ある産婦人科医のひとりごと

産婦人科医療のあれこれ。日記など。

新臨床研修制度のもとでの今後の地域医療

2006年07月05日 | 地域医療

卒後臨床研修制度が改正されて、医学部卒業後の人の流れが、従来と比べて、大きく変わりました。

新臨床研修制度に移行してから2年3ヶ月が経過し、すでに3回のマッチングが実施されました。今回は4回目のマッチングで、多くの病院で医学部6年生に対する採用試験が行われる時期になりました。また、2年間の初期臨床研修を修了した者達に対して、後期研修医の募集が行われています。後期研修医の募集は今回で2回目となります。

初期臨床研修でも、後期臨床研修でも、一部の都会の有名病院に人気が集中する傾向がはっきりしてきました。地方の大学病院や一般病院などでは、なかなか人を集めることができず、募集定員を大幅に割り込んでいるところが多い一方で、都会の人気病院では募集定員の何十倍もの応募があると聞いています。

そのため、地方では、大学病院でも一般病院でも、多くの科が深刻な医師不足に陥っており、地域医療崩壊の危機に直面しているのが現状です。

とにかく、突然、世の中の制度が大きく変わってしまい、今後はこの制度の下で皆やってゆくしかありません。従来通りにやっていたんでは、もうこの先どうにもやっていけなくなるのは明らかで、この新しい制度の下で、何とか工夫して、地域の医療を継続・発展させていくように努力してゆくしかありません。

地方の病院にとっては、研修医達に十分に満足してもらえるような研修・指導体制を整備することが、現在の最重要課題だと考えています。大学病院と関連病院が連携して、地方にあっても十分に魅力のある研修環境を整備していく必要があります。


医学部入試の「地域枠」拡大

2006年06月20日 | 地域医療

****** コメント

将来の地域医療を支えてくれる後継者を養成するために、我々も医学生の臨床実習の指導に全面的に協力している。本音を言えば、将来の専攻科が産婦人科であってくれたら一番うれしいけれど、まあ別に産婦人科志望でなくてもいいから、できることであれば、卒業後に県内に残ってくれると非常にありがたいと思いながらいつも医学生達と接している。出身高校を聞いて、地元の高校の卒業生だとわかると、ついつい指導にも熱が入ってしまう。そういうわけで、医学部入試の「地域枠」拡大に、私は諸手を挙げて賛成する立場だ。できれば枠をもっと広げてほしいと思っている。

****** 朝日新聞、2006年04月28日l

信州大医学部入試、県内推薦枠倍増の10人

 信州大医学部は4月25日、長野県内の高校卒業予定者限定の推薦入試の募集人員を、07年度から現在の5人から10人に増員することを明らかにした。これに伴い、一般入試前期日程の募集人員を45人から40人に減員するという。

 へき地での医療態勢の確保が課題となっている中、将来、県内に定着して地域医療を担う医師の確保強化が狙い。県内推薦入試枠は05年度から全国に先がけて実施し、05年度は県内11校から22人、06年度は県内13校から29人が受験しており、受験者数が伸びていることが背景にあった。

(以下略)

(朝日新聞から引用)


産科医がいなくなる!

2006年06月12日 | 地域医療

****** コメント

ザ・ファクタは経済総合誌ということで、医学とは全く関係のない雑誌らしいが、一般の新聞社の記事よりも、よほどしっかりした内容であるようにも思われる。これは経済関係の記者が執筆した記事なんだろうか?

******

ファクタ出版株式会社、ザ・ファクタ、2006年5月27日
http://facta.co.jp/mgz/archives/20060527000167.shtml

発行元より本記事の全文引用の了承を得ました

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産科医がいなくなる!

