9日に閉幕したロンドン・パラリンピック。障害者スポーツ発祥の地で、大会はどんな変化を見せたのか。競技面と運営面から総括する。
■競技
陸上車いす長距離種目に出場した、08年北京大会男子マラソン銀メダリストの上与那原寛和(ネクスト)が残した言葉は「仕事と競技を中途半端にやっていては、もうメダルの取れない大会になった」。多くの日本選手が似たような、ため息をついた。
日本の今大会のメダル獲得数は金5、銀5、銅6の計16個で、金メダル数を起算としたメダル順位は24位。文部科学省が策定したスポーツ基本計画では、パラリンピックのメダル目標を「前回大会以上」と掲げたが、17位だった北京大会の金5、銀14、銅8個の計27個より大幅に減少。76年トロント大会の19個以来、36年ぶりに20個を割り込んだ。背後には、加速する競技のハイレベル化がある。
今大会、各競技で次々と世界記録が塗り替えられ、実施503種目中、200を超える種目で世界新記録が出た。全体的なレベルアップは顕著で、北京大会の陸上男子で100メートル、200メートル、400メートルの3冠に輝き、ロンドン五輪にも出場したオスカー・ピストリウス(南アフリカ)さえも100メートル、200メートルで優勝を逃した。
義足や車いすの用具の進化も一因に挙がるが、それ以上に各国とも選手の競技環境が向上しているようだ。パラリンピックの知名度が上がるにつれ、そこでの活躍が国の成熟度や障害者施策の充実を国際的にアピールできることもあり、各国が強化に動く。日本では、大半が五輪選手の利用に限られているナショナルトレーニングセンターのような強化施設を障害者専用に持つ国も増えており、充実した施設環境にある中国は、3大会連続の世界最多となる95個の金メダルを獲得。2位のロシアの36個に水をあけた。10個で11位のイラン、9個で14位のチュニジアなども強化を促進しており、かつてのように欧州の独壇場ではなくなった。
■運営面
五輪と組織委員会を一体化して臨む2度目の大会。チケット販売数では北京大会の180万枚を上回り、初めて200万枚を超える史上最多の売り上げを記録した。ゴールボールやボッチャなど知名度の低い競技では、空席も見られたが、ほとんどの会場は熱気に包まれていた。
五輪に比べ、安価なチケットの価格設定や、五輪と予算を一体化し、五輪の利益をパラリンピックの宣伝費用などに回したことが集客につながった。また組織委員会によると、今大会の放映権料を100を超える国と地域への販売に成功。セバスチャン・コー会長は9日の記者会見で「我々の調査では、市民の70%以上が今、パラリンピックとその競技者を、エリートアスリートと見ている。今大会では、それを国際的に発信していく土台を整備できた」と、競技の高度化と注目度アップに満足感を示した。
◇ロンドン大会の日本勢のメダル一覧◇
氏 名 獲得種目
【金メダル】(5個)
◆ゴールボール(視覚障害)女子
日本代表(安達阿記子、浦田理恵、欠端瑛子、小宮正江、中嶋茜、若杉遥)
◆柔道(視覚障害)
正木 健人 男子100キロ超級
◆競泳
秋山 里奈 女子100メートル背泳ぎ(視覚障害S11)
田中 康大 男子100メートル平泳ぎ(知的障害)
◆車いすテニス
国枝 慎吾 男子シングルス
【銀メダル】(5個)
◆陸上
伊藤 智也 男子200メートル(車いすT52)
男子400メートル(車いすT52)
男子800メートル(車いすT52)
◆競泳
木村 敬一 男子100メートル平泳ぎ(視覚障害SB11)
中村智太郎 男子100メートル平泳ぎ(運動機能障害SB7)
【銅メダル】(6個)
◆陸上
和田 伸也 男子5000メートル(視覚障害T11)
◆自転車
藤田 征樹 男子個人ロードタイムトライアル(運動機能障害C3)
◆競泳
木村 敬一 男子100メートルバタフライ(視覚障害S11)
小山 恭輔 男子50メートルバタフライ(運動機能障害S6)
鈴木 孝幸 男子50メートル平泳ぎ(運動機能障害SB3)
男子150メートル個人メドレー(運動機能障害SM4)
