ある産婦人科医のひとりごと

産婦人科医療のあれこれ。日記など。

ダイエットの敵、リバウンド現象を克服するためにはどうしたらいいのか?

2009年07月05日 | ダイエット

多くの人がダイエットに挑戦し、一時的にはうまくいって体重が減っても、いつの間にか元より体重が増加してしまい、それを繰り返すうちに、ますます体重が増えていきます。そのようなウェイト・サイクリングに陥っている人は非常に多いですが、私もその典型例でした。

私の場合、若い時は気合いを入れると減量が割と簡単にできてましたが、その度にリバウンドを繰り返し、中年以降になると減量は半ばあきらめ気味でした。昨年の暮れに私の職場でもメタボ健診が始まり、腹囲測定があることを知り、久しぶりにダイエットに気合いが入りました。健診の直前に減量に成功し、ぎりぎりメタボリック症候群の基準からは外れることができました。苦労して減量に成功しても、すぐにリバウンドするようでは何にもなりません。減量よりも減量後の体重維持の方がずっと難しいと思います。

ダイエット成功後のリバウンド現象を克服するためには一体全体どうしたらいいのでしょうか?御一緒に考えてみたいと思います。

ダイエット成功後のリバウンド現象とは?

ダイエットがうまくいって、いったん減量に成功したとしても、その後再びもとの体重へ戻ってしまうリバウンド現象は、多くの人が経験しています。ダイエット成功後に短期間で前よりもさらに太るというのはよくある話です。特に、急激なダイエットで短期間に大幅に減量すると、体重がすぐに逆戻りしやすいことが知られています。リバウンド後は、以前より筋肉が減り脂肪だけが増えていて、しかも脂肪がとれにくい状態になってしまってます。この減量とリバウンドというサイクルを幾度も繰り返すウェイト・サイクリングに陥ると、1度目よりも2度目と回を重ねる毎に、ますます減量しにくくリバウンドしやすくなる方向に生体は変化していきます。これはダイエットを実行する前よりはるかに悪い状態です。こんな状態に陥らないようにくれぐれもお気をつけ下さい。

やせることよりも、やせた状態をいかに維持するかの方が、はるかに重要で困難な問題です。やせた状態を維持するために絶対に必要なことは、太る原因となった食習慣を変えることです。減量で減らした体重をいかに維持するかが最重要事項です。

ダイエット成功後、油断してはいけない期間は2年間です。特にダイエット成功後の半年間くらいは最も警戒すべき時期です。食事量には常に気を配り、体重が増加し始めたら、すかさず運動量を増やすなどして早めに対処しましょう。

減量後の体重維持は、減量の程度が大きいほど困難であることが知られています。現状から10%程度の減量でも成人病は著しく改善されますから、最初から理想体重を目指して挫折を繰り返すよりは、現在の不健康な状態から少しでも脱却できる実行可能な目標体重を設定してそれを確実にクリアしていく方が現実的です。

米国健康財団の健康体重に関する勧告では、まずは体重の10%程度の減量で十分としています。そしてこの体重を6カ月以上維持し、体重増加のないことを確認してから次のステップに移るようにとしています。

食事制限+運動がダイエットの基本!

食事制限によるダイエットを開始すると、ちゃんと実行すれば、最初の1カ月間はおもしろいように体重が減少しますが、2カ月目にはいると、体重の減少はほとんど止まります(適応現象)。これは、少ない摂取エネルギーに合わせて、基礎代謝量を低下させて消費エネルギーを減らそうとするために起こる現象です。ダイエットの途中で挫折する人の多くは、体重減少のみられないこの時期に減量をあきらめてしまうのです。

この適応現象を克服するために必要なのが運動なのです。運動をすると、活動エネルギー消費に加えて基礎代謝量も増加します。さらに、余剰エネルギーが脂肪に変換されにくくなります。適応現象を克服するために必要な1日運動量は300kcal程度とされています。およそ一万歩の歩行がこの運動量に当たります。

食事制限だけでは適応現象によって体重減少が止まる時期が何度もやってきます。そこで、さらに体重を減らすためには、より過酷な食事制限か、運動を加えるかのどちらかを選択しなければなりません。より過酷な食事制限は健康状態を悪化させてしまいます。食事制限はそのままにして、根気よく運動を続けて、何度も訪れる適応現象を克服してゆくことが大切です。

運動で消費できるエネルギーはそれほど多いものではありません。食事制限なしで、運動だけで体重を減少させることはほとんど不可能と考えて下さい。運動で体脂肪1kgを減らすためには、7200kcalのエネルギーを消費する必要があり、これをウォーキングに換算すると24万歩分の運動で消費されるエネルギーで、ランニングだとマラソン3回分の消費エネルギーです。運動の前後に体重計の目盛りが減るのは、発汗で体の水分が減った分がほとんどで、運動後に水を飲んだらすぐに元に戻ります。運動後に食欲が増進して普段より余分に食べてしまえば、むしろ体重は増えてしまいます。減量のためには、運動をして、なおかつ、摂取カロリーもある程度は制限する必要があります。

ダイエット効果のある運動とは?

