの状態」と理解を求めた。【須山勉】

(毎日新聞、2008年11月5日)

****** 産経新聞、2008年11月5日

妊婦受け入れ拒否 対策や再発防止を検討

 東京都内で妊婦をめぐる救急体制の不備が明らかになったことを受け5日、都と厚生労働省がそれぞれ、専門家による協議会や懇談会を開き、対策や再発防止の検討を始めた。

 都の協議会では、医師不足や受け入れ施設が満杯のため、妊婦の受け入れを当初拒否した都立墨東病院と、杏林大病院に対する当面の支援策を協議。多摩地区の産科救急を23区内の総合周産期母子医療センターが支援する「多摩当番」から、墨東病院をはずすことで合意した。

 杏林大病院を除く都内の7つのセンターが、墨東病院の当直が1人になる際には輪番制で墨東病院を支援する制度を設けることも検討することになった。

 厚労省の懇談会では、墨東病院が医師不足の状態にもかかわらず、センターとして指定されていたことなどから、指定基準を見直すことや、空床情報の照会システム改善の必要を訴える意見も相次いだ。懇談会では、対策案を12月中にまとめる方針。

(産経新聞、2008年11月5日)


母体搬送の受け入れ先決定までに時間を要した事例(その7)

2008年11月05日 | 地域周産期医療

コメント(私見):

今年9月下旬にも、やはり東京都内で、急変した妊婦の収容先が決定するまでに3時間以上かかり、最終的に墨東病院に搬送されて脳出血の処置を受けた事例があったとのことです。今話題になっている10月の事例のわずか11日前の出来事だそうです。

当院でも最近、妊婦のクモ膜下出血にて脳外科で緊急手術をしていただいた症例を経験しました。担当の脳外科の先生にお伺いしたところ、妊婦の脳出血は専門医試験のヤマの一つでよく出題される必出項目とおっしゃってました。妊婦に重大な脳疾患の兆候が発症した場合は、兎にも角にも、一刻も早く脳外科の先生に診ていただくことが重要です。このような母体の偶発合併疾患でも、産科医が不在であるとか、ICU満床とかの周産期医学的な理由によって、収容先がなかなか決まらない事態が起こり得る現行の患者搬送システムは、できるだけ早急に改善されるべきだと思われます。

母体搬送の受け入れ先決定までに時間を要した事例

母体搬送の受け入れ先決定までに時間を要した事例(その2)

母体搬送の受け入れ先決定までに時間を要した事例(その3)

母体搬送の受け入れ先決定までに時間を要した事例(その4)

母体搬送の受け入れ先決定までに時間を要した事例(その5)

母体搬送の受け入れ先決定までに時間を要した事例(その6)

****** NHKニュース、2008年11月5日

妊婦拒否 厚労省も情報収集

 ことし9月、東京・調布市の産婦人科病院に入院していた妊婦が脳出血を起こし、地域の拠点病院を含む6つの病院から受け入れを断られた末に、意識不明の重体になった問題で、厚生労働省は情報の収集を始めました。

 この問題は、お産のため東京・調布市にある産婦人科病院「飯野病院」に入院していた32歳の女性が9月23日の未明、脳出血を起こし、6つの病院から次々と受け入れを断られた末に、意識不明の重体になったものです。

 最初に受け入れを要請された東京・三鷹市の杏林大学医学部付属病院は、リスクの高い妊婦を受け入れる「総合周産期母子医療センター」に指定されていますが、「掛かりつけの飯野病院からの説明には脳出血などの重い症状を疑わせる内容はなく、緊急の受け入れが必要だとは思わなかった」と話しています。また当時、産科には当直の医師が2人いましたが、別の手術を抱えていたうえ、集中治療室のベッドも満床だったことから受け入れを断ったということです。その後、杏林大学病院と飯野病院が手分けをして、あわせて5つの病院に打診しましたがいずれも搬送を断られ、最初の要請から3時間後に東京・墨田区の都立墨東病院で搬送を受け入れることが決まったということです。子どもは無事産まれましたが、女性は脳出血のため意識不明の重体になり、現在も墨東病院に入院しているということです。

 東京では先月4日にも脳出血を起こした妊婦が8つの病院に受け入れを断られたあとに死亡し、お産前後の救急医療の課題が明らかになったばかりで、事態を重く見た厚生労働省は情報の収集を始めました。

(NHKニュース、2008年11月5日)

