2020年上半期第163回直木賞候補作。
「別冊文藝春秋」第325~335連載、360頁。
学校でのいじめと母娘関係のこじれから引きこもりとなった美緒。
ネットで見た盛岡近郊の祖父の(羊毛染色・毛織り)工房へ逃げ込み職人の道を歩み始める・・・。
何かよくある話と思って読み始めたが、物を作るという行為には微塵の曖昧さも許されないことを知り、また、その面白さに魅了されていく美緒の成長過程が丁寧に描かれていて好感を持った。
久しぶりに良い本に恵まれたと思った。ご一読をお勧めします。(お勧め度:★★★)
蛇足:この期の受賞作は、馳星周著「少年と犬」。この本が相手でなければ受賞作となっていたに違いない。
選者評:林真理子氏
「今回は伊吹有喜さんの「雲を紡ぐ」を推そうと決めていた。ひとつ間違えると、ありきたりの“お仕事小説”になるところであるが、作者は性急に物語を進めない。ちょうど手織りの布のように、デリケートに少しずつ心が語られていく。小説に対する誠実さを持っている作家だと思った。」