伊坂幸太郎「SOSの猿」中央公論新社 2009年刊
不思議な小説である。この作品は漫画家・五十嵐大介との共同構想で制作され、競作されたものだという。人気作家だけあり、語り口は興味を引っ張ってゆくのは流石であるが、そのテクニックだけではなく、援用する知識に深みがある。
話は青年期憧れていた友人のお姉さんが自分の息子の引きこもりの相談をするところから始まる。そこから色んな人間が登場し、複合的になってゆく。ところどころ幻覚みたいな回想や登場人物が現れ、キリスト教の悪魔祓い迄登場する。これは何なんかと思うが、フロイトやユングの深層心理学も登場し、人間の行動についての因果関係などの追求が行われる。
小説としてはストーリーの面白さではなく、人間心理と行動の相関関係を俯瞰している点で面白い。ただ個人的には、時折深層心理の表層として現れてくる西遊記の孫悟空みたいなキャラクターはあんまり必要はないのではないかと思うのだが、では代わりに何を登場させればいいのか、と問われると答えに窮す。
あっと驚く謎解きはないが、深層心理と行動の関連に踏み込んだ考察は興味深い。