ある産婦人科医のひとりごと

産婦人科医療のあれこれ。日記など。

地方病院での医師の確保と育成

2007年08月02日 | 地域医療

現行の『新臨床研修医制度』では、それぞれの研修希望者がどの研修病院で研修するのか?は、『医師臨床研修マッチング(研修医マッチング)』という新しいシステムで決定されるようになりました。

『研修医マッチング』とは、医師免許を得て臨床研修を受けようとする者(研修希望者)と、臨床研修を行う病院(研修病院)の研修プログラムとを、研修希望者および研修病院の希望を踏まえて、一定の規則(アルゴリズム)に従って、コンピュータにより組み合わせを決定するシステムです。この『研修医マッチング』は平成16年度より開始されましたので、今年度のマッチングはこれから始まりますが、この制度が始まってから4回目の実施ということになります。

第1回目のマッチングが実施された当時は、まだ当院でも各診療科の若手医師たちは大学医局から多く供給されてました。ですから、「どうせ、研修希望者のほとんどは、大学や都会の有名病院に応募するに違いない。こんな田舎の病院には、きっと1人も応募はないだろう。マッチングに参加しても、どうせ無駄骨になるだけだろう。」との予測が大勢を占め、私も当初は研修医マッチングにそれほど大きな関心はありませんでした。ところがフタを開けてみたら、なぜか予想に反して、当院へのマッチング応募者が定員の4倍近くもあって非常に驚きました。時代の大きな変化を予感しました。

その後、科によっても事情は大きく異なりますが、多くの診療科で大学医局からの若手医師の供給がストップされました。幸いなことに、当院では、初回のマッチングより、毎回、ほぼフルマッチングを達成してますので、この制度が開始されてから病院内の若手研修医の数がかえって多くなり(初期研修医:現在計16名在籍)、病院全体の医師の平均年齢がかなり若返りました。

今後の課題として、医学部卒業後3年目以降の『後期臨床研修医』の採用をだんだん増やしていく必要があると思います。そのためにも、「研修環境が整備され、若い研修医が自然に大勢集まってくるような病院」を目指して、各診療科で臨床研修の指導体制を整えていく必要があります。


深刻化する地域医療の現状

2007年07月30日 | 地域医療

現状のままであれば、今後、地域中核病院から、産婦人科、小児科、麻酔科、外科、救命救急センターなどの多くの診療科がさみだれ式に次々に消滅していくことが予想されます。

今は何とか必死で持ちこたえている診療科でも、所属医師の頭数が増えず平均年齢も年々上がっていくような状況が続けば、その診療科が5年後、10年後も存続しているような保障は全くありません。

地域医療は、ここ1~2年が何とかなればいいというようなものではありません。5年後、10年後も地域中核病院の機能を存続させ、さらに発展させていく必要がありますが、県や大学など、どこにお願いに行っても、みんな困り果てているだけで、誰も助けてはくれません。

地域医療の存続のために、今、我々は何を実行しなければならないのか?よく考えて、地域で一丸となって、真剣に取り組んでいく必要があると思います。

**** 朝日新聞、香川、2007年7月19日

病院・医師の努力限界/県内の医師確保

 曜日ごとの外来診察の医師名を知らせる掲示板に「医大医師」のプレートがかかる。坂出市文京町1丁目にある同市立病院の産婦人科窓口。本来なら他科と同じく、具体的に個人の担当医師名を紹介するところだ。

 昨年6月末で常勤医師が退職し、年に約200件あった分娩(ぶん・べん)など産科診療を取りやめざるをえなくなった。今は香川大の医師に非常勤で週2回程度来てもらい、婦人科外来のみ続けている。

 体調を崩して同病院に入院した長男(2)に寄り添っていた市内の主婦辻日出未さん(22)は現在、妊娠3カ月。長女も長男もここで産んだが、3人目はほかの病院を探さないといけない。市内に別の産婦人科もある。だが、早産体質なので、いざというとき自宅から遠いと不安だ。「少子化の時代に頑張って産んでいるのに。どうしよう」

 県内の医師数は増えてはいるものの、産婦人科をはじめ、いくつかの診療科は減少傾向にある=表参照。新しい産婦人科の常勤医を探している砂川正彦院長(55)だが、「大学の医局にも、どこにも医師がいない」と話す。

 勤務医の仕事が年々激務になっているうえ、福島県の病院で昨年、帝王切開した女性を死亡させたとして産婦人科医が逮捕された影響も大きい、とみる。「一生懸命やっても逮捕される。飲酒運転で死亡事故を起こすよりも裁判で賠償額が多いこともあった。社会状況が医師には非常にマイナスに働いている」

     ■

 県立中央病院(高松市番町5丁目)の救命救急センターは、救急患者の最後のとりでだ。年間約3100人(05年)が救急車で運ばれてくる。その救急専従医2人が退職し、今年4月からゼロに。今は麻酔科、外科などの医師5人がチームを組んで救命に当たる。

 センターで昨年3月、心肺停止患者の受け入れを拒否したことが問題になった。そのとき松本祐蔵院長(61)は、改善策として「センターの人員態勢を強化したい」とコメントした。でも現実は逆行している。

 大学の医局に派遣を再三かけ合ったが、補充のめどはたっていない。大学頼みではおぼつかないと、今秋にも今いる医師が救急専門医の資格をとることを検討している。松本院長は「若い救急医を病院自ら何とか育てていかないと、どうしようもない」と話す。

     ■

 参院選を前に、政府は緊急医師確保策を打ち出した。その一つが国がプールした医師の派遣。ただ、第1陣の7人が派遣されたのは北海道、岩手など。「香川には来てもらえないでしょう」「そんなに(派遣の)医師を集められるのか」と県の担当者や医療関係者は冷ややかだ。

 医療費抑制の流れの中で医師数は簡単には増えそうにない。診療機能の分担・集約化を図ろうにも、既得権の調整は容易ではない。「県内医療がどうなるのか、もうギリギリの段階。県民のみなさんに医療の現状をもっと知ってほしい」(県立中央病院の松本院長)、「一人の医師の頑張り、一病院の努力ではどうにもならなくなっている」(坂出市立病院の砂川院長)。現場は悲痛な叫びを上げている。【東孝司】

(朝日新聞、香川、2007年7月19日)


この難局に地域としていかに対応していくか?

2007年07月19日 | 地域医療

地方の病院で医師確保がだんだん難しくなってきて、医師不足により存亡の危機に直面している地域中核病院も少なくありません。

しかし、『増大する医療費の抑制を図る』という名目で、『病床数の適正化、すなわち病院の数を現在の半分にまで減少させる』という政策を厚生労働省が掲げている以上、『今後、相当数の病院が姿を消していく!』のが、国の規定方針と考えられます。

従って、この難局に対して、個々の病院、自治体だけで個別に対応していこうとしても、今後の見通しは非常に厳しいと思います。

従来の医療圏の枠にはこだわらず、長期的な視野に立って、地域全体で今後いかに対応していくのか?を検討する必要があると思います。

**** 医療タイムス、長野、2007年7月12日

産婦人科、整形外科の維持が困難に 
~昭和伊南、助産所やお産制限も検討

 常勤医の相次ぐ退職や信大からの派遣医の引き揚げなどを受け、昭和伊南総合病院(千葉茂俊院長)がその対応に追われている。産婦人科では、信大が来年3月末に医師2人を引き揚げる予定で、整形外科では現在4人いる常勤医が退職などによって8月末までに1人に減少する。同院は、「伊那中央病院などの近隣病院や地元医師会などに協力を要請し、現在の医療体制を維持できるように努めていきたい」としている。

 年間500件のお産を取り扱っている産婦人科は、院内助産所の設置や里帰り出産の制限、医師確保などを視野に、現在の分娩件数を維持していく方向で検討している。帝王切開などの外科的処置が必要な患者の対応については、伊那中央病院と今後さらに協議を重ねていく方針だ。ただ、伊那中央病院でも産科医が不足していることから、同院では地域内における産科医療体制の再編案がまとまった時点で、信大や関係機関に再び協力を要請していくとしている。

 また、整形外科に関しては外来患者のみの受け入れを軸に、入院や複雑な手術が必要な患者は伊那中央や飯田市立などの近隣病院に受け入れを要請していく考え。一方、小児科は現在常勤2人体制となっているので、医師数が減少しないよう病院として現状維持に努めていく。

 同院の福澤利彦事務長は「地域医療体制を維持していくためにも、さまざまな方法を検討していきたい」としている。

■日曜日の1次救急患者を開業医が診察

 医師数の減少に伴い、同院では5月から同院の救命救急センターで日曜日に受け入れる1次救急患者の処置を開業医に委託している。協力しているのは上伊那医師会南部地区の開業医8人で、原則1人が希望した日に勤務している。

 同院が日曜日に受け入れる1次救急患者は約20~30人。担当した開業医は午前8時~午後5時までセンターに常駐し、専門外の患者が来院した場合には、オンコールで該当する診療科の勤務医が駆けつけるシステムになっている。

 同院では、「開業医の戦士方の協力で勤務医の負担が大幅に軽減できている」としている。

(医療タイムス、長野、2007年7月12日)

****** 伊那毎日新聞、2007年7月13日

全員協議会で千葉院長らが説明 飯島町議会

 駒ケ根市の昭和伊南総合病院の深刻化する医師不足を受け12日、飯島町議会は議会全員協議会を開き、昭和伊南総合病院の千葉院長、福沢事務長らを招き、病院の現況と当面の対応について説明を受けた。

 説明では整形外科の常勤医4人が新規開業や派遣元の信州大学の異動で、8月末には1人になる。産婦人科は常勤医2人が来年3月で信大に引き揚げになるため、以降は常勤医師がゼロになる見込み。

 対策として、伊那中央病院、飯田市立病院などと協力、連携するとともに、日直は近隣の開業医の協力を得て、なんとかやりくりしていく-とした。

 これを受けた質疑で、議員からは「医師の絶対数が不足しているのか」「まずは近所の開業医を受診するなど、1次医療と2次医療のすみわけ意識が必要では」「院内産院への取り組みは」など質問や意見が出された。

 また、「一部住民が不安を煽るような会議が持たれている。医師不足は全国的なこと、昭和伊南病院だけの問題ではない。誤解を受けるような言動は慎もう」と言った意見もあり、町議会として、町広報や議会報を通じて、町民に正しい情報を伝える。勤務医の負担軽減に向け、1次医療と2次医療のすみわけを呼び掛ける-などを確認した。

(伊那毎日新聞、2007年7月13日)

****** 長野医報、2007年7月1日

地域医療崩壊への道か?
    ~医師不足の現状~

昭和伊南総合病院 院長 千葉茂俊

 当院に限らず、地方の中小都市の公立・公的病院の勤務医不足が加速している。それは、新臨床研修制度の開始された3年前から始まった。そして、年毎に顕著になってきているし、極端な地域格差となって現れている。最近の医療の混迷振りを、マスコミは、「医療崩壊」と呼んでいるが、その要因の多くが地方の病院の医師不足による。東北、北海道地域では、既に報道されている通りである。

 地方の各病院は、これまで基本的に大学医局からの医師派遣に頼っていたために、医師の大学への引き揚げで、もろに影響を受けたのである。これは、新制度によって、大学の医局への入局者が極端に減少したせいもあるが、従来の医局制度が機能しなくなったことが大きい。

