ある産婦人科医のひとりごと

産婦人科医療のあれこれ。日記など。

上田市産院の移転改築推進へ準備室

2009年03月03日 | 地域周産期医療

コメント(私見):

上田市を中心とした「上小医療圏」(人口:約22万人、分娩件数:約1800件)では、国立病院機構長野病院の産婦人科が地域の産科2次施設としての役割を担ってきましたが、2007年11月に派遣元の昭和大学より常勤医4人全員を引き揚げる方針が病院側に示され、新規の分娩予約の受け付けを休止しました。

現在、同医療圏内で分娩に対応している医療機関は、上田市産院、上田原レディース&マタニティークリニック、角田産婦人科内科医院の3つの産科1次施設のみです。ハイリスク妊娠や異常分娩は、信州大付属病院(松本市)、県立こども病院(安曇野市)、佐久総合病院(佐久市)、長野赤十字病院(長野市)、篠ノ井総合病院(長野市)などに紹介されます。分娩経過中に母児が急変したような場合は、救急車で医療圏外の高次施設に母体搬送されています。

産科2次施設が存在しない地域では、産科1次施設での分娩の取り扱いの継続が困難となりますので、上田市は、上小医療圏に産科2次医療が提供されるように最大限の努力をする必要があります。

今この地域で最も必要とされているものは何なのか?をもう一度よく検討し、医療圏全体で一体となって、地域の周産期医療提供体制を再構築するための第一歩を踏み出していく必要があると思われます。

****** 医療タイムス、長野、2009年3月3日

産院の移転改築推進へ準備室 上田市

 上田市は、移転改築方針を打ち出している上田市産院について、2009年度、政策企画局内に「建設準備室」を設け、移転改築事業を推進する。2日の市議会一般質問で、母袋創一市長が表明した。

 市産院は築後40年以上が経過し、老朽化が著しい。市はすでに、移転改築に関する庁内の連絡調整会を立ち上げ、具体的な計画の策定などに取り組んでいる。

 母袋市長は、市産院移転改築に特化した組織の必要性に言及し、「安心して子どもを産み育てる環境整備をすることが、私に課せられた責務。赤ちゃんとお母さんに優しい、安心してお産のできる病院確立に取り組む」と話した。

 また、移転改築に向け「最重要課題」と位置付ける医師の確保については、複数の医師と交渉を進めていると明かす一方、「医師の確保やその道筋をつけることは、極めて困難」との認識を示した。市産院は現在、常勤医1人、非常勤医2人の体制だが、このうち非常勤医1人は大学医局に戻る意向を示しているという。

参考記事:

佐久市立浅間総合病院:産科医6人に増強 分娩予約も月60件超--4月から

産科復興に向けた長野県各地域の取り組み

長野病院の周産期医療回復へ支援制度

長野病院 出産受け付け休止から1年 (信濃毎日新聞)

上田市周辺の周産期医療体制について

東御市民病院が婦人科外来を開設

長野病院 来年3月末で産科医不在に

長野病院の全産科医派遣の昭和大、引き揚げ方針

産科医療 崩壊の危機

迫る限界 お産の現場

産科医療に関する新聞記事

「バースセンター」構想 上田の母親ら「集い」発足 (信濃毎日新聞)

東信地域の厳しい産科医療の状況について

上田でお産の課題話し合う (南信州新聞)

読売新聞: 現実にらみ 産院存続運動

南信州新聞社:「院内助産院」勧める意見も

医療タイムス社:上田市産院・廣瀬副院長 産科の集約化を非難

公的病院での分娩再開を求める運動について

読売新聞: 深刻な産科医不足 集約化加速


富山県の産科医療の状況

2009年02月26日 | 地域周産期医療

****** KNBニュース、富山、2009年2月25日

産科医療の課題は

 県の新年度予算案と私達の暮らしの関わりから、医師不足が深刻な産科医療への支援についてお伝えします。

 黒部市にある民間の産科婦人科クリニックです。 これまで58歳の医師1人で、お産に対応してきましたが、今月いっぱいで、お産を扱わないことを決めました。 理由は《体力の限界》。医師は後継者を探しましたが見つかりませんでした。

 黒部市に住む高橋さんは今月、このクリニックで長女を出産したばかりです。 以前、長男を出産した別のクリニックも今はお産が出来なくなっています。 高橋幸江さん「この子らを産んだ場所が無いっていうのも寂しいし、これから産もうと思っとる人たちのこと考えたら可哀想やなー不安やろなーと」

 県内でお産を扱う医療機関は年々減り続けています。 25ある公的病院では、およそ半分の13か所に。また民間では1病院、13のクリニックがありましたが、来月からは12のクリニックに減ります。 これで県内では合わせて9つの市町村でお産が出来る民間の医療機関がゼロとなってしまいました。

 産科の医師確保を目指そうと県は新年度予算案にお産を扱う医師への手当てに対する補助金として5400万円余りを盛り込みました。
 また、産科の医師の負担を減らすため助産師外来などを開設する医療機関への支援として、およそ500万円を組み入れました。

 助産師外来とは経過が順調な妊婦の健康診査や保健指導を助産師が中心となって行います。 平成18年以降、県内では県立中央病院など5つの病院に設けられています。

 そして、周産期医療を取り巻く課題はもうひとつ。不足しているNICUの整備です。県立中央病院では、この駐車場に最大で3階建ての新しい病棟を建設する予定です。 県は新年度予算案に5300万円あまりの実施設計費を計上しています。 しかし、その規模や中身については、今後NICUを増やすかどうか次第で、結論は出ていません。」

 県内のNICU、新生児集中治療室をめぐっては、去年4月に富山市民病院が14の病床を休止したままとなっています。 その後、県立中央病院が病床を5つ増やしましたが、依然として9つ足りない状況です。

 石井知事は「県民の安心とか健康は命に関わるからどなたも引き受けないとなれば、中央病院で、いかに財政が厳しくても受けなくてはならない。」としますが、引き受ける前提条件としては、あくまでも「富山市が市民病院のNICUの再開を断念した場合」としていて、富山市との話し合いは進んでいません。

 一方、富山大学附属病院はKNBの取材に対して平成23年4月にスタートする新しい病棟に設けるNICUの病床を現在の15から22へ7つ増やす計画を検討していることを明らかにしました。

 富山大学附属病院の斎藤滋副院長は「県立中央病院と大学病院の増床分で、できれば富山県内で生まれた赤ちゃん全てを富山県(内)で収容したいと考えています。」と話します。

 しかし、病床を増やすには専門の医師を確保するという課題が残されています。県内で新生児を専門とする医師は富山大学附属病院に2人、県立中央病院に2人、そして厚生連高岡病院に1人の5人しかいません。 斎藤副院長は公的な病院に新生児専門の常勤医の枠を増やすこと。そして大学が優秀な人材を提供していくことが最も必要な対策だと訴えます。 「やはり(新生児専門の)ドクターを少なくとも今の倍ぐらいの状態にしてあげないと夜も寝ることが出来ませんので是非、人材を輩出して働いている先生方の負担を減らすことが《ドクターが辞めない》ということにつながります。」

 1人でお産に向き合うことを辞めた黒部市の医師は「肩の荷が降りて正直ホッとしている」と答えました。 お産の現場で疲弊する医師たちを支援する体制づくりが急がれます。

(KNBニュース、富山、2009年2月25日)


佐久市立浅間総合病院:産科医6人に増強 分娩予約も月60件超--4月から

2009年02月16日 | 地域周産期医療

私見(コメント):

佐久市立浅間総合病院の産婦人科常勤医が4月から6人体制に増強されるそうです。今のご時世で、(大学病院からの派遣ではなく)市独自の医師確保策だけで、産婦人科の常勤医を6人まで増やしたリクルート手腕は本当にすごいと思います。

かなりベテランンの婦人科腫瘍専門医から若手の後期研修医まで、年齢構成や専門分野のバランスも偏ってないようで、周産期医療、婦人科腫瘍医療、不妊治療などを幅広くカバーできることが期待されます。

佐久市内には佐久総合病院もありますから、この地域の産婦人科はかなり充実することになります。上田地域の患者さんにとっても朗報だと思います。

****** 毎日新聞、長野、2009年2月16日

佐久市立浅間総合病院:産科医6人に増強 分娩予約も月60件超--4月から

 佐久市立浅間総合病院(北原信三院長)で、4月から産婦人科医が2人増員され、6人体制に増強される。これに伴い、現在、月50件に制限している分娩(ぶんべん)予約枠を60件以上に拡大できることになった。【藤澤正和】

 同病院産婦人科は07年4月、帝京大から派遣されていた医師1人が、大学病院に引き揚げ医師2人となったため、月間の分娩数を24件に制限した。同11月に県外の勤務医が確保でき、出産数は50件に回復した。また初期研修を終えた研修医が産婦人科で後期研修中で、指導医とともに産科のローテーションに入り現在は4人体制。

 4月から新しく勤務するのは51歳と36歳の男性医師。1人は産科のほか腫瘍(しゅよう)と、がん治療専門医で、婦人科を中心に診療に当たる予定。もう1人は麻酔科も担当できる産婦人科医。6人体制になることで、帝王切開や不妊治療による出産とは別に、分娩予約を月60件に増やすという。

(以下略)

(毎日新聞、長野、2009年2月16日)


地域に産婦人科の機能を残すために

2009年02月15日 | 地域周産期医療

コメント(私見):

産婦人科の場合は、いつお産になるか全くわからないので、分娩件数が多かろうが少なかろうが、24時間体制で誰かが常に病院の近辺に拘束されます。例えば、年間分娩件数が150件程度の施設だと、平均すれば分娩は2~3日に1件程度しかないので、分娩に備えてずっと病院内に張り付いていたとしても、実質何日もほとんど手持ち無沙汰のこともあるかもしれません。しかし、いくら仕事がなくても、いざという時に備えて病院から離れることができません。そして、いざお産が始まって、いよいよ産婦人科医の出番だと思って張り切っても、分娩経過が異常化した場合は、常勤産婦人科医1人だけでは十分に対応できず、人手が十分に整っている施設に救急車で母体搬送せざるを得ないかもしれません。

現代の産婦人科の診療では、個人プレーでできることには大きな限界があり、周産期医療にしろ、婦人科腫瘍医療にしろ、非常に大きなチームで診療する必要があります。しかし、地方の公的病院では、病院単独でいくら医師確保の努力をしても、必要な常勤医師数をすべて自前でまかなうのは非常に困難です。

地域に産婦人科の機能を残していこうとするのであれば、将来的に地域で必要とされる産婦人科専門医をいかにして養成していくのか?また、養成された産婦人科医をいかにバランスよく各地域に配置していくのか?ということを真剣に考える必要があります。

現状では、国や県には医師派遣機能をほとんど期待できません。また、民間の医師派遣会社に依存して、地方拠点病院の産婦人科常勤医を長期・安定的に確保していくのも不可能です。いろいろな意見があるとは思いますが、現実的に考えて、地方の拠点病院に産婦人科医を長期・安定的に供給できる機関は、大学病院以外に考えられません。

病院や医師の集約化は、相当強力なリーダーシップが存在しない限り、実行は非常に困難です。もしも、『多くの人を引きつけるカリスマ性のある教授の強力なリーダーシップの下に、毎年新たな人材が安定・継続的に確保され、大学病院や県内各地の拠点病院で多くの有能な人材が育ち、県内各地で医師が適正に配置されるような状況が実現する』とすれば、それはそれで理想的なあり方の一つだと思います。その理想を現実化するためには、県内の関係者が一体となって全面協力していく必要があります。

****** 中日新聞、長野、2009年2月11日

出産へ「安心ネット」定着 松本地域、医療機関の分担進む

 医師不足で分娩(ぶんべん)を扱う病院が減少する中、安全な出産を確保するため昨年始まった松本地域出産・子育て安心ネットワーク制度が定着し、分娩と健診を扱う医療機関の役割分担が進んできた。松本市では、妊娠当初から分娩医療機関で診てもらう市民の数が半減し、診療所など分娩を扱わない医療機関に移ってきている。

 同制度では、分娩を扱わない地域の診療所や開業医が「健診協力医療機関」として妊婦健診を担当し、分娩医療機関の負担を軽減する。妊婦は共通カルテ「共通診療ノート」を持ち、異なる医療機関で情報を共有する。

 市によると、制度が本格化した昨年7月から今年1月までで、妊娠が判明した市民が受けた妊娠証明のうち、分娩医療機関の取扱件数は前年同期比54・2%減の356件。健診協力医療機関は同121・2%増の823件だった。

 妊娠証明を扱った医療機関が妊婦健診を実施するのが一般的で、妊婦健診が分娩医療機関から健診協力医療機関へとシフトしていることが浮き彫りになった。

(以下略)

(中日新聞、長野、2009年2月11日)


周産期医療提供体制立て直しの方策は?

2009年02月07日 | 地域周産期医療

コメント(私見):

都会、地方を問わず、全国各地の周産期医療提供体制は危機的な状況にあり、大学病院や拠点病院も含めて産婦人科医不足が年々深刻化しています。

地域の開業の先生方が高齢化により次々にリタイアーし、拠点病院の勤務医が疲れ果てて連鎖反応的に大量離職していく中で、産婦人科医の人材が完全に枯渇してしまえば、県内の周産期医療提供体制がいったんは総崩れとなってしまうことも危惧されます。

医師個人の頑張りに頼っているだけでは、現体制を支えている医師が燃え尽きてヤル気を失くすたびに、地域周産期医療の崩壊が進行していくことになります。

今は将来を見据えて、あせらず一歩一歩、体制を立て直していくべき時です。

まずは、病院や医師の集約化を進めて医療崩壊の更なる進行をくいとめることが緊急の課題です。

それと並行して、未来を担う新人を大幅に増やす努力も非常に重要です。そして、彼らが途中でドロップアウトせずに立派に育って、将来、県内各地で大活躍できるように、大学病院や拠点病院の研修環境を充実させていく必要があります。そのための国レベルの思い切った支援策も必要だと思います。

****** 毎日新聞、2009年2月7日

産科医 3割で負担過剰 分娩数、限界に

 都道府県の医療計画策定の基礎となる2次医療圏のうち、病院勤務医1人が扱う分娩(ぶんべん)数が年150件を超す医療圏が3割を占めることが毎日新聞の調査で分かった。日本産科婦人科学会などは帝王切開などリスクを伴う分娩を受け入れる病院勤務医が無理なく扱えるのは150件程度までとしている。地域のお産環境が危ういバランスで成り立っている実態がうかがえる。【まとめ・大和田香織】

 調査は厚生労働省が07年12月時点で集計した355医療圏(兵庫県は周産期医療圏)ごとの分娩数、常勤産科医数を都道府県に照会し、取材を加味してまとめた。

 有効な数値を得られた287医療圏を分析すると、63%の182医療圏で医師1人当たり分娩数が100件を超え、30%の87医療圏で150件を超えていた。

 都道府県別では北海道(7医療圏)▽神奈川県(6医療圏)▽長野県(同)▽愛知県(5医療圏)▽京都府(同)などで、150件を超すケースが目立った。富良野(北海道)、湯沢・雄勝(秋田)の両医療圏は、一つしかない病院の常勤医1人で分娩数が年150件を超えた。

