早朝 罠に掛かった鹿の処分を手伝って欲しいと連絡があった。
現場に付くと今年生まれた子鹿で小型の犬程の大きさである。
左の前足にワイヤーを絡ませて既に息絶えていた。
無言で仲間3人と土を掘って埋めた。
ついでに少し離れた仕掛け場所を見回った。
そこには赤毛の大きな動物が跳ね回っていた。
人影を見て、がっちりワイヤが―巻ついた左後足が千切れるほどあらびた。
やがて疲れと痛みで、奈良公園の鹿のように草の上に行儀よく座った。
野生の成獣をこれほど近くで見るのは初めてだ。何と静かな佇まいであろう。
数センチほど伸びた袋角は牡の証しである。
私が動くと首をまわして静かにつぶらな目で追って来る。
普段なら、猟友会に頼んで射殺し埋めるか、丸太で撲殺して埋めるらしい。
幸い仲間内の知り合いに、罠に掛かった鹿肉を求めている人がいることが判った。
後の処理は頼んで私は出勤の為家に帰った。
先刻 土に埋めた小鹿におびただしい蠅や甲虫が群がり、たった一晩でウジ虫がびっしり張り付き悪臭が立ち込めていた。1週間で白骨だけが残るという。
この美しい牡鹿が同じ運命をたどるより、美しいままで解体され、人の胃袋に収まるほうが救われる気がした。