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ぽつお番長の映画日記

映画ライター中村千晶(ぽつお)のショートコラム

ジョルダーニ家の人々

2012-07-18 20:48:56 | さ行

上映時間、6時間39分!
でも一瞬たりとも飽きなかったし、面白い!

「ジョルダーニ家の人々」83点★★★★

***********************

現代のローマに暮らすジョルダーニ家は、
割りと裕福な中産階級の一家。

技師の父(エンニオ・ファンタスティキーニ)と、
専業主婦の母(ダニエラ・ジョルダーノ)は仲良く、

長女(パオラ・コルテッレージ)は出産間近。
長男(クラウディオ・サンタマリア)は外務省に勤めるエリートで

まだ高校生の三男(アレクサンドロ・スペルドゥティ)は
ガールフレンドに夢中だ。

そんななか
大学生の次男(ロレンツォ・バルドゥィッチ)は
やや疎外感を感じていた。

が、ある日、一家を不幸が襲う。

そして次第に一家の秘密が明らかになり――?!

***********************

「輝ける青春」(6時間17分!)の脚本家による作品で、
イタリアのテレビドラマ4本分をつないで
1本で見せています。

途中休憩ありですが、
しかし6時間39分という壮大な上映時間に
はっきり言ってビビった。

でもこれが、全然飽きない!
一瞬たりとも寝ませんでしたぞ(笑)

これで2800円は絶対にお得。


まず
見せるところと見せないところの選択が絶妙にうまく、
無駄一切なく、退屈する部分がない。

説明過多にならない切り上げ方も絶妙だしね。

見終わる頃には
完全にこの家族の一員になってますマジで(笑)


一応、中心になるのは次男で、
彼の成長物語にもなっていますが

あるときは兄の、あるときは次男の、あるときは父と母の、と
それぞれのストーリーを編んでいくスタイルで、

またそれぞれにドラマがあるんだこれが!(笑)


嬉しいことも、悲しい出来事も、
すべて温かく穏やかな色彩の映像で包まれ、
実はすごくドラマチックなのに、そう感じさせない。

日常の細部や状況を丁寧に、しかし自然に描いて、
ドラマにのめりこませるんですよ。


おおらかでも決してご都合主義ではない
脚本がうまいんですねえ。

ひとりひとりの内面がそれほど描かれるわけじゃないのに、
それぞれの気持ちになって
胸がツンツン痛んだりするんですわ。

特に長男とその恋人(これがいいヤツなんだ・・・フフフ)の愛が響いたなア。


人の世はなんという不思議な縁でなりたっているのか。
人とは哀しくて、でも愛おしいものなのか。

最終章では、すべてに涙、涙でした(笑)


特に家族&人間ドラマが好きな人は、
ぜひ1日「映画に浸る日」を作って、観て欲しい。

後悔は、させません。


★7/21(土)から岩波ホールで公開。ほか全国順次公開。

「ジョルダーニ家の人々」公式サイト
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おおかみこどもの雨と雪

2012-07-16 00:47:13 | あ行

これぞ、世界に誇れる
ジャパニーズアニメーション!

「おおかみこどもの雨と雪」84点★★★★


************************

大学生の花(声・宮あおい)は
ある授業で彼(声・大沢たかお)を見かける。

どこか他の人とは異なる佇まいの彼に花は惹かれ、
二人はつき合いはじめる。

あるとき彼は
花に誰にも言わなかった秘密を打ち明けた。

「実はおれは狼男なんだ」――。

それでも花は彼を愛し、
やがて二人の間に子どもが生まれる。

姉の雪と、弟の雨。

おおかみと人間の子どもである彼らの成長を
二人はドキドキしながら
見守っていくはずだったのだが――。

************************


「サマーウォーズ」も好きだったけど
超えましたね、細田守監督。

帰り道、じわじわとこみ上げてきて
涙が止まらなくなったわい。

ちなみに隣のおいちゃん(推定・50代後半)も
ボロ泣きしてたわい。


夏休み、親子で見て欲しい映画NO.1!

