ある産婦人科医のひとりごと

産婦人科医療のあれこれ。日記など。

報道: 福島県立医大医師会の声明

2006年03月17日 | 報道記事

朝日新聞

県立病院 産婦人科医師逮捕・起訴
2006年03月17日

 「事例、治療難度高い」―産科婦人科学会

 県立大野病院に務める産婦人科医、加藤克彦被告(38)の逮捕・起訴=業務上過失致死と医師法違反の罪=に対し、日本産科婦人科学会と日本産婦人科医会は16日、厚生労働省で記者会見を開いた。同学会の岡井崇常務理事は「癒着胎盤という今回の事例では、治療の難度が高い。医師の力が及ばなかったことに対して、刑事責任を問うのはどうか」と疑問を投げかけた。

 また、岡井常務理事は会見で、加藤被告が行った手術について「これが『過誤』というなら、すべて医療過誤になってしまう」と述べ、不当な医療行為とは考えていないという見解を示した。

 警察に異状死を届け出ることを義務づけた医師法について、同学会の稲葉憲之常務理事は「異状死の基準をどうすべきか議論すべきだと思う」と述べた。

 また、東京女子医大病院で医療事故などにあったとする患者やその家族でつくる被害者連絡会は、この日、加藤被告の逮捕・起訴を受け、厚生労働相に対し、「医療(過誤)が起きた際の行政処分の基準を明確にして、省内に調査委員会を設けてほしい」とする要望書を提出した。

 「1人責任、不当解釈」―県立医大医師会

 県立医大医師会(山本悌司会長)は16日、加藤克彦被告の逮捕・起訴に対し、「現在の社会が抱える医療の問題を、地域医療に献身してきた一人の医師の責任ととらえる検察の不当な解釈に抗議する」などとする声明を発表した。

 同医師会の会員は189人。加藤被告の起訴を受け、14日に開かれた総会で、会員の意見を声明として集約し、議決したという。

 声明は、県の事故調査報告書が県内の医師3人によって作られたことについて、「専門家の意見をもっと広く求め、その内容、判断ともに、より詳細に検証する必要を感じる」などとした。

 また、医師法の「異状死」について、あいまいな解釈が医療現場を混乱させているとして、「医学会と司法当局の両者は『異状死』を医療上避けられない『合併症による死』と明瞭(めいりょう)に区別する基準を提示していただきたい」と訴えた。

(朝日新聞・福島)

***** Yahoo!ニュース-毎日新聞、福島ニュース

大野病院医療ミス:医師起訴に抗議 県立医大医師会が声明 /福島

 県立大野病院(大熊町)で04年12月、帝王切開手術中の女性(当時29歳)が死亡した医療事故で、業務上過失致死と医師法(異状死体の届出義務)違反の罪で同院の産婦人科医、加藤克彦被告(38)が起訴されたことを受け、県立医大医師会(山本悌司会長)は16日、逮捕、起訴に抗議する声明を発表した。
 同会は声明で、「現在の社会が抱える医療の問題を、地域医療に献身してきた一人の医師の責任ととらえるのは不当」と批判。そのうえで、▽癒着胎盤を予見できたとの前提で、判断を誤ったとする解釈は臨床医学的に同意できない▽医学的に起こりうる合併症での死亡で、異状死とは認められず、届出の必要がなかったと判断できる――などと指摘している。
 また、医師法21条の異状死の解釈があいまいにもかかわらず届け出義務違反で逮捕、起訴したのは医療現場の混乱を引き起こすとし、異状死と医療上避けられない合併症による死を明りょうに区別する基準の提示を、医学会と司法当局に求めた。【松本惇】

3月17日朝刊

(毎日新聞) - 3月17日13時2分更新


日本産科婦人科学会と日本婦人科医会の合同記者会見(報道)

2006年03月16日 | 報道記事

****NHKオンライン

“医師の起訴は疑問”と学会

福島県立大野病院では、産婦人科の医師が帝王切開の際の手術ミスで女性を死亡させたとして、今月10日、業務上過失致死などの罪で起訴されました。これについて全国の産婦 人科の医師で作る「日本産科婦人科学会」と「日本産婦人科医会」が16日、東京で記者会見し、異例の声明を出しました。

会見で日本産科婦人科学会の稲葉憲之常務理事らは、 「女性は、胎盤が子宮に付いてはがれにくくなるという最も難しい事例で、高い医療技術を備えた施設でも対応はきわめて困難だった」と強調しました。

そのうえで、起訴された 医師が1人で産婦人科を担当していた実態に触れ、「今回の問題は全国的な産婦人科医不足という現在の医療体制に深く根ざしており、医師個人の責任を追及するのは疑問だ」と 述べました。

厚生労働省によりますと、産婦人科の医師は年々少なくなり、全国的に深刻な状況が続いていて、産婦人科を休診する病院が相次ぐなど各地で問題になっています。

03/16 22:24

****Yahoo!ニュース JNN(TBS系)

「医師逮捕は不当」と2学会が会見

 福島県の県立病院で帝王切開手術中に患者が死亡し、担当医師が業務上過失致死などの罪で逮捕・起訴された問題で、日本産科婦人科学会など2つの学会が「最も難しい症例であり、ミスではない」として、改めて医師逮捕は不当であると訴えました。

 「(今回の件は)診断そのものが難しいし、その程度がどうであるかということを正しく事前に判定することも難しい。ですから、癒着胎盤は産科の中で最も難しい病気のひとつになっている」(日本産科婦人科学会・岡井崇常務理事)

 会見を開いたのは、日本産科婦人科学会と日本産婦人科医会の2つの学会です。会見で、今回のケースについて「癒着胎盤という診断も対応も難しい症例で、医師が誠意をもって医療を行ったが力が及ばなかった。過失や故意はなく、逮捕・起訴するなど刑事責任を追及するのはおかしい」と改めて訴えました。

 この事件では、担当医師は無理に胎盤を剥離して輸血の対応が遅れた上、「異状死」として届出を怠ったとして、業務上過失致死と医師法違反で逮捕・起訴されています。

(16日18:12)

