障害者がピッキング(選別)をしたコーヒー豆を使い、自家焙煎(ばいせん)の味を楽しんでもらう喫茶店「ちひろ珈琲(コーヒー)」が、さいたま市見沼区にある。知的障害や精神障害がある人たちの働く場として開店して三年半。当初は売り上げが伸びず苦労もあったが、味の良さで人気がじわりと広がっている。
JR東大宮駅近くの住宅街。テラス席もある開放的な店内で客が談笑する中、奥の席では精神障害のある女性スタッフ(43)が焙煎する前の生豆を一粒ずつ手に取り、カビや虫食いのある豆を取り除くピッキング作業に集中していた。こうした豆は雑味の原因となるため、コーヒーの味を左右する重要な作業だ。この女性は「お客さんに『おいしい』と言ってもらえるのが一番うれしい」と笑顔で話す。
ちひろ珈琲は通常の飲食店ではなく、障害者の就労支援事業所として二〇一一年十一月に開店。現在は精神や知的、発達などの障害がある四十六人が登録している。管理者の高橋千尋さん(51)は「内職を受注するだけでは運営が安定しないので、自分たちで仕事をつくろうと始めた」と振り返る。
かつて高橋さんは自宅でシステムエンジニアの仕事をしながら、両親が同市内で運営する障害者作業所の経理を担当していた。当時受注していたのは紙袋に取っ手のひもを通す作業だったが、仕事量は時期によって増えすぎたり、逆に不景気で激減したりと一定しなかった。テレビで海外の産地のピッキング作業を見て「こういうことが作業所でできれば」と思い付いた高橋さんは、開店の一年前から春日部市のコーヒー豆専門店で修業してピッキングや焙煎の技術を学んだ。
当初は客が一、二人という日もあったが、週末や正月を返上して店を開け続けた。焙煎したてのコーヒーが一杯三百~四百円と割安で楽しめることが口コミで広がり、現在は多い日で五十人近くが来店するようになった。高橋さんは「障害者が働く店だと強調しているわけではないが、お客さんの半分ぐらいは知っていて、『頑張ってるね』と声を掛けてくれる人もいる。地域の人たちとの交流の場になれば」と話す。
店の営業時間は正午~午後五時。日曜日、第三土曜日定休。コーヒーは常時十五~二十種類を用意。豆の配送は三千円以上で送料無料。障害者の新規登録も募っている。問い合わせは、ちひろ珈琲=電048(675)7750=へ。
障害者がピッキングし、店内で焙煎したコーヒー豆を手に「社会参加の入り口になれば」と話す高橋さん
2015年5月18日 東京新聞