 今年1月までの1年間で、経営判断や医師不足などで分娩予約の受け付けを中止したり、産科の休止に至った病院は14府県17カ所に上ることも、今回の調査で分かった。

(以下略)

(毎日新聞、2009年2月7日)


産科復興に向けた長野県各地域の取り組み

2009年02月01日 | 地域周産期医療

・ 佐久市立国保浅間総合病院の産婦人科は、新年度から常勤医が2人増えて5人体制となり、産科業務を拡大していく予定とのことです。

・ 伊那中央病院の産婦人科は常勤医7人体制となり、施設を改修して年間分娩件数を千二百件程度と想定しているそうです。

・ 飯田市立病院の産婦人科は常勤医5人体制ですが、病診連携や助産師外来、メディカルクラークなどの充実により、年間分娩件数:千件程度を維持しています。

・ 医師不足により産科業務を休止していた県立須坂病院の産婦人科は、新年度から常勤医4人体制となり、産科を再開する予定とのことです。

これらの病院は、産科業務の存続すら非常に危ぶまれていた時期もありましたが、それぞれ存亡の危機をギリギリ何とか乗り越え、新たな道を模索し始めています。危機打開のためには、他地域で成功したモデルが必ずしも有効とは限りません。各地域の今の状況にあった医療行政を進めていく必要があります。

****** 医療タイムス、長野、2009年1月28日

前年比159件増の1151件 伊那中央の08年分娩件数

 上伊那地域で分娩を扱う唯一の公立病院となっている伊那中央病院(小川秋實院長)が2008年に受け入れた分娩の件数は、前年比159件増の1151件だった。同地域では、昭和伊南総合病院が08年3月末で分娩の取り扱いを休止。このため、伊那中央病院は08年度から年間1200件の分娩を想定し、産婦人科外来診療棟を新設するなどして対応している。

(中略)

飯田市立は前年並みの988件

 一方、里帰り出産の受け入れを一部制限している飯田市立病院(千賀修院長)は前年比2件減の988件と、前年並みの水準を確保した。同院の産婦人科は常勤4人、非常勤1人の4.5人体制。昨年は一時3人体制となっていたが、信大からの医師派遣などで現在の体制となった。

(以下略)

(医療タイムス、長野、2009年1月28日)


NICU維持が焦点に/日製病院産科問題 (朝日新聞)

2009年01月31日 | 地域周産期医療

コメント(私見):

3月いっぱいで産科医全員の派遣元大学への引き揚げが決まっている日立製作所日立総合病院(日製病院)で、NICUの維持ができるかどうかが問題になっているそうです。また、院内の助産師25人を中心に院内助産所の準備が進められているそうです。

いろいろ難しい問題があるとは思いますが、常識的に考えれば、病院に残留した25人の助産師、NICUのスタッフを有効活用するためには、残されたスタッフが散り散りにいなくなってしまう前に、近隣医療圏の産科医・小児科医が多く勤務する施設と合流し、集約化により強力な周産期センターを作るしかないと思われます。

その施設で、産科や小児科などの若手医師達をじっくりと育てていく必要があります。

今、全国的に産科や小児科の集約化が進んでいるところですが、周産期医療では産科と小児科との緊密な連携が不可欠ですから、産科の集約先と小児科の集約先が同じ施設でないと全く意味がないと思います。若手医師の研修のためにも、大勢の指導医がいて、症例数の多い病院の方が望ましいと思います。

患者さんにとっては、病院へのアクセスはかなり不便になってしまいますが、県内のどこにも受け入れ施設がなくなってしまう最悪の事態よりは、多少遠かろうとも、県内に確実に受け入れてくれる施設が存在する方がはるかにいいと思います。

もはや、一つの病院、一つの医療圏の努力だけでこの問題を解決しようとしても難しく、やはり、地元大学や、県、国などの強力なバックアップ、リーダーシップが必要だと思われます。

日立製作所日立総合病院:産科医1人が残留 分娩を継続へ(毎日新聞)

医師確保険しく 来春産科医0の日製病院(朝日新聞)

日立総合病院 分娩予約一時中止

****** 朝日新聞、茨城、2009年1月30日

NICU維持が焦点に/日製病院産科問題

 3月いっぱいで東大病院派遣の産科医全員の引き揚げが決まっている日立市の日立製作所日立総合病院(日製病院)では、県北地域で唯一同病院にあるNICU(新生児集中治療管理室)の機能が維持できるかどうかが焦点になっている。NICUは産科との連携が基本だが、産科の大幅縮小でその必要性が問われることになりかねないからだ。地元産科医らは存続を強く求め、県に働きかけている。【大塚隆】

 産科と新生児科が協力して出産前後の母子を診る周産期医療では、ハイリスクの妊婦や新生児に24時間態勢で対応し、NICU設置が不可欠となる。県内では水戸済生会総合病院・県立こども病院など3施設が県の総合周産期母子医療センターに指定され、即応態勢がとられている。

 07年に県内最多の出産を取り扱った日製病院は、総合センターのない県北でそれに準じた役割を担ってきた。県は同病院を県北医療圏の地域周産期母子医療センター(中核)に指定している。

 東大病院から派遣されていた医師は4人全員が今年度末で引き揚げる予定になっている。病院側は産科医の確保に奔走しているが、産科の大幅な縮小は避けられず、現在は助産師を中心にした院内助産所開設の準備が進んでいる。

 同病院は基本的には「県北の地域医療を担う病院としてNICUを存続させたい」(岡裕爾院長)との考え。同市で唯一産科を開業する瀬尾医院の瀬尾文洋医師も「周産期医療に不可欠」と言い、昨年末に市と県の医師会を通じ、県に同病院のNICU存続を求める要望書を出した。

 同病院の地域周産期母子医療センター指定について、山田保典・県医療対策課長は「病院側の意向を踏まえつつ、県全体の周産期医療をどうするかを考えたい」と話す。十分な産科医確保ができなかった場合、NICUの機能を別の病院に移し、県全体として集約することも視野に検討しているとみられる。

 NICUを運営する同病院新生児科は、筑波大から常勤医3人の派遣を受けている。筑波大も産科医確保の状況を見ながら、4月以降の医師派遣について検討する模様だ。

 県北地域の現状については「日製病院のNICUがなくなるとハイリスクを負う母子の搬送に時間がかかり、命にかかわる。水戸地域はすでに限界に近く、県北からの移送を受け入れるとパンクする可能性もある」(県央の医師)と存続を要望する声が強い。

 日製病院では現在、院内の助産師約25人を中心に正常分娩(ぶん・べん)に対応する院内助産所開設の準備を進めている。だが、4月以降の医師の態勢が明確にならないため、助産所開設時期や昨年8月から休止中の分娩受付をいつ再開するか決めていない。「新年度に助産所を開設するとしても最初は里帰り分娩への対応が中心になるのではないか」との見方も院内に出ており、部分的な再開になる可能性もある。

(朝日新聞、茨城、2009年1月30日)


日立製作所日立総合病院:産科医1人が残留 分娩を継続へ (毎日新聞)

2009年01月23日 | 地域周産期医療

コメント(私見):

詳しい事情はよくわかりませんが、毎日新聞の記事によると、この4月以降は産婦人科の常勤医がゼロになる見込みだった日立総合病院に、医学部卒業後4年目の女性医師が1人で残留することになったそうです。医学部卒業後4年目ということは、(2年間は初期研修期間ですから、)産婦人科の専門研修を始めてまだ2年目の後期研修医ということになります。

この病院では、1人の産婦人科の常勤医を確保できたので、助産師25人を活用するために「院内助産所」開設の検討を進めるそうです。

産婦人科の常勤医が1人だけだと、その医師は、一年中、昼夜を問わず常に病院の近くに拘束され、風邪で体調の悪いような時であっても、突然、真夜中に呼び出されたりすることになります。しかも、呼び出される時は常に一刻を争うような母児の急変時ですから、麻酔科医、新生児科医、外科系医師などの他科の医師達を招集して、緊急帝王切開などの対応を自分一人の判断でしなければなりません。時には、大量に輸血しながら、決死の覚悟で子宮摘出手術を実施しなければならないような場合も当然あり得ます。

そういう無理な態勢が長続きするとは到底思えません。一人の医師の犠牲的精神や、一つの病院、一つの地域だけの対応では、もはや、この問題を解決するのは非常に困難と思われます。

          ◇       ◇

産婦人科医が去った後に、多くの助産師が残留し、一般の看護師として働いている病院は少なくありません。 『院内にこんなに大勢の助産師がいるのに、分娩を全く取り扱えないというのはもったいない!昔はほとんどのお産を産婆さんが取り扱っていたんだから、正常分娩だけに限定すれば、助産師だけでも何とかなるのではないか?』 と病院上層部が考えて、院内助産所開設を検討し始める話はよく聞きます。

最近は、当医療圏でも集約化がだんだん進んできて、当院にも40人近い助産師が在籍し、月に百件前後の分娩を取り扱うようになってきました。長期的には産婦人科医の頭数も毎年だんだん増えてきてますが、当然ながら、個人的理由で辞めていく人もいます。もしも、突然、なんかの加減で産婦人科医が自分一人きりになってしまった場合は、分娩の取扱いは絶対に継続できないと観念しています。

産婦人科医の頭数が不安定で、毎年毎年、科の存亡の危機に見舞われて綱渡り状態が続くようでは、科としての社会的責任を十分に果たしていけません。産婦人科医の頭数を今後も永続的・安定的に維持していくためには、一つの病院や一つの医療圏単独の対応では大きな限界があります。やはり、県内の他の医療圏とも十分に協調して困った時には互いに助け合い、地元大学の産婦人科とも良好な関係を保っていくことが非常に重要だと考えています。

医師確保険しく 来春産科医0の日製病院

日立総合病院 分娩予約一時中止

危険過ぎる日立総合病院の判断
(まーしーの独り言)

日立総合病院に産科医1人が残留、院内助産所付き…、勇気は賞賛しますが…
(うろうろドクター)

****** 毎日新聞、茨城、2009年1月22日

日立製作所日立総合病院:産科医1人が残留 分娩を継続へ

 ◇ハイリスク対応は困難

 今春以降の常勤産科医の確保が不透明な状況となり、昨年夏から分娩(ぶんべん)予約を取りやめている日立市の日立製作所日立総合病院(日製病院)で、若手の常勤産科医1人が4月以降も残留することが決まった。医師派遣元の大学病院は常勤産科医4人全員を大学に戻す意向を示していた。病院側は「最悪の事態は避けられた」と、分娩を受け入れていく構えだが、1人ではハイリスク分娩への対応は難しく、広域医療に及ぼす影響は必至だ。【八田浩輔】

 07年の日製病院の分娩数1212件は県内最多。24時間体制で急を要する妊婦や新生児を受け入れる県北地域の地域周産期母子医療センターにも指定されている。06年に8人いた常勤の産科医は現在半減。派遣元の東京大病院の要請で、昨年夏に産科医全員が今年3月で大学に戻ることが決まると、4月以降の分娩予約の一時中止を決め、院内の掲示板やホームページで告知した。以降、病院は、県や市とともに、都内の私立医大などに医師派遣の要請を続けていた。

 病院によると、今回残留が決まったのは卒業後4年目の女性医師。昨年末に本人が残留の意向を示し、東大病院も了承したという。常勤医が確保できたことで、約25人の助産師を活用するため、県内では初めてとなる「院内助産所」開設の検討を進める。

 一方、周産期医療の「最後の砦(とりで)」であるセンター機能を維持することは容易ではなさそうだ。「正常分娩は何とか周辺地域で吸収できている。問題はハイリスクだ」。水戸済生会総合病院・総合周産期母子医療センターの山田直樹医師はこう指摘する。日製病院の年間の母体搬送は約50件(07年)。半数以上が県北以外の地域からの搬送だった。「県内全体のマンパワーがない。ハイリスクの受け皿が無くなると、(正常分娩を担う)1次医療機関も機能しなくなる」(石渡勇・県産婦人科医会顧問)との懸念もある。

 日製病院は、OBや民間の医療人材派遣会社など複数のルートを頼りに、引き続き医師確保に努めている。最終的な常勤医の人数が固まり次第、2月中にも来春以降の体制について公表する予定だ。

(毎日新聞、茨城、2009年1月22日)


長野病院の周産期医療回復へ支援制度

2009年01月15日 | 地域周産期医療

コメント(私見):

上田市を中心とした「上小(じょうしょう)医療圏」(人口:約22万人、分娩件数:約1800件)では、国立病院機構長野病院・産婦人科が地域の産科二次施設としての役割を担ってきましたが、2007年11月に派遣元の昭和大学より常勤医4人全員を引き揚げる方針が病院側に示され、新規の分娩予約の受け付けを休止しました。

現在、同医療圏内で分娩に対応している医療機関は、上田市産院、上田原レディース&マタニティークリニック、角田産婦人科内科医院の3つの一次施設のみです。ハイリスク妊娠や異常分娩は、信州大付属病院(松本市)、県立こども病院(安曇野市)、佐久総合病院(佐久市)、長野赤十字病院(長野市)、篠ノ井総合病院(長野市)などに紹介されます。分娩経過中に母児が急変したような場合は、救急車で医療圏外の高次施設に母体搬送されています。

今一度、この地域で最も必要とされているものは何なのか?をよく検討し、医療圏全体で一体となって、地域の周産期医療提供体制を再構築するための第一歩を踏み出していく必要があると思われます。

長野病院 出産受け付け休止から1年 (信濃毎日新聞)

****** 信濃毎日新聞、2009年1月14日

上田広域連合 医師確保へ「研究費」貸与

長野病院 産科医らに年100万-200万

 上田地域広域連合(連合長・母袋型上田市長)は13日、国立病院機構長野病院(上田市)の医師不足を受け、産科・産婦人科医や麻酔科医、小児科医に初年度200万円、その後は年100万円の「研究資金」を貸与し、同病院に勤務した場合には返還を免除するなどの支援制度素案を発表した。産科・産婦人科医には長期間勤務の慰労金も用意。5年間勤務し離任した場合、研究資金と慰労金を合わせ1100万円になる。

 同連合は、広域連合議会の2月定例会に、関連条例案と、費用約980万円を盛った2009年度当初予算案を提出する。

 長野病院は上田小県地域の中核病院で、周産期医療では危険度の高い「ハイリスク出産」を中心的に担う役割がある。賞与は、上小地域以外からの着任が条件。賞与期間は、1年間とし、産科医は計5年間、小児科医と麻酔科医は計3年間が上限。産科・産婦人科医に対しては、この他5年以上勤務した場合に「長期勤務慰労金」として、着任時から10年間を上限に勤務年数を一年につき100万円を離任時に一括で支給。「住宅手当」として月額最大5万円も助成する。

 研究資金などの財源は、広域連合の「ふるさと市町村圏基金」(約19億円)の運用益を充て、貸与額などが多い場合は基金を取り崩して対応する方針だ。

非常勤医を確保へ 

婦人科外来 長野病院4月以降も継続

 国立病院機構長野病院(上田市)は、昭和大学(東京)から派遣された産科医のうち残っている1人が3月末で引き揚げるのを受け、4月からは非常勤医を確保して婦人科外来を継続する。助産師が妊婦に保健指導などを行う「助産師外来」は4月以降の早いうちに開設する方針。出産受け付けの再開のめどはたっていない。藤政臣院長が13日、上田地域広域連合の記者会見で明らかにした。

