ある産婦人科医のひとりごと

産婦人科医療のあれこれ。日記など。

医師不足 制度再構築は国の責任 (中國新聞)

2007年05月22日 | 地域医療

コメント(私見):

OECD(経済協力開発機構)がまとめた加盟国の人口10万人当たりの医師数のデータを見ると、全体平均は290名ですが日本は200名で、日本の医師数は加盟国の中では最低クラスです。従って、長期的な医師不足対策としては、医師数そのものを増やす(医師養成数を増やす)必要があると思われます。

しかし、今、医学部の入学定員を増やしたとしても、実際にその効果が現れるまでには最低でも10年はかかりますから、現実に目の前で進行している医療崩壊現象に対する即効薬にはなり得ません。

当面の短期的対策としては、現状の少ない医師を何とかうまくやりくりし、地域医療を維持していくようにいろいろ工夫していく必要があります。例えば、医師の拠点病院への集約化、病診連携システムの構築など、さまざまな対策を推進していく必要があります。

個々の病院の対策としては、なるべく多くの後期研修医に来てもらえるように、研修態勢を整備し、新人の勧誘に力を入れていく必要があります。

ただ、この後期研修医獲得競争では、自分の部署だけが独り勝ちすればいいというものではなく、各部署にバランスよく新人が参入してくれないと困ります。例えば、ある病院の産婦人科医が倍増したとしも、その病院の小児科、麻酔科が医師不足で消滅してしまえば、周産期医療を維持することはできません。

参考:医師不足 増やすことも選択肢に (信毎)

****** 中國新聞、2007年5月21日
http://www.chugoku-np.co.jp/Syasetu/Sh200705210084.html

医師不足 制度再構築は国の責任

 深刻な医師不足にどう対処するのか。先週末に開かれた政府、与党の「医師確保対策に関する協議会」で、総合対策を六月上旬までにまとめ、政府の骨太の方針に盛り込むことになった。

 (1)国公立大学の医学部定員に、へき地勤務を条件に入学を認める「地域枠」を新設する(2)国立病院など中核的な拠点病院から、不足地域の病院、診療所へ医師を一年程度の期限付きで派遣する―などが対策の柱。地域枠は四十七都道府県にほぼ五人ずつ、全国で二百五十人程度定員を増やす。

 これまで厚生労働省は「医師の総数は足りており、将来は過剰になる」としてきただけに、定員増を認める方向は一歩前進だが、それにしても遅すぎる。地域で診療できる医師を養成するには、最低でも十年以上はかかるからだ。

 一方で、日本病院会の調査では、宿直をしている全国の病院勤務医のうち、約九割が翌日も通常に仕事をせざるを得ない状況がある。長時間の過酷な労働実態を放置したままでは、不足地域への医師派遣もそう簡単とは思えない。

 そこで、開業医を幅広い疾患に対応できる「総合医」として養成し、救急や往診などもこなしてもらい、病院勤務医の負担を軽減するプランも浮上している。だが、日本医師会は「医師不足は国の責任」と反発しており、難航しそうだ。二〇〇四年からの国の研修制度改革で都市部に若手医師が集中し、過疎地などの不足を招いた背景があるからである。

 リスクが大きいため敬遠され、病院の診療科閉鎖などが起きている小児科や産科には、特に「即効薬」が必要だ。出産・育児などでいったん退いた女性医師の復職を促進する対策や、診療報酬の加算などが検討されている。

 問題は、誰が責任を持って制度の再構築を進めていくかである。診療報酬の見直しや療養病床の削減など、国は自らの医療費負担の削減ばかりに目を向けてきた。これまでの手法を改めるのでなければ説得力に乏しい。思い切って国費を投入し、企業にも負担を求める覚悟がなければ、抜本的な仕組みの実現は難しいだろう。

 医師確保のための法案を、参院選後の臨時国会に提出することも考えられている。国の責任の取り方によっては、地方自治体の財政を一層圧迫することにもなりかねない。本当に実効性のある対策にするには、医療現場や患者らの声も聞き、論議を深めるべきだ。

(中國新聞、2007年5月21日)


医師不足 増やすことも選択肢に (信濃毎日新聞)

2007年05月21日 | 地域医療

コメント(私見):

当県の地元国立大学の初期臨床研修医が年に40人程度で、大学で後期臨床研修を開始した医師の数は、初期臨床研修医の数と比べて、大幅に減っているのが現状のようです。

後期臨床研修を県内で開始した医師の数が、その年の実質的な新たな戦力となります。大学で後期臨床研修を開始する医師の数が激減している以上、大学からの医師派遣には今後あまり期待できそうにありません。

最近は、さまざまな医師確保対策が提案されていますが、結局のところ、少ない後期臨床研修医の各部署間の奪い合いになっていて、『どこかの部署が頑張って医師確保に成功すれば、他の部署は医師不足に陥る!』というのが、全体の構図です。

県全体の医師の数は急には増やせませんから、緊急避難的な対応として、医師の集約化(再配置)は必要ですが、長期的には、県全体の医師の数(後期臨床研修医の数)が増えてくれないことには、医師不足の問題は永久に解決できないと思います。

****** 信濃毎日新聞、2007年5月20日

医師不足 増やすことも選択肢に

 担当科の医師が1人で60日連続勤務した。

 医療が高度化して診療時間は増えているのに、医師の数が増えない。

 女性医師が働きやすい職場は少なく、このままではさらに医師不足が進む。

 いずれも、病院に勤務する医師の生の声だ。日本医労連が全国の病院勤務医の労働実態についてまとめた調査から、負担の重さが浮かび上がってくる。

 長野県内では医師79人が回答を寄せた。時間外労働では、過労死認定基準の「月80時間」を超えた医師は24・6%もいた。1カ月に休んだ日は1日もない医師が15・2%。平均は3・7日だった。

 県内でも医師がいなくなって診療科目を減らしたり、診療日数を減らす病院が相次いでいる。医師の数が多く1人の負担が軽い都市部の病院に移ったり、開業医に転じる医師が多くなるのも無理はない。

 政府与党は18日、医師不足に関する協議会を開いた。6月上旬にも対策をまとめ、参院選公約の「目玉」にする意向でいる。

 命に関わる重要な課題を、小手先の論議で終わらせてはいけない。いま、抜本的な対策を打ち出さないと地方の医療崩壊はますます進む。

 厚生労働省は中核病院への医師の重点配置、出産時の事故に対する無過失補償制度創設などの対策を打ち出しているものの、思わしい成果は上がっていない。今後の論議の重要なポイントは、医師はどれだけ必要なのか、ということだ。

 厚労省は、医師不足は都市部や一定の診療科目に集中する「偏在」が問題だとしている。一部の大学で医学部定員の増員を認めたが、あくまでも暫定措置である。昨年まとめた需給見通しでも、年々医師は増えており長期的には需要と供給のバランスが取れるとしている。

 しかし現場からは、医療の高度専門化で患者や家族への説明に時間がかかる、治療以外の事務仕事や研修の負担が大きい、といった声がある。妊娠や子育てで休む女性医師への対応も考えなければならない。医療訴訟が増え、丁寧な診療が求められている時代には、より多くの医師が必要になる。

 日本はOECD(経済協力開発機構)の加盟国の中でも、人口当たりの医師数が最低クラスだ。このままではいけない。

 厚労省は医療費を抑えるために、医師の増員には慎重だ。医療へのニーズが変わりつつある中、無駄を見直し、医療費の配分をあらためて検討したい。医師の増員も選択肢の1つになる。

(信濃毎日新聞、2007年5月20日)

****** 医療タイムス、長野、2007年4月19日

「5年もすれば外科医はいなくなる」 ~久保信大教授が危機感を表明

 18日の県医師会理事会では、深刻化する医師不足に関する意見交換が行われ、久保惠嗣理事(信大医学部内科学教授)は、県内では産科や小児科医師だけでなく、外科医を志す学生も非常に少なく、「5年もすれば外科医がなくなる」との懸念を示した。