 というのも、「医局の決定により、各地域に行き渡るように医師を供給する態勢」が壊れてしまったからである。すなわち、大学在籍の医師数が減り、大学の各講座は、地方病院から医師を引き揚げざるを得なくなったのである。そして、そのターゲットは、まず小都市の病院となった。

 この他に、勤務医不足に拍車をかけている要因は、主に、①過重労働、②診療所開業による病院辞職、および③より良い病院(条件の良い病院)を求めての転院、等である。

 まず①であるが、勤務医の過重労働は日常化している。地方の基幹病院としての役割を果たすために、医師は、通常の診療のほかに、ウィークデーの当直、祝土日の日直が割り当てられている。それに加えて、緊急時には、当然ながら専門範囲の診療や手術が入る。もちろん、年中365日予定の立つ時間などには全く関係なしにである。

 医師不足になるもう一つの大きな要因は、②の勤務医の診療所開業のための辞職が大きい。これは、日常化している過重労働に疲弊した結果ということもできる。また、無理の出来ない年齢に達したことを実感してのこともある。元気な医師であっても、いずれ加齢の影響は免れない。マスコミでは、無責任な表現で「燃え尽き症候群」とか、あまり感心しない言葉、「立ち去り型サボタージュ」とか、様々な表現がなされている。

 しかし、考えるまでもなく、自分の全人生をかけ、全て投げ打って医療に打ち込めというのは、本来無理である。家庭が成り立たなくなったり、人間的な生活が出来なくなっても、患者のために頑張れと、誰も言うことは出来ない筈である。

 ③は、医師がある程度自由に勤務病院を自分で選べることになった現状では、給料を上げることも、勧誘のひとつかもしれないが、私は、③がそれ以上の条件だと思っている。特に、地元出身でない者の多い医師側からすれば、魅力のない病院や地方に来る必然性はないのである。

 快適な職場での勤務は、働く者の誰もが望んでいる。すなわち、施設が適切かどうか、新しい基準に準じた環境か、医師のみならずその家族が生活する環境、住居は適切であるのか、居住する町の学校、文化施設に満足できるのか等、公私を含めて働き生活する環境面がトータルで満足できるのかが、医師誘致には欠かせない。

 云々と記した理由は、大学の医局の権威が低下し、いわゆる民主的となり、若い医師が比較的選択して病院を選べる仕組みになったからである。医師自身が適切と考えなかったり、家族が賛成しなかったりしたら、赴任してくれないことになる。

 大学病院自体が医師不足で悲鳴を上げている現状では、関連病院の医師引き揚げに動くのは、止めることが出来ない流れである。さらに悪いことに、人口の少ない地方病院がより割を食ってしまう。それが、またまた残された医師の負担増につながってゆくという悪循環となっている。

 この状態が長く続き、対策が遅れれば相当の病院が姿を消すことになるだろう。今のところ、厚生労働省自身が、対策を講じることはない筈である。

 というのも、増大する医療費の抑制を図るという名目で、病床数の適正化、すなわち病院の数を現在の半分にまで減少するという政策を掲げているからである。現在の療養病床38万床は、平成24年までに15万床まで減らす方針が決定している。次に、一般病床90万床も、いずれ、50~60万床に減少するだろうと言われているのだから。

 現在、人口の少ない地域の医療崩壊を回避するドラスティックな方策を見出すことは極めて難しい。となると、この難局を乗り切るには、地域の医療人全体の手堅い連携以外に道は残されていないのかもしれない。それには、地域住民が現状を理解し、支える気持ちを示してくれることも大きな要素である。

(長野医報、2007年7月1日)


地方における医師の確保と育成について

2007年07月15日 | 地域医療

日本では、これまで長年にわたり、地方の医師派遣の役割は大学の医局が担ってきました。しかし、最近、特に地方においては、多くの診療科で大学の医局員数が減少し、大学医局に医師派遣機能を果たすだけの人的余裕が徐々に失われつつあり、おそらく、将来的には大学の役割もだんだん変化し、教育機関としての役割に特化され、大学から地方病院への医師派遣は今後あまり多くを期待できなくなっていくものと予想されます。

従って、今後は、地域で必要な医師は、地域で自力調達し、地域で育成していく以外にないような厳しい時代に突入していくのかもしれません。

若手医師を呼ぶためには、専門医資格が取れる施設であることが必須条件です。そのためには、指導医陣の確保、医療設備の整備、豊富な症例数などの条件が絶対に必要となります。現状では、そのような条件を満たす病院が地方には少なく、若手医師が都会の病院に集中しやすい状況になっています。

個々の病院の努力だけで、この状況を一気に変革しようとしても、絶対に無理です。将来的に地域で必要な人材は地域で確保・育成できるようになることを目指して、地域で一体となって、この問題に長期戦で取り組んでいく必要があると思います。


医師不足対策

2007年07月05日 | 地域医療

経済協力開発機構(OECD)がまとめた加盟国の人口10万人当たりの医師数のデータを見ると、全体平均は290名ですが日本は200名で、日本の医師数は加盟国の中では最低クラスです。従って、日本の医師数そのものが足りてないのは明らかで、長期的な医師不足対策としては、日本の医師数そのものを増やす(医師養成数を増やす)必要があります。

しかし、医学部の入学定員を増員しても、その効果が現れるまでには10年近くを要しますから、医師不足の即効薬とはなり得ません。

医師不足に対する当面の対策としては、現状の少ない医師を何とかうまくやりくりし、地域医療を維持していくようにいろいろ工夫していく必要があります。例えば、医師の拠点病院への集約化、地域における病診連携システムの構築、勤務医の労働環境や待遇の改善、ワークシェアリング、院内保育所の整備など、さまざまな対策を同時並行的に推進していく必要があります。

個々の病院でも、あの手この手で新人医師を増やすよう努力する必要があります。即戦力となる経験豊富な中堅医師に来てもらえたら大いに助かるのは間違いありませんが、そういう医師はどこでも引っ張りだこでしょうから、リクルートはなかなか難しいと思われます。即戦力にはならなくても、初期研修医、後期研修医に多数応募してもらって自前でも専門医を養成していけるように、病院の研修態勢を整備する努力も大切です。

ただ、この新人獲得競争では、自分の所属する診療科だけが独り勝ちすればいいというものではありません。例えば、ある病院の産婦人科医が倍増したとしても、新生児科医、麻酔科医などがいなくなれば、その病院では周産期医療を維持することは絶対に不可能です。また、外科医、泌尿器科医、病理医、放射線科医(読影、治療)などがいなくなれば、婦人科腫瘍をちゃんと扱うこともできなくなってしまいます。要するに、各診療科にバランスよく新人が参入してくれないと困ります。従って、研修態勢整備や新人勧誘には、病院の総力を挙げて真剣に取り組んでいく必要があります。

また、今、地域の医療を支えている基幹病院の勤務医達が職場を辞めないでも済む勤務環境を作ることが非常に大切です。例えば基幹病院の産婦人科の場合だと、少なくとも7~8人は産婦人科医が常勤している必要があります。それでも、週に1回は当直業務をこなす必要があり、他の診療科に比べると激務です。

その上で、医学生、初期研修医、後期研修医たちをしっかりと教育し、彼らを地域の中でベテラン医師にまで育て上げていく後進育成システムを各地域の中でしっかりと確立していく必要があります。

誰も地域医療の崩壊を望んでいるわけではありませんが、基幹病院が診療を年々縮小し、勤務医の平均年齢が年々上がって、頭数もだんだん減っているような地域では、数年以内にその地域の医療が完全に崩壊する可能性もあります。

国も県も大学も、今後我々が進むべき道の指針はいろいろと示してくれますが、決して直接救済してくれるわけではありません。それぞれの地域で、何とかして自力で道を切り開いていく必要があります。


医療の地域格差「拡大している」が87%(読売世論調査)

2007年07月03日 | 地域医療

大学の医局制度には、過疎地の病院にも半ば強制的に医師を配置してきた側面があり、医師配置の不均等を是正する機能があったことは間違いありません。そして今も、(当科を含む)地域の公立病院の多くが、医師供給を大学医局人事に依存しているのも事実です。

しかし、この大学医局制度では、医局の都合次第で医師の派遣や引き揚げが決まるシステムなので、医局に所属する医師の数が減れば、必然的に地域への医師供給も減ることを意味します。また、医療法上、大学は地域医療に対する義務も権限も持っていません。

地域の医師供給システムがこうした不安定な基盤の上に乗っていて、大学医局に従来通りの医師供給を期待できなくなってきたとすれば、地域の病院側でも、発想を大転換していく必要があります。

すなわち、従来通りに医師供給を大学医局人事のみに依存していたんでは、今後、地域の医師数はますます減っていく一方です。従って、地域の病院が今後も生き残って機能していくためには、既成概念にとらわれず、医師供給元をできる限り多様化し、ありとあらゆる手法を用いて医師を確保していく必要があります。

****** 読売新聞、2007年7月2日

医療の地域格差「拡大している」が87%…読売世論調査

 読売新聞社が6月16、17日の両日に実施した「地域医療」に関する全国世論調査(面接方式)で、都市部に医師が集中し、町村部とでは偏りがあるなど医療の格差が広がっていると思うかどうかを聞いたところ、「どちらかといえば」を合わせ「そう思う」人が87%に上った。「そうは思わない」は計10%だった。

 医療の面でも「地域格差」を感じている人が多いことがわかった。

 住んでいる地域で「医師不足」を感じたことがあるかどうかでは、31%が「ある」と答えた。「ない」は67%に上ったが、3人に1人近くが医師不足を実感していた。「ある」を都市規模別に見ると、「町村」が41%で最も多かった。

 医師不足の原因と思われることを挙げてもらったところ(複数回答)、「便利な都市部に住みたいと思う医師が多い」が40%でもっとも多く、「仕事が忙しすぎる」(39%)、「医師を確保するための国や自治体の対策が不十分」(38%)「訴訟を起こされるリスクを恐れる医師が多い」(25%)などが続いた。

 実際に医師不足を感じたことがある診療科(同)は、「産婦人科」が43%で1位で、「小児科」が37%で2位だった。

(中略)

新たな研修制度 都市部に人気集中 偏在に拍車の見方

 地域や診療科によって、医師不足が生じている背景に、新しい研修制度があると指摘する声が多い。

 新研修制度では、研修医が原則自由に研修先を選べるようになったため、症例が豊富で待遇も良い都市部の民間病院に人気が集中した。これに伴って、地方の大学病院などで医師不足に陥り、自治体病院などに派遣していた医師を次々と引き揚げた。

 さらに、研修で各科を回るようになったことで、産科や小児科が他の診療科より勤務が過酷だという実態が明白になり、敬遠する新人医師が増えたとされる。地域医療問題に詳しい済生会栗橋病院の本田宏副院長は「産科や小児科を希望していても、勤務実態を知らない研修医は多い。それが現実が分かって避けてしまう」と指摘する。

 こうした現状を踏まえ、厚生労働省は、研修医の都市集中を是正するため、臨床研修の指定病院の定員のバラツキを見直す方針だ。ただ、新制度導入が医師の偏在に拍車をかけたとの指摘には、「地方の病院でも人気を集めているところはある。各病院で研修医が魅力を感じるような研修プログラムを作ってほしい」(医事課)としている。

(以下略)

(読売新聞、2007年7月2日)

医師の確保―医学部の定員を増やせ (朝日新聞)

2007年06月26日 | 地域医療

コメント(私見):

地方ばかりでなく都市部でも、多くの病院の勤務医が不足し、激務に耐え切れなくなった勤務医達が医療現場から立ち去っています。最近では、この医師不足の問題が、連日、マスコミで大きく取り上げられています。

政府・与党が発表した「緊急医師確保対策」では、『医師不足の地域に緊急臨時的に医師を派遣できる、国レベルのシステムを構築する』との方針が示されました。しかし、都市部でも医師不足が問題となっているのに、一体どこに「派遣する医師」がいるのでしょうか? 

