はせがわクリニック奮闘記

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星野源・蘇る変態

2014年06月28日 | 読書


いつもの如く、ダイエー駐車場の料金を無料にするために、苦し紛れで買った本です。
読売新聞だったか文芸春秋であったか定かではありませんが、ブックレビューが好評であったのを記憶していたのです。
星野源が何者なのかも全く知りませんでしたが、表紙の写真から判断すればミュージシャンなんだろうなと思っただけでした。
しかし、この本を読み進めていくうちに、筆者には、ギター奏者、ボーカリスト、舞台の役者、映画俳優、声優などの多彩な顔があることが判っていきます。
そして、この本は女性ファッション雑誌GINZAに連載されていたエッセーを編集、加筆したものでした。
筆者は1981年生まれですが、2012年の12月、彼が31歳の時に、脳動脈瘤破裂によるクモ膜下出血で倒れ、カテーテル塞栓術を施行されて、後遺症も無く復帰します。
そのいきさつもこの本に記載されていますので一部紹介します。

集中治療室から個室へ担架での移動。
窓にカーテンがかかって常に薄暗かった部屋から、廊下の眩しい光が目を射す。
瞼をぎゅっと閉じながら自分の部屋に着き、目を開けると、ちょうど頭上にある窓が開いていた。
青空だった。
外からは子供たちがサッカーで遊ぶ声が聞こえた。
風が吹き込んでくる。少し寒い。
その一瞬、頭痛が消えた。
雑踏が聞こえる。
待ちに待った自然音だ。
子供たちや飛行機の音、木々を揺らす風。
機械音やうめき声でないノイズ。
なんて気持ちがいいんだろう。

今回行った脳動脈瘤破裂後のカテーテル塞栓術という方法には、完治はないそうだ。
様子を見ながらずっと付き合っていかなきゃならない。
地獄は相変わらず、すぐ側にある。
いや、最初から側にいたのだ。
心からわかった、それだけで儲けものだ。
本当に生きててよかった。
クソ最高の人生だよ。まったく。


2か月後の再検査で塞栓術に不具合が生じているために、開頭しての手術が必要だと診断されます。
そのような難しいオペを執刀できる医者は数名しかいないので、自分で探すことを勧められます。
筆者は日本変態協会の副会長である笑福亭鶴瓶に電話します。(会長はタモリだそうです。)
結果はK医師がベストというものでしたが、それは主治医の推薦と一致していました。

K医師との面接で筆者は度肝を抜かれます。
K医師は最初に、「この手術やりたくないです。」と切り出したのです。
いかに困難な手術であるのかという説明が続きますが、すぐに話は脱線します。
もちらん脳の話なのですが、「たとえば誰かが死んだフリをしていても、ちんこを見ればどれくらい脳が生きているかわかる。」といった具合です。

そして最後に、この手術がいかにリスクがあるか、どのくらい後遺症や合併症の危険があるか、どんな順序で手術するか、すべて説明してくれた。
希望も少なくリスクの高いシビアな状況を説明され、ふっと気持ちが落ち込んだその時、K先生は俺の目をじっと見て言った。
「でも私、治しますから」
最後の最後まで、何があっても絶対に諦めません。
見捨てたりしません、だから一緒に頑張りましょう。
そう言われて診察室を出た。

K先生の診察を終えた時、「この人になら殺されてもいいな」と思った。
もちろん、それは冗談ではなく、死というものを身近に感じている状況での、真剣な想いだ。
この先生ならどんな結果になっても後悔しないだろう、そしてたくさん笑わせてくれて、真っすぐ目を見て、「治す」と言ってくれた人を信じないで誰を信じるのか。
心狭き自分は昔から、本当に信じられる人間などこの世にはいないと思っていたが、人を心から信じるということは、その相手の失敗をも受け入れられれば可能なのだ。


読後感はとっても良かったです。
文章も表現力もしっかりしているので、淀むことなく読み終えることができました。

ただ、私が紹介したのは特異な部分で、この本全体のトーンはエロと変態を背景とした芸術家?の苦労話です。

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