政権交代による政治空白と安倍政権の発足で、社会的弱者を支援するための二法案がたなざらしになっている。障害者の社会参加を支援する法案と、トンネル工事でじん肺を患った労働者を救済する基金を創設する法案だ。民主党政権は両案の国会提出と成立を目指したが、安倍政権下では国会提出さえ見通せない。
障害者の社会的参加を支援する法案は「障害者差別禁止法案」。民主党政権が「国連障害者権利条約」の批准へ国内法を整備する一環として、この通常国会での成立に向けて準備していた。
内閣府は昨年九月、法案の意見書をまとめた。障害のある人が障害のない人と同じ行動が取れるようにする「合理的配慮」をしないことなどを差別と定義。入り口に段差のある飲食店に対し、車いす利用者が一人でも入店できるようスロープを設けることなどを求める内容だ。
民主党は惨敗した衆院選後の昨年十二月、与党時代の責任を果たそうと、意見書に基づき障害者差別禁止法の考え方を策定。公明、社民両党なども衆院選公約に「制定を目指す」と明記した。民主党政権時も参院は与野党が逆転していたが、他の野党の賛成も見込まれたため、民主党政権なら成立の公算が大きかった。
しかし、自民党内には企業に負担を求める内容に対して異論があり、同党の衆院選公約には法案への記述は一切なかった。石破茂幹事長は与党復帰後「(障害者自立支援法などの)現行法で対応する」と明言。法案は棚上げ状態になった。
もう一つのじん肺患者を救済する法案は、建設業界の資金拠出などで救済基金を創設する内容だ。
トンネルじん肺をめぐっては二○○七年の第一次安倍内閣で、国を相手取った賠償請求訴訟の和解が多くの原告団と成立し、国が安全管理の徹底を約束した一方、原告側が賠償請求を放棄した。
その後、自民、公明、民主三党などは原告側から要望を受け、企業の和解金支払いとは別に、党内で救済策を検討。昨夏、新たなじん肺の発症者が出た場合などに補償する基金の創設で三党実務者が大筋合意し、法案は成立すると思われた。
しかし、衆院解散によって三党合意は事実上の白紙になった。自公政権の発足後、公明党は自民党に対して二党で法案を提出し、民主党に協力を呼び掛けるよう打診しているが、自民党内は「参院選を控え、建設業界から支援を受けている党内の議員が抵抗しており、法案を提出できる状態ではない」(党中堅議員)という。
旧建設省出身で自民党の脇雅史参院国対委員長は本紙の取材に「建設会社がかつて原因者だったから資金を出せ、というのは論理に飛躍があり、現憲法下では(負担を求める)理屈にならない」と指摘した。民主党に比べ、財界や業界団体に近い自民党の姿勢が鮮明になりつつある。
東京新聞-2013年2月4日 朝刊