もうチョットで日曜画家 (元海上自衛官の独白)

技量上がらぬ故の腹いせにせず。更にヘイトに堕せずをモットーに。

経済制裁とルーブル

2022年03月25日 | ロシア

 ロシアが、原油・天然ガス・兵器(ロケットエンジン)の決済をルーブルで行うとしたことが報じられた。

 自分の財布すら管理できない経済音痴・無知の自分は、ロシアがドル建て債の償還・利払いをルーブルで行うと発表した際には「紙くず同然のルーブルで・・・」と書いたが、この事態では世界的な必需品である原油や天然ガス、特定国には死活の意味を持つ兵器を買うためにルーブルが必要となるので、ルーブルは為替市場で一定の価値を持ち続けることになるのだろう。もしかすると、ルーブルが国際通貨としての価値を一層高めることになるのかもしれない。
 自分は、経済制裁にも必ず掟破りの国や企業が現れるので効果は限定的と思ってきたが、今回のロシアの対応を見て、経済制裁を無力化するためには掟破りに期待するのではなく、借金を武器に自国通貨を流通させ、自国通貨なしでは必要なものが手に入らないということでその価値を高めるという積極・反攻の手法があることを知った。
 改めて、これまでに国際的な経済制裁を科された国を見ると、北朝鮮は中国・韓国・シリアなどの国々の掟破りを得て核・ロケットという恫喝手段を獲得し、シリアはロシアの属国に甘んじることで、イラン・ベネズエラは原油資源で、それぞれ生き永らえているが、ロシアの手法が功を奏した場合、経済制裁は武器としての価値を更に失うように思える。
 また、ロシアは撤退した外国企業の資産を国有化するともしているので、大戦後に韓国が接収した日本資産が韓国自立の出発点となったことを思えば、ウクライナ事変後にあってロシアは自動車の一大生産国に変貌するかもしれない。

 ウクライナの戦況は、ウクライナ軍がロシア軍の一部を後退させるとともに大型揚陸艦を撃沈したものの、ロシアは非戦闘員の殺戮を躊躇しないという悪名高いシリア・チェチェン義勇軍を投入し、非人道兵器の燃料気化爆弾・クラスター爆弾・白リン弾・対人地雷の使用に加えて生物・化学兵器の使用すら計画中と伝えられるなど、なお予断を許さない状況である。
 G7首脳会議は対ロ制裁強化で一致し、兵器・軍需品の支援を拡大しているが、今回のルーブル防衛策で経済制裁の効果が半減している現状を見れば、G7・NATO諸国は効果的な支援強化を迅速に遂行する必要があるように思うが、素人には「いかようの策があるのか」残念ながら見出せない。


ゼレンスキー大統領の国会演説に思う

2022年03月24日 | ロシア

 国会でのゼレンスキー大統領のオンライン演説が行われた。

 英(7日)、加(15日)、米(16日)、独(17日)、イスラエル(20日)、伊(22日)、に続く7か国目の議会演説であり、対象各国ごとに内容や言葉を変えるという演出は、一部識者がする演説巧者という評価よりも、ウクライナの窮状がより身近に感じられるものであると思う。
 しかしながら、米国議会で9.11同時テロと並んで真珠港攻撃が例示されたことについては、宣戦布告という国際慣例の戦争行為で、軍事施設に限定した行為を無差別テロと同列に扱われることに違和感を持ったが、それが米欧における真珠港攻撃に対する共通認識であるのかと思うと、これまで日本の外交官が何をしていたのかとの思いが強い。
 つい先日、安保理でロシアの国連大使が「ロシアはウクライナを武力攻撃していない」と強弁する映像を見た。馬蹄形テーブルを囲む数メートル先には非難・敵意をむき出しにする理事国大使が居並ぶ中で、顔色も変えず、言葉に詰まることもなく強弁する鉄面皮には驚かされる以上に不快感を持ったが、そのような姿勢を取り続けることは、外交官には必要不可欠の資質ではないだろうかと今は思っている。
 日本の在外外交官で、「真珠港攻撃は国際慣例に則った戦争行為で、奇襲ではあっても軍事施設に限定したもので非難される点は無い」、「日本軍の在外駐屯地近傍には民営の売春宿があったのは事実であるが、強制連行などしなくても貧しかった内地や朝鮮半島からの売春婦の応募には事欠かなかった。第一、売春行為は当時の世界基準であった」、「朝鮮半島は植民地ではなく日本であり、朝鮮人・朝鮮人労働者も日本国民として処遇していた」と公式の席で述べたことのある人は、果たして如何ほどいるのだろうか。

