今年4月、障害者の法定雇用率が引き上げられ、民間企業では2%が義務付けられた。法定雇用率が達成できない企業は多いが、千葉県の社会福祉法人「生活クラブ風の村」は、障害者を有償ボランティアなどの「中間就労」で受け入れ、雇用につなげる取り組みで実績を上げている。「その人自身がみるみる変わるし、職場の質も確実に上がる。理念に賛同してくれる事業所とノウハウを共有し、受け入れ先を広げていきたい」と話している。
千葉県船橋市の真家(まいえ)崇さん(30)は朝7時から、サービス付き高齢者住宅「高根台つどいの家」で朝食の配膳(はいぜん)、後片付け、高齢者の居室の掃除などにあたる。知的障害があるが、働き始めて4年目になった。
同住宅を運営する社会福祉法人「生活クラブ風の村」は当初、真家さんを週1回3~4時間の有償ボランティアで迎えた。仕事に慣れない真家さんは少し働くと疲れてしまい、教えられたベッドメーキングもうまくいかず、掃除道具を出しっぱなしにして怒られることも。
高齢者の居室の掃除をする小林さん=千葉県船橋市の「高根台つどいの家」
真家さんがボランティアに入った期間は、同法人にとっても業務の見直しをする期間になった。真家さんが仕事をしやすいように作業手順を整理し、掃除道具の置き場所などのマニュアルを作った。真家さんはスムーズに仕事ができるようになり、半年程度でボランティアを「卒業」。同法人と雇用契約を結んだ。今は週5日約25時間働き、月に10万円弱を受け取る。「もう少し長く働いて月12万~13万円くらいにしたい。自分で働いたお金で出掛けたりしたい。頑張って働こうと思う」と言う。
同法人のユニバーサル就労支援室長の平田智子さんは「マニュアルを作ったら、真家さんだけでなく、新人もパートさんも掃除の水準が均質になった。真家さんが早朝や土日にシフトに入ってくれるおかげで、人手が薄い時間帯をカバーできる。職場としても助かっています」。
脳出血で高次脳機能障害を負った女性(42)も同じ職場で洗い物をしたり、高齢者にお茶やおやつを用意したりする。障害を負った後は、言われたことを忘れてしまったり、適当な言葉が見つからなかったりで、「仕事はできないと思っていた」(女性)。
しかし、2~3時間の有償ボランティアからスタート。今は週4日働いて、月収7万~8万円を得る。女性は「言葉が出てこないこともあるけれど、ここではみんながゆっくり話してくれる。こんな言葉じゃなかったかな、できた、と思いながらやっている。こんなにしてもらって、もったいない」と話す。
こうした人手が増えることで介護職は高齢者のケアに専念できるようになり、目と手が増えて職場の事故も減った。
知的障害や身体障害だけではない。同法人の同県市川市にある有料老人ホームでは、同市の阿部美佐子さんが昨年から個人ファイルの整理などを始めた。抑鬱神経症で入退院を繰り返し、引きこもりに近い状態だったこともある。今は週2日各4時間、ホームに出勤する。
「社会人だったときにしていた仕事と似ているけれど、今の私の状態でできるかどうか不安だった。まずは通い続けることを目標にしています」と話している。
法定雇用率、2%に引き上げ ノウハウ共有で受け入れ拡大へ
15年ぶりの引き上げで法定雇用率が2%となったが、厚生労働省の昨年の調査では、法定雇用率(1・8%)を達成した企業は46・8%にとどまる。未達成の事業所には、納付金徴収などの措置もあるため、引き上げの影響は大きい。
「生活クラブ風の村」の障害者雇用率は昨年末に2・19%。中間就労の取り組みを開始した平成20年には0・87%にすぎなかったが、3年後には1・87%になり、法定雇用率を達成した。
平田さんは「中間就労の取り組みには時間も人手もかかるし、法定雇用率に達するまでは助成金もない。でも、1年もすれば、ほぼ全員が20時間くらいは働けるようになって、雇用率は確実に上がる。それを知ってほしい」と言う。同法人では、障害者だけでなく、引きこもりだった人や生活困窮者など、「障害者雇用率」にカウントされない人も同じノウハウで受け入れる。
ノウハウの一つは、こうした人々に任せる仕事を探す方法。同法人では従業員の業務を例えば、(1)人と接する仕事(2)力を使う仕事(3)軽作業(4)パソコン(PC)入力(5)それ以外のPC作業-などに分類。できそうな仕事を抽出して障害者の希望や能力、特性とマッチングする。業務を分解することで、従業員の働き方の見直しや業務の効率化もできた。
千葉県では昨年1月、同法人が中心になって「ユニバーサルネットワークちば」を立ち上げた。社会福祉法人や株式会社、生協など約100団体がノウハウを共有。受け入れ拡大を検討する。
平田さんは「やってみると、何よりもその人自身がみるみる変わる。社会経験のなさから気に入らないことがあるとドアをけっ飛ばしていたような人が、敬語を使えるようになる。受け入れ側の職場風土も良くなり、誰にとっても働きやすい職場になる。県外からも問い合わせがあれば、取り組みに賛同してくれる事業者とノウハウを共有していきたい」と話している。
