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歩くたんぽぽ

たんぽぽは根っこの太いたくましい花なんです。

夜市

2019年09月25日 | 
最近本屋へ行くとついつい探してしまう作家がいる。

しかし私が行く本屋にはいつもその人の本は置いていない。

ネットで買えばいいのだけど、それほどには前向きでない。

どこか必然的で素朴な出会いを求めているのかもしれない。

『夜市』はだいぶ前に読んで、その時は「ふ〜ん」くらいにか思っていなかったけど、

時間が経つにつれその想いはゆっくりと熟成されていくのだった。




その本との出会いこそ実に味気ない、

ネットで「おすすめホラー小説」を探していると多くのページで紹介されていたのだ。

当時は貴志祐介や我孫子武丸のサイコスリラーにはまっていた時期で、

人間の怖さにばかり目が向いていたので、

おとぎ話だとか妖怪だとかの幻想的なホラーにはあまり興味がなかった。

それでも古本屋で見つけてなんとなく読んでみたのはなぜだろう。





『夜市』


恒川光太郎 著
角川書店 平成17年



この本には『夜市』と『風の古道』の2編が収録されている。

『夜市』は第12回日本ホラー小説大賞受賞作品で、

書き下ろしの『風の古道』を加えたこの本が彼のデビュー作となった。



この作品におけるホラー要素は「夜市」という設定そのものにある。

対面する事物にはそこまで怖さを覚えないものの、

物語を包む夜市という幻想的で厳しい世界がじわじわと心を侵食していく。



夜市では望むものはなんでも手に入る。

その代わりに法外な金額を請求される。

一度夜市に入ると何かを買わなければ外に出ることができない。

夜市はいろんな世界に繋がっている。



「トンネルのむこうは、不思議の町でした」とか、

ウサギの穴に落ちると不思議の国に入っちゃったとか、

クローゼットの中に入ると怪しい森に出たりだとか、

昔から異世界への入り口はいろいろな所に潜んでいた。

夜市は森を抜けると現れる。

そして夜市そのものもまた別世界への入り口となっているのだ。



異世界へ迷い込む物語はたくさんあるけれど、

この物語が忘れ難い一番の理由は「他に類をみない」話だからだと思う。

この物語は夜市という装置を利用して前半と後半に全く別の世界を描く。

特に後半が特異。



怖いようで美しく物悲しい。

物語を引き締めているのは不条理な厳しさか。

ホラーでありファンタジーであり、和風というのが癖になる。

文学的というか詩的というか、

いろいろ盛り込んだけど、それでいてとてもシンプルなのだ。

『風の古道』も面白い。

おすすめです。