 久保理事は、信大医学部の現況について、「将来、外科に進もうという学生がほとんどいない」と説明。その上で、現在は産科や小児科医不足だけがクローズアップされているが、「このままでは外科も(産科や小児科と)同じような状況になり、5年もすれば外科医がいなくなるという状況もありうる」との危機感を訴えた。

 解決策としては、「一時的な対応として医師の集約化は必要だが、長い目で見ると解決にならない。学生自身が『外科に進みたい』と思ってもらえるようにしなければならない」と述べ、一地方の問題としてではなく、診療報酬や医療訴訟などの面からも国が真剣に考えるべきと強調した。

■後期研修医確保 「県内高校 頑張って」

 また、同日は県内における研修医の確保対策にも話が及んだ。信大の前期・後期研修医の状況について久保理事は、前期は40人程度残るが、後期は出身地に戻ったり、都会の有名大学に進む研修医が多く、前期研修医からは大幅に減ると説明。その上で、「長野県出身者が20、30人信大に入学してこないと(後期研修医を確保するのは)厳しい。県内の高校に頑張って(信大に入学させて)もらうしかない」と述べた。

 これに対し伊藤隆一理事は、「東京に行った学生は地元に帰ってこない」と述べ、都会に研修医が集中している現状に問題意識を表明。また、信大の「県民入学枠」をさらに増やすべきとの意見もあった。

 大西雄太郎会長は、「都会に負けない、魅力ある病院になる必要がある。大学を育てるのは医師会」と述べ、大学の魅力づくりに医師会が積極的に関わっていく方針を示した。

(医療タイムス、長野、2007年4月19日)

****** 毎日新聞、2007年5月11日

9割以上の医師、不足感じ 長野県医労連が労働実態調査

 ◇4人に1人、月80時間の残業/半数が健康に不安、病気がち/6割が職場を辞めたい

 県医療労働組合連合会(長野市)は10日、医師の労働実態調査を発表した。9割以上の医師が医師不足を感じており、4人に1人が過労死ラインとされる月80時間以上の時間外労働(残業)を行っているなど、深刻な状況が明らかになった。

 県医労連は今年1月から3月にわたり、県内の医療機関と、そこで勤務する医師に対してアンケート調査を実施。回答を得られた17施設と、医師79人(うち女性16人)の結果をまとめた。

 調査結果によると、1日の平均労働時間は10・4時間だが、12時間以上は全体の42%を占めた。月平均休日数は3・7日と少なく、全く休みを取れない医師も15%に上った。最長連続勤務日数の平均は15・3日、勤務時間では36・3時間と長時間労働が常態化。医師の半数が「健康に不安、病気がち」と答え、約6割が「職場を辞めたいと思った」としている。

 現在の医療現場について、97%が医師不足を実感。1病院で平均5人程度の医師が不足し、最も深刻なのは患者の多い内科で、精神科や救急部などが続くという。

 アンケートでは「60日連続の勤務で、39度の熱を出しても当直勤務をした」「終業時間に帰れず、複数の緊急事態が発生すれば対応できない」などの切実な声も寄せられた。県医労連の鎌倉幸孝書記長は「忙しくてアンケート調査にさえも答えられない医師もいる。労働環境の厳しさが浮き彫りになった」と話した。

 医師不足について、村井仁知事は同日の会見で、「県としては予算の倍増や各医療機関の連携を取ることなどが精いっぱいできることだ」とした。【藤原章博】

(毎日新聞、2007年5月11日)

****** 長野日報、2007年5月11日

勤務医4人に1人月80時間以上超勤 県医労連調査

 勤務医の4人に1人が「過労死ライン」とされる月80時間以上の超過勤務を強いられ、こうした過酷な勤務実態が高じて、6割近い医師が職場を辞めたいと考えていたことが10日、県医療労働組合連合会(長野市)が公表した「医師の労働実態調査」で分かった。勤務医の実態と課題を明らかにする目的で実施したが「アンケートに答える時間的余裕がない勤務医もいた」(県医労連)とし、医師不足の深刻さと対策の緊急性を訴えた。

 調査は県内の医療機関に勤務する医師や病院などを対象に行い、女性16人を含む79人の勤務医と17医療機関から回答が寄せられた。

 1日の労働時間では、16時間以上と答えた勤務医も3人いたほか、週の労働時間は65時間以上が31.7%もいた。最長勤務時間では「日勤―当直―日勤」と続き、連続36.3時間勤務したケースもあった。県医労連は「睡眠時間もままならず、休みも取れない勤務医の“超長時間労働”が常態化している」と分析している。

 健康状態では、半数が「健康に不安・不健康」と訴え、「翌日まで疲れが残る・いつも疲れている」が半数近くの46.8%にのぼった。職場を辞めたいと思うことは―の問いに対して「いつもあった」12.7%、「しばしばあった」26.6%、「時々」20.3%あり、「なかった」の24.1%を上回った。

 医師確保、退職防止対策では「賃金や労働条件の改善」を求める回答が78.5%と最も多い。具体的な医師不足数では、15病院が計71人と回答。内科医20人、精神科・神経科9人、救急医8人の順で、産婦人科・小児科以外の医師不足も深刻になっている実態が浮き彫りになった。

 調査結果について、県医労連は「県も医師確保対策に力を入れていることはありがたいが、現実は医師の奪い合いが起きているのが実態だ」と指摘した。

(長野日報、2007年5月11日)


研修医、拠点病院に集約 修了後へき地に 政府与党検討 (朝日新聞)

2007年05月19日 | 地域医療

現状では、研修医は都会の病院に集中し、地方の地域拠点病院の多くは研修医数が大幅に定員割れしています。もしも、国の施策として、都会の研修医の定員を大幅に減らして、地方の研修医の定員を大幅に増やし、今の研修医偏在の流れを大きく変えることに成功すれば、それは非常に画期的なことだと思います。

しかし、地方の地域拠点病院の多くは、大学病院への医師引き揚げにより常勤医数が大幅に減少し、辞めた医師達の補充もないので、医師不足で非常に困窮しています。従って、少ない常勤医達が日常の診療に忙殺され、研修医の指導どころではないと思われます。

指導態勢が不十分な病院に、研修医が多く配属されたとしても、まともな研修ができる筈がありません。今後、地域拠点病院に多くの研修医を誘導する国の方針ということであれば、先行して、まず拠点病院の常勤医数を大幅に増やし、指導医が研修医の指導に専念できるような態勢を実現しておく必要があります。

また、2年間の初期研修が終了したばかりの若手医師をへき地に単独で配属しても、せいぜい、とりあえずの応急処置くらいしかできません。へき地に単独で配属する前に、初期研修に加えて、3年間程度の後期研修をちゃんと済ませておく必要があると思われます。

産科医療に関して言えば、今、多くの地域で、拠点病院に産科医を集約化し、分娩取り扱いの継続に必要な人員を確保しようとしています。もしも、育成中の若手産科医を拠点病院からへき地に派遣するのが義務化されたら、今後、多くの地域で産科医療の継続が非常に困難となってしまうでしょう。

****** 朝日新聞、2007年5月19日

研修医、拠点病院に集約 修了後へき地に 政府与党検討

 政府・与党は18日、医師の不足や地域間の偏在を解消するため、大学卒業後の研修医の受け入れ先を地域の拠点病院に限定し、拠点病院にへき地への若手医師派遣を義務づける方向で検討に入った。従来、医師を割り振る役割を担ってきた大学医学部が、04年度の新しい臨床研修制度の導入をきっかけに機能しなくなってきたため、地域医療の中心になる拠点病院に代替させる狙いだ。