なんですが、実はこれ
子育て世代か、親の苦労をわかるようになる
ある程度の年齢の人のほうがグッとくるかもしれない。


狼男の父親と出会い、恋におちた母親の
「ウソみたいな話」を
娘が振り返って語るという形式で、

狼男なんて現実離れしてそうな話が
こうもフツーの日常に思えるのは、
これが普遍な「子育て奮闘記」であるから。


おてんばでやんちゃな姉・雪に、
引っ込み思案の弟・雨。

姉と弟の個性が細やかに描かれるのと同時に、
慣れない子育てに悩み、ハラハラし
やがて訪れる巣立ちの瞬間を予感する母の姿は、

狼だとか人間だとかを越えて、
誰にも必ずいる「親」と「その思い」を、
直球に投げ込んでくる。


直球だけど、見せ方は非常に洗練されていて

母と父のなれそめ部分など、
セリフなしの余白な美があってよかったなア。


狼男、なんて題材だけに、
もっと様々なドラマが生まれてもおかしくないのに、
あえて“子育てと子ばなれ”に
焦点を絞った潔さも素晴らしい。


驚くのは、
てっきり監督の子育て経験から生まれた話かと思いきや、
ご自身はまだお子さんがいなくて、
まわりの友人たちが親になっていくのを見て、
憧れもあって描いた話だそう。

へええ、意外。

子どもに手を焼く様子なんかも
すんごいリアルなんだもん。

これが創作とはスゴイものです。


また共同脚本の奥寺佐渡子氏は
「サマーウォーズ」のほか
「八日目の蝉」の脚本家でもある方。

この人、おいちゃん&おじいちゃん世代を泣かせる
天才なのかもしれないなア。
たぶん“母”のツボを心得ているんだと思う。
「八日目の蝉」もその層にやたらウケてたもん。

ま、とにかく
世界に誇れる日本のアニメーションが
またひとつ生まれたってことです。


★7/21(土)から全国で公開。

「おおかみこどもの雨と雪」公式サイト
コメント (8)
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メリダとおそろしの森

2012-07-15 23:31:06 | ま行

絵がね、すっごいですよ。

「メリダとおそろしの森」2D版 54点★★★

**********************

スコットランドのある王国の
王女メリダは

幼いころから弓が得意で
自由を愛するおてんば少女。

年頃になった彼女に
母親である王妃は縁談を持ち込むが、
メリダは猛反発する。

母と大げんかして城を飛び出したメリダは
森で魔女に出会う。

「母の考えを変えたいの」と願うメリダに
魔女はある魔法を授けるのだが――?!

**********************

「トイ・ストーリー3」(2010年)
「カーズ2」(11年)に続くピクサーアニメ。

ヒロインのメリダはかわいらしく

特に毛糸のような
クリクリ赤毛のリアルさはものすごいことになっており、
それを見るだけで、この映画の価値の8割はあると思いました。

ほっぺの質感も
ソフビのキューピー人形みたいな、つるつるプニプニですごい!

2Dで見たけど、相当に立体的で
完全に人形アニメを見てる感覚でした。


ただストーリーはあまりいただけない。

王妃教育が嫌いなおてんばお姫様は
キャラとしてはキュートだけど、

もっとおそろしい森での冒険譚かと思ったら
そういう話ではなく

物語の動機も核も
“母親への反発”だけなので、
成長物語として魅力が少ないんですよ。


魔女に教わった魔法が元で
物語が動いていくんですが、

そもそもそこの発端が、
洒落にならなくないか?という(苦笑)

なにより、いくら勇ましいヒロインでも
おとぎ話にはやっぱり
王子様でも登場させないとねえ(笑)


ということで、2Dでも絵は十分楽しめたし、
十分かもしれません。


ただピクサーのお楽しみ、同時上映の短編アニメは
いつもながら見応えあり。


「ニセものバズがやって来た」は未見なのですが、

「月と少年」はドリーミーで王道的な良作。
ラストも気が効いてました。

本年度アカデミー賞の短編アニメ部門
ノミネート作でもありますんで。


★7/21(土)から全国で公開。

「メリダとおそろしの森」公式サイト
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だれもがクジラを愛してる。

2012-07-14 21:50:52 | た行

クジラ?ええ、愛してますよ。
愛してますとも?

「だれもがクジラを愛してる。」69点★★★☆

**************************

1988年10月。

アラスカに派遣されている
テレビ局のアダム(ジョン・クラシンスキー)は

偶然、3頭の親子クジラが
氷の下に閉じ込められている映像を撮る。

3頭は氷上にあいた穴から呼吸をしていたが、
寒さでどんどん穴はふさがっていき、
しかも開けた海までは8キロもある……。

映像は世界中に配信され、
大勢の人々が、クジラ救出のために乗り出した。

やがて救出劇は
アメリカ大統領、そして
ソ連をも巻き込む大騒動になっていき――?!