****** TBSニュース、2008年11月5日

9月にも妊婦受け入れを病院が拒否

 東京で、また妊婦の受け入れ拒否が明らかになりました。今年9月、脳内出血を起こした妊婦が6つの病院に受け入れを断られました。妊婦は4時間後、およそ25キロ離れた病院で手術を受けましたが、現在も意識不明のままです。

 「なぜこんなに文明や医療が発展した都会で、こんなに死にそうに痛がっている人を誰も助けてくれないのだろう」(8病院が受け入れ拒否、妊娠中の妻を亡くした夫 先月27日)

 8つの病院に受け入れを断られた末、妊娠中の妻を亡くした夫が、こう訴えたのは先週。

 しかし、5日、また新たな受け入れの拒否が明らかになりました。

 東京・調布市にある飯野病院。出産を間近に控え入院していた32歳の女性が異変を訴えたのは、今年9月23日の未明。嘔吐や右半身が動かなくなるなどの症状が出たため、病院の産婦人科の医師は脳出血の疑いがあると判断、東京都の総合周産期医療センターに指定されている三鷹市の杏林大学病院に、救急搬送を要請しました。

 しかし、杏林大学病院は空きのベッドがなかった他、産科医が手術中だったなどの理由から受け入れを断りました。

 「軽度の意識混濁や手のふるえがありますけれども、(容態は)安定していると報告を受けた」(杏林大学病院)

 女性が運ばれたのは、およそ25キロも離れた都立墨東病院。すでに4時間が経っていました。

 その間、都内の5つの病院に「ベッドが埋まっている」などと、受け入れを断られたということです。

 女性は出産後、手術を受けましたが、現在も意識不明の重体です。

 「産科の施設は絶対的に足りない」(武蔵野赤十字病院 院長)

 産婦人科医が、緊急手術中という理由で、女性の受け入れを断った武蔵野赤十字病院。女性の脳にも異常が起きていたことは飯野病院からの連絡で分かっていましたが、こうしたケースでは救急救命医などに加え、産婦人科医も立ち会えない限り受け入れは難しいと話しています。

 「救急医療と産科医療の連携をどうするのかは非常に大きな問題。具体的になにをやればいいのか提言をやりたいと思っています」(舛添要一 厚労相、5日)

 一方、地元医師会などを招いて周産期医療に関する緊急会議を開いた東京都、石原知事は・・・。

 「国の責任だ、都の責任だ、自治体の責任だ、みんな重層、複合的に絡まっている。それを、みんなで合議しあって解決していかないと。この問題は本当に国民が安心する状況にはならないと思いますよ」(東京都 石原慎太郎 知事、5日)

 「私の望みは、妻の死を無駄にしないで欲しい。(息子のためにも)日本一の母親だったと言える状態に世の中を変えていただきたい」(搬送を拒否され、死亡した妻の夫)

 医師不足の中でまたも起きた悲劇。具体的に改善される見通しはまだ、立っていません。

(TBSニュース、2008年11月5日)

****** TBSニュース、2008年11月5日

妊婦受け入れ拒否、杏林大病院を批判

 東京で脳内出血を起こした妊婦が、複数の病院に受け入れを断られ意識不明となった問題で、妊婦が当初入院していた病院が記者会見し、最初に受け入れを断わった大学病院の対応を「理解できない」と批判しました。

 今年9月、東京・調布市で出産のため産婦人科に入院していた32歳の妊婦が脳内出血を起こしましたが、妊婦は6つの病院から受け入れの拒否をされました。

 妊婦は4時間後、およそ25キロ離れた都立墨東病院で手術を受けましたが、現在も意識不明の状態となっています。

 この問題について、最初に受け入れを拒否した三鷹市の杏林大学病院は患者の容体についての緊急性が伝わっていなかったと説明しました。

 「もし、緊急性があって血圧が下がったり、バイタルサインが悪くなれば、当然そういう情報を頂ければ受けられた。これは総合周産期関係ないですから」(杏林大病院)

 これに対し、妊婦の受け入れを要請した産婦人科病院も記者会見し、、緊急性は伝わっていたはずだと杏林大学病院側の対応を批判しました。

 「頭の問題だからすぐに診てもらいたいと。(杏林から)これだけ返事をくれているというのは重大に感じてくれたのだと思う」(飯野病院)

 この問題をめぐっては、厚生労働省が事実関係の調査に乗り出していて、東京都も関係者から事情を聴いています。

(TBSニュース、2008年11月5日)