 院長によると、4月以降の婦人科外来は週1日の予定。助産師外来は、助産師5人が開設に向け研修しているという。

 昭和大は都内などの産科医の不足を受け、長野病院に4人派遣していた産科医のうち3人を昨年の2月から7月にかけて順次戻し、残った1人が週3日間、婦人科外来の診療をしている。

(信濃毎日新聞、2009年1月14日)

****** 医療タイムス、長野、2009年1月14日

長野病院の周産期医療回復へ支援制度

上田広域連合

 国立病院機構長野病院(進藤政臣院長)で不足する産婦人科や小児科などの医師確保対策として、上田広域連合(連合長:母袋創一上田市長)は、新たに同院に着任した医師らに対する研究費助成などの支援事業を独自に行う。来月に開かれる議会で、事業実施に必要な条例案を提出する。

 同院は地域周産期母子医療センターに指定されているが、現在産婦人科医は1人だけ。この医師も3月末で派遣元の大学に引き揚げになるため、医師確保が課題となっている。13日に会見した母袋連合長は「地域周産期母子医療センターの機能回復に努めたい」と、同事業の狙いを説明した。

 同事業は、産科・産婦人科医に対して着任時200万円、翌年以降の4年間で各100万円を貸与、各1年の貸与期間を同院で医療に従事した場合は、返還を免除する。小児科と麻酔科の医師も対象となり、貸与額は同じだが、期間は2年間と短い。現在、同院に勤務する小児科医にも「何らかの財政支援を検討している」(母袋連合長)という。

 このほか、産科・産婦人科医に限り、月額最大5万円を助成する住居手当、5年間勤務した医師に500万円を、5年以上勤務した医師には、最長で10年までの1年ごとに100万円を上乗せする長期勤務慰労金も設ける。事業期間は10年程度。財源には「ふるさと市町村圏基金」を活用する。

 会見に同席した進藤院長は「今後の医師確保に役立つと期待します」と述べた。同地域では、上田市が単独でも産科、小児科、麻酔科の医師を対象とした研究資金の貸与制度などを設けている。

(医療タイムス、長野、2009年1月14日)

****** 読売新聞、長野、2009年1月14日

研究費や住居手当 医師不足の長野病院支援 

 上田市など5市町村で構成する上田地域広域連合は13日、医師不足に苦しむ国立病院機構長野病院(上田市緑が丘)に、新しい産婦人科医に来てもらうための支援事業を発表した。

 事業は、同病院に着任する産婦人科医に、〈1〉研究費として、着任した年に200万円、翌年以降4年間は毎年100万円を貸与し、1年間勤務すると返還を免除する〈2〉月額最大5万円まで住居手当を支給する〈3〉5年間勤務した人が退職する際には、長期勤務慰労金として500万円を交付する――など。

 同様に不足している小児科医と麻酔科医が新たに着任した場合にも、研究費として、着任年に200万円、2年目と3年目は100万円ずつ貸与し、1年間の勤務で返還を免除する。

 同病院では、常勤の産婦人科医が大学病院に引き上げられたため、2007年12月から分娩(ぶんべん)の受け付けを中止。今年3月末には残る常勤産婦人科医1人も引き上げられることになっている。

(読売新聞、長野、2009年1月14日)

【以下、過去の報道記事】

****** 信濃毎日新聞、2008年12月29日

長野病院 出産受け付け休止から1年

医師確保 続く苦闘

 上田市の国立病院機構長野病院が、昭和大学(東京)から産科医の引き揚げを通告され、新たな出産の受け付けを休止して1年。4人いた産科医は順次引き揚げられ、今年8月からは残った1人の医師が婦人科の外来診療のみを担う。病院や市は医師確保に向けた苦闘を続けているが、産科再開の見通しは立っていない。一方で住民側からはリスクの高い「飛び込み出産」を減らす呼び掛けなど、地域医療を支えようとする動きも生まれている。【袮津学】

 「自分の周りでも、佐久総合病院(佐久市)まで通っている妊婦がいる。普通だとは思えない」。今月14日、上田市民有志でつくるグループが、地域医療をテーマに開いた意見交換会。参加者から切実な声が上がった。

 上田小県地域の医療機関での出産は年間2千件ほど。長野病院は、危険度の高い「ハイリスク出産」を中心にこのうち5百件弱を担ってきた。

 同病院が出産受け付けを休止したのは昨年12月3日。休止に伴う影響について明確なデータはない。市内には民間医療機関や市産院があるが、ハイリスクの妊婦は県厚生連の佐久総合や篠ノ井総合病院(長野市)に通うケースも少なくないとされる。

 市や市内の病院によると、地域ではこの1年余、妊婦が複数の病院から受け入れを断られ、重篤な事態に陥るなどの事例は表面化していないものの、市民の不安は根強い。

 「この1年間で、全国の17大学を訪ね、産科医派遣を直接依頼した」。長野病院の進藤政臣院長は懸命の努力を明かす。しかし、全国的な産科医不足の中で、どの大学も新たに派遣する余裕はない。昭和大は現在1人残る産科医についても、来年4月以降は引き揚げる方針だ。

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 短期的な解決の糸口が見つからない中で、病院や行政は将来の医師確保につなげようと模索を続けている。

 常勤麻酔科医の確保も課題となっている長野病院は今年、病院の「グランドデザイン」をまとめた。現在35人前後の医師数を60人台まで増やすなど、約5年先に目指す病院の姿を示すことで、医師に勤務を呼び掛ける狙いがある。11月に神経内科、12月には外科の医師が1人ずつ増えるなど、明るい兆しも見え始めた。

 市は来年1月、医学生や研修医、医師に資金を貸与し、指定する医療機関に一定期間勤めれば、返済を免除する制度を始める。上小の5市町村でつくる上田地域広域連合も、長野病院の産科医や麻酔科医らに研究費を支給する制度を導入する予定だ。ただ、市の大井正行健康福祉部長は「市などが直接できる支援には限界がある」と漏らす。

 国は来年度、全国の大学医学部の定員を計693人増員。信大は5人増えて110人となる。大学病院の研修医不足の一因とされる臨床研修制度も見直す方針だが、効果はまだ不透明だ。

 「医療を社会インフラととらえ、どの地域でも一定水準を保つため医師を配置する仕組みがないと、地方の病院にとっては非常に厳しい」。進藤院長は訴える。

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 今年5月、上田市の母親らでつくるネットワーク「パム」は、妊婦に定期的な健診を呼び掛ける名刺大のカードを作った。市医師会と上田薬剤師会の協力で、薬局で妊娠検査薬を買う人に配っている。妊婦健診を受けていないと、危険な兆候があっても備えが取れず、妊婦、産科医双方のリスクが大きく増す。こうした「飛び込み出産」を減らす狙いだ。

 11月には、長野病院の地元地区住民らでつくる「西部地区を考える会」が「かかりつけ医をさがせ」と題する住民向けの連続講座を始めた。住民がかかりつけの開業医を持つことは、一部の病院に過大な負担がかかるのを避ける効果があるとされる。

 講座では初回、市の健康推進課長らが救急医療の現状などを紹介。その後も、神経内科や皮膚科の医師らを招き、それぞれの分野の病気についての知識を深めている。

 産科をめぐる「危機」に地域が向き合ったこの1年。住民自身が当事者として問題を考える動きは広がりつつある。会の代表、鈴木永さん(54)はこう話した。「医療機関や行政に医師確保を求めるだけでなく、住民も一緒にできることを探すきっかけにしたい」

上田小県地域の周産期医療 長野病院の出産受け付け休止後は、上田市産院と同市内の民間の2医療機関が担う。このうち市産院は2005年8月、信大医学部の医師引き揚げ方針に伴い市が廃止を検討したものの、存続を求める運動が起き、06年1月に存続が決定。今年6月には市が移転・建て替え方針も示した。また、隣接する東御市は09年度、市民病院に院内助産院開設を目指している。

(信濃毎日新聞、2008年12月29日)

****** 東信ジャーナル、2008年12月16日

上田で地域医療意見交換 
「女と男うえだ市民の会」

「医師やめない方策を」 
「なくてはなちない長野病院」

 上田市民の有志でつくる「女と男うえだ市民の会」(半択悦子代表)は14日、同市材木町の市民プラザ・ゆう・で「上小の地域医療についての意見交換会」を開き、市民ら約40人が参加した。

 上小地域のハイリスク出産を担っていた長野病院が産科医引き揚げで、出産の受け入れを休止するなど地域医療の現状をふまえ、医療について不安に思っていること、考えていることなどをそれぞれの立場から自由に語り合った。

▽上田市は市内の公立医療機関で従事することを条件に返還を免除する医師の修学資金貸与制度などを創設する考えを示したが、今いる医師がやめない方策も講じるべき。

▽この町でどう生き、どう死ぬかを考える時、長野病院はなくてはならない存在だ。

▽近くの開業医のことを知り、かかりつけ医を持つことで、急性期の患者を診るぺき長野病院の負担を減らすことが必要。

▽NICU(新生児特定集中治療室)など小児医療が充実している長野病院の魅力をアピールすべき。

など括発に意見が交わされた。

 柳谷信之・上田保健所長は「住民の熱い思いが医療に通じることもある。長野病院をも
っと知り、信頼関係を築いていくことが大切」と話した。

 半択代表は「充実した濃い内容の会議となった」とし、内容をまとめて市に伝える計画だ。

(東信ジャーナル、2008年12月16日)

****** 信濃毎日新聞、2008年12月16日

院内助産所「年間百程度」と東御市長

 東御市の花岡利夫市長は15日の市議会12月定例会の一般質問で、東御市民病院に来年度開設予定の助産師主体の院内助産所で「年間100程度の出産を取り扱いたい」と述べた。市長は、選挙公約である産科設置に向けて開設する院内助産所について、新規に助産師、看護師ら5人程度を採用する計画を明らかにし、市民病院の全60床のうち、5床ほどを院内助産所用に充てると答弁。

(信濃毎日新聞、2008年12月16日)

****** 信州民報、2008年12月16日

東御市議会一般質問

「市民病院の産料設置 院内助産院について」

「来年度中の開始目指す、年間100人位の出産を」

 改選後初となる東御市市議会月定例会-般質問は15、16の2日間の日程で行い、初日には花岡利夫市長が公約に掲げる市民病院の産科設置や、12月定例会に提案された「医学生等奨学金貸付条例」、院内肋産所の開設など、お産のできるまちに関して3議員が市長の考えを質した。

 阿部貴代枝議員は「次世代を担う子どもたちを産み育てる環境日本一を目指したいと願う」とし、「それにはまず、産む体制を整えることが一番。産科・院内助産所の開設、小児科医3
体制はどこまですすんでいるか」と質問。一方、桜井寿彦議員は「市民病院の産婦人科設置に対して、クリアしなければならない課題は何か」と質した。

 花岡市長は、お産ができるまちに関して現在の状況を説明。「9月に、産婦人科医師による婦人科外来を毎週火曜の午前・午後に開始し、来年1月からは金曜の午前も診察を行う予定」とし、「産婦人科医1人を確保できたことは、院内助産所開始に向けた大きな一歩」とした。

 ざらに「11月から院内助産所開設準備室長を配属し医師・助産師・看護師・技師・事務職など総勢9人で構成する院内助産所準備委貞会を設置した」とし、「委員会では業務内容を踏まえたマンパワーの確保、機器備品を含めた施設整備など、内部だけでなく外部の有識者による助言を得ながら、具体的な検討を行っていく」と答えた。

 そして院内助産所開設に関しては、「来年度中の開始を目指し、準備を進めている」とし、詳細はこれからとした上で、「新たに助産師・看護師など5~6人を採用し、現在60床のうち4~5床を院内助産所に利用。年間100人位の出産を取り扱えれば」とした。また、「院内助産所・助産師外来施設整備に対する補助などがあるので、活用したい」とした。

 また、東御市民病院が目指す院内助産所としては「妊娠初期から助産師が関わり、お母さんになるための心と体の準備を手助けする」必要に応じて産科医師が立会い、産後の悩みや育児不安などの相談も助産師が応じるというもの」とし、「家庭的な雰囲気の中で助産
師が中心となった自然なお産を目指す」と答えた。

 小児科医3人体制については、「捜しているが、現時点では未だ確保ができていない。今後も引き続き、医師確保に向け努力していきたい」とした。

 さらに、クリアしなければいけない課題は、「やはり医師確保。産科医1人は確保できたが、関連する小児科医の確保も必須」と答えた。また、「施設整備、人材確保のほか、リスクの高いケースにあっては、より専門的な病院との連携が必要と考える」とし、「関係医療機関とのさらなる連携強化を図って行く予定」とした。

(信州民報、2008年12月16日)

****** 信濃毎日新聞、2008年11月19日

ハイリスク出産で連携強化

上田市保健所で会合受け入れ基準など情報共有

 上田保健所(柳谷信之所長、上田市材木町)は15日、上田市の4産科医療機関、佐久、長野地域の基幹病院に呼び掛け、産科医療に係る連携会議を同保健所で開いた。国立病院機構長野病院(上田市緑が丘)の産科休止でハイリスク出産に対応できない上小地域から周辺基幹病院へのハイリスクの妊婦の紹介が行われているが、よりスムーズな連携を図るために、各基幹病院で異なる紹介時期や受け入れ基準など情報を共有化することを確認した。

 長野病院、市産院、市内の2民間産科医療機関と、佐久総合、浅間総合、篠ノ井総合、長野赤十字、小諸厚生総合の各病院の産科医ら、佐久・長野保健所が出席した。

 会議は冒頭以外非公開。上田保健所によると、現時点でハイリスクの妊婦の紹介や緊急搬送で大きな問題は起きていないと各病院の報告があった。

 その後、ハイリスクの妊婦健診を上小地域で行い、適切な時期に妊婦を周辺基幹病院へ移すことで基幹病院と妊婦の負担軽減を図ることや、これまで以上にスムーズな連携のために、受け入れ側の各基幹病院がどの疾患妊婦をどの段階で受け入れられるのかなど、緊急搬送を含めた紹介基準を集約して共有化することが確認された。

(信濃毎日新聞、2008年11月19日)

****** 信濃毎日新聞、2008年11月18日

医学生や研修医に資金貸与へ 

上田市が医師確保策

 上田市は医師確保策として来年1月から、医学生、医学部の大学院生と研修医、医師に資金を貸与し、市が指定する医療機関に一定期間勤務した場合に返還を免除する制度を導入する。市によると、これまでに県内で大学院生や研修医対象の貸与制度を導入している市町村はないという。また、小さい子どもを持つ女性医師が上田市産院に勤めやすいよう、医師が希望した場合に市がベビーシッターを雇用するほか、産院医師住宅も改修する。

 貸与条件などを定める条例案と、本年度分の予算676万円を盛った一般会計補正予算案を25日開会の12月定例市議会に提出する。

 指定する医療機関は、市産院、市武石診療所、国立病院機構長野病院、小県郡長和町との一部事務組合で設置する依田窪病院を予定している。

 医学部生対象の「修学資金」は月額20万円で、貸与を受けた期間と同期間の勤務で返還を免除する。診療科の制限はない。医学部の大学院生と研修医が対象の「研修資金」は月額30万円で、免除は貸与を受けた期間の1・5倍の期間の勤務が条件。現職医師には「研究資金」として、3年で300万円と2年で200万円の2種類を用意。大学院生、研修医、現職の医師は、産科、小児科、麻酔科への勤務を条件とする。