************ 毎日新聞

日産婦:帝王切開中の死亡 医師を起訴に反論

 福島県立大野病院(同県大熊町)で帝王切開手術中に患者が死亡し産婦人科医、加藤克彦被告(38)が業務上過失致死と医師法違反の罪で逮捕・起訴された事件を受け、日本産科婦人科学会(日産婦)と日本産婦人科医会は16日、厚生労働省で会見し「加藤医師に過失や故意はなく、刑事罰に問うのは不当」と主張した。

 常務理事の岡井崇・昭和大教授は「産科特有の極めて困難な事例であり、胎盤をはがしたことは過失に当たるとは言えない」と指摘。「検察側は輸血の対策を怠ったというが、輸血用血液は1、2日しか持たず、大量に発注して使わなければ無駄になる。血液が不足する中、万が一のためにそこまでの対策は考えない。今回の手術は応援の医師がいたとしても難しいケース」と分析した。

 日産婦によると、患者の死につながった癒着胎盤による大量出血は1万例に数例程度の低い確率である上、実際に胎盤をはがすまで大量出血が起きるかどうかの判断は難しいという。

 この事件では、福島県は昨年3月、(1)癒着胎盤の無理なはく離(2)対応する医師の不足(3)輸血の遅れ--のミスがあったとする最終報告書をまとめている。【山本建】

毎日新聞 2006年3月16日 19時55分

************ 共同通信

難しい症例で逮捕は不当 関係学会が会見で訴え

 福島県立大野病院で帝王切開を受けた女性が死亡し、医師が逮捕、起訴された医療事故で、日本産科婦人科学会(武谷雄二理事長)と日本産婦人科医会(坂元正一会長)は16日、東京都内で合同記者会見を開き、「非常に難しい症例で、適切な処置が行われたとしても救命できないこともある」として「逮捕は不当」と訴えた。
 起訴状は、女性に胎盤の癒着で大量出血の可能性があり、生命の危険を未然に回避する必要があったのに医師がこれを怠った、としている。

(共同通信) - 3月16日19時59分更新


報告書 結論ありき

2006年03月16日 | 報道記事

****** 私見

今日の朝日新聞の記事から、『事故報告書はご遺族に補償する目的で作成されたもので、結論は最初から決まっていた。これを県病院局側も認めている。』という疑惑が浮かび上がってきました。朝日新聞が記事にしてインターネット上に配信した以上は、記者が単なる想像で書いているのではなく、多くの関係者の取材からそのような証言が得られたということだと考えます。

(以下、3/16の朝日新聞の記事より引用)

報告書 結論ありき

 県立医大・産婦人科講座の佐藤章教授は、医局のまな弟子、K医師(38)の突然の逮捕に驚き、憤慨した。

 全国の医師から、メールや電話が大学側に殺到した。「仲間を見殺しにするのか」。インターネットの掲示板に名指しで批判が書き込まれた。何か行動を起こそうと思ったが、弁護士から「警察を刺激する。K医師のためにならない」といさめられた。

 ネットで署名活動を始めたのは、K医師の勾留期限が目前に迫った今月9日だった。

 東京大学医科学研究所の知人たちが、佐藤教授の名で呼びかけのホームページを立ち上げた。開設から数時間でアクセスは約2千人に達した。大半が医師だった。

 14日午前6時現在、署名は6220人。医療関係者に混じって「K先生にお産でお世話になった」という地元の人もいる。

 「医療現場の事故は個人の責任ではなく、システムの問題」として、近く厚生労働相や国家公安委員会などに、署名を添えて陳情書を出すつもりだ。

予想外の逮捕

 県病院局が、05年1月に事故調査委員会を設置したのは、「原因を調べて再発防止に役立てるため」(秋山時夫局長)だった。2カ月後に公表した報告書は、「無理に胎盤をはがした」点などについて医療過誤を認めた。

 だが、佐藤教授は「報告書は、始めから結論ありきだったのでは」と指摘する。

 「『過誤がない』という結論では、遺族に補償ができないから困る。そういった示唆が、県側からあった」と、調査にかかわった複数の関係者が声を上げているからだ。

 報告書をまとめる際に遺族との交渉が念頭にあったことを、県病院局側も認める。ただ、その当時、加藤医師が逮捕されるとは思っていなかったという。

 その報告書が、当初の目的を果たしているとも言えない。

 県病院局は、県立病院長の会合で報告書を配布し、注意を促した。しかし、各病院で何がどのように改善されたのか、把握していない。

 手術時の人員や血液などの準備、そして危険な患者への対応……。実態は今も執刀医の判断に委ねられ、何かあれば医局の人脈に頼る「医局まかせ」(県立病院の医師)が続いているという。

 県病院局は「医師が足りない。コマがなければ、(改善は)難しい」とする。

 産婦人科医は確かに減っている。約10年前、県立医大の医局に産婦人科医が30人以上いた。現在は20人を割る。うち十数人は出張先の地方病院や医大でそれぞれ月10回前後の宿直をこなす激務が続く。

 ある産婦人科医は「産婦人科医が減るから仕事が忙しくなり、それを見た若い医師が、また産婦人科を敬遠する」とため息をつく。

 今回の事件で、さらに産婦人科医の志望者は減る、と関係者は危機感を募らせる。

 だが、ある捜査関係者は「地域医療の問題と事件を結びつけるべきではない。必要があったから逮捕した。医師を特別扱いするつもりはない」とする。捜査当局では、県が改善策をまとめていないことも問題視しているという。

(以上で引用終わり)


朝日新聞記事(福島) 医師逮捕・詳細(上・中)

2006年03月15日 | 報道記事

朝日新聞の記事
医師逮捕・詳報(上)~声なき子宮の訴え~
2006年03月14日

 大熊医師逮捕・詳報(上)~声なき子宮の訴え~町にある県立大野病院の産婦人科医、加藤克彦医師(38)=業務上過失致死と医師法違反の罪で起訴=が帝王切開手術で「医療ミス」を起こし、女性(当時29)が死亡した――。

 (遺体なき捜査) 

 県警がこの事実を知ったのは05年3月。県が公表した事故調査報告書についての報道からだった。報告書は、死亡した女性が、出産後に自然にはがれるはずの胎盤が子宮に癒着している「癒着胎盤」で、十分な輸血用血液を待たずに胎盤をはがそうとしたことに「はがすのをやめ、子宮摘出に進むべきだった」と指摘していた。