****** 時事通信、2008年11月5日

「頭の問題と伝えた」=妊婦の入院先、杏林大付属病院に-妊婦拒否問題

 脳内出血を起こした東京都調布市の30代の妊婦が少なくとも6つの病院から受け入れを断られ、意識不明になっている問題で、受け入れを要請した飯野病院(同市)の飯野孝一院長(62)が5日記者会見し、「杏林大付属病院には、とにかく頭の問題だから見てもらいたいと伝えた」と説明した。

 同院長は、杏林大付属病院とのやりとりは約10回にも上ったとし、「あちらからも何回も電話があり、切迫性は認識していたと思う」とした。

 同病院側は「飯野病院から脳内出血とは聞いておらず、緊急性は伝わらなかった」としている。

(時事通信、2008年11月5日)

****** 時事通信、2008年11月5日

産科・救急連携、年内に提言=厚労省懇談会が初会合

 東京都内で救急搬送された妊婦が8病院に受け入れを拒否され死亡した問題で、周産期医療と救急の連携の在り方などを話し合う厚生労働省懇談会(座長・岡井崇昭和大教授)の初会合が5日開かれ、年内に提言をまとめることで一致した。

 冒頭、舛添要一厚労相が「周産期医療と救急との連携の必要性を如実に感じている。背景に医師不足など医療体制全体の問題がある。12月まで集中審議し、いい連携策をつくりたい」とあいさつした。

 続く自由討論では、委員から「産科医不足解消には、出産などで離職した女性医師の活用が手っ取り早い」と職場環境の整備を求める意見や、医療機関の受け入れ態勢を把握する周産期医療情報システムについて「都道府県単位ではなく広域で活用できるようにするべきだ」などの意見が出た。

(時事通信、2008年11月5日)

****** 共同通信、2008年11月5日

9月にも妊婦受け入れ拒否 東京で脳内出血の30代 杏林大など複数病院

 今年9月下旬、東京都調布市のかかりつけ病院で嘔吐(おうと)などの症状を訴えた30代の妊婦が、「総合周産期母子医療センター」に指定されている杏林(きょうりん)大病院(三鷹市)など複数の病院から受け入れを断られた後、20キロ以上離れた都立墨東病院(墨田区)に運ばれて出産し、脳内出血の処置を受けていたことが4日、分かった。収容先が決まるまでに3時間以上かかった。

 搬送を依頼したかかりつけ病院側は「赤ちゃんは無事だが、母親の現在の容体は把握していない」としているが、厚生労働省は「母親は重篤な状態と報告を受けている」としている。

 同じ総合周産期母子医療センターの墨東病院など8病院による妊婦受け入れ拒否よりわずか11日前の出来事。事態を重視した厚労省は事実関係の確認に乗り出した。

 かかりつけの病院によると、妊婦は妊娠41週目で、お産のため入院中の9月23日午前零時ごろから、嘔吐や右半身が動かないなどの症状が出始めた。

 午前3時ごろ、当直医から呼び出しを受けた院長が診察し「脳の疾患の可能性が高い」と判断。杏林大病院に連絡したが、同病院は「産科医が手術中」などの理由で受け入れを断ったという。

 かかりつけの病院は「その後、都内の3病院に要請したが断られた。午前5時半ごろ、墨東病院に連絡して受け入れてもらえることになった」としている。

 妊婦を乗せた車両が墨東病院を目指し、かかりつけ病院を出発したのは午前6時20分ごろだった。

 杏林大病院は「かかりつけの病院が『受け入れ可能になるまで待ちたい』と言ったので、緊急性はないと判断した。当初は脳の疾患の疑いまでは伝えられず、分かっていればすぐに引き受けた」としている。

 かかりつけの病院は「脳の手術の必要を感じなければ、そもそも脳外科医のいる大病院を探していない。当然、症状については杏林大病院側に伝えた」としている。

 東京都は「情報は入っているが、内容については調査中なので、今の段階ではコメントできる状況にない」としている。

▽墨東病院の妊婦死亡問題

 墨東病院の妊婦死亡問題 10月4日、体調不良を訴えた東京都内の妊婦=当時(36)=が都立墨東病院など8病院に受け入れを断られ、最終的に搬送された墨東病院で出産後、脳内出血の手術を受け、3日後に死亡した。赤ちゃんは無事。墨東病院は緊急処置の必要な母子を24時間受け入れる「総合周産期母子医療センター」として都が指定した9施設の1つだが、産科医が次々退職したため、7月から土日の当直を1人態勢として急患は原則受けないことにした。10月4日の当直も研修医1人だった。

(共同通信、2008年11月5日)