日本の医学部定員は84年の約8300人がピークで、その後は医学部定員が約8%削減されたままになっています。医師養成数を削減した結果として、現在の医師不足問題が生じているのは間違いありません。

今、医学部定員を増やしたとしても、実働の医師数が増え始めるのは10年先の話で、この医師不足の問題がすぐに解決するわけではありませんが、全体の医師数が不足している状況を放置したままでは、この医師不足の問題は永久に解決しません。長期的対策として、日本の医師養成数を増やしていく必要があります。

参考:医師不足 苦しむ地方 (中日サンデー版)

****** 朝日新聞・社説、2007年6月24日

医師の確保―医学部の定員を増やせ

 医学部の定員という蛇口を閉めたままで、あれこれやりくりしても、焼け石に水ではないか。

 与党が参院選向けに打ち出した医師確保策を見て、そう思わざるをえない。

 医師は毎年4000人程度増えており、必要な数はまかなえる。問題は小児科や産婦人科などの医師不足のほか、地域による医師の偏在だ。こうした偏りを正せばいい。これが厚生労働省の方針だ。

 その方針をもとに、与党は選挙公約でこれまでの偏在対策に加えて、新たに次のような項目を追加した。

 政府が医師をプールする仕組みをつくり、医師不足の地域へ緊急派遣する。大学を卒業した医師が研修で都市の人気病院に集中しないように定員を改め、地方の病院にも回るようにする。

 確かに、偏在の是正にはすぐに手をつけなければいけない。

 しかし、医師不足は全国の病院に広がっている。都市でもお産のため入院できない地区が増えている。深刻な実態が進んでいるのに、偏在対策だけでは安心できると言えないだろう。

 いま求められているのは、時間はかかるが、医学部の定員を増やし、抜本的に医師不足の解消を図ることだ。

 政府は1982年と97年の2回、医学部の定員を減らす方針を閣議決定した。これに基づき、ピーク時には約8300人だった定員が約8%削られた。特に国立大学が大きく減らされた。

 医師が多くなれば、診療の機会が増え、医療費がふくらむ。だから、医療費の伸びを抑えるには、医師を増やさない方がいい。そんな考えからだ。

 いまの危機的な医師不足はその結果といってよい。

 経済協力開発機構(OECD)の調べでは、人口1000人当たりの医師数が日本は2人で、先進国の平均の2.9人を大きく下回る。しかも、このままでは韓国やメキシコ、トルコにも追い抜かれる可能性があるという。

 政府・与党はこうした状況を招いた責任をどう考えているのか。

 もうひとつ考えなければならないのは、最近の医療はかつてよりも医師の数を必要としていることだ。技術の高度化に伴って、チーム医療が大勢となった。患者に丁寧に説明することが求められ、患者1人当たりの診療時間が増えている。医師の3割は女性が占め、子育てで休業することも多い。

 おまけに高齢化はますます進み、医師にかかるお年寄りは増える。

 医師の偏在さえ正せばいい、という厚労省の楽観的な見通しは、医療の新しい傾向を踏まえたものとは思えない。

 医療のムダは今後ともなくしていかねばならない。しかし、医療費の抑制のため発想された古い閣議決定にいつまでもこだわるべきではない。そんなことをしていたら、日本の医療は取り返しのつかないことになる。

(朝日新聞、2007年6月24日)

****** 毎日新聞、2007年6月25日

医師不足:「医学部定員削減」の閣議決定、5党「見直し必要」 自民も「検討」

 ◇抑制策転換か----主要6党、毎日新聞調査

 医師不足が深刻化する中、「医学部定員の削減に取り組む」とした97年の閣議決定について、民主、公明、共産、社民、国民新党の5党が「見直すべきだ」と考えていることが、毎日新聞の主要政党アンケートで分かった。自民も「今後の検討課題」とした。医師数の現状については、民主、共産、社民が「絶対数が不足」と回答し、自民と公明、国民新党は「地方や診療科によって不足」と認識に差があるものの、各政党が医師不足への危機感を示したことで、医師数抑制を続けてきた国の政策が転換に向かう可能性が出てきた。【玉木達也】

 アンケートは主要6党に、医師不足に対する認識や参院選に向けた政策などを聞いた。97年の閣議決定については、自民以外の5党が「見直すべきだ」とした。理由は「医師不足の実態に即して医学部定員を元に戻す」(民主)▽「地域医療に従事する医師数を増やし、医療の高度化や集約化に対応する」(公明)▽「地方に住む人々に安心した医療を提供する」(国民新党)を挙げた。自民も「勤務医の過酷な勤務の改善のため、必要な医師数の検討が必要」と、見直し自体は否定しなかった。

 医師数への認識では、自民が「一定の地方や診療科で不足が顕在化している」、公明も「へき地で医師が不足し、小児科、産科の医師不足は深刻化している」と、部分的に不足がみられるとの姿勢。一方、民主は「OECD(経済協力開発機構)加盟国平均にするには10万人足りない」、共産が「『医師が余っている』地域はない」、社民も「このままではOECD最下位になる」として、3党とも絶対数が不足しているとの認識だった。

 医師数を巡っては、政府が「人口10万人当たり150人」を目標に、73年から「1県1医大」を推進し、83年に目標を達成した。しかし、旧厚生省の検討会が84年、「2025年には全医師の1割程度は過剰になる」との推計値を公表し、同省も各大学に医学部の入学定員を削減するよう協力を求めた。97年には政府が定員削減を継続することを閣議決定し、現在も政策の基本となっている。

 しかし、医療の高度化や高齢化で、OECD加盟国の多くは医師数を増やし、04年の加盟国平均(診療に従事している医師数)は10万人あたり310人。日本は200人で、加盟国中最低レベル。

……………………………………………………………………………

 ■主要各党が参院選で訴える主な医師不足対策■

 ◇自民・公明

 不足地域に国が緊急的に医師を派遣する体制を整備。研修医の都市への集中を是正するため、臨床研修病院の定員を見直す

 ◇民主

 10%削減された医学部定員を元に戻し、地域枠、学士枠、編入枠とし、医師育成の時間短縮や地方への医師定着を図る

 ◇共産

 閣議決定を撤回し、医師養成数を抜本的に増やす

 ◇社民

 医師を増員し、労働環境を改善するとともに、医療の高度化・複雑化への対応、質と安全の向上を行う

 ◇国民新党

 OECD並みの医療費確保を公約として掲げ、世界一の国民皆保険制度の堅持を目指す

****** 高知新聞、2007年6月18日

【医師不足】偏在だけの問題なのか

 地方の小児科や産科で顕在化した医師不足を、全国の43%もの人が実感していることが、本社加盟の日本世論調査会が実施した「医療問題」に関する面接世論調査で明らかになった。

 調査結果は医療サービスを受ける側の実感であり、実態をそのまま反映しているとは限らない。しかし、医師不足を実感する割合が、少ない地域ブロックで四割近く、大都市でも一割以上あることは、医師の偏在問題だけでは説明がつかないことをうかがわせる。

 人口千人当たりの医師数で、日本は経済協力開発機構(OECD)加盟国の下位にあり、将来はさらに落ちる、との予測もある。医師養成の根幹にある医学部定員は現状のままでいいのか。医師の総数にまで踏み込んだ論議が必要になってきた。

 今月初旬に実施した調査によると、「医師不足を大いに感じる」が16%、「ある程度感じる」が27%あった。先駆的な「国民皆保険制度」が高い評価を受けてきた日本のイメージとはずれのある数字だが、注意を要するのはこんな傾向が特定の地域にとどまらないことだ。

 不足感の合計をブロック別にみると、最多52%の東北地方をはじめ、四国地方(42%)など多くのブロックが40%を超え、最少の中国地方でも37%を記録した。

 「大いに感じる」の回答を有権者人口別にみると、十万人未満の小都市で27%、郡部で19%あった。医師不足を感じる理由では、「病院などの閉鎖」「近くに医師がいない」などが多く、医療サービスの絶対数に起因している傾向が強かった。

 医師不足の典型的なパターンと言えるが、問題の広がりを示すのは中都市(有権者十万人以上)と大都市における回答だ。不足感の合計が各12%あった。

 その理由で多かったのは「待ち時間が長くなるなど不便になった」と「救急対応が遅かったり、たらい回しにされる」。小都市、郡部のような医師不在はなくても、人数の不足やサービス内容への不満が高いことを示している。

 日本は27位

 これまで医師不足といえば、地方病院の診療縮小や閉鎖、さらには臨床研修制度による医師の大都市・大病院への集中などがクローズアップされてきた。

 これが依然、大きな問題であることに変わりはないが、今回の調査結果は、程度の差はあっても中・大都市にも同様の問題があることを浮き彫りにする。

 医師不足は、総数は足りているのに勤務地にばらつきがあるという偏在の問題なのか。それとも総数自体が過少という問題なのか。この点を見極める必要がある。

 一県一医大政策などで医学部定員を増やしてきた政府は、八〇年代に入ると抑制に転じた。医師過剰時代への対応と医療費抑制に主眼があったとされる。現在の政策を続けても毎年、医師数は増えるから二〇二〇年代に需給数が均衡するというのが厚生労働省の説明だ。

 これには批判的な見方がある。

 その資料として用いられるのはOECDの統計で、〇三年、日本の医師数は加盟三十カ国中二十七位で、OECD平均に遠く及ばない。川渕孝一・東京医科歯科大学大学院教授は「医療法で定められた医師の配置基準を達成している県は一つもない」と分析する。

 高齢化による医療費増大など困難な問題はあっても、医師の確保政策が現状のままでいいのか、もっと議論を深めるべきだ。

(高知新聞、2007年6月18日)

****** 信濃毎日新聞、2007年6月25日

医師不足対策 勤務医の負担軽減から

 待ち時間が長くなって困る。近くの病院で診てもらえなくなった-。

 医師不足を実感している人が4割以上に上ることが、日本世論調査会が行った面接調査で明らかになった。とりわけ、小規模の自治体に住む人の心配が強まっている。

 地方の医師不足は深刻で、住民の関心が高い問題だ。政府・与党は国が医師を派遣する制度など医師確保対策を選挙公約の柱に掲げるが、実効性に疑問がある。目先の対策を並べただけでは、絵に描いたもちになりかねない。

 調査によると医師不足を「大いに感じる」人は全体で16%に上り、都市の規模や地域によって差が広がっている。郡部で19%に上り、有権者人口10万人未満の都市では27%とさらに高い。地方の中核病院で医師不足が深刻な状況を裏付ける。

 足りないと感じる理由は▽待ち時間が長くなった▽病院や一部の診療科が閉鎖した▽救急の対応が遅れた-など。お産ができる場所や小児科が足りないと訴える人もそれぞれ2割近い。

 政府・与党がまとめた緊急対策の柱の一つは、国レベルの医師派遣システムを作ることだ。国立病院機構などに医師の派遣機能を持たせ、都道府県の要求に応じて、医師を送り出す。

