acute fatty liver of pregnancy (AFLP)
【定義】 急性妊娠脂肪肝(AFLP)は、妊娠末期に突然発症し、妊娠を終了させない限り急速に肝不全となり、母児ともに予後不良となる疾患である。肝細胞内の微細粒状脂肪沈着を特徴とし、診断が遅れると致命的となる妊娠合併症の一つである。
妊婦・褥婦のみに発症する産科固有の合併症である。
【発症時期・頻度】
①妊娠28~40週に限られるのが特徴で、平均して妊娠35~36週である。
②初産婦(48%)、双胎(14%)に多い。妊娠高血圧症候群(46%)との合併が多い。男児妊娠例に多い。アンチトロンビン(AT)活性の減少が先行する報告もある。
③頻度は9600~13000例に1例と言われている。HELLP症候群の1/20程度の発症頻度である。次回妊娠で繰り返す可能性はまれである。
【病態】 AFLPの本態は脂肪酸β酸化酵素の異常とされており、組織学的には肝細胞内に微細顆粒状脂肪滴が沈着していることで確定診断される。壊死、炎症、線維化は伴わない(ウイルス性肝炎との鑑別点)。小滴性脂肪肝で主に遊離脂肪酸が沈着する。(肥満成人の脂肪肝で沈着する脂肪の大部分は中性脂肪)
【症状】
①嘔吐、腹痛
②掻痒を伴わない黄疸
③意識障害
妊娠末期(主に30週以降)に、食欲不振、上腹部違和感(上腹部痛のこともある)を訴える。最終定期健診時に比し極端に減少した体重が認められる。
進行すると低血糖、DIC、消化管出血、膵炎、腎不全などや肝不全を呈する。肝性脳症、ショック、多臓器不全により死亡する。
胎児は母体の代謝性アシドーシスにより、急速に状態が悪化する。
【検査】
AST、ALT:高値(100~1000 U/L)
LDH:高値
ビリルビン(直接ビリルビン優位):高値
血清アルブミン:低値
尿酸:異常高値
クレアチニン、BUN:高値
白血球増加(20000~30000 /μL)
血液濃縮によるHt値の上昇
PT、APTTの延長
フィブリノゲン:低値
AT(アンチトロンビン)活性:低値(通常50%以下)
妊娠初期に比し減少した血小板数
進行すると低血糖やアンモニア上昇がみられる
血小板減少は軽度(DICを合併すると著明に減少)
母児ともに代謝性アシドーシス
膵炎や尿崩症を合併することもある
【診断】 超音波検査やCT検査で脂肪肝としてとらえられる頻度は、それぞれ50%、20~30%とそれほど高くない。従って、画像診断上、脂肪肝の所見がなくてもAFLPを否定できない。
肝生検による病理診断では、肝小葉構造は保たれており、小葉中心性の肝細胞内に無数の微小胞性の脂肪変性が認められる。壊死や炎症像は軽度である。
電顕所見では、ミトコンドリアの腫大と変性、滑面小胞体の拡張と減少、肝細胞質内の脂肪滴の沈着などがみられる。
急性妊娠脂肪肝の診断には肝生検が必要であるが、DICの危険が高い妊婦への肝生検は躊躇されることも多く、また急性妊娠脂肪肝の診断が確定しても、治療法が急速遂娩しかないことから、肝生検実施の正当性に疑問が持たれている。
AFLPとHELLP症候群との臨床的鑑別は必ずしも容易ではない。現在のところ、AFLPとHELLP症候群とを区別するgolden standardは存在しない。AFLPの血液検査データの特徴は、HELLP症候群と同様な異常値以外に、AT活性の極端な低値、尿酸の異常高値であることが明らかとなった。また、母体の肝不全徴候(プロトロンビン時間延長、血中アンモニア濃度上昇など)はAFLPの方が強い。臨床的には、AT活性低値、AST、LDH高値、かつ尿酸異常高値を伴った症例をAFLPと診断するのが妥当である。
【管理】 早期診断、早期治療により近年、母児の予後は著しく改善されている。重症化する前に妊娠を中断することが大切である。治療は、早期の児娩出と母体の集中管理である。重症例では血漿交換を行う。分娩によって肝機能は速やかに改善することが多い。肝機能障害が慢性化することはない。再発は一般的に否定されており、次回妊娠を禁忌としない。