 上田市内では、市産院が常勤医1人、非常勤医3人の態勢。長野病院は、産科医4人を派遣していた昭和大(東京)が段階的に引き揚げ、今年8月からは残った1人が婦人科の外来診療だけをしているなど、産科医などが足りない状態が続いている。

(信濃毎日新聞、2008年11月18日)

****** 朝日新聞、長野、2008年9月10日

婦人科外来診療始まる 東御市民病院

 東御市民病院は9日、新たに婦人科外来の診療を始めた。来年度に予定する産科の設置に向けた布石となる。非常勤として担当する木村宗昭医師(63)は「助産師主体の自然なお産が出来るようなバースセンターを目指したい」と語った。

 婦人科外来は、毎週火曜日(午前9時~正午、午後2~5時)に開く。

 同病院の産科設置は、4月の市長選で初当選した花岡利夫市長の公約。設置の際、木村医師が常勤医師として同科を担当する予定だ。

 木村医師は、目指す産科について「赤ちゃんを産んだお母さんが『また産みたい』と言ってくれるような、幸せを実感できる施設にしたい」と話した。理想と考えるのは「自然なお産」という。女性の「産む能力を引き出すこと」を軸に助産師、看護師を主体とした「医者付き助産院」のようなバースセンターを構想する。

 「妊婦さんから信頼され、魅力ある施設にするのが私の役割」と産科設置に強い意欲を見せた。【鈴木基顕】

(朝日新聞、長野、2008年9月10日)

****** 医療タイムス、長野、2008年9月2日

東御市民病院が婦人科外来を開設 9月から

 東御市は9月上旬をめどに婦人科外来を開設し、週1度程度の診察を始める。同市在住で上田市産院の非常勤医、木村宗昭氏が非常勤で勤務する。4月の市長選で、市内での産科開設を掲げ初当選した花岡利夫市長の公約に沿った格好。市は木村氏の常勤化に期待を寄せているが、同一地域内での産科医の”引っ張り合い”との指摘もあり、機能分散による地域の産科医療提供体制への懸念も広がっている。

 市は、市議会9月定例会に婦人科開設のための条例改正案と、検査機器購入費、施設改修費など350万円を計上する病院事業会計補正予算を提案する。

 市によると、婦人科外来開設は「産科開設に向けた第1歩」で、利用状況を勘案して診察日を増やすことも検討。来年度には、バースセンターを主体とする産科を設けたい考え。ただ、現時点で助産師など確保にめどは立っていないという。

 木村氏が東御市民病院の非常勤医となったことで、上田市産院での勤務は9月以降、従来の週3~4回から1回へ減る。上田市産院は、木村氏を除き院長の常勤医1人のほか、週3回と、月2回の非常勤医各1人の体制で、残る医師への負担は増す。

 上田市側は「婦人科外来は縮小せざるを得ないが、助産師外来は近く拡大する見込み、現体制で最大限の業務をこなしながら、分娩の扱いが減らないよう医師確保に努めたい」と話す。

 東御市側は、東御市民病院への木村氏の勤務は「本人の意思であり、2002年~04年まで市民病院で勤務していた」と説明するが、産科医を事実上、”引き抜かれた”形の上田市の母袋創一市長は「東御市側からは何の説明もない。現状で産婦人科機能が分散することはどうか」と懸念を示している。

(医療タイムス、長野、2008年9月2日)

****** 毎日新聞、長野、2008年9月2日

東御市:婦人科外来を開始 市民病院で今月中旬

 東御市はこのほど、今月中旬にも市民病院(同市鞍掛)で婦人科外来の診察を開始すると発表した。産科設置を4月の市長選の公約に掲げていた花岡市長は毎日新聞に「婦人科医を確保して受け入れ態勢を作るという第1ハードルを越えたばかり」と語った。

 市によると、当面は週1回程度の診察で、上田市産院の木村宗昭医師(63)が非常勤で勤務するという。利用者数を見ながら診察頻度を増やし、木村医師も常勤とする方向で計画を進める。来年度中に産科も開設し、助産師を中心とした院内助産院(バースセンター)から始めるという。

 市内での出生数は年間約270~280人。花岡市長は「それぞれ地元に帰って出産する人が半分近くいる。そういう人たちに対応できるよう、徐々に扱いを増やしていきたい」と構想を語る。

 さらに医師不足対策として、9月定例市議会で「市医学生等奨学金貸付条例」の新設案を提出する。学生に限らず研修医も対象で、将来的な医師の確保に努める構えだ。【大島英吾、福田智沙】

(毎日新聞、長野、2008年9月2日)

****** 信濃毎日新聞、2008年8月28日

東御市民病院、婦人科外来開始へ

 東御市は27日、市民病院(鞍掛)で9月中をめどに婦人科外来を開設し、来年度中には産科を設置、当面は助産師を主体としたバースセンター(院内助産院)から始める方針を示した。産科開設は4月の市長選で初当選した花岡利夫市長の公約。

 市によると上田市産院の非常勤医、木村宗昭さん(63)=東御市=が非常勤で勤務。当面は週1回程度の診察となる。

(信濃毎日新聞、2008年8月28日)

****** 信濃毎日新聞、2008年6月3日

上田市産院 移転改築へ 
市長が方針 「長野病院近くに」


 上田市の母袋創一市長は2日の市議会6月定例会の招集あいさつで、老朽化が進んでいる市産院(常盤城5)を移転改築する方針を示した。時期は「数年後には必要になる」とし、移転先は「地域の高度医療を担っている(国立病院機構)長野病院(緑が丘1)の近くが基本になる」と述べた。

 市は、産科医不足を背景に信大医学部が2005年、医師引き揚げ方針を示したのを受け、いったん市産院の廃止を打ち出したものの、存続を求める母親らの署名運動を受け撤回。その後のビジョンを示していなかった。

 母袋市長は取材に対し、長野病院の近くでの市単独の建設や、長野病院の敷地内や建物内への併設も「検討対象」と説明。移転改築に合わせ、危険の少ない正常出産を助産師が担う「院内助産院(パースセンター」の開設を検討するとの見通しも示した。

 上田市産院は1968(昭和43)年、現在地に移転。現在、ベッド数は27床で、常勤医1人、非常勤医2人、助産師17人、看護師・准看護師13人。07年度は上田小県地域の3分の1ほどに当たる669件の出産を扱ったが、昨年12月末の前院長の退職に伴い、本年度は500件を超える程度に減る見通しとなっている。

特色生かすため医師確保を

 上田市の母袋市長が移転改築の方針を示した上田市産院は、全国でも例がない産科単料の公立病院で、県内で唯一、国連児童基金(ユニセフ)などから「赤ちゃんにやさしい病院」の認定を受けている。移転後もその特色を生かすには、継続的な医師確保と、地域の高度医療を支える長野病院の体制強化が欠かせない。

 市産院は、へその緒がつながったまま裸の胸に赤ちゃんを預けてくれる「カンガルーケア」や、出産時に負担の少ない横向きや四つんばいの姿勢などを選べることから、特に自然分娩を希望する母親らの支持を得ている。

 産院存続を求めて署名運動をした斉藤加代美さんは、「市がこの地域のお産に責任を持つと宣言してくれたようで安心した」と改築方針を歓迎。一方で「産科医不足は深刻で、産院の良さを支える医師が今後も十分確保できるか、壁は高いと思う」と話す。

 母袋市長はこの日、取材に「古くて患者さんに不便をかけている状態の病院に、医師は呼びづらい」とし、改築と特色ある産院の取り組みをPRすることで、医師確保の「呼び水」とする意向を示した。

 産院を含め、上田小県地域の出産医療体制を保つには、地域で危険度の高い「ハイリスク出産」を受け持つ医療機関が不可欠。その役割を担う長野病院は産科医引き上げ問題題に直面している。

 派遣元の昭和大が8月以降も派遣自体は続ける方針を示したが、人数や期間は未定だ。母袋市長は市議会で「長野病院の医師確保にも全力で取り組む」とした。責任が一層重くなる。【祢津 学】

(信濃毎日新聞、2008年6月3日)

****** 信濃毎日新聞、2008年6月3日

東御市民病院改革プロジェクトチーム

 東御市の花岡利夫市長は庁内に市民病院改革プロジェクトチームを設置し、2日、初会合を開いた。4月の市長選で公約した市民病院の産科新設や小児科の充実、経営改善策について話し合う。花岡市長は9月定例市議会までに一定の方向性を示すよう検討を求めた。花岡市長は懸案の産科医確保に関しては、取材に対し「複数の産科医にアタックしている」と話した。

(信濃毎日新聞、2008年6月3日)

****** 毎日新聞、長野、2008年6月3日

東御市:病院改革PTを設置--初会合

 東御市は2日、市民病院への産婦人科開設などを目指して「病院改革プロジェクトチーム(PT)」を設置し、初会合を開いた。

 PTは五十嵐政孝副市長をトップに、市民病院長ら11人で構成。産婦人科医の確保や医師が1人しかいない小児科の拡充、累積赤字約5億2000万円(06年度末)に上る経営体質の改善などの調査研究を進める。

 9月ごろまでに一定の方向性を出す。【池乗有衣】

(毎日新聞、長野、2008年6月3日)

****** 信濃毎日新聞、2008年4月13日

東御市長に花岡氏が初当選…現職の土屋氏を破る

 任期満了に伴う東御市長選は13日投開票され、新人の会社役員花岡利夫氏(57)=無所属、田中=が、再選を目指した現職の土屋哲男氏(60)=無所属、新張=を破り、初当選を果たした。2002年の旧小県郡東部町長選、04年の初代市長選に続く3度目の対決となったが、有権者は市政の転換を選択した。

 花岡氏は態勢づくりが遅れ、立候補表明が3月初めにずれ込んだものの、有権者一人一人に訴える草の根型の手法を展開。市民病院の産科新設を柱に、医療費無料化の中学3年までの段階的拡大、市長退職金ゼロなどを主張、土屋氏との政策の違いを打ち出し、短期決戦で若い世代や女性層などに浸透した。

 土屋氏は昨年12月の市議会定例会で立候補表明。全市的な後援会組織や業界団体の支援を受けて先行した。実績を強調、図書館新設などへの継続的な取り組みを訴えたが、政策に新味が欠けたこともあり、運動が上滑りした。

(信濃毎日新聞、2008年4月13日)

***** NHKニュース信州、2007年12月15日

上田市産院、1月に助産師外来

 院長の退職に伴う医師不足で出産の受け入れを制限する方針を示していた「上田市産院」は、出産の受け入れ数をできるだけ維持しようと、助産師が医師の業務の一部を分担して医師の負担を軽減する「助産師外来」を来年1月から始めることを決め、近く上田市と協議して正式に決定する方針です。

 その結果、「上田市産院」は出産の受け入れ数をできるだけ維持するために、助産師が医師に代わって妊婦の検診などを行う「助産師外来」を来年1月から始めることを決めました。
具体的には、いま上田市産院で常時勤務している13人の助産師のうち、県外の助産師外来で研修の経験のある5人に産院の外来を担当してもらい、医師が出産に専念できるよう態勢を整えます。

 「上田市産院」は近く母袋市長と協議して、正式に開始時期を決めることにしています。

(NHKニュース信州、2007年12月15日)

***** 医療タイムス、長野、2007年12月13日

上小地域の産科医療「近接医療圏との連携で確保」

12月県会で渡辺衛生部長

 渡辺庸子衛生部長は12日、県会12月定例会の一般質問で、常勤産科医の引き揚げや退職で危機的状況に陥っている上小地域の産科医療体制について、「ハイリスク分娩に関しては、隣接する長野、佐久の両医療圏との連携を視野に入れ、行政や医師会、医療機関による医療圏を越えた調整を行い、産科医療を確保していきたい」との考えを示した。

 さらに、産科医療の集約化に対する見解を求められた渡辺部長は、「地域の産科医療の崩壊を防ぐための緊急避難的措置」とした上で、「現在の医師不足の中で数少ない産科医を複数の医療機関に分配、配置することは、より深刻な事態につながる恐れがある」と理解を求めた。いずれも、高村京子議員(共産党)への答弁。

(医療タイムス、長野、2007年12月13日)

****** 毎日新聞、長野、2007年12月13日

国立長野病院:産科医引き揚げ問題 長野や佐久と連携、産科医療確保を

 ◇県議会で衛生部長

 国立病院機構長野病院(上田市)で産科医の引き揚げが求められている問題で、県の渡辺庸子衛生部長は12日、「ハイリスクの分娩(ぶんべん)については、隣接する長野や佐久医療圏との連携を視野に入れ、行政や医療機関が協力し、医療圏を超えて上田地域の産科医療を確保したい」との見解を示した。同日開かれた県議会一般質問で、上田市・小県郡選出の高村京子議員(共産党県議団)の問いに答えた。渡辺部長は、県や上田地域の首長らが11日に産科医を派遣している昭和大病院(東京都)を訪問し、派遣継続を求める要請を行ったことも報告した。

(毎日新聞、長野、2007年12月13日)

****** 信濃毎日新聞、2007年12月12日

昭和大に医師派遣継続を要請 上田地域広域連合

 国立病院機構長野病院(上田市)の産科医を、派遣元の昭和大(東京)が引き揚げる方針を示している問題で、母袋創一・上田地域広域連合長(上田市長)は11日、昭和大病院の飯島正文院長を訪ね、派遣継続を求める要請書を提出した。会談は非公開。母袋連合長によると、飯島院長は「(昭和大病院の)足元がおぼつかない状態」として、派遣継続は困難との認識を示した。

 要請には、進藤政臣・長野病院長、桑島昭文・県衛生技監、勝山努・信大付属病院長らが同席した。母袋連合長は、長野病院が上田小県地域の中核的病院で、危険度の高い出産を担っていることなどを説明。同病院の産科医4人全員を派遣している昭和大に継続への理解を求めた。

 これに対し飯島院長は、昭和大病院が中核病院となっている東京・品川区と大田区でも産科医が不足しているとして「引き揚げに(上田地域の)理解を求めざるを得ない状況」と述べたという。4人のうち何人を、いつまでに引き揚げるのか-といった方針については説明しなかった。

 会談後、母袋連合長は「(医師を引き揚げる)強い意志を感じた」と話し、現在の4人の派遣を維持することは「極めて厳しい」との受け止めを示した。その上で、昭和大への働き掛けは引き続き続けるものの、他の医療機関に派遣を求めることも必要になる-との考えを示した。

(信濃毎日新聞、2007年12月12日)

****** 信濃毎日新聞、2007年12月12日

院内助産院設置を 上田市の有志が県会に請願

 上田市の母親らでつくるグループ「安心してお産と子育てができる地域をつくる住民の集い」(佐納美和子代表)は11日、正常出産を助産師主導で扱う院内助産院(バースセンター)の開設に支援を求める請願書を、賛同者5万240人の署名を添えて県会に提出した。開会中の12月定例会で審議される。

 上田小県地域では、国立病院機構長野病院(上田市)が今月に入り、産科医を派遣していた昭和大(東京)の医師引き揚げ方針を受け、新規の出産受け付けを休止。上田市産院も院長が年内で退職する意向を示すなど、産科医不足が深刻となっている。

