当時はねぇ、国民的な大スターだったと...。
ませガキのカツオは田中絹代さんの渡米を口にし、学校に呼び出された(...なぜか父母ではなく?姉の)サザエさんが注意されるというオチ。
記事にもあるが、田中さんは日本文化の象徴として米国へ親善大使として赴いた。
現代であれば、滞在の様子をリアルタイムで報じられるところだが、3ヶ月ほどで帰国した彼女の姿をみて日本の大衆は呆れ、やがて大炎上となった。
サングラスに派手なドレスを身に纏い、投げキッスまで...その毒されっぷりに腹が立ったというワケだ。
時は敗戦から4年...まだまだ大衆の心は大荒れでササクレの酷い時代。
こんな腐った田中絹代なんか見るに堪えない!という感じだったのだろう。
田中さんは自殺まで考えるほど追い詰められ、先行きがみえなくなるほどだったという。
その時期に出演した小津作品「宗方姉妹」がその空気感をよく出している。
作品のラスト...冷え切った関係に陥った夫と口論となり、妻である田中さんは強かに平手打ちをくらう。
それも7発も...このシーンは観ているこちらもズキッとくる。
この作品に登場する彼女は徹底的に古風な女性として描かれ、欧米文化とその流行にのるアプレな妹(高峰秀子さん)を批判的に見ている。
この設定に小津さんの気持ち...渡米後の変貌ぶりをリセットさせ元のイメージに戻す...そのため敢えてストレートな暴力も受けさせるという...。
作品は芳しくない評価と興行成績だったようで、その効果はどの程度のものだったかは判らない。
どちらかと言えば、その後の溝口健二作品で復活を遂げた感が強いが、小津ファンとしては同作が強い印象として残るものがあるのだ。