適応現象を克服してゆくためには,1日300kcal程度消費する運動が必要ですが、具体的にいうと、ウォーキングで75分、階段の昇りで40分、水泳や縄飛びで30分、これらの運動を継続した場合の消費エネルギー量が300kcalに相当します。

300kcalというと、ビールなら大ビン1本と同じエネルギー量です。運動後に、ビール1杯飲めば消費エネルギーはプラスマイナスゼロとなってしまいます。

ダイエットには、短距離走のような急激で激しい運動よりも、軽く汗ばむ程度の軽い全身運動を長く続けるほうが効果があります。運動開始直後は、エネルギー源として筋肉中のグリコーゲンや血液中のブドウ糖が使われますが、運動開始後15~20分たってから脂肪が使われるようになり、30分を経過すると使用されるエネルギーのほとんどが脂肪になります。そのため、脂肪を燃焼させるためには、30~60分くらいは運動を持続した方が効果的です。また、週1回程度の運動ではダイエット効果はほぼゼロに等しく、毎日継続して行えるウォーキングなどの軽い運動がダイエットには適しています。毎日継続できるかどうかが重要なポイントで、激しい運動は必要ありません。

体脂肪は時間をかけてゆっくりと温めなければ燃焼が始まらず、しかも燃焼し続けるには多量の酸素を必要とします。脂肪を燃焼させるために一番効果のある運動が、大量の酸素を使う有酸素運動(酸素を取り入れながら行う運動)です。ウォーキング、ジョッギング、水泳、サイクリング、エアロビックダンスなどです。

さらに、ダンベル体操などの筋肉トレーニングでは、筋肉を鍛えて筋肉の量が増え、基礎代謝量が増えることによって消費エネルギーが増加します。また、ダイエットの食事制限で、脂肪ばかりでなく筋肉なども減少してしまう可能性がありますから、筋肉を鍛えて筋肉減少を予防することは大切です。

要するに、ダイエットのためには、ウォーキングなどの有酸素運動を主とし、それを補う形でダンベル体操のような筋肉トレーニングも併用するのがベストです。

ゆっくり気長に継続しましょう!

ダイエットの食事は、カロリーを押さえた、栄養バランスのよい食事を、規則正しく食べるというのが王道です。しかし、いちいちカロリー計算なんてやってられませんから、例えば、『間食は一切止め、3度の食事を品数はいつもと同じにして、各品の量をいつもの2/3に減らす(外食の場合は各品を1/3づつ残す)』というような方法も有効です。これを気長に続けてゆけば確実に体重は落ちていくはずです。最初の2週間くらいは空腹感に悩まされますが、3週間目以降くらいになると胃も小さくなってきて空腹感は次第になくなります。これと、有酸素運動と筋肉トレーニングとを組み合わせて確実に実行してゆけば、1カ月2~3kg程度の減量ペースが期待できます。実際に成功する人は少ないのですが、方法論としては非常に単純なことです。実行すれば必ず成功するはずですから、これをゆっくり気長に継続しましょう。


EMS運動とは?

2006年10月12日 | ダイエット

コメント:

最近、インターネットショッピングの衝動買いで、EMS・フィットネス運動機器(トレリート)を購入しました。これだけでダイエットに成功するとは思えませんが、取り扱いは非常に簡単で説明書を見ながらすぐに始められました。これなら、家族みんなで楽しく気軽に使っていけそうです。効果のほどは、後日、報告したいと思います。

参照:

メタボリックシンドロームについて

内臓脂肪症候群 なめてはいけない『お腹のサイズ』

肥満とダイエットについて

******

微弱な電流を流すことにより腹筋などの運動を行うことが可能なEMSフィットネスマシン。「EMS(電気筋肉刺激)」では、筋肉だけを「運動」させることが可能だ。「トレリート」は、2日に1回程度の使用で、体脂肪率を減少、筋肉の増加が期待できる。使い方は、運動させたい箇所に粘着パッドを貼り、マニュアルに従って操作させるだけと簡単。忙しくてスポーツする時間のない人や、「膝を壊して無理ができない」という人などにおすすめしたい。

●トレリートの特徴

腹部・ヒップ・太もも・二の腕・背中・バストの6つのプログラムをセット

体の部分によって筋肉の特長は異なる。それぞれの筋肉特性に基づいたプログラム設定で、より効果的にシェイプアップ。

6つのプログラムとも、ウォームアップ3分・トレーニング25分・クールダウン2分の30分が基本。効果を早く出したい方にはタイマーの操作により、時間を45分、60分に延長させることも可能。

プログラム実行中でも出力の変更が簡単。

●EMS運動とは?

電気刺激で筋肉を動かし、鍛える

EMSとは、電気的筋肉刺激(Electrical Muscle Stimulation)のこと。通常、筋肉は脳からの指令によって運動する。EMSはこの指令と同様の刺激を電気によって与え、筋肉を運動させるシステム。EMSによる運動は、自発的な運動よりも高い筋力値を与えることもでき、高い運動効果が得られることが確認されている。息が切れたり、ケガをしたりする心配も少ないため、長時間のトレーニングが可能。

運動=筋肉の収縮。運動で体脂肪を消費

体脂肪は筋肉の中だけでしか消費されないという特性があるため、食事を制限するだけでは、積極的に体脂肪を減らすことは難しい。運動によって筋肉を動かすことで、体脂肪を減らすことが可能となる。
通常体を動かす筋肉は、赤筋(Slow Muscle)と白筋(Fast Muscle)の2つ。運動をすると白筋は主に「糖」を、赤筋は主に「脂肪」をそれぞれ運動エネルギーとしている。つまり赤筋の働きによって、体脂肪が消費され、減ってゆくことになる。
体脂肪を減らすためのシェイプアップに、ジョギングやエアロビクスなどの有酸素運動が効果的であるとされるのは、それらの運動が、脂肪をエネルギー源として消費するから。筋肉を動かす、つまり運動をすることで、体脂肪は減ってゆくのだ。