 「集い」の桐島真希子副会長(32)=上田市材木町=は「どこで出産したらよいのか、妊婦はすごく不安に感じている」と話し、出産を支える仕組みづくりを強く訴えた。

 請願書と署名簿を受け取った服部宏昭議長は「少しでも安心できるよう、県会も取り組みを進めたい」と述べた。

(信濃毎日新聞、2007年12月12日)

****** 毎日新聞、長野、2007年12月12日

バースセンター:県議長に設立支援を請願 上田の住民団体、5万人分署名添え

 助産師が出産を扱うバースセンター(院内助産院)の設立を目指す上田市の住民グループが11日、県議会の服部宏昭議長を訪ね、設立への支援を求める請願書と約5万人分の署名を提出した。服部議長は「県議会としても憂慮しており、県と一緒になって取り組んでいきたい」と述べた。請願は開会中の12月議会で審議される。

 グループでは、バースセンターの設置への県の支援や、各地域で中心となる病院の医療体制充実、救急搬送システムの整備などを請願した。11月には上田市議会にも同種の請願を行った。グループ副代表の桐島真希子さん(32)は「一日も早く産む場所を確保してほしい」と訴えた。

 上田地域では、中核病院である国立病院機構長野病院で産科医全員の引き揚げが明らかになるなど、お産を巡る環境への不安が広がっている。【神崎修一】

(毎日新聞、長野、2007年12月12日)

****** 信州民報、2007年12月11日

上田地域広域連合  正副連合長会で協議

長野病院の産婦人科医引き揚げ問題
「できるだけ早く昭和大へ要請する」

 国立病院機構長野病院(上田市緑ヶ丘)から、派遣している産婦人科医師4人を全員を引き揚げる昭和大(東京都)の方針が明らかになったことから10日、上田地域広域連合正副連合長会では、長野病院の進藤正臣院長も同席し緊急の協議を行い、今後の方針を話し合った。

 同正副連合長は定例のもので、この日午前中に会議。正午から開いた記者会見で、母袋創一連合長=上田市長=は「地域の産科医療体制の確保が一番。この危機を乗り越えていく」とし、「全面的な協力体制でいくこうと、意思疎通を図った」と報告。

 責任部分についても触れ「言いにくいが、医師の人事権はどこのあるのか」とし、「長野病院は国立病院機構で高度医療を行う場所。国の医療機関にもかかわらず、このような状況でいいのか」と語った。

 さらに「今後は昭和大への要請をじかに行こう」としたが、具体的には調整中で、「まだ確定していない。1日もは早い段階で行動に移す」と答えることにとどめた。

 また県、信大にも要請していくとし、地元医師会、議会にも理解を求めていくことにした。昭和大への要請内容は具体的にはきまっていないが、同じ状態(4人体制)でお願いしたいとしている。

 医療確保のための支援については、広域副連合長の東御市、長和町、青木村の各首長ともに「財政的支援は惜しまない」とし、羽田健一郎・長和町長は「地域全体で考える問題」と答えた。また、長野病院の進藤院長も「昭和大に派遣継続をお願いするが、駄目だった場合、(医師確保の)働きかけをしていく」としたが、具体的内容は語らなかった。

(信州民報、2007年12月11日)

****** 信濃毎日新聞、2007年12月11日

昭和大に派遣継続要請を確認 産科医引き揚げ問題

 上田地域広域連合(連合長・母袋創一上田市長)は10日、上田市内で正副連合長会を開いた。国立病院機構長野病院(上田市)の産科医を、派遣元の昭和大(東京)が引き揚げる方針を示している問題で、近く連合として昭和大に派遣の継続を申し入れるとともに、他の医療機関からの産科医確保も検討することを確認した。

 会合は非公開で、上田市、東御市、小県郡長和町、青木村の4市町村長が出席。進藤政臣・長野病院長が経緯を説明し、対応を協議した。

 終了後の記者会見で母袋連合長は、国、県、信大などと連携し「難局を打開したい」と説明。昭和大への要請時期は調整中とした。

 一方、進藤院長は、昭和大以外の新たな派遣要請先を、幾つか念頭に置いている-と表明。上田小県地域の中核病院として産科機能を維持するためには「3人以上(の産科医)を確保したい」との考えを示した。

 昭和大は、長野病院の産科医4人全員を派遣しているが、来年春から段階的に引き揚げる方針。長野病院は今月3日から新規の出産受け付けを休止している。

(信濃毎日新聞、2007年12月11日)

****** 毎日新聞、長野、2007年12月11日

国立長野病院:産科医引き揚げ問題 

上田広域連合、国などに派遣継続要請へ

 ◇国、昭和大学に要請へ

 国立病院機構「長野病院」(上田市、進藤政臣院長)で産科医4人全員の引き揚げが求められている問題で、上田市など5市町村でつくる上田広域連合(連合長、母袋創一・上田市長)は10日、正副連合長会を開いた。会議では、広域連合として国や派遣元の昭和大学に対し、派遣の継続を求めていくことを確認した。

 この日の会議は、非公開で行われ、5市町村の首長に加え、進藤院長も出席した。会議後の会見で、母袋市長は「長野病院は公的な医療機関であり、このような状態になっていることをどうしてくれるのか」と国の責任を指摘した。

 同病院では、すでに先週から新規の分べんの予約を休止している。今後、分べんが休止すると年間約500件のお産の受け入れ先がなくなるほか、上小地域で異常分べんを取り扱う病院がなくなるため、出産環境が悪化することが懸念されている。【川口健史】

(毎日新聞、長野、2007年12初11日)

****** 信州民報、2007年12月9日

上田市産婦人科医会・宮下会長

安心安全のお産のため「前向きに取り組んでいく」

 上小地域には現在、産婦人科は長野病院、上田市産院と市内に二つの民間の産婦人科医院がある。その一つ、角田産婦人科内科医院(角田英弥院長、上田市山口)の昨年一年間の出産件数は、482件、今年は12月7日まで403と減少しているが、これは8月から11月まで医院の増改築で出産の受け入れを制限していたた


地方の医師確保策は?

2009年01月11日 | 地域周産期医療

コメント(私見):

地方の公的病院では、いくら努力しても、必要な常勤医師数をすべて自前でまかなうのは非常に困難だと思います。やはり、従来通り、医師供給源として、ある程度は大学病院に依存せざるを得ません。

産婦人科の場合は、いつお産になるか全くわからないので、分娩件数が多かろうが少なかろうが、24時間体制で誰かが常に病院の近辺に拘束されます。例えば、年間分娩件数が150件程度の施設だと、平均すれば分娩は2~3日に1件程度しかないので、分娩に備えてずっと病院内に張り付いていたとしても、実質何日もほとんど手持ち無沙汰のこともあるかもしれません。しかし、いくら仕事がなくても、いざという時に備えて病院から離れることができません。そして、いざお産が始まって、いよいよ産婦人科医の出番だと思って張り切っても、分娩経過が異常化した場合は、常勤産婦人科医1人だけでは十分に対応できず、人手が十分に整っている施設に救急車で母体搬送せざるを得ないかもしれません。

****** 読売新聞、群馬、2009年1月7日

小児科医13人引き揚げ

群大医会方針、9病院から

 群馬大が館林厚生病院(館林市)など関連病院への常勤医の派遣数の縮小を検討している問題で、同大小児科医会が6日夜に同大で開かれ、来年度は、同病院など最大で9病院から計13人を引き揚げることを決めた。県内では、最大で8病院の11人が引き揚げられ、うち館林厚生は、現在の2人から0人となるため、入院治療ができなくなる見通しとなった。

 ◆館林厚生、入院不可能に

 同医会によると、来年度の常勤医の派遣数は、館林厚生が2人減となるほか、公立富岡総合病院(富岡市)が3人から2人(1人減)、県立小児医療センター(渋川市)が13人から11人(2人減)、同大医学部付属病院が18人から16人(2人減)など。佐久総合病院(長野県佐久市)も、4人から2人になる。ほかの県内4病院については、常勤医の意向に未確定の部分があるため、公表を控えた。

 同医会には関連病院への派遣も含め、小児科医77人が所属。出産や開業などで3月末に離職者や常勤を外れる医師が十数人出るため、派遣先の縮小を検討していた。

 同日夜に記者会見した同大小児科の荒川浩一診療科長は「医会で、『苦渋の選択で、派遣できない』という現状を説明した。非常勤で補えるよう検討したい」と話した。

 一方、館林厚生のある邑楽館林地区の1市5町は、同大と県に約12万9000人分の署名を提出し、医師確保を依頼してきた。館林市の安楽岡一雄市長は「大学からの正式な話は伺っていない」とした上で、「署名の重みを真摯(しんし)に受け止めてもらえなかったことは大変遺憾。住民が不安を募らせることのないよう、今後も小児科が維持できるように全力で取り組む」とのコメントを出した。

(読売新聞、群馬、2009年1月7日)

****** 毎日新聞、群馬、2009年1月8日

医療過疎:/5 小児救急

 ◇勤務医減り崩壊寸前

 「急患です」。受話器を手に診察室に駆け込んできた看護師から年齢や簡単な症状を聞くと、医師は泣き叫ぶ子供に注射針を刺した。昨年12月の休日、渋川市にある小児専門病院「県立小児医療センター」。ここでは休日や夜間の時間外でも、待合室が静かになることはほとんどない。

 同センターでは休日の午前8時半~午後5時半を日直、平日も含め午後5時半~翌午前8時半を当直と呼ぶ。日・当直は、内科と外科をそれぞれ医師1人で対応する。この日、内科日直の江原佳史医師(28)は、午前中だけで下痢を訴えた心臓病の男児(2)ら3人を診察。検査も含めると1人の患者に1時間以上を要し、昼食時間も確保できなかった。「患者が多い時は水も飲めない。こちらが脱水症状になりそうな時もある」と苦笑する。

 こうした時間外の患者に対応する小児救急は「輪番」と呼ばれる当番制で、中毛、東毛、西毛、北毛の4地区ごとに担当病院を割り振ってある。北毛(渋川市、吾妻郡、利根郡)は06年4月、原町赤十字病院(東吾妻町)に小児科の常勤医が不在となって以来、同センターと利根中央病院(沼田市)の2院が輪番を担当。医師数や病院の規模から、8割を同センターが受け持っている。

 同センターの内科医は13人。このうち約半分を占める20~30代の若手医師は月に4~5日は日直か当直に入る。翌日も通常通りの勤務となるため、若手に疲労が蓄積していく。同センターは群馬大医学部付属病院と並び、重症患者を診る小児3次救急病院に指定されており、年を追うごとに業務は増える一方だ。

 それでも、同センターの医師増員は望み薄だ。背景には、勤務医不足の厳しい現状がある。県医務課によると、県内の小児科勤務医は06年末に115人、4年前と比べ19人減った。全体の医師数は微増しているのに、小児科や産婦人科などの勤務医は減少が目立つ。原町赤十字の例を引くまでもなく、小児救急の現場は危機的な状況だ。

 同センターの丸山健一副院長は「現状では勤務医は肉体的、精神的にきつく、若手の開業医志向を助長してしまう。専門性を高めて、勤務医の良さをアピールしないと今後、小児救急は本当に崩壊してしまう」と警鐘を鳴らす。

 県は08年度、県内の小児科、産婦人科、麻酔科で勤務医として働く意思のある大学院生と研修医に月15万円の奨学金を貸与し、実際に勤務したら返済を免除する制度を始めた。

 しかし、募集枠30人に対し応募はわずか1人。再募集への反応も鈍く、問題の深刻さを際立たせている。

(毎日新聞、群馬、2009年1月8日)

****** 毎日新聞、群馬、2009年1月9日

医療過疎:/6 産婦人科医

 ◇地域から消える産声

 長野原町応桑の主婦、安済真由美さん(33)の大きく張ったおなかには、4人目の赤ちゃんが宿る。これまでの3人と同様に、同町の西吾妻福祉病院に入院して出産に備えている。「何かあれば家族が来てくれる。近くの病院は安心できる」

 ところが、産婦人科医の不足が進んだ地域では、かつて当たり前だった「自宅近くでの出産」や「里帰り出産」に、黄信号がともっている。

 吾妻郡では05年4月、それまで中心的な存在だった原町赤十字病院(東吾妻町)から、産婦人科の常勤医がいなくなった。その後は西吾妻福祉病院が、常勤医のいる唯一の公立病院となったが、その数はわずか1人。倉澤剛太郎医師(39)が開業医のけんもち医院(中之条町)と連携をとりながら、年間100-150人の分娩(ぶんべん)を担っている。

 常勤医が1人になった07年4月から、倉澤医師に休みはほとんどない。分娩の3分の2は時間外だ。分娩が始まれば携帯電話で呼び出され、初産だと丸一日かかることもある。2人の分娩に同時に立ち会ったりもする。相談できる医師がいないため、不安になることも少なくない。

 「辞めたいと思うこともあった。でもここで産みたいという人の声を無視できない」。常勤医が1人補充される今春までの辛抱と言い聞かせてきた。

 県内の産婦人科の勤務医は06年末で72人と、4年前から17人減った。勤務の過酷さに加え、訴訟に発展することもある出産時のリスクを懸念する若い医師が、開業医や他の診療科に流出してしまっているのが現状だ。

 地域による偏在も目立つ。前橋医療圏の32人に対し、富岡は4人、吾妻はわずか2人。郡部の数少ない分娩台が埋まった時、都市部への搬送にどのぐらい時間がかかるか。一刻を争う場合も想定され、妊婦の不安も募る。

 倉澤医師は「地域とお産は切っても切れない。特殊な診療科になってしまった産婦人科を、総合医やかかりつけ医と連携させられれば」と、地域医療と産婦人科の融合の必要性を指摘する。

 だが、即効性のある対策が見当たらないのも事実だ。県医務課は「報酬も含め産婦人科の労働条件を改善し、やる気のある医師を地道に集める以外にとるべき方法はない」と話す。

(毎日新聞、群馬、2009年1月9日)

****** 毎日新聞、群馬、2009年1月11日

医療過疎:/8 群馬大

 ◇悪循環陥る研修制度

 「住民の命を守る最後のとりで。なんとかお願いしたい」

 08年12月、館林市の安楽岡一雄市長らが群馬大を訪れ、館林厚生病院の小児科医確保を要望した。群馬大小児科医会が同病院への常勤医2人の派遣を08年度末で取りやめ、同病院の小児科常勤医が不在となる恐れが表面化したためだ。

 群馬大は診療科ごとに出身医師や協定先の病院の医師で「医会」を構成し、人員が手薄な地域の病院に医師を派遣している。群馬大自身に余力がなくなれば当然、取りやめざるを得ない。その大きな要因として、04年度に始まった臨床研修制度の存在が指摘される。

 この制度では研修先を研修生が自由に選べるため、内容が決まっている初期研修は給与や環境面が良い首都圏の病院に人気が集中した。群馬大では03年度に104人いた新規研修医は、08年度に27人にまで落ち込んだ。

 初期で集められないと、後期研修医の確保は難しく、さらには、その後の勤務医減少につながる懸念もある。館林厚生病院の問題は、あくまで一例に過ぎない。

 県内の山間地は、へき地診療所や開業医の医師が支えている。ただ、彼らの活躍は、何かあればすぐに患者を転送できる地域の中核的な病院のサポートがあってのものだ。群馬大の弱体化は、そのまま地域の医療水準に跳ね返る。

