新しい妊娠糖尿病診断基準
2010年に新しい妊娠糖尿病の診断基準が定められ、今後はこの診断基準によって診断が行われることとなった。
定義:
妊娠糖尿病gestational diabetes mellitus(GDM)は妊娠中にはじめて発見、または発症した糖代謝異常。しかし、overt diabetes in pregnancy(妊娠時に診断された明らかな糖尿病)はGDMに含めない。
診断基準:
1.妊娠糖尿病(GDM) 75gOGTTにおいて次の基準の1点以上を満たした場合に診断する。
① 空腹時血糖値≧92mg/dL(5.1mmol/L)
② 1時間値≧180mg/dL(10.0mmol/L)
③ 2時間値≧153mg/dL(8.5mmol/L)
2.妊娠時に診断された明らかな糖尿病 (overt diabetes in pregnancy) 以下のいずれかを満たした場合に診断する。
① 空腹時血糖値≧126mg/dL
② HbA1C≧6.5% [HbA1C(JDS)≧6.1%] 註
③ 確実な糖尿病網膜症が存在する場合
④ 随時血糖値≧200mg/dL、あるいは75gOGTTで2時間値≧200mg/dLで上記①~③のいずれかがある場合
註1. 国際標準化を重視する立場から、新しいHbA1C値(%)は、従来わが国で使用していたJpan Diabetes Society(JDS)値に0.4%を加えたNational Glycohemoglobin Standardization Program(NGSP)値を使用するものとする。
註2. HbA1C<6.5%(HbA1C(JDS)<6.1%)で75gOGTT 2時間値≧200mg/dLの場合は、妊娠時に診断された明らかな糖尿病とは判定し難いので、High risk GDMとし、妊娠中は糖尿病に準じた管理を行い、出産後は糖尿病に移行する可能性が高いので厳重なフォローアップが必要である。
****** 産婦人科診療ガイドライン産科編2011
妊婦の耐糖能検査は?
Answer
1. 妊娠糖尿病(GDM、gestational diabetes mellitus)のスクリーニングを全妊婦に行う。(B)
2. スクリーニングは以下に示すような二段階法を用いて行う。(B)
1) 妊娠初期に随時血糖測定(カットオフ値は各施設で独自に設定する)。随時血糖値≧200mg/dL時には、75gOGTTは行わず、Answer4の①~③の有無について検討する。
2) 妊娠中期(24~28週)に50gGCT(≧140mg/dLを陽性)、あるいは随時血糖測定(≧100mg/dLを陽性)。その対象は妊娠初期随時血糖法で陰性であった妊婦、ならびに同検査陽性であったが75gOGTTで非GDMとされた妊婦。
3. スクリーニング陽性妊婦には診断検査(75gOGTT)を行い、以下の1点以上を満たした場合にはGDMと診断する。ただし、2時間値≧200mg/dL時にはAnswer4の①~③の有無について検討する。(A)
① 空腹時血糖値≧92mg/dL(5.1mmol/L)
② 1時間値≧180mg/dL(10.0mmol/L)
③ 2時間値≧153mg/dL(8.5mmol/L)
4. 以下のいずれかを満たした場合には、“妊娠時に診断された明らかな糖尿病、overt diabetes in pregnancy”と診断する。
① 空腹時血糖値≧126mg/dL
② HbA1C≧6.5% [HbA1C(JDS)≧6.1%] 註
③ 確実な糖尿病網膜症が存在する場合
④ 随時血糖値≧200mg/dL、あるいは75gOGTTで2時間値≧200mg/dLで上記①~③のいずれかがある場合
5. GDM妊婦には分娩後6~12週の75gOGTTを勧める。“妊娠時に診断された明らかな糖尿病”妊婦では耐糖能について再評価する。
****** 産婦人科診療ガイドライン産科編2011
妊娠糖尿病、妊娠時に診断された明らかな糖尿病、 ならびに糖尿病合併妊婦の管理・分娩は?
