ぽつお番長の映画日記

映画ライター中村千晶(ぽつお)のショートコラム

アフター・アース

2013-06-16 16:48:34 | あ行

ウィル・スミス×ジェイデン・スミスの
「幸せのちから」はいい映画だったわ。


「アフター・アース」51点★★★


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西暦3071年。

人類は環境破壊で住めなくなった地球を捨て、
別の惑星に移り住んだ。

そこで人類は
「人間の恐怖の匂いをかぎ分ける」殺人生物に襲われるが、

ただ一人、
“恐怖心をコントロールできた”
サイファ(ウィル・スミス)が人類を救う。

サイファの息子(ジェイデン・スミス)は
偉大なる父に近づこうと必死で訓練をしているが
まだまだ未熟だ。

あるとき、
サイファは息子を任務に同行し、宇宙へと旅立つが
しかし宇宙船に異変が起き――。

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M・ナイト・シャマラン監督作。


1000年後の未来の地球に不時着する、という
いわくありげな設定なので

「実は・・・だった!」的な
ひねりと驚きを期待してしまうんですが、

そういうのは特になかった(苦笑)。
話はかなり単純でした。


そも冒頭からやたら単刀直入というか、
スタスタと話が進むんですよ。


1時間40分なのでまあそれはいいんだけど、
ピンチも都合よく切り抜けて、起伏に乏しい。


SFというには舞台はほとんど地球のジャングルで
スペクタクルに欠けるし、

なにより
偉大なる父ウィル・スミスの手足となり、
指示のままに動く
実の息子の成長物語・・・って
直球すぎやしませんかね(笑)


全米では某宗教団体の教義が組み込まれていると
話題になってるそうですが

「恐怖心をなくす」修業ってところが
教義チックなのかしらん。

「己の心に打ち勝て」って
それは別によくある話だという気もしますが。

それよりも
人類が地球を捨てて、惑星に移り住むくだりの
雑な説明のほうがひっかかったなあ(失笑)

それはともかく
話にも美術にも世界観にも新味がなく
シャマランの「じぇじぇ!」な驚きも特になく残念。

まあ
「すんごくダメ!」ってわけではなく
親子で観に行けばそこそこフツーに見られるとは思うんですけどね。

ウィル・スミスはすごい役者だし
ジェイデン・スミスもがんばってると思うんだけど
“親子”ってなると
難しいんでしょうねえ。


★6/21(金)から全国で公開。

「アフター・アース」公式サイト
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嘆きのピエタ

2013-06-14 12:26:29 | な行

きましたよ、キム・ギドク監督の新作。


「嘆きのピエタ」68点★★★☆


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生まれてすぐ親に捨てられた
青年イ・ガンド(イ・ジョンジン)は
“悪魔”と怖れられる、冷酷無比な借金取り。

そんな彼の前に、
母親だと名乗る謎の女ミソン(チョ・ミンス)が現れる。

信じず、ミソンを邪険に扱うガンドだが
しかし献身的に世話を焼く彼女を
次第に受け入れていく――。


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「悲夢」(08年)で映画が撮れなくなり
「アリラン」(11年)で苦悶する自分を撮り、
復活したキム・ギドク監督の新作。