 県警は手術の状況を把握するため、捜査に着手した。病院を家宅捜索してカルテなどを入手した。しかし、手術からすでに4カ月が経過し、遺体がないため、司法解剖は出来なかった。

 「物証」の一つとなったのが、死亡した女性の子宮だった。県警は、保存されていた子宮やカルテの鑑定を専門家に依頼。鑑定の結果、子宮のどの部分に胎盤が癒着していたかが裏付けられ、子宮から胎盤を強引にはがしたことも分かった、とする。

 癒着胎盤にどう対応するか――。医学生向けの教科書(『STEP産婦人科(2)産科』可世木久幸監修、海馬書房)には、「まずは胎盤用手剥離(胎盤を手を使ってはぐこと)を行いますが、ここで無理をすると、大出血や子宮内反を招くので注意が必要です。胎盤用手剥離が難しい場合には、原則として単純子宮全摘術を行います」と記載される。

 県警は専門家から話を聴くなどして、多くの血管が密集する胎盤を無理やりはがすと、大量出血して母胎に危険が及ぶ可能性があり、通常なら、無理にはがすべきではないと結論づけた。

 「無理やりはがすこと自体が過失」と、捜査関係者は言う。

 県警によると、加藤医師は手術後、院長に「医療過誤はなかった」などと説明したという。「うそをついているのか、もしくは、医学的知識が不足していたのか。どちらかだろう」と、捜査関係者の一人はみている。

 (真っ向対立に)

 一方、弁護側は、加藤医師の行った一連の手術について「担当医として講ずべき処置を行ったもの。業務上過失致死罪に問われる過失はない」とする。

 逮捕について、捜査関係者の一人は「(加藤医師を)病院の関係者と遮断して話をする必要があった」と説明した。

 今月10日の起訴に際して、福島地検の片岡康夫次席検事も「罪証隠滅のおそれ」を挙げた。

 片岡次席は「遺体やビデオ、心電図が残されておらず、関係者の供述が不可欠な状況で、身柄を確保した上で話を聴く必要があった」とし、また、「海外を含めて逃亡のおそれがあった」とも付け加えた。

 「医療ミス」を知ってから逮捕まで約1年を要したことについて、片岡次席は「専門的な捜査で県警と地検が内容を理解するのに時間が必要だった」とした。

 捜査当局の主張に対して、弁護側は、(1)カルテなどの証拠物が押収されていて、廃棄や書類の偽造など罪証隠滅はあり得ない(2)発生から長時間が経過していて、証拠隠滅や口裏合わせをしているのであればすでにしている――などとして、真っ向から対立する姿勢を示している。

                     ◇

 医療関係者から批判が相次ぐ中で、捜査当局は、公判維持に自信をのぞかせる。約4時間半の手術で、いったい何が起きたのか。何が捜査で明らかになったのか。一人の命と引き換えに県と医療界は何を学んだのか。事件を検証した。
(この連載は、神庭亮介、斎藤智子、田中美穂、八木拓郎が担当します)

医師逮捕・詳報(中)~血液あふれ出てきた
2006年03月15日

 04年12月17日――県立大野病院で、女性(当時29)の帝王切開手術が午後2時26分に開始された。

 主治医の加藤克彦医師(38)のほか、麻酔科専門医と外科医、看護師4人が手術室にいた。

 女性は、手術前の検査で、子宮の口を胎盤が覆う「前置胎盤」と診断された。帝王切開手術しか選択肢はなく、第1子の出産時に続き、2度目の手術に臨んだ。

 手術は順調だった。11分後に無事、女の子が産まれた。捜査関係者によると、女性は、生まれたばかりの赤ちゃんを抱かされ、見つめたという。のちに、全身麻酔で意識を失った。

 「はがれない」

 その後――「事故」を調査した医師や関係者によると、加藤医師は手順通り、子宮収縮剤を注射し、胎盤を外しにかかった。だが、へその緒を引っ張ればつるりととれるはずの胎盤が外れなかった。子宮を手でマッサージしたが、変わらない。胎盤を手ではがし始めたが、途中ではがれなくなった。

 「ひっぱってもとれなかった」「血液があふれ出てきた」。加藤医師は逮捕後、そう関係者に話している。はがれないため、クーパー(手術用はさみ)の先を子宮と胎盤のすき間に入れ、空間を作るようにして、癒着胎盤をはがしたという。

 胎盤は、いわば血の塊だ。お産の際、胎盤がとれると子宮が収縮し、血管が縮んで血が止まる。通常のお産なら、「1千ミリリットルぐらい出血しても気にしない」と、複数の産婦人科医はいう。

 見えない手元

 だが、癒着胎盤の場合は別だ。癒着胎盤の手術を経験した産婦人科医は「血がどんどん吹き出して手元が見えない。どこから出ているのかもわからない」と話す。

 加藤医師は9年目の「中堅」(県病院局)だが、癒着胎盤は初めてだった。県の事故報告書によると、胎児をとり出してから胎盤摘出までの13分間に約5千ミリリットルの血が失われていた。

 準備した血液製剤5単位(1単位、200ミリリットル)はすべて輸血。午後3時15分に血液製剤2千ミリリットルを、いわき市にある赤十字血液センターに注文した。同3時35分には子宮摘出に向け、全身麻酔に移った。

 このころ、作山洋三院長が手術室に入り、加藤医師に、ほかの医師の応援を頼んではどうかと提案している。加藤医師の返事はなかったという。

 血液センターから、注文した血液製剤が届いたのは、午後4時30分。ただちに輸血。総出血量は1万2千ミリリットルに及んでいた。

 午後4時5分に追加注文した血液製剤も午後5時30分に届き、子宮を摘出した。ところが午後6時ごろから、女性の脈が弱まった。作山院長が再び手術室に入った時は蘇生の真っ最中だったという。午後7時1分、死亡が確認された。

 作山院長は、加藤医師と麻酔科医を呼び、手術の経過を聴いた。「異状死」なら、医師本人が24時間以内に警察に届けなくてはならない。県のマニュアルでは、院長に届け出義務があった。