 世論調査の中でも、国や自治体が医師配置を調整することを求める声は強い。ただし実効性は疑われる。昨年秋に国立病院同士で地方の病院に医師を派遣する制度を始めたが、断られるケースが続出。半年で中止した例もある。国が掛け声をかけても、どれだけの医師を動かせるのかは未知数だ。

 緊急対策は中期的な課題として、国家試験の合格者が3割を占める女性医師の活用をうたう。出産や育児で職場を離れた女性医師が復帰しやすくなるよう、研修や院内保育所の整備を挙げている。

 女性たちが復帰したくてもできないのは、子育てしながら月何回もの夜勤や残業が当たり前の職場で働き続けることが難しいからだ。病院内に保育所をつくれば解決する問題ではない。男女ともに働きやすい環境をつくらなければ、地方の病院を離れる医師は増える一方だ。

 何よりも、勤務医全体の負担を軽くすることが大切だ。診療行為に専念できるよう、看護師、助産師らとの仕事の分担の見直しは当然のことだ。開業医との収入の格差も縮める必要がある。

 徹夜明けで疲れ切った医師が患者を診ている状況が当たり前、では医師不足は解消しない。

(信濃毎日新聞、2007年6月25日)

****** 読売新聞、2007年6月26日

信大医学部が奨学制度 医師不足解消図る

来年度から定員10人増

 信州大学医学部(松本市)は25日、医師不足対策の一環として、卒業後9年間、県内の医療機関で研修し、働くことを条件とした奨学金制度を2008年度から創設すると発表した。これに合わせ、同年度入試から10年間、学部の定員を10人増の105人とする。

 県医療政策課によると、県内の人口10万人あたりの医師数(2004年末現在)は190・9人と、全国平均の211・7人を下回り、47都道府県中35位。また、県内の保健所の管轄別では、松本(松本市など)が313・4人いるのに対し、木曽(木曽郡)は116・9人、上伊那(伊那市など)は129・3人となるなど、大きなばらつきがある。

 そのため、厚生労働省などが昨夏まとめた「新医師確保総合対策」の中で、長野県は青森や新潟など9県とともに、医師の確保が急務とされ、定員の10人増が10年間の期限付きで認められた。

 定員増は奨学金制度など、医師の地域定着の方策をつくることが条件。大学が県と協議を重ねた結果、来年度からの実施で合意した。県は06年度から実施している「県医学生修学資金」貸与制度(月額20万円)をベースに、具体的な制度を策定する。対象は1学年10~20人を想定している。

 奨学生は医学部卒業後、県内で研修医として2年、信大で3年、県内の医療機関で4年間働くことが義務づけられる。

 記者会見した大橋俊夫・医学部長は「地域によって医師の数が違う『地域偏在』を解消するため、長野県で医療に取り組みたい人材を育てていきたい」と抱負を語った。

(読売新聞、2007年6月26日)

****** 信濃毎日新聞、2007年6月26日

医師の安定確保へ 信大と県が奨学金創設で合意

 信大医学部(松本市)は25日、来年度からの入学定員増に向け、医学部生対象の奨学金制度を創設することで県と合意したと発表した。定員を現在より10人増の105人とし、県内受験者の多い前期日程にその10人分を充てる。県内の医師不足解消のため、卒業後も県内にとどまる医師を安定的に確保する狙い。

 国は昨年8月、医師不足が深刻な長野など10県について、来年度から医学部定員増を最大10人まで認めると打ち出した。各県に対し、定員増の条件として奨学金創設などを求めていた。

 奨学金は、来年度以降に入学する医学科の学生が対象。卒業後9年間、初期研修を含めて県内の医療機関に従事することを条件に、学部在学中に月額約20万円を貸与する。国と県が負担し、毎年20人以上の利用を目標としている。

 来年度定員は前期50人、後期45人、県内枠の特別推薦10人。大学入試センター試験の成績などで門前払いする「2段階選抜」も見直し、前期は撤廃、後期は定員の20倍(従来は10倍)を超えた場合に実施する。

 県医療政策課によると、人口10万人当たりの医師数(2004年末現在)は、全国平均211・7人に対し、長野県は190・9人。面積100平方キロメートル当たりでは全国平均71・5人に対し、県は32・2人と半数に満たない。

 大橋俊夫学部長は25日の記者会見で「県内を見ても地域間で医師の偏在が起こっている。県民に将来も質の高い医療を提供するため、県と信大が一緒になって解決に取り組みたい」と述べた。

(信濃毎日新聞、2007年6月26日)

****** 中日新聞、2007年6月26日

独自の奨学金制度創設へ 医師不足打開で信大医学部

 信州大(本部・松本市)は二十五日、県内の医師不足と地域偏在を解消するため、来年度の医学部の定員を九十五人から百五人に十人増やし、卒業後九年間は県内での医療に従事することを義務化する独自の奨学金制度を設けると発表した。医師不足に対する国の勧告に基づく十年間限定の措置。同大で会見した大橋俊夫医学部長は「県と一緒になって、質、量ともに充実するよう取り組みたい」としている。

 奨学金制度は来年度の新入生から適用し、約二十人程度を見込む。国と県の予算措置を受け、六年間、月々約二十万円を貸与するかわりに、卒業後九年間は県内での医療に従事する。

 二年間の初期研修後は、診療だけに縛られず、海外留学や大学院での研究もできるよう、信大病院内での研修を三年間実施。その後の四年間は、県の人事のもと、県立病院を中心とする各自治体の病院に配置される。

 大橋学部長によると、県内の人口十万人当たりの医師数は約二百人で、全国平均値とほぼ同じ。しかし、南北に広いため、地域間での医師数の格差は深刻な問題となっているという。大橋学部長は「奨学金制度による人材の確保で、適切な医師の配置が可能になる」と期待を寄せている。

 今回、国から医師不足県として勧告を受けたのは、長野県のほか、岐阜、三重など九県。国は各県に対し、十人を限度とする医学部定員増を認めるかわりに、独自の奨学金制度などの対策を求めている。【中津芳子】

(中日新聞、2007年6月26日)


医大の若き戦力 激減

2007年06月14日 | 地域医療

どんな医師でも、最初は右も左も分からない白紙の状態から出発し、先輩医師たちから伝統技術を基本から叩き込まれながら多くの臨床経験を積み重ね、日進月歩の最新医学も学んで専門医資格なども取得し、だんだんとベテラン医師らしくなっていき、やがては、後輩医師達を育成する立場になっていきます。

従来、日本では長い間、多くの新卒医師が大学の医局に所属し、医局主導による医師のキャリア形成が行われてきました。私自身も、従来の医局制度の元で、多くの先輩達から基本的な技術を教わり、大学のいくつかの関連病院で研修し、大学で研究の指導を受け、学生や後輩医師の教育にも少し従事したあと、医局人事により大学の関連病院に赴任しました。現在も、大学から常勤、非常勤の医師を派遣してもらってます。

新臨床研修制度により、新卒医師たちが自由に自分の初期研修先を選択できるようになりました。それとともに若手医師の人材流動化が活発になり、若手医師が自分のキャリア形成の各段階(初期研修、後期研修、サブスペシャリティ専門医研修など)における研修先を、自分で自由に選択できる時代となりつつあります。

若手医師が自分のキャリア・プランを組み立てる際、研修先の選択はきわめて重要です。キャリア形成の各段階で、研修先として適している病院をちゃんと選択していかないと、最終的に自分の目標としているような医師にはなれないかもしれません。

従って、単なる数合わせだけで、若手医師を地方に強制的に誘導しようとしても、地方の研修・指導体制が充実してない限りは、若手医師が地方に定着するはずがないと思います。


医師不足 苦しむ地方 (中日サンデー版)

2007年06月13日 | 地域医療

コメント(私見):

地方では、病院勤務医の不足により、医療崩壊がどんどん進行しています。それに対して、『退職した医師を公募し、休診に追い込まれた病院に緊急派遣する』とか、『研修医をへき地に強制配置する』とか、最近、次々に国の解決策が発表されていますが、どれも実効性にはかなり疑問のあるように感じます。

今週の中日サンデー版でも、地方の医師不足の現状について、非常にわかりやすく図解されていました。国際的に比較しても、我が国の医師の絶対数が不足していることは、もはや誰の目にも明らかで、これには異論がないと思います。

医師の絶対数が不足している問題を放置したままで、目先の対症療法だけをいくら繰り返していっても、この「地方における医師不足の問題」は永久に解決しないと思われます。

参考:現場からの疑問の声

医師不足 苦しむ地方 東京新聞日曜版!
【産科医療のこれから】

****** 中日サンデー版、2007年6月10日
世界と日本 大図解シリーズNo.789

医師不足 苦しむ地方

Tokyoshinbun

国の失策が招いた人災

東京医科歯科大学大学院教授 川渕孝一

 わが国の「医師不足」は明らかに政府の失策だ。

 ひとつは必要医師数の推計ミス。1970年の「一県一医大構想」はつとに有名だが、何の根拠もなしに85年までに「人口10万人あたり150人の医師」を目指した。この数値目標は83年に達成され、その後は“医師過剰”として国は医学部の定員を削減。ところが実際の医師数はOECD(経済協力開発機構)30カ国中27位。また、医療法で定められた医師の配置基準を達成している県はひとつもない。にもかかわらず、厚生労働省は、「医師は毎年7700人誕生しており、退職などを差し引いても毎年3500から4000人ずつ増え、15年後の2022年には30万5千人で需給が均衡する」という。

 今一つの誤算は04年に導入された「新医師臨床研修制度」。公募により、全国から好きな研修先を自由に選べるようにしたところ、新人医師が大学に残らず、たまりかねた大学病院が関連病院かに派遣していた医師を引き揚げたのだ。供給がストップされた一般病院は当然人手不足に陥る。もともと女性医師の休職・退職が問題化していたが、とどめを刺された格好だ。特に時間外診療が多い小児科、産科は厳しい。そこへ超過勤務で疲れ切った勤務医の“開業ラッシュ”。まさに医師不足は“人災”だ。

 それにしても。医師の地域分布を見てみると、「西高東低」傾向は歴然としている。人口あたりの受療率や病床数も総じて西日本が多い。一票の格差も問題だが、住んでいる地域によって受療機会が異なるというのは、明らかに不平等。

 しかしながら、国の解決策は即効性の乏しいものばかり。そこで筆者が「構造改革特区」に提案したのが、供給過剰に悩む歯科医師(毎年約2700人を輩出)を一定の訓練のもと、医師にコンバートする構想。支援者もなく、水泡に帰した。当分は、地域の開業医の“助け船”に期待するしか方法がないようだ。

全国自治体病院協議会 
小山田恵会長の話

 勤務医がこれ以上辞めないよう、今いる医師を大切にすることが必要。医師の人権を守ることは、患者の人権を守ることでもある。宿直を1回減らす、明けは休みにする――過酷な労働環境が改善される期待があれば、医師も留まる。お金ではない。集約化、地域連携づくりなど、策はある。しかし、経営的視点の病院長や自治体首長、医師への住民の過大な期待と要求など、ハードルも高い。

世界で比べてみると

欧米先進国並みにはあと12万人不足している。 厚労省は、2022年に30.5万人となり需給数が均衡するとしている。

1000人あたりの医師数
 ギリシャ  4.9人
 イタリア  4.2人
 ノルウェー 3.5人
 フランス  3.4人
 米国    2.4人
 英国    2.3人
 日本    2.0人
 韓国    1.6人
   OECD「ヘルスデータ2006」