 県のへき地医療対策協議会の委員でもある群馬大の小山洋教授(公衆衛生学)は「今の状況では、若い医師に地域医療をやらせる余力がない。地域で総合医をやりたいという意思のある若手は他の病院を選んでしまう。そうすると、人手不足は悪化する」と悪循環を指摘する。

 小山教授が描く理想は、群馬大が県内の地域医療を担うことだ。「へき地医療も自治医科大学に頼らず、その地域が自分たちの手でやるのが望ましい。そのためにも、群馬大は医師確保を進めなくてはならない」と話す。

 医師不足を招いたとの批判もある臨床研修制度だが、ここにきて見直しの動きもある。厚生労働省と文部科学省は、2年の研修期間を1年に短縮し、2年目から将来専門とする診療科に入るという案を専門家による検討会に提示した。

 導入から5年。制度改正の大きな波に、地域の医療は大きく揺れ動いている。

(毎日新聞、群馬、2009年1月11日)

****** 産経新聞、2009年1月9日

群大病院、内科医5人引き揚げを利根中央病院に打診

 群馬大学医学部付属病院(前橋市)が、利根中央病院(沼田市)に派遣している内科医5人について、今年度限りの引き揚げを打診していることが8日、分かった。消化器系担当の常勤医が4月以降、不在となる恐れがあり、同病院は周辺病院との調整を急ぐ。医師派遣をめぐっては、群大病院が県内外に派遣する常勤小児科医を11人縮小する計画をまとめたばかり。深刻な医師不足の実態がさらに浮き彫りになった。

 利根中央病院によると、昨年10月、群大病院の内科医会から、消化器系を担当する医師ら5人の引き揚げを打診された。利根中央病院は今年度末、別の内科医3人が離退職予定。現在17人の内科医が、院長を含め9人まで減少するという。

 同病院は、利根郡や沼田市で緊急搬送される患者の半数以上に対応。内科では外来患者や約130人の入院患者を抱えるが、今回の打診を受け、一部の転院などを検討。引き揚げが実施されれば、時間外診療の縮小や午後の外来受け付け廃止に追い込まれるという。

 同地区の救急業務を運営する利根沼田広域市町村圏振興整備組合は「山間地域などの救急医療の根幹にかかわる問題」とし、派遣維持を求めていく方針。

(産経新聞、2009年1月9日)

****** 毎日新聞、広島、2009年1月4日

働く:第1部 逆風の中で/1 産婦人科医

 急激に悪化した経済状況の中、労働環境は逆風の中にある。解雇、低賃金、長時間労働、人手不足、経営難……。厳しい環境の中で人々は今、何のために働くのか。さまざまな「働く現場」をルポすると同時に、人々が生きる姿を通して「働く」意味を考えたい。

 ◇出産・子育て、悩む女医

 「元気に育ってますよ」。妊婦の腹にエコーを当てると、画面に赤ちゃんの成長が映し出される。「ほっとしました」。妊婦が柔らかな表情で答える。広島大学病院(南区)の産科婦人科で働く中前里香子さん(35)=中区=の表情もほころぶ。産科婦人科は女性医が多く、医師不足が深刻だ。

 中前さんは、07年6月に長女を出産し、1年間の産休・育休を取得。現在は、外来・入院患者を診察すると同時に、新生児脳障害の研究に取り組む。

 県内の病院で勤務していた04年、整形外科医の夫と結婚。当初から仕事を続けようと考え、06年に広大病院に移って以降も旧姓の「島筒」で働く。今は子育てと仕事の両立に悩む。

 出産前は当直勤務があった。深夜、仮眠中に入院患者の胎盤はく離が。赤ちゃんの心拍数が低下した。緊急手術だ。中前さんが帝王切開し、赤ちゃんを取り出した。「夜の緊急手術はよくあります」

 復帰後は当直免除だが、午前1時まで東区の実家に子どもを預けて働いたこともある。腹痛を訴える急患が来院、午後9時に緊急手術が決まった。手術が終わると、日付けが変わった。一息つく間もなく、携帯電話で「もう寝ついた?」。子どもを迎えに走った。病院は実家の近く。「自分はまだ恵まれている」と思う。

 高齢出産や低体重児など医療高度化が、訴訟リスクを高めた側面もあり、現場に無言の圧力を加える。

 近年、医師の国家試験合格者の3割が女性だ。小児科や産婦人科だと、20~30代前半の約半分を占める。県医師会によると、出産を機に女性医師の半数が辞職や休職、パートなど勤務形態を変える。医師不足で産休は取りにくく、退職する人も多いという悪循環。全国の産科救急病院で患者を十分に受け入れることができない原因の一つが、女性医師の早期退職。一方で、患者すべてが女性ということもあり、女性産婦人科医は患者に好評だ。

 「先生の名前を付けていいですか」。妊婦検診から出産まで担当した患者の一言が忘れられない。中前さんの職場は“いのち”の現場だ。生命の誕生に立ち会い、患者と喜びと苦しみを共有する。死にも立ち会った。障害を持って生まれた赤ちゃん、がんを患った女性……。

 「新しいことを知ったり、目標とする先輩に近づいていく。それがやりがい」。自分の成長が分かるのが働く喜びだ。

 気持ちがへこんだ時、携帯電話の待ち受け画面を見る。長女がほほ笑む。保育園に迎えに行けば、待ちきれずに走って抱きついてくる。その姿で、仕事のストレスはすべて癒やされる。【大沢瑞季】

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 ◇データ

 県によると、県内の産科・産婦人科医で1カ月の当直回数が10日以上が34・1%だった(06年)。県内の産科・産婦人科医は229人(06年)で、98年の279人に比べて約2割減少。県内4市6町では、分娩ができる病院がない。

 県内の女性医師数は990人(06年)で全体の約15%。育児休業制度や短時間勤務、院内保育所の整備などの支援策はあるが、現実は制度はあっても利用しにくいという。

(毎日新聞、広島、2009年1月4日)


周産期医療の現場

2009年01月06日 | 地域周産期医療

コメント(私見):

周産期医療の進歩により、分娩の安全性が以前と比べて著しく高まりましたが、現在でも周産期医療の現場では、一定の頻度で母児の異変が発生しています。時には、どのように対応しても母体死亡や胎児死亡・新生児死亡が避けられない事例も起こり得ます。その事実を国民全体の共通の認識とする必要があります。

現在の日本では、周産期医療に関わる産科医や新生児科医の頭数が圧倒的に不足していますが、もしも、『お産は安全なのが当たり前で、お母さんや赤ちゃんに不幸な事が起これば、何か医療ミスがあったに違いない!』 という認識が浸透して、分娩の現場で何か異変が発生するたびに、たまたま現場に居合わせたスタッフの責任を厳しく追及する風潮がはびこれば、産科医や新生児科医が医療現場からどんどん離れるばかりで、現場の人手不足はいつまでたっても解消されません。

この問題を一病院や一自治体の努力だけで解決しようとしても、絶対に無理だと思います。

根本的には、産科医や新生児科医を大幅に増員しないことには問題は解決しませんが、産科医や新生児科医は急には増やせませんから、当面の緊急避難的対策としては、分娩施設の集約化をさらに進めて、産科医や新生児科医たちがこれ以上疲弊しないような職場環境に変えていく必要があると思います。

また、医療秘書を大幅に増員して、できれば各医師に一人づつ医療秘書を配置し、現場の医師達を雑務から解放することも非常に有効な対策だと思います。

さらに、国策として、若い医学生や研修医たちがこの分野を一生の仕事として選択しやすい環境に変えて、これから周産期医療の現場で活躍する人材を育成することが急務だと思います。

****** 読売新聞、長野、2008年12月16日

新生児対応9病院で、人材育成が急務

【要約】 県内のNICUは、県立こども病院(安曇野市・21床)、信州大病院(松本市・6床)、長野赤十字病院(長野市・9床)、飯田市立病院(飯田市・3床)の4か所。このほか、新生児科医が少なく、24時間常駐できないなど、厚生労働省の施設基準は満たしていないものの、NICUと同等の設備をもつ病室が、県厚生連佐久総合病院(佐久市・12~15床)、波田総合病院(波田町・6床)、諏訪赤十字病院(諏訪市・6床)、県厚生連北信総合病院(中野市・5床)、県立須坂病院(須坂市・4床)にある。夜間の緊急時には医師を呼び出すなどして、NICUに準じた役割を果たしている。

(読売新聞、長野、2008年12月16日)


長野病院 出産受け付け休止から1年 (信濃毎日新聞)

2008年12月30日 | 地域周産期医療

コメント(私見):

上田市を中心とした上田小県(うえだ・ちいさがた)地域は、上小(じょうしょう)地域とも呼ばれ、長野県の10医療圏(佐久、上小、諏訪、上諏訪、飯伊、木曽、松本、大北、長野、北信)の一つを形成しています。

この上小医療圏(人口:約22万人、分娩件数:約1800件)は、長野県の東部に位置し、上田市、東御(とうみ)市、青木村、 長和町などで構成されています。

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現在、上小医療圏で分娩に対応している医療機関は、上田市産院、上田原レディース&マタニティークリニック、角田産婦人科内科医院の3つの一次施設のみです。ハイリスク妊娠や異常分娩は、信州大付属病院(松本市)、県立こども病院(安曇野市)、佐久総合病院(佐久市)、長野赤十字病院(長野市)、篠ノ井総合病院(長野市)などに紹介されます。分娩経過中に母児が急変したような場合は、救急車でこれらの医療圏外の高次施設に母体搬送されることになり、医療圏内に母体搬送を受け入れる産科二次施設は存在しません。また、産婦人科医は産科だけでなく婦人科疾患にも対応してますから、この地域で、婦人科の急性疾患や良性・悪性疾患で手術などの治療を要する場合は、ほぼ全例で隣接医療圏の施設に紹介されているものと思われます。

2005年、当時の信州大教授が、このまま放置したのではこの地域の周産期医療体制が崩壊する可能性が高いことを危惧され、(2つの大学から派遣されている)長野病院と上田市産院の産婦人科医を集約し、この地域の周産期医療体制を強化する決断をされました。

当時の状況であれば、この2施設のスタッフを集約すれば計6名の産婦人科医からなる非常に強力な産婦人科の二次医療チームを構成することも可能でした。その構想の実現に向けて多くの人が努力しましたが、諸事情により残念ながらその構想は現実化しませんでした。

地域の産婦人科二次医療体制を支えていた多くの人がこの地域から去ってしまった今となっては、この地域に産婦人科二次医療チームを再び創設するには、ベテランから若手を含めて少なくとも4~5人の産婦人科医を日本のどこかから連れてくる必要があります。しかし、現在の全国的な産科医不足の状況では、それは非常に困難だと言わざるを得ません。

当面の現実的な方策としては、隣接医療圏の周産期医療体制をより強化して、地域の周産期医療体制の崩壊がこれ以上拡大しないように努力するしかないのかもしれません。

参考記事:

上田市周辺の周産期医療体制について

東御市民病院が婦人科外来を開設

長野病院 来年3月末で産科医不在に

長野病院の全産科医派遣の昭和大、引き揚げ方針

産科医療 崩壊の危機

迫る限界 お産の現場

産科医療に関する新聞記事

「バースセンター」構想 上田の母親ら「集い」発足 (信濃毎日新聞)

東信地域の厳しい産科医療の状況について

上田でお産の課題話し合う (南信州新聞)

読売新聞: 現実にらみ 産院存続運動

南信州新聞社:「院内助産院」勧める意見も

医療タイムス社:上田市産院・廣瀬副院長 産科の集約化を非難

公的病院での分娩再開を求める運動について

読売新聞: 深刻な産科医不足 集約化加速

****** 信濃毎日新聞、2008年12月29日

長野病院 出産受け付け休止から1年

医師確保 続く苦闘

 上田市の国立病院機構長野病院が、昭和大学(東京)から産科医の引き揚げを通告され、新たな出産の受け付けを休止して1年。4人いた産科医は順次引き揚げられ、今年8月からは残った1人の医師が婦人科の外来診療のみを担う。病院や市は医師確保に向けた苦闘を続けているが、産科再開の見通しは立っていない。一方で住民側からはリスクの高い「飛び込み出産」を減らす呼び掛けなど、地域医療を支えようとする動きも生まれている。【袮津学】

 「自分の周りでも、佐久総合病院(佐久市)まで通っている妊婦がいる。普通だとは思えない」。今月14日、上田市民有志でつくるグループが、地域医療をテーマに開いた意見交換会。参加者から切実な声が上がった。

 上田小県地域の医療機関での出産は年間2千件ほど。長野病院は、危険度の高い「ハイリスク出産」を中心にこのうち5百件弱を担ってきた。

 同病院が出産受け付けを休止したのは昨年12月3日。休止に伴う影響について明確なデータはない。市内には民間医療機関や市産院があるが、ハイリスクの妊婦は県厚生連の佐久総合や篠ノ井総合病院(長野市)に通うケースも少なくないとされる。

 市や市内の病院によると、地域ではこの1年余、妊婦が複数の病院から受け入れを断られ、重篤な事態に陥るなどの事例は表面化していないものの、市民の不安は根強い。

 「この1年間で、全国の17大学を訪ね、産科医派遣を直接依頼した」。長野病院の進藤政臣院長は懸命の努力を明かす。しかし、全国的な産科医不足の中で、どの大学も新たに派遣する余裕はない。昭和大は現在1人残る産科医についても、来年4月以降は引き揚げる方針だ。

  ◇・・・・・・・・・・・・・◇

 短期的な解決の糸口が見つからない中で、病院や行政は将来の医師確保につなげようと模索を続けている。

 常勤麻酔科医の確保も課題となっている長野病院は今年、病院の「グランドデザイン」をまとめた。現在35人前後の医師数を60人台まで増やすなど、約5年先に目指す病院の姿を示すことで、医師に勤務を呼び掛ける狙いがある。11月に神経内科、12月には外科の医師が1人ずつ増えるなど、明るい兆しも見え始めた。

 市は来年1月、医学生や研修医、医師に資金を貸与し、指定する医療機関に一定期間勤めれば、返済を免除する制度を始める。上小の5市町村でつくる上田地域広域連合も、長野病院の産科医や麻酔科医らに研究費を支給する制度を導入する予定だ。ただ、市の大井正行健康福祉部長は「市などが直接できる支援には限界がある」と漏らす。

 国は来年度、全国の大学医学部の定員を計693人増員。信大は5人増えて110人となる。大学病院の研修医不足の一因とされる臨床研修制度も見直す方針だが、効果はまだ不透明だ。

 「医療を社会インフラととらえ、どの地域でも一定水準を保つため医師を配置する仕組みがないと、地方の病院にとっては非常に厳しい」。進藤院長は訴える。

  ◇・・・・・・・・・・・・・◇

 今年5月、上田市の母親らでつくるネットワーク「パム」は、妊婦に定期的な健診を呼び掛ける名刺大のカードを作った。市医師会と上田薬剤師会の協力で、薬局で妊娠検査薬を買う人に配っている。妊婦健診を受けていないと、危険な兆候があっても備えが取れず、妊婦、産科医双方のリスクが大きく増す。こうした「飛び込み出産」を減らす狙いだ。

