10メートルにおよぶ火柱、一帯を包み込む猛煙――。12日未明、愛媛県松野町豊岡の障害者グループホーム「ひだまりⅢ」で起きた火災で、3人の命が奪われた。連絡が取れない、入居者の男女3人とみられる。障害者や高齢者向け施設での惨事がまた、繰り返された。
「防災無線で火災を知った。助けようとしたが、施設に近づこうにも熱さでどうしようもなかった」。数軒隣に住む向井勝さん(69)は激しい火勢の恐怖を語った。近くの中学2年石倉勘太さん(14)も「真っ赤な炎と真っ黒な煙で、中の様子は分からなかった」、別の男性(66)は「火柱は10メートル、煙は30~40メートルにも達していた」と語った。
現住建造物等放火の疑いで逮捕された入居者の善家千文(ぜんけちふみ)容疑者(49)は県警宇和島署の調べに「自室で火を付けた」と話しているという。施設は平屋建てで、定員ちょうどの8人が各個室で暮らしていた。署によると、約5年前に入居した善家容疑者は北東の角部屋で生活。遺体は向かい合う3部屋で見つかった。
地元の鬼北消防署によると出火当時、火災報知機は正常に作動していた。だが、スプリンクラーはなかった。2013年2月に認知症の高齢者が入居するグループホーム「ベルハウス東山手」(長崎市)で5人が死亡した火災を受け、総務省消防庁は消防法施行令を改正。障害の程度を6段階で示す「障害支援区分」で4以上の入居者が8割を超える施設などにスプリンクラー設置を義務づけた。
だが「ひだまりⅢ」はその割合に達しておらず、設置義務の対象から外れていた。施設側は割合が上がることも想定し、今春の設置を目指して取り付け工事を進めていたところだった。
県によると、ひだまりⅢは障害者総合支援法に基づく県の指定施設で、13年7月に開設。県の定期的な実地指導で大きな問題は見つかっていない。宿直の職員は、別の3棟を含む計4棟を2人で分担していたが、法的には問題ないという。
県障がい福祉課の担当者は「今回のような人為的な行為を防ぐのは難しい。何が効果的なのか。入居者に火を使わせなくしたり、監視を強めたりはすべきでないし、そうした見方は偏見につながる。防火と安全管理の徹底、注意喚起を検討したい」と話す。
ひだまりⅢを運営するNPO法人「みこと会」(松野町)は12日に理事会を開き対応を協議。終了後、職員が報道陣に「愛媛県と警察の指示に従い対応していくので、現時点で具体的に答えられない」と述べた。
■「偏見が広まらないか心配」
障害者団体「DPI日本会議」(東京都)の佐藤聡事務局長は「このような事件が起きると、『障害者は放火する危険な存在だ』という偏見が広まらないか、心配している。障害がなくても放火する人はいる。障害と放火は直接関係がなく、今回の事件も冷静に見てほしい」と話している。
煙があがる「ひだまりⅢ」=12日未明、愛媛県松野町、近くの住民提供
2017年3月13日 朝日新聞