<救急告示病院の減少!>
知事から認定・告示を受けている救急告示病院は、2002年に全国で4343病院だったが、05年には4166病院に。

【北海道】

・私立根室病院
常勤医が06年度の11人から7人に減った。小児科以外の夜間救急外来を休止。4月中旬から5月初めにかけて、姉妹都市の富山県黒部市・黒部市民病院から外科医の応援派遣を受けた。

【青森県】

・公立金木病院
04年4月に10人いた常勤医が6人になり、今年から救急指定を取り下げた。

【岩手県】

岩手県遠野市は07年度から、希望があれば県立遠野病院の常勤石原に乗用馬を無償貸与することに。が、今のところ希望者はいないという。

【千葉県】

・東金病院
04年春に10人いた内科医が06年には3人に減ったが、専門医の資格を取得できる研修システムの整備などが奏功し、今年は6人に。

<自治体病院の閉鎖増加!>
医師不足や経営悪化などから、07年4月1日までの5年間で、1000近くある自治体病院のうち、6病院が閉鎖、17病院が民間に移譲された。これとは別に、民間業者などへの運営委託も1月現在で43病院に上る。

【静岡県】

・富士宮市立病院
内科医が減ったため、内科外来を紹介制・予約制に。

【愛知県】

・新城市民病院
内科医の減少などで夜間救急外来などを制限。06年秋には新城市と周辺住民の住民らが医師確保などを求め、5万人以上の署名を添えて陳情書を提出した。
・高浜市民病院
常勤医が3人と、前年同期と比べ7人減少。小児科、時間外救急を休止。公設民営化を模索しているが、はかどらず。

【富山県】開業医との連携

富山県南砺市では、開業医らでつくるNPO法人「南砺市医師会」が公立南砺中央病院に週3日、医師を派遣、病院の夜間救急業務の一部を担当している。勤務医の負担軽減に成果。

【大阪府】女性医師の子育て支援

大阪厚生年金病院は、育休3年、子どもが小学校を卒業するまでは週30時間の短時間労働などの待遇で育児支援。医師確保につながっているほか、研修医も増えた。

【島根県】統計値は高くても・・・・!

島根県・出雲地域の人口10万人対医療施設従事医師数は360人だが、雲南地域は133人。“地域内”格差も問題となっている。

【愛媛県】

・西条市立周桑病院
06年に28人いた常勤医が07年6月には15人と激減。
小児科・精神科が休止。

【長崎県】医師派遣システム

長崎県では離島からの要請を踏まえ、医師を公募、県職員として採用し、派遣。一定期間勤務すると、有給で自主研修ができる。04年度から6人の実績。

【熊本県】

・山鹿市立病院
07年度から平日の外来受け付けは午前中だけ、土曜日は休診となるなど、診療時間・内容が縮小。

<膨らむ不足感!>
日赤病院の調査(06年)によると、92病院のうち62病院で医師不足を訴え、不足数は30診療科の437人に上った。診療科別では内科が30病院で79人と多く、産婦人科、小児科、麻酔科と続く。医労連の施設調査でも、3年間に38病院で159人の医師が減った。

<欧米主要国下回る>

Q:日本の医師数は少ないのかな
A:人口に対する医師の割合はOECD諸国の平均以下。医師の総数は年々、増えてはいるんだが。

Q:でも、各地で医師が不足していると聞いてるけれど…
A:勤務医師数は増えているが、都心部の人気病院に集まっていて、地方の公立病院では勤務医が辞めている点が問題になっているんだ。勤務医を辞めて開業する医師も多い。
Q:偏りや地域差があるんだね。

<過酷な労働が拍車>

Q:勤務医ってそんなに忙しいの?
A:週一回以上宿直している医師は3割。医師の8割以上が宿直明け後も休憩せず、通常勤務に就いているそうだ。

Q:たまりかねて職場を去れば、人手不足でさらに過重労働の悪循環だね…
A:研修の新制度も影響しているんだ。04年度から新卒医師に2年間の研修が義務づけられ、地方の大学病院ではなく都会の有名病院で研修する者が増加。新人供給が止まった大学病院が、関連病院に派遣していた医師を引き揚げたんだ。

Q:女性医師も辞めていくって聞いてるけど…
A:女性医師が自分の出産や育児で職を離れるケースもある。

  育休制度が実施されている  67.2%
  労働時間の配慮        34.5%
  院内保育所           20・0%
  子育て医師への手当支給   5.5%

Q:対策はまだ十分ではないね。

【あの手この手】

・院内保育

05年の厚労省調査では9026病院中、院内保育を行っているのは2018病院だった。

・奨学金

県内病院での一定期間勤務などを条件に奨学金の返済を免除。
山形、三重、佐賀など実施自治体も多い。

・医学部の定員増

08年度から青森、岩手、岐阜、長野など10県で定員最大10人増。

・大学入試での地域枠

地元出身者限定の募集定員。実施大は年々増加。07年度は19大(募集人員165人)。

   2001  2大学
   2002  4大学
   2003  4大学
   2004  5大学
   2005  7大学
   2006 16大学
   2007 19大学

(中日サンデー版、2007年6月10日)

****** 共同通信、2007年6月12日

「過去半年に休診」が要件 国が医師派遣で新制度 大病院、退職者から人材

 厚生労働省は11日、政府、与党が5月末にまとめた緊急医師確保対策の一環として、人材不足に悩む医療機関への医師派遣の具体的なルールを盛り込んだ新たな制度を決めた。

 医師派遣を要請できる病院の要件は「過去6カ月以内に休診に追い込まれた診療科がある」などで、人材は全国規模の病院グループに提供を求めたり、医療機関の退職者から公募したりして集める。

 12日以降、新制度に基づいて都道府県から派遣要請を受け付ける。6項目にわたる政府の医師確保対策のうち、内容が具体化したのは初めて。ただ人員に余裕がある病院は少なく、必要な医師を確保できるかどうかは未知数だ。

 新制度は「緊急臨時的医師派遣システム」。医師派遣先の要件は(1)(都道府県をブロック別に分けた)2次医療圏内の中核病院(2)過去6カ月以内に休診に追い込まれた、もしくは今後6カ月以内に休診に追い込まれる診療科がある(3)大学に派遣を依頼したり、求人広告を出しても医師を確保できない-など。

 これらの要件について都道府県の医療対策協議会が検討し、派遣が必要と判断した場合に厚労省に要請。同省などがあらためて必要性や優先順位を検討する。

 派遣のための人材は国立病院機構や日本赤十字社など全国に病院を持つ組織にリストアップしてもらうほか、医療機関を退職した医師から公募。複数の医師によるローテーション制や、退職医師への研修を行うことも検討する。

 厚労省は11日、病院団体の代表者らでつくる「地域医療支援中央会議」に新制度について説明、了承された。会議に出席した柳沢伯夫(やなぎさわ・はくお)厚労相は「地域住民の医療サービス確保が待ったなしとなっていることをご理解いただきたい」と出席者に協力を求めた。

▽政府の緊急医師確保対策

 政府の緊急医師確保対策 政府、与党が5月31日に緊急に公表した6項目の対策。短期的な取り組みとして「国レベルでの緊急臨時的医師派遣システムの構築」を盛り込んだ。ほかには勤務医の労働環境整備、女性医師の就労支援、臨床研修病院の定員見直しなど。これまでに政府が提唱していた内容と重複するものが多く「実効性は未知数で参院選を控えたアピールにすぎない」との批判もある。

(共同通信、2007年6月12日)


大学や地域の現状踏まえ制度の是正を~新医師臨床研修制度でヒアリング(医療タイムス)

2007年06月08日 | 地域医療

コメント(私見):

大学病院は3次医療を担っているので、地域の2次病院ではとても手に負えないような重症の患者さん達が県内各地からどんどん紹介されて来ます。また、大学の医学部では基礎的な医学の研究が行われています。

ですから、一般の2次病院では扱うことのできない高度で最先端の医療を学ぶためには、大学病院での修業が不可欠ですし、基礎的な医学研究に従事するためには大学に在籍する必要があります。

しかし、一般のよくある疾患は、大学病院での診療の対象とはならないので、大学病院における臨床研修ではあまり多く経験できないかもしれません。

初期臨床研修では、プライマリー・ケアの修得のために経験できる症例数が十分にあり、指導体制の整った病院に、研修医が自然に多く集まると思います。都会の有名病院では、それらの条件がちゃんと満たされているからこそ、多くの研修医が集まっているんだと思います。

初期臨床研修の中で、産婦人科研修は2年目に行われますので、すでに1年間かけて内科や外科を回っていますし、当直業務や救急外来なども多く経験してます。ですから、当科では、産婦人科研修中に、各研修医の技術修得状況に応じて、妊婦検診や帝王切開執刀など、指導医の監督下にいろいろと実践してもらっています。実際に産婦人科診療に参加して、産婦人科に興味を示してくれる研修医もいます。その中で、産婦人科医への道を自ら選んでくれる研修医が、年に1人でも出現してくれたら、最高にうれしく思います。

****** 医療タイムス、2007年5月29日

大学や地域の現状踏まえ制度の是正を
~新医師臨床研修制度でヒアリング

 医道審議会医師分科会医師臨床研修部会は25日、4人の参考人からヒアリングを行った。その中で大学病院の代表参考人からは、大学病院を中心とした臨床研修制度への是正や、ある程度地域の状況を踏まえたマッチング制度を求める意見が出た。

 小西郁生信州大学医学部産婦人科学講座教授(卒後臨床研修センター長)は、新医師臨床研修制度の開始によって、産婦人科の不足が一挙に顕在化したことを指摘し、「厚生労働省を深くうらんでいるが、研修医のプライマリ・ケアの修得など優れた面もある。元の卒業後即専門研修に戻したいとは思わない」と評価した上で、新制度の一層の充実を求めた。そのための課題としては、「将来の専門性が決まっていない中で、次々と診療科を移るローテーション研修では、モチベーションを保てない研修医が多い」と述べた。また、「現在の実力ある医師は、大学病院中心の臨床研修で鍛えられてきた。大学離れを促進する研修制度は、若手医師全体のレベル低下を招く危険性がある」とし、大学病院を中心に据えた臨床研修制度とする必要性を訴えた。

(医療タイムス、2007年5月29日)

****** Japan Medicine、2007年5月28日

厚労省・医師臨床研修部会 産科、小児科等は別立ての研修方式採用を 参考人からヒアリング

 厚生労働省の医道審議会医師分科会・医師臨床研修部会は25日、産婦人科、小児科、精神科に携わる参考人を呼びヒアリングした。各診療科の参考人は、全人的な医療を提供する医師の育成を目指す新医師臨床研修制度に一定の理解を示した。ただ、産婦人科、小児科などは別立ての研修方式を採用する必要性を指摘するなど、診療科の特殊性に応じた研修体制を求める声もあがった。

 信州大医学部産科婦人科学講座の小西郁生教授は、新医師臨床研修制度導入のデメリットとして、<1>専門性が定まらず、モチベーションを保てない<2>一般臨床研修病院だけで研修し、一人前になった錯覚を起こす研修医の存在を指摘。信州大では、モチベーションの低下した研修医に対し、メンタルヘルスケアを充実することで対応している。 また一人前になったと錯覚する研修医については、若手医師全体のレベル低下が危惧されるとし、「厚労省と大学病院が一緒になって、若手医師の研修システムをつくる時期が到来したのではないか」と述べた。