 政府・与党は同日、医師不足対策のための協議会を発足。100人程度の医師を国立病院機構などにプールし不足地域に緊急派遣する対策とともに、拠点病院からの派遣策について具体的な検討を進め、6月の骨太方針に盛り込む方針だ。

 これまで新卒医師の7割以上は大学医学部の医局に在籍して研修を受け、強い人事権を持つ教授と地元病院などとの話し合いで決められた医療機関に派遣されることが多かった。

 だが、新臨床研修制度の導入で原則として医師が自分で研修先を決められるようになり、実践的な技術を学べる一般病院を選ぶ医師が急増。都市部の病院に研修医が集中する一方、地方では定員割れの病院が続出し、へき地に医師を派遣するゆとりがなくなった。

 政府・与党は、現在年1万1300人分ある研修医の定員総枠を、研修医の総数8600人程度に削減することを検討。都市部を中心に定員枠を大幅に削減することで、地方への研修医の流入を促進するとともに、受け入れ先を地域の拠点病院に限定する。

 そのうえで、拠点病院に対して、研修の終わった若手医師を医師不足が深刻な地域に派遣することを義務づける。勤務を終えた医師には拠点病院でのポストを約束することで、若手医師の理解を得たい考えだ。都道府県が条例などで拠点病院に医師派遣を義務づけられるようにし、医師の供給を確実にすることを目指す。

(以下略)

(朝日新聞、2007年5月19日)


卒後研修システムの変化

2007年05月18日 | 地域医療

かつての卒後研修システムでは、若手医師たちがどの病院でいつからいつまで研修するのか、自分自身では全く関与できませんでした。

私自身、若い頃、いくつかの研修病院で勤務しましたが、ある日突然、『来月1日付けで○○病院への転勤が決まった』と医局長からの電話通告があって、あわてふためいて引越しの準備を始めました。次の勤務先でいつまで働くことになるのやら、いつになったら大学病院に戻ることになるのやら、自分では全く予測もできませんでした。当時は、日本中の若手医師たちが同じような境遇に置かれていましたので、その研修システムに対して異議を唱える者はいませんでした。

最近、卒後研修システムががらりと変わって、今では、若手医師たちが自分の進路を自ら選択する時代となってきました。彼らは、民間の医師紹介会社などを利用して、自分の研修病院は自分自身の希望条件で探し求め、医師個人と病院との直接交渉で研修病院が決定されるのが主流となりつつあります。彼らは、全国の多くの就職先候補病院の研修環境、雇用条件、住環境などを比較検討し、『専門医資格に向けた訓練ができて、キャリアアップにもつながり、きちんとした給料をもらえる病院』を、自らの意思で選択できるようになりました。

いったん研修を開始した若手医師でも、いつまで勤務してくれるのか?は、実際の研修内容次第です。もしも、研修を開始してみたものの、この病院では自分の希望するような研修ができないと判明すれば、彼らは自らの意思ですぐに退職してしまい、次の研修病院を探し求めてさっさと移動してしまうかもしれません。

これからは、若手医師たちにとって魅力的な研修態勢が整備され、専門医資格が取得できる教育病院として学会から施設認定を受けてない限り、若手医師からは決して選択してもらえないと思われます。


医学部に地域勤務枠…全国250人、授業料を免除

2007年05月13日 | 地域医療

医学部卒業後、最初の2年間は初期臨床研修が行われます。2年間で、内科、外科、救急、小児科、産婦人科、地域医療などの主要な科を数週間づつ順番に回って研修します。初期研修の間に、全科で共通の入門期の基本的な技術は、ある程度、身に付くはずです。

それぞれの科には数週間づつしか滞在しないので、専門的な技術の修得は無理ですが、各科のだいたいの雰囲気や医師のQOL(生活の質)を観察することは十分に可能です。各科の雰囲気、医師のQOLを十分に比較検討して、自分が専門とする科を何にするか?の決意を固め、卒業後3年目からいよいよ専門科の研修(後期研修)が始まります。

楽器演奏であれ、語学修得であれ、臨床医学の修得であれ、世の中のどんな技術の修得過程でも、たった1回実地を経験しただけですぐに自分でスイスイできるようにはなりません。しっかりした指導者のもとで、何度も何度も実地の経験を繰り返していくうちに、技術が自然にだんだんと身についていくものです。

後期臨床研修では、実地の臨床経験を多く積んで、しっかりした技術を身に付けていく必要があります。研修病院としては、技術のしっかりした指導医がいて、経験できる症例が豊富であることが必須条件で、研修期間も(できれば複数の研修病院で)最低でも計5~6年は必要だと思われます。

『地域勤務枠』の医学部卒業生たちを、未経験のままで強制的にへき地に送り込んで放置しておけば、とりあえずの応急処置くらいはできるかもしれませんが、たった1人ではできることにも大きな限界がありますし、いつまでたっても技術は向上しません。『医者が1人でもいてくれさえすれば、全くいないよりは、はるかにましだろう』というような考えでは、いつまでたっても地域の医療レベルは向上しませんし、都会と地方との医療レベルの格差は今後ますます広がっていくばかりです。

医学の世界は日進月歩です。今後、地方でも都会と比べて遜色のない医療を提供し続けていくためには、それぞれの地域の拠点病院で、初期臨床研修から後期臨床研修、高度のサブスペシャリティ専門医教育まで一貫して実施できるシステムをつくりあげ、地域の中で担当者達が緊密に連携して医療を担っていく体制を構築し、将来にわたり維持していく必要があると思います。

これから医学部に『地域勤務枠』が創設されるとしても、その卒業生たちが世の中に出回ってくるのはまだまだ当分先の話ですが、地域における卒後臨床研修体制を充実させることは、どの地域にとっても現時点での最重要課題だと思います。

****** 読売新聞、2007年5月13日

医学部に地域勤務枠…全国250人、授業料を免除

政府・与党方針、卒業後へき地で10年

 政府・与党は12日、へき地や離島など地域の医師不足・偏在を解消するため、全国の大学の医学部に、卒業後10年程度はへき地など地域医療に従事することを条件とした「地域医療枠(仮称)」の新設を認める方針を固めた。

 地域枠は、47都道府県ごとに年5人程度、全国で約250人の定員増を想定している。地域枠の学生には、授業料の免除といった優遇措置を設ける。政府・与党が週明けにも開く、医師不足に関する協議会がまとめる新たな医師確保対策の中心となる見通しだ。

(中略)

 地域枠のモデルとなるのは、1972年に全国の都道府県が共同で設立した自治医科大学(高久史麿学長、栃木県下野市)だ。同大では、在学中の学費などは大学側が貸与し、学生は、卒業後、自分の出身都道府県でのへき地などの地域医療に9年間従事すれば、学費返済などが全額免除される。事実上、へき地勤務を義務づけている形だ。

 新たな医師確保対策で、政府・与党は、この“自治医大方式”を全国に拡大することを想定している。全国には医学部を持つ国公立と私立大学が計80大学ある。このうち、地域枠を設けた大学に対し、政府・与党は、交付金などによる財政支援を検討している。

 医療行政に影響力を持つ自民党の丹羽総務会長は12日、新潟市内での講演で、「自治医大の制度を全国47都道府県の国公立大などに拡大したらどうか。5人ずつ増やせば、へき地での医師不足は間違いなく解消する」と述べ、“自治医大方式”の拡大を提案した。

 医学部を卒業した学生にへき地勤務を義務づけることは当初、「職業選択の自由に抵触する恐れがある」との指摘もあった。だが、「入学前からへき地勤務を前提条件とし、在学中に学費貸与などで支援すれば、問題ない」と判断した。

(以下略)

(読売新聞、2007年5月13日)


拠点病院から医師派遣、地方での不足解消…政府・与党方針 (読売新聞)

2007年05月12日 | 地域医療

地方の医師不足を解消するために、拠点病院から地域の病院・診療所に医師を派遣する案が、政府・与党で検討されているようです。

しかし、国公立の地域拠点病院の多くは、従来より、医師供給源として大学の医局人事に全面的に依存してきました。

従って、地域拠点病院こそ、大学医局の医師派遣機能低下の影響を一番もろに受けていて、極端な医師不足に陥り、今後の医師確保には非常に頭を悩ませている病院も少なくないと思われます。

地域の拠点病院で、他の医療機関に医師を派遣するだけの人的余裕のある病院が、果たして、どれくらい存在するのでしょうか?

