勿忘草 ( わすれなぐさ )

「一生感動一生青春」相田みつをさんのことばを生きる証として・・・

花火

2013-07-27 23:59:18 | Weblog
 自慢するものなどなにもない我が家だが、唯一のご馳走は部屋から見える隅田の花火とスカイツリー。その花火を楽しみに毎年泊りがけで来る姉とその家族。今年は姉の孫たちも成長し、花火見物に来たのは姉とその娘の二人だけ。


 暮れゆく夏の空は、心配された気まぐれ天気も何とか持ちそうな気配に、マンションの屋上は三々五々人が集まってくる。


 午後7時を少し過ぎたころ、スカイツリーを横目に花火の打ち上げが始まった。スカイツリーのライトアップもいつもより控え目だ。


 南の夜空を焦がす花火とスカイツリーの競演に歓声が上がり、これからの1時間半は暑さを忘れる時間でもある。


 花火が始まってまだ10分が経つか経たないかの時間、一陣の冷たい北風が頬を撫でる。振り返ると北の空は真っ黒な雲が覆い被さるようにこちらに向かってくるではないか。


 頬を叩くのは北風だけではなく、冷たい雨粒も混じり始め、あたりは真っ暗になる。それでも花火の音は途切れることもなく暗雲を追い払うが如く、雷鳴に負けじと鳴り響く。


 しかし意地悪な黒雲は冷たい風と大粒の雨をもたらして、南へと進んでゆく。マンションの屋上は人の数も次第に減って行き、とうとう数人だけになった。姉とその娘は早々に引き上げ、部屋からの花火見物に切り替えていた。午後7時半、とうとう僕も雨脚の強さに我慢できなくなって、部屋に戻る。部屋からの花火も悪くないなと、カメラを設置するが、花火の打ち上げは次第に減り、佳境はこらからという午後7時40分、テレビの中継が花火の中止を伝えた。夜空に開く一瞬の火の花は、儚く夏の夜の夢と散ってしまったのである。