  新潟大大学院医歯学総合研究科の内山聖氏(小児科教授、医学部長)も、新制度の今後の課題について、「地域での小児科医確保が難しい状況。そのため、ある程度、人口、医師数を考えて、地域の定員を設けてもらいたい」と要請した。さらに、小児科、産科などは他科にまたがる“何でもやれる医師”は不要とし、「別立ての研修制度が必要ではないか」と述べた。

  大宮厚生病院の小島卓也副院長は、新制度が精神科に与えた影響について、「約2割の研修医が、うつ病などの精神問題を経験しており、精神科指導医の支援が有用だった」と振り返った。

  ヒアリング終了後に国立病院機構の矢崎義雄理事長は、新制度下での研修医について、「売り手市場のため学生気分が抜けず、医学部8年制のような傾向がある。定員を一度に下げる訳にはいかないが、全体として考え直していかなければならない」と提案した。

(Japan Medicine、2007年5月28日)

****** Online Med、2007年5月25日

新医師臨床研修 産科・小児科・精神科からヒアリング、制度は維持すべきの意見 厚労省部会

小児科・産科に特化したローテーションなど注文

 厚生労働省・医道審議会の医師分科会医師臨床研修部会(部会長:斎藤英彦:名古屋セントラル病院長)は5月25日、産婦人科、小児科、精神科の各学会から臨床研修制度に対する考え方をヒアリング。各学会とも、修正すべき点を指摘しながらも、臨床研修制度そのものは維持すべきものとの考えを示しました。

 産婦人科では信州大学医学部産科婦人科学講座教授で付属病院卒後臨床研修センター長の小西氏が、新制度の前には毎年350人程度いた産婦人科学会に加入して研修に入る医師数が、新制度の導入にともなって2年間はゼロとなり、700人程度が入ってこなくなったことが現在の産婦人科医師の不足の大きな要因としました。
 また、新臨床研修制度になって産婦人科研修に入る医師数は300人以下となり以前に比べて2割減少していることも示しました。
 こうした状況に「厚生労働省をうらんでいる」としましたが、臨床研修制度自体はプライマリケア修得の面で評価でき、産婦人科医師の処遇問題を浮き彫りにした面もあるとして、維持すべきものとしました。
 修正すべき点としては、新制度の欠点とされる研修医のモチベーションの低下に対し、「将来の専門性を明確にしたうえでの初期研修」とすることなど、スーパーローテーション研修の充実を求めました。

 小児科では、新潟大学医学部小児科教授で医学部長の内山氏が、新潟県は医学部入学者数の割合が少なく、そのため医師数も少なくなっている中で、小児科医確保策として、県内の病院について、地域ごとの小児科医の集中化を積極的に進めていることを紹介、臨床研修制度については、マッチングに地域性を導入すること、小児科と産科の専攻を希望する研修医については両科を中心とした研修方式とすることを求めました。
 小児科と産科では、「他科にまたがる何でもやれる医師は不要」とし、小児科であれば皮膚科でアトピーを研修したり耳鼻咽喉科を研修することが有用になるとしました。

 精神科では、大宮厚生病院副院長で精神科7者懇談会委員長の小島氏が、研修医に対するアンケート調査の結果、87人中18人、約2割が「最近1年間に1週間以上うつ状態になったことがある」と回答したことを明らかにしました。一般企業の新入社員の状況と比べて多いとし、原因は力のない指導医など研修カリキュラムの問題が影響しているとしました。ただ、研修の中での精神科の指導医によるサポートが有用に働いたことも指摘しました。
 精神科研修では、研修期間1ヵ月が多い中で、2ヵ月以上になると満足度・有用度・参加度が高くなると指摘しました。

(Online Med、2007年5月25日)


医療現場-道職員としての医師派遣 (札幌テレビ放送)

2007年06月04日 | 地域医療

コメント(私見):

宮城県では、従来から頼りにしてきた東北大学の医局人事にだんだん依存できなくなってきたという事情から、2年前より『県庁医局』という新しい医師派遣システムを開始し、県で独自に医師を8人採用し、すでにかなりの成果が上がっているようです。採用された8人は、30代から50代の即戦力ばかりで、現在、それぞれ、地域にとけこんで大活躍してらっしゃるようです。

県の職員として採用され、3年間のうちの2年間は県より指定された病院で働き、残りの1年間は有給扱いで自由な研修ができるというシステムとのことです。県の担当職員が、全国各地で開催されている学会に出向き、直接、医師の勧誘をしているそうです。

これだけの成果が上がっていれば、おそらく、全国各地の医師不足で悩む県の担当部署からは、相当に注目されていることでしょう。このシステムで採用された医師たちは即戦力であり、一人前の医師を養成するために要する莫大な時間と費用を考えれば、3年間のうちの1年間の研修費用など非常に安いものです。

北海道でも、宮城県と同様に、「道職員として医師を採用し派遣する」方式の医師確保策をスタートさせたというローカル・ニュースの紹介です。

この方式の大きな問題点は、全体として不足している少ない医師の奪い合いですから、どこかの県が大いに頑張って、有能な医師の引き抜きに成功すれば、引き抜かれた方の県にとっては、地域医療の貴重な戦力が他県に奪われることになってしまい、医師不足で悩む地域住民がよりいっそう困窮する原因ともなり得ます。

****** 札幌テレビ放送、2007年5月31日
http://www.stv.ne.jp/tv/dnews/past/index.html

医療現場-道職員としての医師派遣

【スタジオ】
「変わる医療現場」です。"医師不足"の解消に向けて道庁が動き始めました。その策の一つが高橋知事が公約した「道職員として医師を採用し派遣する」方法です。「医師求む」のこのポスター。実は宮城県のものですが、2年前にスタートして既に成果を上げています。北海道でも参考になる先進例を取材しました。

【伊達正宗の像】
伊達政宗が街を見下ろす宮城県。

【2006年・宮城県の「辞令」】
この宮城県は2年間で独自に8人の医師を「県職員」として採用・内定し医師が足りない市町村病院に派遣しました。

【東北大学】
それまで頼ってきた東北大学には依存できなくなってきたからです

【七ケ宿町へ】
その第一号の医師を山間の町に訪ねました。

【水田から診療所】
仙台から車で1時間。人口1870人の七ケ宿町の診療所。

【診療風景】
長島高宏医師(34)「何か変わりはありましたか?」
男性患者「何もないのですが立っていると安定しない。フラフラする」

長島高宏医師34歳です。

【診療所のロビー】
町の高齢化率は県内一。役場が総合医療のできる医師を県に希望して派遣されました。

【所長室で辞令を見せてくれる】
見せてくれたのは2枚ある「辞令」です。

長島高宏医師
「県庁の身分として主任主査ですね/こちらが七ケ宿町から」 県職員であり町の職員。給与は町から受け取っています。

【X線撮影】
長島さんはもともと内科医です。

長島高宏医師、X線撮影 「息を大きく吸ってください」

診療所ではX線撮影のほか整形外科の関節内注射も手がけます。

Q どこが悪いのですか?

農家の男性80歳:「肩。上にあがらなくなった。過労だな」

長島高宏医師34歳:「やはり地域医療やる上では皮膚とか整形の勉強が大事なので、
旭川厚生の時に勉強して関節内注射も教えて頂いてできるようにしています」

【診察風景】
専門医教育を基本とする大学医局には、医師の派遣が期待できない診療所です。

【写真‐富良野勤務時代】
もともと地域医療をやりたかった長島さん。最初は北海道の病院で研修しました。

【カルテを書く長島医師】
その後、たまたまインターネットで見た宮城県のドクターバンクに応募したのです。

長島高宏医師:「県の職員として働いているので県の後ろ盾がある。何か困ったときに、手助けが欲しいときは県が後方支援してくれる。県が医局のような捕らえ方でやっている」

【仙台・宮城県庁】
"県庁医局"。長島さんがそう呼んだ宮城県庁です。

【医療整備課に入る】
「医療整備課・企画推進班」。それが"県庁医局"の心臓部です。

【書類を持ってくる課長】
職員として医師を採用する「ドクターバンク」事業は、全国にありますが宮城は有数の実績を持っています。

佐々木 淳課長:「H17年18年あわせて8人。予想外に応募して頂いたと・・・」

【採用資料】
採用が決まった8人は30代から50代の即戦力ばかりです。

Q ポイントは何か?
佐々木 淳課長:「県職員として採用される事と有給研修/それが魅力だと・・・」

【宮城のシステム】
宮城ドクターバンクの仕組みです。「3年1単位」で医師を県職員として採用します。このうち2年間は指定の施設に派遣しますが、残りの1年間は、有給扱いで自由な研修ができます。原則6年、延長可能で職場を移っても退職金が加算される所が大学医局よりも高待遇です。

【東北自動車道】
今度は、仙台から高速で30分の拠点病院に派遣された医師を訪ねました。

【大崎市民病院】
ここは東北大学からの医師派遣が不安定な病院でした。

【小児科と産婦人科カンファレンス】
小児科は、医師が1人になったこともありました。そこで、ドクターバンクに依頼して派遣されたのが岩城利充医師57歳でした。

【廊下と病棟での診察】
岩城さんは信州大学を出た後、名古屋市立大学の医局に入って岐阜の病院に勤務していました。しかし、あるきっかけ1つで宮城に移る決心をしたといいます

岩城利充医師:「宮崎で整備課の局長にあって話を聞いて一発で決めたので」

つまり、九州で開かれた学会に宮城県の担当者がリクルートに出向いていたというのです。

【仙台での糖尿病学会】
実際、岩城医師を取材した同じ日。仙台で開かれた学会の会場では宮城県が、採用活動を展開していました。

県職員・山崎さん:「宮城県ですが、県内の病院が医師不足なものですから・・・」
「よろしくお願いします」

こうした学会への出張勧誘を宮城県では年4回繰り広げています。

【知事からの手紙】
さらに、この手紙。岩城さんが採用前に受け取った知事の直筆でした。

岩城利充医師:「(手紙が)なくても来たと思うが宮城県の姿勢が象徴されている直筆だし・・・」

【未熟児室で若い医師と】
57歳になったいまも月1回の当直をしていますが、ドクターバンクには満足しているといいます。

岩城利充医師:「去年採用された医師の活躍みると、彼らが採用された所には大学からいかなかった所ばかり。しかしそこで働いている人達は満足感を持ってやっている。それはドクターバンク制度が存在価値を持っていると認めてよいと思う」

【七ケ宿町の田植え】
【車で移動する長島医師】
再び山間の七ケ宿町に派遣された長島高宏医師です。

【車に積まれた往診バッグ】
使い込まれたカバンを持って往診に向かっていました。

【101歳の女性宅に到着】
長島高宏医師:「どうも、こんにちは・・・」

そこは80歳の嫁が101歳の姑を介護している家でした。

長島高宏医師:「ヨシさんお腹痛くないかい?」
101歳姑:「痛くない」

診療所への派遣には満足しているという長島さん。3年目の有給研修は取らずに診療所に残りたいと考え始めています。

Q いつまでいるのか?
長島高宏医師:「この地域に馴染んで患者に気に入って頂ければ居られるだけいたいという気持ちでやっている」

Q ドクターバンクを使って?
「そうですね、ハイ」

【走り去る往診の車】
県職員の2人の医師が上げた"県庁医局"成功の秘訣。それは"県の熱意"と"やりがい"そして"信頼関係"でした。

(札幌テレビ放送、2007年5月31日)

****** 札幌テレビ放送、2007年6月1日http://www.stv.ne.jp/news/item/20070601185909/

道庁に"医局"が誕生

医師不足問題―。"道庁医局"ができました。"医師確保"を最重要課題に掲げた高橋知事が「医師確保推進室」を道庁に作りました。今年度中に、5人の"道職員医師"採用を目指すといいます。