 作山院長は、取材に対して「医師2人の話を聴き、医療過誤にあたらないと判断した。血管を切ってしまったり、臓器を傷めたり、そういうことが医療過誤と考えている」と答えた。

 家族はこの間、ずっと手術室前の廊下で待っていた。すべてが終わってから、加藤医師に、女性の死を告げられた。

 「結果論」の声

 医学書によると、帝王切開の回数が増えるほど前置胎盤での癒着胎盤の確率は増す。

 米国の臨床例では、前回の帝王切開の傷跡部分に胎盤が付着している場合、35歳以下で前置胎盤の妊婦のうち、6人に1人が癒着胎盤だった。

 加藤医師の手術前の診断では、女性は「前回の帝王切開の傷跡に胎盤が付着していない前置胎盤」とされた。子宮後壁に付着し、傷跡とは無関係の場合、癒着胎盤となっている確率は27人に1人に下がる。

 事故調査委員会は、カルテや超音波診断写真などから、加藤医師と同じ判断を下した。だが、県警は残された子宮を鑑定し、胎盤が前回の帝王切開の傷跡にかかっていたと結論づけ、福島地検は起訴状で加藤医師もそれを「認めていた」と指摘した。

 「手術前、かりに帝王切開の傷跡に胎盤が付着していたと診断していれば、血液の準備や医師の確保などで、もっと何とかなったのではないか」。そう指摘する医療関係者もいる。

 その一方、ある産婦人科医は「すべては結果論。現実にはわからなかった。これが臨床診療の限界です」と話した。


加藤先生、保釈のニュース

2006年03月15日 | 報道記事

福島民友新聞社
http://www.minyu.co.jp/morning/morning.html#morning3

執刀の産婦人科医保釈

 県立大野病院(大熊町)の産婦人科医による医療過誤事件で、業務上過失致死と医師法違反の罪で起訴された医師の加藤克彦被告(38)=同町下野上字清水=は14日、保釈された。福島地裁は同日、加藤被告の保釈を決定。これに対し福島地検が同日中に決定を不服として準抗告したが、却下された。関係者によると、加藤被告の保釈金は500万円で、保釈の条件として病院関係者との接触や海外渡航の禁止などが盛り込まれているという。加藤被告の保釈をめぐっては、弁護団が13日に「逃亡や証拠隠滅の恐れがない」などとして福島地裁に保釈を申請していた。同被告は2月18日に富岡署に逮捕、3月10日に起訴されていた。

****************
毎日新聞
http://www.mainichi-msn.co.jp/chihou/fukushima/

大野病院医療ミス:加藤医師の保釈認める--福島地裁 /福島

 県立大野病院(大熊町)で04年12月、帝王切開手術中の女性(当時29歳)が死亡した医療事故で、福島地裁は14日、業務上過失致死と医師法違反の罪で10日に起訴された同院の産婦人科医、加藤克彦被告(38)の保釈を認める決定を出した。これに対し、福島地検は、決定取り消しを求める準抗告を同地裁に申し立てたが、却下された。【松本惇】   (毎日新聞 2006年3月15日)


福島県立大野病院の医師起訴についての報道(3月11日)

2006年03月11日 | 報道記事

********* 読売新聞です

医師逮捕の波紋 (2006年3月11日~3月12日)

(上)医療ミスか難症例か

医療関係者「手術ができなくなる」 検察側「胎盤無理にはがした」

 「地域医療を守る努力を重ねてきた加藤医師の尊厳を踏みにじる異例の事態」――。いわき市医師会の石井正三会長は8日、相馬郡、双葉郡医師会長とともにいわき市内で会見を開き、3医師会の連名で逮捕に抗議する声明を読み上げた。県内の医師約1500人で構成される「県保険医協会」(伊藤弦(ゆずる)理事長)も県警に「(逃亡や証拠隠滅の恐れがなく)逮捕は人権を無視した不当なもの」とする異例の抗議文を送付した。

 県立大野病院で唯一の産婦人科医として年間約200件のお産を扱ってきた加藤容疑者の逮捕後、県内外の医師や関係団体が次々と反発する声を上げている。

 神奈川県産科婦人科医会は「暴挙に対して強く抗議する」との声明を出し、産婦人科医を中心に県内外の医師19人が発起人となった「加藤医師を支援するグループ」は10日現在、全国の医師約800人の賛同を得て、逮捕に抗議するとともに募金活動を行っている。

 こうした医師らの反応の背景には、医師不足による産婦人科医1人体制や緊急時の血液確保に時間を要する環境など、事故の要因として医師個人だけの責任に帰すべきではないと考えられる問題が指摘されている事情がある。また、子宮と胎盤が癒着する今回の症例は2万人に1人程度とされ、治療の難易度も高いことも「下手すると捕まると思うと、手術ができなくなる」(浜通りの産婦人科医)との心情を引き起こしているようだ。

 一方、事故調査委員会が「癒着胎盤の無理なはく離」を事故の要因の一つとし、医療ミスと認定しているのは明白な事実。「医療事故情報センター」(名古屋市)理事長の柴田義朗弁護士は「あまり情報がないまま、医者の逮捕はけしからんという意識に基づく行動という気はする」と指摘する。

 片岡康夫・福島地検次席検事は10日、逮捕や起訴の理由について説明し、「はがせない胎盤を無理にはがして大量出血した」とした上で、「いちかばちかでやってもらっては困る。加藤医師の判断ミス」と明言。手術前の準備についても「大量出血した場合の(血液の)準備もなされていなかった」と指摘した。

 加藤容疑者の弁護人によると、加藤容疑者は調べに対して「最善を尽くした」と供述し、自己の過失について否認している。公判では、過失の有無について弁護士8人による弁護団と捜査当局の主張が真っ向から対立すると見られる。判決の内容次第では、医師の産婦人科離れに拍車がかかる可能性もはらんでおり、全国の医療関係者がその行方を見守っている。

(読売新聞 3月11日)

********* 朝日新聞記事

産科医起訴/適切な処置とらず
2006年03月11日

 福島地検は10日、帝王切開の手術ミスで女性(当時29)を死亡させ、異状死を警察署に届けなかったとして、業務上過失致死と医師法違反の罪で、県立大野病院の医師、加藤克彦容疑者(38)を福島地裁に起訴した。加藤容疑者は容疑を否認している。

