赤血球は酸素の運び屋さんということは理科の時間に学ぶ。実際は、赤血球の中のヘモグロビンの中のヘムタンパクが関与している。何気なく呼吸をしているが、肺で酸素を抱え込み、抹消の組織に行けばそこで酸素を提供するということを赤血球がしてくれているおかげで私たちは生きている。不思議なもので、酸素がたくさんある環境では酸素をしっかり運び、低酸素の環境では放出する。赤血球が酸素を抱き込む場所は、肺の中の小さな袋肺胞。薄い膜を隔てて、肺胞内の酸素を、血管内の赤血球が受け取ってくれる。肺から戻った赤血球たちは心臓から体の隅々まで運ばれていく。だから呼吸状態が悪くなっても、心臓の機能が悪くなっても、十分な酸素を組織まで送り届けにくくなる。
手術中から手術後、心肺機能が不安定になることがある。そんな時は、動脈血中に十分酸素が流れているかどうかチェックする必要が出てくる。昔は必要なら動脈血を数ml採取して、血液ガス分析器で測定していた。動脈血採血は研修医の役目。夜中の病棟で採血しては、穿刺部を同僚に押さえてもらい、何度検査機まで走ったことか。しかしその後、パルスオキシメーターが次第に普及してきた。前述のヘモグロビンが酸素を持っている状態と、離した状態では、赤い光や赤外線を吸収する程度が異なることを利用して、ヘモグロビンがどの程度の割合が酸素を持っている状態かを指につけるだけで測定できるのだ。おかげで動脈血採血の頻度はぐっと減った。
今では病棟に何台もパルスオキシメーターはある。クリニックにもある。個人で持っている人もいる。ずいぶんと時代は変わった。現在、COVID19に感染して肺炎を起こすと、肺胞レベルで酸素を受け取れないヘモグロビンの割合が増えるため、パルスオキシメーターの値が下がってしまう可能性がある。そこで感染疑いの人にはパルスオキシメーターをつけて酸素の取り込みに問題ないかを見ているのです。これのない時代にこのウイルスが蔓延したなら、そして酸素取り込み能力を見ようと思ったら、皆動脈に針を立てられる羽目になっていたわけだから、ありがたい発明です。ちなみに発明は日本発です。医療現場での実用化が広まったのはアメリカが先です。
なお、血液中に実際どの程度酸素が含まれているか、二酸化炭素の量はどうか、pHは保たれているか、重炭酸濃度はどうか、などまで見ようと思えば、今でも動脈血採血が必要です。