10年間に産婦人科医だけが9%も減少。4割が60歳を超えており、きわめて深刻な事態。

産婦人科が受難の時代を迎えている。産科医療――出産を手がける産科医が減少し、少人数あるいは一人医長の病院勤務医は診療に追われっぱなしだ。これに加えて、妊娠から出産、新生児までの周産期医療をめぐるトラブル、医療訴訟は少なくない。さらに、不妊治療の普及や高齢出産に伴い、未熟児や異常を持つ赤ちゃんが増えている。

今年2月、福島県大熊町にある県立大野病院産婦人科の医長(38)が、帝王切開で妊産婦(当時29)を死亡させたとして、福島県警に業務上過失致死と医師法(異状死体の届け出義務)違反の疑いで逮捕された。翌月、福島地裁に起訴されたが、日本医師会をはじめ、医師を派遣している福島県立医大、日本産科婦人科学会など関連団体が、「故意や悪意のない医療行為に対し、個人の刑事責任を問うのは疑問」と一斉に反発した。医療訴訟を起こされるばかりか、強制捜査の対象になったことで、産科医のなり手が、いよいよいなくなるという悲鳴が聞こえてくる。

■訴訟が起きやすい勤務環境

厚生労働省が2年に1度行う医師・歯科医師・薬剤師調査によれば、1994年から2004年の間に、医師総数は22万853人から25万6668人と、約16%増加したが、産婦人科医は1万2340人から1万1282人へと1058人、約9%も減少している。小児科医不足が社会問題化しているが、実は同じ期間に小児科医は約10%増えている。産婦人科だけがマイナス成長であり、事態はきわめて深刻なのだ。

実際に産婦人科医になる新人医師は年間約300人を数えるが、大学病院産婦人科への入局者はどんどん減っている。しかも、子宮がん、卵巣がんなどの腫瘍分野や、不妊治療を専門とする医師が多く、産科希望は少ない。その原因は、「分娩に医師は不要」「分娩はリスク幅が大きい」というイメージや、不規則な労働時間、責任に対する報酬(対価)の低さ、周産期医療をめぐる訴訟が多いことなどが指摘されている。

東京地裁民事部は国内で医療訴訟を最も多く扱っているが、受理件数は年々増え、93年に442件だったのが今では1千件を超えている。02年に受け付けた訴訟896件のうち、内科26%、外科23%、整形外科15%に次いで、産婦人科は12.25%。このうち胎児管理や胎児仮死など産科領域が圧倒的に多い。一般に周産期医療をめぐる訴訟の3割以上は産婦人科関連といわれ、産科領域の訴訟は少なくないのだ。

家庭での自然分娩が大半だった昔に比べ、今はクリニックや病院での出産が増え、周産期死亡率も世界で最も低い。にもかかわらず、訴訟につながるトラブルは増加している。妊娠・出産・育児は順調なのが当然とされ、少しでも結果が悪ければ過失(過誤)が原因ではないか、と紛争が起きやすい。訴訟に至らないまでも、各医師会が準備している医療補償費用の半分を5%の産科医が使っているといわれるほどだ。

日本の病院の産婦人科で、実働する医師は平均2人程度といわれる。この少人数で、突発的な局面に対応できるかどうか、医療の安全面で不安が残る。これに比べ米国、英国の1分娩施設当たりの平均医師数は7~8人。実は、周産期死亡率の低さを誇る一方で、日本の母体死亡率が他の先進国よりやや高めである事実はあまり知られていない。実死亡者数は年間約70人とそう大きな数字ではないが、1分娩施設当たりの少ない医師数との深い関わりを指摘する専門家は少なくない。

ある国立大学教授は、「少人数の診療では、急変した状態に耐えられる実力を育もうと思っても限界がある。日本の産婦人科医療の質の向上は、人的資源の分散で妨げられている」と言う。前述の福島県立大野病院の逮捕された医師は、1人しかいない産婦人科の医長だったが、年間200件もの分娩を手がけていた。赤ちゃんは無事誕生したものの母親がわが子の顔を見ることなく亡くなった悲劇と、少人数診療との間に因果関係があるかどうかは不明だが、院内の臨床検討会で客観的な討論もなく患者の診療に追われる日本の産婦人科医療の実態が垣間見える。

日本産科婦人科学会の拡大産婦人科医療提供体制検討委員会は4月下旬、高齢出産や妊娠中毒症など危険度の高い分娩を行う公立・公的病院に3人以上の産婦人科医の常勤を求める緊急提言を出した。全国の大学関連病院で産婦人科医が1人の病院が14.2%、2人以下が40.6%にのぼるとの全国調査を踏まえ、分娩の安全を担保できないという危機感によるものだ。

