俳句を英語でどのように説明するか

2009年08月20日 18時15分44秒 | 自分の意見の陳述

俳句を英語でどう説明するか

俳句は日本で生まれた独特の詩の形式で、おそらくは世界で最短の詩形式ではないでしょうか。この日本語で書かれた俳句を、世界のリンガ・フランカ(共通語)英語を使って、世界の人々に、もし彼らが日本語を解さないとしても、ある程度のところまでは理解してもらいたい、そのためにはどうすればいいか。この点に関して、今実際に私が実行している方法論を以下に紹介いたします。
さて俳句は、ご承知の通り、5-7-5の3行からなる17音節の中に作者が表現をしたいとする風景などを詠みこんでいくのですから、必然的に作者は原初の言葉を削ってゆかなければいけません。それをしなければ、17音の文字の中に言葉が入りきらないわけです。削ることができず最後に残ったものは、言葉の精髄で、そのインパクトは強くなります。
こうしてできた俳句を英語に訳す場合のプロセスは、言葉を削ってきたのとは反対に、削られた言葉を埋めて補ってゆくことから始めて、以下のプロセスで進めます。
① 第一のステップ:
日本語で削られた言葉を補い、訳者の解釈に基づき、元の言葉を再現します。
複数の文章で構成されてかまいません。そうして再現される言葉は、解釈によりいろいろの差異があり得ます。そのことは許容されるべきと考えます。
② 第二のステップ:
再現された日本語による言葉を、英語に訳します。
③ 第三のステップ:
第二のステップで作成された英文を、今度は削り、短く、簡潔なものにして
ゆきます。

例えば、
「山本や寺は黄檗杉は秋」(17音節)
という俳句に相対した時、具体的にどのようにして言葉を再構築してゆくか、実際にやってみます。

まず、第一のステップです。
この俳句の詠み手の頭に浮かんだ原風景を読む側の立場から想像し、再現します。この句をどう考えるかですが、例えば、次の風景の再現が可能です。
「ああ、いま私は山の麓へやってきた。ここにお寺がある。黄檗宗の寺だ。門のあたりに杉の木立が見える。美しいなあ。いま季節は秋だ。」(72音節)
こうした、詠み手の描こうとした風景は、読む側が想像力を使ってゆけば、一定のレベルまでは何とか再現できるはずです。例に出した俳句は正岡子規の「散策集」にある俳句で、詠まれた対象の場所は私の子供時分の遊び場だったところなので、「山本」が山の麓の意味だなとすぐわかるし、「杉は秋」と言った場合のその杉がどんな杉ぶりだったか、どこらあたりにあったのか、私にはよくわかります。いろいろの事情で原風景の再現が俳句の読み手によって変化することは止むを得ません。俳句の鑑賞は一つの型に限定されるべきものではありませんから、それを恐れる必要もないでしょう。

次に第二のステップです。
今度は、再現した原風景を英語で表現します。この場合は完全な文章にするのが原則です。例えば、以下の英文が考えられます。
I am now at the foot of the mountain.
There is a temple of the Rinzai-Obaku Sect of Buddhism.
I can see Japanese cedar trees stand in line beside the entrance gate of the temple.
They are very beautiful. I am now in autumn season.

第三のステップは、この英文を削ることです。
先の文章で削れそうな個所に括弧のしるしを付してみます。
(I am now) at the foot of the mountain.
(There is )a temple of the Rinzai-Obaku Sect (of Buddhism.)
( I can see)Japanese cedar trees stand in line (beside the entrance gate of the temple).
( They are very beautiful. I am ) now in autumn season.

そして実際に言葉を削ります。
at the foot of the mountain
a temple of the Rinzai-Obaku Sect
Japanese cedar trees stand in line
now in autumn season
ここから、さらに、now とseasonの二語が削れそうと考えます。
at the foot of the mountain
a temple of the Rinzai-Obaku Sect
Japanese cedar trees stand in line
in autumn….
元の俳句が三行だから、英文も三行にします。
at the foot of the mountain,
a temple of the Rinzai-Obaku Sect,
Japanese cedar trees stand in line, in autumn….
さらに全体のバランスを考えて、この場合だと、私は、最後の行にand を加えたいと考えます。
at the foot of the mountain,
a temple of the Rinzai-Obaku Sect
and Japanese cedar trees stand in line, in autumn….
各行の頭は大文字にすると、私は決めています。
At the foot of the mountain,
A temple of the Rinzai-Obaku Sect,
And Japanese cedar trees in line, in autumn….
以上が、今私が実際に俳句を英訳する時に実行している方法です。

さて、第二ステップで一端作った英文を削るということは、元の日本語による俳句が5-7-5の17音節ですから、英語でもなるべく音節数を圧縮したいという気持ちから自然にそうするのであって、特別の決まりがあるわけではないでしょう。言葉の成り立ちの違う英語で、音節数を厳密に5-7-5にしなければならないと決めてかかることには無理があると思います。実際に国際俳句といわれる俳句を見ても、そのようになっていない作品の方が多いように思われます。

以上、三つのステップに分けて、私が考える俳句の英訳の仕方を説明しましたが、第二のステップで既に俳句の英訳は完成しているという考え方もある、と思います。
つまり、もとの日本語の17音節に付き合って英語の言葉を無理して削らなくても、第二ステップまでの英語化ができれば、俳句の説明は十分できるという、考え方です。私もその意見に賛成します。あなたが外国から来たお友達に「山本や寺は黄檗杉は秋」という俳句を、次のように説明できれば、とても素晴らしいことです。

This haiku depicts a beautiful landscape at the precincts of a temple in the autumn season. Now I try to translate it.: I am now at the foot of the mountain. There is a temple of the Rinzai-Obaku Sect of Buddhism.I can see Japanese cedar trees stand in line beside the entrance gate of the temple. They are very beautiful. I am now in autumn season. That’s it. Do you understand it?

最後に一言つけくわえれば、第三ステップにおける言葉を削る作業は、結構難しいことです。例えば、従属節と主節の主語が同じなら従属節の接続詞と主語を省き動詞を分詞にする、すなわち分詞構文にする。従属節と主節の主語がそれどれ異なっていれば、従属節の接続詞を省き主語を残して動詞を分詞にする、すなわち独立分詞構文にする。また関係代名詞+生の動詞なら、動詞を分詞にする。そうした技術的な方法論は時間をかけて勉強しておく必要があります。
いずれにせよ、日本語で詠まれた俳句を英語で説明しようとする試みは英語学習の進展につながるでしょう。是非チャレンジしてみてください。
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