●正しい根拠に基づいたEMSトレーニングマシン「トレリート」の確かな効果

1. 筋肉に適した周波数でなければならない

人は体の場所ごとに筋肉の混合率(赤筋、白筋の組み合わせ)が異なる。「トレリート」は、その平均的な混合率に合わせて、体の部位ごとに周波数を設定。

2. 効果的なパルス幅が必要

周波数と同様にパルス幅(実際に電気が流れる時間)にも同様のことが言える。「トレリート」の設定は、多くの学術的な論文を基に、それぞれのトレーニングに適したプログラムが設定している。

3. ウォーミングアップ(準備運動)、クールダウン(整理運動)が必要

筋肉を効果的にトレーニングするためには、本格的運動に入る前に筋肉の機能を高めておく準備運動と、不快な筋肉痛を避ける運動後の整理運動とが必要となる。

4. 運動時間、休止時間が必要

効果的なトレーニングを行うためには、運動時間と休止時間のサイクルを正しく設定する必要がある。運動と休止時間の割合が適切に設定されていないと、効果的なトレーニングは期待できない。

5. 好きな場所、最適な場所をトレーニングできるパッド方式

筋肉の付き方は人によって異なる。トレーニングをしたい部位を最適なトレーニング位置で行うためには、固定式ではなく自由にトレーニング位置を決められるパッド方式が適している。

●「トレリート」のトレーニング作用

「トレリート」のEMS運動によって筋肉は疲労する。この疲労は2日から3日で回復するが、その際、筋肉は運動と適度な休息によって鍛えられ、以前よりも強くなって回復する。これが「超回復」と呼ばれる筋肉の特性で、鍛えれば鍛えるほど筋肉は太く、強くなる。「トレリート」でのトレーニング時に加え、こうして鍛えられた筋肉によって、今まで以上に、日常的に体脂肪をエネルギーとして消費する力が強くなる。「トレリート」で筋肉を鍛えることが、体脂肪を消費しやすい体に変えていく。これが、基礎代謝量の向上だ。

●トレーニングによる肉体的な変化

「トレリート」の運動効果により筋肉量が増えると、基礎代謝量が向上する。基礎代謝とは運動をしない場合でも消費する基本的なエネルギーの消費で、シェイプアップをするためには筋肉量を増やし、自然にエネルギーを消費してくれるこの基礎代謝を向上させる必要がある。「トレリート」による運動は、基礎代謝を高め、普段の生活でのエネルギー消費を高めることにより、カロリーを摂取しても太りにくい体質をつくる。食べても太りにくい秘密が、ここにある。

●皮下脂肪も内臓脂肪にも有効なトレーニング

慶應大学スポーツ医学研究センターの実験で、「トレリート」が筋肉を増大させ、脂肪を燃焼させていることがわかった。大殿筋面積は増加が認められ、また体脂肪率、体脂肪量では標準の体脂肪率以上の女性に減少が認められた。除脂肪体重が増加、つまり筋肉を増やすことで体脂肪率が減少するのだ。

「トレリート」の効果には、個人差があります

●「トレリート」のご使用にあたって、次の方はご使用を避けてください

・ぺ一スメーカー等の体内植込型医用電子機器を使用の人
・急性(疼痛性)疾患の人
・悪性腫瘍のある人
・心臓に障害のある人
・熱の高い人(38℃以上)
・生理時の腹部
・伝染病疾患の人
・妊産婦
・適用部位の皮膚に損傷・炎症、その他の異常のある人
・適用部位に知覚障害のある人
・心電計等の装着型医用電子機器を使用している人
・その他医師の治療を受けている人や身体に異常を感じている人
・紫斑病など内出血しやすい人
・骨粗鬆症など簡単に骨折する人


メタボリックシンドロームについて

2006年01月31日 | ダイエット

メタボリックシンドロームの診断基準

ウエスト周囲径:男性85cm以上、女性90cm以上

①トリグリセリド値150mg/dl以上、またはHDLコレステロール値40mg/dl未満
②最高血圧130mmHg以上、または最低血圧85mmHg以上
③空腹時血糖値110mg/dl以上

ウエスト周囲径の基準に加え、さらに①~③のうちの2項目以上に該当すればメタボリックシンドロームであると診断されます。

生活習慣病とよばれている主な疾患に、肥満症、高血圧、糖尿病、高脂血症などがあります。これらの疾患は個々の原因で発症するというよりも、内臓に脂肪が蓄積した肥満(内臓脂肪型肥満が原因であると考えられています。内臓脂肪蓄積により、さまざまな病気が引き起こされた状態をメタボリックシンドロームとよび注目されています。

メタボリックシンドロームでは、ひとつひとつの症状は深刻でなくても重複して持つと、心筋梗塞などの危険性が30倍も高いとされています。従来は症状ごとの対処療法が中心でしたが、内臓脂肪の脂肪蓄積が本症候群の根本原因であることが明らかになったため、内臓脂肪蓄積の徴候をつかみ予防につなげようとするのがこの診断基準の目的です。

今ある肥満体重を、3ヶ月間の食事・運動療法にて、5~10%減少させるだけで、肥満に合併した糖尿病や高血圧症は改善し、メタボリックシンドロームはほとんど治ってしまいます。その後、摂取カロリーを運動分増やして体重の維持を図ります。月平均2~3kgの減量にて、3ヶ月間で目標は達成できます。