****** 共同通信、2008年11月5日

「地区割り」の限界露呈 機能不全の代替システム

 東京で妊婦の搬送受け入れ拒否がまた発覚した。多摩地区の「総合周産期母子医療センター」に指定された杏林大病院から拒否された脳内出血の主婦が、3時間以上たって運ばれたのは別の地区のセンターだった都立墨東病院。関係者からは「救急搬送先が地区割りされた今のシステムの限界が露呈している」との指摘が出ている。

 妊婦の脳疾患を疑った調布市内のかかりつけの病院が当初、搬送依頼したのは、多摩地区で唯一の救急搬送先に指定されていた杏林大病院だった。

 緊急時の受け入れ先となる「総合周産期母子医療センター」は都内に9つ。8つに分けた各地区に、最低でも1つのセンターが配置されている。

 しかし、関係者は「多摩地区だけで都内のお産の3分の1近くを占めている上、隣県の山梨からも妊婦が来るため、常にいっぱいの状態」と実情を明かす。

 こうした状況もあり、23区内にある別地区の8センターが毎日交代で「多摩当番」を請け負い、杏林大病院が受け入れられない場合に、急患の対応に当たっているという。

 だが、杏林大病院から最終的に妊婦を受け入れた墨東病院までの距離は20キロ以上。今回のケースでも、最初の要請から収容が決まるまで3時間以上もかかるなど、"代替施設"を活用するシステムのほころびが表面化している。

 現場の医師からは「都は実態を調査し、制度の見直しをすべきだ」との声が出ている。

(共同通信、2008年11月5日)

****** 共同通信、2008年11月5日

「判断不十分だった」 受け入れ拒否で杏林大病院

 東京都調布市のかかりつけ病院で嘔吐(おうと)などの症状を訴えた妊婦が、複数の病院から受け入れを拒否された問題で、最初に断った杏林(きょうりん)大病院(三鷹市)が5日会見し、「(脳内出血は)専門外で、重症度の判断が十分にできなかった。搬送元とのコミュニケーションもきちんととっていなかった」と説明した。妊婦の容体について同病院は「意識がない状態と聞いている」としている。

 かかりつけ病院などによると、受け入れを拒否したのは計6病院。しかし、これらの中には共同通信の取材に「要請を受けた記録がない」としている病院もある。

 妊婦は最終的に20キロ以上離れた都立墨東病院(墨田区)に搬送された。同病院で出産後、脳内出血の疑いがあり処置を受けた。赤ちゃんは無事という。

 杏林大病院やかかりつけの病院などによると、妊婦は調布市在住で、お産のためかかりつけの病院に入院中の9月23日午前零時ごろから、嘔吐や右半身が動かないなどの症状が出始めた。杏林大病院など複数の病院から受け入れを拒否された。

 杏林大病院は「総合周産期母子医療センター」。当時、当直をしていたのは研修医を含めて2人だった。岩下光利(いわした・みつとし)副センター長は「脳内出血という診断がついていれば受け入れていた。極めてまれな症例で経験がなく、残念なことになった」と話した。

(共同通信、2008年11月5日)

****** 朝日新聞、2008年11月5日

脳出血の妊婦受け入れ断り、9月にも 

搬送先まで4時間

 東京都調布市の飯野病院に入院中の30代妊婦が、今年9月に脳出血を起こし、一報を受けた杏林大病院をはじめ6病院から受け入れを断られた末に、搬送先が見つかり運び込まれるまで約4時間かかっていたことが分かった。最終的に都立墨東病院で子どもは無事に生まれたが、「妊婦は入院して、意識がない状態」(杏林大病院)だという。都内では先月4日にも脳出血を起こした妊婦が8病院に断られ、死亡している。都は9月のケースも調査する。厚生労働省も事実関係を把握しており、都などに事情を聴く方針。

 総合周産期母子医療センターに指定されている杏林大病院(東京都三鷹市)の岩下光利教授(産婦人科)によると、かかりつけ医のいる飯野病院からの電話連絡は23日午前3時過ぎ。妊婦は出産予定日を過ぎており、前日に飯野病院に入院していた。「容体が悪くなって、軽いまひがある」という連絡だった。

 しかし、当時、杏林大病院の産科の当直医2人は、電話の前に救急搬送された別の妊婦の帝王切開中だったため、受け入れを断った。

 当直医が、受け入れまでに時間がかかると説明、かかりつけ医側は、「いつまでも待つ」と返事をしたという。

 岩下教授によると、当直医は、妊婦がそれほど緊迫した状況にあるとは思わず、陣痛の際にしばしば起こる、「(呼吸が過剰になる)過換気症候群などではないか」と判断したようだという。