(高橋はるみ知事会見) 「道職員としての医師の採用、地域に派遣をすると…」
再選直後の記者会見で高橋はるみ知事が設置を表明した医師確保の専門組織―。急ごしらえな表示ですが、きょうの道庁組織・機構改革で新たに誕生しました。担当職員数は1人から6人に増加―。すぐに動き出すといいます。

(高橋はるみ知事) 「予算が通れば、あるいは予算が通ることを見越した下準備は今もう既に始めている所です」

道庁が目指すのは、道が独自に医師を採用・派遣する仕組みづくりです。これまで、病院の医師の多くは、大学の医局から派遣されてきました。それに期待できなくなったいま、道庁自身が「医局」になろうというのです。具体的には、道職員としての「身分を保障」した上で、2年間は医師不足病院に派遣し、1年間は有給で、希望する研修を約束しようというのです。

実際に宮城県では、この方法で、2年間に8人を採用・内定しています。道もこの仕組みに倣う考えです。勤務年限に応じた退職金も出ることから、医局派遣で病院を転々とした経験のある医師はこう評価します。

(今村啓作医師) 「日赤病院、厚生病院、市立病院、町立病院と回るうちに退職金はグチャグチャだから、その都度10万、20万もらうから。それで切れてしまう。そうではなくなるのなら身分保障はひとつ魅力だ」

道は今年度中に5人の道職員医師の採用を目標にする、といいます。目的をそのまま掲げた道の組織が動き出しました。

(札幌テレビ放送、2007年6月1日)


現場からの疑問の声

2007年06月02日 | 地域医療

コメント(私見):

「政府の医師不足対策」の話題が、マスコミでも連日大きく取り上げられていますが、実効性にはいろいろと疑問があり、『地方向けの選挙対策キャンペーン』の色合いが非常に濃いようにも感じます。

この「政府の医師不足対策」の大きな柱の一つとして、『国が主導して緊急に医師を派遣する体制をつくる』という政策が掲げられています。しかし、医師派遣元に想定されている国立病院自体が深刻な医師不足に陥っていますし、そもそも、どこにも医師が余ってない以上、この政策の実効性は乏しいと思われます。

若手医師の地方への誘導』にしても、ベテラン医師がどんどん逃げ出しているような医療崩壊地域に、単なる数合わせだけで研修医を強制的に配置しても、まともな研修ができる筈ありませんし、義務の研修期間が過ぎれば、誰も地域に残ろうとはしないでしょう。

国際比較でも、我が国の医師の絶対数が不足していることは明らかです。この医師の絶対数が不足している問題を放置したままでは、目先の対症療法だけをいくら繰り返しても、「地方における医師不足の問題」は永久に解決しないと思われます。

****** 産経新聞、2007年6月1日

医師不足深刻な地方 国が派遣体制整備

 政府・与党は31日、産科や小児科など地方を中心に深刻化する医師不足を解決するための「緊急医師確保対策」をまとめた。国レベルの医師派遣システムの構築や大学医学部の地域枠拡充などが柱。6月にも取りまとめる政府の「骨太の方針」や夏の参院選の与党公約に反映させる。緊急対策では、都道府県からの求めに応じ、医師を不足する地域に臨時に派遣できるよう国レベルで「医師バンク」を設置。登録者は引退した勤務医らを想定している。

 さらに、中長期対策として、研修医が集中する大都市圏の臨床研修病院の定員を減らすことで、若手医師を地方に誘導。大学医学部の地域枠を拡大し、医師不足の地域や診療科で勤務する医師には奨学金返還を免除する。

 安倍晋三首相は31日、首相官邸で開かれた政府・与党協議会で、「多くの国民が地域の医療が確かに改善されたと実感し、安心してもらえるよう全力で取り組む」と表明。政府は今後、省庁横断のアクションプログラムを策定して対策の具体化を進める。

■対策のポイント

・国レベルで医師を派遣する体制の整備

・勤務医の過重労働解消のため、医師や看護師などの業務分担の見直し

・院内保育所の整備など女性医師向けの職場環境改善

・医師臨床研修病院の定員見直し

・産科補償制度など医療リスクへの支援

・大学医学部地域枠を拡充し、医師不足の地域や診療科で勤務する医師の奨学金免除

(産経新聞、2007年6月1日)

****** 読売新聞、2007年5月31日

研修医の都市集中是正へ

政府・与党 医師確保対策決定

 政府・与党は31日午前、首相官邸で、医師確保対策に関する協議会を開き、医師不足地域に対する「緊急臨時的医師派遣システムの構築」など6項目の緊急医師確保対策を決めた。

 政府が6月に決定する「経済財政運営と構造改革に関する基本方針」(骨太の方針)や参院選公約にこうした内容を盛り込む考えだ。

 対策は、〈1〉現役を退いた医師などを中心とした「医師バンク」を作って医師不足地域に派遣する〈2〉研修医の都市集中を是正するため、都市部の臨床研修病院の定員を見直す〈3〉医学部を卒業後、へき地などの勤務を義務づける「自治医科大学方式」を全国の医学部に拡大する――などが中心だ。

(読売新聞、2007年5月31日)

****** 共同通信、2007年6月1日

絶対数が足りない 医学部の定員増が不可欠 核心評論「政府の医師不足対策」

 「医師不足が深刻な地域に重点的に配置するといっても、どこにも医師は余っていない」-。政府、与党が31日まとめた医師不足対策に、現場からはこんな声が聞こえてきた。

 対策の柱は(1)国が主導して緊急に医師を派遣する体制をつくる(2)医療従事者の役割を見直して医師の負担を軽減する(3)離職した女性医師の復職を支援する-などだ。

 だが、医師不足は地域的な偏在や特定の診療科だけではない。医療法の配置基準を常勤医師で満たす病院は全国でわずか36%。勤務医も圧倒的に足りないのが実態だ。その背景には医師数そのものの絶対的不足がある。

 政府は「将来の医師数は過剰になる」として大学医学部の定員を削減しているが、地域医療が崩壊しつつある今こそ、逆に大幅な定員増に方向転換する必要がある。

 日本の医師数は現在約27万人。だが、人口10万人当たりの医師数では経済協力開発機構(OECD)30カ国で27位(2004年)。加盟国の平均には実数で約12万人も足りない。

 これに対して、国公私立の大学医学部合計の入学定員は現在7600人余りで、死亡や引退の医師を差し引くと、毎年約3500-4000人の増加にすぎない。現在のOECD平均に達するだけで30年以上かかる。

 こうした現状にもかかわらず、政府は1980年代半ばから一貫して医学部定員の削減に取り組んできた。「医師が増えると医療費も増える」のが理由だ。97年には閣議決定までしている。

 この結果、医学部定員はピークの84年の約8300人に比べると約8%削減されたままだ。現在の医師不足は、そのツケが回ってきたという側面も否定できない。

 ところが、厚生労働省の「医師の需給に関する検討会」が昨年夏にまとめた報告書でも、「医学部定員の増加は短期的には効果が見られず、中長期的には医師過剰を来す」とされた。医師不足が叫ばれていた最中だっただけに、その認識には率直にいって違和感を覚えた。この後、政府は深刻な東北など10県を対象に「調整」として10年間に限り計110人の定員増を認めたが、とてもその程度では追いつかない。

 日本の医療費は、国内総生産(GDP)に占める割合でみるとOECDの中で18位(2005年)と低いが、世界保健機関(WHO)の調査では健康寿命は世界一(02年)だ。

 医療従事者の努力もあって、少ない医療費で高水準の医療を実現しているわけだが、これも「もう限界」と多くは指摘する。高齢化や技術革新による医療の質の向上などで、仕事量が飛躍的に増大しているからだ。

 GDP比の医療費が2000年ごろまで日本と同じように低かった英国は、入院待機患者が130万人などと悲惨な状況に陥ったため、結局、医療費を1.5倍に、医学部定員も5割増員せざるを得なくなった。

 日本もこのままでは英国の轍(てつ)を踏むことになる。もちろん、目の前の深刻な事態に対する有効な対策は必要だ。だが、それと同時にきちっとした長期的な対策がなければ、対症療法を繰り返すことになりかねない。

(共同通信、2007年6月1日)

****** 共同通信、2007年6月1日

「現実知らず」と医療現場 医師確保策、実効性に疑問 「大型サイド」

 国による医師の緊急派遣などを柱とする政府の緊急医師確保対策が31日、決まった。参院選を控えて急きょまとめられた側面が強く、医療現場からは「現実を知らない」などと実効性への疑問の声が上がった。

 「全体的に徴兵制度のような印象がある」-。医師不足が深刻な石川県・能登地方の中核病院、恵寿(けいじゅ)総合病院(同県七尾市)の神野正博(かんの・まさひろ)院長は、こう指摘する。「国に『行け』と言われて、医師が行くだろうか。派遣先に魅力がないと難しい。やりがいのある仕事内容や高い給与だけでなく、医師の子どもの教育サポートなど自治体も努力する必要がある」と話す。

 同病院は心臓病治療で有名な米国の病院と医師研修教育などで提携、6月には心臓血管センターを開設する。こうした先端医療で医師を集め、今秋から能登への医師派遣に取り組む計画だ。

 地域医療の担い手をつくる自治医科大卒ですら、出身県やへき地での計9年間の勤務義務を果たさなかった医師がこれまでに約80人も。この場合、多額の修学資金を返還しなければならないが、返還後、任期途中で専門医や開業医に転向していった。

 全国に146カ所ある国立病院は、今回の対策の医師派遣元に想定されている。しかし昨秋、国立病院同士で、東京などから医師不足が深刻な地方に医師を派遣する制度を導入したところ、医師に断られるケースが続出し、半年で中止した。

 「(対策にある)国レベルで派遣するって、具体的にどこから派遣するつもりなんでしょうか」。全国公立病院連盟会長の辺見公雄(へんみ・きみお)・赤穂市民病院(兵庫県)院長は首をひねる。国立病院間での異動も困難な状況で、派遣できるような医療機関は思い当たらない。「具体名を挙げない限り、何ら変わりませんよ」。

 研修医の都市部への集中を避けるための臨床研修病院の定員見直しについても「減らされる病院からは反発も出る。実現は難しい」とみる。

 岩手県宮古市の県立宮古病院の医師確保に奔走してきた熊坂義裕(くまさか・よしひろ )宮古市長も「国は現実を知らない。派遣する医師はどこにいるのか。臨床研修制度の変更で大学病院の医師派遣機能が壊れ、東京ですらお産を休止、縮小する病院が出る始末だ」とため息をつく。

 国民の求める医療水準が上がり、がんの死亡が増える中、医師の絶対数が足りないことを国はまず認めるべきだと主張。全体の数が増えない限り、地方にまで医師は回ってこないと考えている。

 青森県平川市の国民健康保険平川病院は昨年末から常勤医の退職が相次ぎ、6月からは無床診療所に。病院関係者は「対策がもっと早ければ」と唇をかむ。

 一方、福島県立医大病院の横山斉副病院長は「問題のポイントをムラなく押さえている」と評価。「医療事情は地域ごとに違う。各地での取り組みがあることを念頭に国は長期的、継続的に支援してほしい」と今後に期待する。