ネタバレするとつまらないので
観る前の情報収集には注意しましょう。

で、ネタバレでない範囲で。

後半までがんばれば、
あの「オールド・ボーイ」に近いカタルシスが現れます。

しかし、もうとにかく
痛い、つらい描写が多いので、
それまで辛抱するのがけっこうキツイかも。

主人公は
借金を払えない債務者を、障害者にして保険金を取る
悪魔のような青年。

その方法ってのがまた
町工場のプレス器や、鉄工所の刃など
「え?まさか。これはやめようよ」的な
痛いネタのオンパレード。

生き物が出てくれば殺すし。

観客への容赦ない嫌がらせのような描写に、
耐えるのはなかなかしんどい。

そんななか、おかしな女が「母親だ」と登場するんですが
そこでも
「え?」なタブーを発動。

全編を監督の混沌とした狂気が覆っていて、
どこに行くのかと思うけど

ただ、その“仕掛け”が見え始めると、
がぜん作品の意味が変わってきます。


ただ仕掛けが見えるのが、ちょっと早すぎたのと
痛いネタに耐えるのが辛すぎたので
この点数。

「悲夢」より断然いいんですけどね。

この前の作品「アーメン」(11年、未公開)って気になるなあ。
もっとヤバさ炸裂っぽいですが。


★6/15(土)からBunkamuraル・シネマほか全国順次公開。

「嘆きのピエタ」公式サイト
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3人のアンヌ

2013-06-13 22:48:23 | さ行

韓国のゴダールこと、ホン・サンス監督作品。

「一度見るとクセになる」と言われたけど
ホントでした。


「3人のアンヌ」71点★★★★


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韓国の海辺の田舎町に
バカンスにやってきた
3人のアンヌ(イザベル・ユペール)の3つの物語。

青いシャツのアンヌは有名な映画監督。
映画監督の友人(クォン・ヘヒョ)と、その妻(ムン・ソリ)と
海辺のペンションに泊まっている。

妊娠中の妻の目を盗み、
ビミョーなモーションをかけてくる友人を交わし
海岸に出たアンヌは
ライフガードの青年(ユ・ジュンサン)と出会う――。

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前作「ハハハ」で慣れたホン・サンス世界。

今回も「フフフ」な脱力系。

タイトル文字からして
ヘナヘナで脱力(笑)

カメラワークもホントにフリーダムつうか。
気ままで、ゆる~くて、でも気持ちいい。


韓国のなーんもない海辺の田舎ペンションに
3人のアンヌ(イザベル・ユペール)がやってくる。

それぞれ映画監督だったり、
不倫中の奥様だったりと
別々の話ではあるけれど、

中身はすべて懲りない男女の恋愛話であり
出てくる役者もみな同じ。

観客は
同じ人物が違うシチュエーションですれ違ったり、
絡んだり、交差したりするのを見ながら

「あ、さっきの人がここにもいる・・・」とか思う。

観客だけにその関係を読ませて、
フフフと共犯にさせる面白さは
「ハハハ」に似てます。

さらに
3つのエピソードは
混濁としているようでいて、

冒頭の焼酎のビンも、ヘナヘナ文字も、
ちゃんとラストにつながっていくという

とぼけてるようでこれがなかなかの策士なのです。


主演のイザベル・ユペールは
ゴダール映画をはじめ
ハネケ監督の「愛、アムール」にも出てるフランス女優。

1953年生まれって、え?還暦?マジで?というくらい
若々しい素敵女性。

ワシ的には
デニムシャツをゆる~く着こなし、かつ颯爽としてる
映画監督のアンヌが
一番魅力的だった。

「私は怠け者だから、できることしかしないの」という
姿勢とセリフも気に入りました。


★6/15(土)からシネマート新宿で公開。ほか全国順次公開。

「3人のアンヌ」公式サイト
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スプリング・ブレイカーズ

2013-06-12 23:54:32 | さ行

13歳年下の妻を被写体に
青春真っ只中なガールズムービーを撮る

ハーモニー・コリン、40歳・・・(だから、何?笑)


「スプリング・ブレイカーズ」60点★★★


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女子大生4人組の
フェイス(セレーナ・ゴメス)にキャンディ(ヴァネッサ・ハジェンズ)、
ブリット(アシュレイ・ベンソン)
コティ(レイチェル・コリン)は

春休みの1週間、みんながハメを外して楽しむ“スプリング・ブレイク”を
フロリダで過ごす計画を練る。

資金不足をある方法で切り抜けた4人は
ついに美しいビーチと音楽、酒とドラッグが飛び交う
パラダイスにたどり着く。

「やっと居場所を見つけた」――と
最高に盛り上がる4人だったが――?!

