もうチョットで日曜画家 (元海上自衛官の独白)

技量上がらぬ故の腹いせにせず。更にヘイトに堕せずをモットーに。

コロー「青衣の女」

2021年09月11日 | 美術

 政局(政争)報道の多さに倦んで、昨日に引き続く美術ネタで過ごすことにした。

 先に「名画の贋作を思う」(2021.02.10)と題してコローの贋作の多さを書いたが、贋作コローの大半は銀灰色の空を持つ風景画で人物画の贋作は殆ど無いと云われている。
 本日紹介するのは「青衣の女(又は青い服(ドレス)の夫人)」である。自分が見たコロー展においては、ポスターに使用されていたのは「真珠の女」であり、展示会場でも真珠の女はセンターに飾られて人を集めていたが、青衣の女は目立たぬところで鑑賞者も一瞥するにとどまっていた。更に好事家の「コローの代表作一覧」等に於いても「青衣の女」は真珠の女に遠く及ばない位置に紹介されているのが普通である。
 本当の美術を知らぬ・かつ展覧会場で提供される500円の音声ガイダンス使用をすら躊躇せざるを得ない自分であるので、的外れの評価若しくは紹介であることは承知しているが、「青衣の女」はコローの人物画では最高傑作と思っている。
 一般的に人物画は画家若しくは鑑賞者を直視しているか、直視していない場合は明らかな対象物(又は神・天)に視線を向けているように描かれる場合が多いが、コローの人物画は正面を向いていても微妙に視線をずらしているし、「青衣の女」にいたってはあらぬ方に視線を向けている。ドレスは部屋着でなく手に扇を持っていることから、外出またはパーティー前の一瞬と思われるにも拘らず、視線はあらぬ方で浮き立つ以上に陰鬱とさえ云える表情は、門外漢の自分をも彼女の心境とこれからの行動や行く末に至るまで無限の空想に導いてくれる。
 名のある技量確かな贋作者にとっても、コローの人物画が醸し出す「もの言いたげな雰囲気」を描き切ることは困難であることが、コロー人物画の贋作が見当たらない理由ではないだろうか。

 世迷いごとに近い評価はさておき、数年前にDLした上記2作品を掲載するので、評価は皆様にお任せすることとする。
 最後に、「青衣の女」はコロー最晩年(死の1年前?)の78歳の作とされており、解脱の画家が辿り着いた「女性の不可思議」を表現したものかと見れば、更に感興と同病相哀れむの念が湧いてくる。


青衣の女                     真珠の女