1、三度目のしょうきじ
「好きだ」と言う男に、それが本心かどうか確かめるためにあれこれ試練を与える女のように、沖縄の天候は、友人Nの心を確かめていたみたいである。
Nの愛が本物であるということは、三度目にしてやっと認められた。去年の秋と、今年の8月(先月)に計画した水納島観光、二度とも台風のために船が出ず、断念した。が、三度目となった先週土曜日の水納島渡航計画は、天気快晴で、見事成功となった。
三度の計画の全てに付き合った私は、一度目の挑戦の時から水納島紀行をホームページの記事にしようと決めていた。そして、その前日までに、既に『水納島紀行』という題をつけ、数行の文章を書いて、準備をしていた。二度目の挑戦の際には、その数行の大部分を訂正し、書き直した。そして、三度目の今回、書き直した文章は全て削除し、新たに以下のような文章を書いた。三度目の小記事である。



2、みんなの島
20年ほど前に一度、私は水納島を訪れている。誰といつ、何の目的で行ったのか記憶が定かでないが、きれいな浜辺でのんびり過ごしたことを覚えている。・・・確かその時一緒だったはずの従姉に、さっき電話をして確かめた。
「20年前じゃなく、15、6年前だと思う。一緒だったのはあんたと私と、S一家の4人(姉とその亭主と、その子供二人)だったと思う。S一家がアメリカから帰省したので、遊びに連れて行ったのだと思う。」とのことであった。
その時の水納島は、小さな港に小さな旅客ターミナルの建物があり、小さな港のすぐ傍にきれいな 海と砂浜が広がる海水浴場があり、道は白いコーラル敷きの田舎道であり、小さな船に客もそう多くは無かったと記憶している。
今回の水納島、「港のすぐ傍にきれいな海と砂浜が広がる海水浴場があり」だけは以前と変わらなかったが、旅客ターミナルは立派な建物となり、海水浴場の近くには立派なシャワー室とトイレが建てられており、ダイビングショップが2軒ほどあり、立派な高速艇が一日7、8便運行しており、その船には乗客がたくさん乗っていた。
乗客の9割以上は本土からの観光客。Nの話に よれば、水納島は今、ほとんどのガイドブックに載っているらしい。きれいなビーチがあると紹介されているらしい。で、観光客が増えているのじゃないかということであった。島にはダイビングショップもあった。海もきれいで、ダイビング目当ての客も多いようである。
15年前は、そこがきれいな島であることを知っているウチナーンチュたちが訪れるだけであったが、今では日本全国に知られる”みんなの島”になったようである。
観光客が増えたお陰で、島もいくらか裕福になり、よって、新しい旅客ターミナルができ、新しいシャワールームができたのだろう。島のメインストリートも、15年前は白いコーラル敷きの田舎道であったが、アスファルト舗装よりも値段が高い石張り模様入りのコンクリート舗装に変わっていた。裕福の影響は島だけでは無い。島への船便が発着する渡久地港も、発着場の改修工事が行われていた。


3、見んなの島
Nは、ガイドブックで紹介されているきれいなビーチで泳ぐことが目的であったが、私は水納島の散策が目的である。さっそく歩く。
上空から見ると、水納島はクロワッサンの形になっているらしい。ということから、水納島にはクロワッサンという愛称があるらしい。クロワッサン、「かわいいー!」と、若い女性たちが喜びそうな名前である。一緒の船の観光客、そんな若い女性が半分以上を占めていた。さて、私は港から正面の道を真っ直ぐ行く。5分ほども歩くと反対側の浜に出る。そこは湾状になっていて、なるほどこれがクロワッサンの形かと納得する。
可愛い名前の由来となっている浜であったが、浜そのものはきれいでは無かった。そこには、沖縄の海岸ではなかなか見ない景色が広がっていた。湾全体が泥をかぶっていたのである。浜のほとんどは岩場であったが、全体が泥に覆われ、同じような色をしているので、岩場と砂地との境目がはっきりしない。汚いという印象を受ける。観光客もここには一人もいない。観光施設も無い。自然にそうなったのか、道路工事による土砂流出でそうなったのか不明だが、島にとっては、見せたくない景色かもしれない。
その浜の手前に、車一台がやっと通れるような脇道があって、そこを歩く。周囲4.6キロメートルほどの小さな島だ。迷子になる心配は無い。その道を入ってすぐに、木材やプラスティックなどの廃材が積まれている場所があった。ここもまた、観光客には見せたくない光景である。手前に「見んな!」という看板でも立てたら良かろうにと思った。



4、水納島(みんなじま)
沖縄島北部、本部町に含まれる小島。周囲4.6キロメートル。最高標高19メートル。
1983年発行の『沖縄大百科』に「人口55人」とあり、現在の人口は60人余りとのこと。水納小中学校もあり、数人の生徒が通っているとのこと。
最高標高19メートルという平坦な島なので、水に乏しいそうである。そのことから水を納める島という名前がついたものと想像される。あるいはまた、水の無い島で水無島、無という字が縁起悪いということから納という字が充てられたと想像される。クロワッサンという愛称は若い女性向けのようで、『沖縄大百科』には「馬蹄形」とあった。オジサンの私にクロワッサンの形はなかなか浮かばないが、馬蹄形ならすぐ解る。
水納島はハブ駆除実験が行われた島としても有名。1977年に始められた実験で、多くのハブが駆除された。よって、おそらく現在、島にハブは生息していないものと思われる。お陰で、私も安心して藪の中に足を踏み入れることができた。
なお、宮古諸島にも同じ水納島という名前の島がある。そこは面積2.6平方メートルほどあり、0.54平方メートルの本部町水納島よりずっと大きい。

記:ガジ丸 2007.9.9 →沖縄の生活目次
参考文献
『沖縄大百科事典』沖縄大百科事典刊行事務局編集、沖縄タイムス社発行