 同大学病院は都内の他の周産期母子医療センターの状況がわかる情報システムで、受け入れ可能な病院をかかりつけ医に紹介。一方、当直医は多摩地区の3病院に連絡したが、断られた。

 飯野病院によると、杏林大病院には「緊急性と切迫性がある」と伝えていた。独自に杏林大のほか新宿や渋谷の病院に連絡をしたが、いずれも断られた。このとき、多摩地区の妊婦を杏林大病院が受け入れられない場合には都内の総合周産期母子医療センターが輪番制で受け入れるルールだと教えられたという。

 妊婦は午前7時10分に墨東病院に運び込まれ、帝王切開と脳の手術を受けた。

 東京都は「子どもは健康だが、母体については家族の意向もあり、言えない。搬送についてはこれから調査する」としている。

(朝日新聞、2008年11月5日)

****** 読売新聞、2008年11月5日

杏林大病院など脳出血の妊婦受け入れ拒否、意識不明の状態に

 脳出血を起こした東京都調布市内の妊婦(32)が今年9月、杏林大病院(東京都三鷹市)など、少なくとも6病院から受け入れを断られていたことが5日、分かった。

 最終的に都立墨東病院(墨田区)に搬送され、子供は無事に生まれたが、妊婦は意識不明の状態が続いているという。

 杏林大病院は妊婦や胎児の緊急治療に対応する「総合周産期母子医療センター」。先月4日には、江東区内の妊婦が8病院から受け入れを拒否され、脳出血の手術の3日後に死亡している。

 都や調布市内のかかりつけ病院などによると、妊婦は9月22日午後、出産のために入院し、23日午前0時ごろから嘔吐や右半身が動かなくなるなどの症状が出始めた。午前3時ごろ、当直医から連絡を受けた院長が診察し、脳疾患の疑いがあると判断、杏林大病院に電話で受け入れを依頼した。

 杏林大病院は総合周産期母子医療センターに指定されており、「産科医を24時間体制で2人以上確保することが望ましい」とする都の基準を満たしていたが、産科の当直医2人が帝王切開の手術中だったことから受け入れを拒否。このため、かかりつけ病院と杏林大病院で、都内の5病院に受け入れを要請をしたが、いずれも拒否された。

 午前6時ごろになって、ようやく約25キロ離れた墨東病院での受け入れが決まり、妊婦が同病院に到着したのは午前7時過ぎだった。

 かかりつけ病院側は、「脳疾患の疑いがあり、杏林大病院に緊急性は伝えた」としているが、杏林大病院は「(かかりつけ病院からは)受け入れを待てる状態だと言われた。緊急性があると分かっていれば受け入れた」と述べるなど、主張が食い違っている。

(読売新聞、2008年11月5日)

****** 毎日新聞、2008年11月5日

妊婦拒否:杏林大病院など6病院も 女性意識不明の重体に

 おう吐や半身まひなど脳内出血の症状を訴えた東京都調布市の妊婦(32)が今年9月、リスクの高い妊婦に対応する「総合周産期母子医療センター」に指定されている杏林大病院(東京都三鷹市)など6病院から受け入れを拒否されていたことが分かった。女性は最初の受け入れ要請から約4時間後に都立墨東病院(墨田区)に搬送され出産したが、現在も意識不明の重体。子供は無事だった。

 都内の別の妊婦が10月、墨東病院など8病院に受け入れを拒否され死亡した事故の約2週間前に起きたケースで、妊婦に対する救急医療体制の不備が改めて浮かび上がった。

 この妊婦のかかりつけ病院だった調布市の飯野病院によると、女性は出産のため9月22日に入院。23日午前0時ごろからおう吐や右半身まひなどの症状が出た。脳内出血の疑いがあり、医師が外科治療が必要と判断、午前3時ごろから複数回、杏林大病院に受け入れを要請したが、「産科医が手術中で人手が足りない」と拒否されたという。

 一方、杏林大病院によると、要請を受けた時、当直医2人が手術中で、約1時間後に再要請を受けた時も術後管理や空きベッドがなかったことから受け入れられなかったという。岩下光利・同大教授(産婦人科)は「飯野病院からの連絡に切迫性はなく、外科措置が必要との認識はなかった」と話している。その後、杏林大病院は飯野病院と分担し、小平市など多摩地区の3病院と23区内の2病院に問い合わせたがいずれも受け入れを拒否されたという。