肥満とダイエットについて

2006年01月29日 | ダイエット

はじめに肥満とは何か?肥満の弊害ダイエットの目的脂肪はどこに蓄えられるのか?脂肪細胞の体内での役割は?肥満の原因標準体重とは?減量のリバウンド現象,ヨーヨー現象体重を減らす食事運動も必要!ダイエット効果のある運動ウォーキングのすすめゆっくり気長に継続しましょう!内臓脂肪型肥満と皮下脂肪型肥満脂肪計付ヘルスメーターの盲点やせの大食い(褐色脂肪細胞の働き)太りやすい食べ方無理なダイエットによる無月経

はじめに

 世の中,肥満で悩む人は多く,本屋さんの店頭にはダイエットの本があきれるほどあふれかえり,雑誌やテレビで,ダイエット特集がいろいろ取り上げられています.しかし,それらの情報の中には,健康を害すような間違った情報も多く,減量を志す人にとっては,どの方法を選んだらいいか,とまどうことも多いと思われます.
 多くの人がダイエットを志しますが,成功する方は意外に少なく,逆に,ダイエット後のリバウンドを繰り返していくうちに,ますます太ってしまう方もめずらしくありません.また,若い女性で過激なダイエットを繰り返し,貧血,低血糖,無月経,精神異常などの症状があらわれて,身も心もボロボロの状態になって病院を訪れる方も後を絶ちません.肥満の方は,健康的な減量方法を実践してゆく必要があります.
 そこで,本日は肥満とダイエットについての知っておきたいまめ知識をちょっと述べてみたいと思います.


肥満とは何か?

体脂肪率

正常範囲

肥満

成人男性

15~20%

25%以上

成人女性

20~25%

30%以上

 体脂肪率が男性で25%,女性で30%を越えると「肥満」と判定します
 単に体重が多いだけで,直ちに肥満と即断することはできません.肥満とは体の中で脂肪が余分にたまった状態です.身長と体重から割り出される標準体重や肥満度などの指標は必ずしも正しく体脂肪の量を反映しているとはいえません.脂肪が少なく筋肉が増加して体重が増えている人は肥満とは言いません.逆に,細くて体重が軽い人でも筋肉が少なく体脂肪率が高ければりっぱな肥満(隠れ肥満)です.



肥満の弊害

 肥満者は正常体重者と比べて約5倍もの高率で糖尿病を発症しやすいと言われています.同様に,高血圧症は約3.5倍,胆石症は約3倍,痛風は約2.5倍,心疾患は約2倍,関節障害は約1.5倍といった具合に病気のオンパレードです.他にも、血液中にコレステロールや中性脂肪が増加する高脂血症や,過剰な脂肪が肝臓に沈着した脂肪肝,あるいは呼吸機能障害などもよくみられます.動脈硬化短命などとも密接に関係します.また,高度肥満患者の開腹手術では,手術中や手術後に肺塞栓脳塞栓などを引き起こしやすく,手術の傷がつきにくくて開いてしまうこともあります.
 また,肥満女性では,無月経過少月経などの月経異常が多く,月経があっても排卵してない(無排卵月経)ことが多く,不妊症の頻度が通常体重の女性に比べると3倍以上とも言われています.また,肥満妊婦は妊娠高血圧症候群の発症率が高く,難産となる頻度も高いと言われています.さらに,肥満女性では,子宮内膜癌卵巣癌乳癌胆のう癌による死亡率が高いことが知られています.肥満男性には,大腸癌前立腺癌などが発生しやすいことが知られています.
 どの研究報告をみても肥満度と有病率は正の相関を示し,統計的に,高度肥満の人に健康で長生きは望めません.


ダイエットの目的

ダイエットの目的は単に体重を減らすことではなく
体についた余計な脂肪を減らすことにあります.

 脂肪は落とさずに筋肉と骨だけを落としてしまうような減量方法では,体重は減っても体脂肪率は逆に増加してしまい,肥満解消にはなりません.また,体の水分をぬいて急激に体重を減らすような減量方法では,脱水症状をきたし非常に危険です.このように,非健康的な「間違ったダイエット方法」が巷にはあふれていますから,くれぐれもご用心下さい!


脂肪はどこに蓄えられるのか?

 体内の脂肪の量は,脂肪細胞に蓄えられている脂肪の総量です.人体の脂肪細胞の数は成人で250~300億個と言われています.肥満の場合,この一つ一つの脂肪細胞の中に蓄えられている脂肪の量が普通の3倍にもなります.さらに,この脂肪細胞の数が多くなればなるほど体脂肪の全体量も多くなり太りやすくなるわけです.
 人間は,一生の間に3回脂肪細胞の数が増える時期があります.妊娠末期の胎児期生後1年間思春期の3回です.いったん増えた脂肪細胞の数を減らすのは難しいので,これらの3回の時期に脂肪細胞の数をできるだけ増やさないようにする必要があります.

 出生2~3カ月前の肥満の妊婦では,その胎児も栄養過剰となり脂肪細胞の数が多くなり,生まれた後の肥満が運命づけられてしまいます.妊婦さんはくれぐれも肥満には気をつけましょう!
 子供の頃からの肥満は,肥満細胞の数が多いタイプの肥満(細胞増殖型肥満)で,なかなかやせられず,やせても元に戻りやすくなります.小児肥満はぜひとも避けねばなりません!
 
青年期にはやせていて中年以降に肥満となったいわゆる「中年太り」では,脂肪細胞の数は正常で,そのサイズが肥大化しています(細胞肥大型肥満).ダイエットには成功しやすいタイプの肥満です.


脂肪細胞の体内での役割は?

