先行き不透明な経営環境のため、障害者の雇用に二の足を踏む中小企業が多い中、愛知県稲沢市の機械部品製造業TIYは法定雇用率を大幅に超える障害者を雇っている。工場の工程の見直しで障害者に働きやすい環境を実現し、最低賃金を保証。雇用助成金は受け取っていない。障害者の社会参加を促す取り組みを探った。
「みんなとあいさつをして、一緒に仕事するのは楽しいです」。ベアリングの組み立てを担う自閉症の男性(32)が笑みを浮かべた。
同社は、自動車や事務用機械に使われる部品の組み立てを、大手企業から受注。自動化するのが難しい多品種小ロットの仕事を、主に手作業でこなす。正確で繊細な作業が求められるが、従業員五十人のうち十四人は知的障害などがある障害者だ。障害者雇用率は、法定の2%を大幅に超す28%に達している。
組み立てラインには従業員がはりつき、徐々に組み上がる部品がよどみなく流れる。一見したところ、障害のある人とない人の区別はない。「複雑な工程を単純作業に分けて、誰でもできるように工夫している」と、社長の小出晶子さん(60)が説明する。
具体的には、小さなゴム部品などの表裏を確認して組み立てていた工程で、部品を正しい向きにそろえる装置を製作。工程を二つに分け、従業員は組み立てだけに集中できるように単純化した。手では扱いづらい直径二ミリ程度の金属球を、必要な数だけ正確に取れるスプーンのような道具なども考案した。
同社が障害者を雇用し始めたのは二十年前で、当初は人手不足を補うためだった。「仕事がなくなったから終わりではなく、他にもやれる仕事はないかと考えた」と小出さん。これを機に業務の見直しと効率化が進み、組織全体の生産性も向上。同社にとって障害者は必要な人材となった。
結果的に高齢者ができる仕事も増え、現在では六十五~八十三歳の従業員が十七人。「働きたい人誰もが働けるように業務改善を続けたい」
厚生労働省が公表した昨年六月時点の企業の障害者雇用率は、千人以上の大企業が2・05%で、法定の2%を上回った。一方、五十人以上百人未満の企業は1・46%で、従業員数が減るほど雇用率が低い状況が浮かび上がった。
障害者雇用のノウハウが少ない中小企業には不利と考えられがちだが、「経営戦略として、中小企業も障害者雇用を積極的に考えてほしい」。企業経営と障害者雇用の関係に詳しい横浜市立大CSRセンター長の影山摩子弥(まこや)教授は指摘する。
影山さんは二〇一一~一三年、障害者雇用による経営効果について全国の企業を調査。障害者雇用を重視する企業では、業務改善を通して、従業員間の意思疎通と、健常者の社員のモチベーションが高まったという。
「障害者雇用が事業を効率化させる絶好の機会であることを、企業に適切にアドバイスする必要がある」と行政に訴える。
手際よく作業する知的障害のある従業員。機械操作しやすいように改良されたレバーや、分かりやすい操作マニュアルなど、ミスを防ぐ工夫が施されている=愛知県稲沢市のTIYで
2015年5月4日 中日新聞