****** 読売新聞、2007年5月10日

拠点病院から医師派遣、地方での不足解消…政府・与党方針

 政府・与党は9日、地方の医師不足を解消するため、医師が集まる国公立病院など地域の拠点となっている病院から、半年~1年程度の期間を区切り、地方の病院・診療所へ医師を派遣する新たな制度を整備する方針を固めた。

 医師派遣の主体を都道府県や病院関係者らで作る「医療対策協議会」とし、復帰後に医師が人事で不利益を受けない仕組みを担保するほか、医師を放出する拠点病院への補助金制度も導入する。厚生労働、文部科学など関係閣僚が参加する政府・与党協議会で来週から詳細な検討に入り、今年度中の制度スタートを目指す。

 医師派遣は従来、大学病院の教授が若手の研修医の人事権を握り、派遣先を決定してきた。だが、2004年度から医師臨床研修制度が義務化されると、若手医師らは上下関係が厳しい大学病院を敬遠して待遇のいい国公立病院などに殺到し、大学病院中心の医師派遣は事実上、崩壊した。

 厚労省によると、2004年に13都道府県を対象に行った調査では、都道府県庁所在地と周辺地域で人口10万人当たりの医師数が3倍以上開いていた。大学病院から地方への医師派遣が途絶え、格差はより深刻化したという。

 政府・与党は医師の偏在・不足に対応するため、医師派遣の主体を、大学病院から、医師の人気が高い拠点病院と都道府県へと移して派遣制度を再構築することにした。

(以下略)

(読売新聞、2007年5月10日)


地方病院の医師供給体制について

2007年05月10日 | 地域医療

かつては、地方自治体病院で医師が足りなくて困った場合に、市長、院長、事務長などが雁首をそろえて大学の医学部にお参りをして、教室員を派遣していただくように要請し、大学の医局人事で医師を派遣してもらうというのが常套手段でした。

私自身も、医局人事で、現在勤務する病院に赴任しました。ある日突然、教授室に呼ばれ、何事か?と思って教授室に行ってみると、「今度、○○病院に産婦人科が開設されることになり、教室員を派遣するよう要請があった。君に行ってもらうことに決めた。」との天のお告げがあり、新天地での一人医長生活が始まりました。

現在でも、地方自治体病院にとって、大学の医局人事が非常に重要な医師供給源であることに全く変わりはありませんが、現行の新臨床研修制度が始まって、研修医達が自分の研修先を自由に指定できるようになり、医師供給体制が激変しました。

研修医の研修先が分散し、以前ほどには研修医が大学病院に集まらなくなってしまったために、大学病院自体の診療態勢を維持するのが困難となってきて、関連病院に医師を派遣する余裕がだんだん失われつつあります。派遣医師の大学病院への引き揚げにより、医師不足で診療態勢の維持が困難となっている地域中核病院も少なくありません。

研修医の研修先が医局人事により否応なく決まっていた従来のシステムはほとんど崩壊しつつあり、研修医の自由意志により研修先が決まる新しいシステムになったため、今後は、研修医にとって魅力のある研修態勢が整ってない限り、研修医は決して集まりません。

また、2年間の初期研修に続く後期研修でも事情は全く同じで、医師個人の自由意志での病院への就職がだんだん主流となりつつあり、大学病院も多くの就職先候補の一つという位置付けになってきています。従って、医師の供給源として、従来通りに大学の医局人事だけに依存していたんでは、いくら待っても、欠員補充の医師は永久に来ないかもしれません。

病院スタッフの平均年齢が年々上がり、医師数も減る一方で、残った医師は皆おじいさん先生ばかりで若い医師が全くいないような状況では、病院の明るい未来は決してあり得ません。今後、病院がこの世の中に生き残っていくためには、研修医に選ばれるような魅力ある研修態勢を整えてゆくことが必須条件だと思います。

かつての医学部卒業生は、いったんどこかの医局に入局したら最後、その後の自分の職場は、有無を言わせぬ医局人事で決まっていたので、自分自身では全く関与できませんでした。しかし、今の医学部卒業生は、他学部卒業生と全く同様に、自分の人生をかけて真剣に就職活動をするようになりました。

世の中の状況はどんどん変化しています。高齢化した医師だけの不十分な診療態勢でむりやり頑張り続けるのにも限界があります。もしも、この先、病院独自ではどうしても若いスタッフを集められなくなり、病院の診療態勢を維持することが困難になれば、病院の現態勢には早めに見切りをつけ、さっさとどこかの病院と合流して、集約化による診療態勢の再構築を目指すしか道はないのかもしれません。


医師派遣:地域の基幹病院へ重点配置 阪大が集約化検討 (毎日新聞)

2007年02月06日 | 地域医療

コメント(私見):

以前は、医学部を卒業したら、まず大学の医局に所属し、医局から研修病院に派遣されて、大学病院といくつかの研修病院を数年間づつ回りながら修業をするというコースが一般的であった。

最近スタートした「新医師臨床研修制度」により、医学部を卒業したばかりの一番若い研修医達が、自分が研修する病院を自由に選べるようになり、最初の研修先として大学を選択する者が激減した。

大阪大学の医師派遣病院では、若手の専門医教育を充実させるという目的で、『現状では1病院当たりの産婦人科の常勤医師数が3~4人のところを、1病院当たり8人程度まで増やす』という構想らしい。そのために、『現在、全国に200ヶ所ある関連病院を、将来的には20ヵ所程度の基幹病院にまで絞り込む』予定であるとの報道である。

従来は、地方の自治体病院では、黙っていても、大学から若手医師が順番に派遣されてきて、必要な医師数が充足されてきた。医師が足りなくなれば、大学の医局に泣きつけば、大学が何とかしてくれた。

しかし、今後は、必要な医師数は、自治体病院の自助努力で集めるしかない時代に突入する。従って、若手医師をちゃんと教育できる病院しか将来的には生き残ることはできない。今後、地方自治体病院の数が激減してゆくのは絶対に避けられないと思う。

****** 毎日新聞、2007年2月5日

医師派遣:地域の基幹病院へ重点配置 阪大が集約化検討

 医師不足が深刻化する中、大阪大医学部(大阪府吹田市)が、関連病院に広く医師を派遣していたこれまでの方式を改め、地域ごとに決めた基幹病院へ医師を重点配置する構想を検討していることが分かった。モデルケースとして来年度から、大阪府豊中市や箕面市など北摂地域で実施し、その後、府内の他地域に広げる方針。若手医師に対する教育の充実などを図る狙いだが、全国に約200カ所ある関連病院を、将来的には20カ所程度の基幹病院に絞る見通しで、自治体病院などで医師不足が加速する恐れもある。

 大阪大医学部は従来、医局から自治体病院などに医師を派遣していた。しかし、研修する病院を自由に選べる「新医師臨床研修制度」が04年に始まり、学部を卒業したばかりの研修医が医局に入局しなくなるなど、医師不足に陥った。その結果、従来通り関連病院に広く医師を派遣する体制を今後も同様に維持することは困難と判断した。

 構想では、府内の大阪市以外の地域を「北摂」「泉州」「河内」などに分割。各科に特色のある病院を基幹病院として選び出し、医師を重点配置する。派遣先の関連病院を絞ることで、派遣する医師の数は、例えば産婦人科の場合、これまでの1カ所3~4人から、8人程度に増やす。派遣する医師の負担を軽減できるほか、関連病院での若手医師に対する専門教育の充実が図れるという。

