<富士山>308キロ先、夕日の富士 「北限」花塚山から撮影 愛好家「以前より鮮明」 /福島
2021/09/20 05:09
川俣町と飯舘村にまたがる花塚山(はなづかやま)(918メートル)から富士山(3776メートル)の撮影に成功し、「富士山が見える北限の地」とされていたことを裏付けた写真愛好家グループが、夕方の富士山の撮影にも成功し、このたび公開した。「以前より鮮明に撮れた。夕焼けにも映える」と語る。東日本大震災と福島第1原発事故からの復興が少しずつ進む中、住民も「北限の山」をアピールしながら登山客の案内や登山道の整備に力を入れている。【高橋秀郎】
花塚山は阿武隈山地北部にあり、富士山からは308キロ離れている。パソコンソフトによる計算上では北限とされてきたが、長く未確認だった。2017年、川俣町の斎藤金男さん(74)や菅野和弘さん(63)ら3人が11〜16年の朝に撮影した4枚を日本地図センター(東京)が検証し、花塚山からとらえた富士山と認定された。山頂近くの撮影場所は「富士見岩」と名付けられた。
その後、「夕方の富士の撮影にも力を入れたい」と考えた2人は、菅野邦夫さん(76)を加えて「富士山遠望隊」を結成。撮影を続けた。肉眼では見えづらく、望遠レンズでも狙えるのは空気が澄んだ冬の、風のない晴れた日に限られる。花塚山だけでなく、富士山との間を結ぶルート上にある街の天気も調べたうえで挑戦を重ねた。
寒さの中、カメラと三脚を抱え、底に滑り止めを装着した靴で雪道を登る。岩場が多く、特に夕方は帰路が暗くなるので慎重に行動したという。
公開した写真は1月9日午後5時前、花塚山の山頂から、夕日に包まれた富士山のシルエットを収めたものだ。斎藤さんは「前回より山頂の形が分かるようになり、一歩か二歩の前進。夕焼けの中の富士山もまたいい。暗いニュースが多いので、明るい話題を届けられたら」と語る。
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17年の認定を観光振興のきっかけにしようと、地元では取り組みが始まっている。
川俣町は18年度から「里山おもてなし案内人」の養成講座を始めた。3年間で、六つの里山の案内人として42人を登録。うち19人が花塚山の案内人となった。登山者に同行しながら山の成り立ちや伝説、町の特産などを紹介する。同じ18年度には地元住民が「花塚山の会」を結成。草刈りや観察会を続けている。
6月上旬、私(記者)は案内人の安斎正博さん(71)と「山の会」会長の藤原修一さん(70)のガイドで、花塚山に登った。ふもとの公園から山頂に向かう標高差約400メートルの周回コースを4〜5時間かけて歩く。セミの声を聞きながらアカマツの林を進み、巨岩・奇岩を抜けると、富士見岩で視界が開けた。
富士山はぼんやりとして見えなかったが、ここから300キロ先に富士山が見えると思うだけでいいことがありそうな気がして、登ったかいがあった。「実際に富士山を肉眼で確認するのは難しいが、『見えるかも』を訪れるきっかけにして、山の自然や素晴らしい景色を楽しんでほしい」と2人は言う。
川俣町は原発事故後、南部の山木屋地区に避難指示が出た。17年に解除されたが、9月1日現在で647人が避難生活を続ける。事故の影響で一時減った登山客は回復傾向だったが、今度はコロナ禍で今春の山開きも神事だけになった。藤原さんは「『北限の山』をきっかけにした活動を続け、いずれは訪れる人を再び増やして地域の活性化につなげたい」と期待している。