鶴岡市の「県立こころの医療センター」に通う精神障害者で作るフットサルチームの男性が、来年2月に大阪で開かれる「第1回ソーシャルフットボール国際大会」の日本代表に選ばれた。10月の全国大会での活躍が評価された。
日本代表になったのは、同センターに治療で通いながら、フットサルチーム「オーロヴェッタ鶴岡」で活躍している野尻豪選手(25)。11月24日、「日本ソーシャルフットボール協会」(本部・横浜市、岡村武彦理事長)が発表した。全国約100チーム、千人以上いる選手の中からわずか12人の代表に決まった。野尻選手は、「自分を認めてくれてうれしい。世界の舞台で得点を決めたい」と話す。
鶴岡市出身。オーロヴェッタ鶴岡には今年3月に入部したばかりだが、代表に至るまでには、長い曲折があった。
小学校2年でサッカーを始め、高校ではミッドフィールダーとして県大会ベスト4に。大学でも、サッカーにアルバイトにと、順調な学生生活を送っていた。
誰かに見られているという妄想に突然襲われたのは、4年前の夏だ。就職活動で精神的に追い詰められ、実家に戻っていた時だった。センターの前身の鶴岡病院で治療が必要と診断され、急性期病棟に15日間入院した。症状も改善して今は毎月1回の通院だが、今春までの4年間は、通院と福祉作業所の仕事以外はあまり外に出ることもなかったという。
昨年秋、サッカー経験を知った担当の臨床心理士からオーロヴェッタ鶴岡への入部を誘われた時も、最初は迷っていた。入部を決めた理由について「スポーツは脳にいいと聞いたから」と話し、「もう一度、社会に復帰したい」と強く願っていたからだと明かした。
当初は「パンツがずり落ちてぎこちない選手だった」(清水義人監督)が、めきめき頭角を現した。7月の東北大会で得点を重ねてチームを準優勝に導き大会MVPに。東北代表チームの一員として出場した10月の全国大会でも5得点で全国3位に貢献し、日本代表選手の座を射止めた。
フットサルを通じて精神障害者の社会参加の促進と共生社会実現を目指す初の世界大会は、来年2月、大阪府堺市で開かれる。11月末現在でイタリア、デンマークなど6カ国が参加する予定だという。
「フットサルを始めて変わったことは」と尋ねると、「人の中に入っていけるようになったことかな」と野尻さんは答えた。障害への理解が十分とはいえない社会の中で、名前をオープンにするかどうかも最後まで悩んだが、代表選出を機に「自分自身変わって、堂々と世の中に出て行けたらいい」と決意したという。「就職して、自立する」ことをめざしている。
「第1回ソーシャルフットボール国際大会」の日本代表に決まった野尻豪さん
2015年12月4日 朝日新聞デジタル