 関連病院との渉外担当を務める大阪大医学部の杉本寿教授(救急医学)は「大学が地域医療を守るという重要性は認識しているが、医師不足が深刻化する中、どの診療科も医師の派遣は難しくなっている。若手医師を育成し、過重労働による医師の病院離れを防ぐためにも、今後は、関連病院を絞り、医師の集約化を進めざるを得ない」と説明している。【河内敏康】


医師不足:公立病院の半数、診療縮小 (毎日新聞)

2007年01月23日 | 地域医療

コメント(私見):

地方における医師不足は以前から指摘されていましたが、最近では、都会の公立病院でも、医師不足のために診療の休止・縮小に追い込まれるようになってきたとの記事です。

多くの新人医師が毎年誕生し続けていて、医師の総数が年々増え続けていることは間違いありません。医師不足で困っている部署の実態は大きなニュースになり、医師が十分に足りていて全く困っていない部署の実態はニュースにならないので、医師の所在の最近の動向がどうなっているのか?さっぱりわかりません。

きっと、日本のどこかでは、多くの医師達がだぶついていると思うのですが...

参考:

「お産ピンチ」首都圏でも 中核病院縮小相次ぐ (朝日新聞)

産科医不足、大阪の都市部でも深刻 分娩制限相次ぐ(朝日新聞)

****** 毎日新聞、2007年1月23日

医師不足:公立病院の半数、診療縮小 毎日新聞調査

 医師不足などのため、東京都と大阪府内の計54の公立病院のうち、公立忠岡病院(大阪府忠岡町、83床)が3月末に閉院するほか、半数近い26病院で計46診療科が診療の休止・縮小に追い込まれていることが、毎日新聞の調査で分かった。常勤医で定員を満たせない病院は45病院あり、不足する常勤医は計285人に上る。欠員を非常勤医で穴埋めできていない病院もあり、医師不足によって病院の診療に支障が出る「医療崩壊」が、地方だけでなく2大都市にも広がり始めている実情が浮かんだ。

 調査は都府立、公立、市立病院(大阪市立大病院を除く)と、都保健医療公社が運営する病院を対象に実施。00年以降の診療休止・縮小の状況や、今月1日現在で常勤医が定員に満たない科の数などを尋ねた。

 閉院を決めた忠岡病院は、03年に12人いた医師が05年には4分の1に激減。昨年4月に皮膚科と泌尿器科、今月には脳神経外科を休止し、病院自体も存続できなくなった。

 診療科別に見ると、休止・縮小したのは、産科・産婦人科が計10病院で最も多い。次いで小児科6、耳鼻咽喉(いんこう)科が5病院だった。

 不足している常勤医数は、内科が18病院で計47人と最も多く、麻酔科15病院29人、産科・産婦人科が16病院27人、小児科が11病院22人と続いた。不足の理由は、▽04年度導入の新医師臨床研修制度をきっかけに、大学病院が系列病院から医師を引き揚げた▽勤務がきつく、リスクを伴うことが多い診療科が敬遠されている--など。

 診療への影響は、「救急患者の受け入れ制限」(都立大塚病院)など、救急医療への影響を挙げる病院が目立つ。住吉市民病院(大阪市)のように、産科医不足による分べん数の制限を挙げる病院も多かった。

 打開策については、都立墨東病院などは「給与水準引き上げ」と回答、府立急性期・総合医療センター(大阪市)が「女性医師の増加に対応した出産・子育てから復職支援など女性が働きやすい環境作り」を挙げるなど、労働環境の改善を挙げる病院が目立つ。「医療訴訟に対する裁定機関や公的保険制度の確保」や、「地域の病院や診療所と連携し、医師の診療応援など医療交流を図る」などの意見もあった。【まとめ・五味香織、河内敏康】

(毎日新聞、2007年1月23日)


救急医療について

2006年11月15日 | 地域医療

コメント(私見):

医師はそれぞれ自分の専門領域がありますが、その専門領域とは関係なく、救急医療機関で救急当番医を担当した以上は、救急専門医と同等の責任を負うとの判決です。

救急当番医として救急医療の現場に立った以上は、目の前にいる緊急処置を要する瀕死の状態の患者さんに対して、その場でできる最善と考えられる処置を実施しなければなりません。自分の専門領域以外の疾患に対する処置をしなければならないような場合も当然ありうることです。

自分のできる最善と考えられる処置を実施したとしても、治療の結果が悪ければ、結果責任を問われて多額の賠償金を支払わねばならないということになってしまえば、今後は、あぶなくて救急専門医以外は誰も救急医療に携わることはできなくなってしまいます。

******

大阪高等裁判所平成15年10月24日判決(平成14年(ネ)第602号損害賠償請求控訴事件

以下、引用文:
 『そうだとすると,被控訴人Eとしては,自らの知識と経験に基づき,Eにつき最善の措置を講じたということができるのであって,注意義務を脳神経外科医に一般に求められる医療水準であると考えると,被控訴人Eに過失や注意義務違反を認めることはできないことになる。G鑑定やH鑑定も,被控訴人Eの医療内容につき,2次救急医療機関として期待される当時の医療水準を満たしていた,あるいは脳神経外科の専門医にこれ以上望んでも無理であったとする。
 しかしながら,救急医療機関は,「救急医療について相当の知識及び経験を有する医師が常時診療に従事していること」などが要件とされ,その要件を満たす医療機関を救急病院等として,都道府県知事が認定することになっており(救急病院等を定める省令1条1項),また,その医師は,「救急蘇生法,呼吸循環管理,意識障害の鑑別,救急手術要否の判断,緊急検査データの評価,救急医療品の使用等についての相当の知識及び経験を有すること」が求められている(昭和62年1月14日厚生省通知)のであるから,担当医の具体的な専門科目によって注意義務の内容,程度が異なると解するのは相当ではなく,本件においては2次救急医療機関の医師として,救急医療に求められる医療水準の注意義務を負うと解すべきである。
 そうすると,2次救急医療機関における医師としては,本件においては,上記のとおり,Fに対し胸部超音波検査を実施し,心嚢内出血との診断をした上で,必要な措置を講じるべきであったということができ(自ら必要な検査や措置を講じることができない場合には,直ちにそれが可能な医師に連絡を取って援助を求める,あるいは3次救急病院に転送することが必要であった。),被控訴人Eの過失や注意義務違反を認めることができる。』

参考:救急の黄昏新小児科医のつぶやき


医学部定員増員:10県、10年限定、最大10人

2006年08月31日 | 地域医療

医学部の定員は長年にわたり抑制傾向が続いてきましたが、2008年度より医学部定員増を認める厚労省の方針が発表されました。

****** 朝日新聞、2006年8月31日

地方10県、医学部定員増 10年限定、最大10人

 地域や診療科ごとの医師不足を解消するため、厚生労働、総務、文部科学の3省は31日、新たな医師確保総合対策をまとめた。医師不足が特に深刻な東北や中部地方などの10県について、08年度から最大10年間に限り、大学医学部の入学定員をそれぞれ10人まで増やすことを認めた。医学部の定員は抑制傾向が続いており、暫定的とはいえ24年ぶりの方針転換となる。へき地医療を担う医師を養成する自治医大の暫定的な定員上乗せのほか、医師の集約化推進などの対策も盛り込んだ。

 定員増が認められたのは、人口や面積当たりの医師数が極端に少ないなど一定の基準を満たした青森、岩手、秋田、山形、福島、新潟、山梨、長野、岐阜、三重の10県。各県は、地元に医師を根付かせるための奨学金制度の創設を条件に、県内の大学医学部の定員を増やせる。奨学金を貸与する医師の卒業後の配置計画づくりなども義務づけられた。