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退屈な女子大生たちが
「ここではない何処か」を目指して疾走する
青春映画。

フルーツカクテルかグミキャンディのように
とにかくカラフルでポップな色使いと

20歳そこそこの少女たちの
弾けるような肉体。

そして、それ自体が音楽のような映像の独特のリズムが
とても美しい。

特にブラックライトのなかで浮かび上がる
ビキニの後ろ姿が印象的だった。


若者特有のやり場のないパッションを
よく表現していると思うんですが、

でも中身はホントに
「暴走する青春!」ってだけ。


ハジける若者たちの描写は、刺激的だけど
そこまでドギつくはなく、
安心して見られる反面、やや物足りなくもありました。

主演のセレーナ・ゴメスやヴァネッサ・ハジェンズは
ディズニー・チャンネルのドラマ出身の
米若手セレブで
(セレーナは「ハンナ・モンタナ」に出てた!)

アイドル系の彼女たちが
こういう映画に挑戦したことが、
かなりニュースなんだそうな。

なるほどねー。

そしてスプリング・ブレイクって
ホントに盛り上がるのねーというのが感想。

若者たちの酒池肉林の狂乱シーンを見ながら
「ピラニア3D」を思い出してしまったワシでした。

「そうそう、このへんでピラニアが・・・」(笑)


★6/15(土)から全国で公開。

「スプリング・ブレイカーズ」公式サイト
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インポッシブル

2013-06-11 20:02:01 | あ行

津波の話なので、つらいんですが
水のなかで「何が起こってるのか」を
知った意味は大きかったです。


「インポッシブル」70点★★★★


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2004年、タイのプーケット。

夫(ユアン・マクレガー)と妻(ナオミ・ワッツ)は
3人の息子とクリスマス・バカンスにやってきた。

南国ムード満点のリゾートで
幸せなときを過ごす一家。

が、滞在3日目のそのとき、
プールサイドにいた彼らは
不気味な震動と、音に気づく。

そして、次の瞬間
巨大な津波が一瞬で彼らをのみ込んだ――!!

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04年、プーケットを襲ったスマトラ島沖地震による巨大津波。

その体験者の実話を基にした作品です。

監督はコワ悲しい秀作ホラー「永遠の子どもたち」(07年)で
子を思う母の情感を描き出したJ・A・バヨナ。

本作もパニックだけでなく
災害時における家族の思いが描かれています。


しかしまあ、とにかく
津波の描写が凄まじいんですよ。

あの水のなかで、何が起こっているかを
リサーチをもとに、めちゃくちゃ詳細に描いている。

沈むだけでなく、様々なものが凄い勢いで
水中に巻き込まれ

洗濯槽のなかのように
切りもみ状態になり

あらゆる物が凶器のように襲いかかってくる。

その様子が豪音とともに描かれ、
流される水の力の強さを体感できるので
映画館にいながら、こちらまで身の危険を感じるほど恐ろしい。

実際に大量の水を使って撮影したそうで
演じるナオミ・ワッツも相当な恐怖だったろうなと思います。

題材が題材だけに
観ることがつらすぎる人も少なくないと察しますが、

これを生半可ではなく、
描ききった意味はあるとワシは思う。

九死に一生で、水の攻撃を生き延びても
ケガをしていると
出血多量や敗血症で死に至ってしまうこともある。

見ながら
災害時に、本当に何が助けになるのか、
何が必要なのかを、改めて考えさせられました。

そして
自らも傷を負ったななかで「人を助ける」ことの高潔さを、
母役のナオミ・ワッツが、息子に教える場面が尊いですね。

構成もなかなか巧みでした。

余談ですが
最近の痛ましい竜巻のニュースを見ながら
「あのなかで、何が起きているのか」
この映画のように詳細に描いてほしい、と思った。

怖さの体感は、身を守る術のヒントになりそうだから。

★6/14(金)から全国で公開。

「インポッシブル」公式サイト
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