1.必要なときに燃焼してエネルギーを補給する(備蓄エネルギー)
2.体温保持などの断熱作用
3.内臓を正常な位置に保つためのクッション

 脂肪細胞は,体を正常に維持するために欠かせないもので,体脂肪率10%以下では,環境の変化や暑さ寒さに弱く,細菌に対する免疫力も弱く,胃下垂になるなどの健康障害も多くなります.体脂肪率の正常値は,成人男性で15~20%,成人女性では20~25%程度といわれています.

 人類の長い進化の歴史の中で,そのほとんどは飢餓との闘いだったと考えられます.狩猟民族の場合,獲物がとれなければ何日も絶食だったでしょうし,農耕民族の場合でも天候不順の年は収穫が無く飢え死に続出だったでしょう.だから,脂肪細胞の中に余剰エネルギーを備蓄する能力というのは人類がこの世に生き残ってゆくために授けられた非常に大切な能力だったと思います.現在の日本は,毎日3回の食料を確保できるのは当たり前の 世の中です.原始時代では人類生き残りのためのサバイバル能力であったエネルギー備蓄能力が,今の世では余計な脂肪蓄積の元凶ともなっています.


肥満の原因

 摂取エネルギー(食べた食物のエネルギー)が消費エネルギー(基礎代謝量+活動エネルギー)を上回ると,余ったエネルギーが脂肪に変えられて脂肪細胞の中に蓄えられます.肥満の原因は,摂取エネルギーが多すぎる(食べ過ぎ)か,消費エネルギーが少なすぎるか(運動不足)のいずれかです.
 太りやすい体質の人と太りにくい体質の人は確かに存在し,同じ量を食べても,太ってしまう人もいれば,ちっとも太らない人もいます.太りやすい体質は遺伝的要因も大きいですが,さらに後天的な社会的・環境的要因も重要です.
 また,早食いやどか食いの摂食パターンは肥満を招きやすく,精神的ストレスから過食に走ったり,ムードで食べ過ぎてしまう人も太りやすく,最大の太る原因は食習慣にあると言えます.食習慣は幼少時より長い時間かかって身についたものですから,それを改めるのは容易なことではありません.しかし,せっっかく苦労して減量しても,悪い食習慣を改めない限り,あっと言う間に元の木阿弥です.太る原因となる悪い食習慣はぜひとも改める必要があります!肥満解消を志す人はまず自分自身の食習慣をしつけ直す覚悟が必要です.


標準体重とは?

 BMI=体重(kg)/身長(m)の2乗

 日本肥満学会では,体格指数(BMI)の値が22近辺のとき,もっとも病気を合併する確率(有病率)が低いという研究成果に基づき,身長(m)×身長(m)×22を標準体重(kg)とすることに取り決めました.
計算例:身長160cmの人の標準体重は,1.6×1.6×22=56.3kgになります.

肥満度(%)=100×(実測体重-標準体重)/標準体重

計算例:身長160cm,体重60kgの人は,100×(60-56.3)/56.3=6.6%の肥満度になります.

 肥満度40%を越える高度の肥満の人は,さまざまな合併症を伴っている可能性が極めて高いので,直ちに専門医のメディカルチェックを受け,専門医の指導のもとに肥満解消に真剣に取り組むべきです!

標準体重(健康体重)=身長m×身長m×22

美容体重=身長m×身長m×20
(BMI正常最低値,女性はどうしても美容を重視されますので...)

 適正脂肪重量=体重の22.5%(女性)
        体重の17.5%(男性)

肥満度(%)

判定

マイナス10%以下

やせ

マイナス10%~プラス10%

正常

プラス10%~プラス20%

肥満気味

プラス20%以上

肥満

BMI

判定

19以下

やせ

20~24

正常

24~26.4

肥満気味

26.4以上

肥満

 なお,上の図で肥満と判定された方でも,筋肉量が多く脂肪率が正常の場合は,肥満ではありませんから,医学的にはダイエットの必要はありません.そういう方が無理にダイエットを実行すると筋肉が落ちてしまい,かえって脂肪率が上がってしまうこともあり得ますからご注意下さい.ダイエットの目的は,あくまで余分な体脂肪を取り除くことにあり,単に体重を減らすことではありません.


減量のリバウンド現象,ヨーヨー現象とは?

 ダイエットがうまくいって,いったん減量に成功したとしても,その後再びもとの体重へ戻ってしまうという体重の「リバウンド現象」はよく経験します.ダイエット成功後に短期間で前よりもさらに太るというのはよくある話です.特に,急激なダイエットで短期間に大幅に減量すると,体重がすぐに逆戻りしやすいことが知られています.リバウンド後は,以前より筋肉が減り脂肪だけが増えていて,しかも脂肪がとれにくい状態になってしまってます.この減量とリバウンドというサイクルを幾度も繰り返す「ヨーヨー現象」(または「ウェイトサイクリング」)に陥ると,1度目よりも2度目と回を重ねる毎に,ますます減量しにくく,かつリバウンドしやすくなる方向に生体は変化していきます.これは,ダイエットを実行する前よりはるかに悪い状態です.こんな状態に陥らないようにくれぐれもお気をつけ下さい.
 やせることよりも,やせた状態をいかに維持するかの方が,はるかに重要で困難な問題です.やせた状態を維持するために絶対に必要なことは,太る原因となった食習慣を変えることです.

減量で減らした体重をいかに維持するか
が最重要事項です!

 ダイエット成功後,油断してはいけない期間は2年間です.特にダイエット成功後の半年間くらいは最も警戒すべき時期です.食事量には常に気を配り,体重が増加し始めたら,すかさず,運動量を増やすなどして早めに対処しましょう.