 11月には、長野病院の地元地区住民らでつくる「西部地区を考える会」が「かかりつけ医をさがせ」と題する住民向けの連続講座を始めた。住民がかかりつけの開業医を持つことは、一部の病院に過大な負担がかかるのを避ける効果があるとされる。

 講座では初回、市の健康推進課長らが救急医療の現状などを紹介。その後も、神経内科や皮膚科の医師らを招き、それぞれの分野の病気についての知識を深めている。

 産科をめぐる「危機」に地域が向き合ったこの1年。住民自身が当事者として問題を考える動きは広がりつつある。会の代表、鈴木永さん(54)はこう話した。「医療機関や行政に医師確保を求めるだけでなく、住民も一緒にできることを探すきっかけにしたい」

上田小県地域の周産期医療 長野病院の出産受け付け休止後は、上田市産院と同市内の民間の2医療機関が担う。このうち市産院は2005年8月、信大医学部の医師引き揚げ方針に伴い市が廃止を検討したものの、存続を求める運動が起き、06年1月に存続が決定。今年6月には市が移転・建て替え方針も示した。また、隣接する東御市は09年度、市民病院に院内助産院開設を目指している。

(信濃毎日新聞、2008年12月29日)


埼玉県の周産期医療の現場

2008年12月27日 | 地域周産期医療

****** 東京新聞、埼玉、2008年12月23日

周産期医療 現場からの報告<上> 疲弊する医師

 「二十四時間、三百六十五日の周産期母子医療センターとは名ばかり。それでも補助金をもらっているのかと問われれば、今すぐにでも県に指定返上願を出す用意はある」

 本紙が県内の各周産期母子医療センターに周産期医療の現状をアンケートをしたところ、深谷市の深谷赤十字病院からの回答には悲痛な現場の叫びが書かれていた。同病院は県北地域で唯一、地域周産期母子医療センターに指定されている。当直を二人体制にしたいが常勤医師不足でままならない。「センターとして機能しているのは平日の日勤だけ」という。

 県内の周産期医療は、設備が充実しリスクの高い救急医療ができる総合周産期母子医療センターに指定されている埼玉医大総合医療センターと、産科と小児科を併設し比較的高度な医療ができる地域周産期母子医療センター五カ所の計六医療機関が中核を担う。来年度には地域センターが一カ所増える見通しだ。

 地域センターでは常勤医師は五人が多く、休日夜間の当直体制は多くが一人で対応している。埼玉医大総合医療センターは四人で当直しているが、それでも「三十六時間勤務はざら」(関博之教授)という。

 厚生労働省の二〇〇六年の調査では、県内の産科医は出産適齢人口十万人当たり二七・六人と全国で二番目に少ない。施設面では今年四月一日現在、人口七百万人で総合センター一カ所、地域センター五カ所だが、東京都は人口千二百万人で総合九、地域十三、人口二百万人の栃木県は総合二、地域八。県内の医療資源がいかに貧困かが分かる。

 「行政は、新生児集中治療室(NICU)と総合周産期母子医療センターを充足するための対策を放置している。妊婦に『野垂れ死にしろ』と言っているに等しい」と話すのは、埼玉医大病院(毛呂山町)の岡垣竜吾准教授。

 県はNICUの増床を目指すが、医師不足で既存のNICUの運営すら厳しいのが現状といい、同病院の板倉敦夫教授は「設備を充実してもマンパワーが追いつかない。医師の養成はお金ではカバーしきれない」と、効果を疑問視する。

 関教授は県内の施設、医師数不足を考えると「これまで救急の妊婦の死亡例が県内でなかったのは奇跡だ」と話した。ある関係者はつぶやいた。「厳しい勤務で医師が次々に辞めている。県内六カ所の周産期母子医療センターで、撤退する病院が出てくるかもしれない」

       ◇

 全国で周産期医療が崩壊の危機に瀕(ひん)している。もはや、一医師や一病院の努力で患者の命を守ることができる状況は超えており、国全体で医療を立て直さなければならないところまで来ている。一方で、救急搬送で妊婦の受け入れ拒否が各地で問題化するなか、県内では救命が必要な妊婦を原則受け入れる母体救命コントロールセンターが二十四日にスタートするなど、新しい取り組みも始まりつつある。県内の周産期母子医療の現状と課題を探る。

(東京新聞、埼玉、2008年12月23日)

******* 東京新聞、埼玉、2008年12月24日

周産期医療 現場からの報告<中>母体救命センター

 「脳内出血の妊婦が次々に受け入れを断られ死亡した東京のような事故は、県内で絶対に起こしたくない」

 川越市鴨田辻道町の埼玉医科大総合医療センター。県幹部と同医療センター幹部が今月十二日、県内での母体搬送をどのようにすべきか、最終的に詰めていた。

 この時、県が本年度中に設置を予定していた「母体搬送コントロールセンター(仮称)」構想は暗礁に乗り上げていた。「だがいま何もしないわけにはいかない」という認識では一致。命が危険な妊婦を基本的に必ず受け入れる「母体救命コントロールセンター」の設置が正式決定した。

 県は当初、一般の産科では扱いきれないハイリスク分娩(ぶんべん)時の安全確保のため、救急搬送が必要な母体の受け入れ先を調整する母体搬送センター設置を計画していた。産科医が母体を診ながら受け入れ病院を探しているのでは医師に負担がかかる。同センターが病院探しを担当し、搬送先が決まるまで医師は母体への対応に集中できるシステムをつくろうとしていた。

 県の構想は、同センターに助産師が詰め、医師から病状を聞いた上で受け入れ先を決めるというもの。七月ごろの稼働を念頭に、五月からは医師会とも協議を重ねた。ところが医師らからは「母体の命にかかわる病状を助産師が判断できるのか」という反発も。一方で医師が詰めるとなると「ただでさえぎりぎりの医師。もう業務は増やせない」という意見も出た。

 ずるずると年末を迎えた。「少なくとも東京のようなケースは避けたい」との思いから、たどり着いたのが母体救命センターだ。

 総合周産期母子医療センターと高度救命救急医療センター、ドクターヘリ拠点施設の三つを兼ね備える埼玉医大総合医療センターと県が、高度救命救急と周産期医療の双方をカバーする仕組みをつくることで考えが一致した。

 ただ、同医療センターも医師数がぎりぎりの状況で新生児集中治療室(NICU)も十分とは言えない。高度医療の不必要な患者まで搬送されれば業務がパンクすることは必至だ。

 県は十六日以降、医師会など関係機関に頭を下げて走り回り搬送基準の徹底などを求めた。「まずかかりつけ医をつくってほしい。そうでないと、病状を把握して正確な搬送ができなくなる」と県民にも呼び掛ける。

 母体救命センターの運用開始を二十四日に控え、同医療センターの関博之教授の表情は厳しいまま。「何でも『命にかかわります』などと言って送ってこられても困る。そんなことが一回でもあればすぐやめる」

(東京新聞、埼玉、2008年12月24日)

******* 東京新聞、埼玉、2008年12月25日

周産期医療 現場からの報告<下> 意識改革の必要性

 「周産期医療は駄目になっているということを知ってほしい。そこからスタートしないと崩壊は止まらない」

 川口市立医療センターの栃木武一・病院事業管理者が話すように「現状を知ってほしい」という、医療関係者の声は共通する。

 深谷赤十字病院の担当者は「受け入れ拒否という言葉がセンセーショナルに言われると、私たちが身を粉にして頑張っている窮状への無理解に思えて残念。『私も疲れ果てた。やめさせていただきます』と言うしかなくなる」とする。

 埼玉医科大総合医療センターの関博之教授も「お産は絶対に安全と言い切れない。医師が夜も寝ずに社会的使命を持ってやっていることを理解してほしい。産科医を目指す医学生は少なくないのに、批判ばかりされると、産科医を避ける人が多くなる」と訴える。

 では、周産期医療の立て直しには何が必要なのか。関教授は、施設や人などの医療資源を増やすための財源確保と、広域的な取り組みを挙げる。

 「日本の実質的な医療費は米国の半分。高度医療など医療には金がかかる。財源をどう捻出(ねんしゅつ)するか、国民的議論をすべきだ。さらに、限られた資源を有効活用するため、東京を中心に周辺の県を含めてやりくりすべきだ」

 後者については、埼玉、東京、千葉など四都県で新たな取り組みが始まりつつある。県境を越えて患者の行き来が多い地域で搬送などに連携しようという「地域医療福祉コンソーシアム」構想だ。

 だが周産期に限れば、四都県とも限界に達しているのが現状。医療資源の確保という道筋が付かない状態では、どこまで実現できるかは未知数だ。

 さいたま市立病院の担当者は「救急・救命センターや周産期母子医療センターなど、国や県が形だけをつくり、維持管理は現場に丸投げ。医師・看護師を充足させる財政措置が伴わないと、すべて絵に描いたもちになる」と指摘する。

 医師や設備がそろっても、受け入れ拒否は起こり得るという指摘もある。妊婦健診を未受診だったり、かかりつけ医がいない場合、母体や胎児の状態が分からないといい、産科医は「出産時の事故の可能性が捨てきれず、受け入れを断らざるを得なくなる」と口をそろえる。

 川口市立医療センターの栃木病院事業管理者は行政から国民までの意識改革を求める。

 「老人医療は騒ぐが周産期医療にかける費用はあまり注目されない。子どもは国の宝、すべての住民が平等に周産期医療を受ける権利がある。国や国民が考えを今すぐに改めないと、周産期医療の未来、ひいては国の未来が危ない」

【萩原誠、柏崎智子、山口哲人】

(東京新聞、埼玉、2008年12月25日)


長野県、岩手県の周産期医療の状況

2008年12月25日 | 地域周産期医療

****** 朝日新聞、長野、2008年12月23日

ドクターカー、出動年270回 こども病院

 こども病院では93年の開院当初から、「ドクターカー」が活躍している。医師と看護師が同乗し、新生児を温める保育器が備わった救急車だ。出動は年間約270回。中村センター長は「ドクターカーなしに、長野の周産期医療は機能しない」と話す。

 12月のある日の午前9時。ドクターカーが信大病院に向かった。前日に同病院で生まれた男児に心疾患があることがわかり、受け入れの依頼があったのだ。男児は1600グラム余り。低出生体重児は温めながらでないと運べない。

 車内で男児の状態についての書類を確認しながら、廣間武彦・新生児科副部長は「安定していると聞いている。信大の先生が処置をしてくれたからこそ」と話す。

 20分弱で信大病院に到着。台車で保育器を運びながら、4階のNICU(新生児集中治療室)へ向かった。

 医師と看護師合わせて10人ほどが待ち構えていた。いくつもの管につながれた赤ちゃんが横たわっている。「呼吸数は? 血圧は?」。廣間医師が信大の医師らに矢継ぎ早に尋ねる。「顔見知りだからこそ、スムーズに引き継ぎができる」と周りの医師が教えてくれた。保育器に移すため、看護師が管を抜き始めると赤ちゃんが消え入りそうな声で泣いた。3人がかりで保育器に移しNICUを出た。

 午前10時40分、こども病院に到着。3階のNICUには循環器科、放射線科の医師らが既に待機していた。手際よくレントゲン撮影をした後、心臓の超音波検査をした。

 この直前、塩尻市内のある病院から新生児の受け入れ依頼が入った。ドクターカーを当初使う予定だった母親の搬送を急きょ通常の救急車に切り替えた。臨機応変に対応することで、「どんな状況でも基本的に受け入れる」と廣間医師は話した。

(朝日新聞、長野、2008年12月23日)

****** 読売新聞、長野、2008年12月16日

新生児対応9病院で、人材育成が急務

 札幌市で昨年11月、緊急搬送された未熟児が7病院で受け入れてもらえず、その後死亡したケースなどで、「新生児集中治療室」(NICU)の不足という問題点が浮かび上がった。県内にはNICUと、それに準じた施設が計9か所あり、県健康づくり支援課は「この9病院で責任をもって受け入れる態勢になっている」と説明している。

 県内のNICUは、県立こども病院(安曇野市・21床)、信州大病院(松本市・6床)、長野赤十字病院(長野市・9床)、飯田市立病院(飯田市・3床)の4か所。

 このほか、新生児科医が少なく、24時間常駐できないなど、厚生労働省の施設基準は満たしていないものの、NICUと同等の設備をもつ病室が、県厚生連佐久総合病院(佐久市・12~15床)、波田総合病院(波田町・6床)、諏訪赤十字病院(諏訪市・6床)、県厚生連北信総合病院(中野市・5床)、県立須坂病院(須坂市・4床)にある。夜間の緊急時には医師を呼び出すなどして、NICUに準じた役割を果たしているという。

(読売新聞、長野、2008年12月16日)

****** 朝日新聞、岩手、2008年12月22日

周産期医療 県内の現状は

 東京で、脳出血を起こした妊婦が8病院から受け入れを断られた末に死亡した問題は、周産期医療が抱える深刻な課題を浮き彫りにした。産科医、小児科医とも、単位人口あたりの医師数が全国最低水準の県内ではどうなっているのか。母親と赤ちゃんの命を守る現場の取り組みを岩手医大准教授・福島明宗医師(50)に聞いた。

    ◇

 ――県内で搬送依頼のあった妊婦が受け入れられない事例はありましたか

 岩手は東京と違い、県土が広い上に病院が少ないですから、我々が受け入れを断ったらその妊婦はもう行くところがなくなってしまう。「たらい回し」はあってはならないし、あり得ません。

 ――ベッドが満床だったり当直医が対応できなかったりする事態はないのですか

 岩手医大の場合、県内のいくつかの大きな病院と役割分担して、診る症例の基準をある程度決め、地域で完結する症例は地域で完結するようにしています。

 患者の適切な搬送振り分けを行うため、搬送の必要な症例が発生すると、患者の情報
を搬送元の医師から医大に送ってもらう。症状を判断し、我々の方で受け入れ可能な近くの病院を探して搬送元と搬送先の橋渡しをしています。

 医大で診る必要がなければ、最寄りの病院で受け入れてもらうことで、医大のベッドが満床で受け入れのできなくなる事態を回避する。我々はこの仕事を「搬送コーディネート」と呼んでいます。

 東京の問題は、このコーディネートが機能しなかったということです。

 ――搬送依頼はどのくらいあるのでしょうか

 ここ数年、岩手医大の受け入れ件数は年間120件前後ですが、総合周産期母子医療センターに指定され、県内各病院とのネットワークを作った直後の02年ごろは約170件でした。当時は、各病院に症例を振り分けずにすべて医大で引き受けていたので、大まかには、差し引き年間50件くらいをコーディネートしているのだと思います。

 ――当直はどの程度あるのでしょうか

 医大では1人当直、1人自宅待機(宅直)という態勢です。1人当たり週に1、2回。若手は月4、5回くらい当直しています。医局には20人余りの医師がいますが、診療応援などでほかの病院にも医師を派遣していますので、全員がそろうことはまずありません。本来当直は複数置かなければなりませんが、現状では不可能です。

 小児科はもっと大変です。救命救急センターと循環器医療センターにも当直が必要なので、病棟とあわせて毎日3人が当直しています。

 ――どんな対策が必要ですか

 究極的にはもちろん医師を増やすしかありませんが、すぐには望めないでしょう。それ以外では若い医師のモチベーションを上げるためにも、私たちがボランティアでやっているコーディネートの仕事を、公のものとして認めて欲しいですね。これが機能しなくなれば、現在まで築き上げてきた岩手県の周産期医療システムは崩壊します。

