ブラインドサッカー男子の日本代表が3月20日にパラリンピックで4連覇中の世界ランク1位、ブラジル代表と親善試合を行う。パラリンピックに出場経験がない世界ランク8位の日本は2015年11月に高田敏志監督(49)がGKコーチから昇格、20年東京大会での金メダル獲得へ動き出した。異次元の力を持つブラジル代表との一番をジャンピングボードとし、大きな夢へ走り出す。
ホップ、ステップ、ジャンプ。そして完璧な着地。日本代表は明確なビジョンを描いて動き始めた。
ホップは3月のブラジル代表戦。パラリンピック4連覇中の王者の胸を借りて成長を確認する。過去6戦全敗。昨年6月のブラジル遠征では0―5で完敗した。それでも高田監督は「以前と違ってベタ引きで負けたわけではない。3失点はカウンター。ブラジルのバイタルエリアに入ったから裏を取られた。前半の4失点でも、誰も心が折れなかった。簡単な相手ではないが、点の取り合いに持っていきたい」と意気込む。
一昨年のアジア選手権(東京)で4位。日本代表はリオ・パラリンピックの出場権を逃した。リオでは同選手権1位のイランが銀、2位の中国が4位。アジアのレベルは高い。ステップは今秋に開催予定のアジア選手権(場所未定)だ。ブラジル遠征ではこの2チームとも対戦。中国戦は1―0で勝利。イラン戦は1―1で互角の展開だった。「彼ら(イランと中国)がアジアで勝つとメダルの可能性が高いことを証明した。だからアジアで勝つことが大事」と高田監督。
力を入れているのが、体格差や高い年齢層をはね返す忍者のようなしなやかな肉体。「体幹を強くして、身体操作の柔軟性、バランス、粘り、素早い動きを身に付け、相手の力をいなす動きが必要。中野(崇)コーチ(フィジカル担当)も『忍者のように動け』と言っています」と川村怜主将(28)。千葉県内で行われた強化合宿の体幹トレでも中野コーチは盛んに「これが(日本代表の)生命線だぞ」と声をかけていた。
忍者作戦と同時にこれまで守備中心だった戦術も速攻、遅攻などバリエーションある攻めに変えようとしている。アジア選手権でイランと中国を撃破した後は来年7月の世界選手権(スペイン)がジャンプとなる。「アジアと南米、欧州とは全く違うけど、一つ一つ勝っていけば表彰台も見えてくる。世界選手権の後の2年はブラジルを倒すための時間にしたい。そして20年の東京。単に勢いで『金メダルを取ります』と言っているわけではない。金メダルを取るために逆算して計画を立てている」と高田監督。川村主将も「東京での金メダルが最大の目標でもあり夢」とキッパリ。日本代表の戦いは始まっている。(今関 達巳)
Q 障害の程度は。
A 障害者スポーツは見えにくい状態を3つに分類。B1=全盲から光覚(光の強弱を認識する感覚)まで。B2=矯正後の診断で視力0.03または視野5度まで。B3=矯正後の診断で視力0.1または視野20度まで。ブラインドサッカーはB1の選手が対象。
Q ピッチサイズとプレー人数は。
A フットサルを基本にルールを考案。ピッチサイズは40メートル×20メートル。4人のFP(フィールドプレーヤー)と晴眼者(視覚に障害がない者)または弱視者が務めるGKの5人がプレー。
Q 試合時間は。
A 前後半とも25分。
Q 目の見える人の協力は。
A 敵陣のゴール裏にガイド(または『コーラー』と呼ばれる)が立ち、ゴールの位置、距離、角度、シュートのタイミングなどを伝える。その他はGKと監督だけが声を出せる。
Q ボールは。
A フットサルと同じ大きさ。転がると音が出る特別仕様。
Q 「ボイ」とは。
A FPはボールを持った相手に向かっていく時は「ボイ」(スペイン語で『行く』の意味)と声を出さなくてはならない。選手の存在を知らせ、危険な衝突を避けるルール。声を発しない場合はノースピーキングという反則になる。
Q サイドフェンスは。
A 両サイドで高さ1メートルのフェンスが並ぶ。ボールがサイドラインを割るのを防ぎ、FPがピッチの大きさや向きを把握するのを助ける。フェンスに跳ね返ったボールはそのままプレー。
Q PKと第2PKは。
A ペナルティーエリア内での反則はゴールから6メートルの距離でPK。前後半それぞれファウル4つの累積で、ゴール8メートルの距離で第2PKが与えられる。

一昨年のイラン戦でシュートを打つ日本代表の川村主将(日本ブラインドサッカー協会提供)
2017年2月28日 スポーツ報知