 減量後の体重維持は,最初の減量の程度が大きいほど困難であることが知られています.現状から10%程度の減量でも成人病は著しく改善されますから,最初から理想体重を目指して挫折を繰り返すよりは,現在の不健康な状態から少しでも脱却できる実行可能な目標体重を設定してそれを確実にクリアしていく方が現実的でしょう.
 米国健康財団の健康体重に関する勧告では,まずは体重の10%程度の減量で十分としています.そしてこの体重を6カ月以上維持し,体重増加のないことを確認してから次のステップに移るようにとしています.


体重を減らす食事

エネルギー収支を常に赤字の状態に!
体脂肪を分解・燃焼させるためには,
摂取エネルギーの方が消費エネルギーよりも
少なくなるように食べればよい.
 

 摂取エネルギーを少なくするのが基本ですが,人間が生きてゆくうえで必要最小限のエネルギー(基礎代謝量)は確保する必要があります.極端に食事量を減らし過ぎると,基礎代謝率が下がって減量困難となる上に,筋肉や骨格などにも影響し,無月経などの月経異常,貧血,低カリウム血症,肝機能異常,低血圧症,精神異常,まれには突然死すら招いたりします.ですから,食事療法を実行する際には,摂取エネルギーの量,バランスのとれた栄養が問題になります.

体脂肪1kgを燃焼させるためには,
エネルギー収支の赤字を7200kcal
つくる必要があります!

(一般に,脂肪1gを燃焼させるためには9.3kcalを消費する必要がありますが,実際には,体脂肪には水分が含まれているので,体脂肪1g減らすための消費エネルギーは7.2 kcalとなります.)

 例えば,1日に2400kcalのエネルギーを消費している人が1日の摂取エネルギーを1600kcalに落とした場合,1日あたりのエネルギー収支の赤字は800kcalですから,体脂肪を1kcal減らすには,7200/800=9日かかります.これなら,1カ月で3kgの減量に成功するはずです.

 日常生活や仕事を普通にこなしながら減量する場合,1日の摂取エネルギーを男性1600kcal,女性1400kcalにし,1カ月3kg減を目標にゆっくり減量しましょう!

 どんなに少なくする場合でも,男性は1500kcal,女性は1200kcalを必ずとるようにして下さい.ただし,肥満度40%を越える高度肥満の人では,入院して1日の摂取エネルギーを男性1000kcal,女性800kcalとする厳重な減食療法が行われることもあります.

 ダイエットの基本はあくまで食事制限にあります.1日の摂取エネルギーを正確に知るためには,どうしてもカロリー計算が必要になります.しかし,食材からカロリーを計算してゆくのは面倒です.メニューごとにカロリーを表示しているカロリーブックを使ってみるのも一つの方法です.外食の時どれくらい残したらいいのか判断したりするにも便利です.
 肥満の人は,常日頃,摂取カロリー過剰で胃拡張の状態となっていて,食べ過ぎないと満足できない状態となってます.その悪い食習慣を断ち切らないかぎり,たとえいったん減量に成功しても,すぐに元の体重に戻ってしまいます.適正な食事量で満足できるように,気長に自分の体を慣らしてゆきましょう!


ダイエットには運動も必要!

適応現象によって体重減少が止まる

 食事制限によるダイエットを開始すると,ちゃんと実行すれば,最初の1カ月間はおもしろいように体重が減少しますが,2カ月目にはいると,体重の減少はほとんど止まります(適応現象).これは,体が,少ない摂取エネルギーに合わせて,基礎代謝量を低下させて消費エネルギーを減らそうとするために起こる現象です.ダイエットの途中で挫折する人の多くは,体重減少のみられないこの時期に減量をあきらめてしまうのです.
 この適応現象を克服するために必要なのが運動なのです!運動をすると,活動エネルギー消費に加えて基礎代謝量も増加します.さらに,余剰エネルギーが脂肪に変換されにくくなります.適応現象を克服するために必要な1日運動量は300kcal程度とされています.およそ一万歩の歩行がこの運動量に当たります.

食事制限+運動がダイエットの基本

 食事制限だけでは適応現象によって体重減少が止まる時期が何度もやってきます.そこで,さらに体重を減らすためには,より過酷な食事制限か,運動を加えるかのどちらかを選択しなければなりません.より過酷な食事制限は健康状態を悪化させてしまいます.食事制限はそのままにして,根気よく運動を続けて,何度も訪れる適応現象を克服してゆくことが大切です.
 運動で消費できるエネルギーはそれほど多いものではありません.食事制限なしで,運動だけで体重を減少させることはほとんど不可能と考えて下さい.運動で体脂肪1kgを減らすためには,7200kcalのエネルギーを消費する必要があり,これをウォーキングに換算すると24万歩分の運動で消費されるエネルギーで,ランニングだとマラソン3回分の消費エネルギーです.運動の前後に体重計の目盛りが減るのは,発汗で体の水分が減った分がほとんどで,運動後に水を飲んだらすぐに元に戻ります.運動後に食欲が増進して普段より余分に食べてしまえば,むしろ体重は増えてしまいます.減量のためには,運動をして,なおかつ,摂取カロリーもある程度は制限する必要があります.


 

ダイエット効果のある運動

 適応現象を克服してゆくためには,1日300kcal程度消費する運動が必要ですが,具体的にいうと,歩行で75分,階段の昇りで40分,自転車こぎで1時間,水泳やなわとびで30分,これらの運動を継続した場合の消費エネルギー量が300kcalに相当します.
 300kcalというと,ビールなら大ビン1本と同じエネルギー量です.運動後に,ビール1杯飲めば消費エネルギーはプラスマイナスゼロとなってしまいますからご用心!