 起訴状によると、手術前の検査で、加藤容疑者は「前回の帝王切開の傷跡に胎盤が付着していると認識していた」とされる。県の事故調査報告書では、帝王切開の傷とは無関係の子宮の後壁に胎盤が付着しているとしていた。帝王切開の傷の部分に付着した場合、子宮の後壁に付着した場合に比べて、癒着胎盤の確率が高まるとされる。

 また、起訴状では、手術中、胎児を取り出した後、手で子宮から胎盤をはがそうとして癒着胎盤と認識した。剥離(はくり)を続ければ大量出血するおそれがあったにもかかわらず、子宮摘出などの適切な処置をとらず、クーパー(手術用ハサミ)で癒着部分を剥離し、女性を失血死させたとされることが業務上過失致死罪にあたるとした。

 福島地検の片岡康夫次席検事は、「術前で『付着』に気づいた時点で罪に問うているわけではない。手術中、手ではがれなかった時点で子宮摘出に移行すべきだった」とする。

 医師法違反の罪について、片岡次席は「大量出血すべきでない状況で大量出血しており、過誤に関係なく、異状死と認識できる」とした。「異状死」について定まった定義はないが、「判例や実務でとらえられている通常の法律解釈に基づいて異状死と判断した」と述べた。

 医療過誤事件としては異例の逮捕に踏み切った理由について、片岡次席は「遺体やビデオなどがなく、関係者の協力が不可欠な状況で、真実を見極めるため、身柄を確保した上で話を聞く必要があった」とした。

 同地検は、福島地裁に対し、加藤容疑者の勾留(こうりゅう)継続を請求している。

 癒着胎盤

 分娩後に自然とはがれる胎盤が、子宮の壁にくっつき、はがれにくくなる疾病。癒着の度合いは様々で、単なる付着から子宮の筋層に深く細胞が侵入しているケースまである。事前の検査では、癒着の有無を確実に診断するのは難しいという。

 通常、発生率は2万人に1人。しかし、帝王切開や人工中絶の前歴があると、さらに確率は高まる。胎児が子宮から出る口をふさいだ形で胎盤ができる「前置胎盤」が、帝王切開の傷跡の残る「子宮前壁」に付着した場合、確率は20%以上になる。

 事故調査報告書では、調査の結果として、帝王切開の傷跡とは関係のない「子宮後壁に付いた前置胎盤だった」と指摘しており、「このため加藤容疑者は癒着の可能性は低いと考えていた」と分析していた。

全国の医師795人抗議声明
2006年03月11日

 全国の産婦人科や新生児科、小児科などの医師795人が10日、「加藤医師の逮捕・起訴に強く抗議する」とする声明文を連名で発表した。

 名前を連ねるのは、県立や国立の病院、厚生病院、クリニックなどで働く医師で、診療科目は様々。声明文では「診療上ある一定の確率で起こり得る不可避なできごとにまで責任を問われ、逮捕、起訴されるようであれば、もはや医師は危険性を伴う手術など積極的な治療を行うことは不可能」と指摘し、警察や司法に「適切な医学的考察にのっとった判断」を求めている。

 発起人の1人で全員の肩書や所属を確認した東京都杉並区の産婦人科医師、大野明子さんは「今回の事故への立場や意見はさまざまだが、『逮捕は不当だ』という点では一致している。加藤医師とは何の利害関係もないが、だれかが声をあげなければと思った」と話している。

(朝日新聞 3月11日)

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加藤医師を支援するグループの抗議声明
http://medj.net/drkato/index.shtml

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福島産科医師不当逮捕に対し陳情書を提出するホームページ
http://www006.upp.so-net.ne.jp/drkato/index.htm


福島県立大野病院の医師起訴についての報道(3月10日)

2006年03月10日 | 報道記事

************* 私見

癒着胎盤の術前診断は不可能で、治療難度が最も高い産科疾患であり、対応が極めて困難であることは、多くの産婦人科専門医達が一致して主張しているところである。今回の症例は、たとえ高次医療機関であったとしても救命できたかどうかわからないと考えている。多くの専門医達が口をそろえて同様の主張をしているのに、なんで医学には全くの素人である地検検事が、「大量出血は予見できたはずで、予見する義務があった。判断ミスだった」などと断言できるのだろうか。

現時点では、癒着胎盤の術前診断が不可能である以上、今後、(少なくとも福島県では、)産科業務を継続することはあまりに危険すぎる。不可能なことを要求され、理不尽な逮捕が堂々とまかり通るようなところでは産科は消滅するしかない。

加藤医師不当逮捕・起訴の暴挙に対し厳重に抗議すると共に、微力ながら加藤医師への全面的な支援を表明する。

********** 読売新聞

帝王切開手術中に死亡、福島県の産婦人科医を起訴

 福島県大熊町の県立大野病院で2004年12月、帝王切開の手術中に同県内の女性(当時29歳)が出血性ショックで死亡した事故で、福島地検は10日、手術を執刀した産婦人科医師の加藤克彦容疑者(38)を業務上過失致死と医師法(異状死体の届け出義務)違反の罪で福島地裁に起訴した。

 起訴状によると、加藤容疑者は、事前の検査で胎盤が子宮に癒着し、大量出血する可能性を認識していたにもかかわらず、本来行うべき子宮摘出などを行わず、胎盤を無理にはがして大量出血を引き起こしたとされる。さらに、医師法で定められた24時間以内の警察への届け出をしなかったとされる。

 この事件を巡っては、医師や関係団体が加藤容疑者の逮捕に抗議する動きを見せている。同県内の開業医らで構成する「福島県保険医協会」は3日、「(逃走や証拠隠滅の恐れはなく)逮捕は人権を無視した不当なもの」とする異例の抗議文を県警に送付。日本産科婦人科学会、日本産婦人科医会なども抗議声明を出している。

 一方、同地検の片岡康夫次席検事は10日、「罪証隠滅の恐れがあり逮捕した。血管が密集しているところを無理にはがした。大量出血は予見できたはずで、予見する義務があった。判断ミスだった」と起訴した理由を説明した。医師法違反罪については「通常の法解釈をした。大量出血しており、異状死にあたる」とした。