 自治医大には、各都道府県から毎年2~3人ずつ入学しているが、08年度から10年間に限り、現在100人の定員を110人まで増やせる。特に医師不足が深刻な地域の学生が対象となる。

 厚労省によると、病院や診療所で働く医師数は毎年約3500~4000人ずつ増えており、2022年には全体で約30万5000人に達して「長期的には医師は足りる」と推計されている。

 医師の過剰は医療費増大につながるとの考えから、政府は82年の閣議決定で医師養成の抑制を打ち出し、97年には「医学部定員の削減」を閣議決定した。ところがこの数年、地方での医師不足や、小児科や産科など特定の診療科での不足が深刻化し、方針転換を決めた。

 ただ、厚労省は今回の定員増は「暫定的な措置」としており、期限の10年を過ぎても医師の定着が進んでいなければ、定員が現在より減らされることもありうる。

 医学部の定員増は、全国知事会など地方を中心に要望が強い半面、医師が現場で活躍するようになるまでには10年近くかかるため、即効性は薄いとの指摘もある。

 このため、3省は短期的な対策として、都道府県ごとに医師を拠点病院に集める集約化・重点化のほか、現在31都道府県で実施されている小児救急電話相談事業を全都道府県に拡大する。さらに医師の負担を軽減するため、出産時の医療事故で障害を負った患者を救済する仕組みを検討するほか、病院内の保育所の利用促進など女性医師の働きやすい環境を整備。離島対策では、ヘリコプターを使った巡回診療や、住民が遠方の産婦人科を受診する際の宿泊費支援なども総合対策に盛り込んだ。

(朝日新聞、2006年8月31日)

****** 東京新聞、2006年8月31日

医学部定員:10県、最大各10人増

 地方の医師不足対策を協議していた厚生労働、文部科学、総務、財務の四省は三十一日、特に不足が深刻な東北、甲信越、中部地方の十県の大学医学部の入学定員を、各県で最大十人まで、二〇〇八年度から最長十年にわたり増やすと認めることで正式に合意した。同日午前、先に署名を済ませた総務相を除く三大臣が確認書にサインした。地域医療を担う医師を養成する自治医大(栃木県下野市)も同期間に最大十人まで増やすことを認めた。

 国は今回の定員増を暫定的なものと位置付け、各省は一九九七年の閣議決定で示された医学部定員の削減方針も併せて確認。歯科医師については各大学に歯学部定員の削減を要請し、歯科医師国家試験の合格基準を引き上げることとした。

 このほか、厚労、文科、総務の三省は産科、小児科の医師確保などを盛り込んだ「新医師確保総合対策」もとりまとめた。

 今回、医学部の定員増が認められたのは、〇四年に人口十万人当たりの医師数が二百人未満で、百平方キロメートル当たりの医師数が六十人未満の青森、岩手、秋田、山形、福島、新潟、山梨、長野、岐阜、三重の各県。

 定員増は医師の地元定着を図ることが条件で、県に対し(1)県内や医師不足の他の県で一定期間働くことを条件にした奨学金の設置(2)奨学金を受ける医師の卒業後の配置計画をつくり、国と協議(3)地域に必要な医師確保策を盛り込んだ医療計画をつくり国と事前協議-などを求める。

 一方、新医師確保総合対策では、分娩(ぶんべん)時の医療事故で訴訟などが多いことが産科医不足の一因、との指摘があるため、事故にあった患者の救済制度(無過失補償制度)を検討し、医師の負担を軽減する方針を明記。

 このほか産科、小児科医の配置を重点化・集約化▽離島の住民が産婦人科を受診する際の宿泊費支援▽女性医師の院内保育所利用基準を緩和-などを盛り込んだ。

 医学部の定員増が認められる大学名は次の通り。

 【国立】弘前大、秋田大、山形大、新潟大、山梨大、信州大、岐阜大、三重大

 【公立】福島県立医大

 【私立】岩手医大、自治医大

****** 産経新聞、2006年8月31日

医学部定員増員へ、24年ぶり方針転換

 厚生労働、文部科学、総務、財務4省は31日、医師不足が深刻な地方の10県について、平成20年度から暫定的に大学医学部の入学定員を増やすことを正式に決めた。また、自治体からの要請に基づき緊急避難的に医師を派遣するシステムの構築など総合的な医師不足対策を盛り込んだ「新医師確保総合対策」を発表した。

 これまで国は医師が増えると医療費も増加するため、医学部の定員を抑制してきたが、医師の都市部への流出・偏在が深刻なことから24年ぶりの方針転換を図った。

 定員増の対象は、青森、岩手、秋田、山形、福島、新潟、山梨、長野、岐阜、三重の各県。平成16年に人口10万人あたりの医師が200人未満で、100平方キロあたりの医師数が60人未満だった。このほか自治医科大学も対象。平成20年度から最長10年にわたり、年間最大10人を限度として増員を認める。

 歯科医師については各大学に歯学部定員の削減を要請し、歯科医師国家試験の合格基準を引き上げる。

 総合対策には、大学医学部の入試について、地元出身者の入学枠の拡充などを明記。定員増は卒業後の地域定着に取り組むことが条件で、地域定着を条件にした奨学金の積極活用などを求めている。

 このほか、医師不足の深刻な小児科、産婦人科の人材や機能の集約化・重点化を進める。小児救急電話相談事業の拡充も図る。産婦人科では助産師との連携も進める。

 離島などの僻地(へきち)医療対策では、ヘリコプターを活用した離島での巡回診療、住民が遠方の産婦人科を受診する場合の宿泊支援も盛り込んだ。

 厚労省内に病院関係者による地域医療支援中央会議を設置し、都道府県からの要請に対応した医師派遣も行う。

 分娩(ぶんべん)時に脳性まひなどの障害が残った場合は医師に過失がなくても患者を救済する制度や医療事故の死因究明制度のあり方など医師の負担の軽減にも取り組むことにした。

 最大の課題となる医師の地域定着について厚労省は「地元大学と連携して県に実効性のある措置を講じてもらう必要がある」としている。

(産経新聞、2006年8月31日)


総数増加も地域・科で格差拡大(毎日新聞)

2006年08月10日 | 地域医療

我が国においては、従来、大学の医局が地域に医師を適正に配置する調整機関の役割を果たしてきた。ところが、新研修制度により、新人医師が自由に勤務先病院を選択できるようになって、新人医師が以前ほどには大学の医局に所属しようとはしなくなってきた。そのため、大学の医局も人のやりくりが大変な状況になってきて、地域に医師を適正に配置する調整機関の役割まで果たすことがだんだん困難な状況となってきているようだ。

従来、地方の公立・公的病院の医師人事はすべて大学の医局任せのことが多かった。新研修制度により、大学病院自体が人手不足に陥り、大学病院の診療体制を維持するために、地方の病院に派遣していた医師を大学に引き揚げ始めているために、地方の病院が一斉に医師不足に陥って、多くの病院で診療体制の維持が困難な状況となりつつある。

このように、この新研修制度は地域医療を崩壊させた元凶!と非常に評判が悪く、事実そうなのかもしれないが、見方によっては、この新制度によって、地域医療を発展させていくための絶好のチャンスが生まれたと言えなくもない。この新しい制度をうまく活用すれば、地域の病院でも、医師の教育・養成に十分貢献できるようになったので、地方の大学病院のない地域であっても、医学生、研修医、若い医師達が以前よりも大勢集まるようになった所もある。

今後の我々の目指すべき方向性としては、広域医療圏内の公立・公的病院を統合・再編成して、地域の基幹病院が、単に医療機関としてだけではなく、(大学病院と緊密に連携して)医師を養成する教育機関としての役割も十分に果たすことができるように、マンパワー・病院の機能を充実させてゆかねばならないと考えている。(問題が大きすぎて、一勤務医の個人的努力だけでは、どうにもならないことばかりであるが...)

