障害者や高齢者、妊産婦ら災害時の避難が難しい「災害時要援護者」の研究に取り組んでいる。自身も重度身体障害者であり、電動車いすを使用。障害者とそれ以外の「非障害者」が互いを理解し、等しい関係になる「心のバリアフリー」が大切だと語る。
もともとは環境汚染の問題などを研究しようと茨城大に入学し、野外実習にも熱心に打ち込んだ。今のテーマに至ったのは、社会の中にあるさまざまなバリアーに大学生活で気付かされたから。「スロープの前に自転車が置いてあったり、エレベーターがない建物の受付が二階だったり。環境汚染も大事だが、身近な生活環境は最も大事だと思うようになった」
入学した一九九九年に東海村で発生したJCO臨界事故は、要援護者対策を考える転機になった。自宅は現場から五~十キロ圏。避難が現実味を帯びる一方、障害者を受け入れる設備のある避難所は近くになく、「避難所を調査しよう」と方向性を定めた。
被災した障害者の思いを知ろうと、大地震のあった地域で聞き取り調査もした。ある県では、当初は障害者も行政も「問題ない」との返答。しかし「問題がないはずがない」と粘るうちに、困難な体験や諦めを口にする人も現れた。「災害で死んだら本望」「親子で死ねるのなら…」。本音を聞き、「死んだら何にもならない。皆の思いを変えることができる研究をしたい」と強く思った。
避難には、障害者と非障害者の協力が不可欠だと考えている。キーワードは心のバリアフリーだ。「物理的、制度的、情報、意識(心)、この四つのバリアーを解決して、初めてバリアフリーは成立する。中でも土台になるのが心のバリアフリー」と説く。
ただ、それがすぐに実現するわけではない。必要なのはまず障害を知り、違いを認め合うこと。「学生たちは私と関わることで、それまで見えなかったものに気付く。雨の日に傘を差してくれたり、スロープの前の自転車を動かしてくれたり。困っている人に自然に声を掛けられるようにもなる」と実感する。
障害者側の歩み寄りも促したい。「差別されたという思いばかりが募り、激しい言葉を投げ掛けてしまう人もいる。ただ、非障害者も差別したいわけではなく、関わりがないから分からないだけ。日ごろから何でも言い合える関係を築くことが、災害時には何より大切です」
<ありが・えり> 1980年4月生まれ、日立市在住。茨城大教育学部卒。茨城大非常勤講師、県地方自治研究センター研究員などを務める。著書に「災害時要援護者支援対策-こころのバリアフリーをひろげよう」など。自身の障害は「障害とは社会の中に生じた障壁や課題。障害名に注目するべきではない」などの理由で公開していない。
2015年5月17日 東京新聞