(読売新聞) - 3月10日20時39分更新

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帝王切開医療事故:産婦人科医を起訴 福島地検 

 福島県立大野病院(同県大熊町)で04年12月、帝王切開手術中の女性(当時29歳)が死亡した医療事故で、福島地検は10日、同院の産婦人科医、加藤克彦容疑者(38)を業務上過失致死と医師法(異状死体の届け出義務)違反の罪で福島地裁に起訴した。

 起訴状によると、加藤被告は04年12月17日午後に帝王切開手術中、女性が胎盤をはがせば大量出血の恐れがある「癒着胎盤」と知りながら、子宮摘出手術などに移行せず、手術用はさみで胎盤をはがし、失血死させた。加藤医師は関係者に「こんなに出血があるとは思わなかった。医師として最善の努力をした」などと話しているという。【坂本昌信】

 ◇産科婦人科学会などが声明

 起訴を受け、日本産科婦人科学会と日本産婦人科医会は連名で「本件は癒着胎盤という治療の難度が最も高い事例。全国的な産婦人科医不足という現在の医療体制の問題点に深く根ざしており、医師個人の責任を追及するにはそぐわない」との声明を発表した。
(毎日新聞) - 3月10日 21時36分更新

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帝王切開の執刀医を起訴 福島県立病院医療事故で

 福島県大熊町の福島県立大野病院で2004年、帝王切開した女性=当時(29)=が死亡した医療事故で、福島地検は10日、業務上過失致死と医師法違反の罪で、執刀した医師加藤克彦容疑者(38)=同県大熊町=を起訴した。
 起訴状などによると、加藤被告は04年12月17日、帝王切開の手術を執刀した際、胎盤の癒着で大量出血する可能性があり、生命の危険を未然に回避する必要があったにもかかわらず、癒着した胎盤を漫然とはがし大量出血で福島県楢葉町の女性を死亡させた。また女性の死体検案を24時間以内に警察署に届けなかった。
 日本産科婦人科学会と日本産婦人科医会は、加藤被告の起訴について「術前診断が難しく、治療の難度が最も高い事例で対応が極めて困難。産婦人科医不足という現在の医療体制の問題点に根差しており、医師個人の責任を追及するにはそぐわない部分がある」との声明を発表。

(共同通信) - 3月10日21時43分更新

福島産科医師不当逮捕に対し陳情書を提出するホームページ
http://www006.upp.so-net.ne.jp/drkato/index.htm


朝日新聞記事(福島)

2006年03月10日 | 報道記事

asahi.comトップ > マイタウン > 福島記事

県立病院医師逮捕/応援の提案応ぜず
2006年03月10日

 県立大野病院で04年12月、帝王切開手術ミスで女性(当時29)を死亡させたとして同病院の産婦人科医、加藤克彦容疑者(38)が業務上過失致死と医師法違反の疑いで逮捕された事件で、女性が大量出血した後、院長が加藤容疑者に対し、ほかの医師への応援要請の提案をしたが応じなかったことが、県警の調べでわかった。県警は、加藤容疑者が提案に応じなかったことが、医療過誤が起きた原因の一つとみて調べている。福島地検は拘留満期日の11日までに起訴する方針だ。

 医療関係者が05年3月に公表した事故報告書によると、04年12月17日午後2時過ぎ、手術が始まった際、手術室には加藤容疑者と、外科医1人、麻酔科専門医1人、数人の看護師がいた。その後の県警の調べで、作山洋三院長も、同日午後3時15分に輸血用血液を、いわき市の血液センターに発注した後に、手術室に入ったことも分かった。

 県警は、手術時の様子を捜査するため、複数の病院関係者から事情を聴いてきた。

 県警によると、女性の胎盤をはがし、大量出血が起きた後、手術室に入った作山院長が、加藤容疑者に、ほかの医師に応援を頼むことを提案したという。だが、加藤容疑者が提案に応じず、1人で手術を続けたという。これについて、複数の捜査関係者は「(加藤容疑者が)自分の技術を過信していたことが、医療過誤に影響したのではないか」などと話している。

 関係者の話では、加藤容疑者は手術前、大野病院と以前から連携している民間病院の産婦人科医に、緊急時に応援に来てもらえるように依頼していた。女性やその家族に対しても、この病院名を挙げて、もしもの場合は応援してもらうと説明していた。

 女性は、子宮に胎盤が癒着する「癒着胎盤」の状態だった。癒着胎盤をはがす際には大量出血するおそれがあるが、加藤容疑者は手術前、女性が癒着胎盤かどうかを、強く疑ってはいなかったという。

 県によると、加藤容疑者は、大野病院ではただ1人の産婦人科医だったが、癒着胎盤の手術経験はなかったという。加藤容疑者は弁護士に「あんなに血が出るとは思わなかった」などと説明しているという。

(以上、朝日新聞記事)

****** 大阪府保険医協会の抗議声明
http://osaka-hk.org/cgi/topics/s_news.cgi?action=show_detail&txtnumber=log&mynum=150

福島県立大野病院の産婦人科医師の逮捕に抗議する

■まず、はじめに今回の産科手術で亡くなられた患者さま並びにご遺族の方々には心からお悔やみ申し上げます。

■平成18年2月18日に福島県立大野病院の産婦人科医師が業務上過失致死と医師法違反容疑で逮捕されました。我々大阪府保険医協会は、検察および福島県警の不当逮捕に強く抗議するとともに、直ちに産婦人科医師を釈放することを求めます。

■大阪府保険医協会では30年前より産婦人科医療の問題点を列挙し、社会保障を充実させるべき責任を負っている政府が早急に改善すべきであると指摘してきました。

■地域医療を担ってきた医師個人の崇高な精神に甘え、産科医療を軽視した福島県、また行政改革の名で推し進められている政府の財政優先の国民医療軽視政策が招いた不幸な結果であると考えています。

■今回の問題も、個々の産婦人科医師の事例として矮小化することは許されません。

■いつ何時、危機的に急変するかもしれない産婦人科医療の特殊性を何ら配慮することもなく、産婦人科医師を24時間休まる暇もない1人医長という過酷な環境のまま放置し、不可避であったかもしれない今回の医療事故における最悪の結末を迎えたとたん、医師個人の責任に転嫁する姑息な福島県および県立病院の姿勢にも強く抗議します。