毎日新聞 2012年09月10日 20時05分(最終更新 09月10日 20時26分)
■競技
陸上車いす長距離種目に出場した、08年北京大会男子マラソン銀メダリストの上与那原寛和(ネクスト)が残した言葉は「仕事と競技を中途半端にやっていては、もうメダルの取れない大会になった」。多くの日本選手が似たような、ため息をついた。
日本の今大会のメダル獲得数は金5、銀5、銅6の計16個で、金メダル数を起算としたメダル順位は24位。文部科学省が策定したスポーツ基本計画では、パラリンピックのメダル目標を「前回大会以上」と掲げたが、17位だった北京大会の金5、銀14、銅8個の計27個より大幅に減少。76年トロント大会の19個以来、36年ぶりに20個を割り込んだ。背後には、加速する競技のハイレベル化がある。
今大会、各競技で次々と世界記録が塗り替えられ、実施503種目中、200を超える種目で世界新記録が出た。全体的なレベルアップは顕著で、北京大会の陸上男子で100メートル、200メートル、400メートルの3冠に輝き、ロンドン五輪にも出場したオスカー・ピストリウス(南アフリカ)さえも100メートル、200メートルで優勝を逃した。
義足や車いすの用具の進化も一因に挙がるが、それ以上に各国とも選手の競技環境が向上しているようだ。パラリンピックの知名度が上がるにつれ、そこでの活躍が国の成熟度や障害者施策の充実を国際的にアピールできることもあり、各国が強化に動く。日本では、大半が五輪選手の利用に限られているナショナルトレーニングセンターのような強化施設を障害者専用に持つ国も増えており、充実した施設環境にある中国は、3大会連続の世界最多となる95個の金メダルを獲得。2位のロシアの36個に水をあけた。10個で11位のイラン、9個で14位のチュニジアなども強化を促進しており、かつてのように欧州の独壇場ではなくなった。
■運営面
五輪と組織委員会を一体化して臨む2度目の大会。チケット販売数では北京大会の180万枚を上回り、初めて200万枚を超える史上最多の売り上げを記録した。ゴールボールやボッチャなど知名度の低い競技では、空席も見られたが、ほとんどの会場は熱気に包まれていた。
五輪に比べ、安価なチケットの価格設定や、五輪と予算を一体化し、五輪の利益をパラリンピックの宣伝費用などに回したことが集客につながった。また組織委員会によると、今大会の放映権料を100を超える国と地域への販売に成功。セバスチャン・コー会長は9日の記者会見で「我々の調査では、市民の70%以上が今、パラリンピックとその競技者を、エリートアスリートと見ている。今大会では、それを国際的に発信していく土台を整備できた」と、競技の高度化と注目度アップに満足感を示した。
◇ロンドン大会の日本勢のメダル一覧◇
氏 名 獲得種目
【金メダル】(5個)
◆ゴールボール(視覚障害)女子
日本代表(安達阿記子、浦田理恵、欠端瑛子、小宮正江、中嶋茜、若杉遥)
◆柔道(視覚障害)
正木 健人 男子100キロ超級
◆競泳
秋山 里奈 女子100メートル背泳ぎ(視覚障害S11)
田中 康大 男子100メートル平泳ぎ(知的障害)
◆車いすテニス
国枝 慎吾 男子シングルス
【銀メダル】(5個)
◆陸上
伊藤 智也 男子200メートル(車いすT52)
男子400メートル(車いすT52)
男子800メートル(車いすT52)
◆競泳
木村 敬一 男子100メートル平泳ぎ(視覚障害SB11)
中村智太郎 男子100メートル平泳ぎ(運動機能障害SB7)
【銅メダル】(6個)
◆陸上
和田 伸也 男子5000メートル(視覚障害T11)
◆自転車
藤田 征樹 男子個人ロードタイムトライアル(運動機能障害C3)
◆競泳
木村 敬一 男子100メートルバタフライ(視覚障害S11)
小山 恭輔 男子50メートルバタフライ(運動機能障害S6)
鈴木 孝幸 男子50メートル平泳ぎ(運動機能障害SB3)
男子150メートル個人メドレー(運動機能障害SM4)
毎日新聞 2012年09月10日 20時05分(最終更新 09月10日 20時26分)