昨年4月1日に「障害者差別解消法」が施行され、障害者や高齢者など身体の不自由な人たちとともに生きていく共生社会づくりが進められている一方、視覚障害者の電車のホームからの転落事故が相次いでいる。こうした事態を受けて、JR西日本(大阪市)は、かねてから導入している「サービス介助士」の資格取得講座に、盲導犬ユーザーを講師とした研修を組み込んだ特別研修を実施している。介助技術の習得に合わせて障害者の生の声を聴くことで、介助の大切さを理解し、障害者に対する社員の意識向上と、さらには事故防止につなげていくのが狙い。
2月初旬、大阪府吹田市の社員研修センターで「サービス介助士」資格取得講座が開催された。公益財団法人日本ケアフィット共育機構(東京都)が認定する民間資格で、現在全国で約13万人の「サービス介助士」が誕生している。JR西日本は、駅スタッフを中心に資格取得を進めており、この日も約50名のスタッフが資格取得に挑んだ。
2日間の資格取得講座内容に、公益財団法人関西盲導犬協会の協力を得て、2日目の昼から2時間、盲導犬ユーザーとの交流を中心とした講座が組み込まれた。講師には、同協会スタッフの久保ますみさん、盲導犬ユーザーの森永佳恵さんが招聘された。森永さんは関西在住。盲導犬ユーザー歴24年。現在の盲導犬は4代目となるという。
JR西日本によれば、今回のような取り組みは3回目といい、当日は資格取得の受講者のみならず、各関係者らを含め約80人以上が『特別講座』に参加。会場は、2人と1匹の『講師』を囲むように椅子が配置され、最初から「ホームの端を歩くのは怖い。できれば中央を歩きたい」「点字ブロックの枠から足が外れ、線路へ引き込まれそうになった」など、「目からウロコ」的な現実の話が続いた。
久保さんからは、視覚障害者の現状や盲導犬の育成などが細かに伝えられた。そのなかで、最近増加している黄斑変性症について、特殊なゴーグルを持参。実際に体験して実際を理解するのであるが、体験者からは「端が見えない」「意外に大きな文字よりは普通の文字でいいことがわかった」など、体験して初めてわかることが多かったようだ。
「体験」では、先の黄斑変性症のゴーグルをかけての見え方の体験である。参加者は「見えにくい」「こんな感じなのか。たいへんやな」など、それぞれに何かを感じ、思いを抱いたようである。
「盲導犬ユーザー」では、森永さんを囲んで、参加者との質疑応答を中心に進められた。実際の駅業務でのことが多く、「声をかけても断われたことがあるが、どうしたらいいのか」「盲導犬に触ってもいいのか」など質問があった。逆に、森永さんからは「ホームドアがある駅では、声をかけてくれなくなった。ホームドアがあるから、声をかけなくてもいい、というわけではない」などの意見があり、今後の対応に多いに参考になったようだ。
もう1つの項目「視覚障害と盲導犬」では、盲導犬の適性や対応の方法や、盲導犬と視覚障害者とともに歩くまでのことや、盲導犬についてのことの詳しく解説された。
2時間の講座は熱気に包まれたまま終了。「盲導犬ユーザー」の生の声を聴き、どこまで「気づき」に変えられたか。これからであるが、非常に意味のある講座であった。
後日、「日本ケアフィット共育機構の大阪共育センターが、久保さんと森永さんの協力により、インストラクター向けの講義を設けた。盲導犬ユーザーの実際の声を聴き、これからの講座にいかすためだ。森永さんの話には、いっぱいの「気づき」が含まれており、メモをとるインストラクターの姿が多かった。
同共育機構は国土交通省とともに、事故防止に向けて活動を展開。昨年から講義内容に「視覚障害者に対して緊急対応」を追加し、「サービス介助士」の講義の中で指導を行っている。その方法を簡単に書いておこう。
たとえば、駅のホームで視覚障害者が線路の方へ行こうとしていたら、通常前から声かけをするが、緊急の場合、「そこの白杖をもっている女性!止まって!」と後ろからでも声をかける。「白杖、女性」で視覚障害者を特定し、「止まって!」と言うことで、人間は本能で立ち止まる...。森永さんもあわやホームに転落しそうになったことがあるという。その時、「腕をグイと引っ張られた」。みんなが「見守る」社会を作っていこうではないか。
2人と1匹の講師の講義の次は、「体験」「盲導犬ユーザー」「視覚障害と盲導犬」と3つのグループに分けて、さらに突っ込んだ質疑応答が行われた。

講師を前に熱心に話を聞く受講者
17/02/28 トラベルニュースat