■医師としてリスクを最小限にする努力遂行の義務は当然のことですが、医療上行われた行為は、結果責任を犯罪として問われる類のものではないことは世界的にみても当然のことです。

■現在、産科医療で蔓延している結果責任の追及の風潮により、産婦人科医師の減少、産婦人科の閉鎖、分娩施設の減少、それによる労働環境の悪化、一層の産婦人科医師の減少という悪循環が現実に起こっています。また、他の診療科においても同様の事態が波及する危険性が高く、医学的根拠に基づかず結果責任だけを犯罪行為として裁けば、萎縮した医療が蔓延して国民医療は後退することは明らかです。

■我々はあらためて、刑事事件として扱われた今回の不当逮捕に対して強く抗議するとともに、産婦人科医師の一日も早い釈放と、荒廃しつつある医療の改善に向けての全面的な支援を表明いたします。

2006年3月9日
大阪府保険医協会第11回理事会

****** 新生児医療連絡会の声明
http://www.jnanet.gr.jp/htmls/seimei.htm

新生児医療を担う医師からの声明

はじめに、亡くなられた患者さんとそのご遺族に深い哀悼の意を表します。

福島県の県立病院で帝王切開術を担当した医師の逮捕について、平成18224日に日本産科婦人科学会・日本産婦人科医会から共同声明が出されました。周産期医療を新生児の立場から支える新生児医療の専門集団としても、今回の逮捕の妥当性については疑問を抱かざる得ません。各地域における周産期医療の混乱を避ける責務のある本会としても、日本産科婦人科学会・日本産婦人科医会の共同声明を強く支持します。

平成1839

新生児医療連絡会  長 堺 武男事務局長 楠田 聡

役員一同


夕刊いわき民報: 浜通り3医師会が大野病院の医師逮捕で声明文

2006年03月09日 | 報道記事

夕刊いわき民報(3月8日)の記事
http://www.iwaki-minpo.co.jp/

平成16年12月、双葉郡大熊町の県立大野病院で帝王切開手術中の女性が死亡し、執刀していた男性医師が逮捕された事件で、相馬医師会(奥山孝会長)、双葉医師会(鈴木市郎会長)、いわき市医師会(石井正三会長)は8日、市役所内で記者会見を開き、「福島県立大野病院産婦人科医逮捕および拘留延長に関して」と題する声明文を発表した。 声明文では、医師の逮捕を「地域医療を守る努力を重ねてきた加藤医師の尊厳を踏みにじる異例の事態」と指摘。逮捕により、浜通り地区全域の産婦人科医療においては混乱が起きているとして、「医療現場と医療を求める地域住民の混乱を最小限とするよう、関係機関と連携して取り組んでいきたい」と表明している。 会見には、奥山、鈴木、石井会長が出席。石井会長は「地域医療の担い手が減っている中で、がんばっている医師が逮捕された」ことを遺憾としながらも、報道陣の「逮捕拘留が医師会としては納得できないということなのか」などといった問いには、「そうとってもらってかまわない」と直接的な表現を避けた。

いわき市医師会の声明文
「katou.jpg」をダウンロード


産科医逮捕に困惑

2006年03月08日 | 報道記事

****** コメント

総出血量20リットルの修羅場で、必死の思いで、孤軍奮闘していた担当医師には、一瞬たりとも手を離して説明に行く余裕などあろう筈がありませんから、手術中に御家族のもとに説明に行けなかったのは、状況から仕方がなかったと思います。

しかし、ご家族にとっては、何の説明もなく何時間も待たされた挙句に、手術中に患者さんが亡くなられたとあとから知らされた場合は、納得できないお気持ちになるのも当然だったと思います。

患者側の立場からすれば、いくら担当医師があとから詳しく説明したとしても、こういう結果になってしまったことに対する怒りの気持ちの持って行き場がどうしても担当医師に向ってしまい、何か隠しているのではないか?何か重大な医療ミスがあったのではないか?という気持ちにもなってしまうのも、最初は仕方がないことと思われます。

必死の救命の努力にもかかわらず、残念な結果になってしまったことに対して、心より哀悼の意を表したいと思います。その思いは、担当医師が一番強く感じていることです。

今回の事例で、そもそも一番の問題だったと私が思うのは、県や病院の幹部達の初期の対応として、医療供給システムの問題(輸血供給体制の不備、マンパワー不足)を、担当医師の犯した医療ミスという形ですべて個人の責任に押し付けてしまったことで、担当医師に減俸などの処分を科して、それで事を何とか収めようとしていた県や病院の幹部達の姿勢にこそ、非常に大きな問題があったのではないか?と私は推察します(私見)。

それが、今回の担当医師逮捕の直接の原因にもなってしまったのではないか?と私は推察します(私見)。

このような暴挙を許してそれが前例となってしまえば、今後、普通に診療をしている全国の臨床医達が診療の結果次第で続々と逮捕されることにもなりかねず、特に産科業務はこの国では全く成り立たなくなってしまいます。(妊娠したら外国に行って産んでくださいということにもなりかねません!)ですから、我々はこれを黙って見過ごすわけにはいきません。全国の医師達が事件の推移を、重大な関心を持って、見守っています。

******

朝日新聞 2006/03/08

 帝王切開手術のミスで、福島県の県立病院に勤める産婦人科医が業務上過失致死と医師法違反の疑いで逮捕された事件の波紋が広がっている。県警は「逮捕は病院関係者と遮断す るため」としているが、医療関係者らは「逮捕する必要があったのか」と疑問の声を上げ、産科医療の担い手不足に拍車がかかると心配する。国が明確な基準を示していない「異状死」の届け出義務違反に問われたことも医療現場を困惑させている。
 (斎藤智子、八木拓郎、田中美穂)

福島県立病院・帝王切開ミス死

■事故の概要
 県立大野病院で04年12月17日、帝王切開手術を受けた女性(当時29)が約4時間半後に手術室で死亡した。
 05年1月、外部の産婦人科医3人による医療事故調査委員会が発足。同年3月に公表された報告書は、死因を「癒着胎盤の剥離による出血性ショック」と認定し、事故の要因 として、 ①癒着胎盤の無理な剥離②対応する医師の不足③輸血対応の遅れ- を指摘した。

