音楽に限らず、芸術はまずイメージが大切で、それがピアノ音楽であろうとなんだろうと、まず漠然としたなにかのモチーフが体の中から湧き起こってくる。そのイメージを自分の楽器で表現すべく、行動に移る。しかし、その段階から、常人なら四苦八苦することとなる。少なくとも僕はそうだ。たとえそのイメージが、ピアノの音によるメロディーや和音であったとしても、実際ピアノでその音を探ってみると、イメージと全然違う音が出たりする。さらにピアノの音をイメージに近づけようと努めるのだが、そういう煩悶の繰り返しの後、大方ではあるが、自分のイメージと一番近い型ができあがってくる。譜面に書いたその音自体が、イメージそのものとなることはごく稀で、だから音楽は面白いと言えるのかもしれないが。
「白鍵と黒鍵の間に」 南 博