独創的な作品を生み出す障害者の創作活動支援に、国が新年度から本格的に乗り出す。海外に比べて遅れている障害者芸術の普及と地位確立に向けた第一歩になると期待したい。
伝統や流行、美術知識に左右されずに、作者が自らの衝動に駆られて生み出した作品は、アール・ブリュット(生(き)の芸術)と呼ばれ、海外では1940年ごろから高く評価されてきた。
日本のアール・ブリュットは、主に知的障害者や精神障害者の創作活動が中心。熱心な福祉施設やNPOの取り組みによって、近年ようやく注目されてきたが、まだまだ全国的な広がりにまでは至っていない。
障害者の優れた芸術作品を見いだし、国内外に発信することは、障害者の社会参加の促進と共生社会の実現につながる。福祉事業を所管する厚生労働省だけでなく、芸術文化振興の旗振り役である文化庁も事業主体となって全国でモデル事業を展開する意味は大きい。
日本で障害者芸術に対する理解が進んでいないのは、障害者の創作活動が、施設や作業所などでの訓練や余暇として取り組まれてきたことが背景にある。
福祉作業の一環との位置付けのため、障害者はもちろん、家族や施設関係者にも芸術活動との意識が薄い。そのため、芸術的価値が認められる作品が無造作に保管されていたり廃棄されたりすることも珍しくない。
アール・ブリュットの評価が高まり、商業的需要が生まれるにつれ、新たな課題も浮上している。作者としての障害者に帰属する権利関係についてだ。
障害者自身が著作権や所有権について正しく理解するのが困難な上、障害者を支える周囲の理解不足も重なり、作品の出品や売買、二次利用等に関する契約があいまいになっている。
その結果、正当な対価が障害者に還元されないケースが顕在化している。障害者の経済的自立が求められる中、難しい判断や意思伝達が不得手な障害者の弱みに付け入る行為があるとすれば見過ごせない。
国がモデル事業で支援する方向性は明確だろう。障害者や家族、彼らを支える施設関係者らが、創作活動や作品展示、商品化等に伴う権利問題について、専門家に気軽に相談できる体制の強化は、いの一番だ。
地域の美術館や福祉施設、特別支援学校などの連携により、創作活動の調査や、作品の発掘も期待できる。ぜひ取り組んでほしいのが障害者芸術を理解し評価できる人材の育成だ。学芸員の鑑賞眼を養ったり美術を学ぶ学生が障害者の創作活動に触れたりする機会として、モデル事業を活用してはどうか。
自分の作品を大勢の人に見て、評価してもらうことは、障害者が社会の一員であることを実感する格好の機会になる。
モデル事業で蓄積されたケーススタディーや情報が、全国の美術館や福祉施設等で共有されることで、障害者の作品を鑑賞できる機会が全国に広がることを願いたい。
2014年03月31日月曜日 河北新報
伝統や流行、美術知識に左右されずに、作者が自らの衝動に駆られて生み出した作品は、アール・ブリュット(生(き)の芸術)と呼ばれ、海外では1940年ごろから高く評価されてきた。
日本のアール・ブリュットは、主に知的障害者や精神障害者の創作活動が中心。熱心な福祉施設やNPOの取り組みによって、近年ようやく注目されてきたが、まだまだ全国的な広がりにまでは至っていない。
障害者の優れた芸術作品を見いだし、国内外に発信することは、障害者の社会参加の促進と共生社会の実現につながる。福祉事業を所管する厚生労働省だけでなく、芸術文化振興の旗振り役である文化庁も事業主体となって全国でモデル事業を展開する意味は大きい。
日本で障害者芸術に対する理解が進んでいないのは、障害者の創作活動が、施設や作業所などでの訓練や余暇として取り組まれてきたことが背景にある。
福祉作業の一環との位置付けのため、障害者はもちろん、家族や施設関係者にも芸術活動との意識が薄い。そのため、芸術的価値が認められる作品が無造作に保管されていたり廃棄されたりすることも珍しくない。
アール・ブリュットの評価が高まり、商業的需要が生まれるにつれ、新たな課題も浮上している。作者としての障害者に帰属する権利関係についてだ。
障害者自身が著作権や所有権について正しく理解するのが困難な上、障害者を支える周囲の理解不足も重なり、作品の出品や売買、二次利用等に関する契約があいまいになっている。
その結果、正当な対価が障害者に還元されないケースが顕在化している。障害者の経済的自立が求められる中、難しい判断や意思伝達が不得手な障害者の弱みに付け入る行為があるとすれば見過ごせない。
国がモデル事業で支援する方向性は明確だろう。障害者や家族、彼らを支える施設関係者らが、創作活動や作品展示、商品化等に伴う権利問題について、専門家に気軽に相談できる体制の強化は、いの一番だ。
地域の美術館や福祉施設、特別支援学校などの連携により、創作活動の調査や、作品の発掘も期待できる。ぜひ取り組んでほしいのが障害者芸術を理解し評価できる人材の育成だ。学芸員の鑑賞眼を養ったり美術を学ぶ学生が障害者の創作活動に触れたりする機会として、モデル事業を活用してはどうか。
自分の作品を大勢の人に見て、評価してもらうことは、障害者が社会の一員であることを実感する格好の機会になる。
モデル事業で蓄積されたケーススタディーや情報が、全国の美術館や福祉施設等で共有されることで、障害者の作品を鑑賞できる機会が全国に広がることを願いたい。
2014年03月31日月曜日 河北新報