 ゼレンスキー大統領の演説やSNSで配信される映像で、ウクライナ国民(非戦闘員)の窮状がより鮮明になったことで、「市民を救うため」として「政治決着」という名のウクライナ降伏を促すという主張が出始めた。あの橋下徹氏ですら与しているが、このような主張は命の危険を冒してロシアに抵抗しているウクライナ軍民に対して非礼極まりないものと思う。
 国を失ったことが無い日本人の理解を超えるものであるが、ウクライナの歴史はロシア帝国・ソ連邦による蹂躙・苛斂誅求の連続で、ソ連による1932-33年のホロドモール(スターリンの計画飢饉)では、強制移住・種子までの強制収奪によって数百万人の餓死者を出し、第二次大戦ではソ連の先兵として戦わされ800万人から1,400万人ともされる犠牲者を出したとされている。
 このような歴史を見れば、国を失うこと・ロシアの傀儡に甘んじることは、民族の誇りを失うことと同義であり、いかなる人的損耗があっても抵抗を止めることはないだろうし、政治決着という降伏を勧めることの愚は慎むべきと思う。
 ウクライナは、領土や市民の生命のためだけに戦っているのではなく、ウクライナ人のアイデンティティのために戦っていることを、我々は知るべきと思う。


ゼレンスキー大統領に観る指導者の資質

2022年03月18日 | ロシア

 ウクライナのゼレンスキー大統領の存在と情報発信力が、世界を動かしつつある。

 ゼレンスキー大統領は、コメディアン出身で政治経験の無さを危ぶむ評価が高かったが、亡命政権を樹立して国外から指導することを暗に求めた西側諸国の助言を退けて国内に踏み止まって戦争指揮を続けているが、この現実を見ると、政治家とは何だろうと考えざるを得ない。
 同大統領はアメリカ議会でリモート演説し、バイデン大統領に対しては「アメリカ大統領は世界のリーダーで、世界のリーダーは平和のリーダーでなければならない」と叱咤し、議員に対しては「パールハーバー」「9.11テロ」を想起しろと迫った。クリントン氏以来の民主党が党是とする「戦略的忍耐」が武力による現状変更を迫る無法者には無力である現実を訴える言葉は、バイデン民主党の重い腰を動かし、武器供与本格化に転舵させる一因になったと思っている。
 ゼレンスキー大統領の外国議会での演説・遊説要請は日本にも及んでいる。岸田総理を始め大方の議員は大統領の議会演説受け入れに同意もしくは好意的であるが、立民の泉代表は聊か趣を異にし、「私は日本の国民と国益を守りたい。国会演説の前に首脳会談・共同宣言が絶対必要だ。演説内容もあくまで両国合意の範囲にすべき。それが当然だ」とツイートしたらしい。この、意味不明の思考・姿勢が衆議院議員8期にも亘って国家の経綸を論じた政治経験のなせる業と見ればお寒い限りである。外国指導者の国会演説が政府の動向を縛るものではないことと、西側の経済制裁に同調したことでロシアが日本を非友好国に名指しし、キエフが累卵の危うさにある今にあっても、平時の首脳会談の段取り墨守が絶対という考えは、いかなる政治経験から導き出されたのだろうか。

 両者を眺めると、一国の指導者にとって政治・外交経験の有無は絶対条件ではなく、経験は一種の阻害要因にしか働かない場合もあるのではないだろうか。ゼレンスキー大統領の言動を見る限り、指導者の絶対条件は、経験豊富なブレーン・官僚が提示した選択肢を「愛国心」で選択・実行できる決断力で十分であるように思える。
 議院内閣制の日本にあっては経験の少ないゼレンスキー内閣が出現することはないが、少なくとも経験則に捉われず、時宜に応じて柔軟かつ適切な判断ができる指導者であって欲しいと願っている。
 現在の日本にとっては、泉代表が首班の座に無く・立民が政権に対して大きな影響力を発揮できない弱小野党である事が、唯一の救いであるように思える。


ウクライナと士気

2022年03月16日 | ロシア

 ウクライナでは依然として激しい戦闘が続いているが、国民の「自分の国を守るために戦う」という戦意は旺盛で、狂った強国に立ち向かっている。
 伝えられるところでは、これまで銃器・戦闘とは無縁であったであろう五輪メダリストが、救急救命士が、ミス・ウクライナが、続々と入営若しくは抵抗組織に加わっている。また、直接に銃器を入手できない人々も、対戦車障害物「拒馬」を作成し、土嚢でバリケードを作り、タイヤをパンクさせる「鉄菱」を作り、火炎瓶を準備し、と様々な形で抵抗に参加している。
 一方、平然と非戦闘員を無差別攻撃するロシア軍について「士気の低下・喪失」と分析する意見がある。

