柚月裕子「蟻の楽園」~アントガーデン~宝島社文庫刊 2015年刊
このところ雨の日が多く家で本を読んでいることが多い。そのうちの一冊である。
この作家の本は初めてだが、「このミステリーがすごい!」受賞者でもあり、大藪春彦賞も受賞しているかなりの作家である。読み進めるとたしかにかなりの筆力で、ストーリーの展開に無理がない。オーソドクスな因果関係追求を地道な聞き込みで辿ってゆく。
実際に起きた婚活犯罪が下敷きになっているが「後妻業」ほどのあくどさは抑え気味で、社会問題としての犯罪を浮き立たせている。犯罪首謀者の生い立ち、行動は数奇なものだが、そこを例外的なものとは捉えず社会の歪が生み出した側面もあることに触れる。その意味では良識的とも言える。
題名の「蟻の楽園」については次のように述べている。南米に「蟻の楽園」と呼ばれる蟻と植物の共依存によって成り立っている事象がある。蟻は地上ではなく樹木の上に巣を作り、その巣に数種類の寄生植物が生える。蟻たちは着生した植物の果実を食料にし、植物は蟻の廃棄物を栄養源にして生きている。どちらが欠けても生きてはいけない。自分が生存するために、相手の存在を必要とする事象に首謀者のイメージが重なった。
これ以上の紹介は、本書の内容を暴露することになるので避けるが、この作者は確実に読者を広げてゆくだろう。読んで面白い一冊である。