**************************


実話が基の作品です。

このニュースは知らなかったけど、
88年当時、日本でもかなり報道されたらしい。

クジラ3頭の救出の裏には、
政治的事情やかけひきもあったようですが、

まあともかく、世界中の人が人道的に動かされ、
そして米ソが協力し合ったという
前代未聞の“いい話”であることは間違いありません。


この映画のさじ加減は
ドリュー・バリモア演じる
環境団体グリーンピースの女性活動家の
扱いにかかっていたと思いますが、

「ウザい活動家」となりそうな彼女を
監督はうまく回避し、
映画全体の雰囲気を、シリアスオンリーではなく、
ちょっと軽快な感じに処理しています。

ただ後半はどうしても
救出劇がシリアスになっていくけどね。


とにかく伝わるのは「行動することの大切さ」。

困難な状態にある“弱きもの”を助けようとするときに
ただ「かわいそう」では、人は動かない。

そのことを利用しようとする政治家をも利用できる
知性や判断力が、
“実行する人”には必要なんだな、と思いました。


こんなに「だれもに愛されているクジラ」について
世界から目の敵にされている日本人が
この映画を受け取るべきか、
ちょっと複雑なところもありそうですが、

そこを含めて観ても
イイんじゃないかなと思います。

誰かを“悪い”とかいう話じゃなく、
アラスカ先住民たちの捕鯨描写もあり、

なにより、ここに描かれているのは
困難な状態にあるものを助けようとする、
人間の理由なき衝動、団結する絆ですから。


しかし24年もたったいま、
なぜいま、この話を?――が一番重要な点だと思うんですよ。

推察するに、
80年代後半~90年代は
ちょうど「エコ」が認識され始めた時代。

しかし、それから20年以上たったのに
環境は、動物はどうなった?
北極のシロクマたちの窮地は?

ちょっとは、振り返って考えなさい、
ということなんでしょうかね。


★7/14(土)からTOHOシネマズシャンテほかで公開。

「だれもがクジラを愛してる。」公式サイト
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いわさきちひろ ~27歳の旅立ち~

2012-07-13 20:26:28 | あ行

こんなに波乱の人生だとは、
知りませんでした。

「いわさきちひろ ~27歳の旅立ち~」70点★★★☆

あのふわり柔らかいタッチの線で
子どもを描いた
絵本画家いわさきちひろの生涯を綴るドキュメンタリー。

ナレーションは元NHKの加賀美幸子アナ。
エグゼグティブプロデューサーは山田洋次。

そこからして
きちんとした作品だとお墨付きって感じですが(笑)


これがあのふんわりした絵に似合わず、
波乱万丈な人生なんですよ。
知らなかった。驚きました。


まず、最初に
27歳のときに描いた自画像が出てくるんですが
これにびっくり。

暗く叩きつけるような鉛筆のタッチで
まるで知ってる「いわさきちひろ」のイメージとは結びつかない。

彼女が何故27歳で
こんなにも鬱屈していたのか?!

映画は彼女の生まれから、遡っていきます。

若くして絵の才に恵まれるものの、望まぬ結婚をし、
そして衝撃的な夫の死。

絵だけを頼りに27歳で東京に行き、
ヌードモデルをしたりしながら絵を学んだ・・・とか
まあすごいんですよ。

そんななか生涯の伴侶に出会うわけですが、
結婚のときに交わした誓約書というのが
またすごい。

まあつまり「自分の邪魔をするな」ってことで(笑)
わかるなア(笑)


本当に彼女は“表現者”だったんだなあと。
凄まじい「芸術家」としての自我を感じて
圧倒されました。


けっこう見応えありました。

彼女の功績は多々あれど
今回、改めて感じたのは
彼女の絵がデザイン性が高く、構図的に非常に新しかったいうこと。

番長の好きな漫画家
くらもちふさこ氏の構図って
かなりこの影響受けてる気がしました。違うかな?


ただ海南友子監督は
前作「ビューティフルアイランズ」(09年)もそうだったんですが、
ものすごくきちんと作っているんだけど、
やや単調で退屈になりがち、というのが惜しい。

それでも、今回はテーマのおもしろさでイケます。


★7/14(土)からヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国順次公開。

「いわさきちひろ ~27歳の旅立ち~」公式サイト
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