Answer
1. 早朝空腹時血糖値≦95mg/dL、食前血糖値≦100mg/dL、食後2時間血糖値≦120mg/dLを目標に血糖を調節する。(C)
2. 耐糖能異常妊婦ではまず食事療法を行い、血糖管理できない場合はインスリン療法を行う。(B)
3. 妊娠32週以降は胎児well-beingを適宜NST、BPS(biophysical profile score)などで評価し、問題がある場合は入院管理を行う。(C)
4. 血糖コントロール良好かつ胎児発育や胎児well-beingに問題ない場合、以下のいずれかを行う。(B)
1) 40週6日まで自然陣痛発来待機(待機的管理)と41週0日以降の分娩誘発
2) 頸管熟化を考慮した37週0日以降の分娩誘発(積極的管理)
5. 遷延分娩時、陣痛促進時、あるいは吸引分娩時には肩甲難産に注意する。(C)
6. 血糖コントロール不良例、糖尿病合併症悪化例や巨大児疑い合併例では分娩時期、分娩法を個別に検討する。(B)
7. 39週未満の選択的帝王切開例、血糖コントロール不良例、あるいは予定日不詳例の帝王切開時には新生児呼吸窮迫症候群に注意する。(B)
8. 糖尿病合併妊婦分娩時においては連続的胎児心拍数モニタリングを行う。(B)
9. 分娩時は母体血糖値70~120mg/dLの正常範囲にコントロールする。(C)
10. 分娩後はインスリン需要量が著明に減少する。インスリン使用例では低血糖に注意し、血糖値をモニターしながらインスリンを減量もしくは中止する。(B)
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糖尿病による母体および児の合併症
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糖尿病母体児
infant of diabetic mother; IDM
・ 血糖は胎盤を通過するが、インスリンは胎盤を通過しない。
・ 胎児への糖の過剰供給
→胎児膵のβ細胞からのインスリン過剰分泌
→胎児高インスリン血症
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器官形成期の高インスリン血症 による胎児への影響
・ 心奇形
・ Caudal regression syndrome
・ 無脳症、髄膜瘤
・ 肺低形成
・ 呼吸窮迫症候群(RDS)
・ 口唇裂、口蓋裂
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妊娠後期の高インスリン血症による影響
・ Fetal macrosomia(巨大児) 心臓、肝臓、筋肉組織への脂肪の過剰蓄積
・ 母体の血管損傷が著しい場合、胎盤血流も障害され、逆に胎児発育不全(FGR)を呈する。
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出生直前の高インスリン血症 による児への影響
・ 出生後の低血糖症
・ 新生児仮死
・ 出生後の低Ca血症
・ 多血症(高粘稠度症候群、血栓症、 高ビリルビン血症)
****** 問題
糖尿病合併妊娠で正しいのはどれか。2つ選べ。
a. 治療にはインスリンを用いる。
b. 新生児は高血糖をきたしやすい。
c. 妊娠高血圧症候群を合併しやすい。
d. 血糖値の管理は妊娠中期以降に開始する。
e. 食後2時間の血糖値を150mg/dL以下に保つ。
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正解:a. c.
a. インスリンは胎盤を通過しないため、胎児に影響を及ぼさないことからインスリンを用いる。経口の血糖降下薬は胎盤を通過するため、胎児の低血糖を引き起こす可能性があり使用しない。
b.妊娠中は高血糖に曝されるため、胎児もインスリン分泌が亢進し、分娩後、低血糖をきたしやすい。
c. 母体高血糖により血管障害が生じ、PIHを合併しやすい。
d. 胎児奇形や流産を予防するためには妊娠前からの血糖コントロールが必要である。
e. 妊娠中の合併症を予防するために非妊娠時よりも厳しい血糖コントロールを必要とし、目標血糖値は食前を100mg/dL以下、食後2時間を120mg/dL以下とする。
****** 問題
糖尿病合併妊娠について誤っているのはどれか。
a. 2型糖尿病が多い。
b. 糖質摂取量は維持する。
c. 経口糖尿病薬を用いる。
d. 血糖管理で新生児合併症は減少する。
e. 空腹時血糖は100mg/dL以下を目標とする。
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正解:c.
a. 1型糖尿病(インスリン依存型):5%
2型糖尿病(インスリン非依存型):95%
b. 妊娠中は適正な栄養、糖質摂取が必要。
c. 妊娠中、経口糖尿薬は禁忌。
d. 妊娠中の血糖管理が重要。
e. 食前血糖値100mg/dL以下、食後2時間の血糖値120mg/dL以下を目標とする。
****** 問題
糖尿病合併妊娠について誤っているのはどれか。
a. 妊娠初期は経口血糖降下薬で管理する。
b. 妊娠初期の血糖コントロールが不良の場合は先天奇形の頻度が高い。
c. 羊水過多症の合併頻度が増える。
d. 分娩後はインスリン必要量が減少する。
e. 新生児低血糖に注意する。
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正解:a.
経口血糖降下薬は胎盤通過性があり、妊娠初期では催奇形性、妊娠中期以降は胎児低血糖の危険があり、原則禁忌である。血糖のコントロールには胎盤を通過しないインスリンを用いる。