 日本の一般社会では、一般的に組織構成員の士気を高めるために「給料を上げる」とか「福利厚生を充実させる」との言葉が使われるが、自分では「真の士気とは、正義・大義を自覚した理性的な自律心」にほかならないと思っている。日本的な功利的な手段では「短期的もしくは一時的に士気らしきものを高揚させる」ことは可能であっても、何らかの理由でそれらが与えられなくなった場合には霧散霧消しかねない危うさを持っているように思える。規律と命令に依るロシア軍と、自発的に抵抗するウクライナ国民を見る限り、士気とは何を由来とし、何のために際立つのかを今一度考えることが必要であるように思う。

 ウクライナ軍民が団結して抵抗している傍らで、略奪行為や食料の争奪など戦闘被害者同士の中での「弱肉強食」の寒々しい事例も伝えられている。戦争・戦場の常とは云え、霞を食っては生きられない人間の生存本能にも起因する原初行動で、理性・士気だけでは完全には補えないことであろうが、士気の高揚はそれらを局限させることはできるように思う。

 ロシア侵攻前に「日本でも民兵の育成を考えるべき」と書いた際には、自分の周囲からも「時期尚早。国情・民情にそぐわない暴論」との意見が少なくなかったが、ウクライナの現状を見ると、侵略者に抵抗しつつ治安を維持するためには国民の士気と士気に裏付けられたスキルを高く保つことが必要であるように思うことに変わりはない。
 これまでの通り、聊かの功利で社員を繋ぎとめるだけで良いのか、銃器を扱えるのは悪か、防衛は自衛隊と米軍に任せて高みの見物でよいのか、を真剣に考えるべきではないだろうか。


非人道兵器とルーブル

2022年03月14日 | ロシア

 ウクライナでロシアが燃料気化爆弾を使用したことを確認したとイギリスが発表した。

 既にロシア軍がクラスター爆弾を使用したことは映像で確認されており、燃料気化爆弾まで投入した背景はロシアの手詰まり感・焦燥感の表れとも観られているが、これらの「ハーグ陸戦条約」が禁止する非人道兵器をも平然と使用するロシアの暴虐ぶりは今更ながらに心胆を凍らせるものである。
 一般的に非人道兵器の使用に際しては「ハーグ条約違反」と一括りにされるし、自分もそのように理解しているが、改めて「ハーグ陸戦条約」を眺めると、1899(明治32)年にオランダのハーグで開かれた第1回万国平和会議において採択された「陸戦ノ法規慣例ニ関スル条約」を指しているが、それ以後の科学・軍事技術・人道概念の変化によって個々の非人道兵器の使用禁止・制限は、ハーグ陸戦条約の精神を継承する形でオスロ条約・オタワ条約・ジュネーヴ条約等によってなされている。
 しかしながら、一般論としてであるが国際条約は、条約そのものが効力を持つものではなく批准国がそれぞれの国内法で条約の実践を規定するものであることから、ロシアの燃料気化爆弾等の使用が国内法で禁止されていないならロシア軍人がロシアで処罰されることもなく、今後とも使用し続けられることは考えられる。また、ロシア・ウクライナの双方がオスロ条約は批准していないようでもある。
 しかしながら、武力侵攻自体が国連憲章に違反していることは明白で、燃料気化爆弾等の使用を国連憲章違反下で起きた非人道兵器の使用と捉えて、国際軍事法廷の設置が提起されたり、個人の戦争犯罪を裁く国際刑事裁判所が捜査を開始したとも報じられているが、無法を承知で武力侵攻したプーチン大統領を国際世論と国際慣例の面で翻意させることは容易ではないように思う。

 国連や国際条約が無法者に対しは無力である現実から、唯一の武器は経済制裁であるとの認識で中印を除く主要国は協調しているが、それに対してもロシアは非友好国に対する国債の償還・利払いをルーブルで行うと対抗している。日本がどれほどの円・ドル建ロシア債を保有しているのか知らないが、《公的年金を運用している「年金積立金管理運用独立行政法人(GPIFI」は、運用全体の0.1%にあたる2200億円のロシア関連資産を保有。三井物産は、ロシア向けの投資や融資などの残高が4600億円》という記事をみる限り、日本全体では数兆円規模の債権を持っているものと推測するが、現在では紙くず同然に下落したルーブルを受け取ることになり、日本経済もロシア経済制裁という両刃の刃によって打撃を受けるだろうことが予想される。
 4月以降の電力料金は大幅値上げされるとの報道もあるが、これらに耐えるのもウクライナ支援の一部と考えなければならないのだろう。自分はダウングレードできないレベルの暮らしであるが、それでも切り詰められる支出はあるのかと探さなければと思っている。