作者がデビュー前から書きたいとしていた思い入れの強い作品である。
桃山時代最後の巨匠「海北友松(かいほうゆうしょう)」を描いた意欲作。「文蔵」2015年11月~16年7月号連載、284頁。
とは言え、「友松」については、晩年以外、拠り所となる資料が少ないせいか文章が上滑りして、ストンと胸に落ちるものがない。
例えば、長宗我部元親を評して、「豪族同士が土地の切れ端を奪い合っているに過ぎぬと思っていたが、京まで幕臣の娘を娶りにくるという気宇の大きさには感嘆せざるを得ない。正直に言えば、あるいは英傑なのかもしれない。という畏怖めいたものも感じていた。」
とある。
こんな短い文章にさえ、「土地の切れ端」、「娶る」、「気宇の大きさ」、「感嘆」、「英傑」、「畏怖」など、胃もたれする字句が並ぶ。これでは、読者をして物語に引き込むことは難しい。
いわば、これが作者としての限界なのかも知れない。
ただ、本能寺の変のあたりからようやくこなれた文章になり、物語が動き出し面白くなる。本書は、今回の旅の友でもあったのだが、広島に着く前に読了した。