 ダイエットには,短距離走のような急激で激しい運動よりも,軽く汗ばむ程度の軽い全身運動を長く続けるほうが効果があります.運動開始直後は,エネルギー源として筋肉中のグリコーゲンや血液中のブドウ糖が使われますが,運動開始後15~20分たってから脂肪が使われるようになり,30分を経過すると使用されるエネルギーのほとんどが脂肪になります.そのため,脂肪を燃焼させるためには,30~60分くらいは運動を持続した方が効果的です.また,週1回程度の運動ではダイエット効果はほぼゼロに等しく,毎日継続して行える歩行などの軽い運動がダイエットには適しています.毎日継続できるかどうかが重要で,激しい運動は必要ありません.
 体脂肪は,時間をかけてゆっくりと温めなければ燃焼が始まらず,しかも燃焼し続けるには多量の酸素を必要とします.脂肪を燃焼させるために一番効果のある運動が,大量の酸素を使う有酸素運動エアロビクス:酸素を取り入れながら行う運動)です.ウォーキング,ジョッギング,水泳,サイクリング,エアロビックダンスなどです.
 ダンベル体操などの筋肉運動では,筋肉を鍛えて筋肉の量が増え,基礎代謝量が増えることによって消費エネルギーが増加します.また,ダイエットの食事制限で,脂肪ばかりでなく筋肉なども減少してしまう可能性がありますから,筋肉を鍛えて筋肉減少を予防することは大切です.
 要するに,ダイエットのためには,ウォーキングなどの有酸素運動を主とし,それを補う形でダンベル体操のような筋肉運動も併用するのがベストと考えられます.


ウォーキングのすすめ

 70年代のジョッギング,80年代のエアロビクスに続いて,今,ウォーキングが世界的に注目されています.ウォーキングは,誰でも気軽に始められて,安全で,故障の心配も少なく,健康維持や脂肪燃焼にも最も最適な万人向きの全身運動です.日常生活の中に,ウォーキングを積極的に取り入れて習慣化しましょう.
 ジョッギングでは,足首,ひざ,腰に体重の3~4倍の衝撃が加わるため,ひざや腰などの故障を起こしやすいことが指摘されています.心臓への負担も大きく,ジョッギング中の突然死も少なくありません.ジョッギング提唱者のジム・フィックスさんも走行中に死亡しました.ジョッギングなどの激しい運動では,細胞に障害を与える活性酸素が体内で発生しやすく,健康作りや脂肪燃焼の目的の為には,ウォーキングのような『適度の運動』の方が,ジョッギングよりもむしろ効果が高いことが実証されています.『適度な運動』とは心拍数110~125/分程度を維持できる比較的軽い運動です.にこにこ笑いながら歩く程度の運動強度です.実は,これが最も効率的に体脂肪が燃焼する運動強度でもあります.運動強度がこれ以上になると糖質(グリコーゲン)が主なエネルギー源として使われ,これ以下では脂肪が十分に燃焼されません.
 万歩計(歩数計)は,ウォーキングを本格的に始めるのに欠かせないグッズの一つです.歩数で消費カロリーがわかれば,毎日歩くのが楽しみになります.現在私が使っている万歩計は,歩数カウントだけではなく,歩行距離,消費カロリー,ストップウォッチ機能までついていて多機能超うす型のタイプのものです.1万歩を歩いて消費されるエネルギーが約300kcalですから,1日1万歩のウィーキングが推奨されています.

ウォーキングの目標:1日1万歩!

 フィットネス・ウォーキングの理想的なペースは,1分間に約100歩と言われています.このペースで1日1万歩というと,トータルで1日約100分のウォーキングが基準となるわけです.

 高度肥満の人の場合は,急にがんがん歩くと,関節痛や筋肉痛を起こしたり,心臓に異常をきたす危険さえあります.従って,最初は,足腰への負担の少ないスイミングプールでの水中歩行やサイクリングなどから入り,ある程度体重を落としてから,ウォーキングに進むことをお勧めします.


ゆっくり気長に継続しましょう!

 ダイエットの食事は,カロリーを押さえた栄養バランスのよい食事を,規則正しく食べるというのが王道で,これ以外には方法論はありません.しかし,栄養士がついているわけでもなくカロリー計算なんてやってられません.そこで,具体的には例えば,『間食は一切止め,3度の食事を品数はいつもと同じにして,各品の量をいつもの2/3に減らす(外食の場合は各品を1/3づつ残す)』というような方法も有効です.これを気長に続けてゆけば確実に体重は落ちていくはずです.最初の2週間くらいは空腹感に悩まされますが,3週間目以降くらいになると胃も小さくなってきて空腹感は次第になくなります.これと,1日1万歩のウォーキングを組み合わせて確実に実行してゆけば,1日当たり600~800kcal程度のエネルギー収支の赤字を作り出すことが可能です.これを継続すれば1カ月3kg程度の減量ペースが期待できます.方法論としては非常に単純なことです.必ず成功するはずですから,これをゆっくり気長に継続しましょう!


