山沿いの路から
50年前と殆ど変わらない景色をみたら、義兄はなんというだろう。
送電線の向こうに遠望する三角峯は王ケ鼻、美ヶ原高原の西端に位置する。
我が集落の、右斜め前方に位置する美ヶ原温泉郷、山裾に暑気を含み霞んで見える。
義兄お気に入りの温泉だった。
は
夏になると東京から若いお客がやってきた。
姉達が近くの美ヶ原高原で知り合った学生さんである。
夏休みになると毎年のようにやってきて、我家を拠点に数日を過ごしていった。
時には兄弟達と揃って山沿いの小路や、蛙が鳴き蛍が飛び交う畦道を案内することもあった。
言葉も所作も万事ハイカラな東京の学生さんである、同行しているだけで何か誇らしい気分になったものだ。
彼は見晴らしの良い高台から眺める景色を好んで、色んな質問をしてきた。
その問いに満足な答えができたかどうかわからないが、そんな時間を心待ちしたこともあったし、今でも同じ場所に立つと当時のことが鮮明に浮かんでくる。
やがて彼は姉と結婚し 私達の義兄となった。
既に姉も義兄も故人である。