県立盲学校や金沢星稜大で非常勤講師を務める松井繁さん(67)(金沢市)が、視覚障害を持つ県出身者らの功績をまとめた著書「道を開拓した21人~不滅の足跡を残した石川の視覚障害者達、関係者達~」を出版した。自身も視覚障害のある松井さんは「先人の不屈の努力は人生の指針になるはず」と本への思いを語る。
3歳の時に病気で視力を失った松井さんは、県立盲学校に通ったのち、1974年から同校教諭としてマッサージや鍼灸しんきゅうなどを教え、2008年に退職。その後も同校で教べんを執り、傾聴のボランティア活動などにも取り組む。
「視覚障害を乗り越えた先人たちの歴史を知りたい」と感じたのは、27年前。きっかけの一つは、東洋医学に否定的だった明治新政府の方針で禁止された鍼灸教育を復活させ、視覚障害者が職業的に自立できるよう道筋を作った奥村三策(1864~1912年)の法要に出席したことだった。
加賀藩士の長男として生まれた奥村は、2歳で失明。鍼灸師となった奥村は、東京の「官立楽善会訓盲唖院」(現・筑波大学付属視覚特別支援学校)でマッサージ技術を教えながら、鍼灸教育の存続のために東奔西走した。全盲の教え子を日本初のマッサージ師として病院に就職させるなど、視覚障害者の自立も支援した。
松井さんは、文献研究や編集作業を仕事の合間に少しずつ進め、その過程で、県内でほかにも視覚障害者のために尽力した人が多くいることを知った。「このままでは埋もれてしまう、後世に伝えたい」と思い、冊子では奥村のほかに、全盲の視覚障害者で初の弁護士となった竹下義樹氏(輪島市出身)や視覚障害者の公務員への道を切り開いた田中章治氏(かほく市出身)などを取り上げた。
奥村については、「今日盲人が法律に基づいて公的に鍼灸を業としているのは、世界中で日本だけである。奥村の情熱と理にかなった活動がなかったならば、鍼灸術が盲人の職業として定着していなかった」と評価している。
松井さんは、「視覚障害者に限らず大勢に読んでもらい、希望を持ってもらえたら」と考えている。
税込み2160円。A5判456ページでCD付き。インターネット通販サイト「Amazon」で販売している。県内の主な公立図書館と、全国の都道府県立図書館で読むことができる。問い合わせは橋本確文堂(076・242・6121)へ。
出版した著書を手にする松井さん(金沢市の県立盲学校で)