産科の常勤医がいない病院も増えている。2年間に95の大学関連病院から産科の看板が消えた。2年前にスタートした新臨床研修制度で医局員の確保に四苦八苦している大学の医局が、背に腹は代えられぬと派遣を取り止めているからだ。

関係学会や厚労省などが模索しているのは、中核病院に産婦人科医を集約した産婦人科センター構想だ。病院の産科医の負担を軽減するため、開業医がセンター病院で当直も含めた連携診療をする方策は、すでに小児科領域で始まっている。

■不妊治療の普及もマイナス

体外受精に代表される生殖補助医療の急速な発達も、日本の産科医不足に影を落としている。体外受精で生まれる新生児は年間1万3千人を超えるが、それに伴い出生体重1500グラム未満の極小未熟児、超未熟児が新生児の0.7%(約8千人)と、体外受精導入以前の2倍に増加している。多数の専門医と専門看護師による24時間監視・勤務体制の新生児集中治療室(NICU)でしか、脆弱な未熟児は育たないが、それが産科医不足に輪をかける。

双子・三つ子などの多胎、早・流産も増え、染色体異常、成長障害など多様な問題をはらんでいる。増えている高齢出産でも、35歳以上の初産児出産は母子ともに急激なリスク上昇を伴う。近い将来、周産期死亡率の悪化を招く恐れがある。

不妊治療の普及は、分娩と関わらない産婦人科医を生み出した。全国に600以上ある不妊クリニックの多くは分娩を扱わず、一回数十万円という保険外治療費による利益率は高い。同じ産婦人科医でも、産科医は過酷な勤務に追われ、時に訴訟の被告になる一方で、不妊専門医は当直・救急・がん治療のない「3ない科」で楽をし、高収入も得ている。心身ともに負担が大きく、責任も重い産科医を支えているのは、産科医としてのやりがいと使命感だけだ。

産婦人科医の4割以上が60歳を超えており、実働可能な産科医は急速にいなくなる。産科医不足をこのまま放置するわけにはいかない。

著作権: ファクタ出版株式会社


必修初期研修修了後の進路の動向

2006年05月24日 | 地域医療

従来は、医学部卒業後の新人医師の進路として大学病院で研修する者が多かった。そして、大学病院から医局人事で一般病院に医師が派遣され、大学病院は医師供給元の役割を長く果たしてきた。

しかし、新臨床研修制度によって、医学部卒業後に一般病院で研修する者が増え、必修初期研修の修了後も大学には戻らずに、そのまま一般病院で勤務する者の割合が増えてきたという調査報告が今回公表された。

必修初期研修修了後の進路の動向が、長期的に今後どのように変化してゆくのかは全くわからないが、大学病院が医師供給元の役割を果たし続けてゆくことが今後はだんだん難しくなってゆくことも予想される

****** 産経新聞、2006年5月24日

臨床研修医 3割、進路を変更 小児科希望は微増

 医師の新臨床研修制度の一期生として、今春、二年間の必修初期臨床研修を終えた研修医の三分の一が、研修中に進みたい診療科を変更していたことが二十三日、厚生労働省の中間まとめで分かった。厚労省は「進路を固めていない研修医は多く、診療内容に興味を持たせる研修の工夫が進路を分ける」とみている。

 調査は初期研修を修了した研修医約七千三百人に実施。二千五百人分(34%)について中間的にまとめた。

 研修修了後の進路割合は内科14・4%、外科8・5%、小児科8・4%、麻酔科6・4%、産婦人科4・8%、皮膚科3・9%など。平成十四年の医師調査時の二十歳代の医師の診療科別割合に比べ、約10ポイント減った内科以外は、大きな変化はなく、小児科は1・6ポイントの微増だった。

 勤務の忙しさが指摘されている診療科について進路変更の理由(複数回答)を分析したところ、小児科から他科へ進路変更した人の場合、他科に興味がわいた80・6%▽小児科が大変だと思ったから30・6%▽興味がそがれたから29・0%-だった。

 また、産婦人科については、あきらめた人と新たに希望した人がほぼ同数いた。

(以下略)

(産経新聞、2006年5月24日)