 また、さらなる医師の集約化が必要だと思います。身近に産婦人科医がいない地域の
住民の方の切実な不安も理解できますが、医師が疲弊しないようなシステム作りが必要です。そうしないと周産期医療に携わる医師の減少に歯止めがかからないと思います。

    ◇

■ 総合周産期母子医療センター 

 母体・胎児集中治療室(MFICU)や新生児集中治療室(NICU)などを備え、24時間体制で、妊娠22週以降の妊婦と生後7日未満の新生児を表す「周産期」を対象に、高度な医療を提供する。県内では唯一、岩手医大付属病院が指定を受けている。総合周産期母子医療センターの規模と機能を縮小した「地域周産期母子医療センター」は、県立中央、久慈、大船渡の3病院。

(朝日新聞、岩手、2008年12月22日)


医師確保険しく 来春産科医0の日製病院 (朝日新聞)

2008年12月23日 | 地域周産期医療

コメント(私見):

茨城県内で最多の分娩を取り扱ってきた日立総合病院の産婦人科常勤医が、来春から全員いなくなってしまうようです。年間1200件前後の分娩を取り扱っていた地域基幹病院が、突然、分娩取扱いを中止したら、その地域が受ける影響は計り知れません。

院内助産所の開設も検討されているようですが、産婦人科医の常勤が前提条件となります。また、地域における「ハイリスク妊婦の受け皿」がなくなることになれば、この地域での診療所や助産所での分娩取り扱いの維持も困難となります。

最近は、どの大学の医局も地元の県の周産期医療体制を守るだけで精一杯となり、県外の病院にまで医師を派遣し続ける余裕がだんだんなくなってきました。従って、県を代表するような大病院の産婦人科であっても、県外の大学の医局から医師が派遣されている場合だと、突然、産婦人科の常勤医全員の医局への引き揚げを通告される可能性が少なくありません。

日立総合病院 分娩予約一時中止

****** 朝日新聞、茨城、2008年12月22日

医師確保険しく 来春産科医0の日製病院

 昨年まで県内の医療機関で最多の出産を取り扱ってきた日立製作所の日立総合病院(日製病院)から来年3月、産科医全員が派遣元の大学に戻る。病院は医師確保に懸命だが、全国的な産科医不足のなか、脳出血を起こした妊婦が7病院に受け入れを断られて死亡した都立墨東病院問題のあおりも受け、見通しが立たない状態だ。【大塚隆】

Photo_2  日製病院の産科医は現在4人と、わずか2年余りで半減した。それでも勤務医の奮闘で出産件数はここ数年1200件前後を保っていたが、8月からの新規受け付け中止の影響で今年度は990件程度に減少する見込みだ。残る4人の産科医も大学側の強い要請で来春には医局へ帰る。

 ●一時は光明も

 日製病院は新規受け付けを中止した8月以降、周辺の病院を案内している。日立市が母子手帳交付時に受診中の医療機関を調べたところ、5月には半数が同病院を使っていたが、10月は4%弱だった。

 来春以降の産科維持のため、日製病院は都内のある医大病院に絞って常勤産科医の派遣を要請し、一時は前向きの感触を得た。だが、10月に都立墨東病院問題が明るみに出て、都が産科医の確保に全力を挙げ始めたため、「どの大学も地方の病院に産科医を派遣することに二の足を踏んでいる」(関係者)という。

 日製病院は産科医不足に対応できるよう、正常分娩の場合は助産師が対応する院内助産所の開設準備を進めている。ただ、突然の出血などでハイリスク分娩への対応を迫られる場合もあり、「院内助産所でも産科医による管理が重要」(岡裕爾院長)と、産科医常勤が大前提だ。

 ●広がる影響

 産科は24時間の緊急対応が必要で、訴訟リスクなども敬遠されるため、産婦人科の看板を掲げながらも、婦人科だけにする施設が急激に増えた。日立市でも産科の開業医は瀬尾医院だけだ。

 日製病院は県北地域の地域周産期母子医療センターに指定され、県北で唯一、未熟児などの新生児医療に不可欠なNICU(新生児集中治療管理室)を持つため、「日製病院の産科が休止されると、緊急時には水戸や県南まで救急車で搬送する事態が起きうる」(瀬尾医院の瀬尾文洋院長)という。

 日製病院は「年内に何とかめどを」と、あらゆるつてを頼ってOBらにまで協力を求めている。日立市も「産科休止は町づくりの根幹にかかわる」(大和田進・保健福祉部長)と、産科医確保に向けた財政支援などの方針を固めている。だが、事態を打開するめどはまだ立っていない。

(朝日新聞、茨城、2008年12月22日)

****** 東京新聞、茨城、2008年12月9日

助産師16人活用できず 産科休止の県立中央病院 助産所開設検討へ

 産科医不足に伴い、助産師の役割が見直される中、笠間市鯉淵の県立中央病院(永井秀雄病院長・五百床)では助産師の資格保持者が十六人いるにもかかわらず、三年前から産科が休止となり、他の診療科で看護師として勤務していることが八日、分かった。病院は今後、数人の産科医確保を前提に、院内助産所の開設を検討する。【伊東浩一】

 同日の県議会一般質問で、常井洋治県議(自民)に対し、病院側が明らかにした。

 県内では分娩(ぶんべん)施設が十年前に比べて半減し、昨年十一月時点で五十カ所。産科医は約百五十人となっている。

 中央病院でも産科医四人が辞めた影響で、〇四年度末に産科を休止。法律上、正常分娩ならば助産師だけで取り扱うことができるが、県は「危険回避のため、出産は助産師だけでなく、産科医の指導下で行うべきだ」として、お産の受け入れを一切取りやめた。このため、助産師は他の診療科で看護師として働いており、資格を生かすことができない状況が続いているという。

 常井県議が「助産師を活用して、院内助産所を設置する考えはないか」と質問したのに対し、古田直樹病院事業管理者は「一定の産科医を確保した上で、指導の下に院内助産所を開設できる体制を整えたい」と答弁した。

(東京新聞、茨城、2008年12月9日)

****** 読売新聞、茨城、2008年12月8日

院内助産所開設を検討 県立中央病院

 産科の診療を中止している県立中央病院(笠間市鯉淵)で、助産師が中心となって出産を介助する「院内助産所」の開設が 検討されていることがわかった。8日の県議会一般質問で、古田直樹・県病院事業管理者が、常井洋治県議(自民)の質問に答えた。 助産所を構える病院は県内にはなく、開設されれば県内初になるという。

 中央病院は2005年3月の段階で4人の産科医を抱えていたが、医師らが出身大学の病院に戻り、当直体制が敷けなくなるなどしたため、 同年4月以降、診療を中止している。

 院内助産所は、助産師が、正常に経過している妊婦の出産を助ける病院内の施設で、育児期まで継続的なケアが受けられたりするのが特徴。 正常な出産の経過をたどっていれば、産科医の立ち会いもいらない。対象は、通常分娩が可能なリスクの低い妊婦に限られるが、 万一の時に対応する常勤の産科医さえ確保できれば開設の見通しが立ち、産科の開設に比べ、環境は整えやすい。現在、中央病院には助産師資格を持った看護師が16人いる。

 県内では、県北地域の中核的な周産期母子医療センターに位置づけられている日立製作所日立総合病院(日立市)が来年4月以降の 分娩の予約受け付けを一時中止するなど、出産をめぐる環境は年々悪化している。県内の人口10万人当たりの産科医数(06年末現在)も、6.5人(全国平均7.9人)で全国41位になるなど、産科医不足は深刻だ。

 これまでも、県は中央病院の産科診療の再開に向けて努力してきたが、産科医が1人も確保できていないのが現状。このため、 県はあくまで産科の再開を目標にしながらも、より開設の見通しが立ちやすい院内助産所の開設を本格的に検討していくとしている。

(読売新聞、茨城、2008年12月8日)

****** 読売新聞、茨城、2008年10月29日

産科医の確保 日製病院難航

 来年4月以降の分娩の予約受け付けを「一時中止」している日立市の日立製作所日立総合病院の産科医確保が難航している。病院や同市によると、産科医の派遣元大学の「全員引き揚げ」の姿勢に変化がないという。

 日製病院産婦人科の産科医は全員、大学から派遣を受けており、5月下旬に大学から「産科医全員を引き揚げるかもしれない」と伝えられた。2人が9月で引き上げ、現在の産科医は4人。病院と県、市などは派遣継続を要請しているが、大学側は「開業医になる医師が増えて、医師を派遣する余力が大学にもない」などと説明したという。

 日製病院は、産婦人科を閉鎖しない方針を固めており、派遣元の大学以外のルートでの産科医確保、正常分娩を扱う院内助産所の開設も探っているが、結論は12月ごろになる見込みだ。

 同市の樫村千秋市長は28日の記者会見で「来年4月以降に産科医がゼロになることは避けたい」とする反面、「もう少し様子を見るしかない」と述べるにとどまり、市の対応に手詰まり感をにじませた。

 日製病院は、県北地域の中核的な周産期母子医療センターに位置づけられ、年間に約1200件の出産を担っている。

(読売新聞、茨城、2008年10月29日)

****** 朝日新聞、茨城、2008年9月14日

来春から分娩予約を一時停止 日製病院

 県内の医療機関で最多の出産を扱う日立市の日立製作所日立総合病院(日製病院)が、来年4月以降の出産予約の受け付けを「一時中止」している。病院に医師を派遣している大学の医局から医師の派遣を打ち切りたいと要求され、来春以降の産婦人科医の確保が不透明なためだ。同病院は難しい出産にも対応できていただけに、広域的な影響が出かねないと懸念する専門家もいる。【木村尚貴】

 県医療対策課の調べでは、日製病院の07年の出産は1212件で県内最多。現在は産婦人科医6人で、24時間365日当番を回している。

 日製病院によると、産婦人科を開設してから医師を派遣していた首都圏の国立大学から5月、「来年4月以降の派遣を中止したい」と伝えられた。日製病院は大学側に1、2人でも医師を残すよう求めているが、現状では6人は来年3月までに大学の医局に戻る可能性が「極めて高い」という。

 こうした状況を受け、日製病院は8月初めに病院長名義で「分娩予約の一時中止」のお知らせを、病院内の掲示板やホームページで明らかにした。出産希望者には他の施設を紹介するなどしている。ただ、「あくまでも一時中止で、産婦人科をやめるということではない。医師が確保でき次第、診療を再開する準備はしている」と説明する。

 複数の市町村を一つの単位とする「二次医療圏」のうち、日立、高萩、北茨城の3市からなる「日立保健医療圏」では年間約2千件の出産があるが、出産可能な施設は3病院、1診療所、1助産所の5施設しかない。このうち過半数を日製病院が扱っていた。出産予約停止で通い慣れていない場所に行く妊婦の負担が増す。

 また、日製病院は異常分娩などの危険な出産にも対応する地域の拠点病院のため、異常出産の妊婦が近隣の病院に集中する可能性も高まる。

 日立保健医療圏に隣接する「常陸太田・ひたちなか保健医療圏」のある医師は「周産期医療の拠点である水戸の済生会病院などにハイリスクな患者が集中し病院のキャパシティーを超えると、ドミノ倒し的に県の母体搬送システムが崩れる恐れがある。今回の問題は、県北だけではなく県全体の問題だ」と指摘する。

(朝日新聞、茨城、2008年9月14日)

****** 読売新聞、2008年2月8日

24時間勤務 最高で月20日…産科医

「体力の限界」開業医も撤退

 「このままでは死んでしまう」。茨城県北部にある日立総合病院の産婦人科主任医長、山田学さん(42)は、そう思い詰めた時期がある。

 同病院は、地域の中核的な病院だが、産婦人科の常勤医8人のうち5人が、昨年3月で辞めた。補充は3人だけ。

 しわ寄せは責任者である山田さんに来た。月に分娩(ぶんべん)100件、手術を50件こなした。時間帯を選ばず出産や手術を行う産婦人科には当直があるが、翌日も夜まで帰れない。6時間に及ぶ難手術を終えて帰宅しても夜中に呼び出しを受ける。自宅では枕元に着替えを置いて寝る日々。手術中に胸が苦しくなったこともあった。

 この3月、さらに30歳代の男性医師が病院を去る。人員の補充ができなければ、過酷な勤務になるのは明らかだ。山田さんは、「地域の産科医療を守ろうと何とか踏みとどまっている。でも、今よりも厳しい状態になるようなら……」と表情を曇らせた。

 燃え尽きて、分娩の現場から去る医師もいる。

 別の病院の男性医師(44)は、部下の女性医師2人と年間約600件の分娩を扱っていた。24時間ぶっ続けの勤務が20日間に及ぶ月もあった。自分を病院に送り込んだ大学の医局に増員を訴えたが断られ、張りつめた糸が切れた。2005年夏、病院を辞め、分娩は扱わない開業医になった。その病院には医局から後輩が補充されたものの、やはり病院を去ったと聞いた。

 少子化になる前、お産の現場を支えてきた開業医たちも引退の時期を迎えている。東京・武蔵野市にある「佐々木産婦人科」の佐々木胤郎(たねお)医師(69)は、1975年の開業以来、3000人以上の赤ちゃんを取り上げてきた。しかし、今は「命を預かるお産は責任が重い。体力的にきつくなり、訴訟の不安もつきまとう」と、分娩をやめ、妊婦健診だけにしている。

             ◇

 産科医がお産から撤退すれば、妊婦にしわ寄せがくる。

 東京・町田市の女性は昨秋、妊娠5週目ほどの時に神奈川県内の小さな産科医院を初めて訪れ、あっけなくこう言われた。「あら、あなた35歳なの? うちでは診られないですね」

 周辺病院で産科の閉鎖が相次ぎ、この産院に妊婦が集中したため、リスクの高い35歳以上の初産妊婦はお断りせざるを得ない――。そんな張り紙が待合室の隅に張り出されていた。帰り際、「早く探さないと産めなくなりますよ」と、別の病院を3か所ほど紹介してくれた。「これが現実なのだと自分を納得させるしかありませんでした」

 その後、産院や助産院を5か所回った。2か所は断られた。ある産院では「35歳の初産は分娩時に救急搬送になる可能性が高い。そういう妊婦は受け入れられない」と言われた。

 「仕事が忙しくて、出産を先送りにしてきたが、35歳以上の出産がこれほど大変とは思わなかった」と話す。

 医者の産科離れを加速させるのが、医療事故や訴訟のリスクだ。「子どもが好きだから、将来は産婦人科医も面白そう」と考えていた医学部3年生男性(22)は、「一生懸命やっても訴訟を起こされたり、刑事裁判の被告になったりしたら人生が台なしになる」と、産婦人科に進むことをためらっている。

 勤務医は過労で燃え尽き、開業医も分娩から撤退。現状を知った医学生が産科を敬遠する。医師も施設もますます減っていき、緊急時の妊婦の受け入れ先がなくなる――そういう悪循環が見えてくる。

 産科医が直面する問題を昨年、小説に描いて話題になった昭和大医学部産婦人科学教室の岡井崇教授(60)は、「悪循環を断ち切るには、働く環境を改善して現場の医師をつなぎ留め、産婦人科に進む医学生を地道に増やしていくしかない」と話している。

(読売新聞、2008年2月8日)