東京・八王子市のコンサルタント会社を経営する松坂昌司さん(60)が、障害者に障害の種類などに応じて仕事を提供する古本ビジネスを展開している。
本格的に始動してから1年にも満たないが、自信をつけ新たな挑戦へと踏み出した人もいる。障害者が働ける職場は限られているが、知的障害者の長男(29)がいる松坂さんは「障害者がもっと社会とかかわりながら、仕事をする場を提供したかった」と話す。
障害者が民家を訪ねて古本を寄贈してもらい、インターネットで注文を受けて発送する――。松坂さんが経営する「松坂ティーエムコンサルタンツ」のビル一室に、このビジネスの作業所がある。
「自分のペースで仕事ができ、ありがたい」と話す女性(38)は、タイトルや販売価格、欠損部分など本の情報をパソコンに入力していた。
集中力や対人関係に問題を抱える発達障害の女性は週5日ほど、八王子市内の自宅からバスで通勤し、約4時間、入力作業を行う。1冊処理するごとに20円の報酬を得る仕組みで、昨年10月に始めて以来、毎月約3万円を稼いでいる。
女性は高校卒業後、静岡県で倉庫管理する会社に勤めていたが、寮生活が苦痛で4年後に辞めた。八王子市に戻り、データ入力のアルバイトなどをしてきたが、ここでも集中力が持たない上、ノルマを達成できず6年で辞めた。
「何で人並みに仕事ができないのか」と悩み、昨年9月、病院に行ったところ、発達障害と診断された。「歩合制の仕事なので周りを気にせず仕事ができ、長く続けられそう」と、女性は今の心境を語った。
同社には、重度の知的障害者や身体障害者など約30人が登録。データ入力は発達障害者や精神障害者、身体障害者が行い、古本の回収と商品の発送は、重度の知的障害者が担当し、健常者の職員が同行するなど、障害の種類などに応じて、仕事が割り振られている。
重度の知的障害があり神奈川県内の施設で暮らす長男が通う作業所の実態を聞き、疑問を抱いたのが、松坂さんがこのビジネスを始めるきっかけだった。「知的障害者ばかりの作業所で、社会から隔離されているように感じた。障害者も、健常者とかかわりながらできる仕事はないか」。昨年4月、作業所を設立し、障害者が住む自治体から毎月計約150万円の補助金を受けている。
人との意思疎通が苦手な発達障害者には、個室や防音室を用意したり、発作的に暴れ出す行動障害を抱える知的障害者には、映画観賞など本人が好きな動作を把握し、発作が起きた際に和らげたり……。障害者にあった環境づくりをするだけで、作業がスムーズに進むことが分かった。
また、障害者がここでの作業を通じて、「自分でも仕事ができる」と自信を取り戻し、新たな挑戦を始めたケースもある。昨年4~9月に在籍した発達障害を持つ20代の男性は同年10月、私鉄に就職、清掃業務に携わっている。発達障害を持つ別の20代の男性も同年10月から、職業訓練校に通い始めた。
駒沢大学文学部の桐原宏行教授(障害者福祉論)の話「障害者の中には労働時間や技術指導など、その人に応じた配慮をすれば就労可能な人は多くいる。企業は業務に合わせて採用するのではなく、彼らを受け入れる体制をどうつくっていくのかを考えていくべきだ」(石原宗明)
被災障害者の体験語る 福島のNPO理事長講演
講演会「しょうがいを持つ人の防災」が16日、多摩市永山公民館で開かれた。福島県田村市で障害者の自立支援を行うNPO法人「ケアステーションゆうとぴあ」理事長で、自身も車いす生活を送る鈴木絹江さんが、福島第一原発の事故の影響で避難した体験から、高齢者や障害者に必要な防災の視点について語った=写真=。
鈴木さんは、大勢が集まる避難所で障害者が生活するのは難しいと考え、支援している障害者と共に新潟県の旅館に避難した。一方で、脳性マヒの女性が地元の避難所に逃げたものの、「トイレに時間がかかり、他の避難者に迷惑をかける」と考えて共同トイレを使うのを我慢したため、体調を崩した事例などを紹介し、「車いすトイレがあるホテルや旅館を避難所として開放すべき」と提案した。
また、自治体が「災害時要援護者避難支援計画」を決める際、地震や津波、原発事故といった災害の状況と、被災者の障害の種類に応じて、誰からどう避難させるかを具体的に定める必要があると指摘。福祉サービスを使わず、「ひきこもり」生活を送っている障害者の個人情報の共有や安否確認の方法をいかに確立するかも、課題として挙げた。
(2013年2月17日 読売新聞)