独り暮らしの高齢者らを支援するNPO法人きずなの会(本部・名古屋市)の油田弘佑(あぶらだひろすけ)理事長(75)=名古屋市東区=は「問題が起こる前に予防を」と備えの大切さを訴える。
家族がいない、家族の世話になりたくないという人の入院や施設入所の身元保証、財産管理、葬儀など、業務は幅広い。事故に遭ったり、病気が急変したりしても、生活に困らないよう対応する。財産の多寡や健康状態、家族関係の悪化といった多様な背景のある人たち。人生の最後を支えようと、油田さんをはじめ、職員らが家族に代わって汗をかく。
しかし、最近多いのは、貧困など生活状況が切羽詰まってからの相談だ。「貧困者でも支援が受けられるよう努力しているが、支援を続けていくには組織も維持しなければ」。今後、一層の高齢化社会を思うと課題は山積している。
福井県越前市出身。裁判官を三十七年間務め、名古屋地裁や札幌高裁の総括判事、岐阜地裁・家裁の所長を歴任し、刑事事件を数多く担当した。争いごとを裁く中、思いを強くしたのは「予防の大切さ」。退職後の六十一歳で公正証書の作成を担う公証人に。遺言書作成など、将来の争いを防ぐ仕事に軸足を移した。
力を入れたのは、尊厳死を宣言するための公正証書の作成や、自分の判断能力が将来衰えたときの後見人を事前に決めておく「任意後見制度」の活用だ。「意思確認のプロ」という公証人の立場からの、延命医療や認知症の問題への提案だった。「せっかくの法律や制度を、将来の備えのためにもっと活用するべきだ」
二〇〇九年、きずなの会と提携する弁護士法人の誘いで、公証人を退いて同会の事業に参加。高齢者のために奔走する職員らの姿に刺激を受け、副理事長を引き受けた。一一年からは理事長を務める。
ただ、人の生死において、実際には法や制度に限界があることも痛感した。「その隙間を埋め、現実的に折り合いをつけていくために、今後も関係者らと協力しながら知恵を絞りたい」
きずなの会は、身元引受人がいない高齢者や障害者を支援しようと、弁護士や司法書士らが2001年に設立。累計7000人と契約し、多様なサービスを提供する。入会には原則として預託金190万円が必要。利用したサービスに応じて費用が差し引かれる。預託金は提携する弁護士法人が管理し、管理手数料と年会費が別途必要。預託金が一度に用意できない貧困者でも、分割払いや寄付による福祉基金の活用などで、サービスが利用できるよう努めている。
事務所は愛知県内のほか、岐阜、静岡、滋賀、東京、埼玉、神奈川にも開設されている。問い合わせは、同会名古屋本部=電052(961)8002=へ。
中日新聞 2014年7月30日
家族がいない、家族の世話になりたくないという人の入院や施設入所の身元保証、財産管理、葬儀など、業務は幅広い。事故に遭ったり、病気が急変したりしても、生活に困らないよう対応する。財産の多寡や健康状態、家族関係の悪化といった多様な背景のある人たち。人生の最後を支えようと、油田さんをはじめ、職員らが家族に代わって汗をかく。
しかし、最近多いのは、貧困など生活状況が切羽詰まってからの相談だ。「貧困者でも支援が受けられるよう努力しているが、支援を続けていくには組織も維持しなければ」。今後、一層の高齢化社会を思うと課題は山積している。
福井県越前市出身。裁判官を三十七年間務め、名古屋地裁や札幌高裁の総括判事、岐阜地裁・家裁の所長を歴任し、刑事事件を数多く担当した。争いごとを裁く中、思いを強くしたのは「予防の大切さ」。退職後の六十一歳で公正証書の作成を担う公証人に。遺言書作成など、将来の争いを防ぐ仕事に軸足を移した。
力を入れたのは、尊厳死を宣言するための公正証書の作成や、自分の判断能力が将来衰えたときの後見人を事前に決めておく「任意後見制度」の活用だ。「意思確認のプロ」という公証人の立場からの、延命医療や認知症の問題への提案だった。「せっかくの法律や制度を、将来の備えのためにもっと活用するべきだ」
二〇〇九年、きずなの会と提携する弁護士法人の誘いで、公証人を退いて同会の事業に参加。高齢者のために奔走する職員らの姿に刺激を受け、副理事長を引き受けた。一一年からは理事長を務める。
ただ、人の生死において、実際には法や制度に限界があることも痛感した。「その隙間を埋め、現実的に折り合いをつけていくために、今後も関係者らと協力しながら知恵を絞りたい」
きずなの会は、身元引受人がいない高齢者や障害者を支援しようと、弁護士や司法書士らが2001年に設立。累計7000人と契約し、多様なサービスを提供する。入会には原則として預託金190万円が必要。利用したサービスに応じて費用が差し引かれる。預託金は提携する弁護士法人が管理し、管理手数料と年会費が別途必要。預託金が一度に用意できない貧困者でも、分割払いや寄付による福祉基金の活用などで、サービスが利用できるよう努めている。
事務所は愛知県内のほか、岐阜、静岡、滋賀、東京、埼玉、神奈川にも開設されている。問い合わせは、同会名古屋本部=電052(961)8002=へ。
中日新聞 2014年7月30日