共同通信:若手医師、半数が大学離れ

2006年05月23日 | 地域医療

以前はほとんどの研修医が大学で初期研修を行ってましたが、現行の臨床研修制度が開始されてから、初期研修を都会の一般病院で行う研修医の割合が増えました。そのため、特に地方の大学病院では関連病院から多くの医師を引き揚げ、地方の多くの基幹病院が医師不足に陥りました。現行の臨床研修制度が地方の医師不足に拍車をかけたと多くの人が指摘してます。

****** 共同通信、2006年5月19日

若手医師、半数が大学離れ 臨床研修導入前より21ポイント減 地域医療に悪影響も

 大学医学部・医科大を卒業後に大学に残り勤務や勉強をするのを選んだ若手医師は、現在の臨床研修制度が導入される前の2002年には72・1%だったのに、制度1期生としてこの春に研修を終えた医師では51.2%と20.9ポイントも減ったことが19日、全国医学部長病院長会議(会長・大橋俊夫(おおはし・としお)信州大医学部長)がまとめた調査の中間報告で分かった。

 地域別では、大都市部での減少が緩やかだったのに対し、北海道や東北、中国、四国地方などで若手医師の大学離れが目立った。診療科では、脳神経外科、小児科、産婦人科、救急など労働条件が厳しい職場を避ける傾向があった。

 大学病院は地方の病院への「医師供給元」となってきたが、調査した小川彰(おがわ・あきら)岩手医大医学部長は「臨床研修を通じ、勤務条件のいい民間病院を選ぶ医師が増えたようだ。地域医療を支える大学病院の機能が失われる恐れがある」と指摘。同会議は近く制度改善を国に求める声明を出す。

 同会議には医学部のある大学と医科大学の計80校が参加、うち67校が中間報告の対象。

 後期研修生や大学院生として大学(出身校以外も含む)に残った割合は、02年は全国平均で72.1%だったが、06年は51.2%と激減。中でも北海道、東北、中国、四国では、02年より43.8―31.0ポイント下がって30%台に落ち込んだ。一方、関東は8.7ポイント減の65.0%、近畿は12・9ポイント減の60.6%にとどまった。

 人口50万人以上の都市がある都府県と札幌市は平均5.5ポイント減だったが、他の県と札幌以外の北海道は同42.4ポイント減と地方離れが目立った。

 診療科別では、脳神経外科での勤務を選んだ医師が42.3ポイントの大幅減。小児科や産婦人科も不人気で28.1―18.5ポイント減った。半面、形成外科が40.9ポイント増で、皮膚科や麻酔科も人気が高かった。小川医学部長は「24時間勤務や患者の生命にかかわる医療現場を避ける傾向がみられる」と分析している。

(共同通信、2006年5月19日)


毎日新聞:国家試験制度の緩和を求める提案(三重県)

2006年05月14日 | 地域医療

コメント

現行の制度では、6年間の医学教育を終えて医学部卒業後に、さらに主要な科をローテートする2年間の初期臨床研修を経て、やっと各自の専門分野の修行(後期研修)が始まる仕組みとなっている。内科医、外科医、産婦人科医などとして、いろいろな一般的な経験を積んで、一人前の専門医になるまでには、さらに5年、10年と長い修行期間を要する。

それなのに、医学部の教育期間を1年短縮して、促成で地域限定の医師免許を与え、医師不足の地域にどんどん送り込んで、即戦力として働いてもらおうという提案が(冗談ではなくて)行われる予定というニュースである。

わが国でも、かつて、第二次世界大戦中は学徒出陣で多くの学生が戦場に送り込まれて、前途有望な多くの若者が戦死した。医学部の学生達も教育期間を短縮して早く卒業させられ、多くの若者達が軍医としてどんどん戦地に送り込まれた。 今回のニュースの提案は、戦時中の学徒動員と全く同じようなことをやろうという発想の提案のように感じる。

医療過疎地では経験豊富な臨床医の数が圧倒的に不足している。臨床経験ゼロの医学部6年生に医師免許を与えて、どんどん医療過疎地に送り込んだとしても、そこに指導医がいなければ患者さんを前にして何もできるはずがない。提案している団体の人達も、おそらくは本気で提案しているわけではなくて、『医師不足はここまできているのだ!』と警告して、危機的状況を世間に知らしめようという意図も半分はあるように感じる。