SankeiBiz- 2013.6.10 11:17
千葉県船橋市の真家(まいえ)崇さん(30)は朝7時から、サービス付き高齢者住宅「高根台つどいの家」で朝食の配膳(はいぜん)、後片付け、高齢者の居室の掃除などにあたる。知的障害があるが、働き始めて4年目になった。
同住宅を運営する社会福祉法人「生活クラブ風の村」は当初、真家さんを週1回3~4時間の有償ボランティアで迎えた。仕事に慣れない真家さんは少し働くと疲れてしまい、教えられたベッドメーキングもうまくいかず、掃除道具を出しっぱなしにして怒られることも。
高齢者の居室の掃除をする小林さん=千葉県船橋市の「高根台つどいの家」
真家さんがボランティアに入った期間は、同法人にとっても業務の見直しをする期間になった。真家さんが仕事をしやすいように作業手順を整理し、掃除道具の置き場所などのマニュアルを作った。真家さんはスムーズに仕事ができるようになり、半年程度でボランティアを「卒業」。同法人と雇用契約を結んだ。今は週5日約25時間働き、月に10万円弱を受け取る。「もう少し長く働いて月12万~13万円くらいにしたい。自分で働いたお金で出掛けたりしたい。頑張って働こうと思う」と言う。
同法人のユニバーサル就労支援室長の平田智子さんは「マニュアルを作ったら、真家さんだけでなく、新人もパートさんも掃除の水準が均質になった。真家さんが早朝や土日にシフトに入ってくれるおかげで、人手が薄い時間帯をカバーできる。職場としても助かっています」。
脳出血で高次脳機能障害を負った女性(42)も同じ職場で洗い物をしたり、高齢者にお茶やおやつを用意したりする。障害を負った後は、言われたことを忘れてしまったり、適当な言葉が見つからなかったりで、「仕事はできないと思っていた」(女性)。
しかし、2~3時間の有償ボランティアからスタート。今は週4日働いて、月収7万~8万円を得る。女性は「言葉が出てこないこともあるけれど、ここではみんながゆっくり話してくれる。こんな言葉じゃなかったかな、できた、と思いながらやっている。こんなにしてもらって、もったいない」と話す。
こうした人手が増えることで介護職は高齢者のケアに専念できるようになり、目と手が増えて職場の事故も減った。
知的障害や身体障害だけではない。同法人の同県市川市にある有料老人ホームでは、同市の阿部美佐子さんが昨年から個人ファイルの整理などを始めた。抑鬱神経症で入退院を繰り返し、引きこもりに近い状態だったこともある。今は週2日各4時間、ホームに出勤する。
「社会人だったときにしていた仕事と似ているけれど、今の私の状態でできるかどうか不安だった。まずは通い続けることを目標にしています」と話している。
法定雇用率、2%に引き上げ ノウハウ共有で受け入れ拡大へ
15年ぶりの引き上げで法定雇用率が2%となったが、厚生労働省の昨年の調査では、法定雇用率(1・8%)を達成した企業は46・8%にとどまる。未達成の事業所には、納付金徴収などの措置もあるため、引き上げの影響は大きい。
「生活クラブ風の村」の障害者雇用率は昨年末に2・19%。中間就労の取り組みを開始した平成20年には0・87%にすぎなかったが、3年後には1・87%になり、法定雇用率を達成した。
平田さんは「中間就労の取り組みには時間も人手もかかるし、法定雇用率に達するまでは助成金もない。でも、1年もすれば、ほぼ全員が20時間くらいは働けるようになって、雇用率は確実に上がる。それを知ってほしい」と言う。同法人では、障害者だけでなく、引きこもりだった人や生活困窮者など、「障害者雇用率」にカウントされない人も同じノウハウで受け入れる。
ノウハウの一つは、こうした人々に任せる仕事を探す方法。同法人では従業員の業務を例えば、(1)人と接する仕事(2)力を使う仕事(3)軽作業(4)パソコン(PC)入力(5)それ以外のPC作業-などに分類。できそうな仕事を抽出して障害者の希望や能力、特性とマッチングする。業務を分解することで、従業員の働き方の見直しや業務の効率化もできた。
千葉県では昨年1月、同法人が中心になって「ユニバーサルネットワークちば」を立ち上げた。社会福祉法人や株式会社、生協など約100団体がノウハウを共有。受け入れ拡大を検討する。
平田さんは「やってみると、何よりもその人自身がみるみる変わる。社会経験のなさから気に入らないことがあるとドアをけっ飛ばしていたような人が、敬語を使えるようになる。受け入れ側の職場風土も良くなり、誰にとっても働きやすい職場になる。県外からも問い合わせがあれば、取り組みに賛同してくれる事業者とノウハウを共有していきたい」と話している。
SankeiBiz- 2013.6.10 11:17