****** 毎日新聞、2006年8月9日

<医師不足>総数増加も地域・科で格差拡大

 たった1人の常勤医が当直勤務を毎晩こなす総合病院、出産の受け付けを中止した産婦人科――医師不足が深刻だ。とりわけ不足しているのは、勤務の厳しい診療科や地方の病院。一方で、医師総数は毎年3500人以上も増えている。医師たちは一体どこにいるのか。厚生労働省の検討会は「地域間(診療科間)格差の解消が急務」とする報告書をまとめた。医師不足の現場を訪ね、実態を追った。

 ◇たった1人で毎晩当直…地域医療の現場

 「患者一人一人に時間をかけられず、十分な診療ができないのが一番つらい」。岩手県西和賀町(旧沢内村)の町立沢内病院は今、たった1人の常勤医、藤井大和さん(29)が支える。旧沢内村は1961年4月、全国に先駆け60歳以上の老人医療費を無料にした。昨年の合併で無料制度は終わったが、同病院は村の掲げた「生命尊重行政」の象徴だった。
 藤井さんは今春、外科医として着任した。しかし、現在は内科も担当。病院長職務代理、特別養護老人ホーム嘱託医、5小中学校の学校医といくつもの重責を担う。
 内科担当だった院長(40)が6月末で退職。夜間外来と救急医療をやめ、新たな入院は原則として断っている。一日平均約110人いた外来患者は、減少を続ける。
 非常勤医1人が週3日来るほか、他自治体からの応援も受けるが、藤井さんの当直勤務は1日交代から連夜になった。
 藤井さんは地域医療を志し、沢内病院での勤務を志願した。まだ医師5年目。「高血圧や糖尿病の診察ができる内科医はもちろん、自分を指導してくれる医師が必要です」と漏らす。
 医師不足は都市部でも起きている。
 東京都板橋区の都立豊島病院。JR池袋駅からバスで約20分の好立地であり、NICU(新生児集中治療室)を持つなど産婦人科としては最先端の医療を実施できると評判だった。
 しかし、同病院は7月、出産や産婦人科手術の新規受け付けを休止した。ホームページ(HP)には「安全性の観点から、分娩(ぶんべん)・手術の受け入れを制限させていただいております」と記されている。
 同病院によると、常勤医1人が6月末で退職し、現在は常勤医2人、非常勤医3人。24時間態勢の勤務をこなせる人数ではなくなった。
 産婦人科の医師不足は全国的に慢性化している。最先端の施設があっても、医師がいなくては使いこなせない。豊島病院は医師を懸命に探している。【石川宏、大場あい】

 ◇「幸せな職場」求める若手…臨床研修の現実

 医師不足の原因の一つとされるのが、04年に始まった臨床研修制度だ。医師免許を取った若手医師はそれまで、すぐに専門診療科を決め、卒業した大学の医局に入るのが一般的だった。一方、新制度では、2年かけて複数の診療科を経験する。
 幅広い診察ができる医師の養成が狙いだが、若手医師を管理する医局制度が崩れ出した。中国地方の公立病院で研修中の20代の男性医師は「昔は医局に進路を決められていたが、今は自分で選べる。そのチャンスに挑戦したい」。東北地方の大学を卒業した女性医師は都内の病院で研修中。「首都圏はプライベート面でも魅力的。仕事以外の楽しみがあるのはうれしい」と屈託がない。
 「診療科によって勤務の厳しさに違いがあることを知り、楽な診療科へ流れる医師が増えた」とベテラン産婦人科医は嘆く。「新人が来ない」と言われるのが小児科や産婦人科だ。「楽で人気」とされるのは、勤務時間が規則的な眼科や皮膚科。こうした「若者気質」は、人気とされる科の中でも医師の偏在を生んでいる。
 樋田哲夫・日本眼科学会理事は「コンタクトレンズ外来など、楽に収入が得られる仕事を求め、すぐに開業したがる若者が多い。その分、当直や手術で忙しい大学病院は人手不足の状態だ」と話す。樋田さんによると、都心の病院の眼科に10人以上の新人が集まる一方、地方の大学病院に1人も来ない「診療科内格差」が起きている。
 日本皮膚科学会の塩原哲夫理事は「臨床研修は『青い鳥』を追う若者をつくってしまった。皮膚科でも当直はある。命にかかわる病気もある。そうした現実から逃げ、『もっと幸せな職場』を探す若者が目立つ」と嘆く。【永山悦子】

 ◇総数は増えているのに・・・

 厚労省の調査によると、毎年約8000人の医師が新たに生まれ、退職者などを引いても、年3500~4000人増えている。それでも「医師不足」は起きる。
 同省の「医師の需給に関する検討会」は7月末、報告書を発表した。医師偏在の原因として、臨床研修のほか▽(規模の大きい)病院への患者集中▽若手勤務医の開業志向▽医療事故への訴訟の増加――などを挙げた。対策としては▽地方勤務の魅力を増やす▽医学部定員の調整▽女性医師支援――などを示した。
 偏在解消に取り組み始めた例もある。地方大学の医学部では「地域枠」の創設が相次いでいる。鹿児島大は今年度、医学部の入学定員枠に県内の離島やへき地での勤務を志す「地域枠」2人分を新設。県と市町村は1人あたり6年間で計940万円の奨学金制度を創設した。
 また、国立病院機構は、機構内での医師の配置換えに追われる。診療報酬改定に伴い、医師が医療法で定める標準数の7割以下しかいない病院の診療報酬が今秋、減額されるためだ。矢崎義雄理事長は「医師が足りない東北の病院へ九州から異動してもらう例も出そうだ」と話す。
 西村周三・京都大大学院教授(医療経済学)は「医師偏在は、医学界だけで解決できる問題ではない。経済的な視点も加え、報酬を労働の対価としてきちんと位置付ける必要がある。診療科ごとの必要な医師数を分析し、不足する科の教育を充実させるなど、長期的な配置計画も求められる」と話す。【玉木達也】

(毎日新聞、2006年、 8月9日)

****** 参考:

医師不足、新研修制度のせいではない(読売新聞)

今後の地域医療の目指すべき方向性は?


今後の地域医療の目指すべき方向性は?

2006年08月05日 | 地域医療

広域医療圏内の自治体立、日赤などの公立・公的病院を統合して、地域の基幹病院を、医療機関としてだけではなく、医師を養成する教育機関としての役割も十分に果たすことができるように、マンパワー・病院の機能を充実させてゆくことが今後の目指すべき方向性だと考える。

新研修制度は地域医療を崩壊させた元凶!と非常に評判が悪いが、見方によっては、この新制度によって、地域医療を発展させていくための絶好のチャンスが生まれたと言えなくもない。この新しい制度をうまく活用すれば、地域の病院でも、医師の教育・養成に十分貢献できるようになったので、地方の大学病院のない地域にも、医学生、研修医、若い医師達が大勢集まるようになってきた。

当院でも、大勢の医学部5~6年生が、毎日、各診療科で臨床実習を行っているし、十数名の研修医が各診療科をローテートして初期研修を行っている。

当科でも、医学部5~6年生が2名づつ泊り込みで臨床実習を行っている。来年度からは、医学部の6年生が1ヶ月間病院に泊り込んで、一つの科の実習を行うようなカリキュラムになると聞いている。また、新研修制度によって、研修医達が全員6週間づつ産婦人科研修を行っている。

新研修制度が始まってから、非常に多くの若者達が、我々の診療チームに研修・実習目的で参加してくれるようになった。この新しい流れが、今後、地域医療のマンパワーを充実・発展させてゆく大きな原動力となってくれると期待している。


医師はどこへ/市町の利害を超え新モデル探れ(神戸新聞)