****** 毎日新聞、5月13日
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20060513-00000018-mailo-l24

医師不足:国家試験緩和の特区に 千葉のNPO、県に提案 /三重

 医師国家試験の受験資格を1年前倒しし、6年在学中に地方の医師として勤務できるように――。全国の医療関係者でつくるNPO法人「医学教育振興センター」(千葉県浦安市)が、地方の医師不足対策として、医師国家試験制度の緩和などを求める構造改革特区の提案を行う。同センターは12日、医師不足が深刻な三重県に対し、提案が認められた場合は特区申請するよう申し入れた。
 同センターによると、現行の医師法では、医師国家試験は医学部卒業者しか受験できない。しかし、医学部のカリキュラム自体は5年生ですべて修了しているのが実情だという。このため、5年生の受験を認め、合格者に地域限定で医師免許を与えて6年生の時から、地方で勤務できるよう提案する。提案が認められれば、三重県の場合、約100人の医師が確保できるという。
 構造改革特区の提案募集は6月中に行われ、国は9月までに特例措置の基本方針を決定。各自治体は、基本方針で認められた特例措置に基づき特区申請する。県医療政策室は「提案が認められれば、三重大医学部などの考えも聞き、特区申請するかどうか検討したい」としている。【田中功一】
〔三重版〕

5月13日朝刊 (毎日新聞) - 5月13日15時0分更新


福島県内医療関係四団体共同声明  

2006年05月13日 | 地域医療

http://www.fukushima.med.or.jp/~main/seimei0508.htm

           安全・安心な地域医療をめざして

 福島県医師会、福島県歯科医師会、福島県薬剤師会、福島県看護協会は、先般の県立大野病院の産婦人科医師逮捕事件に関し、次の声明を発表いたします。

                        声      明

 はじめに、お気の毒な転帰に至られた患者様のご冥福をお祈りするとともにご遺族様には心よりお悔やみ申し上げます。

 私たちは今回の事案は産婦人科という診療科や個別の医療機関、医師に関するものではなく、医療提供全体にかかわる大変に重大な問題であると認識しています。

 また、各方面から様々なご発表、ご連絡をいただきましたことに感謝いたします。

 全ての医療従事者が萎縮することなく良質な医療を提供できる体制は必須のものであり、この観点から私たち四団体は、学術・医療関連団体として、厚生労働省など関係者に必要な制度改正を含めた努力を強く要望して参ります。

 医療は、地域の皆様から信頼されてこそ良質なものになると考えます。私たち四団体は生涯教育の充実に努めるなど安全で良質な医療の提供を目指し、今後とも努力する所存です。

平成18年 5月 8日

      (社)福島県医師会     会 長  小 山 菊 雄
      (社)福島県歯科医師会 会 長  宮 城 圀 泰
      (社)福島県薬剤師会   会 長  櫻 井 英 夫
      (社)福島県看護協会   会 長  西 山 郁 子


西日本新聞:地域が安心できる医療を 医師「偏在」

2006年05月10日 | 地域医療

****** コメント

医師の総数が毎年4000人づつ増えていても、医師が足りなくて困っている部署では全く増えていない。例えば、産婦人科医の数はむしろ減っている。要するに、医師の充足している部署に医師がさらに集まり、医師の不足している部署からは医師がどんどん逃げ出していて、医師の充足しているところと不足しているところとの格差がますます広がっている状況にある。従って、医師不足の対策として、今後、医師の総数をいくら増やしていっても、それだけでは医師不足は解消されないだろう。

****** 西日本新聞、2006年5月9日
http://www.nishinippon.co.jp/nnp/column/syasetu/20060509/20060509_001.shtml

地域が安心できる医療を 医師「偏在」

 地域医療が崩壊の危機を迎えていると言っても過言ではないだろう。地方では医師を確保できずに、閉鎖に追い込まれる病院も出ている。

 医師の数は毎年約4000人ずつ増えており、医師の絶対数が減っているわけではない。では、なぜ足りないのか。

 背景には、医師の偏在という根深い問題がある。偏在は、へき地の医師不足という地域間格差だけでない。産婦人科や小児科、麻酔科の医師不足といった診療科間格差も顕著になっている。