 同医大では、学生・研修医を対象に地元でのホームステイを昨年から始めた。病院と官舎の往復になりがちな研修医らに地域への愛着を持ってもらう狙い。「医師は来てくれるもの」「市長さんが連れてくるもの」という考えから「地域で育てるもの」という意識に変わらないと、派遣されて来ても定着しないと考えている。

(共同通信、2007年6月1日)

****** 朝日新聞、2007年5月22日

ドキュメント 医療危機 (32) 編集委員・田辺功

「安全」には人もお金も必要

 3月15日(木)川崎。

 川崎市立井田病院内科の鈴木厚・参事(54)=4月から地域医療部長=を訪ねた。北里大卒。昨年秋「崩壊する日本の医療」を出版した論客だ。

 ズバリ、崩壊を止めるには。「厚生労働省が医療費亡国論を捨て、医療に投資すること」と、明快だった。

 「医療は安全保障」が持論だ。自衛隊員も警察官も約27万人。費用は全部、税金でまかなわれている。医師もほぼ同数の約28万人だが、病院は診療収入でやっている。「国民は、警察とおなじで無料が当然と思っている。医療費から医師、看護師の給料、機械代や材料費が出ていることを知らない」

 医療の質を上げ、安全にするには人手や経費がかかる。米国では医療事故が問題になると、医師や看護師を増やした。ところが、厚労省は人員はそのままで、対策を指示しても費用は出さない。医師や看護師の安全のためにするエイズウイルス検査さえ病院の持ち出しだ。

 厚労省が決めている医療費の値段は諸外国に比べて格段に安いばかりか、他分野の国内料金よりも安い。長期療養型の病床が1日3食介護つきで約8千円だ。一番値切られた病床は何と3千円。ビジネスホテル以下で、明らかに「病院いじめ」政策だ。

 「病院の食事はまずい」といわれる。鈴木さんの調べでは、刑務所の食事の材料費は1食400円前後、学校給食は300円ほど。病院給食費は640円だが、人件費を引くと250円。刑務所や学校より安かった。

 「福祉目的の消費税で医療費を増やす」「医療費に原価方式を導入する」などを鈴木さんは提案する。

(朝日新聞、2007年5月22日)<script src="http://www.assoc-amazon.jp/s/link-enhancer?tag=tyamablogocnn-22&amp;o=9" type="text/javascript"></script> <noscript></noscript>


書類処理作業の増大

2007年05月31日 | 地域医療

勤務医の過重労働の要因の一つに、書類処理作業の増大があります。

外来診療、病棟回診、手術、分娩立会いと、忙しく働いている医師ほど、その仕事量に比例して、煩雑な事務量が爆発的に増大していきます。ただでさえ診療で手一杯で過労に陥っている医師に、書類処理作業の重圧がのしかかります。

例えば、1件手術を実施するとなると、手術の前には、手術に伴う合併症・後遺症などの説明内容に対する同意書、入院診療計画書、輸血・血液製剤使用の承諾書など、山のような書類を作成して、患者さんに一つ一つ署名してもらう必要があります。退院時には、患者さんが、生命保険の入院証明書だとか、職場に出す診断書だとか、1人で何枚もの書類をドサッと持ってきます。

1週間も書類処理を放置しておくと、机の上が書類の山になってしまいます。患者さんからは、『書類はまだですか?』という催促・苦情の電話が毎日何度もあります。以前は、その書類の山の処理のために、たまの休日を丸一日つぶしたり、平日時間外の夜中に病院に出勤して徹夜で書類の山の処理をしてました。

当科では、専属の非常に有能なクラークが書類作成を手伝ってくれるようになって、医師は書類にサインするだけで済むようになり、以前と比べて、書類処理の負担がかなり減って非常に助かっています。

医師不足対策として、国の方からも、最近、いろいろな構想が発表されてますので、そのうち、それらの政策の効果が現れるのかもしれませんが、それまで、病院の方がもってくれるか、わかりません。当面の緊急避難的な生き残り策として、各病院で、地域や病院の実情に応じて、いろいろ創意・工夫をしていく必要があります。


医師人口比:日本、20年に最下位へ OECD30カ国中 (毎日新聞)

2007年05月29日 | 地域医療

大野病院事件にしても、大淀病院事件にしても、広い地域の唯一の基幹病院であるにもかかわらず、産婦人科医がたった一人しか勤務してませんでした。これらの事件は地域の医療システム不備に起因する問題であるにもかかわらず、できる限りの対応をした担当の医師個人が、最高の医療を提供できなかった責任を厳しく追及されています。こういう現状では、地方から医師たちがどんどん逃げ出してしまい、地方の医療崩壊が進行していくのも、当然の現象だと思われます。

医師不足対策の一つとして、医学部を卒業したばかりの若手医師たちを、研修環境の整っていないへき地の医療崩壊地域に強制的に配置して、医師数の地域間格差を是正しようという構想もあるようです。しかし、よくよく考えてみると、その構想って、第二次世界大戦末期に神風特攻隊で多くの若者達の尊い命を犠牲にしたのと全く同じ発想だとは思いませんか? もしも、その政策が本当に実行に移されたとしたら、全国的に大混乱に陥ってしまうのではないか?と危惧します。

現状では、地方病院の研修環境は不十分の場合が多いと思います。若手医師を地方に強制的に配置するのであれば、その前に指導医を地方に十分配置し、若手医師が、地方でも、安心して満足できる研修を受けられる環境の整備が先決だと思われます。

医師数を、経済協力開発機構(OECD)加盟30カ国中の最低ランクの低い水準に抑制したままで、医師不足の問題を一時しのぎの政策だけで解決しようとしても、長期的には根本的解決に至るのが難しい気もします。

****** 毎日新聞、2007年5月28日

医師人口比:日本、20年に最下位へ OECD30カ国中

 人口1000人当たりの日本の医師数が、2020年には経済協力開発機構(OECD)加盟30カ国中最下位に転落する恐れがあることが、近藤克則・日本福祉大教授(社会疫学)の試算で分かった。より下位の韓国など3カ国の増加率が日本を大きく上回るためだ。日本各地で深刻化する医師不足について、国は「医師の地域偏在が原因で、全体としては足りている」との姿勢だが、国際水準から懸け離れた医師数の少なさが浮かんだ。

 OECDによると、診療に従事する03年の日本の医師数(診療医師数)は人口1000人あたり2人。OECD平均の2.9人に遠く及ばず、加盟国中27位の少なさで、▽韓国1.6人▽メキシコ1.5人▽トルコ1.4人--の3カ国を上回っているにすぎない。

 一方、診療医師数の年平均増加率(90~03年)はメキシコ3.2%、トルコ3.5%、韓国は5.5%に達する。日本は1.26%と大幅に低く、OECD各国中でも最低レベルにとどまる。各国とも医療の高度化や高齢化に対応して医師数を伸ばしているが、日本は「医師が過剰になる」として、養成数を抑制する政策を続けているためだ。

 近藤教授は、現状の増加率が続くと仮定し、人口1000人あたりの診療医師数の変化を試算した。09年に韓国に抜かれ、19年にメキシコ、20年にはトルコにも抜かれるとの結果になった。30年には韓国6.79人、メキシコ3.51人、トルコ3.54人になるが、日本は2.80人で、20年以上たっても現在のOECD平均にすら届かない。

 近藤教授は「OECDは『医療費を低く抑えると、医療の質の低下を招き、人材確保も困難になる』と指摘している。政府は医療費を抑えるため、医師数を抑え続けてきたが、もう限界だ。少ない医師数でやれるというなら、根拠や戦略を示すべきだ」と批判している。【鯨岡秀紀】

(毎日新聞、2007年5月28日)

****** 毎日新聞、2007年5月28日

医師不足:へき地に研修医誘導 大都市圏の枠削減--政府・与党対策原案

 政府・与党が31日の医師確保対策に関する協議会で決定する医師不足対策の原案が27日、明らかになった。対策は6項目で、地方の医師不足を招いたとされる臨床研修制度に関し、研修医が集中する大都市圏の定員を減らし、若手をへき地勤務へと誘導することなどが目玉。6月に決める「経済財政運営と構造改革に関する基本方針」(骨太の方針)に盛り込んだうえで、与党の参院選公約とする。

 臨床研修制度は、研修医と厚生労働省の指定病院の希望が一致して研修先が決まる。昨年の場合、定員1万1306人に対し、研修先が決まったのは8094人。受け入れ枠が上回り地方には1人もいない指定病院もあった。このため大都市圏の枠を減らす案が浮上。政府・与党はへき地の研修医に対し、進みたい分野に行けるよう留学の機会を与えたり、収入加算などの優遇措置を設ける意向だ。

 医師、看護師、助産師の業務分担の見直しも打ち出した。日本医師会などの反発を避けるために明記は避けたが、医師の業務の一部を看護師らに権限委譲し、医師の負担軽減を図る。【吉田啓志】

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 ■ことば

 ◇医師臨床研修制度

 医師免許取得後2年間の初期研修を終えた研修医を対象に04年に導入。それまで若手医師は所属大学病院の医局の指示で地域内の病院で研修し、地方の病院は研修医の受け入れで要員を満たしていた。しかし、病院が医局の派閥に組み込まれたことや勤務条件の過酷さが問題化し、研修先を原則として選べるようにした。

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 ■「緊急医師確保対策」の骨子

・定年した勤務医らを登録し、緊急の医師不足時には都道府県の要請で国が人材を派遣するシステム構築

・勤務医の過重労働を解消するための勤務環境の整備(交代制勤務の導入▽医師、看護師、助産師らの業務の分担の見直し)

・女性医師の働きやすい環境整備

・研修医の都市への集中の是正

・医療リスクに対する基本体制の整備(訴訟率の高さが医師不足を招いている産科で、医療事故補償制度創設▽診療にかかわる死因を究明する制度をつくる)

・医師不足の地域や診療科で勤務する医師の養成(大学医学部定員の地域枠拡充、国の奨学金返還を免除)

(毎日新聞、2007年5月28日)


若手医師の育成 

2007年05月27日 | 地域医療

私の勤務している病院の場合は、新臨床研修制度が始まり、医学部を卒業したばかりの若手医師が大勢勤務するようになって、以前と比べて、医師の平均年齢が若返り、病院の雰囲気が格段に良くなりました。

この制度が始まったばかりの頃は、研修医に何をどこまでやらせたらいいのか?全くわからず、見学が中心で、研修医達の満足度もかなり低かったのではないかと思います。新制度も4年目となり、スタッフや患者さんも、研修医の存在にかなり慣れてきたと思います。研修内容は年々よくなってきていると実感しています。

スタッフがつききりで手取り足取り指導し、やる気のある研修医には、妊婦検診、1ヶ月検診、分娩介助、帝王切開執刀、病棟回診など、どんどん積極的にやってもらってます。

かなりいろいろな診療が自力でできるようになってきて、面白くなってきた頃に、産婦人科研修は終了してしまいます。最近、産婦人科研修が終わったばかりの研修医のS先生は、産婦人科研修最終日のお別れ食事会で、「産婦人科は全く考えてもなかったけど、やってみたら結構楽しかったです。これで終わっちゃうのはちょっとさみしい気がします。あと何週間か続けたいです。」と言ってくれました。「じゃあ、この続きは、来年からの後期研修でやってみようよ。みんなで待ってるからね。」と言って、別れを惜しみました。

人がいなければ何もできません。人が増えれば未来の夢が広がります。医学生の臨床実習、初期臨床研修、後期臨床研修、サブスペシャリティ専門医研修などを充実させて、地道に少しづつ若手医師をを増やしていくしかないと思っています。