内臓脂肪型肥満と皮下脂肪型肥満

 従来,肥満とは皮下脂肪の蓄積と考えられていましたが,CT検査により,肥満者(ときには肥満ではなくても)にはおなかの中の臓器の周囲に大量の脂肪が蓄積している人がいることが分かりました.このおなかの中に脂肪(内臓脂肪)がついた肥満を内臓脂肪型,皮下脂肪の多い肥満を皮下脂肪型に分けると,従来,肥満が引き金になると考えられていた糖尿病,高脂血症,高血圧,虚血性心疾患(狭心症・心筋こうそく)や動脈硬化など生活習慣病の多くは,実は皮下脂肪型ではなく,内臓脂肪型に多いことが分かりました.肥満と病気の研究は今や内臓脂肪の研究に絞られてきたと言っても過言ではありません.
 内臓脂肪こそ悪玉脂肪の最たるものだということです.この内臓脂肪は内 臓の周囲や腸間膜の表面などに大量についているが,その存在はCTで突き止める以外にありません.CTでへその部分を輪切りにすると白く映るのが筋肉で,脂肪は黒く見えます.内臓脂肪は皮下脂肪より目立ちにくいのですが,生活習慣病を招く危険性が高い.体重はそれほど重くはなくても,内臓脂肪型肥満と分かったら,すぐに減量すべきです.食事療法と運動療法によく反応するので落ちやすい脂肪です.


脂肪計付ヘルスメーターの盲点

 体脂肪率を算出する方法にはいろいろありますが,最近,一般家庭でも脂肪計付ヘルスメータが多く利用されています.これは,電導度を測定し体脂肪率を推定する方法で,脂肪が電気を伝えにくいことを利用した測定方法です.他の方法と比べて測定手技が簡単で多くの対象を扱う場合には有用ですが,やや測定値に問題があります.電流は体の表層を流れるので,その測定値は皮下脂肪の量を反映し,内臓脂肪の量は反映しません.皮下脂肪の少ない内臓肥満の方の場合は測定値が低くなり,真の体脂肪率を反映してない場合も考えられます.内臓脂肪の量は,臍の高さのCT像から計算できます.高度の内臓肥満は体型を見ればお腹がでていてすぐわかります.
 臨床的には,皮下脂肪の量よりも内臓脂肪の量の方がずっと問題視されています.内臓肥満は,さまざまな疾患を合併しやすく,病気の宝庫で,内科的治療の対象となる場合も少なくありません.
 お腹がでていて体重も重く,どう見ても肥満なのに,電導度による体脂肪率の測定値が低い場合は,内臓肥満の可能性が高いので,病院で他の方法による体脂肪の測定を行ってみることをお勧めします.


やせの大食い(褐色脂肪細胞の働き)

 脂肪は脂肪細胞にためられますが,この脂肪細胞には,まったく働きの違う2種類があります.脂肪細胞のほとんどは白色脂肪細胞で,これは全身にあって,余剰エネルギーの蓄積という役目を担っています.褐色脂肪細胞は,余剰のエネルギーを消費する逆の働きを担っています.
 褐色脂肪組織は,首の後ろ,背中の肩甲骨あたり,脇の下,心臓の周囲,腎臓の周りにあり,総量でも40g程度しかありません.褐色脂肪組織は,交感神経系に支配され,熱を出してエネルギーを消費します.褐色脂肪組織は,寒さから体を守るために働く他に,余計なエネルギーを燃やし,肥満を防ぐ働きもしています.
 褐色脂肪細胞の働きの活発な 人は,脂肪がどんどん燃焼されて,いくら食べても太らない(やせの大食い) 体質の人です.逆に,褐色脂肪細胞の働きが悪ければ,脂肪がなかなか燃焼されず,肥満につながりやすいということになります.
 ネズミを使った動物実験では,この褐色脂肪細胞の働きを何十倍にも活性化すると,太った ネズミがみるみるやせてきて,食べても食べてもガリガリになってしまうそうです.人間ではまだそのような臨床実験の報告はないようですが,やせの大食いは,この褐色脂肪組織が発達しているということで説明できると考えられます.もし,将来,この褐色脂肪細胞の働きを有効利用することが可能となれば,肥満解消の大きな助けになることが期待されます.今後,この方面での研究の進展に大いに期待するところですが,現状では,ダイエットは,栄養バランスのとれた減カロリー食プラス運動で気長に頑張るしかありません.


太りやすい食べ方

 太りやすい食べ方の典型は,早食いと夜食の習慣です.この2つの習慣をを改めるだけでも少しは違うかもしれません.
 早食いでは,満腹状態の胃から脳への『もう満腹だ』という満腹信号が届く前に,食べすぎてしまいます.肥満の人ほど食事の時間が短い傾向があります.これをなおすには,意識的に味わってゆっくり食べて,脳への満腹信号が届く(一般的には10~20分といわれています)のを待ちましょう.太りがちな人はこの信号が遅いとも言われています.
 また,同じ食べ物でも,夜食べたものはエネルギーとしてためこまれやすいことが知られています.昼間は,体に蓄えられた栄養を使ってエネルギーに変えようとする交感神経が活発に働いています.これに対して,夜は副交感神経が働き,その間は体の中に栄養を蓄えようとするので,夜食は肥満につながりやすいのです.眠りにつく4時間前までに,食事はすませておきたいものです.

ゆっくり食べましょう! 夜食はやめましょう!



無理なダイエットによる無月経

 体脂肪率が正常で減量の必要が全くないのに,『痩せているほど美しい』との思い込みから無理なダイエットに走って無月経になり(体重減少性無月経),病院を訪れる若い女性が多いのは問題です.肥満でダイエットの必要がある人の場合でも急激なダイエットは危険です.せいぜい1カ月3kg以内の減量にとどめ,ゆっくり減量しましょう.
 元の体重の10~15%くらいの体重が急激に減少すると,無月経になる危険性があります.一般に,月経が起こるには体脂肪率が少なくとも17%程度は必要で,月経周期を維持するためには22%以上が望ましいとされています.月経が起こるためにはある程度の体脂肪が必要なのです.