 医師の偏在を加速させた原因のひとつは、2004年度から始まった新臨床研修医制度にある。新人医師に2年間の実務研修を義務づけたこの制度は、研修医が研修先を自由に選べることから、都市部の研修指定病院に集中し、大学や地方の病院を避ける傾向が強まった。

 その結果、大学病院は医師不足となり、地方の病院に派遣中の医師を引き揚げざるを得なくなった。研修医を引き揚げられた病院では、残った勤務医たちの労働環境が悪化している。

 このため若手医師の間で、激務である勤務医を避け、開業志向が強まるという悪循環をたどっている。

 このまま医師の偏在を放置すると医療の地域格差が一層拡大しかねない。地域医療の中核を担う自治体病院でも、小児科や産婦人科などの専門医が不足し、休診せざるを得ない事態を招いている。

 なにより必要なのは、住民が安心して暮らせる地域医療体制だ。

 医師の偏在をなくすのは行政の責務でもある。とくに離島やへき地の医療確保は喫緊の課題である。

 とりわけ出産は帝王切開や急な出血など緊急事態に陥ることも少なくない。地域に専門医が不在では、大事になりかねない。専門の医療機関に恵まれない地域に、安心できる医療をどう確保するか。深刻な問題である。

 医師を確保するには通り一遍の行政上の対策だけでは限界がある。医師の個人的な使命感に頼っていても改善しない。

 産婦人科医や小児科医は激務のうえに、高額な医療訴訟を起こされる恐れがあることなどから年々志望者が減少している。人手不足が医療ミスにつながるとの指摘もある。勤務医の労働環境を抜本的に見直すことも必要だろう。

 自治体レベルでは、医師不足地域での勤務を志す医大生への奨学金制度や、出産のために離職した女性医師の復職を支援するなどの試みが始まっている。

 もはや1病院、1自治体で解決できる問題ではない。行政と医療機関、医師会などが協力し、医師不足が偏在する構造的な問題点を洗い出し、総合的な是正策を打ち出すときだ。

 多くの人々は住み慣れた地域で医療を受けられる体制を求めている。そのためにも、専門医だけでなく家庭医といった総合臨床医の養成も欠かせない。

=2006/05/09付 西日本新聞朝刊=


医師不足 負の連鎖

2006年04月18日 | 地域医療

大学病院の医師引き揚げなどによる医師不足で激務となり、誰かが耐えられなくなって辞めていくと、残された医師はますます激務となるという負の連鎖で、地方病院の医師数がどんどん減ってしまい、休診、病棟閉鎖などが加速度的に広がりつつある。

特に地方の産婦人科医不足は最近問題化して、しばしば報道でも取り上げられるようになった。現在、地方の一般病院に産婦人科志望の若い医師を集めることは至難の業である。若い医師にとって魅力ある病院とは、豊富な症例数、充実した研修体制、専門医の資格取得が可能であること、責任ある仕事を任せてもらえること、あまり激務でないこと、女性医師が辞めずに働き続けられる柔軟な勤務体制、託児所の設置、待遇がよいこと、などいろいろと考えられる。病院としても、知恵を絞って、若い医師達に病院の魅力をアピールできるように様々な工夫をしていかなければならないと思う。

****** 読売新聞、2006年4月16日

研修医戻らず 細る地方大学病院

義務化された臨床研修を終えた1期生が今月から、それぞれの進路に進んだが、大学離れの傾向がくっきりと表れた。大学病院の診療体制が先細りするうえに、大学からの医師派遣に支えられる地域医療にも大きな影響を与えそうだ。既に、医師不足で休診など診療を制限する病院も現れている。(医療情報部 坂上博、田村良彦)

待遇いいと一般病院へ

「せっかく育てた医師の大学外流出が、これほどひどい状況になるとは思わなかった」

 弘前大卒後臨床研修運営委員会の水沼英樹委員長(産婦人科教授)は、危機感を募らせる。同大医学部は1学年100人だが、2年間の臨床研修終了後、専門医研修の場に同大を選んだのはわずか19人となった。

 水沼教授は「青森県出身者は入学者の2、3割で、大学に残る医師は従来40人ほどだったが、新研修制度の導入で、大都市の一般病院に流れる医師が増え、流出に拍車がかかった」と話す。