 東京都内の周産期医療システムでは、多摩地区の総合周産期母子医療センターなどで受け入れができない場合は、23区内の八つの総合周産期母子医療センターが輪番で対応することになっており、午前5時半ごろ、約25キロ離れた墨東病院での受け入れが決定。同7時ごろ、搬送されたという。

(毎日新聞、2008年11月5日)

****** NHKニュース、2008年11月5日

妊婦 6つの病院断られ重体に

 ことし9月、東京・調布市の産婦人科病院に入院していた妊婦が脳出血を起こし、地域の拠点病院を含む6つの病院から受け入れを断られた末に、意識不明の重体になったことがわかりました。東京では先月にも脳出血を起こした妊婦が受け入れを断られたあとに死亡し、お産前後の救急医療に大きな課題のあることが明らかになったばかりでした。

 意識不明になったのは、お産のため東京・調布市にある産婦人科病院「飯野病院」に入院していた32歳の女性です。

 飯野病院によりますと、9月23日の未明、女性におう吐や右半身のマヒなどの症状が出たため、地域の拠点病院である東京・三鷹市の杏林大学医学部付属病院に受け入れを要請しました。

 杏林大学病院は、緊急の治療が必要な妊婦を受け入れる「総合周産期母子医療センター」に指定されていますが、当時、産科では別の手術を抱えていたうえ、病床もいっぱいだったことなどから、受け入れを断ったということです。

 その後、杏林大学病院と飯野病院が手分けをしてあわせて5つの病院に受け入れを打診しましたが、いずれも断られたということです。女性の搬送先は最初に受け入れを断られてから3時間後に決まり、およそ25キロ離れた東京・墨田区の都立墨東病院で手当てを受けました。子どもは無事産まれましたが、女性は脳出血のため意識不明の重体になり、現在も墨東病院に入院しているということです。

 東京では先月4日にも脳出血を起こした妊婦が、8つの病院に受け入れを断られたあとに死亡し、お産前後の救急医療に大きな課題のあることが明らかになったばかりでした。

(NHKニュース、2008年11月5日)

****** FNNニュース、2008年11月5日

9月に脳内出血した東京・調布市の妊婦、6病院から受け入れ断られ都立墨東病院で出産

 2008年9月に、脳内出血をした東京・調布市の妊婦が、杏林大学付属病院など6つの病院から受け入れを断られ、20km以上離れた都立墨東病院で出産していたことがわかった。9月23日未明、調布市の飯野病院に入院していた32歳の妊婦に、吐き気や右半身まひなどの症状が出たため、「総合周産期母子医療センター」に指定されている杏林大学付属病院など6つの病院に受け入れを要請したが、産科医が手術中などの理由で、受け入れを断られていた。結局、3時間半後に20km以上離れた都立墨東病院が受け入れ、赤ちゃんを無事出産したあと、母親は、脳内出血の処置を受け、現在も意識不明のまま入院している。

(FNNニュース、2008年11月5日)

****** 産経新聞、2008年11月5日

9月にも妊婦受け入れ拒否 都内の30代脳内出血

 東京都調布市内のかかりつけの病院で嘔吐(おうと)などの症状を訴えた30代の妊婦が今年9月、杏林大学病院(三鷹市)など複数の病院に受け入れを断られ、最終的に20キロ以上離れた都立墨東病院(墨田区)で出産し、脳内出血の処置を受けたことが4日、分かった。母子ともに命に別条はないという。

 関係者によると、9月23日未明、妊婦がかかりつけの病院で嘔吐を繰り返したため、杏林大病院へ搬送を要請。ところが同病院は「他の妊婦の帝王切開の手術中」などとして受け入れを拒否。かかりつけの病院は都内の複数の病院にも搬送要請したが、いずれも断られた。

 その後、杏林大病院に再度受け入れを要請したが、「帝王切開の手術自体は終了しているが術後の処置などが済んでおらず、新たに妊婦の搬送を受け入れることは困難」と拒否された。

 杏林大病院は、東京23区外の多摩地域で唯一「総合周産期母子医療センター」に指定されており、かかりつけの病院からは約4キロの距離。これに対し、搬送された墨東病院は20キロ以上離れていた。

 同じ総合周産期母子医療センターの墨東病院など8病院による妊婦受け入れ拒否が発生したのは、その11日後だった。

 事態を重視した厚労省は事実関係の確認に乗り出した。

(産経新聞、2008年11月5日)