2006年08月02日 | 地域医療

地域医療が全国各地で崩壊の危機に直面している今、この問題への対応は、一市、一町の利害を超えて、広域医療圏全体で一体となって取り組んでゆく必要があります。拠点となる診療科を地域で割り振って、そこに医師を集中的に配置するなど、診療体制に余裕を持たせることが大切と考えられます。

****** 以下、神戸新聞、2006年7月30日

医師はどこへ/市町の利害を超え新モデル探れ

 産婦人科医を「絶滅危惧種」と呼ぶ人がいる。「いま手を差し伸べなければ、本当にいなくなるかもしれない。絶滅したトキやコウノトリのように」

 名付け親の三浦徹さんは、神戸市垂水区にある佐野病院の産婦人科医である。同じ医師の目に現実は厳しく映るようだ。

 安全性を追求するあまり、技術第一の出産に偏っていることに気づいたのが十九年前。その反省に立ち、母子の自然に産む力、生きる力を引き出す分娩に軸足を置き換え、助産科を開設した。正常産を助産師に委ねることにより、産科医の過剰労働を軽減できる。医師の産科離れに歯止めをかける可能性もある、と考えている。

 その三浦医師のもとへ、自治体の関係者が見学に訪れる。産科離れが進み、あらためて助産師が注目され出した。

 日本産婦人科学会の最近の調査によると、全国で実際に出産できる病院・診療所は約三千カ所、赤ちゃんを取り上げる医師は約八千人しかいない。

 二〇〇二年に産婦人科・産科を掲げていた医療施設は六千四百、〇四年に主な診療科を産婦人科・産科としていた医師は一万六百人いた。産科を掲げていても、出産を扱わない医師が増えているのである。

 医療技術の進歩でお産の“安全神話”が行き渡り、失敗できない、と委縮する。手を引く医師が増える大きな理由だ。

 明石市内の病院の医師は日々、それを痛感するという。この病院では月々二十人の赤ちゃんが生まれる。三人いる産科医は二十四時間体制で、誰かが待機する。手術は気が張る。危険を伴う場合が少なくないからだ。気の休まるときがない。

地方の「叫び」に耳を 

 福島県で二月、産科医が逮捕、起訴される事例があって以来、一層、身構えるようになった。看板を下ろす小児科医が少なくないのも、よく似た理由である。

 だが、産科や小児科離れだけが地域医療を脅かしているのではない。都市と地方の間で医師の偏在が進み、地方では、各診療科で医師不足と、それによる地域医療の弱体化が顕著になっている。

「これ以上、問題を先送りできない」

 豊岡市で先日、発足した「但馬の医療確保対策協議会」は、土壇場に追い詰められた地方の「叫び」である。

 県土の25%を占める但馬の医療は、九つの公立病院と二十六の公立診療所に支えられているといっても過言ではない。ところが、この二年間で医師が二十一人減った。欠員が出ても補充できず、診療科の閉鎖や縮小が相次いでいる。

 丹波市や隣の篠山市でも、同じ問題に直面する。公的な中核病院が軒並み累積赤字を抱え、診療体制の再編や病院間の機能の見直しも急務となっている。

 医師不足の原因が、二年前に始まった臨床研修制度にあるとされるのは皮肉だ。

 若い医師たちは、医局に縛られず、より魅力のある病院を研修先として自由に選べるようになった。そのこと自体、評価する声は多い。ただその結果、大学は人手不足に陥り、派遣先から医師を引き揚げざるを得なくなった。揚げ句、地方の医療が疲弊するという構図である。

新しい一歩を大切に

 地域医療がやせ細りつつある。地方へ行くほど問題は深刻だ。「崩壊」の懸念すらささやかれる。医療は今、構造的な問題に突き当たっているというべきだろう。

 先の国会で医療制度改革法が成立した。少子高齢化が進んでも、安心して病院にかかれるように、とのうたい文句だ。

 しかし、頼るべき医師が身近にいなくなる。公立病院でも診療科が減っていく。医療制度の見直しが進む一方で、安心とはほど遠い現場の実態がある。これを横に置いて、国民が期待する医療を本当に実現できるのだろうか。

 ただ、逆にこんなときだからこそ、新しい地域医療の絵を、地域自ら描き直すチャンスといえなくもない。

 但馬の医療確保対策協議会は、市長、町長たちが病院の集約化・重点化を共通認識とすることで一致した。一市、一町の利害を超えて取り組む雰囲気が生まれたのは初めてであり、大きな一歩になるはずだ。

 拠点となる診療科を地域に割り振り、医師を集中的に配置するなど、診療体制に余裕を持たせることが大切だろう。

 若い医師たちも全部が全部、都会に向いているわけではない。地方であっても、地域医療に情熱を持って取り組んでいる病院には人が集まっている。そんな魅力のある地域モデルを示してほしい。

(神戸新聞、2006年7月30日)


医学部の「地域枠」急増

2006年07月30日 | 地域医療

卒業生達が県内に多く残留してくれるかどうか?は、地方の医学部にとってはまさに死活問題ですから、最近は、全国の大学医学部が、最重要課題として、非常に熱心にこの問題と取り組み始めたように感じています。

医学部入試の「地域枠」拡大も、その多くの試みの中の一つだと思われます。将来の地域医療を支えてくれる後継者達を養成するために、長期的な展望に立って、じっくりと取り組んでいっていただきたいと思います。

我々一般病院の医師達も、臨床実習の指導などで全面的に協力し、若い医学生達に地域医療の現場を実体験してもらい、将来は一緒に頑張ってもらいたいと願っています。

本音を言えば、個人的には、将来の専攻科が産婦人科であってくれたら一番うれしいのだけれど、小児科医や麻酔科医なども増えてくれないと話になりませんから、この際、別に産婦人科志望でなくてもいいから、とにかく、卒業後に県内に残留してくれると非常にありがたいと願いつつ、若い医学生達と接しています。

最近、当科に実習に来た医学生達(5年、6年)に進路を聞いてみると、例年よりも比較的多くの者が『卒業後は県内の病院で研修する』と言ってます。また、『将来の志望科として、産婦人科を考えています!』と断言する学生もけっこういます。

****** 読売新聞、2006年7月29日

医学部の「地域枠」急増

地方の医師不足解消策 定着には課題

 地方の医師不足を解消しようと、医学部の推薦入試に、地元高校出身者などに受験者を限定した「地域枠」を設ける大学が急増している。(地方部 上田詔子)

 今年度の入試で、秋田大や宮崎大など9校が新たに地域枠を設け、導入校は前年度の7校(募集人数56人)から16校(同121人)へと、一気に倍以上に増えた。来年度はさらに3校が新設するほか、4校が募集枠を拡大する。

 厚生労働省によると、医療に従事する医師は、年4000人のペースで増えており、人口10万人当たりの医師数は、ほぼすべての都道府県で増加している。しかし、大都市圏と地方との医師数の格差は大きく、政令市は全国平均の1・25倍、東京都区部では1・53倍にもなる。さらに地方では、県庁所在地などの都市部と町村部で医師の偏在化が深刻化している。

 医学部には、都市部から学生が集まる傾向が強い。医学部のある国公私立79校で、地元出身者は3割程度。さらに卒業から10年後、大学のある都道府県に残る割合は、地元出身者が78%なのに対し、地元以外は40%に過ぎない。

 こうした事情から、「地域枠」への期待は大きい。しかし、地域枠で入学しても地元に残る義務はなく、“残留率”を上げるためには、さらに工夫が求められる。

 その一つとして、厚労省の「医師の需給に関する検討会」は28日、地域枠と組み合わせた奨学金制度を推進すべきだという報告書をまとめた。奨学金の返済免除と引き換えに、地元医療機関で一定期間勤務してもらい、医師を確保しようという狙い。すでに秋田、鳥取など5県が同種の制度を設けている。

(以下略)

(2006年7月29日  読売新聞)