手術の経緯(県立大野病院医療事故調査委員会の報告書から)
04年11月23日 切迫早産などで入院
12月3日 超音波検査などで子宮後壁に付着した部分前置胎盤と診断
14日 女性と夫に輸血と子宮摘出の可能性を説明、女性は子宮温存を希望
17日 加藤医師に外科医、麻酔科専門医、看護師4人(のち5人)が手術を担当。輸血用の濃厚赤血球5単位(1単位は血液200ミリリットル中の赤血球に相当)を準備
14時26分 手術開始
37分 胎児を取り出す。手で胎盤をはがし始めるが子宮下部は剥離が困難なためクーパー(手術用ハサミ)を使用
50分 胎盤をはがす。総出血量約5千ミリリットル。濃厚赤血球5単位輸血
15時15分 いわき市の血液センターに濃厚赤血球10単位発注
15時35分 全身麻酔に移行
16時05分 濃厚赤血球10単位を追加発注
30分 1回目発注の濃厚赤血球が到着、輸血。
    総出血量1万2千ミリリットル
    子宮摘出手術開始
17時30分ごろ 2回目発注の濃厚赤血球が到着、輸血。
    その後、子宮摘出
18時00分ごろ 心室細動、蘇生開始
19時01分 死亡確認

 写真 (謝罪する福島県病院局の幹部)

聴取1年「なぜ今…」

 「1人でがんばっている医師の逮捕は非常な衝撃だ」。県立大野病院の産婦人科医、加藤克彦医師(38)が先月逮捕されて以来、県や県警には全国から抗議のメールや電話が 殺到している。
 事故調査委員会の報告書が公表されたのは05年3月。県は医療ミスを認めて遺族に謝罪し、加藤医師を減給1カ月の処分にした。その後も、遺族との和解に向けて交渉を続け てきた県は「なぜ今になって逮捕なのか」といぶかる。最初の聴取から約1年。加藤医師も「良心に恥じる行為は何らしていない」と弁護士に話している。
 報告書は、十分な輸血用血液の到着を待たずに癒着胎盤を無理にはがそうとしたとして「はがすのをやめ、子宮摘出に進むべきだった」と指摘した。癒着胎盤とは、通常なら出 産後に自然にはがれる胎盤が子宮にくっついてはがれない状態だ。
 死亡した女性は出産前に、胎児が出る子宮の出口を胎盤が覆う「前置胎盤」と診断されていた。
 癒着胎盤を出産前に確実に診断することは難しい。ただ、前置胎盤の場合、癒着胎盤の可能性が高くなる。
 加藤医師は癒着していた場合に備え、子宮摘出の可能性を事前に女性や家族に説明していた。報告書は、女性が20代で子宮温存の希望があったため、「摘出の判断の遅れが生じた」とみる。
  一方、遺族は県や病院側の謝罪を受け入れていない。夫の親族は、「病室の外で待っていたが、何も教えてくれなかった」。
 県警は、①大量出血の危険があるのに高度な医療が可能な病院に転送するなどしなかった②癒着胎盤を手術用ハサミで無理にはがした -などを業務上過失致死容疑の根拠に挙げた。ある捜査幹部は、逮捕まで踏み込んだことについて「加藤医師を関係者から離し、話を聴く必要があった」とだけ説明する。
  逮捕後、東京と地元の弁護士8人の弁護団が結成された。弁護士の一人は「刑事罰を科さねばならない過失があるのか。事実関係を徹底究明したい』としている。

「異状死」の基準不在

 加藤医師は、24時間以内に女性の死亡を所轄の警察署に届け出なかったとして医師法違反にも問われている。
 「手術で大量出血したが、異常なもの、医療過誤があったとは考えなかった」。 大野病院の作山洋三院長は、2月20日の県立病院長らによる緊急会議で、警察に届けなかった理由をこう説明した。日本外科学会や国立病院の指針を参考に作られた同病院のマニュ アルでは「医療過誤または過誤が疑われるケースに院長が警察署に届け出る」(事務長)と定めているからだ。
 だが、この規定は「あらゆる診療行為中、または比較的直後における予期しない死亡」が異状死に含まれるとした日本法医学会の指針とは食い違っている。
 99年に都立広尾病院で起きた薬剤取り違え事故では、24時間以内に届け出なかったとして当時の院長が医師法違反に問われ、04年に最高裁で有罪が確定した。
 しかし、異状死の定義を具体的に定めた国の基準は存在せず、解釈はそれぞれの医師に委ねられている。
 3日、東京都医師会と都病院協会の代表が厚労省で会見し、「医師法21条の解釈を含めた法律の整備を早急にしなければ、医師の不安は増大し、結果として萎縮診療になり患者 さんの不利益にもなる」という声明を出した。

「訴訟リスク」医師離れ拍車

 厚生労働省の人口動態調査によると、妊産婦の死者数は、95年に85人だったが04年は49人で、減少傾向にある。ただ、出産の時の原因不明の出血などもあり、死者はなかな かゼロにはならない。
 ある産婦人科医は「お産は無事が当たり前のように思われているが、常に危険は伴う」と話す。
 医師側からみると産科は医療訴訟を起こされるリスクの高い診療科と言える。厚労省研究班が04年に約2500人の産婦人科医を対象に意識調査をしたところ、4人に1人が「産科をやめたい」と答えた。主な理由は「診療業務の負担が大きい」と「医 療事故・医療訴訟が多い」だった。
 厚労省の調査では、産婦人科医と産科医の合計数はこの10年、下降線をたどっている。日本産婦人科学会の関係者は「今回の逮捕で新人医師を含めますます産科離れが進むのではないか」と心配する。
 福島県では、県立病院9院のうち4病院に産婦人科があるが、いずれも医師1人の体制だ。加藤医師も事故当時、1人で年に約200件のお産を扱っていた。
 加藤医師の逮捕後、4院に産婦人科を派遣している県立医大は、大野病院を含む3病院への医師派遣を取りやめ、1院について2人体制に増員する方針を決めた。
 県病院局は「産婦人科医を広く薄く配置するという方針のツケが、今回の事件とすれば、考えを改めざるを得ない」としている。