 読売新聞が全国80大学に対して行ったアンケート調査も、地方大学が従来の半数ほどしか確保できそうにない厳しい現状を浮き彫りにした。

 新研修制度の導入以前は、新人医師の7割が大学に残り、専門に進んだ。ところが新制度では、臨床研修先として半数が一般病院を選び、そのまま一般病院で専門研修に進んだ医師が多い。

 厚生労働省が昨年3月、行った調査では、臨床研修で一般病院を選んだ理由として、「症例が多い」(40%)、「研修プログラムが充実」(32%)を挙げる医師が多かった。

 千葉県内の一般病院で、臨床研修に引き続き、専門医研修を始めた男性医師(26)は、「大学に比べて医師数が少ないので、たくさんの治療経験を積めるし、病棟長など責任ある仕事もやらせてもらえる可能性もある。腕を磨くには、一般病院の方が良い」と話す。

 大学病院は、教育機関でありながら、専門医を育成するための研修プログラムを整備していないところも多く、医師の臨床能力を育てる努力を怠っていた面がある。

 また、研修医には、先輩医師の学会準備など雑用が任され、給料など待遇面でも一般病院に劣っていた。一般病院との競争が始まり、「大学」という看板だけでは医師を集めることが難しくなってきた。

(以下略)

(読売新聞、2006年4月16日)

******

京都新聞(2006年04月17日掲載)

医師不足 地域医療が壊れそうだ

   地方の医療機関で医師不足が深刻になっている。放射線科、麻酔科などで目立ち、とくに小児科と産婦人科は危機的といっても過言ではない。

 島根県の隠岐島では今春、常勤の産婦人科医がいなくなった。出雲市の県立病院から島の総合病院に派遣されていた医師を、本院に引き揚げられたためだ。

 島で出産を扱う病院は、この総合病院しかなく約六十人の妊婦さんは八十五キロ離れた松江市など本土の病院で出産せざるをえなくなった。

 地元自治体と県は、六十人それぞれに最高十七万円の出産費用助成を決定するなど対応に四苦八苦という。

 医師不足による、苦境は全国各地の地方都市で広くみられ、地域の拠点となる病院で特定診療科の閉鎖、休診が相次いでいる。

 京都府北部でも、京丹後市のように市立病院の常勤医師が半減したところがある。今月、府北部五市二町の首長らが時局講演に訪れた谷垣禎一財務相に窮状を「直訴」する場面もあった。

 大都市との医療格差が、これ以上広がれば、地域社会の崩壊につながりかねない。小児科や産婦人科医の不足は少子化を一層、加速させるだろう。

 政府、与党は国会に医療制度改革関連法案を提出して審議に入っている。医療費抑制だけでなく「大都市と地方に医師をどう再配置するか」を焦点にした議論が欠かせない。

 医師の教育・養成から報酬、配置を一体的に考え直す必要があろう。都道府県は保健医療計画などで目標を示してはいても、できることに限りがある。政府が全国の医療需要をトータルにつかみ、配置のバランスを図るべきだ。

 医師が地方を離れ、なぜ大都市に集まるのか。小児科や産婦人科では、他科より過酷な勤務の割に報酬は高くないことも一因だろう。

 大学病院の若い勤務医や、臨床研修を終えた研修医が一般病院に移る傾向も見られる。医師不足になった大学病院などは、地方の病院に派遣している医師を引き揚げざるをえない。

 特定の診療科で、医師のなり手自体が減っていることも大きい。日本小児科学会の調査では、二〇〇三年に大学病院やその関連病院で新たに小児科医になったのは五百二人。それが〇六年は二百七十六人に急減した。

 病院の小児科医が減れば、残った小児科医の勤務はより過酷になり、小児科離れがさらに進む。事情は産婦人科も大差ないようだ。この悪循環を、なんとしても断ち切らなければならない。

 厚生労働省は、出産や育児のために離職した女性医師を登録して再就職できるようにする制度「女性医師バンク」を打ち出した。医師の働きやすい環境づくりこそ重要だ。こうした工夫を都道府県や自治体レベルでもさらに進め、医師不足を解消したい。

(京都新聞 2006年04月17日掲載)